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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 補正却下を取り消さない。原査定の理由により拒絶すべきものである。 C09J
審判 査定不服 特174条1項 補正却下を取り消さない。原査定の理由により拒絶すべきものである。 C09J
管理番号 1267712
審判番号 不服2010-22131  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-01 
確定日 2012-12-19 
事件の表示 平成10年特許願第108024号「粘着剤組成物及びそれを使用した粘着剤製品」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月 9日出願公開、特開平11-310762〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は平成10年4月17日の特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成20年11月20日付け 拒絶理由通知
平成21年 2月23日 意見書・手続補正書
平成21年10月30日付け 拒絶理由通知(最後)
平成22年 5月10日 意見書・手続補正書
平成22年 5月21日付け 補正の却下の決定
同日付け 拒絶査定
平成22年10月 1日 本件審判請求
平成22年10月18日付け 手続補正指令書(方式)
平成22年11月 1日 手続補正書(方式)(請求理由補充書)
(なお、平成22年5月10日付けの手続補正は、同年5月21日付けの補正の却下の決定をもって却下された。)

第2 本件審判請求の趣旨
本件審判請求の趣旨は、「平成22年5月21日付けの補正の却下の決定ならびに原査定を取り消す、この出願の発明はこれを特許すべきものとする、との審決を求める。」というものである。

第3 原審の各通知及び処分の内容

1.拒絶査定
原審の拒絶査定の内容は以下のとおりである。
「この出願については、平成21年10月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由Iによって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
[備考]
理由I
請求項1、2
平成21年10月30日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由Iは依然として解消されていない。
なお、平成22年5月10日付け手続補正は、本日付けで起案した補正の却下の決定により却下した。」

2.補正の却下の決定
平成22年5月21日付け補正の却下の決定の内容は以下のとおりである。
「結 論
平成22年 5月10日付け手続補正書でした明細書又は図面についての補正は、次の理由によって却下します。

理 由
1.新規事項の有無
平成22年5月10日付け手続補正により、請求項1において、「前記パラメチルスチレンは、前記ランダム共重合体において架橋構造を形成するため、前記アミン系架橋剤を用いて臭素化されている」ことが明らかにされた。しかし、「アミン系架橋剤を用いて臭素化されている」という事項は願書に最初に添付した明細書に直接的に記載されていた事項ではないし、出願時の技術常識を参酌しても、「アミン系架橋剤」が臭素化のための試薬として機能するものであることを自明に導き出せるとは認められない。よって、上記手続補正は、願書に最初に添付した明細書に記載されていなかった事項を新たに明細書に追加するものであるから、特許法第17条の第3項に規定する要件を満たすものではない。

2.むすび
以上のとおり、上記手続補正は特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものではないから、特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。」

3.平成21年10月30日付け最後の拒絶理由通知
平成21年10月30日付けの拒絶理由通知(最後)の内容は以下のとおりである。
「理 由

I.この出願は、明細書の記載が下記1)?7)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由Iについて
請求項1、2
1) 請求項1の「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなる共重合体」という記載では、「パラメチルスチレン」が「臭素化部位」を有することはあり得ないから、特許を受けようとする発明が明確でない。
2) 請求項1に、「パラメチルスチレンの臭素化部位」と記載されているが、パラメチルスチレンのどの箇所がいくつ臭素化されているのか不明であるから、相当する化学構造が明確でない。
3) 請求項1に、「パラメチルスチレンの臭素化部位を利用することによって架橋」と記載されているが、上記2)で指摘したとおり、「パラメチルスチレンの臭素化部位」がどのような化学構造を有するのか明らかでないから、どのような反応によりどのような化学構造有する架橋が生じるのかも明確でない。また、用いられる「アミン系架橋剤」が備えるべき化学構造も明確でない。
4) 請求項1に、「1?20重量%の前記パラメチルスチレンを含み」と記載されているが、当該「1?20重量%」というのが臭素により置換されていないパラメチルスチレンの含有割合なのか、臭素化部位を有するパラメチルスチレンの含有割合なのか、それともそれら両方の合計の含有割合なのかが明確でない。
5) 請求項1に、「架橋構造を有している」と記載されているが、被粘着物に塗布される前の組成物の段階で、既に架橋構造を有しているということか。そうであるとすると、本願明細書に実施例1?12として開示されている熱架橋反応が施されていない組成物は、いずれも「実施例」と表示することが不適切なものということになる。
6) 請求項1に、「架橋構造を有している」と記載されているが、熱架橋反応が施された後の組成物においては、「アミン系架橋剤」は反応により消費されてしまっているから、アミン系架橋剤を含む旨の記載は不適切なのではないか。また、「1?20重量%の前記パラメチルスチレンを含み」という記載については、架橋により「パラメチルスチレン」でなくなった構造部分は除外して計算されているという理解でよいか。
7) 請求項1を引用している請求項2についても、上記1)?6)と同じ理由により、特許を受けようとする発明が明確でない。」

第4 当審の判断

1.前提
上記各処分の当否につき検討するにあたり前提となる技術事項を以下に示す。

(1)「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体」について
技術常識からみて、「イソブチレン」及び「パラメチルスチレン」は、いずれも「(CH_(3))_(2)C=CH_(2)」及び「CH_(2)=CHC_(6)H_(4)CH_(3)」なる化学式で表される臭素を含有しないモノマーであるから、それらのモノマーからなる単なるランダム共重合体が臭素原子を含有するものとは認められない。
また、技術常識からみて、その他のモノマー(例えば重合性不飽和基を複数有するもの等)を構成単位としないならば、「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体」は、それ自体、架橋構造を有するものとも認められない。

