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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L
管理番号 1267689
審判番号 不服2008-18683  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2008-07-23 
確定日 2012-12-25 
事件の表示 特願2003-174765「ポリアミド組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 3月11日出願公開、特開2004- 75994〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成15年6月19日(優先権主張 平成14年6月21日)の出願であって、平成20年4月1日付けで拒絶理由が通知され、同年5月30日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月23日に拒絶査定不服の審判が請求され、同年10月1日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、当審において平成23年7月8日付けで拒絶理由が通知され、同年9月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明について
本願の請求項1?5に係る発明は、平成23年9月12日提出の手続補正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。

「ジカルボン酸単位とジアミン単位とからなるポリアミドであって、当該ジカルボン酸単位の60?100モル%がテレフタル酸単位で、40?0モル%が脂肪族ジカルボン酸から誘導される単位;脂環式ジカルボン酸から誘導される単位;およびテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸から誘導される単位;より選ばれる1種または2種以上であり、当該ジアミン単位の60?100モル%が1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位で、40?0モル%が1,9-ノナンジアミン以外の直鎖脂肪族ジアミンから誘導される単位;2-メチル-1,8-オクタンジアミン以外の分岐鎖状脂肪族ジアミンから誘導される単位;脂環式ジアミンから誘導される単位;および芳香族ジアミンから誘導される単位;より選ばれる1種または2種以上であるポリアミド(A)100重量部、並びに平均粒径が0.1?0.5μmの酸化チタン(B)15?70重量部を含有してなる、LEDのリフレクタ成形用ポリアミド組成物。」

第3.平成23年7月8日付けで通知した拒絶理由の概要
これに対して、当審において平成23年7月8日付けで通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである。

1.本件出願の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特開2000-204244号公報

2.本件出願の請求項1に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開(再公表特許2003/85029号公報)された特願2003-582215号の願書に最初に添付された明細書(以下、「先願明細書A」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。

第4.平成23年7月8日付けで通知した拒絶理由における理由1の妥当性について
1.刊行物の記載事項
(1)刊行物1の記載事項
平成23年7月8日付けで通知した拒絶理由において刊行物1として引用し、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな特開2000-204244号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。

1a.「【請求項1】 テレフタル酸単位を60?100モル%含有するジカルボン酸単位(a)と、炭素数6?18の脂肪族アルキレンジアミン単位を60?100モル%含有するジアミン単位(b)とからなるポリアミド(A)100重量部に対して、平均粒径が2μm以下の無機充填剤(B)0.1?120重量部を配合してなるポリアミド組成物。
【請求項2】 炭素数6?18の脂肪族アルキレンジアミン単位が、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位である請求項1記載のポリアミド組成物。
【請求項3】 ポリアミド(A)の、濃硫酸中30℃で測定した極限粘度[η]が0.4?3.0dl/gである請求項1または2記載のポリアミド組成物。
【請求項4】 請求項1?3のいずれか1項記載のポリアミド組成物からなる成形品。」(特許請求の範囲請求項1?4)

1b.「従来からナイロン6、ナイロン66などに代表される結晶性ポリアミドは、その優れた特性と溶融成形の容易さから、衣料用、産業資材用繊維、あるいは汎用のエンジニアリングプラスチックとして広く用いられているが、一方では、耐熱性不足、吸水による寸法安定性不良などの問題点も指摘されている。特に近年、電気・電子部品分野では小型高性能化への要求が高く、製造技術や材料に対してより高度な要求がなされるようになってきた。例えば、基板への電子部品の実装方法として、高密度実装ができる、いわゆる表面実装技術の浸透が著しく、それに伴いリフローハンダ耐熱性、表面平滑性、寸法安定性に優れた材料が要求されるようになった。
・・・
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、半芳香族ポリアミドに対し、平均粒径が2μm以下の無機充填剤を配合することによって始めて、吸湿時の耐熱性、寸法安定性、表面平滑性に優れ、表面外観が美麗である成形品を与えるポリアミド組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0002】?【0006】)

1c.「テレフタル酸単位以外の他のジカルボン酸単位としては、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸などの脂肪族ジカルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,4-フェニレンジオキシジ酢酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、4,4-オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン-4,4-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4-ジカルボン酸、4,4-ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸から誘導される単位を挙げることができ、これらのうち1種または2種以上を含ませることができる。」(段落【0009】)

1d.「特に、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位が最も好ましい。1,9-ノナンンジアミン単位および2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位を併用する場合には、1,9-ノナンンジアミン単位:2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位のモル比は、99:1?1:99であるのが好ましく、95:5?40:60であるのがより好ましく、90:10?60:40であるのがさらに好ましい。1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位を上記の割合で含有するポリアミドを用いると、吸湿時の耐熱性、寸法安定性、表面平滑性がより優れた成形品が得られるので好ましい。」(段落【0011】)

1e.「本発明に用いられる無機充填剤(B)は、平均粒径が2μm以下である必要があり、0.05?1.9μmであるのが好ましく、0.1?1.8μmであるのがより好ましい。平均粒径が上記の範囲内のものを用いることにより、表面平滑性、表面美麗性、耐熱性、寸法安定性、成形性の全てに優れた成形品が得られる。
本発明に用いられる無機充填剤(B)としては、例えば、炭酸カルシウム、シリカ、ケイ酸アルミニウム(カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト)、ケイ酸マグネシウム(タルク、アタパルジャイト)、ケイ酸カルシウム(ゾノトライト、ワラストナイト)、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、アルミナ、セリサイト、マイカ、ホウ酸アルミニウム、チタン酸カリウム、酸化チタン、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、酸化亜鉛、炭酸バリウム、窒化ホウ素、二硫化モリブデン等を挙げることができ、これらのうち、1種または2種以上を用いることができる。」(段落【0019】?【0020】)

