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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01K 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 A01K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K |
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管理番号 | 1268007 |
審判番号 | 不服2009-18246 |
総通号数 | 158 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-02-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-09-28 |
確定日 | 2012-12-26 |
事件の表示 | 特願2000-527627「機能あるヒトリポタンパク質(A)を発現するトランスジェニックウサギ」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 7月15日国際公開、WO99/35241、平成14年 1月 8日国内公表、特表2002-500039〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、1999年1月8日(パリ条約による優先権主張 1998年1月8日、米国)を国際出願日とする出願であって、 平成18年1月6日付けで特許請求の範囲について補正がなされ、平成21年6月1日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。 第2.平成21年9月28日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成21年9月28日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.平成21年9月28日付けの手続補正(本件補正) 本件補正により特許請求の範囲は、補正前の請求項4,6,8,10,16および17が削除され、補正前の請求項1について、 「 【請求項1】 結合してヒトリポタンパク質(a)を産生できるヒトアポリポタンパク質(a)ポリペプチドとヒトアポリポタンパク質Bポリペプチドをコードする配列を、ゲノムDNAに有するトランスジェニックウサギ。」 から、補正後の、 「 【請求項1】 ヒトアポリポタンパク質(a)とヒトアポリポタンパク質Bが結合してトランスジェニックウサギ中でインビボにてヒトリポタンパク質(a)を産生できるようヒトアポリポタンパク質(a)とヒトアポリポタンパク質Bとを発現すべく、機能的転写のための第1プロモータ領域と第2プロモータ領域にそれぞれ連結されたヒトアポリポタンパク質(a)ポリペプチドをコードする第1の核酸配列とヒトアポリポタンパク質Bポリペプチドをコードする第2の核酸配列とを、ゲノムDNAに有するトランスジェニックウサギ。」 に補正され、また補正前の請求項11について補正後の請求項7において、補正後の請求項1において新たに特定された事項を含む補正がなされた。 2.目的要件について 本件補正は、 (1)ヒトリポタンパク質(a)の産生が、『トランスジェニックウサギ中でインビボ』で、『ヒトアポリポタンパク質(a)とヒトアポリポタンパク質Bが結合して』できるものであることを特定し、 (2)ヒトアポリポタンパク質(a)ポリペプチドをコードする第1の核酸配列と、ヒトアポリポタンパク質Bポリペプチドをコードする第2の核酸配列について、『ヒトアポリポタンパク質(a)とヒトアポリポタンパク質Bとを発現すべく、機能的転写のための第1プロモータ領域と第2プロモータ領域』が第1、第2の核酸配列にそれぞれ連結されることを特定するものである。 請求人は、本件補正は特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるとしている。しかし、上記(2)の補正は、補正前の「ヒトアポリポタンパク質(a)ポリペプチドをコードする(第1の)配列」、「ヒトアポリポタンパク質Bポリペプチドをコードする(第2の)配列」について、これらをさらに限定するものではなく、これらにそれぞれ、ポリペプチドをコードする配列ではない第1プロモータ領域、第2プロモータ領域が連結されるという要件を付加するものであるから、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正には該当しない。また、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明にも該当しないことは明らかである。 よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号ないし第4号を目的とする補正に該当しない。 3.独立特許要件について 上記2.