(2)「アミン系架橋剤」について
技術常識からみて、「アミン系架橋剤」は、通常、「TETA(トリエチレンテトラミン)」のように臭素を含有するものとは認められず、当該「アミン系架橋剤」は、臭素を脂肪族炭素に結合して含有する有機化合物との間で脱ハロゲン化水素反応により反応することはあっても、他の有機化合物に臭素を与えて臭素化するような反応を生起するものとは認められない。

2.補正の却下の決定の適否について
請求人は、本件審判請求の趣旨として、「平成22年5月21日付けの補正の却下の決定・・を取り消す・・との審決を求める。」とするので、まず、当該補正の却下の決定の適否につき、検討する。

(1)補正の内容について
請求人は、当該補正の却下の決定をもって却下された平成22年5月10日付け手続補正書により、特許請求の範囲について下記の補正前のものから補正後のものに補正しようとした。

ア.補正前(平成21年2月23日付けの手続補正後のもの)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体と、
粘着付与剤と、
前記パラメチルスチレンの臭素化部位を利用することによって架橋を行い得るアミン系架橋剤と
を備える粘着剤組成物であって、
前記ランダム共重合体が1?20重量%の前記パラメチルスチレンを含み、かつ、架橋構造を有していることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】 請求項1に記載の粘着剤組成物を備えることを特徴とする粘着剤製品。」

イ.補正後
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体と、
粘着付与剤と、
前記パラメチルスチレンの臭素化部位を利用することによって架橋を行い得るアミン系架橋剤との反応生成物
を備える粘着剤組成物であって、
前記ランダム共重合体の合計されたパラメチルスチレン含有量が1?20重量%の範囲であり、かつ、前記パラメチルスチレンは、前記ランダム共重合体において架橋構造を形成するため、前記アミン系架橋剤を用いて臭素化されていることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】 請求項1に記載の粘着剤組成物を備えることを特徴とする粘着剤製品。」
(下線は、当審が付したものである。)

(2)本願の願書に最初に添付した明細書の記載事項
本願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)には、以下の事項が記載されている。

(a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体と、
粘着付与剤と、
を備える粘着剤組成物であって、
前記ランダム共重合体が1?20重量%の前記パラメチルスチレンを含み、かつ、架橋構造を有していることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】 請求項1に記載の粘着剤組成物を備えることを特徴とする粘着剤製品。」

(b)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、粘着剤組成物及びそれを使用した粘着剤製品に関する。本発明の粘着剤製品は、例えば、ゴム製の自動車部品をその自動車の所定の部位に取り付ける時などに有利に使用することができる。」

(c)
「【0002】
【従来の技術】
周知の通り、自動車やその他の車両の、例えばドア部の周縁部分には、車内を風雨や塵埃等から遮断するとともに、防音材の役目を果たたせるため、ゴム製の部品、いわゆる「ウェザーストリップ」が取り付けられている。通常、ウェザーストリップは、優れた柔軟性、耐酸化性及び耐老化性を得る観点から、エチレン、プロピレン及びジエンの3成分からなる3元共重合体(EPDM)から形成されている。
【0003】
一般に、EPDMからなるウェザーストリップを自動車等の車両の所定の部位に取り付ける場合、クリップ止め、チャンネルによる嵌め込み、というような機械的固着手段が用いられている。これは、一般にEPDMは低い表面エネルギーを有した接着力に乏しい材料であり、いろいろなタイプの接着剤が商業的に入手可能であるにもかかわらず、車両に対するEPDM製ウェザーストリップの取り付けに有効な粘着剤は存在しないからである。ウェザーストリップ以外のEPDM製自動車部品や、その他のEPDM製部材の取り付けも、同様な理由により機械的固着手段の使用に委ねている。しかし、機械的固着手段の使用は作業の煩雑さや高いコストなどの欠点を伴うので、より容易にEPDM製あるいはそれに類するゴム製の部品の取り付けを可能とするような固着手段を提供することが望まれている。
【0004】
上記のような要求を満たすため、例えば、粘着剤層上に熱融着層を備えた粘着テープを使用することが試みられている。これは、熱融着層を加熱することによって接着性を発現させた後、熱融着層を被着体たるEPDM製ウェザーストリップに付着させ、さらに粘着剤層を自動車の所定の部位に取り付けようというものである。しかし、粘着テープの熱融着層の加熱は、一般に、コストのかかる大規模な加熱設備を必要とし、また、貼り付け速度も遅い。
【0005】
また、EPDM製ウェザーストリップの自動車への取り付けを用途としたものではないが、特開平7-268299号公報には、膜状屋根葺き用途で有用な、EPDMに対して直接的に接着することが可能な流動性接着剤組成物が開示されている。この接着剤組成物はポリクロロプレンを主たる成分として含有している。この接着剤組成物は、しかし、ポリクロロプレンに組み合わせて溶剤を使用することが必須であるので、溶剤を使用しないという最近の環境保護の見地から特に自動車の製造ラインで好ましいものではない。
【0006】
さらに、特開平7-138447号公報には、ビニル芳香族モノマー、イソブチレン及びビニル芳香族モノマーからなるブロック共重合体を配合した粘着剤が開示されている。この粘着剤は、その主成分がブロック共重合体であり、架橋等も有していないので、耐熱性に劣るという欠点を有している。特に、この粘着剤は、ウェザーストリップがさらされる比較的に高温の過酷な条件下において、かなり低い接着性しか示すことができない。」

