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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41N
管理番号 1267977
審判番号 不服2011-20066  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-16 
確定日 2012-12-27 
事件の表示 特願2008-531650「SMT法の印刷用ステンシルおよび該ステンシルを被覆するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月29日国際公開、WO2007/033882、平成21年 3月 5日国内公表、特表2009-508721〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年8月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年9月22日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成23年3月1日付けで手続補正がなされ、平成23年5月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、その請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成23年9月16日付け手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成23年9月16日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成23年9月16日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするもので、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前に、

「SMT法の印刷用ステンシルの金属ステンシル体中で予め定められた印刷構造に相当する凹所を有し、この印刷用ステンシルによって印刷材料を、印刷用ステンシルに下方から添付すべき板上に施与することができる、SMT法の印刷用ステンシルにおいて、金属ステンシル体(2a)が金属アルコキシド被覆材料からなる10μm未満の薄手の被覆(6)を備えており、該被覆材料は、有機成分および無機成分を有する網状構造を有するハイブリッドポリマーの形で熱安定性の被覆であることを特徴とする、SMT法の印刷用ステンシル。」
とあったものを、

「SMT法の印刷用ステンシルの金属ステンシル体中で予め定められた印刷構造に相当する凹所を有し、この印刷用ステンシルによって印刷材料を、印刷用ステンシルに下方から添付すべき板上に施与することができる、SMT法の印刷用ステンシルにおいて、金属ステンシル体(2a)が、フルオロ‐アリール基の形で弗素含有含分が結合されている金属アルコキシド被覆材料からなる10μm未満の薄手の被覆(6)を備えており、該被覆材料は、アルコキシド及び有機網状構造を有するハイブリッドポリマーの形で熱安定性の被覆材料であることを特徴とする、SMT法の印刷用ステンシル。」
とするものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)上記(1)の請求項1に係る本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「金属アルコキシド被覆材料」を「フルオロ‐アリール基の形で弗素含有含分が結合されている」と限定するとともに、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「有機成分および無機成分を有する網状構造を有するハイブリッドポリマーの形」を「アルコキシド及び有機網状構造を有するハイブリッドポリマーの形」と限定するものである。

2 本件補正の目的
請求項1に係る本件補正は、上記1(2)のとおり、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定して、本件補正後の請求項1とするものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(旧特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下検討する。

3 独立特許要件
(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1(1)に本件補正後の請求項1として記載したとおりのものである。

(2)引用刊行物及び引用発明
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-192850号公報(以下「引用例1」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。
(ア)「【請求項1】 シリコーン変性フッ素系樹脂を金属層開口部内壁及び金属層基板側に塗布、硬化させ開口部内壁面被覆層及び基板面被覆層として硬化樹脂層を形成させたことを特徴とする印刷用メタルマスク。
・・・(省略)・・・
【請求項5】 前記反応性フッ素系樹脂が末端に水酸基、アルコキシアルキル基又はエポキシ基を有するフッ素樹脂を用いたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか記載の印刷用メタルマスク。」
(イ)「【0011】本発明は、これら従来技術の欠点を解決するするため、メタルマスク開口部でのソルダペーストの詰まりを解消する、メタルマスクの基板面に対するハンダペーストのにじみを少なくすることで連続印刷性を改善するとともに、マスクの溶剤洗浄を容易にすることにより反復使用性を改善するとした課題解決を目的としている。このため、メタルマスクの開口部内壁面及び基板面における高分子化合物による被覆層を形成させたものである。高分子化合物としては後述するシリコーン変性フッ素系樹脂を用いたものである。」
(ウ)「【0019】電子部品を高密度に実装させるプリント配線基板製造にはハンダ付けさせるためのソルダペースト印刷用マスクが必要となる。この印刷用メタルマスクは印刷精度、生産性から一般に素材として金属を使用している。これら素材としてはステンレス(SUS304等)、ニッケル合金等が好適である。また、メタルマスクの開口部を形成させる手段としてはエッチング、レーザ加工、電鋳等が可能でありこれらから目的に応じて適宜選択される。なお、本発明に使用した電鋳法、レーザー加工法、エッチング法の語句についての定義を示すと以下のとおりである。」
(エ)「【0029】硬化樹脂層の厚さはメタルマスクの仕様によって適時選択され、1?20μmが使用可能で、望ましくは2?5μmに選定すべきである。硬化剤の割合は、硬化剤種が変わると使用量も変わるが、一例を挙げると、次のようになる。硬化剤の量は、シリコーン変性フッ素系樹脂の反応基の当量と反応性シリコーン樹脂の反応基の当量及び反応性フッ素系樹脂の反応基の当量の合計に対して硬化剤の反応基の当量が0.5?1.5の割合となる範囲で用いられる。」