1f.「本発明のポリアミド組成物は、上記のポリアミド(A)100重量部に対して、上記の無機充填剤(B)を0.1?120重量部の割合で含有しており、0.5?110重量部の割合で含有しているのが好ましい。無機充填剤(B)の含有量が、ポリアミド(A)100重量部に対して0.1重量部未満の場合には、耐熱性、寸法安定性、表面平滑性、表面美麗性の全てに優れた成形品が得られない。一方、無機充填剤(B)の含有量が、ポリアミド(A)100重量部に対して120重量部を越える場合には、成形性が劣っている。」(段落【0021】)

1g.「本発明のポリアミド組成物には、必要に応じて、通常のガラス繊維、炭素繊維、液晶樹脂繊維、平均粒径が2μmより大きい無機充填剤、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレンなどの有機充填剤等を、本発明の効果が損なわれない範囲内で用いることができる。その他必要に応じて、ポリフェニレンスルフィド、ポリオレフィン、ポリエステル、脂肪族ポリアミド、ポリフェニレンオキシド、液晶ポリマーなどの他種ポリマー;着色剤;紫外線吸収剤;光安定化剤;ヒンダードフェノール系、チオ系、リン系、アミン系などの酸化防止剤;帯電防止剤;臭素化ポリマー、酸化アンチモン、金属水酸化物などの難燃剤;結晶核剤;可塑剤;離型剤;滑剤などを配合することもできる。」(段落【0022】)

1h.「本発明のポリアミド組成物から得られる成形品は、吸湿時の耐熱性、寸法安定性、表面平滑性に優れており、表面外観が美麗であるので、例えば、コネクタ、スイッチ、リレー、プリント配線板等の電子部品、ランプリフレクタ等の反射鏡、ギヤ、カム等のような摺動部品、エアインテークマニホールドなどの自動車部品、流し台などの水回り部品、種々の装飾部品、あるいは、フィルム、シート、繊維などの種々の用途に用いることができる。」(段落【0026】)

1i「耐ハンダ性(吸湿時の耐熱性): 縦10cm×横4cm×厚み1mmの射出成形片を、80℃、90%RHの恒温恒湿槽中に24時間放置した後、260℃のハンダ浴中に60秒間浸漬させた時の外観変化を目視にて観察し、外観変化が生じなかった場合を「○」、そりや膨れなどの外観変化が生じた場合を「×」と評価した。」(段落【0032】)

(2)刊行物2の記載事項
平成23年7月8日付けで通知した拒絶理由において刊行物2として引用した、特開昭59-113049号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

2a.「反射板用素材として無機充填剤,特に酸化チタンを配合した合成樹脂が広く使用されている。
しかしながら,近年目覚ましい発展を遂げつつあるLED用の反射板のような合成樹脂から成形された反射板にダイオードを挿入し熱硬化型エポキシ樹脂で固める製造工程を要する場合や,照明用反射板のように常時高温下にさらされる場合には光反射率や遮光性のごとき光学的特性以外に耐熱性を必要とし,また複雑精緻な形状でかつ美麗な外観を要求されるために秀れた成形性が必要である。」(第1頁左下欄最下行?右下欄第10行)

2b.「酸化チタンの配合量に関しては10重量%未満は光反射率,遮光性が充分でなく,また30重量%を越えると成形品の衝撃強度が低下してもろくなる。」(第3頁右上欄第17?20行)

(3)刊行物3の記載事項
平成23年7月8日付けで通知した拒絶理由において刊行物3として引用した、特開平2-288274号公報(以下、「刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。

3a.「(1) ナイロン46 60?95重量%と酸化チタン5?40重量%とからなり,熱変形温度が250℃以上であり,かつ反射率が85%以上である耐ハンダ性発光ダイオード用リフレクター。」(特許請求の範囲)

3b.「このように近年,表面実装に用いられるLEDリフレクター等の電子部品はこのハンダリフロー工程の温度,すなわち少なくとも250℃以上の温度に耐えることが必要となってきた。・・・
このようにハンダリフロー時の高温に耐える耐ハンダ性LEDリフレクターに対する需要が極めて大きいにもかかわらず,これに応えるものは従来ほとんど提案されていなかった。・・・
かかる事情に鑑み,本発明の目的はリフローハンダの温度に耐える耐ハンダ性を有する実用的なLEDリフレクターを提供することにある。」(第1頁右下欄第19行?第2頁右上欄第1行)

3c.「酸化チタンの粒子径には特に制限はないが,3μm以下のものが高反射率を与え好ましい。・・・満足な反射率を得るためには酸化チタンは5重量%以上配合する必要がある。逆にその配合量が40重量%を越えると反射率は高くなるが,成形性と機械的強度が大きく低下するので好ましくない。」(第3頁左上欄第8?17行)

(4)刊行物4の記載事項
平成23年7月8日付けで通知した拒絶理由において刊行物4として引用した、特開2001-81316号公報(以下、「刊行物4」という。)には、以下の事項が記載されている。

