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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B01D
管理番号 1267931
審判番号 不服2011-9877  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-11 
確定日 2012-12-26 
事件の表示 特願2006-529430「薄膜蒸発器」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月 7日国際公開,WO2005/030358,平成19年 3月29日国内公表,特表2007-507329〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は,2004年10月1日(パリ条約による優先権主張 2003年10月2日 オーストリア国)を国際出願日とする出願であって,平成22年12月28日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,平成23年5月11日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がされた。
平成23年6月2日付けで審査官の前置報告がされ,当審により請求人に対して平成23年10月18日付けで当該前置報告を踏まえた審尋を行ったところ,請求人から平成24年4月25日付けで回答書の提出があった。

2.平成23年5月11日付けの手続補正についての却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年5月11日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(1)本件補正後の本願発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりに補正された。
「【請求項1】
垂直ドラム(1)と,
該ドラム(1)の上部領域に配置されて蒸発対象となる媒体を供給するために使用される供給ライン(4)と,
前記ドラムの外面上に配置されて蒸気を生じる加熱ジャケット(3)と,
前記ドラムの下端部に残留した残留物を排出するための排出ライン(20)と,
冷媒が供給され,前記ドラム(1)の中心領域に配置される凝縮器(11)と,
上部から前記ドラム(1)内に導入される蒸発対象となる媒体に対して前記ドラムのジャケットに沿って内部を移動可能なワイピング装置(5,6)と,を備え,
分離容量の向上,エネルギーの節約,及び,蒸発処理中に化学反応を可能にすること又は加速することに関して薄膜蒸発器の作動に影響する内部装置(14,24,27,34)が,前記凝縮器(11)への前記加熱ジャケット(3)からの蒸気通路に設けられ,前記内部装置(14,24,27,34)が,前記凝縮器(11)と前記ワイピング装置(5,6)との間に設けられることを特徴とする,薄膜蒸発器。」

本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された薄膜蒸発器に対して,「ワイピング装置」を付加して限定すると共に,「凝縮器」について「ドラムの中心領域に配置され」るなる事項を付加して限定し,「内部装置」について「分離容量の向上,エネルギーの節約,及び,蒸発処理中に化学反応を可能にすること又は加速することに関して」薄膜蒸発器の作動に影響するものであること及び「凝縮器とワイピング装置との間に設けられる」ものであることを付加して限定するものであって,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)刊行物
ア. 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開平6-182101号公報(以下「刊行物1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
・「【産業上の利用分野】本発明は,凝縮器内蔵の立形遠心薄膜蒸発器の構造に関するものである。」(段落【0001】)
・「以下,本発明の一実施例を図1に示す。図1において,立形の円筒胴1の外部には被処理液を加熱するための加熱ジャケット2が設けて有る。円筒胴1の内部には回転する中空軸3に取り付けられた翼4があり,さらに中空軸3の内部には凝縮器5が内蔵されている。
被処理液は原料入り口6から供給され分配器7によって円筒胴1周方向に分配され,回転する中空軸3に取り付けられた翼4によって薄膜にされ円筒胴1の内面を流下する。流下する液膜は加熱ジャケット2の熱媒入り口8から供給される熱媒によって加熱され,蒸発が起こる。
蒸発した蒸気は中空軸3の開口部9を通って凝縮器5に導かれる。蒸気は凝縮器5に冷媒入り口10から供給される冷媒によって冷却・凝縮され凝縮液出口11より系外へ導かれる。一方,蒸発せず残った液は濃縮液出口12より系外へ導かれる。
この,立形遠心薄膜蒸発器の回転する中空軸3の下部には中空軸3の内側に固定された軸受け摺動材14が設けてあり,固定側の円筒状のサポ-ト13の外面と円環状の摺動材14の内面が摺動する。
これによって翼4が取り付けられている中空軸3を支持する軸受が構成される。」(段落【0008】?【0012】)

ところで,刊行物1について次のことが明らかである。
・「原料入り口6」は,円筒胴1の上部領域に配置されており,被処理液を供給するために使用されるものである。
・「加熱ジャケット2」は,円筒胴1の外面上に配置されており,蒸気を生じさせるためのものである。
・「濃縮液出口12」は,円筒胴1の下端部に配置されており,蒸発せず残った液を排出するためのものである。
・「凝縮器5」は,円筒胴1の中心領域に配置されており,これに冷媒が供給される。
・「翼4」は,上部から円筒胴1内に導入される被処理液に対して円筒胴1の加熱ジャケット2に沿って内部を移動可能なものである。
・「開口部9を有する中空軸3」は,凝縮器5への加熱ジャケット2からの蒸気通路に設けられており,凝縮器5と翼4との間に設けられている。

