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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1267939
審判番号 不服2011-20235  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-20 
確定日 2012-12-25 
事件の表示 平成11年特許願第305635号「シリコーン組成物、それらの製造法及びシリコーンエラストマー」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 5月 9日出願公開、特開2000-129132〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成11年10月27日(パリ条約による優先権主張 平成10年10月28日、米国(US))の出願であって、平成22年2月8日付けで拒絶理由が通知され、同年8月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年5月13日付けで拒絶査定がなされた。それに対して、平成23年9月20日に拒絶査定不服審判請求がなされ、同年11月4日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2 本願発明
本願請求項1?3に係る発明は、平成22年8月2日提出の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものであり、請求項1、2に係る発明(以下、「本願発明」及び「本願発明2」という。)については以下のとおりである。

「【請求項1】 以下の成分(A)?(E)を含むシリコーン組成物であって、硬化により、-65℃の貯蔵弾性率の、20℃の貯蔵弾性率に対する比率が、5未満であるエラストマーを形成する、シリコーン組成物。
(A) 1分子当たり平均2個以上のケイ素に結合したアルケニル基を有するポリジオルガノシロキサン100重量部;
(B) 数平均分子量が2,000?5,000であり、かつR^(3)_(2)R^(4)SiO_(1/2)単位とSiO_(4/2)単位とを含む有機ポリシロキサン樹脂であって、各R^(3)が独立して脂肪属不飽和基を含まない一価炭化水素基及び一価ハロゲン化炭化水素基から選択され、R^(4)がR^(3)及びアルケニル基から選択され、またR^(3)_(2)R^(4)SiO_(1/2)単位のSiO_(4/2)単位に対するモル比が0.6:1?1.1:1であり、樹脂中に平均2.5?7.5モル%のアルケニル基を含む有機ポリシロキサン樹脂75?150重量部;
(C) 成分(A)及び(B)中のアルケニル基1個当たり1?3個のケイ素に結合した水素原子を供給できる量の1分子当たり平均3個以上のケイ素に結合した水素原子を有する有機水素ポリシロキサン;
(D) 基材に対する組成物の接着を生じさせる量の接着促進剤;及び
(E) 組成物を硬化させる量のヒドロシリル化触媒」
「【請求項2】 アルミナ、窒化ほう素、窒化アルミニウム及び溶融シリカから選択される無機充填剤をさらに含む請求項1記載の組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の理由とされた、平成22年2月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-3の概要は以下のとおりである。
「(理由1)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(理由2)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
(理由1、2)
・請求項 1-3
・引用文献等 1
・備考
R_(3)SiO_(1/2)シロキサン単位およびSiO_(4/2)シロキサン単位から実質的になるアルケニル官能シロキサン樹脂であって少なくとも1個のR基がアルケニル基であるという条件で各Rが独立に炭素原子数1?6の1価炭化水素基でありSiO_(4/2)単位ごとに0.5?1.5個のR_(3)SiO_(1/2)単位が存在し0.01?22重量%のアルケニル官能基を含む樹脂、分子当たりケイ素に結合した水素原子を平均して少なくとも2個有し0.8?2,000mm^(2)/sの粘度を有するSiH含有ポリオルガノシロキサン、当該組成物の硬化を促進させるのに十分な量のヒドロシリル化触媒、分子当たり少なくとも2個のエチレン性またはアセチレン性不飽和基を有し100?80,000mm^(2)/sの粘度を有するポリジオルガノシロキサン、当該組成物を室温で安定にするのに十分な量の抑制剤の混合物を含む1液型付加硬化性シリコーン接着剤組成物に係る発明が記載されており、具体的に、実施例では、当該樹脂として、数平均分子量が2900およびビニル基が2.9モル%程度のものを使用すること、また、接着促進剤、無機充填剤等を添加使用することも記載されている。
したがって、本願請求項1-3に記載の各発明は、引用文献1に記載の発明と同一であり、引用文献1に記載の発明に基づき、当業者が容易に発明しうるものである。
(引用文献1:特に、特許請求の範囲、【0009】?【0030】、実施例)

(理由3)
この出願は、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。



・請求項 1-3
・備考
(3.1)

(3.2)
【0068】、【0070】に記載のとおり、無機充填剤の平均粒径およびその配合量を規定する必要がある。
したがって、請求項2の記載内容は、技術的に十分に裏付けられていないものを包含する。
(3.3)
また、【0070】は充填剤を添加することによる組成物の粘度に係る事項が記載されているところ、実施例2は、【0070】に記載の粘度の範囲外のものであるにもかかわらず、本願発明に係る課題を解決しうるものである。
そうしてみると、【0070】の記載内容と実施例2の記載内容は、技術的に矛盾するものである。
引 用 文 献 等 一 覧