4a.「【請求項1】 ポリアミド100重量部に対して難燃剤を1?100重量部を含有させる難燃性ポリアミド樹脂組成物であって、さらに、無機顔料を1?30重量部、燐化合物を燐元素として0.0005?0.2重量部含有することを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】 無機顔料が二酸化チタンであることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1?2)

4b.「本発明のポリアミド樹脂組成物を構成する無機顔料としては、二酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、群青等が使用できる。これらは、単独で用いても良く、また併用して用いても良い。特に、照明器具等の白色系の樹脂部品用途に最も好ましいのは、二酸化チタンである。本発明に使用される二酸化チタンは、特に粒径の限定はなく、また結晶形態として、ルチル型でもアナターゼ型でもどちらのものでも良い。また、Mn、Al、Zn、Si等の化合物が酸化チタン表面にコーティングされていても差し支えない。これらの無機充填剤は、ポリアミド樹脂100重量部に対し1?30重量部添加される。添加量が1重量部未満では、高温雰囲気かつ紫外線照射下のより厳しい環境下における変色防止効果が不十分であり、また30重量部より多いと機械的物性に低下をきたす懸念がある。」(段落【0009】)

(5)刊行物5の記載事項
平成23年7月8日付けで通知した拒絶理由において刊行物5として引用した、特開平6-157902号公報(以下、「刊行物5」という。)には、以下の事項が記載されている。

5a.「【請求項1】 (A)銅系の熱安定剤を含有するポリアミド樹脂100重量部と(B)酸化チタン(TiO_(2))1?100重量部および(C)無機フィラー0?250重量部からなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】 初期の明度が35以上であり、180℃空気中で72hr加熱放置後の明度との差が、15以内であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。」(特許請求の範囲の請求項1?2)

5b.「一般に充填物で強化したポリアミド樹脂組成物は、高い剛性を持ち、寸法安定性に優れているため、自動車部品等のハウジングへ利用されている。さらに銅系の熱安定剤を添加したポリアミド樹脂組成物は、耐熱性、特に熱エージング性における機械的物性の保持力に優れているため、ランプソケット、ランプインナーハウジング、リフレクター等の高熱部で装着されるハウジングへ利用されている。一般に、ポリアミド樹脂組成物は、熱酸化劣化による変色が大きく、その改善が望まれている。」(段落【0003】)

5c.「また、本発明の樹脂組成物において用いる酸化チタンは、90%以上の純度を有するものでなければならない。これはルチル型、アナターゼ型、またブルカイト型のものでよく、好ましくは、ルチル型のものがよい。平均粒径、すなわち、粉体50重量%の上方および下方粒径(d_(50))が0.1?1.0μm 、ことに0.1?0.3μm であるものが好ましい。この酸化チタンの化学式は、一般にTiO_(2)である。
本発明の樹脂組成物において、上記ポリアミド樹脂に対しての酸化チタンの配合割合は、ポリアミド樹脂100重量部と酸化チタン1?100重量部、好ましくは、ポリアミド樹脂100重量部と酸化チタン2?50重量部との範囲で選定する。酸化チタンの配合量が、1重量部より少ないと、熱変色性の抑制効果が不十分であり、また、酸化チタンの配合量が100重量部より多いと、得られるポリアミド樹脂組成物の強度が極端に低下する傾向にある。」(段落【0016】?【0017】)

2.刊行物1に記載された発明
摘示記載1a.及び1d.には、テレフタル酸単位を60?100モル%含有するジカルボン酸単位(a)と、炭素数6?18の脂肪族アルキレンジアミン単位を60?100モル%含有するジアミン単位(b)とからなるポリアミド(A)100重量部に対して、平均粒径が2μm以下の無機充填剤(B)0.1?120重量部を配合してなるポリアミド組成物において、炭素数6?18の脂肪族アルキレンジアミン単位が、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位であることが記載されており、摘示記載1f.には、無機充填剤(B)を0.5?110重量部の割合で含有しているのが好ましいことが記載されている。
摘示記載1c.には、テレフタル酸単位以外の他のジカルボン酸単位として、脂肪族ジカルボン酸;脂環式ジカルボン酸;芳香族ジカルボン酸から誘導される単位のうち1種または2種以上を含ませることができることが記載されている。
摘示記載1e.には、無機充填剤(B)は、平均粒径が0.1?1.8μmであるのがより好ましいことが記載されている。
摘示記載1h.には、本発明のポリアミド組成物から得られる成形品が記載されている。

以上の摘示記載1a.、1c?1f.及び1h.の記載を総合すると、刊行物1には、「テレフタル酸単位を60?100モル%であり、テレフタル酸単位以外の他のジカルボン酸単位として、脂肪族ジカルボン酸;脂環式ジカルボン酸;芳香族ジカルボン酸から誘導される単位のうち1種または2種以上を含むジカルボン酸単位(a)と、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位を60?100モル%含有するジアミン単位(b)とからなるポリアミド(A)100重量部に対して、平均粒径が0.1?1.8μmの無機充填剤(B)0.5?110重量部を配合してなる成形用のポリアミド組成物。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