以上から,刊行物1には,次の発明(以下「刊行物1記載の発明」という。)が開示されていると認める。
「立形の円筒胴1と,該円筒胴1の上部領域に配置されて被処理液を供給するために使用される原料入り口6と,前記円筒胴1の外面上に配置されて蒸気を生じる加熱ジャケット2と,前記円筒胴1の下端部に蒸発せず残った液を排出するための濃縮液出口12と,冷媒が供給され,前記円筒胴1の中心領域に配置される凝縮器5と,上部から前記円筒胴1内に導入される被処理液に対して前記円筒胴1の加熱ジャケット2に沿って内部を移動可能な翼4と,を備え,開口部9を有する中空軸3が,前記凝縮器5への前記加熱ジャケット2からの蒸気通路に設けられ,前記中空軸3が,前記凝縮器5と前記翼4との間に設けられる薄膜蒸発器。」

イ. 同じく拒絶の理由に引用文献4として引用された,実願昭49-38358号(実開昭50-128328号)のマイクロフィルム(以下「刊行物2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。
・「本考案は遠心薄膜蒸発器に関するものである。」(明細書1頁8行)
・「以下本考案の実施例によって詳しく説明する。両端を閉塞した円筒1にはジャケット2を設け,ジャケット2には熱媒出入口6,7より熱媒を導入し,円筒1を加熱するようになっている。3は処理液の入口,4は濃縮された液の出口,5は蒸発物の出口である。10は回転軸9上に半径方向に延びるように取付けられた羽根,11は隣接する羽根10の間に装着された充填体,8は液を円筒1内面に均一に分配する分配器である。
液入口3より導入された処理液は,羽根10により円筒1の内面に薄膜を形成しジャケット2内の熱媒により加熱され蒸発するが,発泡性液の場合は蒸発により泡が発生する。
発生した泡は蒸気の流れにつれられて充填体11へと導びかれるが,充填体11内に入ると同時に泡を形成している液と泡の中の蒸気とに分離される。分離された液滴は遠心力により加速され,再び円筒1内面に薄膜を形成し加熱される。一方蒸気は充填体11内部を通過する間に微細な液滴もさらに分離され,蒸発物出口5へと導びかれる。
以上説明したごとく本考案によれば,従来遠心薄膜蒸発器のはげしい蒸発力により発泡するために処理することが困難であった液体も,羽根の間に充填体を設け,充填体に消泡および気液分離作用を行なわせることによって処理が可能となる。」(明細書2頁18行ないし4頁2行)

(3)本願補正発明と刊行物1記載の発明の対比
両発明を対比すると,刊行物1記載の発明の「立形の円筒胴1」は,本願補正発明の「垂直ドラム(1)」に相当する。以下,同様に,「被処理液」が「蒸発対象となる媒体」に,「原料入り口6」が「供給ライン(4)」に,「蒸発せず残った液」が「残留した残留物」に,「濃縮液出口12」が「排出ライン(20)」に,「翼4」が「ワイピング装置(5,6)」に,それぞれ相当する。
また,本願補正発明の「内部装置(14,24,27,34)」と刊行物1記載の発明の「開口部9を有する中空軸3」とは,ともに蒸発器内部に存在する装置という限りにおいて「内部装置」と言うことができる。

そうすると,両発明の一致点,相違点は次のとおりである。
(一致点)
「垂直ドラム(1)と,該ドラム(1)の上部領域に配置されて蒸発対象となる媒体を供給するために使用される供給ライン(4)と,前記ドラムの外面上に配置されて蒸気を生じる加熱ジャケット(3)と,前記ドラムの下端部に残留した残留物を排出するための排出ライン(20)と,冷媒が供給され,前記ドラム(1)の中心領域に配置される凝縮器(11)と,上部から前記ドラム(1)内に導入される蒸発対象となる媒体に対して前記ドラムのジャケットに沿って内部を移動可能なワイピング装置(5,6)と,を備え,内部装置が,前記凝縮器(11)への前記加熱ジャケット(3)からの蒸気通路に設けられ,前記内部装置が,前記凝縮器(11)と前記ワイピング装置(5,6)との間に設けられる薄膜蒸発器。」

(相違点)
内部装置について,本願補正発明では「分離容量の向上,エネルギーの節約,及び,蒸発処理中に化学反応を可能にすること又は加速することに関して薄膜蒸発器の作動に影響する」ものとされているのに対して,刊行物1記載の発明では,そのような影響をするものとは特定されていない点。