1.特開平10-121025号公報」


また、平成23年5月13日付けの拒絶査定には以下の記載がある。
「この出願については、平成22年 2月 8日付け拒絶理由通知書に記載した理由1-3によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書並びに手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考
出願人は、平成22年8月2日付け意見書において、上記拒絶理由通知で引用した引用文献1には、『硬化により、-65℃の貯蔵弾性率の、20℃の貯蔵弾性率に対する比率が、5未満であるエラストマーを形成する』ことが記載も示唆もされていない旨主張する。
確かに出願人が主張するとおり、引用文献1には、上記特定の貯蔵弾性率の比率に係る事項が記載されていないものの、引用文献1に記載の付加硬化型シリコーン接着剤組成物は、本願発明に係る(A)?(E)成分を本願発明と同程度の割合で含有する組成物であり、さらに、本願明細書の比較例4は、溶融シリカの含有量が明らかではないものの上記貯蔵弾性率の比率を満足する実施例2に対して溶融シリカを多量(238重量部)に含有した場合において本願発明に係る上記特定の貯蔵弾性率の比率を満たさないことを実証するもの(充填剤の配合量によって特定の貯蔵弾性率の比率が左右されることを実証するもの)にすぎない。
そうしてみると、多量の充填剤を含有せず(接着剤に供する組成物であれば、通常、本願明細書に記載の比較例4のように多量の溶融シリカを使用しないことは明白である。)、かつ本願発明に係る(A)?(E)成分を同程度の割合で含有する引用文献1に記載の付加硬化型シリコーン接着剤組成物を硬化してなる硬化物は、本願発明に係る特定の貯蔵弾性率の比率を満たすものであって、少なくとも、引用文献1に記載の付加硬化型シリコーン接着剤組成物と本願発明に係るシリコーン組成物は、物として区別が付かず、当該貯蔵弾性率の比率に係る事項の記載の有無は、実質的な相違点ではない。
したがって、本願請求項1-3に記載の各発明は、依然として、引用文献1に記載の発明と同一か、引用文献1に記載の発明に基づき、当業者が容易に発明しうるものである。

よって、本願発明は、依然として、特許法第29条第1項第3号または特許法第29条第2号の規定により、特許を受けることができない。

なお、仮に、引用文献1に記載の付加硬化型シリコーン接着剤組成物が本願発明に係る特定の貯蔵弾性率の比率を満足しないものだとすれば、本願発明に係る特定の貯蔵弾性率の比率は、組成物の成分とその割合によって一義的に決定する物性ではないものといえる。
そうしてみると、仮に、引用文献1に記載の付加硬化型シリコーン接着剤組成物が本願発明に係る特定の貯蔵弾性率の比率を満足しないものだとすれば、一般的に、硬化条件によって硬化物の物性が異なることは当業者に自明であるところ、<1>硬化物の物性である本願発明に係る貯蔵弾性率の比率は、硬化前のシリコーン組成物の如何なる技術的事項を規定するものなのか明確ではなく、<2>また、本願発明に係る特定の貯蔵弾性率の比率を満足するためには、如何なる種類の成分を如何なる割合で配合したシリコーン組成物を如何なる硬化条件下で硬化すれば、本願発明に係る貯蔵弾性率の比率を満足するの硬化物を得ることができるのか実施例以外の形態について当業者が実施しうる程度に記載されておらず、<3>さらに、(A)?(E)成分を含むシリコーン組成物全てについて本願発明に係る貯蔵弾性率の比率を満足することが技術的に十分に裏付けられていないことになる。」