3.判断
そこで、本願発明1と引用発明1とを対比する。
引用発明1における「テレフタル酸単位を60?100モル%であり、テレフタル酸単位以外の他のジカルボン酸単位として、脂肪族ジカルボン酸;脂環式ジカルボン酸;芳香族ジカルボン酸から誘導される単位のうち1種または2種以上を含むジカルボン酸単位(a)と、1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位を60?100モル%含有するジアミン単位(b)とからなるポリアミド(A)」は、本願発明1における「ジカルボン酸単位とジアミン単位とからなるポリアミドであって、当該ジカルボン酸単位の60?100モル%がテレフタル酸単位で、40?0モル%が脂肪族ジカルボン酸から誘導される単位;脂環式ジカルボン酸から誘導される単位;およびテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸から誘導される単位;より選ばれる1種または2種以上であり、当該ジアミン単位の60?100モル%が1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位で、40?0モル%が1,9-ノナンジアミン以外の直鎖脂肪族ジアミンから誘導される単位;2-メチル-1,8-オクタンジアミン以外の分岐鎖状脂肪族ジアミンから誘導される単位;脂環式ジアミンから誘導される単位;および芳香族ジアミンから誘導される単位;より選ばれる1種または2種以上であるポリアミド(A)」に相当する。
次に、引用発明1における「無機充填剤(B)」と、本願発明1における「酸化チタン(B)」とは、ポリアミドに配合する「無機充填剤」という点で共通している。
また、引用発明1における「成形用のポリアミド組成物」は、本願発明1における「成形用ポリアミド組成物」に相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明1とは、「ジカルボン酸単位とジアミン単位とからなるポリアミドであって、当該ジカルボン酸単位の60?100モル%がテレフタル酸単位で、40?0モル%が脂肪族ジカルボン酸から誘導される単位;脂環式ジカルボン酸から誘導される単位;およびテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸から誘導される単位;より選ばれる1種または2種以上であり、当該ジアミン単位の60?100モル%が1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位で、40?0モル%が1,9-ノナンジアミン以外の直鎖脂肪族ジアミンから誘導される単位;2-メチル-1,8-オクタンジアミン以外の分岐鎖状脂肪族ジアミンから誘導される単位;脂環式ジアミンから誘導される単位;および芳香族ジアミンから誘導される単位;より選ばれる1種または2種以上であるポリアミド(A)、並びに無機充填剤(B)を含有してなる、成形用ポリアミド組成物。」である点で一致しているが、以下の点で相違している。

○相違点1
本願発明1は、「LEDのリフレクタ」成形用であるのに対し、引用発明1は、当該規定がない点。

○相違点2
ポリアミド100重量部に対して、本願発明1は、「平均粒径が0.1?0.5μmの酸化チタン」を「15?70重量部」配合しているのに対し、引用発明1は、「平均粒径が0.1?1.8μmの無機充填剤」を「0.5?110重量部」配合する点。

上記相違点1について検討する。
刊行物1の記載からみて、引用発明1に係るポリアミド組成物は、「ランプリフレクタ等の反射鏡」の用途に用いられるものであり(摘示記載1h.)、さらに、「吸湿時の耐熱性である耐ハンダ性の改善」を目的とするものである(摘示記載1b.及び1i.)といえる。
そして、刊行物2には、無機充填剤、特に酸化チタンを配合した合成樹脂を、「LED用の反射板」、「照明用反射板」のような反射板用素材として用いることが記載されていることから(摘示記載2a.)、引用発明1に係るポリアミド組成物の用途を「ランプリフレクタ等の反射鏡」から「LEDのリフレクタ」とすることは、その発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易になし得ることである。
また、刊行物3の「表面実装に用いられるLEDリフレクター等の電子部品はこのハンダリフロー工程の温度,すなわち少なくとも250℃以上の温度に耐えることが必要となってきた。」(摘示記載3a.)との記載から、LEDリフレクター用の素材として、耐ハンダ性が要求されることが理解できるので、引用発明1に係るポリアミド組成物の物性である「耐ハンダ性」に着目し、この物性が必要とされる「LEDのリフレクタ」用の素材として、このポリアミド組成物を用いることも、当業者が容易になし得ることである。

上記相違点2について検討する。
刊行物2の「反射板用素材として無機充填剤,特に酸化チタンを配合した合成樹脂が広く使用されている。」(摘示記載2a.)との記載、刊行物3の「ナイロン46 60?95重量%と酸化チタン5?40重量%とからなり,熱変形温度が250℃以上であり,かつ反射率が85%以上である耐ハンダ性発光ダイオード用リフレクター。」(摘示記載3a.)との記載、及び刊行物4の「特に、照明器具等の白色系の樹脂部品用途に最も好ましいのは、二酸化チタンである。」(摘示記載4b.)との記載からみて、LEDを含むリフレクタ成形用のポリアミド組成物において、無機充填剤として酸化チタンを配合することは、LED等の反射板の技術分野において、本願優先日前に、一般に行われていた事項であるといえるので、引用発明1に係るポリアミド組成物を「LEDのリフレクタ」の用途に適用するにあたり、無機充填剤として酸化チタンを選択することは、当業者が容易になし得ることである。
また、刊行物3の「満足な反射率を得るためには酸化チタンは5重量%以上配合する必要がある。逆にその配合量が40重量%を越えると反射率は高くなるが,成形性と機械的強度が大きく低下するので好ましくない。」(摘示記載3c.)との記載、刊行物4の「これらの無機充填剤は、ポリアミド樹脂100重量部に対し1?30重量部添加される。添加量が1重量部未満では、高温雰囲気かつ紫外線照射下のより厳しい環境下における変色防止効果が不十分であり、また30重量部より多いと機械的物性に低下をきたす懸念がある。」(摘示記載4b.)との記載、及び刊行物5の「上記ポリアミド樹脂に対しての酸化チタンの配合割合は、ポリアミド樹脂100重量部と酸化チタン1?100重量部、好ましくは、ポリアミド樹脂100重量部と酸化チタン2?50重量部との範囲で選定する。」(摘示記載5c.)との記載からみて、引用発明1に係るポリアミド組成物における酸化チタンの配合量を、ポリアミド樹脂100重量部に対して15?70重量部の範囲に設定することは、当業者が容易に想到しうるものである。
さらに、LED等のリフレクタ成形用の樹脂組成物に配合する酸化チタンとして、平均粒径が0.1?0.5μmの範囲内のものを用いることについては、例えば特開平9-12853号公報(段落【0002】、【0009】及び【0031】)並びに特開平5-320519号公報(段落【0002】及び【0029】)に記載されているように、LED等の反射板の技術分野において、本願優先日前に、一般に行われていた事項であるといえるので、引用発明1に係るポリアミド組成物において、酸化チタンを用いるにあたり、平均粒径が0.1?0.5μmの酸化チタンを選択することは、当業者が容易に想到しうるものである。