(d)
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記したような従来の技術のいろいろな問題点を解決して、低い表面エネルギーを有する被着体に対する接着を、極低温から高温までの広い温度範囲において良好な接着強度及び保持特性をもって可能とするような改良された粘着剤組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の目的は、また、取り扱いが容易であり、溶剤の使用に原因する環境汚染の問題を引き起こすことがないような粘着剤組成物を提供することにある。
本発明の目的は、特に、自動車等の車両に対するゴム製部品、なかんずくEPDM製部品の取り付けに有利に使用することができる粘着剤組成物を提供することにある。
【0009】
本発明のさらにもう1つの目的は、上記したような粘着剤組成物を使用した粘着剤製品を提供することにある。」

(e)
「【0012】
【発明の実施の形態】
・・(中略)・・
【0013】
本発明の粘着剤組成物は、上記したように、イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム重合体として、そのランダム共重合体が、1?20重量%のパラメチルスチレンを含み、かつ、架橋構造を有していることを特徴としている。詳細に述べると、この共重合体は、基本的に、イソブチレンとパラメチルスチレンとのランダム共重合体を、耐熱性の観点から架橋剤によって架橋させた構造を有している。この種のランダム共重合体は、例えば、エクソン化学からEXXPROシリーズとして商業的に入手可能であり、MDX90-10、MDX89-4(品番)などがある。また、このパラメチルスチレンのパラ位のメチル基は一部臭素化されて架橋点となりうる。したがって、以下に詳述する手法に従って架橋構造を形成することができるようになっている。特に、共重合体MDX90-10は、その共重合体中に7.5重量%の量で含まれるパラメチルスチレンのうち、1.2モル%のものが臭素化されている。また、MDX89-4は、その共重合体中に5重量%の量で含まれるパラメチルスチレンのうち、0.75モル%のものが臭素化されている。なお、ランダム共重合体を製造するための、パラメチルスチレンの臭素化及びイソブチレンとパラメチルスチレンのランダム重合は、いずれも高分子化学の分野で一般的な手法を使用して実施することができる。
【0014】
上記したランダム共重合体において、それに含まれるパラメチルスチレンは、常温ないし高温における優れた接着性を導くために上述のような架橋点を形成することだけが特徴ではない。パラメチルスチレンは、それ自身の有する凝集力と硬さとから、共重合体に対して耐熱性と強度をも与えることができる。また、このような作用効果を得るため、パラメチルスチレンは、イソブチレンとパラメチルスチレンとの共重合体において、その共重合体の全量を基準にして約1?20重量部の量で含まれるのが好ましい。ここで、パラメチルスチレンの量が1重量部よりも少ないと、凝集力が不足し、特に高温域で、実用に耐える接着性を得ることが難しくなる。反対に、パラメチルスチレンの量が20重量部よりも多くなると、柔軟性の低下が著しくなり、粘着剤としての重要特性であるベタツキがなくなり、もはや粘着剤と呼ぶことができなくなる。」

(f)
「【0015】
本発明で用いられるランダム共重合体は、特に高温での接着性の低下を抑制するため、架橋構造を有していることが好ましい。実際、架橋構造を有していないと、粘着剤組成物が高温条件にさらされた時、凝集力が不足するようになり、いわゆる糊残りが生じやすい。ランダム共重合体の架橋は、基本的に、高分子化学の分野において一般的に行われているように、加硫などの手法を用いて行うことができる。しかし、加硫の場合には、高い反応温度と長い反応時間を甘受しなければならない。したがって、本発明では、下記の実施例においても具体的に採用されているように、パラメチルスチレン中に架橋点となりうる臭素原子を利用して、アミン系架橋剤を用いて架橋を行うのが好ましい。適当な架橋剤としては、以下に列挙するものに限定されるわけではないけれども、トリエチレンテトラミン(TETA)、4,4-トリメチレンジピペリジン(TMDP)、ジ-4-ピコリルアミンなどを挙げることができる。このような架橋剤の使用量は、使用する架橋剤の種類などによって広く変更することができる。例えば、架橋剤がTETAである場合には、共重合体100重量部に対して、約0.05?1重量部の量で使用するのが好ましい。TETAの量が0.05重量部よりも少ないと、例えば80℃のような比較的高温で粘着剤組成物を使用した場合に、粘着剤の凝集破壊が生じる傾向にある。また、1重量部よりも多いと、架橋後に粘着剤がその凝集力の増加に原因して硬くなりすぎ、粘着剤として必要なベタツキや柔軟性がなくなる。」

