• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C02F
管理番号 1268111
審判番号 不服2009-13119  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-07-21 
確定日 2013-01-04 
事件の表示 特願2000-365858「蛍光分析計を用いた水処理制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月11日出願公開、特開2002-166265〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年11月30日の出願であって、平成20年3月21日付けで拒絶理由通知が通知され、同年5月26日付けで意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成21年4月16日付けで拒絶査定され、これに対し、同年7月21日に拒絶査定不服審判が請求されると共に、同日付けで明細書の記載に係る手続補正書が提出されたものである。その後、当審からの平成23年8月30日付けの特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋に対して、同年10月31日付けで回答書が提出され、当審からの平成24年3月23日付け拒絶理由通知に対して、同年5月28日に意見書及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、更に当審からの同年7月23日付け拒絶理由通知に対して、同年9月24日付けで意見書が提出されている。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年5月28日提出の明細書の記載に係る手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「被処理水を受ける着水井と、着水井からの被処理水に凝集剤を添加する凝集沈澱設備と、凝集沈澱設備からの被処理水中の浮遊物を除去する砂ろ過装置とを有する水処理制御システムにおいて、
着水井の被処理水に対して活性炭を注入する活性炭注入部を有する活性炭注入設備と、
活性炭注入部の上流側または下流側の少なくともいずれか一方に設けられ、被処理水の相対蛍光強度を測定する蛍光分析計と、
被処理水の流量を測定する流水流量計とを備え、
活性炭注入設備は、更に蛍光分析計からの測定値に基づいてトリハロメタン生成能を低減させるのに必要な活性炭注入率を求める活性炭注入率演算装置と、活性炭注入率演算装置において演算された活性炭注入率を目標値として、流水流量計からの流量を用いて活性炭注入部からの活性炭注入量を制御する活性炭注入量制御装置と、を有し、活性炭注入率演算装置は、トリハロメタン生成能と相対蛍光強度との関係式、および相対蛍光強度の残存率と活性炭注入率との関係式を内蔵し、トリハロメタン生成能と相対蛍光強度との関係式を用いて蛍光分析計からの相対蛍光強度からトリハロメタン生成能を求めるとともに、このトリハロメタン生成能と所望のトリハロメタン生成能とから、所望の相対蛍光強度の残存率を求め、相対蛍光強度の残存率と活性炭注入率との関係式を用いて所望の相対蛍光強度の残存率に対応するトリハロメタン生成能を低減するのに必要な活性炭注入率を求めることを特徴とする蛍光分析計を用いた水処理制御システム。」

第3 刊行物の記載事項
1.本願出願前に頒布された刊行物である特開平7-328321号公報(以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
1a 「【産業上の利用分野】本発明は水処理方法に係わり、更に詳細にはトリハロメタン前駆物質の除去能に優れた水処理方法に関するものである。
【従来の技術】近年河川水に含まれる有機物が塩素処理の際、遊離塩素と反応してトリハロメタン等の有機塩素化合物を生成することが知られている。塩素処理により揮発性有機塩素化合物を生成する有機物質は、トリハロメタン前駆物質と呼ばれ、原水中に含まれるフルボ酸、フミン酸等が主成分である。これら有機塩素化合物の生成防止方法として従来より種々の方法が提案されている。
例えば(1)塩素処理に代えて、オゾン処理及び生物活性炭処理を組み合わせた浄水処理法が知られている。この方法はトリハロメタンの生成がなく、且つカビ臭等の臭気物質も除去できる優れた方法であるが、従来の水処理設備に、オゾン処理装置や生物活性炭処理装置等の新規設備が必要な為、大きな設備投資を必要とする。
また、(2)水に対する塩素処理を従来の凝集処理前から凝集処理後に変更する方法(中間塩素処理方法)が知られている。この方法は既存設備の大部分が活用でき、僅かの設備投資で済むというメリットを有するが、凝集処理で除去可能な水中のトリハロメタン前駆物質に限界がある為、トリハロメタン生成能(以下THMFPと称する場合がある)削減率が低いという欠点を有する。
更に(3)水を粉末活性炭処理して、次いでこの処理液をポリ塩化アルミニウムで凝集処理する方法が知られている(例えば、東京衛研年報 第35巻、339?345頁、1984年)。この方法は(2)の方法と比較しTHMFP削減率が高く、且つ既存設備の大部分を活用できるという利点を持つが処理剤としての活性炭の価格が高く、且つ廃泥が多くなるとの欠点を有する。」(【0001】?【0005】)

