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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F |
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管理番号 | 1267800 |
審判番号 | 不服2011-9628 |
総通号数 | 158 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-02-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-05-09 |
確定日 | 2012-12-21 |
事件の表示 | 特願2006- 14699「複合材料、磁心、線輪部品、および複合材料の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 9日出願公開、特開2007-200962〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成18年1月24日の出願であって、平成22年8月20日付けで通知した拒絶理由に対して、同年10月25日付けで手続補正がなされたが、平成23年2月3日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月9日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされた。 その後、当審において、平成23年12月16日付けで前置報告書(特許法第164条第3項)を利用した審尋を行ったところ、平成24年2月16日付けで回答書が提出された。 そして、平成24年5月29日付けの補正の却下の決定により、平成23年5月9日付けの手続補正は却下され、平成24年5月29日付けで拒絶理由を通知したところ、同年7月26日付けで手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成24年7月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。 「 【請求項1】 複数種の粉末と樹脂との混合物が常圧注型又は加圧注型により成形され、固化された複合材料であり、前記複数種の粉末の体積百分率が前記複合材料の全体積に対して60?90vol%である複合材料において、前記複数種の粉末の大部分を占める第1の粉末の平均粒径D1に対する第2の粉末の平均粒径D2の比率D2/D1が1/400?1/20の範囲となるような前記第2の粉末が前記複合材料の全体積に対して1.0vol%以上10.0vol%以下含まれていることを特徴とする複合材料。」 3.引用例 当審における拒絶理由で引用された本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開2000-294418号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(なお、以下、摘記事項の下線は当審で付した。)。 ア.「【請求項1】 三種類の粒径の異なる軟磁性粉末A、B、Cと有機物または無機物よりなる結合剤を混合し、該混合物を所定の形状の型内に注入して成形する粉末成形磁芯において、粉末Aの粒度分布の最頻値が粉末Bのそれの5倍以上、かつ粉末Bの粒度分布の最頻値が粉末Cのそれの5倍以上であり、かつ、粉末A、B、Cの配合比率が、粉末A、粉末B、粉末Cの体積百分率を各々X%、Y%、Z%とするとき、(X,Y,Z)=(40,0,60),(72,0,28),(72,28,0),(40,60,0),(0,72,28),(0,40,60)の各点を結ぶ範囲内にあることを特徴とする粉末成形磁芯。」 イ.「【請求項4】 結合剤が熱可塑性樹脂であって、加熱することにより粉末を結合し所定の形状に成形することを特徴とする請求項1記載の粉末成形磁芯。」 ウ.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は電子回路に用いられるチョークコイル、トランス等のインダクタンス素子に用いられる磁芯、及びモーター等に用いられるヨーク磁芯等の軟磁性磁芯に関する。」 エ.「【0008】使用する軟磁性材料の組成には基本的に制限がなく、任意の組成の粉体を本発明の粉体A、B、Cとして使用することができる。例えばFe-Si-Al合金、パーマロイ、珪素鉄、純鉄、アモルファス合金、微結晶合金等の金属粉末、フェライト等の金属酸化物粉体を使用することができる。 【0009】 【発明の実施の形態】従来、圧粉磁芯はプレス成形によってその所定形状を得ており、そのプレス成形圧が非常に高いために任意の形状を得ることが困難なため、巻線作業性の良い形状を作製できず、巻線の自動化ができない等の問題点があった。しかし、磁性粉末に液体を加えていったんスラリー化し、常圧または低圧において型に注入して所定の形状とした後、硬化させれば複雑な形状の磁芯を容易に作製することができる。 