第4 当審の判断
1.特許法第29条1項3号について
(1)引用文献に記載された事項
本願の優先日前に頒布された刊行物であり、原査定の拒絶の理由とされた平成22年2月8日付け拒絶理由通知に記載した理由1,2における引用文献1である特開平10-121025号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア「【請求項2】 (A)R_(3)SiO_(1/2)シロキサン単位およびSiO_(4/2) シロキサン単位から実質的になるアルケニル官能シロキサン樹脂であって、少なくとも1個のR基がアルケニル基であるという条件で各Rが独立に炭素原子数1?6の1価炭化水素基であり、SiO_(4/2) 単位ごとに0.5?1.5個のR_(3) SiO_(1/2) 単位が存在し、0.01?22重量%のアルケニル官能基を含む樹脂40?95部;
(B)分子当たりケイ素に結合した水素原子を平均して少なくとも2個有し、0.8?2,000mm^(2)/sの粘度を有するSiH含有ポリオルガノシロキサン0.5?10部;
(C)当該組成物の硬化を促進させるのに十分な量のヒドロシリル化触媒;
(D)分子当たり少なくとも2個のエチレン性またはアセチレン性不飽和基を有し、100?80,000mm^(2)/sの粘度を有するポリジオルガノシロキサン0.1?70部;および
(E)当該組成物を室温で安定にするのに十分な量の抑制剤;の混合物を含む1液型付加硬化性シリコーン接着剤組成物であって、溶剤の不在下、25℃で5?1,500Pa・sの間の粘度を有し、そしてまずグリーン強度を有し、剥離可能な接着を提供する組成物に硬化し、その後、さらに硬化して剥離不可能な接着を提供する組成物となる1液型付加硬化性シリコーン接着剤組成物。」
イ「【0013】当該樹脂中のSiO_(4/2) シロキサン単位に対するR_(3)SiO_(1/2)シロキサン単位のモル比は0.5/1?1.5/1、好ましくは0.6/1?1.1/1の値である。これらのモル比は^(29)Si-NMR分光分析法により容易に測定される。ケイ素にヒドロキシルが結合している基(すなわちHOR_(2)SiO_(1/2)基またはHOSiO_(3/2)基)の存在量を、樹脂の総重量の0.7重量%未満、好ましくは0.3%未満に保つことも好ましい。」
ウ「【0017】当該接着剤組成物中に存在する(B)の量は、(A)と(D)を合計したものの中に含まれるオレフィン不飽和基ごとにケイ素に結合した水素原子を1?30個提供するのに十分な量である。オレフィン不飽和基ごとにケイ素に結合した水素原子が1?10個存在することが好ましい。典型的には、このためには、当該組成物中に0.5?10部のSiH含有ポリオルガノシロキサンが必要である。」
エ「【0027】成分(E)は当該組成物の任意成分である。成分(E)は、酸素およびSiH反応性ヒドロキシル化化合物の不在下および/または熱の不在下、25℃でのヒドロシリル化触媒の触媒活性を抑制または低下させる。本発明において有用な抑制剤は、トリフェニルホスフィンのような有機リン化合物;トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミンおよびベンゾトリアゾールのような窒素化合物;硫黄含有化合物;アセチレン性化合物;少なくとも2個のアルケニル基を有する化合物;ヒドロペルオキシ化合物およびマレイン酸誘導体である。」
オ「【0030】上記成分に加え、当該組成物の硬化または硬化した組成物の物理的特性に悪影響を及ぼさないならば、本発明の組成物中に他の成分が存在してもよい。そのような追加の成分を、限定するわけではないが、接着促進剤、充填剤、酸化防止剤、顔料、安定剤およびその他により例示する。」
カ「【0041】調製例2
3000のMnおよび1.0のF_(Vi)を有する樹脂の調製
約2900のMnを有するシラノール官能MQ樹脂の66.9%キシレン溶液956.5gを大気圧で共沸乾燥させた。80℃に冷却後、22.82gの1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンおよび0.28gのトリフルオロ酢酸を加えた。混合物を80℃で3時間攪拌し、99.31gのヘキサメチルジシロキサンを加え、8時間反応させた。次に23.66gのメタノールを加え、80℃で1時間攪拌し、25gの炭酸水素ナトリウムを加え、次いで室温に放冷させながら攪拌した。混合物を50mmHgで頭部温度(head temperature)が60℃になるまでストリップしてメトキシトリオルガノシランとキシレンよりも沸点が低いその他の物質とを除去し、次いで濾過して樹脂の76%キシレン溶液を得た。この樹脂は3000のMnを有し、^(29)Si-NMRによって、1.0のF_(Vi)に対応する0.461/0.017/0.498/0.024のSiO_(2)/ROSiO_(3/2)/Me_(3)SiO_(1/2)/ViMe_(2)SiO_(1/2)比が示された。」
キ「【0050】実施例4?14
樹脂原料溶液を次のように調製した。調製例2において調製された樹脂溶液649.2gに55,000mm^(2)/sの粘度および0.088重量%のビニルを有するビニルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン134.34gを加えた。減圧下で加熱することにより殆どのキシレンを除去し、粘度が5mm^(2)/sおよびケイ素に結合した水素が0.76重量%のトリメチルシロキシ末端ジメチルシロキシメチル水素シロキシコポリマー10.61gを加えた。2mmHgで160℃のポット温度になるまで加熱することによりストリッピングを完了した。」
ク「【0051】流し込みを促進するために空気中で120℃に加熱することによりこの樹脂原料を小さなジャー内に計量分配した。この樹脂原料のアリコートに55,000mm^(2) /sの粘度および0.088重量%のビニルを有するビニルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサンをある量(表3参照)およびSi(OSiMe_(2)H)4をある量(表3参照)加えた。配合物をスパチュラを用いて120℃で混合し、酸素を除去するために開放したままドライボックス内に置いた。3日後、ある量の実施例1の白金触媒を加え、室温で混合して白金を99重量ppmとした。」
ケ「【0052】
【表3】


コ「【0070】実施例25?33
表9に示す種々の量の成分を使用して実施例24におけるようにさらに2液型組成物を調製した。これらの実施例に対し、M(H)_(1.82)QはSiO_(2)単位ごとに1.82個のHMe_(2)SiO_(1/2) 単位が存在するような比でSiO_(2)単位およびHMe_(2)SiO_(1/2) 単位を含むコポリマーであって、粘度が24mm^(2)/sおよびケイ素に結合した水素が1重量%のコポリマーであり、接着促進剤1はエチレングリコールとテトラエチルオルトシリケートの反応から生成した生成物である。・・・」
さらに、調製例2?4には、ポリシロキサン樹脂として数平均分子量が2900?3000を有するものが記載されている。

