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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1267726
審判番号 不服2011-14663  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-07 
確定日 2012-12-19 
事件の表示 特願2006-553318「III族窒化膜双方向スイッチ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 9月 1日国際公開、WO2005/079370、平成19年 9月13日国内公表、特表2007-526633〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2005年2月14日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年2月12日、米国、2005年2月11日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年2月24日に手続補正がなされ、平成23年2月25日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年7月7日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年2月24日になされた手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
基板と、
III族窒化物半導体材料からなる第1半導体本体と、
前記第1半導体本体の上に形成され、別のIII族窒化物半導体材料からなり、前記第1半導体本体のIII族窒化物半導体材料と異なるバンドギャップを有する第2半導体本体と、
前記第2半導体本体の第1部分に形成され、この第1部分にオーミック接続された第1オーミック電極と、
前記第2半導体本体の第2部分に形成され、この第2部分にオーミック接続された第2オーミック電極と、
前記第2半導体本体上に形成され、前記第1オーミック電極と前記第2オーミック電極との間に配置されたゲート電極とを備え、
前記デバイスが対称的な電圧ブロッキング能力を有するように、前記ゲート電極が位置している、双方向半導体スイッチ。」

3.引用刊行物に記載された発明
(3-1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に日本国内において頒布された特開2000-277724号公報(以下「引用刊行物」という。)には、図1及び2とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は、当審において付与したものである。(以下、同じ。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電界効果トランジスタとそれを用いた半導体装置及びその製造方法に関し、特に、窒化ガリウム系化合物半導体を用いることにより高速・高温で動作可能な電界効果トランジスタとそれを備えた半導体装置及びその製造方法に関するものである。」
「【0032】
【発明の実施の形態】本発明の電界効果トランジスタとそれを備えた半導体装置及びその製造方法の各実施形態について、図面に基づき説明する。
[第1の実施形態]図1は本発明の第1の実施形態のGaN系化合物半導体を用いたMESFETを示す断面図である。このMESFETは、ノーマリオン型のもので、サファイア基板1の(0001)面上に、膜厚が30nmの低温GaNバッファ層21、膜厚が2.4μmのアンドープGaN層22、膜厚が0.2μmで不純物濃度が2×10^(17)cm^(-3)のSiドープn-GaNチャネル層23、膜厚が20nmで不純物濃度がn-GaNチャネル層23より高い2×10^(18)cm^(-3)のSiドープn^(+)-GaNコンタクト層24が順次積層されている。
【0033】このn^(+)-GaNコンタクト層24上にはオーム性電極のソース電極25及びドレイン電極26が形成されている。また、ゲート領域直下のn^(+)-GaNコンタクト層24が除去されてn-GaNチャネル層23のゲート領域が露出され、このゲート領域にはショットキー電極のゲート電極27が形成されている。オーム性電極としては、Tiを25nm、Alを150nm順次積層したTi/Alが好適に用いられる。ショットキー電極としては、Ptを10nm、Tiを40nm、Auを100nm順次積層したPt/Ti/Auが好適に用いられる。」
「【0037】[第2の実施形態]図2は本発明の第2の実施形態のGaN系化合物半導体を用いた順HEMTを示す断面図であり、二次元電子ガスの濃度を制御するためのゲート電極をAlGaN/GaNヘテロ接合のAlGaN側に形成した構造である。この順HEMTは、ノーマリオン型のもので、サファイア基板1の(0001)面上に、膜厚が30nmの低温GaNバッファ層21、膜厚が2.4μmのアンドープGaN層22、膜厚が50nmで不純物濃度が1×10^(18)cm^(-3)のSiドープn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31(0≦x≦1)、膜厚が20nmで不純物濃度がn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31より高い5×10^(18)cm^(-3)でありかつAl組成比がn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31より小さいSiドープn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32(0≦y≦1、y≦x)が順次積層されている。なお、33はアンドープGaN層22中に形成される二次元電子ガス層である。
【0038】このn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32上にはソース電極25及びドレイン電極26が形成され、ゲート領域直下のn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32が除去されてn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のゲート領域が露出され、このゲート領域にはゲート電極27が形成されている。ソース電極25、ドレイン電極26及びゲート電極27それぞれの組成は、上述した第1の実施形態の組成と全く同様である。」

