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審決分類 |
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正しない A41D 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正しない A41D 審判 訂正 特126 条1 項 訂正しない A41D |
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管理番号 | 1267902 |
審判番号 | 訂正2011-390136 |
総通号数 | 158 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-02-22 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2011-12-26 |
確定日 | 2012-12-19 |
事件の表示 | 特許第4213194号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第4213194号に係る特許出願は、平成17年8月22日に国際出願され、平成20年11月7日にその特許権の設定登録がされたものであって、平成23年12月26日付け審判請求書による本件訂正審判が請求され、これに対して平成24年1月20日付け訂正拒絶理由通知書を送達したところ、同年2月10日付け意見書が提出されたものである。 そして、上記審判請求書には、別紙1?8及び甲第1号証が添付され、また、上記意見書には、甲第2?5号証が添付されている。 甲第1号証;「辞林21;183,1924頁」、株式会社三省堂、1993年7月10日第2刷発行 甲第2号証;実開平6-76304号公報 甲第3号証;実公平7-17106号公報 甲第4号証;特開2004-203325号公報 甲第5号証;特開2011-226027号公報 別紙1;「図7を示す写真」と題された書面 別紙2;「図7の縫製品 正面写真」及び「図7の縫製品 背面写真」と題された書面 別紙3;「図7の縫製品 右側面写真」及び「図7の縫製品 左側面写真」と題された書面 別紙4;「図7の縫製品 底面写真」と題された書面 別紙5;「図8を示す写真」と題された書面 別紙6;「図8の縫製品 正面写真」及び「図8の縫製品 背面写真」と題された書面 別紙7;「図8の縫製品 右側面写真」及び「図8の縫製品 左側面写真」と題された書面 別紙8;「図8の縫製品 底面写真」と題された書面 2.平成24年1月20日付け訂正拒絶理由通知書 訂正拒絶理由の概要は、以下のとおりである。 「本件訂正は、特許法第126条第1項、第3項又は第4項の規定する要件に違反するから、拒絶すべきものである。」 3.本件訂正の内容 本件訂正は、平成23年12月26日付け審判請求書、並びに、これに添付した、訂正した特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からして、以下の訂正事項aを有するものと認める。なお、上記明細書の段落【0030】の「臀部の下側を覆う後見頃14’」は、上記審判請求書の記載全体の趣旨からして、「臀部の下側を覆う後身頃14’」の誤記と認める。 訂正事項a;段落【0030】の記載につき、「また、図7に示すように、上記臀部ダーツを無くし、前身頃12と後見頃14の間の腰部前側縁22,30による一対のダーツにより、・・・(審決注;「・・・」は、記載の省略を示す。以下、同様。)。」とあるのを、「また、図7に示すように、上記臀部ダーツを無くし、前身頃12に一体に接続された臀部の脇側から臀部の下側を覆う後身頃14’とこの臀部の脇側から臀部の下側よりも臀部の内側を覆う後身頃14の間の腰部前側縁22,30による一対のダーツにより、・・・。」と訂正すると共に、 【図7】につき、図面符合「14’」とそれに伴う引き出し線を、2組、加え、図面符合「24」を「25」とし、更に、図面符合「32」とそれに伴う引き出し線を、2組、削除する。 4.本件訂正の適否 4-1.特許明細書 本件特許に係る特許出願の、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)の記載について検討しておく。なお、本件補正後のこれら特許請求の範囲等を、以下、「本件訂正明細書」という。 1)まず、はじめに、願書に添付した特許請求の範囲、明細書又は図面についての、特許法上の規定について、確認しておく。 特許法は、その第36条第4?6項において、以下のとおりに規定している。 「4 前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。 一 経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。 二 ・・・。 5 第二項の特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない。・・・。 6 第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。 