(2)引用文献に記載された発明
上記摘示ア、イからみて、引用文献には、
「(A)R_(3)SiO_(1/2)シロキサン単位およびSiO_(4/2) シロキサン単位から実質的になるアルケニル官能シロキサン樹脂であって、少なくとも1個のR基がアルケニル基であるという条件で各Rが独立に炭素原子数1?6の1価炭化水素基であり、SiO_(4/2)シロキサン単位に対するR_(3)SiO_(1/2)シロキサン単位のモル比は0.6/1?1.1/1であり、0.01?22重量%のアルケニル官能基を含む樹脂40?95部;
(B)分子当たりケイ素に結合した水素原子を平均して少なくとも2個有し、0.8?2,000mm^(2)/sの粘度を有するSiH含有ポリオルガノシロキサン0.5?10部;
(C)当該組成物の硬化を促進させるのに十分な量のヒドロシリル化触媒;
(D)分子当たり少なくとも2個のエチレン性またはアセチレン性不飽和基を有し、100?80,000mm^(2)/sの粘度を有するポリジオルガノシロキサン0.1?70部;および
(E)当該組成物を室温で安定にするのに十分な量の抑制剤;の混合物を含む1液型付加硬化性シリコーン接着剤組成物」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(3)対比、判断
(3-1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の(A)成分のR_(3)SiO_(1/2)シロキサン単位は、本願発明の(B)成分においてR^(4)がアルケニル基から選択される場合のR^(3)_(2)R^(4)SiO_(1/2)単位に相当するから、引用発明のアルケニル官能シロキサン樹脂は本願発明の有機ポリシロキサン樹脂に相当し、引用発明の(D)成分のエチレン性不飽和基はアルケニル基に含まれるから、かかる(D)成分としての「分子当たり少なくとも2個のエチレン性不飽和基を有するポリジオルガノシロキサン」は本願発明の(A)成分に相当し、引用発明の(C)成分は本願発明の(E)成分に相当している。また、引用発明の各成分の量は「部」で記載されているが、引用文献の段落【0002】?【0005】に従来技術として記載されている先行文献としての米国特許明細書においては、各成分はそれぞれ「重量部」で記載されているから、引用発明に記載の各成分の配合量についても、「部」は「重量部」と解することが自然である。そして、引用発明の(D)成分に対する(A)成分の重量部は、(D)成分100重量部に対して57?95000重量部となる。
そうすると、両者は、
「以下の成分を含むシリコーン組成物。
(A) 1分子当たり平均2個以上のケイ素に結合したアルケニル基を有するポリジオルガノシロキサン100重量部;
(B) R^(3)_(2)R^(4)SiO_(1/2)単位とSiO_(4/2)単位とを含む有機ポリシロキサンであって、R^(3)_(2)R^(4)SiO_(1/2)単位のSiO_(4/2)単位に対するモル比が0.6:1?1.1:1であり、アルケニル基を含む有機ポリシロキサン樹脂75?150重量部;
(C) ケイ素に結合した水素原子を有する有機水素ポリシロキサン;
(E) 組成物を硬化させる量のヒドロシリル化触媒」である点で一致し、次の点で一応相違している。
(1)有機ポリシロキサン樹脂について、本願発明が、「数平均分子量が2,000?5,000であり」としているのに対し、引用発明においては規定していない点
(2)有機ポリシロキサン樹脂について、本願発明が、「樹脂中に平均2.5?7.5モル%のアルケニル基を含む」としているのに対し、引用発明においては、「0.01?22重量%のアルケニル官能基を含む」としている点
(3)ケイ素に結合した水素原子を有する有機水素ポリシロキサンについて、本願発明が「成分(A)及び(B)中のアルケニル基1個当たり1?3個のケイ素に結合した水素原子を供給できる量の1分子当たり平均3個以上のケイ素に結合した水素原子を有する」としているのに対し、引用発明においては、「分子当たりケイ素に結合した水素原子を平均して少なくとも2個有し」としている点
(4)シリコーン組成物に配合される接着促進剤について、本願発明が「基材に対する組成物の接着を生じさせる量の接着促進剤」としているのに対し、引用発明においては規定していない点
(5)引用発明が「当該組成物を室温で安定にするのに十分な量の抑制剤」を含有する点
(6)シリコーン組成物について、本願発明が、「硬化により、-65℃の貯蔵弾性率の、20℃の貯蔵弾性率に対する比率が、5未満であるエラストマーを形成する」としているのに対し、引用発明においては規定していない点

(3-2)相違点についての検討
(3-2-1)相違点(1)について
引用文献には、R_(3)SiO_(1/2)シロキサン単位およびSiO_(4/2) シロキサン単位からなるアルケニル官能シロキサン樹脂について、摘示カから、これを採用する際の調製例2において、数平均分子量が3000の樹脂を調製していることから、引用発明はアルケニル官能シロキサン樹脂の具体的態様として、数平均分子量が3000の樹脂を包含するものであり、両発明のアルケニル官能シロキサン樹脂に係る数平均分子量は重複している。
したがって、この点に差異があるということはできない。

(3-2-2)相違点(2)について
引用文献には、有機ポリシロキサン樹脂の調製例として、数平均分子量3000の有機ポリシロキサン樹脂について記載されていることは上記(3-2-1)のとおりである。そして、摘示イから、かかる樹脂を構成するR_(3)SiO_(1/2)単位のSiO_(4/2)単位に対するモル比が0.6:1?1.1:1であること、R_(3)SiO_(1/2)単位の少なくとも一個のR基がアルケニル基である。
一方、本願発明の有機ポリシロキサン樹脂については、数平均分子量が2,000?5,000であり、樹脂を構成するR^(3)_(2)R^(4)SiO_(1/2)単位のSiO_(4/2)単位に対するモル比が0.6:1?1.1:1であり、R^(3)_(2)R^(4)SiO_(1/2)単位のR^(4)がアルケニル基から選択されている(つまり、一個のアルケニル基を有する)ものである。
そうすると、引用発明の有機ポリシロキサン樹脂と本願発明の有機ポリシロキサン樹脂とは、数平均分子量3000で重複しており、樹脂を構成するR^(3)_(2)R^(4)SiO_(1/2)単位のSiO_(4/2)単位に対するモル比の値が0.6:1?1.1:1で重複し、しかも、両者のM単位が一個のアルケニル基を有することから、得られる有機ポリシロキサン樹脂に格別の差異があるとはいえず、引用発明のアルケニル基の含有量と本願発明の含有量とは重複する範囲を有していると解することが自然である。
そうであれば、両者は、アルケニル基の含有量についての表現が相違しているものの、アルケニル基の含有量については重複すると解されるから、この点に実質的な差異があるとはいえない。