2.本願出願前に頒布された刊行物である特開昭62-180788号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
2a 「従来の技術
浄水場における水処理は、凝集沈澱処理及び砂濾過処理を行い、更に、塩素殺菌を行うのが一般的である。・・・
・・・飲料水を供給する浄化プロセス、特に、塩素注入量の多い都市周辺の浄水場においては、このトリハロメタンの発生防止が重要な問題となっている。この対策の一つとして、トリハロメタンの原因物質である有機物の除去を目的として、粉末活性炭を前塩素処理前に原水中に注入する方法がある。」(1頁左下欄16行?右下欄11行)
2b 「本発明は、水道用原水を前塩素処理したときに発生するトリハロメタン発生量を予測する手段として、原水中の溶解性全有機炭素(DOC)とE を測定し、トリハロメタンの発生量との関係を求め、トリハロメタンの予測発生値が規定値以上になったときに、活性炭の注入を自動的に行うことによって前記の問題点を解消したものである。
即ち、本発明による水の浄化方法は、原水の溶解性全有機炭素(DOC)濃度及び波長260nmにおける紫外線吸光度(E_(260))を連続的に測定し、これらの測定値から算出されるトリハロメタン発生予測値が所定の数値を越えたときに活性炭を注入し、次いで、塩素処理することを特徴とする。」(2頁左上欄3?17行)
2c 「第1図は、原水中のDOCとE 及び原水のトリハロメタン生成能を測定した結果をもとに、横軸にE_(260)/DOC,縦軸にトリハロメタン生成能/DOCをとったものである。
第2図は、本発明方法を実施する装置のフローシートである。この装置においては、取水源1の水は取水口2から導水管3を経てDOC測定器4及びE_(260)測定器5に取り入れられる。原水を採り入れたDOC測定器4及びE_(260)測定器5は、DOC測定値を表す電流信号6及びE_(260)測定値を表す電流信号7をトリハロメタン発生量予測演算器8に伝達する。第1図により導かれた演算式に従い、トリハロメタン発生量予測演算器8で演算された値が規定値以上になった場合、電流信号9を粉末活性炭注入機10に伝達する。伝達された電流信号9により粉末活性炭注入機10は可動し、注入管11を介して導水管12又は粉末活性炭接触池13に注入する。
本発明においては、トリハロメタンの発生予測値が厚生省の定めた暫定規準値(1980年)である0.1mg/l以上の場合に、粉末活性炭注入機10を作動させ、規定値と予測値の差に基づいた適量の粉末活性炭を導水管12又は粉末活性炭接触池13に導入する。トリハロメタンの発生予測値が0.1mg/l未満の場合には、注入機10の作動を停止する。」(2頁左上欄19行?左下欄4行)
2d 「発明の効果
本発明によれば、活性炭の使用量を必要最小限に抑えて、トリハロメタンの発生を抑制することができ、安全な水道水を供給することができる。」(2頁右下欄13?16行)
2e 「第1図は実験により求めたE_(260)/DOCとトリハロメタン生成能/DOCとの関係図」(2頁右下欄18?19行)

3.本願出願前に頒布された刊行物である特開平10-43776号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
3a 「被処理水に対してオゾンを注入するオゾン注入部と、このオゾン注入部にオゾンを送るオゾン発生器とを有するオゾン注入装置の制御システムにおいて、
オゾン注入部より上流側または下流側のいずれかに設けられ、流水の相対蛍光強度を測定する蛍光分析計と、
蛍光分析計からの測定値に基づいてトリハロメタン生成能を低減させる必要オゾン注入率を求める蛍光強度データ処理装置と、
流水の流量を測定する流水流量計と、
オゾン発生器への送気ガス量を測定するガス流量計と、
蛍光強度データ処理装置からの必要オゾン注入率と、流水流量計からの流水流量と、ガス流量計からの送気ガス量に基づいて発生オゾン濃度の目標値を求めるとともに、この発生オゾン濃度の目標値をオゾン発生器に出力するオゾン注入制御装置と、
を備えたことを特徴とするオゾン注入装置の制御システム。」(特許請求の範囲、請求項1)
3b 「このうち蛍光強度データ処理装置11には、相対蛍光強度とトリハロメタン生成能の関係式、オゾン注入率と相対蛍光強度の残存率(FLr)の関係式及び上記関係式を用いたトリハロメタン生成能の制御目標値(THMco)に対応した相対蛍光強度の制御目標値(FLco)が設定されており、前記FL1,FLco及びオゾン注入率と相対蛍光強度残存率の関係式を用いてFL1をFLco以下にするのに必要なオゾン注入率Drmを演算し、オゾン注入制御装置4に出力するようになっている。」(【0026】)
3c 「蛍光分析計10では、被処理水の相対蛍光強度が常時測定され、測定値FL1として蛍光強度データ処理装置11に常時出力される。」(【0031】)