(g)
「【0019】
本発明による粘着剤組成物は、それを使用して種々の粘着剤製品を提供することができる。本発明による粘着剤製品は多岐に及ぶことができ、特定の形態のものに限定されるわけではないけれども、好ましい粘着剤製品の典型例は、例えば織布もしくは不織布などの繊維材料に粘着剤組成物を塗布もしくは含浸させた粘着剤製品や、例えばアクリルフォーム、ウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム等のフォーム基材又は例えばポリエステルフィルム等のプラスチックフィルムあるいは例えばセロファン等の紙のような基体に粘着剤組成物を適用した粘着剤製品など、具体的には、粘着テープ、粘着シート、粘着フィルム、フォームテープ、転写テープ、両面テープなどである。
【0020】
本発明の粘着剤製品は、この技術分野において公知のいろいろな技法を使用して製造することができる。本発明の実施に有利に使用することのできる製造方法の一例を示すと、まず、選ばれたランダム共重合体、粘着付与剤、可塑剤などの原材料をトルエン又はその他の溶剤に溶解して塗布溶液を調製する。次いで、得られた塗布溶液を例えばポリエステルフィルムなどの基体の上に塗布し、所定の温度及び時間にわたって加熱し、乾燥による溶剤の除去と共重合体の架橋を行う。このような簡単な製造方法を通じて、所期の粘着剤製品を得ることができる。
【0021】
別法に従うと、本発明の粘着剤製品は、押し出し機を使用してホットメルト法で製造することも可能である。
さらに、本発明の粘着剤製品は、それを製造した後に被着体に貼り付ける時、適度の温度まで加熱することを通じて、より良好な接着性を発現させることもできる。」