(3-2-3)相違点(3)について
引用文献には、摘示ウから、「(B)の量は、(A)と(D)を合計したものの中に含まれるオレフィン不飽和基ごとにケイ素に結合した水素原子を1?30個提供するのに十分な量である」と記載されており、また、摘示アの「平均して少なくとも2個有し」との記載から、1分子当たり平均3個以上のケイ素に結合した水素原子を有する場合があることは明らかである。
したがって、この点に実質的な相違があるとはいえない。

(3-2-4)相違点(4)について
引用文献には、摘示オからみて、追加の成分として接着促進剤の使用について記載され、摘示コから、実施例25?33において接着促進剤としてシリケート生成物が採用される旨記載がある。
一方、本願明細書においても、段落【0046】において、「本発明の成分(D)は、一般に電子器具の組立に使用される基材、例えば、シリコン;二酸化ケイ素と窒化ケイ素のようなパッシベーションコーティング;ガラス;銅や金のような金属;セラミック;及びポリイミドのような有機樹脂へのシリコーン組成物の下塗の必要がない(unprimed)強い接着をもたらす接着促進剤である。成分(D)は、それが本発明の組成物に可溶性であり、硬化生成物の物性、特に熱膨張係数及び貯蔵弾性率に対して悪影響を及ぼさないならば、シリコーン組成物で使われている典型的な接着促進剤のいずれでもよい。成分(D)は、単独の接着促進剤又は異なる2種以上の接着促進剤の混合物であっても良い。」と記載していることから、本願発明における成分(D)としての接着促進剤は特定のものを用いた場合にのみ効果を奏するものであるとは考えられない。
そうであれば、両者の接着促進剤としての作用機能に格別の相違があるとはいえないから、引用発明においても、「基材に対する組成物の接着を生じさせる量の接着促進剤」が採用されているものといえ、この点に格別の差異があるとはいえない。

(3-2-5)相違点(5)について
本願明細書段落【0071】には、「本発明の組成物は、通常、成分(A)?(E)を混合し、必要に応じて充填剤及び/又は抑制剤を加えて調製される。」と記載し、段落【0093】に、「抑制剤:3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール」と記載し、抑制剤としてアセチレン性化合物の採用について記載している。
一方、引用発明においても、摘示エから、「成分(E)は当該組成物の任意成分である。」と記載し、任意成分であること、また、有用な抑制剤としてアセチレン性化合物が挙げられている。
そうすると、引用発明においては、抑制剤は任意成分であること、また、抑制剤として採用する場合にはアセチレン性化合物の使用についても明示されているから、この点に実質的な相違があるとはいえない。

(3-2-6)相違点(6)について
上記相違点(1)?(5)で検討したとおり、本願発明のシリコーン組成物を構成する各成分と引用発明のシリコーン組成物を構成する各成分とは同等であり、両者の各成分の配合量も重複していることから、両者のシリコーン組成物は同一のものである場合があり、かかる場合には、シリコーン組成物によって得られる物性は同一のものとなる。したがって、引用発明に係る組成物も、硬化により、-65℃の貯蔵弾性率の、20℃の貯蔵弾性率に対する比率が、5未満であるエラストマーを形成するものを包含するものといえる。
そうであれば、相違点(6)は実質的な相違点とはいえない。

相違点(6)に関して、本願明細書には貯蔵弾性率について以下の記載がある。
「【0012】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、特定範囲の数平均分子量を持つ有機ポリシロキサン樹脂を臨界濃度で含むシリコーン組成物を硬化することにより、広い温度範囲において、種々の基材に対する優れた接着性、並びに低い熱膨張係数及び貯蔵弾性率を有するエラストマーが生成することを見出した。」
「【0020】さらに、本発明のシリコーン組成物は硬化により、その低熱膨張と低弾性率で示されるように、温度範囲-65℃?150℃で優れた熱安定性と屈曲性を持つエラストマーを形成する。特に、本発明の硬化組成物は、典型的には、温度範囲-50?-40℃で300μm/m℃の熱膨張係数を有する。また、-65℃の貯蔵弾性率の、20℃の貯蔵弾性率に対する比率は、典型的には5未満である。低熱膨張と低弾性率の結果、本発明のエラストマーは、低温においても最小の寸法変化と優れた屈曲性を示す。この屈曲性シリコーンエラストマーは、シリコンダイと基材間の熱膨張係数の違いにより、半導体パッケージ中の繊細な導線及び半田接続上における熱誘発応力を軽減する。」
「【0031】また、成分(B)は、2.5?7.5モル%、さらに好ましくは4.0?6.5モル%のアルケニル基を有している。ここでは、樹脂中のアルケニル基のモル%は、樹脂中のアルケニル含有シロキサン単位モル数の樹脂中シロキサン単位モル総数に対する比率を100倍としたものとして定義される。樹脂中のシロキサン単位のモル総数には、前述したM、Q及びTOH単位が含まれる。樹脂のアルケニル含有量が2.5モル%未満の時、硬化組成物は柔軟でべとつくようになり、-65℃での貯蔵弾性率の20℃での貯蔵弾性率に対する比率は増加する。樹脂のアルケニル含有量が7.5モル%より大きくなると、貯蔵弾性率G’の増加から明らかなように、硬化組成物は硬く、脆くなる。」
「【0036】本発明の組成物における成分(B)の濃度は、加硫前の粘度に関連して重要であり、また、その後の加硫によって達成される物性、特に熱膨張と弾性率にとっても重要である。成分(B)の濃度は、成分(A)100重量部につき、75?150重量部、好ましくは90?125重量部である。成分(B)の濃度が75重量部未満の場合は、-50?-40℃の熱膨張係数及び-65℃での貯蔵弾性率は、20℃の時のそれらと比べ、著しく増加する。150重量部より大きい場合には、未硬化組成物の粘度は、商業的な封入工程で有用とされる速度では流動しなくなる程度にまで増大してしまう。」
また、相違点(6)に関して、審判請求書において、貯蔵弾性率について以下の記載がある。
「従って、引用文献1に記載の発明において本発明の(B)成分/(A)成分の比に相当する、『引用文献1の樹脂』/『引用文献1のビニルポリマー』の重量比は、0.57から950の広範な範囲を取りうることとなります。一方、本発明においては、(B)成分/(A)成分の重量比は、0.75から1.5の極めて狭い範囲に限定されており、下記項目(e)で説明いたしますように、この重量比の範囲で本発明の顕著な技術的効果が実現されることとなります。」(4頁28行?33行)
「本発明のシリコーン組成物は、(A)成分と(B)成分との比率を、上述の様に引用文献には記載も示唆もされていない特定の狭い範囲に限定することで、高い引張り強さ、低い伸び率、及び低い熱膨張係数を有する、実用上好適なエラストマー硬化体を得ることができる(実施例1及び2、並びに比較例1及び2ご参照。)とともに、そのようなエラストマー硬化体は、-65℃における貯蔵弾性率の20℃の貯蔵弾性率に対する比率が5未満となるので(実施例1及び2、並びに比較例1及び2ご参照。)、低温において優れた屈曲性を示し、例えば、半導体パッケージ中で使用された場合に、導線及び半田接続上における熱誘発応力を軽減することができる、などの優れた技術的効果をもたらすものです。」(5頁5行?13行)