(オ)上記(ア)ないし(エ)から、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「シリコーン変性フッ素系樹脂を金属層開口部内壁及び金属層基板側に塗布、硬化させ開口部内壁面被覆層及び基板面被覆層として硬化樹脂層を形成させ、前記反応性フッ素系樹脂が末端に水酸基、アルコキシアルキル基又はエポキシ基を有するフッ素樹脂を用い、メタルマスク開口部でのソルダペーストの詰まりを解消する、メタルマスクの基板面に対するハンダペーストのにじみを少なくすることで連続印刷性を改善するとともに、マスクの溶剤洗浄を容易にすることにより反復使用性を改善した印刷用メタルマスクであって、電子部品を高密度に実装させるプリント配線基板製造におけるハンダ付けのためのソルダペースト印刷用に用いられ、前記硬化樹脂層の厚さは、望ましくは2?5μmである印刷用メタルマスク。」

イ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-116475号公報(以下「引用例2」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、スクリーン印刷に使用するスクリーン版、メタルマスク、あるいは感熱孔版原紙等の孔版に対し、表面改質を行った孔版およびその表面改質方法に関する。…(略)…
【0005】
【発明が解決しようとする問題点】しかし、フッ素系樹脂またはシリコン系樹脂を用いて含浸、塗工して撥水・撥油化する方法では、スクリーンメッシュや多孔性支持体等の空隙を閉塞したり、開口部が樹脂被膜の厚みにより実際の大きさよりも細くなり、解像力の低下が起こる。このため細かいパターンの時には利用できない。また、被印刷体に当接する面のみ撥水・撥油化するのでは、開口部内壁は処理されていないため印刷インクの残存が多くなり、印刷精度が悪くなる。さらに、シリコンやポリテトラフルオロエチレンを焼付硬化する方法では高温を必要とするため、焼付温度での耐熱性がないポリエステルやポリアミド等のスクリーンメッシュでは使用できない。
【0006】しかも、これらの方法では、孔版表面と撥水・撥油性を付与する化合物との間に働く相互作用がたいへん弱いため、化合物被膜の剥離、摩耗、変質といった性能劣化が生じやすく、長期間効果が持続しないという欠点がある。また、従来、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂は、他の炭化水素系樹脂と比較して低エネルギー表面を形成するため、剥離剤、撥水剤などに幅広く利用されているが、これらの樹脂の表面は水に対する接触角が90゜?100゜であり、印刷インクに対してのぬれ性は十分低いものではなく、防汚性、撥水性、撥油性などの利用に対してはなお不十分である。
【0007】
【発明の目的】本発明は、孔版において、連続印刷しても印刷にじみが発生せず、処理層の厚さがたいへん薄く、スクリーンメッシュや多孔性支持体等の空隙を閉塞せずに版材に強固に固定し、かつ表面も水に対する接触角が120゜前後となり、しかも、版洗いも容易な表面改質孔版およびその表面改質方法を提供するものである。
【0008】
【問題を解決するための手段】本発明による表面改質孔版は、従来からのフッ素系樹脂、シリコン系樹脂等を使用した場合よりもさらに低い表面エネルギーを有し、しかも孔版表面に結合もしくは吸着等による強い相互作用で固定できるパーフルオロ基を有する化合物を用いて処理を行うことにより、撥水・撥油化させたものである。
【0009】本発明で使用するパーフルオロ基を有する化合物は、パーフルオロアルキルシラン、パーフルオロアルケニルシラン、パーフルオロアリールシランから選択されるシラン化合物、またはパーフルオロアルキルチタネート、パーフルオロアルケニルチタネート、パーフルオロアリールチタネートから選択されるチタネート化合物より選ばれる。パーフルオロアルキル基はRf_(1)で表され、パーフルオロアルケニル基はRf_(2)で表され、パーフルオロアリール基はRf_(3)で表される。…(略)…
【0012】
【化3】