(h)
「【0022】
【実施例】
引き続いて、本発明をその実施例に従って説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではないことを理解されたい。
実施例1
原材料として、下記のゴム及び粘着付与剤を記載の量で用意した。
【0023】
イソブチレンとパラメチルスチレンのランダム共重合体 100重量部
(エクソン化学社製のEXXPRO MDX90-10、
品番)
粘着付与剤(Hercules社製のRegalrez 100重量部
6108、商品名)
これらの原材料をトルエンに溶解し、25重量%程度の不揮発分を含有する溶液を調製した。さらに、得られた溶液に0.12重量部のトリエチレンテトラアミン(TETA)を架橋剤として添加し、充分に攪拌した。攪拌後、TETAを混合した溶液を、ハンドコータを用いて、シリコーンにより剥離処理されたポリエステルフィルムの上に乾燥後の厚みが50μmになるように塗布した。その後、粘着剤塗膜付きのポリエステルフィルムをオーブンに入れ、120℃の温度で20分間にわたって加熱し、粘着剤の加熱乾燥及び架橋反応を行った。粘着剤塗膜が硬化し、転写型粘着テープ本体が得られた。
【0024】
次に、転写型粘着テープ本体の片面に、アクリル系ポリマーとイソシアネートを主成分として含む表面改質剤:住友3M社製のJPM-790(品番)を2?5μmの塗布膜厚で塗布し、オーブン内で70℃で5分間にわたって加熱し、乾燥させた。その後、この転写型粘着テープ本体を、その表面改質剤を塗布した面を介して、アクリルフォームコアに常温でラミネートした。なお、ここで使用したアクリルフォームコアは、Esmay等に付与された米国特許第4,415,615号明細書に記載の典型的なテープ製造手順に従い作製したもので、、好ましくは50?100重量部の置換もしくは非置換のアルキルアクリレート又はメタクリレートのモノマー、及び0?50重量部の共重合性モノエチレン系置換モノマーとの共重合体であり、また、その厚みは1.2mmであった。かかるアクリルフォームコアの作製に有利に使用することのできるモノマーは、Urichに付与された米国再発行特許第24,906号明細書において開示されている。上記したような一連の製造プロセスを経て、本発明による粘着剤製品であるところのアクリルフォームテープが得られた。
実施例2?5
前記実施例1に記載の手法を繰り返してアクリルフォームテープを作製したが、本例では、架橋剤としてのTETAの添加量を0.12重量部から次のように変更した。
【0025】
実施例2 0.14重量部
実施例3 0.15重量部
実施例4 0.20重量部
実施例5 0.25重量部
実施例6
前記実施例1に記載の手法を繰り返してアクリルフォームテープを作製したが、本例では、イソブチレンとパラメチルスチレンのランダム共重合体として、エクソン化学社製のEXXPRO MDX90-10の代わりに、同社製のEXXPRO MDX89-4(品番)を同量で使用し、かつ架橋剤としてのTETAの添加量を0.12重量部から0.14重量部に変更した。
実施例7
前記実施例6に記載の手法を繰り返してアクリルフォームテープを作製したが、本例では、架橋剤としてのTETAの添加量を0.14重量部から0.16重量部に変更した。
実施例8
前記実施例1に記載の手法を繰り返してアクリルフォームテープを作製したが、本例では、粘着付与剤として、Hercules社製のRegalrez 6108の代わりに、同社製のForal 105(商品名)を同量で使用し、かつ架橋剤としてのTETAの添加量を0.12重量部から0.14重量部に変更した。
実施例9
前記実施例1に記載の手法を繰り返してアクリルフォームテープを作製したが、本例では、イソブチレンとパラメチルスチレンのランダム共重合体及び粘着付与剤を含む溶液を調製する際、10重量部の液状イソブチレンゴム:トーネックス社製のビスタネックスLM-MS(商品名)をさらに添加し、かつ架橋剤としてのTETAの添加量を0.12重量部から0.14重量部に変更した。
実施例10
前記実施例9に記載の手法を繰り返してアクリルフォームテープを作製したが、本例では、液状イソブチレンゴム:ビスタネックスLM-MSの添加量を10重量部から30重量部に変更した。
実施例11
前記実施例1に記載の手法を繰り返してアクリルフォームテープを作製したが、本例では、イソブチレンとパラメチルスチレンのランダム共重合体及び粘着付与剤を含む溶液を調製する際、10重量部の可塑剤:シェル社製のShellflex SF-371JY(商品名)をさらに添加し、かつ架橋剤として、TETAの代わりに、4,4-トリメチレンジピペリジン(TMDP)を0.17重量部で使用した。
実施例12
前記実施例11に記載の手法を繰り返してアクリルフォームテープを作製したが、本例では、可塑剤:Shellflex SF-371JYの添加量を10重量部から20重量部に変更した。
比較例1
本例では、比較試験に供するため、市販のアクリルフォームテープ、住友スリーエム社製の低表面エネルギー被着体用アクリルフォームテープ#5373を用意した。
比較例2
前記実施例1に記載の手法を繰り返してアクリルフォームテープを作製したが、本例では、比較試験に供するため、架橋剤:TETAの使用を省略した。
比較例3
前記実施例6に記載の手法を繰り返してアクリルフォームテープを作製したが、本例では、比較試験に供するため、架橋剤:TETAの使用を省略した。
〔評価試験〕
前記実施例1?12及び比較例1?3のそれぞれにおいて作製したアクリルフォームテープを供試テープとして使用して、下記の手順に従い(1)接着強度、(2)耐熱保持力、及び(3)低温剪断強度を評価した。
(1)接着強度
接着強度は、180°剥離試験により、異なる温度条件:常温(約25℃)及び80℃、下で評価した。
【0026】
被着体として、3種類のゴム製部材:堀田ゴム社製のEPDM(ソリッドタイプ及びスポンジタイプ)及びトヨタ社製のTSOP-1(商標)、を用意し、所定の部位にそれぞれの供試テープを貼り付けた。ここで使用した供試テープは、先に作製したテープの評価面の背面に50μm厚のポリエステルフィルムで裏当てを行った後、12mm幅で細断して得たスリット状テープである。次いで、供試テープを被着体に圧着するため、そのテープの上で重さ2kgのローラを往復運動させた。このようにして得られた試験片を常温で1日放置した後、島津社製の引っ張り試験機を使用して、180°剥離試験を行った。この時、引っ張り速度を50mm/分とした。
【0027】
次いで、80℃での180°剥離試験を上記と同様に行った。しかし、試験片を常温で1日放置後は引き続き試験片を温度80℃の雰囲気内で30分間以上放置することにより、該試験を実施した。
常温及び80℃のそれぞれの180°剥離試験の結果を下記の第1表に記載する。なお、第1表において、ATは、粘着剤において凝集破壊が発生したことを示す。
(2)耐熱保持力
被着体として、ゴム製部材:堀田ゴム社製のEPDM(ソリッドタイプ、寸法:約30mm×70mm×5mm)を用意した。アクリルフォームテープを25mm×25mmの大きさに切断した後、そのテープ片の評価面をこの被着体の所定の部位に、また、評価面の背面をステンレス製パネルに、それぞれ貼り付けて固定した。得られた試験片を常温で1日放置した後、90℃のオーブン中に、その試験片が垂直になるように配置し、さらに、試験片のステンレス製パネル側をオーブンに固定した。被着体に対して1kgの荷重を加えて、耐熱保持力の限界に達したことにより、被着体が試験片から外れて落下するまでに要する時間(分)を測定した。得られた測定結果を下記の第1表に記載する。
(3)低温剪断強度
被着体として、ゴム製部材:堀田ゴム社製のEPDM(ソリッドタイプ、寸法:約30mm×70mm×5mm)を用意した。アクリルフォームテープを25mm×10mmの大きさに切断した後、そのテープ片の評価面をこの被着体の所定の部位に、また、評価面の背面をメラミンアルキッド樹脂塗料の塗装板に、それぞれ貼り付けて固定した。得られた試験片を常温で1日放置した後、冷却機能を有する島津社製の引っ張り試験機でもって1時間以上-30℃に冷却された試験片の剪断強度(kg/cm^(2))を測定した。この時、引っ張り速度を2mm/分とした。得られた測定結果を下記の第1表に記載する。
【0028】
【表1】

【0029】
上記第1表に記載の結果から理解されるように、実施例1?5において作製したアクリルフォームテープは、被着体に対して低温から高温まで、実用に耐えられる優れた接着強度を有している。また、実施例6及び7のように、主成分たる共重合体中のパラメチルスチレンの含有比率を低下させて粘着剤に柔軟性を与えても、アクリルフォームテープは依然として優れた接着強度を有することができる。さらに、実施例8?12のように、併用する粘着付与剤の変更を行ったり、あるいはゴム成分もしくは可塑剤の追加的使用を行ったりしても、アクリルフォームテープは依然として優れた接着強度を有することができる。
【0030】
これに対して、比較例1の、一般的な合成ゴム系転写型粘着テープを用いたアクリルフォームテープでは、第1表に記載の結果より明らかなように、高温において、接着強度の著しい低下を避けることができない。また、イソブチレンとパラメチルスチレンからなるランダム共重合体を主成分として含有していても、その共重合体が架橋構造を有していないアクリルフォームテープ(比較例2及び3)では、高温で、転写型粘着テープの粘着層での糊残りが生じることがわかった。特に、被着体がスポンジタイプのEPDMの場合は、常温でも糊残りが生じることがわかった。これは、EPDM側からの移行成分であるオイルなどの影響によるものと、考察される。
【0031】
また、かかる事実から理解されるように、本発明では、粘着剤を構成する共重合体に網目構造のような架橋構造を与えているが、このようにすることによって、高温での接着強度の低下、そして移行成分に由来する凝集力の低下、を抑制することができる。」