一 特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。 二 特許を受けようとする発明が明確であること。 三 ・・・。」 2)次に、本件特許明細書を検討すると、ここには、以下の記載a?eが認められる。 a;「【特許請求の範囲】 【請求項1】 大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と、この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と、前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し、前記前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置し、前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し、前記大腿部パーツの山の高さを前記足刳り形成部の前側の湾曲深さよりも低い形状とし、前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山の幅を広く形成し、取り付け状態で筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となることを特徴とする下肢用衣料。 【請求項2】 前記後身頃のウエスト部から股部までの長さは、前記前身頃のウエスト部から股部までの長さよりも長く形成され、前記大腿部パーツに大腿部を挿入した状態において、大腿部が前身頃に対して前方に突出した状態で、前記後身頃に大きな張力が掛からない形状であることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。 【請求項3】 前記足刳り形成部は、身体の転子点付近から腸骨棘点付近を通り股底点脇付近に至る湾曲した足刳り部分と、前記転子点付近から股底点脇まで膨らんだ曲線で臀部裾ラインを包み込み、且つ臀部裾部分に密着する形状であることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。 【請求項4】 前記大腿部パーツは、裾部で折り返された1枚の生地の両側縁部が互いに重ねられ、前記前身頃の足刳り形成部と前記後身頃の足刳り形成部とに積層状態で接続され、前記大腿部パーツの折り重ねられた生地同士が相対的に摺動可能に形成されていることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。 【請求項5】 前記大腿部パーツは、股下から踝付近までの間の適宜の長さに形成されていることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。」 b;「【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明は、大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と、この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と、前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し、前記前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置し、前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し、前記大腿部パーツの山の高さを前記足刳り形成部の前側の湾曲深さよりも低い形状とし、前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山の幅を広く形成し、取り付け状態で筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる下肢用衣料である。」 c;「【図面の簡単な説明】 【0012】 【図1】この発明の一実施形態の下肢用衣料の正面図である。 【図2】この実施形態の下肢用衣料の背面図である。 【図3】この実施形態の下肢用衣料の各パーツの展開図である。 【図4】この実施形態の下肢用衣料の使用状態を示す右側面図である。 【図5】この実施形態の下肢用衣料の他の使用状態を示す右側面図である 【図6】この発明の他の実施形態の下肢用衣料の各パーツの展開図である。 【図7】この発明のさらに他の実施形態の下肢用衣料の各パーツの展開図である。 【図8】この発明のさらに他の実施形態の下肢用衣料の各パーツの展開図である。 【符号の説明】 【0013】 10 スパッツ 12 前身頃 14 後身頃 16 股部パーツ 18 大腿部パーツ 20,28 ウエスト部 24,25,32,46 足刳り形成部 36 裾部 40 足付根部 40a 山」 d;「【発明を実施するための最良の形態】 【0014】 以下、この発明の実施形態について図面に基づいて説明する。図1、図2はこの発明の一実施形態を示すもので、この実施形態の下肢用衣料は、ウエストから大腿部の中間付近に達する半ズボン形のスパッツ10である。スパッツ10は、伸縮性を有する編地等の生地で作られている。