【0013】これらのパーフルオロ基を有する化合物は、パーフルオロ基の鎖長が長ければ長い程臨界表面張力が低くなるが、好ましくは炭素原子数7以上の鎖長をもつものがよい。シラン、チタネートの加水分解性基には、アルコキシ基の他に、クロル基、アセトキシ基、アルキルアミノ基、プロペノキシ基などが挙げられる。また、シラン、チタネートの加水分解性基数は、2官能より3官能の方が臨界表面張力は小さくなる。これは、3官能の方が加水分解縮合を経てレジン構造をとるため、処理密度が高くなり、しかも配向性を高めるためだと考えられる。配向性の向上は、パーフルオロアルキル鎖に極性基(アミド基、スルホンアミド基など)を導入し、分子間に水素結合などの相互作用をもたせ、一定方向に配向させることにより達成できる。
【0014】一般に、パーフルオロ基を有する化合物と被処理体表面との相互作用としては、被処理体表面にある水酸基とパーフルオロ基を有する化合物とが化学的に結合して-Si-O-あるいは-Ti-O-の結合を形成したり、被処理体表面にある水酸基とパーフルオロ基を有する化合物から誘導されたシラノール基との間に可逆的な平衡反応が起こったり、被処理体表面に物理的に吸着したりして、単分子層から2?3分子層を形成すると考えられている。
【0015】本発明においても、これと同様の相互作用が生じると思われ、孔版表面にパーフルオロ基を有する化合物が結合もしくは吸着によって強固に固定され、しかも、極めて薄い層を形成していると考えられる。…(略)…
【0022】
【作用】孔版表面をフッ素系樹脂やシリコン系樹脂で被覆した場合、水に対する接触角は90°?100°であるのに対し、本発明の方法で処理した場合、水に対する接触角は120°前後となり、フッ素系樹脂やシリコン系樹脂で被覆した場合よりも低い表面エネルギーが得られ、撥水・撥油性がより向上する。また処理層が単分子層から2?3分子層であるため非常に薄く、版材の目詰まりを起こさず、また、版の精度を低下させることもない。さらにパーフルオロ基を有する化合物と孔版表面との相互作用が非常に強いため剥離を起こさず効果が持続する。…(略)…
【0028】
【発明の効果】本発明によれば、孔版表面をフッ素系樹脂やシリコン系樹脂よりも低い表面エネルギーを持ち、極めて薄い処理層で版全体を強固に固定することで、印刷インクに対する撥水・撥油性を大きく向上させることができた。この結果、油性インクあるいは水性インクで連続的に印刷を行っても被印刷体に当接する面への印刷インクの裏まわりを防止することができ、印刷にじみの発生を防止することができる。さらに、印刷インクの版離れが良くなり高精度で、かつ再現性のよい印刷パターンを連続的に得ることができる。また印刷後の版洗いも、版に印刷インクが付着しにくくなるため簡単で洗い溶剤も少なくて済む。その上、版への溶媒の浸透も防止することができるため耐刷性も向上する。」

(イ)上記(ア)段落【0009】には、「パーフルオロアリールシラン」及び「パーフルオロアリールチタネート」が挙げられ、上記段落【0013】に記載のように、シラン、チタネートの加水分解性基には、アルコキシ基が挙げられものであるから、引用例2の「パーフルオロ基を有する化合物」として、フルオロ‐アリール基の形で弗素含有含分が結合されている金属アルコキシドが記載されているものと認められる。
(ウ)また上記(ア)段落【0014】には、「パーフルオロ基を有する化合物と被処理体表面との相互作用としては、被処理体表面にある水酸基とパーフルオロ基を有する化合物とが化学的に結合して-Si-O-あるいは-Ti-O-の結合を形成」することが記載されており、上記(イ)から、前記「-Si-O-あるいは-Ti-O-の結合を形成」したものは、フルオロ‐アリール基の形で弗素含有含分が結合されている膜であって、前記被処理体表面に対して、金属アルコキシド及び有機網状構造を有するハイブリッドポリマーの形での被覆材料であることが、本願優先日前に周知であり(特開平9-202836号公報特に請求項1、請求項2、【0013】、【0018】及び図1ないし図5、特開平5-220922号公報特に【図2】ないし【図4】、特開平6-228755号公報特に【0009】参照。)、前記被覆材料が熱安定性のものであることも、本願優先日前に周知である(前記特開平6-228755号公報特に【0015】、【0019】及び【0020】、特開平10-130844号公報特に【0015】ないし【0018】、【0035】及び【0036】参照。)から、上記(イ)のフルオロ‐アリール基の形で弗素含有含分が結合されている金属アルコキシドが、被処理体表面にある水酸基と化学的に結合して、アルコキシド及び有機網状構造を有するハイブリッドポリマーの形で熱安定性の被覆材料となるものと認められる。