(i)
「【0032】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、EPDMのようなゴムや、ゴムが配合されたポリプロピレンのようなプラスチック材料からなる被着体に対して、
(1)極低温から高温までの広い温度範囲において、良好な接着強度及び保持特性を示すことができ、
(2)高温等の過酷な条件下でも、優れた耐候性をもって被着体と接着することができ、
(3)環境汚染の問題を引き起こさない、
粘着剤組成物が提供される。本発明の粘着剤組成物は、特に自動車等の車両に対するゴム製あるいはゴム配合プラスチック製品の取り付けに有利に使用することができる。」

(3)検討
上記当初明細書の記載事項に基づいて、上記補正後の請求項1における「パラメチルスチレンは、前記ランダム共重合体において架橋構造を形成するため、前記アミン系架橋剤を用いて臭素化されていること」につき検討する。

当初明細書の特許請求の範囲の記載につき検討しても、「ランダム共重合体」の「臭素化」に係る記載はない(摘示(a)参照)。
そして、当初明細書の発明の詳細な説明の記載につき検討すると、「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体」につき、「パラメチルスチレンのパラ位のメチル基は一部臭素化されて」いる「エクソン化学からEXXPROシリーズとして商業的に入手可能であ」る「MDX90-10、MDX89-4(品番)などがある」こと(摘示(e)参照)、「パラメチルスチレン中に架橋点となりうる臭素原子を利用して、アミン系架橋剤を用いて架橋を行う」こと(摘示(f)参照)などが記載され、具体例として、「EXXPRO MDX90-10」又は「EXXPRO MDX89-4」なる商品名の臭素化されたイソブチレン-パラメチルスチレンランダム共重合体を使用し、アミン系架橋剤としてTETAを組み合わせて使用する実施例とTETAを使用しない比較例とが記載されているのみである(摘示(h)参照)。
しかるに、上記1.(1)に示したとおり、「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体」は、そもそも臭素を含有しないものであるから、「EXXPRO MDX90-10」又は「EXXPRO MDX89-4」なる商品名のイソブチレン-パラメチルスチレンランダム共重合体は、特に「臭素化された」特殊なイソブチレン-パラメチルスチレンランダム共重合体であると理解するのが自然である。
そして、「パラメチルスチレンの臭素化」は、「高分子化学分野で一般的な手法を使用して実施することができる」(摘示(e)参照)が、上記1.(2)に示したとおり、TETAなどのアミン系架橋剤は、臭素を含有するものとは認められず、臭素を含有する有機化合物との間で脱ハロゲン化水素反応により反応することはあっても、他の有機化合物に臭素を与えて臭素化するような反応を生起するものではないことから、アミン系架橋剤を用いて、パラメチルスチレンを臭素化することはできないものと認められる。
してみると、当初明細書の発明の詳細な説明には、「臭素化された(特殊な)イソブチレン-パラメチルスチレンランダム共重合体において架橋構造を形成するため、前記アミン系架橋剤を用いて架橋されている」ことは記載されているものの、「パラメチルスチレンは、イソブチレン-パラメチルスチレンランダム共重合体において架橋構造を形成するため、前記アミン系架橋剤を用いて臭素化されている」ことが記載されているものとは認められない。
また、当初明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載を総合しても、当業者の技術常識に照らして、「パラメチルスチレンは、イソブチレン-パラメチルスチレンランダム共重合体において架橋構造を形成するため、前記アミン系架橋剤を用いて臭素化されている」ことを当業者が認識することができるとすべき記載又は示唆が存するものとも認められない。
したがって、補正により「パラメチルスチレンは、イソブチレン-パラメチルスチレンランダム共重合体において架橋構造を形成するため、前記アミン系架橋剤を用いて臭素化されている」なる技術事項を追加することは、当初明細書の記載によって総合的に開示された技術的事項に対し、新たな技術的事項を導入しないものであるということができない(知的財産高等裁判所特別部平成18年(行ケ)10563号判決参照)。

(4)補正の却下の決定に係る検討のまとめ
以上のとおり、上記補正により、当初明細書の記載によって総合的に開示された技術的事項に対し、新たな技術的事項を導入しないものであるということができないのであるから、上記補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、上記補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法第2条による改正前(以下「平成14年改正前」という。)の特許法第17条の2第3項の規定に違反しているものであって、同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定は、妥当なものであるから、請求人の「平成22年5月21日付けの補正の却下の決定・・を取り消す・・との審決を求める。」との請求は成り立たない。

3.原審の拒絶査定の理由について
上記2.で説示したとおり、平成22年5月21日付けの補正の却下の決定は妥当なものであるから、平成22年5月10日付け手続補正が却下された本願につき、原審の拒絶査定(以下「原査定」という。)の理由の当否についてさらに検討する。