のとおり、本件補正は改正前特許法第17条の2第4項第2号ないし4号を目的とするものではないが、仮に、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正に該当するとしても、以下に述べるとおり、補正後の請求項1に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (1)本願補正発明 補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 ヒトアポリポタンパク質(a)とヒトアポリポタンパク質Bが結合してトランスジェニックウサギ中でインビボにてヒトリポタンパク質(a)を産生できるようヒトアポリポタンパク質(a)とヒトアポリポタンパク質Bとを発現すべく、機能的転写のための第1プロモータ領域と第2プロモータ領域にそれぞれ連結されたヒトアポリポタンパク質(a)ポリペプチドをコードする第1の核酸配列とヒトアポリポタンパク質Bポリペプチドをコードする第2の核酸配列とを、ゲノムDNAに有するトランスジェニックウサギ。」 なお以下において、ヒトアポリポタンパク質(a)を「ヒトアポ(a)」ヒトアポリポタンパク質Bを「ヒトアポB」と省略することがある。 (2)引用文献 (2-1)引用文献1 拒絶査定で引用された引用文献1(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,1994年,Vol. 91, No. 6,pp. 2130-2134)には、以下の事項が記載されている。 a)「ヒトアポリポタンパク質の発現とトランスジェニックマウス体内でのリポプロテイン(a)の会合(Assembly)」(第2130頁 タイトル) b)「ヒトアポBとアポ(a)のトランスジェニックマウスが交配されると、両ヒトタンパク質を発現するマウスの体内で、血漿アポ(a)は、LSL密度領域中のリポプロテインと強固に会合(associate)した。これらの研究は、ヒトアポBの成功裏の発現とマウス体内でのリポプロテイン(a)の効率的な会合を証明する。」(第2130頁 アブストラクトの項、17-21行) 以上の記載から、引用文献1には、ヒトアポリポタンパク質(a)を発現するトランスジェニックマウスと、ヒトアポリポタンパク質Bを発現するトランスジェニックマウスとを交配し、ヒトアポ(a)、ヒトアポBの両者を発現するトランスジェニックマウスを作成したこと、が記載されていると認められる。 (2-2)引用文献2,3 拒絶査定で引用された引用文献2,3には、それぞれ以下の事項が記載されている。 引用文献2(ファルマシア,1996年,Vol. 32, No. 1,pp. 51-54) 「3 トランスジェニックウサギ・モデルの開発の必要性 発生工学の発展で、ヒト遺伝子を導入したトランスジェニックマウスがヒトの疾患モデルとして盛んに利用されるようになった。しかし、マウスは小さな動物であり、また、脂質代謝や動脈硬化の研究においていくつかの欠点があると言わざるを得ない。例えば・・・。 以上のような理由のためと思われるが、アメリカにおいてはNIHが3年前から心臓血管病の研究のためにマウス以外の新しいトランスジェニック動物モデルを開発することを推奨している。特に体が大きくコ食(審決注:コレステロール添加食)投与に敏感で数ヶ月で動脈硬化が発生するトランスジェニックウサギ・モデルの開発が期待されている。筆者の1人である笵は、約3年半前からカリフォルニア大学にあるGladstone研究所においてトランスジェニックウサギの開発を始め、脂質代謝に関係の深いヒト肝リパーゼ、アポ蛋白E、アポ蛋白B100、apo B mRNA editing protein などを発現したトランスジェニックウサギの作製に成功し、これらの蛋白の機能や動脈硬化との関係などを報告した。 トランスジェニックウサギの作製法は基本的にはマウスのそれと同様である。」(第52頁右欄13行-第53頁右欄5行) 引用文献3(Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology,1995年,Vol. 5, No. 11,pp. 1889-1899) 「トランスジェニックウサギにおけるヒトアポリポプロテインB-100の高発現はLDLのレベルの増加とHDLのレベルの低下を生じる」(第1889頁 タイトル) (3)対比・判断 本願補正発明と引用文献1に記載された発明を対比する。 引用文献1に記載される、ヒトアポリポタンパク質(a)、ヒトアポリポタンパク質Bの両者を発現するトランスジェニックマウスは、そのゲノムDNAに、ヒトアポリポタンパク質(a)ポリペプチドをコードする核酸配列と、ヒトアポリポタンパク質Bポリペプチドをコードする核酸配列を有するものであると認められる。 そうすると、両者は、 「トランスジェニック動物中でヒトアポリポタンパク質(a)ポリペプチドをコードする第1の核酸配列とヒトアポリポタンパク質Bポリペプチドをコードする第2の核酸配列とを、ゲノムDNAに有するトランスジェニック動物。」である点で一致しており、以下の点で相違している。 (A)トランスジェニック動物が、本願補正発明は「ウサギ」であるのに対して、引用文献1に記載の発明は「マウス」である点。 (B)本願補正発明が、ヒトアポリポタンパク質(a)とヒトアポリポタンパク質Bとが「結合して」ヒトリポタンパク質(a)を「産生できる」ものであること、およびこの結合・産生が「トランスジェニック動物中でインビボ」であることを記載するものであるのに対して、引用文献1には、この点の記載がない点。 (C)本願補正発明が「インビボにてヒトリポタンパク質(a)を産生できるようヒトアポリポタンパク質(a)とヒトアポリポタンパク質Bとを発現すべく、機能的転写のための第1プロモータ領域と第2プロモータ領域にそれぞれ連結」することを記載するものであるのに対して、引用文献1には、この点の記載がない点。 そこで、以下検討する。 相違点(A)について 引用文献2には、動脈硬化の研究モデル動物として、トランスジェニックウザギがトランスジェニックマウスよりも好ましいことが示されているから、引用文献1に記載されたトランスジェニックマウスに替えてトランスジェニックウサギを作出しようとすることは、当業者が容易に想到することである。 そして、引用文献2には、ヒト肝リパーゼ、アポ蛋白E、アポ蛋白B100、apo B mRNA editing protein などのタンパク質を発現するトランスジェニックウサギの作成に成功したことが記載され、引用文献3には、トランスジェニックウサギにおいて、ヒトアポリポプロテインB-100(本願補正発明のアポBに相当)のようなヒトアポリポタンパク質を発現させることができたことが記載されていることからみて、当業者であれば、引用文献2,3に記載される以外のヒトアポリポタンパク質についても、ウサギを形質転換してこれらを発現するトランスジェニックウサギを作出することには、格別の困難性はないと考えられる。つまり、当業者であれば、ヒトアポ(a)トランスジェニックウサギや、引用文献3に記載されるようなヒトアポBトランスジェニックウサギを作出することには、格別の技術的な困難性はない。 さらに、引用文献1に記載される、ヒトアポ(a)のトランスジェニックマウスと、ヒトアポBトランスジェニックマウスを交配するという手法を、ヒトアポ(a)トランスジェニックウサギとヒトアポBトランスジェニックウサギとに適用して、ヒトアポ(a)とヒトアポBの両者を共発現するトランスジェニックウサギを得ることも、当業者が容易になし得ることである。 そうすると、相違点(A)は、当業者が容易になし得ることといえる。そして本願補正発明において、「マウス」に替えて「ウサギ」としたことによって、当業者が予期できないような効果が奏されたともいえない。 相違点(B)について 引用文献1には、トランスジェニックマウスにおいて発現されたヒトアポBが、マウスの体内でヒトアポ(a)と会合してリポプロテイン(a)産生したことが示されており、トランスジェニックウサギの体内でヒトアポ(a)とヒトアポBが発現されれは、同様にこれらが会合し、トランスジェニックウサギの体内でリポプロテイン(a)が産生されると考えられるから、この点は実質的な相違点ではない。 相違点(C)について 異種遺伝子を導入して異種タンパク質を発現させる際に、プロモータ領域などを連結させて導入することは、当該技術分野における周知技術であり、引用文献1の発明において、トランスジェニックマウスに替えてトランスジェニックウサギを作出する場合に、発現させるポリペプチドをコードする核酸配列にプロモータ領域を連結させて使用することは、当業者が容易になし得ることである。 そして、本願補正発明において、プロモータ領域を連結させたことによって、当業者が予期できないような格別の効果が奏されたともいえない。 以上のとおり、本願補正発明は、引用文献1ないし3に記載された発明および周知技術から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 4.請求人の主張について 請求人は審判請求書において、以下の(I)(II)を主張している。 (I)ウサギでヒトapo(a)を発現させることについての成功の予測性の低さについて 平成21年3月16日の意見書でも述べましたが、ヒトapo(a)がトランスジェニックウサギ中で有意なレベルで発現されることについては、出願時の技術水準を考慮しても、容易に予測されるものではなかったものと考えます。apo(a)はウサギ中には存在しないため、ヒトapo(a)を組み込んだとしてもウサギ中に存在する種々のホルモンがヒトapo(a)やヒトアポリポプロテインBの発現に影響を及ぼす可能性があるためです。例えば、マウスの性ホルモンがヒトの性ホルモンと比較してヒトapo(a)を低下させる効果があることが当該技術分野の技術常識であり、ヒトapo(a)の発現レベルがヒトの急性期には上昇するがトランスジェニックマウスの急性期には低下することもFrazer et al., Nature Genetics, vol.9, pp.424-431, April 1995に記載されているようによく知られていました。 このように、ヒトにおけるヒトapo(a)の発現に比べて、トランスジェニックマウスでのヒトapo(a)の発現が予測不能な性質を備えていたという本願出願時の技術常識を考慮すれば、トランスジェニックウサギでのヒトapo(a)の発現の性質も、予測可能であったということはできません。本願の出願前には、ヒトLp(a)を産生するのに十分な量でヒトapo(a)をウサギで発現できるということは当業者の誰も容易に想到し得なかったことです。 (II)さらにウサギでヒトapo(a)とヒトアポリポプロテインBを共発現することにより生理学的レベルのヒトリポタンパク質(a)を実際にインビボで生成できることについての成功の予測性の低さについて さらに、平成21年3月16日の意見書でも述べましたように、引例1では、トランスジェニックマウスにおいてヒトapo(a)がインビボでヒトアポBタンパク質と結合し得ることを示してはいますが、かかる知見からウサギでもかかる結合が適切に起こることが容易に予測できるとは言えません。なぜなら、ウサギとマウスの生理学的状態は異なっているため、そのような状態はヒトapo(a)がとヒトアポBタンパク質の結合にも影響を及ぼしうるからです(意見書と同時提出のLewin B., edl, Genes VI, Oxford University Press, 1997:19-24)。例えば、当業者であれば、ウサギにおけるヒトapo(a)とヒトアポBタンパク質のフォールドのコンフォメーションは、タンパク質が一般に周囲の生理学的状態に応じて熱力学的に最も安定な形をとるため、ヒトやマウスにおけるコンフォメーションとは全く異なると考える方が自然です。仮にトランスジェニックウサギでヒトapo(a)とヒトアポBタンパク質とが十分に発現できたとしても、ウサギにおける生理学的条件が、産物のコンフォメーションをヒトやマウスにおけるそれとは異ならしめる可能性があります。さらに、かかるタンパク質は、ヒトにおいて存在するようなコンフォメーションに折り畳まれるにはシャペロンタンパク質の支援を必要としますが(上記のLewinの文献の第246-251頁参照)、かかるシャペロンタンパク質がウサギで存在するかも定かではありませんでした。 また、タンパク質の最終的な形状は、タンパク質の特定のアミノ酸残基間のジスルフィド結合の生成を触媒するプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)の触媒活性によって決まり(上記のLewinの文献の第19-24頁参照)、当業者であればウサギのPDI活性がヒトおよびマウスのPDI活性とは異なるため、ウサギとヒトおよびマウスでは生じるタンパク質のコンフォメーションも異なるものになると予想するところ、それでもなおヒトapo(a)とヒトアポリポプロテインBを共発現させてヒトリポタンパク質(a)を実際生成できるということも初めて見出したのです。 つまり、本願発明では上述のようにウサギではヒトapo(a)を発現させることは困難であろうという技術常識にも拘わらず初めてトランスジェニックウサギでヒトapo(a)を発現させ、さらにはヒトアポリポプロテインBを共発現させてヒトリポタンパク質(a)を実際生成できるという2段階もの進歩性があるのであって、マウスで共発現している(引例1)およびウサギでヒトアポリポプロテインBのみが発現している(引例3)という事実から、出願時の技術常識を参酌することなく本願発明のヒトapo(a)とヒトアポリポプロテインB共発現するトランスジェニックウサギの進歩性が単なる引例の積み重ねで否定されるのは妥当ではありません。 そこで、以下検討する。 (I)について 引用文献2には、「筆者の1人である笵は、約3年半前からカリフォルニア大学にあるGladstone研究所においてトランスジェニックウサギの開発を始め、脂質代謝に関係の深いヒト肝リパーゼ、アポ蛋白E、アポ蛋白B100、apo B mRNA editing protein などを発現したトランスジェニックウサギの作成に成功し、これらの蛋白の機能や動脈硬化との関係などを報告した。 トランスジェニックウサギの作製法は基本的にはマウスのそれと同様である。」(第53頁左欄15行-右欄5行)と記載されており、引用文献1にはヒトapo(a)を発現するトランスジェニックマウスが記載されているのであるから、このようなマウスと同様に、トランスジェニックウサギも得ることができると考えることが本願優先日当時の技術常識であると認められる。 なお、この点については、本願の優先日前の国際公開公報であって、本願明細書中(【0123】段落)で引用されており、本願の発明者と該PCT出願の発明者が重複している(すなわち請求人も熟知していると考えられる)、WO95/25793号の実施例において、形質転換ウサギが作出され、ヒトアポリポタンパク質A-I(ヒトapo(a)に相当する。)がトランスジェニックウサギ中で発現したことが記載されていることにも裏付けられるといえる。 したがって、請求人の「ヒトapo(a)がトランスジェニックウサギ中で有意なレベルで発現されることについては、出願時の技術水準を考慮しても、容易に予測されるものではなかったものと考えます。」との主張は採用することができない。 (II)について 引用文献1では、トランスジェニックマウスにおいてヒトアポ(a)がインビボでヒトアポBと結合し得ることが示されており、トランスジェニックウサギにおいてヒトアポ(a)とヒトアポBとが発現されれば、同様にインビボで結合すると考えることが自然である。 請求人は、ウサギとマウスの生理学的状態は異なっているため、そのような状態はヒトアポ(a)とヒトアポBの結合にも影響を及ぼす可能性について主張しているが、生理学的状態がどのように異なっているか、それによって、コンフォメーションがいかなる影響を受けるかについての具体的な説明はない。 