次に、上記相違点2に係る効果について検討する。
本願明細書における「酸化チタンの平均粒径と使用量を上記の範囲内とすることにより、白色度が高く、表面反射率の高い成形品を与えるポリアミド組成物を得ることができる。」(段落【0023】)との記載から、上記相違点2に係る効果は、白色度及び表面反射率の向上であるといえる。
しかしながら、刊行物2の「酸化チタンの配合量に関しては10重量%未満は光反射率,遮光性が充分でなく」(摘示記載2b.)との記載、及び刊行物3の「満足な反射率を得るためには酸化チタンは5重量%以上配合する必要がある。」(摘示記載3c.)との記載からみて、酸化チタンを配合することにより、表面反射率が向上することは明らかであり、また、酸化チタンは一般に白色顔料として使用されるものであることから、酸化チタンを配合することにより、白色度が向上することも明らかである。
したがって、酸化チタンを配合することにより、白色度及び表面反射率が向上するという効果は、当業者が容易に予測しうる程度のものであるといえる。
また、本願明細書の比較例1の結果から、上記相違点2に係る効果は、加熱処理及び紫外線照射によって生じる色調変化を低減させることとみることもできるが、刊行物4の「添加量が1重量部未満では、高温雰囲気かつ紫外線照射下のより厳しい環境下における変色防止効果が不十分であり」(摘示記載4b.)との記載、及び刊行物5の「酸化チタンの配合量が、1重量部より少ないと、熱変色性の抑制効果が不十分であり」(摘示記載5c.)との記載からみて、酸化チタンを加熱処理及び紫外線照射による色調変化を低減させることを目的として配合することは、当業者にとり周知であるといえるので、加熱処理及び紫外線照射によって生じる色調変化を低減させる効果についても、当業者が容易に予測しうる程度のものである。
さらに、本願明細書の実施例及び比較例には、酸化チタンとして平均粒径0.2μmの石原産業(株)社製、「タイペークCR-63」を用いた態様が記載されているのみであり(段落【0041】)、当該特定の酸化チタンにおいて、その配合量がポリアミド100重量部に対して15重量部である実施例1,3,5の態様が上記効果を奏し、その配合量がポリアミド100重量部に対して3重量部である比較例1の態様が上記効果を奏さないことが記載されているにすぎないことから(段落【0043】)、酸化チタンの平均粒径が「0.1?0.5μm」の範囲であり、酸化チタンの配合量がポリアミド100重量部に対して「15?70重量部」の範囲であることに、臨界的意義があるということもできない。

4.審判請求人の主張について
請求人は、平成23年9月12日提出の意見書において、
「(3-6)引用文献1ないし引用文献5の組み合わせについて
上記(3-1)?(3-5)のとおり、引用文献1ないし5には、『ポリアミド(A)』と平均粒径が0.1?0.5μmの『酸化チタン(B)』を所定量で配合してなるポリアミド組成物は記載されておらず、かかるポリアミド組成物をLEDのリフレクタに用いることを示唆する記載はありません。特に引用文献2、3及び5は、青色LEDが量産され始めた時期(1994年頃)より前に出願されたものであり、青色LEDを発光成分として包含するLEDのリフレクタに特有の技術的課題である加熱後や紫外線に長時間暴露させた後であっても表面反射率の維持する必要があるとともに、LEDの製造に不可欠なハンダ耐熱性を備える必要があるという本願発明の技術的課題を示唆する記載はありません。
なお、審判官殿がご指摘された特開平5-320519号公報や特開平9-12853号公報はいずれも、いずれもポリカーボネートを主成分とした樹脂組成物に関する発明であることから、特定のポリアミドを主成分とした本願発明とは全く技術分野が異なるため、他の引用文献と組み合わせる動機付けはないものと思料いたします。
このように、引用文献1に引用文献2ないし5を組み合わせる動機付けはなく、いずれの引用文献にも、白色度が高く、加熱後や紫外線に長時間暴露させた後であっても表面反射率が高く、かつハンダ耐熱性を備えたLEDのリフレクタに用いるポリアミド組成物を得ることを目的に、『ポリアミド(A)』と『酸化チタン(B)』を所定量含むという構成は開示されていないことから、本願発明は、たとえ当業者といえども引用文献1?5の記載に基づいて容易に想到し得るものではなく、十分に進歩性(特許法第29条第2項)を具備しているものと思料いたします。
なお、請求項2ないし5はすべて補正後の請求項1に従属しているため、補正後の請求項1と同様に当該拒絶理由は解消しているものと思料いたします。」
と主張している。