(エ)上記(ア)ないし(ウ)からみて、引用例2には、
「従来からのフッ素系樹脂、シリコン系樹脂等を使用した場合よりもさらに低い表面エネルギーを有し、しかも孔版表面に結合もしくは吸着等による強い相互作用で固定できるフルオロ‐アリール基を有する化合物を用いて極めて薄い処理層を形成する処理を行うことにより、撥水・撥油化させ、被印刷体に当接する面への印刷インクの裏まわりを防止することができ、印刷インクの版離れが良くなり、印刷後の版洗いも、版に印刷インクが付着しにくくなるため簡単で洗い溶剤も少なくて済むようになり、前記極めて薄い処理層は、フルオロ‐アリール基の形で弗素含有含分が結合されている金属アルコキシド被覆材料からなる層であって、該被覆材料は、アルコキシド及び有機網状構造を有するハイブリッドポリマーの形で熱安定性の被覆材料を用いメタルマスク等の孔版に対し表面改質を行うもの。」(以下「引用例2記載事項」という。)が記載されているものと認められる。

ウ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平2-72997号公報(以下「引用例3」という。)には、図とともに次の事項が記載されている。

「本発明は、プリント基板に電子部品を実装するサーフェス・マウント・テクノロジー(以下、SMTと略称する)に係り、特にプリント基板のフットプリントにソルダークリームを印刷するソルダークリーム印刷版の改良に関するものである。
プリント基板に電子部品を実装するSMTにおいて、クアッド・フラット・パッケージ(以下、QFPと略称する)型半導体装置のような微小ピッチの電子部品を実装するプリント基板のフットプリントへのソルダークリームの印刷に際しては、ソルダークリーム印刷版の印刷孔の内壁にソルダークリームが付着して持ち去られるために印刷されるソルダークリームの量が減少し、ソルダークリームのリフロー時のはんだ未着などの品質劣化が生じている。」(1頁右欄6行?2頁左上欄1行)

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「印刷用メタルマスク」、「『開口部』を有する『金属層』」、「開口部」、「ソルダペースト」、「『プリント配線基板』、『基板』」、「シリコーン変性フッ素系樹脂」及び「硬化樹脂層」は、それぞれ、本願補正発明の「印刷用ステンシル」、「『金属ステンシル体』、『金属ステンシル体(2a)』」、「凹所」、「印刷材料」、「板」、「被覆材料」及び「被覆(6)」に相当する。
イ 引用発明の「印刷用ステンシル(印刷用メタルマスク)」は、電子部品を高密度に実装させるプリント配線基板製造におけるハンダ付けのためのソルダペースト印刷用に用いられるものであり、「凹所(開口部)」は、求められるハンダ位置に応じて設けられていることは当業者に自明であるから、引用発明の「印刷用ステンシル」は、金属ステンシル体中で予め定められた印刷構造に相当する凹所を有しているものといえる。
ウ 引用発明において、印刷の際、印刷用ステンシルに下方から被印刷体を添付し、印刷用ステンシルの凹所(開口部)を通過した印刷材料を被印刷体上に施与することは当業者に自明であるから、引用発明の「印刷用ステンシル」は、印刷用ステンシルによって印刷材料を、印刷用ステンシルに下方から添付すべき板上に施与することができるものといえる。
エ 引用発明の「被覆材料(シリコーン変性フッ素系樹脂)」は末端に水酸基、アルコキシアルキル基又はエポキシ基を有する反応性フッ素系樹脂であり、本願補正発明の「被覆材料」はフルオロ‐アリール基の形で弗素含有含分が結合されている金属アルコキシドであるから、引用発明の「被覆材料」と本願補正発明の「被覆材料」とは弗素含有被覆材料で一致する。
オ 引用発明の「被覆(6)(硬化樹脂層)」の厚さが2?5μmであり、本願補正発明の「被覆(6)」は10μm未満の薄手のものであるから、引用発明の「被覆(6)」と本願補正発明の「被覆(6)」とは10μm未満の薄手である点で一致する。

