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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  H01F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 補正却下を取り消す 原査定を取り消し、特許すべきものとする  H01F
管理番号 1268099
審判番号 不服2011-19591  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-12 
確定日 2013-01-22 
事件の表示 特願2005-184751「希土類焼結磁石の製造方法、焼結磁石用原料合金粉の粉砕方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月 9日出願公開、特開2006- 41501、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許出願は、平成17年6月24日(優先権主張 平成16年6月25日)の出願であって、平成22年9月3日付けで通知した最後の拒絶の理由に対し、平成22年10月29日付けで手続補正をしたところ、平成23年6月14日付けで前記平成22年10月29日付けでした手続補正は決定を以て補正却下され、同日付で前記最後の拒絶の理由によって拒絶査定され、これに対し、平成23年9月12日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 平成23年6月14日付けの補正却下の決定について
(補正却下の決定取消の結論)
平成22年10月29日付けの手続き補正についてなされた平成23年6月14日付けの補正却下の決定を取り消す。

(理由)
1.本件補正
前記平成23年6月14日付けの補正却下の決定(以下、「本件補正却下」という。)の理由の概要は、請求項1、請求項4、段落【0007】、【0008】において、潤滑剤が、
「ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、ベヘン酸アミドおよびカプリル酸アミドの1種または複数種の化合物である化合物Aと、ステアリン酸およびモノステアリン酸グリセリンの1種または複数種の化合物である化合物Bとを含む。」
ものであって、前記潤滑剤の粒径について
「100μm以上425μm以下」とした点が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないというものである。
そこで、平成22年10月29日付けの手続き補正(以下、「本件補正」という。)による請求項1の記載について以下、検討していく。

本件補正による請求項1は次のとおりである。
「【請求項1】
原料合金粉に、100μm以上425μm以下の粒径を有した潤滑剤粒子を添加して前記原料合金粉を粉砕し、粉砕粉を得る工程と、
前記粉砕粉に磁場を印加し、かつ加圧成形することにより成形体を得る工程と、
前記成形体を焼結する工程と、
を備えることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。
但し、前記原料合金粉は、希土類元素(Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの1種または2種以上)を25?37wt%、ホウ素を0.5?4.5wt%、Coを2.0wt%以下(0を含まず)、AlおよびCuの1種または2種を0.02?0.5wt%、残部Feからなる組成を有し、
前記潤滑剤は、
ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、ベヘン酸アミドおよびカプリル酸アミドの1種または複数種の化合物である化合物Aと、ステアリン酸およびモノステアリン酸グリセリンの1種または複数種の化合物である化合物Bとを含む。」
(当審注:下線は請求人が付したものである。)

2.補正の根拠について
(1)上記本件補正による請求項1における特定事項のうち、
「原料合金粉に、」
「425μm以下の粒径を有した潤滑剤粒子を添加して前記原料合金粉を粉砕し、粉砕粉を得る工程と、
前記粉砕粉に磁場を印加し、かつ加圧成形することにより成形体を得る工程と、
前記成形体を焼結する工程と、
を備えることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。」
の点は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の記載を確認すると、請求項1に、
「原料合金粉に、425μm以下の粒径を有した潤滑剤粒子を添加して前記原料合金粉を粉砕し、粉砕粉を得る工程と、
前記粉砕粉に磁場を印加し、かつ加圧成形することにより成形体を得る工程と、
前記成形体を焼結する工程と、
を備えることを特徴とする希土類焼結磁石の製造方法。」
と記載されていた事項である。