しかしながら、「特に引用文献2、3及び5は、青色LEDが量産され始めた時期(1994年頃)より前に出願されたものであり、青色LEDを発光成分として包含するLEDのリフレクタに特有の技術的課題である加熱後や紫外線に長時間暴露させた後であっても表面反射率の維持する必要があるとともに、LEDの製造に不可欠なハンダ耐熱性を備える必要があるという本願発明の技術的課題を示唆する記載はありません。」と主張する点については、本願明細書には、青色LEDについては何ら記載されていないことから、本願明細書の記載に基づくものではなく採用することができない。
また、「審判官殿がご指摘された特開平5-320519号公報や特開平9-12853号公報はいずれも、いずれもポリカーボネートを主成分とした樹脂組成物に関する発明であることから、特定のポリアミドを主成分とした本願発明とは全く技術分野が異なるため、他の引用文献と組み合わせる動機付けはないものと思料いたします。」と主張する点については、特開平5-320519号公報及び特開平9-12853号公報は、LEDのリフレクタ成形用の組成物である点において本願発明1と技術分野が一致しており、LEDのリフレクタ成形用の組成物において、主たる樹脂の種類が異なることによって適用する酸化チタンの平均粒径及び配合量が著しく異なることが当業者にとり自明である等、主たる樹脂の種類が異なる組成物の技術どうしを結びつけることができない特段の事情があるともいえないことから、特開平5-320519号公報及び特開平9-12853号公報がポリカーボネートを主成分とした樹脂組成物に関する発明であることのみでもって、刊行物1に記載された発明と組み合わせる動機付けがないとはいえない。
そして、刊行物1に記載された発明と、周知技術である刊行物2?5に記載された発明並びに特開平5-320519号公報及び特開平9-12853号公報との組み合わせについては、上記第4 3.で検討したとおりであるから、請求人の上記主張はいずれも採用できないものである。

5.まとめ
よって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

第5.平成23年7月8日付けで通知した拒絶理由における理由2の妥当性について
1.先願明細書Aの記載事項
先願明細書Aには、以下の事項が記載されている。

ア.「【請求項2】成分(A)として、1,9-ジアミノノナン50?100モル%と、炭素数6?12の直鎖脂肪族ジアミンおよび/または炭素数6?12の側鎖を有する脂肪族ジアミン0?50モル%由来のジアミン由来構成単位(a-1)と、テレフタル酸60?100モル%と、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸および/または炭素原子数4?20の脂肪族ジカルボン酸0?40モル%由来のジカルボン酸由来構成単位(a-2)を分子内に有するポリアミド100重量部と、成分(B)として無機充填材1?200重量部とを含んでなることを特徴とする、発光ダイオード反射板用樹脂組成物。
【請求項3】成分(B)の無機充填材が、ガラス繊維、タルク、ウォラストナイト、チタン酸カリウム、酸化亜鉛、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、及び、培焼カオリンクレイからなる群から選択される少なくとも一つの無機充填材を含んでなるものであることを特徴とする請求項2に記載した発光ダイオード反射板用樹脂組成物。
・・・
【請求項5】請求項2又は3に記載した樹脂組成物を用いて構成される発光ダイオード反射板。」(特許請求の範囲の請求項2,3及び5)

イ.「[発光ダイオード反射板]
・・・本発明において発光ダイオード反射板は、通常、ポリアミド樹脂、又は、ポリアミド樹脂と無機充填材とを含んでなる樹脂組成物を、射出成形、溶融成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形等の加熱成形により、所望の形状に賦形される。本発明において発光ダイオード反射板は、通常、発光ダイオード素子その他の部品と、エポキシ樹脂により、封止、接合、接着等が行なわれる。」(再公表特許公報の第5頁1?13行)

ウ.「[無機充填材]
無機充填材(無機充填剤)としては、下記の無機充填材が好ましく使用される。本発明では、発明の効果を損なわない範囲で、以下の充填剤をポリアミド樹脂(成分(A))100重量部に対し、1?200重量部の割合で添加する。・・・粉末状、粒状、板状、針状の充填材(特に・・・二酸化チタン・・・等)、この中では、特に、・・・酸化チタン・・・が好ましく、これらから選ばれる少なくとも1種類又は2種類以上の無機充填材を含む。」(再公表特許公報の第8頁2?12行)

エ.「[添加剤]また、本発明では、発明の効果を損なわない範囲で、用途に応じて、以下の添加剤、・・・耐光安定剤(ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類、ベンゾエート類、ヒンダードアミン類)、・・・を添加することができる。」(再公表特許公報の第8頁13?22行)