(3-2)上記記載からみて、引用刊行物には、以下の発明(以下「刊行物発明」という。)が記載されているものと認められる。

「サファイア基板1の面上に、低温GaNバッファ層21、アンドープGaN層22、Siドープn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31(0≦x≦1)、Siドープn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32(0≦y≦1、y≦x)が順次積層されており、
前記n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32上にはオーム性電極のソース電極25及びドレイン電極26が形成され、
ゲート領域直下の前記n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32が除去されて前記n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のゲート領域が露出され、前記ゲート領域にはゲート電極27が形成されている、
GaN系化合物半導体を用いた順HEMT。」

4.対比
(4-1)刊行物発明の「サファイア基板1」及び「アンドープGaN層22」は、各々本願発明の「基板」及び「III族窒化物半導体材料からなる第1半導体本体」に相当する。

(4-2)刊行物発明の「Siドープn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31(0≦x≦1)」は、本願発明の「前記第1半導体本体の上に形成され、別のIII族窒化物半導体材料からなり、前記第1半導体本体のIII族窒化物半導体材料と異なるバンドギャップを有する第2半導体本体」に相当する。

(4-3)刊行物発明の「オーム性電極のソース電極25及びドレイン電極26」は、本願発明の「第1オーミック電極」及び「第2オーミック電極」に相当する。
したがって、刊行物発明の「n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32上に」「形成され」た「オーム性電極のソース電極25及びドレイン電極26」と本願発明の「前記第2半導体本体の第1部分に形成され、この第1部分にオーミック接続された第1オーミック電極」及び「前記第2半導体本体の第2部分に形成され、この第2部分にオーミック接続された第2オーミック電極」とは、各々「前記第2半導体本体の第1部分」と電気的に「接続された第1オーミック電極」及び「前記第2半導体本体の第2部分」と電気的に「接続された第2オーミック電極」という点で共通する。

(4-4)刊行物発明の「ゲート領域直下の前記n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32が除去されて」「露出され」た、「前記n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のゲート領域」に「形成され」た「ゲート電極27」は、本願発明の「前記第2半導体本体上に形成され、前記第1オーミック電極と前記第2オーミック電極との間に配置されたゲート電極」に相当する。

(4-5)刊行物発明の「順HEMT」と本願発明の「双方向半導体スイッチ」とは、「半導体装置」という点で共通する。

(4-6)そうすると、本願発明と刊行物発明とは、
「基板と、
III族窒化物半導体材料からなる第1半導体本体と、
前記第1半導体本体の上に形成され、別のIII族窒化物半導体材料からなり、前記第1半導体本体のIII族窒化物半導体材料と異なるバンドギャップを有する第2半導体本体と、
前記第2半導体本体の第1部分と電気的に接続された第1オーミック電極と、
前記第2半導体本体の第2部分と電気的に接続された第2オーミック電極と、
前記第2半導体本体上に形成され、前記第1オーミック電極と前記第2オーミック電極との間に配置されたゲート電極とを備えた、半導体装置。」
である点で一致し、次の3点で相違する。

(相違点1)本願発明では、「第1オーミック電極」及び「第2オーミック電極」が、「第2半導体本体」上に形成されているのに対して、刊行物発明では、「オーム性電極のソース電極25及びドレイン電極26」が「n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32」を介して、「n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31」上に形成されている点。

(相違点2)本願発明では、「前記デバイスが対称的な電圧ブロッキング能力を有するように、前記ゲート電極が位置している」のに対して、刊行物発明では、そのような特定がなされていない点。

(相違点3)本願発明では、「双方向半導体スイッチ」であるのに対して、刊行物発明では、「順HEMT」であるものの、「双方向」、「スイッチ」という特定はなされていない点。

5.判断
(5-1)相違点1について
半導体層上にオーミック電極を形成する際に、該半導体層と該オーミック電極との間に、該半導体層よりもより低抵抗のコンタクト層を介在させるかどうかは、オーミック電極を形成しようとする半導体層の導電性や要求されるデバイスの特性などに応じて、当業者が適宜選択し得る設計的事項に過ぎない。そうすると、刊行物発明において、「n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32」を介在させることなく、「n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31」上に「オーム性電極のソース電極25及びドレイン電極26」を形成することにより、本願発明のように、「前記第2半導体本体の第1部分に形成され、この第1部分にオーミック接続された第1オーミック電極」及び「前記第2半導体本体の第2部分に形成され、この第2部分にオーミック接続された第2オーミック電極」という構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、相違点1は、当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(5-2)相違点2及び3について
一般に、電界効果トランジスタにおいて、ソース電極とドレイン電極を、ゲートに対して対称となるように配置することにより、ソース電極とドレイン電極の役割を交換しても同等の特性が得られるように設計すること、すなわち、「双方向」の素子とすることは、以下の周知例1、2に記載されているように、従来から周知であり、その場合、電圧ブロッキング能力も対称的になることは当然のことである。 また、電界効果トランジスタを、「スイッチ」として使用することは、トランジスタの使用法の一つとして、通常行っていることである。