(2)次に、同じく本件補正による請求項1における特定事項のうち、
「前記原料合金粉は、希土類元素(Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの1種または2種以上)を25?37wt%、ホウ素を0.5?4.5wt%、Coを2.0wt%以下(0を含まず)、AlおよびCuの1種または2種を0.02?0.5wt%、残部Feからなる組成を有し、」の点は、当初明細書等の
発明の詳細な説明の0011?0013段落に
「【0011】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
本発明は、例えば、希土類焼結磁石、特にR-T-B系焼結磁石に適用することができる。
このR-T-B系焼結磁石は、希土類元素(R)を25?37wt%含有する。ここで、本発明におけるRはYを含む概念を有しており、したがってY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの1種または2種以上から選択される。Rの量が25wt%未満であると、R-T-B系焼結磁石の主相となるR2T14B相の生成が十分ではなく軟磁性を持つα-Feなどが析出し、保磁力が著しく低下する。一方、Rが37wt%を超えると主相であるR2T14B相の体積比率が低下し、残留磁束密度が低下する。またRが酸素と反応し、含有する酸素量が増え、これに伴い保磁力発生に有効なRリッチ相が減少し、保磁力の低下を招く。したがって、Rの量は25?37wt%とする。望ましいRの量は28?35wt%、さらに望ましいRの量は29?33wt%である。
【0012】
また、このR-T-B系焼結磁石は、ホウ素(B)を0.5?4.5wt%含有する。Bが0.5wt%未満の場合には高い保磁力を得ることができない。一方で、Bが4.5wt%を超えると残留磁束密度が低下する傾向がある。したがって、Bの上限を4.5wt%とする。望ましいBの量は0.5?1.5wt%、さらに望ましいBの量は0.8?1.2wt%である。
このR-T-B系焼結磁石は、Coを2.0wt%以下(0を含まず)、望ましくは0.1?1.0wt%、さらに望ましくは、0.3?0.7wt%含有することができる。CoはFeと同様の相を形成するが、キュリー温度の向上、粒界相の耐食性向上に効果がある。
【0013】
また、このR-T-B系焼結磁石は、AlおよびCuの1種または2種を0.02?0.5wt%の範囲で含有することができる。この範囲でAlおよびCuの1種または2種を含有させることにより、得られる焼結磁石の高保磁力化、高耐食性化、温度特性の改善が可能となる。Alを添加する場合において、望ましいAlの量は0.03?0.3wt%、さらに望ましいAlの量は、0.05?0.25wt%である。また、Cuを添加する場合において、望ましいCuの量は0.15wt%以下(0を含まず)、さらに望ましいCuの量は0.03?0.12wt%である。
さらに、このR-T-B系焼結磁石は、他の元素の含有を許容する。例えば、Zr、Ti、Bi、Sn、Ga、Nb、Ta、Si、V、Ag、Ge等の元素を適宜含有させることができる。一方で、酸素、窒素、炭素等の不純物元素を極力低減することが望ましい。特に磁気特性を害する酸素は、その量を5000ppm以下、さらには3000ppmと以下とすることが望ましい。酸素量が多いと非磁性成分である希土類酸化物相が増大して、磁気特性を低下させるからである。」
と記載されていた事項に含まれるものである。