(1)原査定の拒絶理由
原査定の拒絶理由は、再掲すると、
「この出願については、平成21年10月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由Iによって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
[備考]
理由I
請求項1、2
平成21年10月30日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由Iは依然として解消されていない。」
というものであり、具体的には、平成21年10月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由I、すなわち再掲すると、
「I.この出願は、明細書の記載が下記1)?7)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

理由Iについて
請求項1、2
1) 請求項1の「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなる共重合体」という記載では、「パラメチルスチレン」が「臭素化部位」を有することはあり得ないから、特許を受けようとする発明が明確でない。
2) 請求項1に、「パラメチルスチレンの臭素化部位」と記載されているが、パラメチルスチレンのどの箇所がいくつ臭素化されているのか不明であるから、相当する化学構造が明確でない。
3) 請求項1に、「パラメチルスチレンの臭素化部位を利用することによって架橋」と記載されているが、上記2)で指摘したとおり、「パラメチルスチレンの臭素化部位」がどのような化学構造を有するのか明らかでないから、どのような反応によりどのような化学構造有する架橋が生じるのかも明確でない。また、用いられる「アミン系架橋剤」が備えるべき化学構造も明確でない。
4) 請求項1に、「1?20重量%の前記パラメチルスチレンを含み」と記載されているが、当該「1?20重量%」というのが臭素により置換されていないパラメチルスチレンの含有割合なのか、臭素化部位を有するパラメチルスチレンの含有割合なのか、それともそれら両方の合計の含有割合なのかが明確でない。
5) 請求項1に、「架橋構造を有している」と記載されているが、被粘着物に塗布される前の組成物の段階で、既に架橋構造を有しているということか。そうであるとすると、本願明細書に実施例1?12として開示されている熱架橋反応が施されていない組成物は、いずれも「実施例」と表示することが不適切なものということになる。
6) 請求項1に、「架橋構造を有している」と記載されているが、熱架橋反応が施された後の組成物においては、「アミン系架橋剤」は反応により消費されてしまっているから、アミン系架橋剤を含む旨の記載は不適切なのではないか。また、「1?20重量%の前記パラメチルスチレンを含み」という記載については、架橋により「パラメチルスチレン」でなくなった構造部分は除外して計算されているという理解でよいか。
7) 請求項1を引用している請求項2についても、上記1)?6)と同じ理由により、特許を受けようとする発明が明確でない。」
であるものと認められる。
そこで、原査定の拒絶理由と同一の理由が存するか否かにつき以下検討する。

(2)特許請求の範囲の明確性に係る検討

ア.本願の特許請求の範囲の記載
平成22年5月10日付け手続補正が却下されたので、平成21年2月23日付けの手続補正により補正された本願特許請求の範囲には、再掲すると以下の事項が記載されている。
「【請求項1】 イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体と、
粘着付与剤と、
前記パラメチルスチレンの臭素化部位を利用することによって架橋を行い得るアミン系架橋剤と
を備える粘着剤組成物であって、
前記ランダム共重合体が1?20重量%の前記パラメチルスチレンを含み、かつ、架橋構造を有していることを特徴とする粘着剤組成物。
【請求項2】 請求項1に記載の粘着剤組成物を備えることを特徴とする粘着剤製品。」

イ.検討
上記拒絶理由のうち請求項1に係るものの内容を検討すると、
(a)「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体」の化学構造(臭素化部位、パラメチルスチレンの含有量など)及びその共重合体の化学構造とアミン系架橋剤との対応関係に係るもの(「1)」?「4)」)
及び
(b)粘着剤組成物がいかなるものであるかに係るもの(「5)」及び「6)」)
の2つに大別できるものと認められるから、以下(a)及び(b)の2つに分けて検討する。

(ア)上記(a)の点について

a.「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体」は、技術用語として意味が明確であるところ、イソブチレンからなるモノマー単位とパラメチルスチレンからなるモノマー単位とが無秩序(ランダム)に共重合した構造を有する化学物質であり、上記1.(1)に示したとおり、臭素を含有するものではなく、架橋構造を有するものでもないことが、当業者に自明である。
しかるに、この当業者に自明な事項に基づき上記請求項1の記載を検討すると、「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体」なる記載と「前記パラメチルスチレンの臭素化部位を利用することによって架橋を行い得る」なる記載及び「前記ランダム共重合体が・・架橋構造を有している」なる記載との間の技術的対応関係は、当業者にとっても不明である。

b.なお、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、発明の詳細な説明には、
「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム重合体として、そのランダム共重合体が、1?20重量%のパラメチルスチレンを含み、かつ、架橋構造を有していることを特徴としている。詳細に述べると、この共重合体は、基本的に、イソブチレンとパラメチルスチレンとのランダム共重合体を、耐熱性の観点から架橋剤によって架橋させた構造を有している。この種のランダム共重合体は、例えば、エクソン化学からEXXPROシリーズとして商業的に入手可能であり、MDX90-10、MDX89-4(品番)などがある。また、このパラメチルスチレンのパラ位のメチル基は一部臭素化されて架橋点となりうる。したがって、以下に詳述する手法に従って架橋構造を形成することができるようになっている。」
との記載は存する(上記摘示(e)の【0013】参照)。
しかしながら、「パラメチルスチレンのパラ位のメチル基が一部臭素化されたイソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム重合体」は、「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム重合体」との間で、化学構造が明らかに異なる別異の化学物質であって、上記当業者に自明な事項である「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム重合体」の技術概念に包含されるものとは認められない。
また、「前記ランダム共重合体が・・架橋構造を有している」なる記載につき検討すると、「パラメチルスチレンのパラ位のメチル基が一部臭素化されたイソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム重合体」につき「アミン系架橋剤」により架橋することは発明の詳細な説明に記載されている(上記摘示(f)参照)ものの、「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム重合体」が架橋構造を有することについては記載されていない。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、上記請求項1の「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体」なる記載と「前記パラメチルスチレンの臭素化部位を利用することによって架橋を行い得る」なる記載及び「前記ランダム共重合体が・・架橋構造を有している」なる記載との間の技術的対応関係は不明である。