オ.「[実施例1]
テレフタル酸46.5[kg](280モル)、1,9-ジアミノノナンを44.7[kg](283モル)、安息香酸0.43[kg](3.5モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物0.06[kg](0.6モル)および蒸留水27.4[kg]をオートクレーブに入れ、反応釜内部を十分に窒素置換した。攪拌しながら内部温度を4時間かけて250℃に昇温した。そのまま1時間反応を続け、ポリアミド低次縮合物を得た。このポリアミド低次縮合物を真空下190℃で、12時間固相重合した。その後、スクリュー径37[mm]、L/D=36の二軸押出機にて、ポリアミドの融点より30℃高いバレル設定温度でスクリュー回転数300[rpm]、10[kg/h]の樹脂供給速度で溶融重合して、ポリアミド樹脂を得た。このポリアミド樹脂の[η]、融点(Tm)を表に示す。当該ポリアミド樹脂70重量部に対し、ガラス繊維20重量部、酸化チタン10重量部、タルク1重量部を加え、二軸押出機にてポリアミド樹脂の融点より10?30℃高い温度にて溶融混練してポリアミド樹脂組成物を得た。このポリアミド樹脂組成物を射出成形し、吸水率を測定した。その結果を表に示す。
[実施例2?5]
表に示すジアミン由来構成単位、およびジカルボン酸成分のモル比にて、実施例1と同様にポリアミド樹脂を得た。また、実施例1と同様にポリアミド樹脂組成物を得た。これらを実施例1と同様に評価し、その結果を表に示す。」(再公表特許公報の第9頁4?40行)

2.先願明細書Aに記載された発明
摘示記載オ.には、実施例3?5において、1,9-ジアミノノナンと2-メチル-1,8-ジアミノオクタン由来のジアミン由来構成単位を有するポリアミドが記載されている。
摘示記載ア.及びウ.には、無機充填材として二酸化チタンが列記されており、摘示記載オ.には、無機充填材として、酸化チタンを用いたものが記載されている。

したがって、摘示記載ア.、ウ.及びオ.の記載を総合すると、先願明細書Aには、「成分(A)として、1,9-ジアミノノナン50?100モル%と、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン0?50モル%由来のジアミン由来構成単位(a-1)と、テレフタル酸60?100モル%と、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸および/または炭素原子数4?20の脂肪族ジカルボン酸0?40モル%由来のジカルボン酸由来構成単位(a-2)を分子内に有するポリアミド100重量部と、成分(B)として二酸化チタン1?200重量部とを含んでなることを特徴とする、発光ダイオード反射板用樹脂組成物。」の発明(以下、「先願発明A」という。)が記載されているといえる。

3.判断
そこで、本願発明1と先願発明Aとを対比する。
先願発明Aにおける「成分(A)として、1,9-ジアミノノナン50?100モル%と、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン0?50モル%由来のジアミン由来構成単位(a-1)と、テレフタル酸60?100モル%と、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸および/または炭素原子数4?20の脂肪族ジカルボン酸0?40モル%由来のジカルボン酸由来構成単位(a-2)を分子内に有するポリアミド」は、本願発明1における「ジカルボン酸単位とジアミン単位とからなるポリアミドであって、当該ジカルボン酸単位の60?100モル%がテレフタル酸単位で、40?0モル%が脂肪族ジカルボン酸から誘導される単位;脂環式ジカルボン酸から誘導される単位;およびテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸から誘導される単位;より選ばれる1種または2種以上であり、当該ジアミン単位の60?100モル%が1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位で、40?0モル%が1,9-ノナンジアミン以外の直鎖脂肪族ジアミンから誘導される単位;2-メチル-1,8-オクタンジアミン以外の分岐鎖状脂肪族ジアミンから誘導される単位;脂環式ジアミンから誘導される単位;および芳香族ジアミンから誘導される単位;より選ばれる1種または2種以上であるポリアミド(A)」に相当する。
次に、先願発明Aにおける「二酸化チタン」は、本願発明1における「酸化チタン」に相当する。
また、先願発明Aにおける「発光ダイオード反射板用樹脂組成物」は、摘示記載イ.より発光ダイオード反射板が成形により得られていることから、本願発明1における「LEDのリフレクタ成形用ポリアミド組成物」に相当する。

そうすると、本願発明1と先願発明Aとは、「ジカルボン酸単位とジアミン単位とからなるポリアミドであって、当該ジカルボン酸単位の60?100モル%がテレフタル酸単位で、40?0モル%が脂肪族ジカルボン酸から誘導される単位;脂環式ジカルボン酸から誘導される単位;およびテレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸から誘導される単位;より選ばれる1種または2種以上であり、当該ジアミン単位の60?100モル%が1,9-ノナンジアミン単位および/または2-メチル-1,8-オクタンジアミン単位で、40?0モル%が1,9-ノナンジアミン以外の直鎖脂肪族ジアミンから誘導される単位;2-メチル-1,8-オクタンジアミン以外の分岐鎖状脂肪族ジアミンから誘導される単位;脂環式ジアミンから誘導される単位;および芳香族ジアミンから誘導される単位;より選ばれる1種または2種以上であるポリアミド(A)、並びに酸化チタン(B)を含有してなる、LEDのリフレクタ成形用ポリアミド組成物。」である点で一致しているが、以下の点で一応相違している。

○相違点A
ポリアミド100重量部に対して、本願発明1は、「平均粒径が0.1?0.5μmの酸化チタン」を「15?70重量部」配合しているのに対し、先願明細書Aは、平均粒径についての規定がなく、酸化チタンを「1?200重量部」配合する点。