(3)さらに、同じく本件補正による請求項1における特定事項のうち、 「前記潤滑剤は、
ステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、ベヘン酸アミドおよびカプリル酸アミドの1種または複数種の化合物である化合物Aと、ステアリン酸およびモノステアリン酸グリセリンの1種または複数種の化合物である化合物Bとを含む。」
の点は、当初明細書等の発明の詳細な説明の0018?0020段落に、
「【0018】
潤滑剤としては、一般式R1-CONH2またはR1-CONH-R3-HNCO-R2で示される化合物Aと、R4-OCO-R5、R4-OH、(R4-COO)nM(Mは金属、nは整数)からなる群のうちいずれか一種で示される化合物B(R1?4はCnH2n+1またはCnH2n-1。R5はH、CnH2n+1またはCnH2n-1で表される)を含む混合物を用いることが好ましい。
【0019】
化合物Aとは、例えば脂肪酸アミドのようにアミド基を有する化合物もしくは脂肪酸ビスアミドのようにアミド結合を有する化合物である。R1、R2は炭素数7以上21以下の直鎖状飽和炭化水素であることが好ましい。このような化合物Aの具体例としてステアリン酸アミド(C17H35-CONH2)、エチレンビスステアリン酸アミド(C17H35-CONH-(CH2)2-NHCO-C17H35)、ベヘン酸アミド(C21H43-CONH2)およびカプリル酸アミド(C7H15-CONH2)を挙げることができ、この中でもステアリン酸アミドが特に好ましい。本発明において化合物Aは1種類のみの化合物を用いてもよいが、複数の化合物を組み合わせて用いるものであってもよい。
【0020】
化合物Bとは、例えば脂肪酸化合物やアルコールであり、具体的には炭素数が10以上の高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、高級アルコール等が挙げられる。この中でも化合物Bは、R4が炭素数17および18の炭化水素である化合物が好ましく、具体例としてステアリン酸(C17H35-COOH)、モノステアリン酸グリセリン(C17H35-COO-C3H7O2)、ステアリン酸亜鉛((C17H35-COO)-2Zn2+)およびステアリルアルコール(C18H37-O-H)を挙げることができる。この中でもステアリン酸とモノステアリン酸グリセリンがさらに好ましく、特に好ましいのはステアリン酸である。化合物Bとしては1種類のみの化合物を用いてもよいが、複数の化合物を用いてもよい。」
と記載されていた事項に含まれるものである。
また、原料合金粉に添加する潤滑剤粒子の粒径について、「100μm以上」とした点については、当初明細書等の発明の詳細な説明の0054段落に、
「また潤滑剤の粒径が100μm以上であれば成形体強度が1.10以上となることがわかる。」と記載されている事項である。
前記0054段落は実施例5に関する記載であり、0052段落を参照すると明らかに、化合物Aとしてはステアリン酸アミド、化合物Bとしてはステアリン酸を用いたものであるが、前記のとおり、本件補正による請求項1に記載された潤滑剤はすべて当初明細書等に記載され、0042段落の表2には、化合物Aと化合物Bとの組み合わせまで示されているところである。 特に成形体強度に注目すると、4種類の化合物Aに対し、請求項1で特定される2種類の化合物Bの組み合わせはいずれも、化合物Bについて請求項1で特定されていないステアリン酸亜鉛及びステアリルアルコールを用いたものに比べて大きな値を示し、化合物Aとしてステアリン酸アミド、化合物Bとしてステアリン酸を用いたものと比較して遜色ない値を示しており、結果的に、成形体強度が1.10未満の化合物Bを除外した程度の限定にすぎないと解することができるから、特段、新たな技術事項を導入するものでもない。

(4)以上のとおりであるから、請求項1については、新たな技術事項を導入するものではない。
同様の理由により、請求項4、0007段落、及び0008段落についても新たな技術事項を導入するものではない。

3.むすび
したがって、本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
また、他に本件補正を却下すべき理由もない。
よって、上記結論のとおり、平成23年6月14日付けの補正却下の決定を取り消す。


第3 原査定の拒絶の理由について
原査定の拒絶の理由は、平成22年10月29日付けの手続補正を却下した上で、平成22年5月20日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9は、発明の詳細な説明に記載されたものでないというものである。
上記拒絶の理由について検討すると、上記「第2」で示したとおり、平成22年10月29日付けの手続補正を却下する決定は取り消されたので、特許請求の範囲の請求項1ないし5に係る発明は、平成22年10月29日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、このうち、請求項1及び4については、上記「第2」での検討で示したと同様の理由で、発明の詳細な説明に記載したものであるとすることができる。
また、請求項2については、発明の詳細な説明の0017段落、0022段落等に、請求項3については同0024段落に、及び請求項5については同0023段落に、それぞれ記載したものとすることができる。

したがって、本件特許出願は、請求項1ないし5に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載されたものでないとする拒絶の理由によって拒絶をすることができない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-01-10 
出願番号 特願2005-184751(P2005-184751)
審決分類 P 1 8・ 561- WYA (H01F)
P 1 8・ 537- WYA (H01F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 右田 勝則  
特許庁審判長 山田 洋一
特許庁審判官 乾 雅浩
関谷 隆一
発明の名称 希土類焼結磁石の製造方法、焼結磁石用原料合金粉の粉砕方法  
代理人 大場 充  

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