第4 引用発明の認定
刊行物1(記載事項1a)は「トリハロメタン前駆物質の除去能に優れた水処理方法に関する」技術に関するものであり、従来技術としてではあるが、トリハロメタン生成能(THMFP)削減率の高い方法として、「水を粉末活性炭処理して、次いでこの処理液をポリ塩化アルミニウムで凝集処理する方法」が記載されている。かかる方法を実施するための水処理施設は、水を粉末活性炭処理するために水に粉末活性炭を供給する活性炭供給設備、及び、活性炭処理した後の処理液をポリ塩化アルミニウムによって凝集処理するために処理液にポリ塩化アルミニウムを添加する凝集処理設備を備えているといえる。

そうすると、刊行物1には、
「トリハロメタン生成能(THMFP)を削減する水処理施設であって、水に粉末活性炭を供給する活性炭供給設備、及び、活性炭処理した後の処理液をポリ塩化アルミニウムによって凝集処理するために処理液にポリ塩化アルミニウムを添加する凝集処理設備を備えた水処理施設」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

第5 対比
そこで、本願発明と引用発明とを比較する。
1.引用発明の「水処理施設」における「水に粉末活性炭を供給する活性炭供給設備」は、粉末活性炭を貯蔵する箇所から補処理水に対して粉末活性炭を添加するものであって、被処理水へ粉末活性炭を添加する部位を有することは明らかであるから、かかる被処理水への粉末活性炭の添加部位は、「活性炭注入部」ということができる。
そうすると、引用発明の「水に粉末活性炭を供給する活性炭供給設備」は、本願発明の「被処理水に対して活性炭を注入する活性炭注入部を有する活性炭注入設備」に相当する。

2.ポリ塩化アルミニウムは周知の凝集剤であり、引用発明の「活性炭処理した後の処理液」は活性炭処理した後の被処理水をさすことは明らかであるから、引用発明の「処理液にポリ塩化アルミニウムを添加する凝集処理設備」は、本願発明の「被処理水に凝集剤を添加する凝集沈澱設備」に相当する。

3.なお、本願発明においては着水井に活性炭を注入し、着水井からの被処理水に凝集剤を添加するものであるから、活性炭の注入工程の後に凝集剤の添加工程があることが明らかであるが、引用発明も、活性炭の供給した後に凝集剤を添加しており、活性炭処理した後の被処理水に凝集剤を添加する点で、引用発明は本願発明と共通する。

4.本願発明の「水処理制御システム」における”システム”は、広義の装置、すなわち物、の発明であると解釈され、引用発明の「水処理施設」は水処理装置といえるから、本願発明の「水処理制御システム」と引用発明の「水処理施設」とは、いずれも水処理を行う装置である点で共通する。

5.したがって、上記1.?4.の検討から、両者は、活性炭処理した後の「被処理水に凝集剤を添加する凝集沈澱設備と、被処理水に対して活性炭を注入する活性炭注入設備を備えた水処理を行う装置」の発明である点で一致し、
次の点で相違する。

<相違点1>
本願発明は「被処理水を受ける着水井」を有しており「着水井からの被処理水に凝集剤を添加する」のに対して、引用発明は着水井を有することが特定されておらず、その結果、ポリ塩化アルミニウムを添加する処理液が着水井からのものであることが特定されていない点。

<相違点2>
本願発明は「凝集沈澱設備からの被処理水中の浮遊物を除去する砂ろ過装置」を有するのに対して、引用発明は砂ろ過装置を有することが特定されていない点。

<相違点3>
本願発明の「活性炭注入設備」は「着水井の被処理水に対して活性炭を注入する活性炭注入部を有する」ものである、すなわち、活性炭の注入箇所が着水井に特定されているのに対して、引用発明はそのように特定されていない点。