上記した本願明細書及び審判請求書の記載からみて、本願発明の「-65℃における貯蔵弾性率の20℃の貯蔵弾性率に対する比率が5未満」なる事項は、(B)成分/(A)成分の重量比を「0.75から1.5の極めて狭い範囲に限定する」ことにより達成できるものであると主張していることが理解できる。
そうであれば、引用発明においても、その具体的態様として実施例11では(B)成分/(A)成分の重量比が、1.31(下記(4)における計算参照)であるシリコーン組成物を具体的に採用しているのであるから、引用発明のシリコーン組成物も当然「-65℃における貯蔵弾性率の20℃の貯蔵弾性率に対する比率が5未満」を満たす蓋然性が高い。
したがって、相違点(6)は、かかる検討からも実質的な相違ということはできない。

(4)審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書の平成23年11月4日付けの手続補正書において、以下の主張を行っている。

「引用文献1に記載の発明において、本発明の組成物を構成する『(A)1分子当たり平均2個以上のケイ素に結合したアルケニル基を有するポリジオルガノシロキサン』に相当する、『(D)分子当たり少なくとも2個のエチレン性またはアセチレン性不飽和基を有し、100?80,000mm^(2)/sの粘度を有するポリジオルガノシロキサン』(以下、『引用文献1のビニルポリマー』とも呼びます。)の含有量は、0.1?70部となっています。また、同じく本発明の組成物を構成する『(B)数平均分子量が2,000?5,000であり、かつR^(3)_(2)R^(4)SiO_(1/2)単位とSiO_(4/2)単位とを含む有機ポリシロキサン樹脂であって、各R^(3)が独立して脂肪属不飽和基を含まない一価炭化水素基及び一価ハロゲン化炭化水素基から選択され、R^(4)がR^(3)及びアルケニル基から選択され、またR^(3)_(2)R^(4)SiO_(1/2)単位のSiO_(4/2)単位に対するモル比が0.6:1?1.1:1であり、樹脂中に平均2.5?7.5モル%のアルケニル基を含む有機ポリシロキサン樹脂』に相当する、『(A)R_(3)SiO_(1/2)シロキサン単位およびSiO_(4/2)シロキサン単位から実質的になるアルケニル官能シロキサン樹脂であって、少なくとも1個のR基がアルケニル基であるという条件で各Rが独立に炭素原子数1?6の1価炭化水素基であり、SiO_(4/2)単位ごとに0.5?1.5個のR_(3)SiO_(1/2)単位が存在し、0.01?22重量%のアルケニル官能基を含む樹脂』(以下、『引用文献1の樹脂』とも呼びます。)の含有量は、40?95部となっています(請求項2等ご参照。)。
従って、引用文献1に記載の発明において本発明の(B)成分/(A)成分の比に相当する、『引用文献1の樹脂』/『引用文献1のビニルポリマー』の重量比は、0.57から950の広範な範囲を取りうることとなります。一方、本発明においては、(B)成分/(A)成分の重量比は、0.75から1.5の極めて狭い範囲に限定されており、下記項目(e)で説明いたしますように、この重量比の範囲で本発明の顕著な技術的効果が実現されることとなります。一方、引用文献1においては、この0.75から1.5の『引用文献1の樹脂』/『引用文献1のビニルポリマー』の重量比は記載も示唆もされておりません。従って、本発明は、引用文献1には具体的に記載されていない数値範囲への限定を行うことにより、異質な効果、または同質の効果であっても際だって優れた効果を実現した発明に該当し、引用文献1に対して新規性を有するものと思料いたします。」