スパッツ10は、下胴部の前側から両脇までを覆う前身頃12と、下胴部の後側を覆う後身頃14と、前身頃12の下端部の中心と後身頃14の下端部の中心を連結する股部パーツ16から成る。さらに、前身頃12と後身頃14、股部パーツ16で形成され大腿部が挿通する開口部に、大腿部を覆うように筒形に形成された一対の大腿部パーツ18が設けられている。 【0015】 次に各パーツの形状について説明する。図3はスパッツ10を展開した状態を示したものであり、前身頃12は、ウエスト部20と、ウエスト部20の両側の大腿部付け根の腸骨棘点a付近で、ウエスト部20に対してほぼ直角に裁断された腰部前側縁22が設けられている。腰部前側縁22の身体前中央側には、腰部前側縁22の下端部から連続して切り欠かれた一対の足刳り部を形成する足刳り形成部24が各々設けられている。 【0016】 足刳り部は、スパッツ10を縫製したときに大腿部が挿通する開口部となるもので、後述するように、後身頃14にも、その側縁から下端縁に繋がって足刳り形成部25が形成されている。一対の足刳り形成部24は、前身頃12の下端部の中心寄り位置から、ウエスト部20に近づくにつれて互いに離れるように傾斜して形成されている。一対の足刳り形成部24の間の縁部は、股部パーツ16が連結される前股部26となっており、僅かに上方に湾曲する曲線で形成されている。 【0017】 後身頃14は、大きく開いた略V字形に形成された縁部のウエスト部28が設けられ、ウエスト部28の中央にV字状に切除されたウエストダーツ29が設けられ、ウエスト部28の両端から、ウエスト部28に対してほぼ直角に離れる方向に延出するほぼ直線の腰部前側縁30が設けられている。腰部前側縁30は、前身頃の腰部前側縁22と等しい長さで、ウエスト部28から離れるに従い、僅かに互いに離れるほうへ広がっている。 【0018】 腰部前側縁30の下端には、後身頃14の下端へ向かう足刳り形成部25が形成され、足刳り形成部25の身体中央側端には、V字状に切除された臀部ダーツ31が設けられている。臀部ダーツ31の身体中央側端には、足刳り形成部32が一対設けられている。足刳り形成部32は、スパッツ10を縫製したときに前身頃12の足刳り形成部24に連続して大腿部が挿通する開口部を形成するものである。 【0019】 一対の足刳り形成部32の間は、股部パーツ16が連結される後股部34であり、僅かに上方に湾曲する曲線で形成されている。そして、後身頃14のウエスト部28から後股部34までの長さは、前身頃12のウエスト部20から前股部26までの長さよりも長く形成されている。足刳り形成部24,25により形成される足繰りの形状は、ウエスト部20に一番近いところを頂点とする略三角形状であり、ウエスト部20に近い頂点は丸く湾曲して設けられている。 【0020】 大腿部パーツ18は、僅かに内側に湾曲する曲線で形成された裾部36が設けられ、裾部36の両端部から裾部36に対してほぼ直角に離れる方向に延出するほぼ直線の大腿部後側縁38が形成されている。各大腿部後側縁38間の、裾部36とは反対側の縁部には、外側になだらかに膨出する山40aが形成された足付根部40が設けられている。足付根部40は、スパッツ10を縫製したときに前身頃12の足刳り形成部24、後身頃14の足刳り形成部25,32、股部パーツ16も足刳り形成部46が連続して形成する開口部に縫い合わされるものである。足付根部40の山40aの縁部は、前身頃12の足刳り形成部24と等しい長さに形成され、足刳り形成部24に縫い合わされる部分である。ここで、足付根部40の、足刳り形成部24,25に取り付ける山40aの高さをh1とし、足刳り形成部24,25の湾曲深さをh2とすると、h1はh2よりも低い形状である。また、足付根部40の山の幅をw1とし、足刳り前部24,25の湾曲部分の幅をw2とすると、互いに縫い付けられる同じ位置間で、w1はw2よりも広い形状となっている。 【0021】 股部パーツ16は、一方向に長い略鼓状に形成され、長手方向の一端部は前身頃12に連結される前身頃連結部42であり、長手方向の他端部は後身頃14に連結される後身頃連結部44である。いずれも外側に湾曲する曲線で設けられている。股部パーツ16の長手方向に沿う両側縁部は、足刳りの一部を形成し大腿部パーツ18に連結される足刳り形成部46であり、内側に湾曲する曲線で設けられている。股部パーツ16は、前身頃連結部42よりも後身頃連結部44が長くなるように、後身頃連結部44に近づくほど足刳り形成部46が徐々に離れて幅広に形成されている。 【0022】 そして、後見頃14の足刳り形成部25,32及び股部パーツ16の足刳り形成部46の股底点までの型紙での長さが、人体上の長さで転子点bからヒップ裾ラインを通り股底点脇に至るまでの長さよりも短いものである。」並びに【図1】?【図5】 e;「【0029】 なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、図6に示すような各パーツ形状でも良い。この実施形態の下肢用衣料もスパッツについてのもので、互いに対称に2分された形状の後見頃48,49を有し、ウエスト部にウエストパーツ50を設けたものである。そして、上記実施形態の臀部ダーツを無くし、後見頃48,49の上端縁中央付近とウエストパーツ50の中央下部との間の一対のダーツにより、臀部の形状を立体的に形成している。これにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができ、さらに、ウエストパーツ50に張力の強い生地を用いることにより、腰部のホールド感を向上させることができる。 【0030】 また、図7に示すように、上記臀部ダーツを無くし、前身頃12と後見頃14の間の腰部前側縁22,30による一対のダーツにより、臀部の形状を立体的に形成しても良い。さらに、前身頃12の側縁部に張力の強い素材を使うことで、ヒップホールドとヒップアップ効果を持たせることが出来る。 【0031】 さらに、図8に示すような展開図形状のものでも良い。この実施形態では、上記臀部ダーツとウエストダーツを繋いで、前身頃12と後見頃14の1本の切り替えラインにすることで、上記実施形態と同様の効果を得ることができるとともに、より多くの臀部部分のゆとりを自然な形状で持たせることができる。」並びに【図6】?【図8】 3)先に「1)」で確認した特許法の規定を踏まえると、記載a?eやその他の記載からして、本件特許明細書には以下の事項A?Cが記載されている、と善良な第三者である当業者(以下、単に「当業者」という。)は理解するものである。 A;【請求項1】に記載されている事項から把握される下肢用衣料を、請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明」という。)とし、該発明においては、上記事項が、特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項、いわゆる、発明特定事項、のすべてである。 また、特許出願人が特許を受けようとする発明は、【請求項1】に記載されている事項を、少なくとも、有するものである。(記載a) B;発明の詳細な説明には、【課題を解決するための手段】との見出しの下、「本発明」として、本件特許発明が記載されている。(記載b) C;発明の詳細な説明には、【図1】?【図5】を参照して、下肢用衣料に係る「この発明」の実施形態(以下、「実施形態【図3】」という。)が記載され、更に、該実施形態の他、【図6】を参照した実施形態(以下、「実施形態【図6】」という。)、【図7】を参照した実施形態(以下、「実施形態【図7】」という。)、及び、【図8】を参照した実施形態(以下、「実施形態【図8】」という。)が記載されている。そして、これら実施形態のなかでは、実施形態【図3】について最も紙面を割いて詳細に説明されている。(記載c?e) 4)そこで、本件特許明細書における発明の詳細な説明の記載を詳しく見ていくことにする。 実施形態【図3】については、記載dに記載され、該記載によれば、下肢用衣料を、それを構成する各パーツから説明していることは明らかで、「前身頃」は、図面符合「12」で指示されており、同じく、「後身頃」、「股部パーツ」及び「大腿部パーツ」は、それぞれ、「14」、「16」及び「18」で指示され、これら図面符合は、それぞれ、ほぼ、実線で区劃された範囲のものを指していることが見て取れるから、「前身頃」や「後身頃」は、「股部パーツ」や「大腿部パーツ」と同じく、下肢用衣料を構成するパーツであって、「前身頃」は、図面符合「12」で指示された実線で区劃された範囲のもので、「後身頃」も、同様に、「14」で指示された範囲のものと解することができる。 また、実施形態【図6】、実施形態【図7】及び実施形態【図8】については、先に「3)」で述べた事項Cから明らかなように、実施形態【図3】に比して簡潔に記載され、特に、実施形態【図7】については、記載eの段落【0030】に、「前身頃12と後見頃14の間の腰部前側縁22,30による一対のダーツにより、臀部の形状を立体的に形成しても良い」旨、及び「前身頃12の側縁部に張力の強い素材を使うことで、ヒップホールドとヒップアップ効果を持たせることが出来る」旨の2つの事柄が記載されているだけで、その詳細については、【図7】を参照していることが窺え、このようなことは、実施形態【図6】や実施形態【図8】についても、同様である。 そこで、記載eを参照しつつ、【図1】?【図5】の特に【図3】と、【図6】?【図8】を見ると、実施形態【図6】における「後身頃」を図面符合「48」と「49」で指示している点を除けば、実施形態【図6】、実施形態【図7】及び実施形態【図8】における「前身頃」と「後身頃」は、先に検討した実施形態【図3】と、ほぼ、同様に、図面符合「12」と「14」で指示された実線で区劃された範囲のものと解することができ、このように解することに、格別、不都合な点は見当たらない。なお、【図7】に記載の図面符合「32」で指示されている箇所については、図面符合「12」で指示される「前身頃」の帯状部分、すなわち、【図7】左右において下方に垂下する2つの帯状部分(以下、「本件帯状部分」という。)の両外側縁と連結される箇所で、足刳り形成部を形成するものではないと解せるのに対し、実施形態【図3】の説明において、図面符合「32」で指示されている箇所は、記載dによれば、「足刳り形成部」と説明されており、この点、記載上、不明りょうといえるものの、この点を除けば、実施形態【図7】は、不都合無く、理解できることから、上記の図面符合「32」は、誤記と解するのが自然である。 