<相違点4>
本願発明が「活性炭注入部の上流側または下流側の少なくともいずれか一方に設けられ、被処理水の相対蛍光強度を測定する蛍光分析計と、被処理水の流量を測定する流水流量計とを備え、活性炭注入設備は、更に蛍光分析計からの測定値に基づいてトリハロメタン生成能を低減させるのに必要な活性炭注入率を求める活性炭注入率演算装置と、活性炭注入率演算装置において演算された活性炭注入率を目標値として、流水流量計からの流量を用いて活性炭注入部からの活性炭注入量を制御する活性炭注入量制御装置と、を有し、活性炭注入率演算装置は、トリハロメタン生成能と相対蛍光強度との関係式、および相対蛍光強度の残存率と活性炭注入率との関係式を内蔵し、トリハロメタン生成能と相対蛍光強度との関係式を用いて蛍光分析計からの相対蛍光強度からトリハロメタン生成能を求めるとともに、このトリハロメタン生成能と所望のトリハロメタン生成能とから、所望の相対蛍光強度の残存率を求め、相対蛍光強度の残存率と活性炭注入率との関係式を用いて所望の相対蛍光強度の残存率に対応するトリハロメタン生成能を低減するのに必要な活性炭注入率を求める」制御システムを有しているのに対して、引用発明はこのような制御システムを有しない点。

第6 判断
上記相違点について検討する。
1.<相違点1>について
水処理において、着水井は、原水を受け入れる原水槽に当たり、凝集沈澱、砂ろ過等の浄水処理を行う浄水施設では、通常、着水井を備えているのが普通である[必要であれば、特開平6-226011号公報(以下、「周知例A」という。)の【0023】?【0027】及び【図2】、特開平8-196812公報(以下、「周知例B」という。)の【0002】、【0005】、【0006】及び【図2】を参照のこと]。
そうすると、刊行物1には明記されていないものの、引用発明の水処理施設は当然、処理される水を受け入れる着水井を備えているといえる。そして、引用発明において、処理される水は着水井から粉末活性炭処理を経て凝集処理設備へ向かうものであるから、ポリ塩化アルミニウムを添加する処理液が着水井からのものであるといえることは明らかである。
したがって、<相違点1>は実質的な相違点ではない。

2.<相違点2>について
上記周知例A(【図2】)、周知例B(【0002】、【図2】)に示されるとおり、凝集沈澱工程の後段に砂ろ過等のろ過装置を設けることは、周知技術である。
してみると、引用発明において、凝集処理設備の後段に砂ろ過等のろ過装置を設けることは適宜なし得る周知技術の付加に過ぎず、ろ過装置を設けることにより、凝集処理した処理液中の浮遊物が除去されることは当業者にとって自明な事項である。

3.<相違点3>について
上記周知例A(【0002】、【0003】)には、浄水場等の水処理設備において、「粉末活性炭処理では、取水した原水を導いた着水井に粉末状の活性炭を注入する」ことが記載され、また、上記周知例B(【0005】、【0006】)には、「トリハロメタン及びその前駆物質、・・・その他有害物を除去することができる活性炭を、・・・着水井2等に投入し、これらの物質を除去するようにしている」ことが記載されている。
これら周知例A、Bに記載のとおり、粉末活性炭処理、凝集沈殿、砂ろ過をこの順序で行う浄水施設において、粉末活性炭処理の注入箇所は着水井とすることが普通であり(周知例Aの特に【図2】参照のこと。)、上記1.で述べたとおり、刊行物1には明記されていないものの、引用発明において当然備えられている着水井に活性炭が注入されることは明らかである。
したがって、<相違点3>は実質的な相違点ではない。

4.<相違点4>について
(1)刊行物1(記載事項1a)には、引用発明として認定した、水を粉末活性炭処理して、次いでこの処理液をポリ塩化アルミニウムで凝集処理する方法は、THMFP削減率が高く、且つ既存設備の大部分を活用できるという利点を持つが処理剤としての活性炭の価格が高く、且つ廃泥が多くなるとの欠点を有する旨記載されている。