請求人の上記主張について検討する。
請求人が指摘する引用例に記載の実施例について「引用文献1の実施例を参照すると、そこに記載の一液型の接着剤組成物における「引用文献1の樹脂」/「引用文献1のビニルポリマー」の重量比は、いずれも6.37(実施例11)から384(実施例18)の範囲にあり、」と記載している。
そして、摘示ケのとおり、引用例に記載の表3において、実施例11の欄には、樹脂原料(g)「22.82」、Viポリマー(g)「8.63」、Si(OSiMe_(2)H)_(4)(g)「0.30」、樹脂(%)「55.01」、SiH/Vi「1.0」、粘度(Pa・s)「50.4」と記載されているが、請求人は、かかる重量比の算出根拠を示していないことから、「引用文献1の樹脂」/「引用文献1のビニルポリマー」の「引用文献1の樹脂」や「引用文献1のビニルポリマー」として実施例11のどの成分を用いたのか明確でなく、検証することができない。
なお、請求人が示した「重量比は、いずれも6.37(実施例11)から384(実施例18)」は、計算値からみて、実施例11については、『樹脂(%)「55.01」』を『Viポリマー(g)「8.63」』で除した値を、実施例18については、『樹脂(%)「65.25」』を『Viポリマー(g)「0.17」』で除した値を記載しているとも推測されるが、実施例11欄に記載の樹脂「55.01」は(%)であって樹脂の割合を示しているものであり、一方、Viポリマー「8.63」は(g)であって重さを記載しているものであるから、仮にこのような計算であったとすれば、かかる計算に基づく数値が「引用文献1の樹脂」/「引用文献1のビニルポリマー」の重量比を正しく表していると考えることは困難であるから、引用発明の本願発明に相当する重量比が請求人の主張する値(6.37(実施例11)から384(実施例18))ということはできない。

なお、引用例の実施例11については、調製例2によって得られる樹脂溶液649.2gが採用され、これに、ビニルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン134.34g、トリメチルシロキシ末端ジメチルシロキシメチル水素シロキシコポリマー10.61gを加えて得られたものが樹脂原料として22.82g使用され、ビニルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサンを8.63g(表3参照)使用するものである。
そして、これらの成分割合から、本願発明の(B)成分/(A)成分の比に相当する値を求めると、1.31となる。
(計算方法:実施例11で使用されるMQ樹脂は、調製例2で得られた樹脂の76%キシレン溶液であるから、樹脂は493.4gである。これに、ビニルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン134.34gとトリメチルシロキシ末端ジメチルシロキシメチル水素シロキシコポリマー10.61gを加えて得られたものが樹脂原料として22.82g使用されるのであるから、樹脂原料22.82g中のMQ樹脂は、17.6gとなり、ビニルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサンは、4.8gとなる。これに表中のViポリマー8.63gが加わるので、併せたビニルジメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサンの量は13.43となる。したがって、17.6/13.43=1.31となり、本願発明で規定する(B)成分/(A)成分の重量比「0.75から1.5」の範囲に含まれるものである。さらに、調製例4で得られたMQ樹脂を使用する実施例23についても、(B)成分/(A)成分の重量比は、1.24である。)
したがって、上記審判請求人の主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


2.特許法第36条第6項1号について
本願発明2について、無機充填剤に関して、本願明細書には、以下のとおり記載されている。
「【0067】
本発明の組成物は、さらに、無機充填剤を含んでいても良い。本発明の組成物における使用に適した充填剤は、高度の放射線的純度、低熱膨張係数を有し、ナトリウム、カリウム及び塩化物などのイオン性不純物レベルが低く、また、含水量も低レベルのものである。好ましい充填剤として、溶融シリカ(溶融石英)、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどが挙げられる。溶融シリカは、α-粒子線放射に特に敏感なランダムアクセスメモリ(RAM)デバイスの封入用組成物において特に適した充填剤である。
【0068】
充填剤の平均粒径は、通常、2?25μm、好ましくは2?10μmである。平均粒径が2μm未満の場合、組成物の粘度が従来の封入工程で使用するには高くなり過ぎる。平均粒径が25μmより大きくなる場合には、比較的小さな寸法の半導体デバイスから除外される。また、大きな充填剤粒子は懸濁液中に留まらず、むしろ沈降する傾向がある。
【0069】
充填剤粒子形状は重要な問題ではないが、球形粒子の場合には一般的に他の形状の粒子を用いた時よりも組成物粘度の上昇は小さくなるため、球形粒子であることが好ましい。
【0070】
本発明の組成物中の充填剤濃度は、成分(A)100重量部に対して、通常、10?300重量部である。しかしながら、充填剤は、制御応力粘度計を用い剪断速度0.1sec^(-1)で測定した25℃における硬化前の組成物粘度が60Pa・sを越える量で使用すべきではなく、このような粘度においては、その組成物を従来の封入方法で使用するには粘度が高すぎるという問題が発生する。成分(A)100重量部に対して10?300重量部の範囲で無機充填剤濃度を増加させるとき、加工可能な組成物を得るためには、成分(B)の濃度を前述範囲内で減少させる必要が生じる。」
「【0100】
実施例2
抑制剤を混合した後に平均粒径4.5±0.5ミクロンの溶融シリカを添加した以外は、実施例1と同じ組成でシリコーン組成物を調製した。この組成物の粘度は、剪断速度0.1sec^(-1)で64.6Pa・s、剪断速度1.0sec^(-1)で27.0Pa・sであった。この硬化組成物の物性を表1に示す。
【0101】
比較例4
溶融シリカ濃度を238重量部にした以外は、実施例2の組成と同じシリコーン組成物を調製した。この組成物の粘度は剪断速度0.1sec^(-1)で379.3Pa・s、剪断速度1.0sec^(-1)で91.0Pa・sであった。この硬化組成物の物性を表1に示す。
【0102】
【表1】