そして、ウサギとマウスはヒトと同じ哺乳動物であり、引用文献2に記載されるとおり、いずれもヒトの疾患モデル動物として一般的に使用されていること、脂質代謝や動脈硬化の研究においては、ウサギの代謝特性がマウスのものよりも適していることを鑑みれば、請求人が主張する「当業者であれば、ウサギにおけるヒトapo(a)とヒトアポBタンパク質のフォールドのコンフォメーションは、タンパク質が一般に周囲の生理学的状態に応じて熱力学的に最も安定な形をとるため、ヒトやマウスにおけるコンフォメーションとは全く異なると考える方が自然です。」という主張は採用できない。 なお、生理学的状態の点については、上述のWO95/25793号の第5頁に、「ウサギは「LDL哺乳類」として分類される動物であり、すなわち「HDL哺乳類」として分類される動物であるラット及びマウスと反対に、ヒトにおける場合と同様にLDL類が血漿コレステロールの主要な輸送物質である。」と記載されており、ウサギの生理学的状態はマウスのものよりヒトに近いと考えることが本願優先日当時の技術常識と認められるから、マウスにおいてヒトアポ(a)とヒトアポBがインビボで結合するのであれば、よりヒトに近いと考えられるウサギにおいてヒトアポ(a)とヒトアポBがインビボで結合することは、当業者が予期することであると考えられる。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第4項第2号ないし第4号を目的とする補正に該当しないから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 また仮に、本件補正が改正前特許法第17条の2第4項第2号を目的とする補正に該当するとしても、補正後の本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明、原査定 平成21年9月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成18年1月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし21に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして原査定は、本願の請求項1ないし21に係る発明は、引用文献1-3及び周知技術に基づいて容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 第4.当審の判断 1.本願発明1 本願発明1は、請求項1に特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 結合してヒトリポタンパク質(a)を産生できるヒトアポリポタンパク質(a)ポリペプチドとヒトアポリポタンパク質Bポリペプチドをコードする配列を、ゲノムDNAに有するトランスジェニックウサギ。」 2.特許法第29条第2項について 本願発明1と上記第2の3.で検討した本願補正発明とは、ヒトアポリポタンパク質(a)ポリペプチドとヒトアポリポタンパク質Bが、本願発明1では「ヒトリポタンパク質(a)の産生できる」ものであるのに対し、本願補正発明では、このヒトリポタンパク質(a)の産生が、『トランスジェニックウサギ中でインビボ』で、『ヒトアポリポタンパク質(a)とヒトアポリポタンパク質Bが結合して』できるものであることを特定する点、および、ヒトアポリポタンパク質(a)ポリペプチドをコードする(第1の)核酸配列と、ヒトアポリポタンパク質Bポリペプチドをコードする(第2の)核酸配列について、本願補正発明では、『ヒトアポリポタンパク質(a)とヒトアポリポタンパク質Bとを発現すべく、機能的転写のための第1プロモータ領域と第2プロモータ領域』が第1、第2の核酸配列にそれぞれ『連結』されることを特定するものである点、以外では、実質的な差異はない。 そして、上記したとおり、結合してヒトリポタンパク質(a)を産生できるヒトアポリポタンパク質(a)ポリペプチドとヒトアポリポタンパク質Bポリペプチドをコードする配列を、ゲノムDNAに有するトランスジェニックウサギは、引用文献1?3に記載された発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同様に、本願発明1も、同様の理由により、引用文献1?3に記載された発明および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 3.むすび 以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2ないし21について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-07-26 |
結審通知日 | 2012-07-31 |
審決日 | 2012-08-16 |
出願番号 | 特願2000-527627(P2000-527627) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A01K)
P 1 8・ 572- Z (A01K) P 1 8・ 121- Z (A01K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 太田 雄三 |
特許庁審判長 |
鵜飼 健 |
特許庁審判官 |
六笠 紀子 中島 庸子 |
発明の名称 | 機能あるヒトリポタンパク質(A)を発現するトランスジェニックウサギ |
代理人 | 恩田 博宣 |
代理人 | 恩田 誠 |
代理人 | 本田 淳 |