【0010】この製法において、磁性材料として単に一種類の粉体を用いたのでは、得られる磁芯形状全体積に占める磁性材料体積の比率(以下、占積率と呼ぶ)は低い値となり、その結果、磁芯の透磁率、飽和磁束密度も低くその用途は限定された。本発明では粒径の大幅に異なる三種類の粉体を混合することにより最終的に選られる磁芯の占積率を大幅に改善でき、透磁率、飽和磁束密度が向上し、広範な用途に適用しうる磁芯とすることができる。」 オ.「【0011】 【実施例】本発明に係る第1実施例を以下に述べる。この例では粉体AとしてFe-Si-Al合金組成の水アトマイズ粗粒粉末を乾式ボールミルで粗粉砕した粉(以下粉体A1)、粉体BとしてFe-Si-Al合金組成の水アトマイズ粗粒粉末を乾式ボールミルで微粉砕した粉(以下粉体B1)、粉体CとしてFe-Si-Al合金組成の水アトマイズ微細粉末(以下粉体C1)を用いた。粉体A1、B1は粉砕後950℃の水素中で焼鈍処理を施した。前記A1、B1の粒度分布を図1、図2に示す。この粒度分布はレーザー散乱法により測定したもので、この粉体A1の粒度の最頻値は176?209μmのランクにあり、この中央値193μmが粉体A1の最頻値となる。(以下、この方法により各粉体の粒度最頻値を算出した)。粉体B1の粒度最頻値は34μmである。粉体C1は水アトマイズ後乾燥したものをそのまま用いており、その粒度分布を図3に示す。最頻値は5.5?7.8μmのランクにあり、中央値6.7μmがC1の最頻値となる。粉体A1とB1の最頻値の比率は5.7、B1とC1の最頻値比率は5.1である。結合剤としては水溶性アクリル系バインダー(中央理化工業製、SA-200)を水に溶解して固形分5%水溶液としたものを用いた。 【0012】乳鉢中に粉体A1、B1及びC1を所定量入れて攪拌したものに、あらかじめ混合しておいた前記結合剤を少量ずつ添加しては攪拌することを繰返し、混合物がスラリー状となり流動を開始するまで結合剤を添加しその添加重量を記録した。このスラリーを外径26mmφのトロイダル形状のプラスチックケースに注入し90℃×2時間で加熱硬化させた。ケースの内容積寸法は外径24mmφ、内径13.5mmφ、高さ6.6mmである。注入したスラリー重量とケース内容積からスラリー密度を計算し、さらに粉体重量と樹脂添加量から磁芯形状における粉体材料の占積率を計算した。」 カ.【表1】には、(1)比較例の「試料No.」「4」は、「粉体A配合比」が「80」vol%、「粉体B配合比」が「10」vol%、「粉体C配合比」が「10」vol%、「占積率」が「63.8」%、とある。 キ.「【0016】本発明に係る第2実施例を以下に述べる。粉体AとしてはFe-Si-Al合金組成の水アトマイズ粗粒粉末を乾式ボールミルで粗粉砕した粉(以下粉体A2)、粉体Bとして4.5%Si残Fe組成の水アトマイズ粉末(以下粉体B2)、粉体Cとして第1実施例と同様にFe-Si-Al合金組成の水アトマイズ微細粉末(粉体C1)を用いた。粉体A2は粉砕後950℃の水素中で焼鈍しており、粒度最頻値は324μmである。粉体B2の粒度最頻値は53μm、C1は6.7μmである。A2とB2、B2とC1の最頻値比率は各々6.1と7.9である。結合剤としては無溶剤ワニス(スチレン重合不飽和ポリエステル系)を使用した。 【0017】実験の手順は第1実施例と同様である。スラリーを注入したケースを110℃×2時間で硬化させた。第2実施例の評価結果を表2に示す。A2:40vol%,B2:30vol%,C1:30vol%の配合比のとき占積率は最大となる。」 ク.【表2】には、(2)本発明例の「試料No.」「30」は、「粉体A配合比」が「60」vol%、「粉体B配合比」が「30」vol%、「粉体C配合比」が「10」vol%、「占積率」が「73.1」%、(3)比較例の「試料No.」「9」は、「粉体A配合比」が「80」vol%、「粉体B配合比」が「10」vol%、「粉体C配合比」が「10」vol%、「占積率」が「61.8」%、とある。 上記「ア.」ないし「ク.」の記載によれば、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 三種類の粒径の異なる軟磁性粉末A、B、Cと樹脂よりなる結合剤を混合し、該混合物を常圧または低圧において所定の形状の型内に注入して成形した後、硬化させた粉末成形磁芯であり、 (1)粉体の占積率が63.8%である粉末成形磁芯において、粉体A1は、配合比が80vol%、粒度最頻値が193μmであり、粉体B1は、配合比が10vol%、粒度最頻値が34μmであり、粉体C1は、配合比が10vol%、粒度最頻値が6.7μmである、 (2)粉体の占積率が73.1%である粉末成形磁芯において、粉体A2は、配合比が60vol%、粒度最頻値が324μmであり、粉体B2は、配合比が30vol%、粒度最頻値が53μmであり、粉体C1は、配合比が10vol%、粒度最頻値が6.7μmである、 (3)粉体の占積率が61.8%である粉末成形磁芯において、粉体A2は、配合比が80vol%、粒度最頻値が324μmであり、粉体B2は、配合比が10vol%、粒度最頻値が53μmであり、粉体C1は、配合比が10vol%、粒度最頻値が6.7μmである、 の何れかである粉末成形磁芯。 