上記摘示からみて、実施例2においては、平均粒径4.5±0.5ミクロンの溶融シリカを添加した実施例が記載されており、その組成は実施例1と同じ組成である。添加量については記載がなく、かかる組成物の粘度は、剪断速度0.1sec^(-1)で64.6Pa・sである。一方、比較例4においては、溶融シリカ濃度を238重量部にした以外は、実施例2の組成と同じシリコーン組成物を調製した旨記載があり、かかる組成物の粘度は剪断速度0.1sec^(-1)で379.3Pa・sである。
実施例2においては、溶融シリカの添加量は不明であるものの、この組成物の粘度は剪断速度0.1sec^(-1)で64.6Pa・sと記載されているから、上記摘示段落【0070】における「充填剤は、制御応力粘度計を用い剪断速度0.1sec^(-1)で測定した25℃における硬化前の組成物粘度が60Pa・sを越える量で使用すべきではなく」の記載によれば、使用すべきではない量を用いた実施例であるといえる。してみると、上記摘示段落【0070】の記載は、本願発明2の発明特定事項である溶融シリカの添加量を設定する際にどの程度の意味を持つ記載であるのか不明である。
一方、比較例4においては、溶融シリカ濃度は238重量部としており、上記摘示段落【0070】によれば、通常用いられる範囲とされる「10?300重量部」の範囲内でありながら、この組成物の粘度は剪断速度0.1sec^(-1)で379.3Pa・sと記載されているから、同摘示によれば使用すべきではない量である「組成物粘度が60Pa・sを越える量」であると解される。してみると、上記摘示段落【0070】における「通常用いられる範囲」なる記載は、本願発明2における発明特定事項である溶融シリカの添加量を設定する際にどの程度の意味を持つ記載であるのか不明である。
さらに、溶融シリカの添加と「-65℃の貯蔵弾性率の、20℃の貯蔵弾性率に対する比率」との関係についてみるに、上記摘示から、溶融シリカを添加していない実施例1においては4.61であり、実施例1と同一の組成において溶融シリカを添加した実施例2においては4.5であり(添加量は記載がない)、さらに実施例1と同一の組成において溶融シリカを238重量部とした比較例4においては5.59である。してみると、溶融シリカを添加した場合には、かかる比率が減少する例と増加する例とがあることが理解でき、本願明細書の記載からでは、溶融シリカを添加した場合のかかる比率に対する影響をそれ以上に理解することは困難である。
そうであれば、無機充填剤の配合によりシリコーン組成物の硬化後の貯蔵弾性率の比率は変化するものの、変化の方向性が一定していないのであり、無機充填剤の添加量についての本願明細書の記載が不明確であることは上記のとおりであるから、当業者にとっては、無機充填剤の配合により貯蔵弾性率の比率を5未満の値に導くことは相当の試行錯誤を要するものといえ、この点について、発明の詳細な説明には、本願発明2について当業者が理解できる程度に明確に記載されているとはいえない。
してみれば、本願発明2に記載された構成を採用することによって「広い温度範囲において、種々の基材に対する優れた接着性、並びに低い熱膨張係数及び貯蔵弾性率を有するエラストマーが生成する」シリコーン組成物を提供するとの課題を解決できると認識することは、本願出願時の技術常識を参酌しても不可能というべきであって、本願明細書における本願発明2に関する記載が明細書で十分裏付けられているとはいえない。
したがって、本願発明2については、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものではない。

請求人は、平成22年8月2日提出の意見書において、本願明細書段落【0070】の「本発明の組成物中の充填剤濃度は、成分(A)100重量部に対して、通常、10?300重量部である。しかしながら、充填剤は、制御応力粘度計を用い剪断速度0.1sec^(-1)で測定した25℃における硬化前の組成物粘度が60Pa・sを越える量で使用すべきではなく」なる記載に関して、「通常」との表現からも明らかなように任意的な条件を記載したものであり、「べきでなく」との表現からも明らかなように、絶対的な条件を規定したものではありません、と主張する。しかしながら、充填剤を添加した実施例は、上記摘示のとおり、添加量が記載していない実施例2のみであり、仮に、本願明細書段落【0070】の解釈が請求人の主張のとおりであったとしても、無機充填剤の配合により貯蔵弾性率の比率を5未満の値に導くことが当業者に理解できる程度に明確に記載されているとは到底いえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本願発明2は発明の詳細な説明に記載したものということはできないから、本願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願発明及び本願発明2についての原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-26 
結審通知日 2012-07-27 
審決日 2012-08-14 
出願番号 特願平11-305635
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C08L)
P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉備永 秀彦  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 大島 祥吾
藤本 保
発明の名称 シリコーン組成物、それらの製造法及びシリコーンエラストマー  
代理人 池田 幸弘  
代理人 浅村 肇  
代理人 長沼 暉夫  
代理人 浅村 皓  
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