そして、実施形態【図7】における図面符合「32」は、上述したように、誤記と解するのが自然であることを踏まえると、実施形態【図7】では、図面符合「14」で指示された実線で区劃された範囲のものに、前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部に相当する部位が見当たらないことが見て取れる。 4-2.訂正事項aについて 訂正事項aは、先に「3.」で認定したとおりであるが、詳しく検討すると、その要点は、以下の訂正要点a及びbにあるということができる。 訂正要点a;【図7】の図面符合「12」で指示された実線で区劃された範囲内にある本件帯状部分を、「後身頃」の構成部分とする。 訂正要点b;【図7】の図面符合「32」とそれに伴う引き出し線を、2組、削除する。 そこで、この訂正要点aについて、検討していく。 4-2-1.目的について 訂正要点aは、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、或いは、明りようでない記載の釈明のいずれかを目的にしている、とする根拠は見当たらない。 これに対し、請求人は、審判請求書において、誤記の訂正、或いは、明りようでない記載の釈明を目的にしていると主張するが、以下に述べることから、採用できないものである。 1)訂正要点aは、本件特許明細書の発明の詳細な説明における段落【0030】及び【図7】の記載についてのものである。 その一方で、これら段落及び図面の記載については、先に「4-1.」の「4)」で検討したように、実施形態【図7】が記載され、この実施形態における「前身頃」及び「後身頃」について検討しても、同じく「4)」で検討したように、「前身頃」が図面符合「12」で指示された実線で区劃された範囲のものを指していること、そして、「後身頃」が、同様に、図面符合「14」で指示されたものを指していることは、何等、不都合無く理解できるもので、不明りょうな記載や誤記の存在は見当たらず、逆に、本件帯状部分が「後身頃」の構成部分であるとは、到底、窺い知ることはできないというべきである。 してみると、上記「前身頃」及び上記「後身頃」に係る段落【0030】及び【図7】記載に、不明りょうな記載や誤記の存在を見ることはできない以上、訂正要点a、すなわち、【図7】の図面符合「12」で指示された実線で区劃された範囲内にある本件帯状部分を「後身頃」の構成部分とすることが、誤記の訂正、或いは、明りようでない記載の釈明を目的にしているということはできない。 なお、訂正要点bについては、同じく「4)」で検討したように、【図7】における図面符合「32」に関する記載は、誤記と解するのが自然であることから、誤記の訂正を目的にしているといえるが、このことが、訂正要点aについての判断を左右するものではない。 2)これに対し、請求人は、平成24年2月10日付け意見書において、要するに、実施形態【図7】が本件特許発明を具体化したものであることは、本件特許明細書の記載から明らかであって、そうした場合、発明の詳細な説明における段落【0030】及び【図7】の記載では、本件特許発明の発明特定事項である「後身頃の足刳り形成部」に関し、不明りょうさが生じるといい、訂正要点aは、この不明りょうさを釈明するものと主張するが、以下に述べることから、妥当な主張とはいえない。 2-1)本件特許発明は、本件特許明細書の請求項1に記載された事項により特定されるもので、同項の記載は、以下のとおりのものと認める。 「大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と、この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と、前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し、前記前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置し、前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し、前記大腿部パーツの山の高さを前記足刳り形成部の前側の湾曲深さよりも低い形状とし、前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山の幅を広く形成し、取り付け状態で筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となることを特徴とする下肢用衣料。」 そこで、この記載を検討すると、本件特許発明は、「大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と、この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と・・・を有し、」との発明特定事項を有し、後身頃は、前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有していると、特定されている。 これに対し、実施形態【図7】を記載する段落【0030】には、先に「4-1.」