上記相違点Aについて検討する。
刊行物3の「満足な反射率を得るためには酸化チタンは5重量%以上配合する必要がある。逆にその配合量が40重量%を越えると反射率は高くなるが,成形性と機械的強度が大きく低下するので好ましくない。」(摘示記載3c.)との記載、刊行物4の「これらの無機充填剤は、ポリアミド樹脂100重量部に対し1?30重量部添加される。添加量が1重量部未満では、高温雰囲気かつ紫外線照射下のより厳しい環境下における変色防止効果が不十分であり、また30重量部より多いと機械的物性に低下をきたす懸念がある。」(摘示記載4b.)との記載、及び刊行物5の「上記ポリアミド樹脂に対しての酸化チタンの配合割合は、ポリアミド樹脂100重量部と酸化チタン1?100重量部、好ましくは、ポリアミド樹脂100重量部と酸化チタン2?50重量部との範囲で選定する。」(摘示記載5c.)との記載からみて、LED等のリフレクタ成形用の樹脂組成物に配合する酸化チタンの配合量を、ポリアミド100重量部に対して15?70重量部の範囲とすることについては、当業者にとり周知であることから、先願発明Aにおいて、酸化チタンの配合量をポリアミド樹脂100重量部に対して15?70重量部の範囲とすることは、当業者にとり周知の技術を付加した程度のことにすぎない。
さらに、LED等のリフレクタ成形用の樹脂組成物に配合する酸化チタンとして、平均粒径が0.1?0.5μmの範囲内のものを用いることについては、例えば特開平9-12853号公報(段落【0002】、【0009】及び【0031】)並びに特開平5-320519号公報(段落【0002】及び【0029】)に記載されているように、当業者にとり周知であり、さらに特開平9-12853号公報の段落【0009】には、「一般的に顔料用酸化チタンの粒子径は、0.1?0.4μmである」と記載されているように、本願発明1に係る平均粒径を有する酸化チタンは、顔料用酸化チタンとして通常用いる範囲であることから、先願発明Aにおいて、平均粒径が0.1?0.5μmの酸化チタンを用いることについては、当業者にとり周知の技術を付加した程度のことにすぎない。
以上のことから、上記相違点Aは実質的な相違点ではない。

4.審判請求人の主張について
請求人は、平成23年9月12日提出の意見書において、
「しかしながら、先願明細書Aには、酸化チタンについて、平均粒径が0.1?0.5μmの酸化チタンを前記ポリアミド(A)100重量部に対して15?70重量部の範囲で含有してなる、という本願発明の構成は具体的には記載されていません。
また、先願明細書Aには、前記発光ダイオード反射板用樹脂組成物が『予め耐熱性ポリアミドが自然に孕んでいた水分を除去する操作(加熱操作等の予備的乾燥操作)をしないと、エポキシ接着やエポキシ封止の際に、剥離や気泡が発生するという、従来の技術の問題点に鑑み、予備的乾燥操作が不要』になるという効果を奏することは記載されていますが(先願明細書Aの産業上の利用可能性の欄参照)、『加熱後や紫外線に長時間暴露させた後であっても表面反射率の維持でき、かつ、LEDの製造に不可欠なハンダ耐熱性を備える』という本願発明の効果を示唆する記載はありません。
このように、本願発明は、先願明細書Aに記載されていない構成に基づいて先願明細書Aから何ら示唆されない新たな効果を奏することから、前記の発明特定事項の相違点は、課題解決のための具体的手段としては微差ではないものといえます。」
と主張している。

しかしながら、本願明細書の段落【0023】には、「酸化チタンの平均粒径と使用量を上記の範囲内とすることにより、白色度が高く、表面反射率の高い成形品を与えるポリアミド組成物を得ることができる。」と記載されているにすぎず、さらに、本願明細書の実施例及び比較例には、酸化チタンとして平均粒径0.2μmの石原産業(株)社製、「タイペークCR-63」を用いた態様が記載されているのみであり(段落【0041】)、当該特定の酸化チタンにおいて、その配合量がポリアミド100重量部に対して15重量部である実施例1,3,5の態様が加熱処理及び紫外線照射による色調変化の低減効果を奏し、その配合量がポリアミド100重量部に対して3重量部である比較例1の態様が加熱処理及び紫外線照射による色調変化の低減効果を奏さないことが記載されているにすぎないことから(段落【0043】)、請求人が主張する上記効果が、酸化チタンの平均粒径が「0.1?0.5μm」の範囲であり、酸化チタンの配合量がポリアミド100重量部に対して「15?70重量部」の範囲であることによって奏するものであるということはできない。
よって、本願発明1が、「先願明細書Aに記載されていない構成に基づいて先願明細書Aから何ら示唆されない新たな効果を奏する」とはいえず、上記第5 3.で検討したとおり、相違点Aについては周知の技術を付加した程度のことにすぎないことから、請求人の上記主張は採用できない。

5.まとめ
よって、本願発明1は、先願発明Aと同一である。
また、先願発明Aをした者が本願発明1の発明者と同一の者でなく、また、本願出願の時に本願の出願人と先願発明Aに係る出願人とが同一の者でもない。
したがって、本願発明1は、本願出願の日前の特許出願であって本願出願後に出願公開されたものである特願2003-582215号の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての当審において通知した平成23年7月8日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由1及び2は妥当なものであり、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、これらの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり結審する。
 
審理終結日 2011-11-16 
結審通知日 2011-11-22 
審決日 2011-12-05 
出願番号 特願2003-174765(P2003-174765)
審決分類 P 1 8・ 161- WZ (C08L)
P 1 8・ 121- WZ (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中川 淳子  
特許庁審判長 小林 均
特許庁審判官 ▲吉▼澤 英一
小野寺 務
発明の名称 ポリアミド組成物  

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