(ア)周知例1
特開2000-150535号公報には、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、電界効果トランジスタとその製造方法に関し、特に十分なゲート耐圧を有し、ソース抵抗を低減させることのできる電界効果トランジスタおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】電界効果トランジスタは、チャネル領域を有する半導体活性領域上に、ソース電極、ゲート電極、ドレイン電極を有する。ゲート電極に印加するゲート電圧により、ソース電極-ドレイン電極間に流れる電流を制御する。化合物半導体を用いた電界効果トランジスタにおいては、ソース電極、ドレイン電極は活性領域の半導体表面にオーミック接触を形成し、ゲート電極は活性領域の半導体表面にショットキ接触を形成する場合が多い。以下、このような化合物半導体を用いた電界効果トランジスタについて説明する。」
「【0007】一般的に、電界効果トランジスタはソース電極とドレイン電極の役割を交換して動作させる場合も多い。このような場合、ゲート電極に対し、ソース電極、ドレイン電極は対称的な位置に配置され、ソース電極とドレイン電極の役割を交換しても、同等のトランジスタ性能を発揮するように設計される。ソース電極、ドレイン電極は、ソース/ドレイン電極となる。」

(イ)周知例2
特開平11-45891号公報には、図1とともに、以下の事項が記載されている。
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、マルチフィンガー型電界効果トランジスタを有する高周波用集積回路素子に関する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】この従来のFETを図11に示すシングルポールデュアルスルー(SPDT)スイッチに用いた場合の問題点を説明する。図11に示すSPDTスイッチは、デジタルコードレス電話機のアンテナを送信または受信状態に切換えるのに用いられ、上述のFET4個から構成される。
【0008】図12において、アンテナ端子401は、トランスファゲートFET411を介して送信信号入力端子402と接続され、シャントFET413を介して接地される。また、アンテナ端子401はトランスファゲートFET412を介して受信信号出力端子403と接続され、シャントFET414を介して接地される。ゲート信号入力端子404は、ゲート抵抗424を介してシャントFET414のゲートと、ゲート抵抗421を介してトランスファゲートFET411のゲートと接続される。ゲート信号入力端子405は、ゲート抵抗423を介してシャントFET413のゲートと、ゲート抵抗422を介してトランスファゲートFET412のゲートと接続される。ゲート抵抗421?424はスイッチング動作時に高周波信号の漏れを防ぐためのもので各FETのゲートには数KΩの高抵抗が必要である。」
「【0010】このSPDTスイッチは信号がOFF時の容量を通るため信号の漏洩につながり、結果として本来の伝送経路の損失を増加させてしまうため、損失を低減し受信送信端子間のアイソレーションを大きくするためには、OFF時の容量はできるだけ小さい方が良い。また、トランスファゲートFET411,412はソースからドレインへ、またはドレインからソースへと双方向に信号が通過する場合があるのでFETは対称構造のものが望ましく、受信側送信側の区別なく設計もしやすくなる。」

そうすると、刊行物発明に対して上記周知の技術を適用して、「ソース電極25」と「ドレイン電極26」を「ゲート電極27」に対して対照的に配置することにより、「本願発明のように、「前記デバイスが対称的な電圧ブロッキング能力を有するように、前記ゲート電極が位置している、双方向半導体スイッチ」とすることは、当業者が容易になし得たことである。
したがって、相違点2及び3は、いずれも当業者が容易になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(5-3)まとめ
以上検討したとおり、本願発明と刊行物発明との相違点は、周知技術を勘案することにより、当業者が、容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものにすぎず、本願発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-23 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-07 
出願番号 特願2006-553318(P2006-553318)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 将之池渕 立  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 西脇 博志
小野田 誠
発明の名称 III族窒化膜双方向スイッチ  
代理人 山口 雄輔  
代理人 杉村 憲司  

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