(2)一方、刊行物2は、トリハロメタンの原因物質である有機物を粉末活性炭で除去する技術に関するものであり、活性炭でトリハロメタン前駆物質を除去する点で、引用発明と共通するものであるが、同刊行物には、原水の溶解性全有機炭素(DOC)濃度及び波長260nmにおける紫外線吸光度(E_(260))を連続的に測定し、これらの測定値から、第1図(実験的に、原水中のDOCとE_(260)及び原水のトリハロメタン生成能を測定した結果をもとに、横軸にE_(260)/DOC、縦軸にトリハロメタン生成能/DOC[μg/ml]をとったもの)により導かれた演算式に従い、演算されたトリハロメタン発生量予測値が厚生省の定めた暫定規準値(1980年)である0.1mg/l以上になった場合に、粉末活性炭注入機を作動させ、規定値(暫定基準値)と予測値の差に基づいた適量の粉末活性炭を導水管又は粉末活性炭接触池に導入することにより、活性炭の使用量を必要最小限に抑えて、トリハロメタンの発生を抑制することができることが記載されている(記載事項2a?2e)。
ここで「トリハロメタン生成能」とは、環境庁告示30号(公布日:平成7年6月16日)に基づく方法で測定され、一定の条件で塩素処理を行ったときに生成されるトリハロメタン量をいい、一定の条件下でその水がもつトリハロメタンの潜在的な生成量のことであるから、刊行物2に記載の「トリハロメタン発生量予測値」はトリハロメタン生成能の予測値に相当する。これは、トリハロメタン発生量予測値の演算式が導き出される基となる、刊行物2に記載の第1図の縦軸が「トリハロメタン生成能/DOC[μg/ml]」となっていることからも明らかである。
したがって、刊行物2には、原水の溶解性全有機炭素(DOC)濃度及び波長260nmにおける紫外線吸光度(E_(260))を連続的に測定し、DOCとE_(260)を指標として、これらの測定値から原水のトリハロメタン生成能(トリハロメタン前駆物質濃度)を算出し、トリハロメタン生成能の規定値と予測値との差に基づいた適量の粉末活性炭を注入すること、すなわち、規定値と、DOC及びE_(260)を指標とした実測に基づいて算出した予測値との差に応じた適量の粉末活性炭を注入することにより、活性炭の使用量を必要最小限に抑えて、トリハロメタンの発生を抑制することが記載されているといえる。
また、被処理水の水質が変化すれば、連続して測定されるDOC及びE_(260)の実測値が変化し、それらから算出される予測値は当然変化するから、それに伴い規定値と予測値の差に応じた粉末活性炭の適量も変化することは自明のことである。
そうすると、刊行物2には、活性炭の使用量を必要最小限にするために、DOCとE_(260)を指標として、DOC及びE_(260)を連続的に実測してトリハロメタン生成能を算出し、トリハロメタン生成能の規定値と予測値との差に応じた可変量の粉末活性炭を注入する、換言すれば、規定値と予測値との差に応じて粉末活性炭注入量を変化させて制御するという技術思想が開示ないし示唆されているといえる。