4.対比、判断 引用発明と本願発明とを対比する。 引用発明の「三種類の粒径の異なる軟磁性粉末A、B、C」は、本願発明の「複数種の粉末」に含まれる。 引用発明の「粉末成形磁芯」は、「三種類の粒径の異なる軟磁性粉末A、B、Cと樹脂よりなる結合剤を混合し、該混合物を常圧または低圧において所定の形状の型内に注入して成形した後、硬化させた」ものであるから、本願発明の「複数種の粉末と樹脂との混合物が常圧注型又は加圧注型により成形され、固化された複合材料」に含まれる。 引用発明の「粉体の占積率」は、磁芯形状全体積に占める磁性材料体積の比率であるから、本願発明の「前記複合材料の全体積に対して」の「前記複数種の粉末の体積百分率」に相当する。 すると、引用発明の(1)「粉体の占積率が63.8%である」、(2)「粉体の占積率が73.1%である」、(3)「粉体の占積率が61.8%である」ことは、本願発明の「前記複数種の粉末の体積百分率が前記複合材料の全体積に対して60?90vol%である」ことを満足する。 引用発明の「軟磁性粉末A」である「粉体A1」及び「粉体A2」は、(1)「粉体A1は、配合比が80vol%」、(2)「粉体A2は、配合比が60vol%」、(3)「粉体A2は、配合比が80vol%」とあり、三種類の軟磁性粉末のうち最も配合比が大きいから、本願発明の「前記複数種の粉末の大部分を占める第1の粉末」に相当する。 引用発明の「粒度最頻値」は、粒度分布における粒度の最頻値の中央値であるから、粉末の粒径の平均値を意味するという点において、本願発明の「平均粒径」と実質的に差異がない。 そして、引用発明において、(1)「粉体A1」は「粒度最頻値が193μm」であり、「軟磁性粉末」「C」である「粉体C1」は「粒度最頻値が6.7μm」であるから、粉体A1の粒度最頻値に対する粉体C1の粒度最頻値の比率が6.7/193であり、これは、本願発明の「第1の粉末の平均粒径D1に対する第2の粉末の平均粒径D2の比率D2/D1が1/400?1/20の範囲となる」ことを満足するので、引用発明の「軟磁性粉末」「C」である「粉体C1」は、本願発明の「第2の粉末」に相当する。また、引用発明において、(2)及び(3)「粉体A2」は「粒度最頻値が324μm」であり、「粉体C1」は「粒度最頻値が6.7μm」であるから、粉体A2の粒度最頻値に対する粉体C1の粒度最頻値の比率が6.7/324であり、これは、本願発明の「第1の粉末の平均粒径D1に対する第2の粉末の平均粒径D2の比率D2/D1が1/400?1/20の範囲となる」ことを満足するので、引用発明の「軟磁性粉末」「C」である「粉体C1」は、本願発明の「第2の粉末」に相当する。 引用発明において、(1)「粉体C1」は「配合比が10vol%」であり、「粉体の占積率が63.8%である」から、粉体C1が磁芯形状全体積に対して、(10vol%×63.8%≒)約6.4vol%含まれている、(2)「粉体C1」は「配合比が10vol%」であり、「粉体の占積率が73.1%である」から、粉体C1が磁芯形状全体積に対して、(10vol%×73.1%≒)約7.3vol%含まれている、(3)「粉体C1」は「配合比が10vol%」であり、「粉体の占積率が61.8%である」から、粉体Cが磁芯形状全体積に対して、(10vol%×61.8%≒)約6.2vol%含まれていることは、本願発明の「前記第2の粉末が前記複合材料の全体積に対して1.0vol%以上10.0vol%以下含まれている」ことを満足する。 なお、補足すると、本願発明は、文言どおり「複数種の粉末」を含むと解すべきものであって、「第3の粉末」が含まれている(本願の請求項1を引用する請求項2など)、「さらに少量の第3、第4、第5等の粉末が含まれていてもよい」(本願の明細書の【0025】)などとあることから、「第1の粉末」及び「第2の粉末」のみを含むものと限定的に解すべき余地はないので、引用発明の「軟磁性粉末」「B」である「粉体B1」又は「粉体B1」を含む旨の特定は、本願発明と対比するに、相違点とはならない。 以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明である。 5.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-10-18 |
結審通知日 | 2012-10-24 |
審決日 | 2012-11-07 |
出願番号 | 特願2006-14699(P2006-14699) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
WZ
(H01F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小池 秀介、山田 正文 |
特許庁審判長 |
山田 洋一 |
特許庁審判官 |
小松 正 馬場 慎 |
発明の名称 | 複合材料、磁心、線輪部品、および複合材料の製造方法 |