カ 上記アないしオから、本願補正発明と引用発明とは、
「印刷用ステンシルの金属ステンシル体中で予め定められた印刷構造に相当する凹所を有し、この印刷用ステンシルによって印刷材料を、印刷用ステンシルに下方から添付すべき板上に施与することができる、印刷用ステンシルにおいて、金属ステンシル体が、弗素含有被覆材料からなる10μm未満の薄手の被覆を備えた、印刷用ステンシル。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
被覆材料に関し、本願補正発明は、「フルオロ‐アリール基の形で弗素含有含分が結合されている金属アルコキシド」、「アルコキシド及び有機網状構造を有するハイブリッドポリマーの形で熱安定性の」ものであるのに対して、引用発明では、末端に水酸基、アルコキシアルキル基又はエポキシ基を有する反応性フッ素系樹脂である点。

相違点2:
本願補正発明が「SMT法の印刷用」と特定されているのに対し、引用発明は、印刷用ではあるものの、SMT法の印刷用であるか否か明らかでない点。

(4)判断
ア 上記相違点1について検討する。
引用例2には、上記(2)エのとおり、引用例2記載事項(上記(2)エ参照。)が記載されている。
引用発明も引用例2記載事項もいずれも開口部での詰まりや、基板面に対するにじみや、洗浄を容易にすることを課題としており、引用発明において、引用例2記載事項と同様に、より目詰まりを起こさず、また、精度を低下させることもなく、印刷用メタルマスク表面との相互作用が非常に強いため剥離を起こさず効果が持続するよう、シリコーン変性フッ素系樹脂に代えて、フルオロ‐アリール基の形で弗素含有含分が結合されている金属アルコキシド被覆材料であって、該被覆材料が、アルコキシド及び有機網状構造を有するハイブリッドポリマーの形で熱安定性の被覆材料を用い、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が、引用例2記載事項に基づいて容易になし得たことである。

イ 上記相違点2について検討する。
引用発明は、電子部品を高密度に実装させるプリント配線基板製造におけるハンダ付けのためのソルダペースト印刷用に用いられるものであり、引用例3には、電子部品を実装させる方法として、サーフェス・マウント・テクノロジー法、即ち、SMT法で実装し、その際に、ソルダークリーム(ソルダーペースト)を有孔印刷版で印刷することが記載されており、SMT法で電子部品を実装する際のソルダペースト印刷においても、開口部の詰まりや基板面に対するにじみや洗浄を容易にすることは自明の課題であるから、引用発明の「印刷用ステンシル(印刷用メタルマスク)」をSMT法で電子部品を実装する際のソルダペースト印刷用に用い、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が、引用例3に記載された事項に基づいて容易になし得たことである。

ウ 効果について
本願補正発明の奏する効果は、当業者が、引用発明の奏する効果、引用例2記載事項及び引用例3に記載された事項から予測できた程度のものである。

エ まとめ
したがって、本願補正発明は、当業者が、引用例1に記載された発明、引用例2記載事項及び引用例3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、旧特許法第17条の2第5項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし16に係る発明は、平成23年3月1日付け手続補正後の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項によってそれぞれ特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2〔理由〕1(1)に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1ないし3並びにそれらの記載事項は、上記第2〔理由〕3(2)に記載したとおりのものである。

3 対比・判断
本願発明は、本願補正発明において、その発明特定事項である「金属アルコキシド被覆材」に係る「フルオロ‐アリール基の形で弗素含有含分が結合されている」との限定を省き、「アルコキシド及び有機網状構造を有するハイブリッドポリマーの形」と限定されていたものを「有機成分および無機成分を有する網状構造を有するハイブリッドポリマーの形」と拡張したものに相当する(上記第2〔理由〕1(2)参照。)。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに上記限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記第2〔理由〕3に記載したとおり、当業者が、引用例1に記載された発明、引用例2記載事項及び引用例3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が、引用例1に記載された発明、引用例2記載事項及び引用例3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用例1に記載された発明、引用例2に記載された事項及び引用例3に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-27 
結審通知日 2012-08-01 
審決日 2012-08-16 
出願番号 特願2008-531650(P2008-531650)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41N)
P 1 8・ 575- Z (B41N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藏田 敦之東 裕子  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 瀬良 聡機
菅野 芳男
発明の名称 SMT法の印刷用ステンシルおよび該ステンシルを被覆するための方法  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 二宮 浩康  
代理人 高橋 佳大  
代理人 星 公弘  
代理人 篠 良一  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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