(4) 相違点についての判断
ア. 刊行物1記載の発明の「開口部9を有する中空軸3」は,凝縮器5への加熱ジャケット2からの蒸気通路に設けられ,中空軸3が,凝縮器5と翼4との間に設けられている。開口部9は,図1からも明らかに鉛直方向に多数の開口が断続していることが見て取れるものである。
この「開口部9を有する中空軸3」,とくにその「開口部9」について,刊行物1にその機能ないし作用について直接的な説明はないものの,この開口部9を通って蒸気が凝縮部5に導かれることから,明らかに薄膜蒸発器の作動に影響を与えるものである。すなわち,開口部9を有する中空軸3の存在によって,当業者は,開口部9よりも大きな被処理液が凝縮器5に到達しない,といった作用を認識し得るのであり,これは,本願補正発明でいう「分離容量」の向上に資するような影響を与えるものと評価できる。
そうしてみると,上記相違点は,実質的なものではない。
したがって,本願補正発明は,刊行物1記載の発明と同一といえるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
イ.(ア)ところで,刊行物2には,充填体11が存在し,これも内部装置と言うことができる。
この充填体11は,ジャケット側から流れてくる蒸気と接触するように羽根10の間に設けられていて,消泡及び気液分離作用をなすものとされているが,これは,表面を増加させることにもなるから,分離容量を増加させるものと評価できる(請求人が提出した「回答書」の「内部装置が,例えば充填材料で充填される物質移動領域として適切に設計されることが示されており(段落[0014]),このような充填材料が表面を増加させ,分離容量を増加させます。」なる記載を参照。)。また,気液分離作用とは,蒸気に含まれた液滴を分離し,遠心力により加熱壁面に戻す作用のことであるから,この点からも,分離容量を増加させるものと評価できる。
刊行物2に記載された薄膜蒸発器では,蒸気はそのまま蒸発物出口5から導出されるのだが,この蒸気は,外部の凝縮器で最終的に冷却されて液体とされるのが通常である(ちなみに,本願の図2,図4,図6,図20に示された実施の形態もそのようになっている。)。そして,凝縮器を薄膜蒸発器内に存在させてもよいことは,刊行物1記載の発明のものをはじめ,原審での拒絶の理由に引用文献2,3として挙げられた特開昭60-82101号公報や特表平7-500091号公報などにあるように,周知の技術的事項である(ちなみに,本願の図1,図3,図5,図19に示された実施の形態もそのようになっている。)。
(イ)薄膜蒸発器の分野において,蒸発対象となる媒体からできるだけ多くの媒体を蒸発させることは,当業者にとって自明の課題と言うべきであり,刊行物1記載の発明においてもそのような課題があると解せる。
また,前述したように,薄膜蒸発器には,凝縮器が内部にある形式のものとそうでない形式のものとが存在するが,そのどちらの形式を採用するかは,当業者にとって適宜なし得ることである。
そうしてみると,凝縮器が内部にない形式である刊行物2に記載された薄膜蒸発器における充填体を,凝縮部が内部にある形式の薄膜蒸発器に係る刊行物1記載の発明に付加しようとすることは,当業者が容易に着想し得ることである。
すなわち,刊行物1記載の発明では,加熱ジャケット側から流れてくる蒸気は,翼4と凝縮器5との間に設けられた中空軸3を通って凝縮器5へと移動するのであるが,この蒸気の移動経路に刊行物2に記載された充填体を設けることは,当業者にとって格別の創作能力を要することとはいえない。
したがって,刊行物1記載の発明において,上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは,当業者にとって想到容易である。
しかも,本願補正発明により得られる効果は,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の技術的事項及び周知の技術的事項から予測される以上の格別顕著なものではない。
よって,本願補正発明は,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の技術的事項及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成23年5月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願の各請求項に係る発明は,平成22年6月14日付け誤訳訂正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載されたとおりのものであるところ,請求項1には次のとおり記載されている。
「【請求項1】
垂直ドラム(1)と,
該ドラム(1)の上部領域に配置されて蒸発対象となる媒体を供給するために使用される供給ライン(4)と,
前記ドラムの外面上に配置されて蒸気を生じる加熱ジャケット(3)と,
前記ドラムの下端部に残留した残留物を排出するための排出ライン(20)と,
冷媒が供給される凝縮器(11)と,
任意にワイピング装置(5,6)と,を備え,
任意のワイピング装置(5,6)に加えて薄膜蒸発器の作動に影響する内部装置(14,24,27,34)が,前記凝縮器(11)への前記加熱ジャケット(3)からの蒸気通路に設けられ,前記内部装置(14,24,27,34)が,前記ドラム内に設けられることを特徴とする,薄膜蒸発器。」(以下,「本願発明」という。)

(2)刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物,それに記載された事項及び刊行物1記載の発明は,前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は,前記「2.(1)」で検討したように,本願補正発明から「ワイピング装置」を省き,「凝縮器」及び「内部装置」についての前記限定事項を省いたものに相当する。ここで,「ワイピング装置(5,6)」について「任意に」と,「内部装置(14,24,27,34)」について「任意のワイピング装置(5,6)に加えて」と,の文言が存在するが,これらは発明を限定する表現ではないので,「ワイピング装置(5,6)」は,本願発明の発明特定事項ではない。
そうすると,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が,前記「2.(3)」「2.(4)」に記載したとおり,刊行物1記載の発明と同一,あるいは,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の技術的事項及び周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も同様の理由により,刊行物1記載の発明と同一,あるいは,当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-18 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-13 
出願番号 特願2006-529430(P2006-529430)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B01D)
P 1 8・ 575- Z (B01D)
P 1 8・ 113- Z (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 吾一  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 井上 茂夫
田村 耕作
発明の名称 薄膜蒸発器  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  
代理人 村山 靖彦  
代理人 志賀 正武  
代理人 志賀 正武  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 実広 信哉  

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