の「4)」で検討した2つの事柄だけが記載され、そして、上記「4)」で検討したように、実施形態【図7】の図面符合「14」で指示された実線で区劃された範囲のものには、足刳り形成部に相当する部位が見当たらないことが見て取れるから、当業者は、実施形態【図7】を、少なくとも、図面符合「14」で指示された実線で区劃された範囲のもの、すなわち、「後身頃」に足刳り形成部を有していない実施形態と理解し、併せて、本件特許発明の「後身頃は、前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有している」との発明特定事項を満たしていないと理解するものである。 2-2)そこで検討するに、特許法は、先に「4-1.」の「1)」で述べたように、その第36条第6項において、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明の記載との関係については、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」に適合するものでなければならない、とのみ規定しており、本件特許明細書でいえば、本件特許発明が、少なくとも、発明の詳細な説明に記載されていれば、事足りると規定し、必ずしも、発明の詳細な説明に記載の発明の実施形態が、本件特許発明の実施形態であることを要件とはしていない。 してみると、実施形態【図7】が、本件特許発明の発明特定事項を満たしていないことに何等の不合理な点はなく、そして、発明の詳細な説明において、これまで述べたように、段落【0030】や【図7】の記載に実質的に不明りょうな点がないことに照らせば、尚更のこと、当業者は、実施形態【図7】が本件特許発明の発明特定事項を満たしていないことが不明りょうであるとは解さないものである。 4-2-2.実質変更・拡張について 訂正要点aは、以下に述べるように、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものである。 1)本件特許明細書の請求項1の記載は、先に「4-2-1.」の「2-1)」で認定したとおりであって、同項の記載自体は、本件訂正によって訂正されていないことは明らかで、同項に記載された事項により特定される発明、すなわち、本件特許発明は、本件訂正の前後においても、「前身頃」及び「後身頃」を、発明特定事項としているものである。 2)次に、本件訂正前の本件特許発明について検討すると、本件特許明細書の記載全体からして、先に「4-1.」の「4)」で述べたように、該本件特許発明の「前身頃」は、実施形態【図3】、実施形態【図7】及び実施形態【図8】でいえば、図面符合「12」で指示された実線で区劃された範囲のもので、「後身頃」も同様に、「14」で指示された範囲のものと解することができるものである。 3)これに対し、本件訂正の、特に訂正要点aにより、【図7】の図面符合「12」で指示された実線で区劃された範囲内にある本件帯状部分が、「後身頃」の構成部分となり、本件訂正後の本件特許発明の「前身頃」は、【図7】を参照した実施形態でいえば、図面符合「12」で指示された実線で区劃された範囲から上記本件帯状部分を除いた範囲のものということになり、本件特許発明の発明特定事項である「前身頃」の技術的内容が変更されており、併せて、「後身頃」の技術的内容も実質的に変更されている。 また、実施形態【図7】、すなわち、【図7】を参照した実施形態が、本件特許発明の発明特定事項を満たしていないのは、先に「4-2-1.」の「2-2)」で述べたとおりであって、本件特許発明の技術的範囲外のものであったが、本件訂正後では、【図7】を参照した実施形態は、本件特許発明の技術的範囲内のものとなっており、特許請求の範囲は、拡張、又は変更されている。 4-2-3.まとめ 訂正要点aは、特許請求の範囲の減縮、誤記又は誤訳の訂正、或いは、明りようでない記載の釈明のいずれかを目的にしている、とする根拠は見当たらず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるから、訂正要点aを有する本件訂正は、特許法第126条第1項又は第4項に規定する要件に合致しない。 5.結び 本件訂正は、特許法第126条第1項又は第4項に規定する要件に合致しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-02-20 |
結審通知日 | 2012-02-22 |
審決日 | 2012-03-06 |
出願番号 | 特願2007-514943(P2007-514943) |
審決分類 |
P
1
41・
854-
Z
(A41D)
P 1 41・ 85- Z (A41D) P 1 41・ 855- Z (A41D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渋谷 善弘 |
特許庁審判長 |
鈴木 由紀夫 |
特許庁審判官 |
▲高▼辻 将人 瀬良 聡機 |
登録日 | 2008-11-07 |
登録番号 | 特許第4213194号(P4213194) |
発明の名称 | 下肢用衣料 |
代理人 | 鈴江 正二 |
代理人 | 木村 俊之 |
代理人 | 渡辺 容子 |
代理人 | 渡辺 容子 |
代理人 | 吉村 哲郎 |
代理人 | 吉村 哲郎 |
代理人 | 木村 俊之 |
代理人 | 鈴江 正二 |