c.以上のa.及びb.で検討した点を総合すると、上記請求項1の「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体」なる記載と「前記パラメチルスチレンの臭素化部位を利用することによって架橋を行い得る」なる記載及び「前記ランダム共重合体が・・架橋構造を有している」なる記載との間の技術的対応関係は、たとえ発明の詳細な説明の記載を参酌しても不明であるものと認められる。

(イ)上記(b)の点について
本願請求項1に係る発明の「粘着剤組成物」がいかなるものであるかにつき検討する。
請求項1には、(i)イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体と、(ii)粘着付与剤と、(iii)前記パラメチルスチレンの臭素化部位を利用することによって架橋を行い得るアミン系架橋剤とを備える、という粘着剤組成物を構成する成分に係る事項、及び、前記ランダム共重合体が(iv)1?20重量%の前記パラメチルスチレンを含み、かつ、(v)架橋構造を有している、という成分(i)のランダム共重合体の構造に係る事項が記載されている。
ここで、上記(ア)で説示したとおり、成分(i)の「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体」と成分(iii)に係る「前記パラメチルスチレンの臭素化部位を利用することによって架橋を行い得る」こと及び成分(i)のランダム共重合体に係る(v)の「架橋構造を有している」こととの間の技術的対応関係は不明である。
しかるに、本願明細書の発明の詳細な説明における上記摘示(e)及び(f)の記載の趣旨からみて、仮に、本願に係る発明の「粘着剤組成物」が、成分(i)のランダム共重合体を成分(iii)のアミン系架橋剤で架橋するものであると理解しても、請求項1の「粘着剤組成物」は、「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体と、粘着付与剤と、前記パラメチルスチレンの臭素化部位を利用することによって架橋を行い得るアミン系架橋剤とを備える」という3成分を含有するもの、すなわちアミン系架橋剤成分が未反応で存在する「架橋が行われる前の状態」のものであるのか、あるいは、「前記ランダム共重合体が・・架橋構造を有している」もの、すなわちアミン系架橋剤が架橋(反応)により消費され実質的に存在しない「既に架橋が行われた後の状態」のものであるのか、当業者といえども判別できるものとはいえない。
してみると、本願請求項1に記載された「粘着剤組成物」は、たとえ発明の詳細な説明の記載を参酌しても、いかなる組成物であるのか技術的に明確であるとはいえない。

(ウ)検討のまとめ
以上の(ア)及び(イ)の検討を総合すると、本願請求項1の記載では、「イソブチレン及びパラメチルスチレンからなるランダム共重合体」なる記載と「前記パラメチルスチレンの臭素化部位を利用することによって架橋を行い得る」なる記載及び「前記ランダム共重合体が・・架橋構造を有している」なる記載との間の技術的対応関係が不明であり、さらに、同項に記載された事項で特定される「粘着剤組成物」が、たとえ発明の詳細な説明の記載を参酌しても、いかなる組成物であるのか技術的に明確であるとはいえないから、本願請求項1の記載では、同項に記載された事項で特定される「粘着剤組成物」に係る特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。

ウ.審判請求人の主張について
審判請求人は、原審における平成22年5月10日付け意見書及び当審における平成22年11月1日付け手続補正書(方式)(審判請求理由補充書)において、上記拒絶理由につき略同旨の反論をるる主張している。
しかしながら、上記各主張は、いずれも平成22年5月10日付け手続補正により補正された事項に基づくものであるところ、上記2.で説示したとおり、同手続補正を却下する決定につき取り消すべきものではないから、上記各主張は、いずれも根拠を欠くもので当を得ないものであり、採用する余地がないものである。
したがって、審判請求人の上記意見書における主張及び上記手続補正書(方式)における主張は、いずれも当審の上記イ.の検討結果を左右するものではない。

エ.特許請求の範囲の明確性に係る検討のまとめ
結局、本願請求項1の記載では、同項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明が明確であるとはいえないから、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではない。

4.当審の判断のまとめ
以上のとおり、本願における平成22年5月21日付けの補正の却下の決定は取り消すべきものではない。
そして、平成21年2月23日付けの手続補正により補正された本願特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではないから、本願は、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていない。

第5 結語
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、その余につき検討するまでもなく、特許法第49条第4号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-20 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-07 
出願番号 特願平10-108024
審決分類 P 1 8・ 55- ZB (C09J)
P 1 8・ 537- ZB (C09J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹菅原 洋平  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 小出 直也
橋本 栄和
発明の名称 粘着剤組成物及びそれを使用した粘着剤製品  
代理人 青木 篤  
代理人 永坂 友康  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 出野 知  

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