(3) また、刊行物3は、トリハロメタン生成能を低減する水処理制御システムに関するものであり、トリハロメタン生成能を削減する点で、引用発明と軌を一にするものであるが、その記載事項3aに「被処理水に対してオゾンを注入するオゾン注入部と、このオゾン注入部にオゾンを送るオゾン発生器とを有するオゾン注入装置の制御システムにおいて、オゾン注入部より上流側または下流側のいずれかに設けられ、流水の相対蛍光強度を測定する蛍光分析計と、蛍光分析計からの測定値に基づいてトリハロメタン生成能を低減させる必要オゾン注入率を求める蛍光強度データ処理装置と、流水の流量を測定する流水流量計と、オゾン発生器への送気ガス量を測定するガス流量計と、蛍光強度データ処理装置からの必要オゾン注入率と、流水流量計からの流水流量と、ガス流量計からの送気ガス量に基づいて発生オゾン濃度の目標値を求めるとともに、この発生オゾン濃度の目標値をオゾン発生器に出力するオゾン注入制御装置と、を備えたことを特徴とするオゾン注入装置の制御システム」が記載され、上記「蛍光強度データ処理装置」について、記載事項3b、3cによれば、「蛍光強度データ処理装置11には、相対蛍光強度とトリハロメタン生成能の関係式、オゾン注入率と相対蛍光強度の残存率(FLr)の関係式及び上記関係式を用いたトリハロメタン生成能の制御目標値(THMco)に対応した相対蛍光強度の制御目標値(FLco)が設定されており、前記FL1(相対蛍光強度の測定値)、FLco(相対蛍光強度の制御目標値)及びオゾン注入率と相対蛍光強度残存率の関係式を用いてFL1をFLco以下にするのに必要なオゾン注入率Drmを演算し、オゾン注入制御装置4に出力するようになっている」と記載されている。
ここで、オゾン注入制御装置が蛍光強度データ処理装置からの必要オゾン注入率と、流水流量計からの流水流量と、オゾン発生器への送気ガス量に基づいて発生オゾン濃度の目標値を求めて、この発生オゾン濃度の目標値をオゾン発生器に出力するということは、オゾン発生器への送気ガス量と発生オゾン濃度とを乗算するとオゾン発生量が導き出せ、この発生させたオゾンが被処理水に注入されるわけであるから、換言すると、オゾン注入制御装置は、必要オゾン注入率と流水流量に応じた量のオゾンを発生させて被処理水へのオゾン注入量を制御しているといえる。
そうすると、オゾンが被処理水中のトリハロメタン生成能を低減させる処理剤の1種であるといえることを勘案すれば、刊行物3には、「被処理水に対して処理剤を注入する処理剤注入部を有する処理剤注入装置の制御システムにおいて、被処理水中のトリハロメタン生成能を求めるための指標として相対蛍光強度を用い、処理剤注入部より上流側または下流側のいずれかに設けられ、流水の相対蛍光強度を測定する蛍光分析計と、蛍光分析計からの測定値に基づいてトリハロメタン生成能を低減させる必要な処理剤注入率を求める蛍光強度データ処理装置と、流水の流量を測定する流水流量計と、蛍光強度データ処理装置で求められた必要な処理剤注入率と、流水流量計からの流水流量に基づて処理剤の注入量を制御する処理剤注入制御装置と、を備え、蛍光強度データ処理装置は、相対蛍光強度とトリハロメタン生成能の関係式、処理剤注入率と相対蛍光強度の残存率の関係式、及びトリハロメタン生成能の制御目標値に対応した相対蛍光強度の制御目標値が設定されており、前記相対蛍光強度の測定値、相対蛍光強度の制御目標値及び処理剤注入率と相対蛍光強度残存率との関係式を用いて、相対蛍光強度の測定値を相対蛍光強度の制御目標値以下にするのに必要な処理剤注入率を演算し、処理剤注入制御装置に出力するようになっている処理剤注入装置の制御システム」が開示されているといえる。
そして、上記「相対蛍光強度の測定値を相対蛍光強度の制御目標値以下にするのに必要な処理剤注入率を演算」することは、相対蛍光強度を指標として間接的に被処理水中のトリハロメタン生成能(トリハロメタン前駆物質濃度)を測定し、当該測定値を制御目標値以下にするのに必要な処理剤注入率を演算していることに他ならない。

(4) してみると、上記(1)のとおりの活性炭の価格が高く廃泥が多いとの引用発明の問題点を解決するにあたり、上記(2)のとおり刊行物2に開示ないし示唆される、活性炭の使用量を必要最小限に抑えるためにトリハロメタン生成能の規定値と予測値との差に応じて粉末活性炭注入量を変化させて制御するという技術思想に鑑み、上記(3)のとおり刊行物3に開示される、相対蛍光強度を指標としたトリハロメタン生成能を低減する処理剤の注入装置の制御システムを採用することに、当業者が格別の創意を要したものとは認められない。

5.本願発明の効果について
本願発明が上記相違点にかかる構成をとることにより奏される、本願明細書に記載の「トリハロメタン生成能を低減させ、過剰な注入の抑制及び最適な運転制御を実現することができる」との効果も、引用発明、刊行物2、3に開示された事項及び周知技術に基き、当業者が予測し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。

6.平成24年9月24日付け意見書における請求人の主張について
請求人は同意見書において、以下のように主張しているので検討する。
(1)ア「刊行物2において、粉末活性炭の添加量については、DOC、E260からどのように添加量を可変にするかについての記載はない。
この点から、刊行物2からは活性炭の使用量を可変としながら必要最小限に抑えることができる旨、読み取ることができない。」(同意見書2頁8?11行)

イ「刊行物3で用いられるオゾンでは水中の処理対象物を酸化分解するのに対し、本願発明で用いられる活性炭は水中の処理対象物を吸着除去するものであり、両者の作用効果は全く異なる。また両者の処理対象物は互いに異なっており、オゾンにより酸化分解された水と、活性炭による吸着処理された水では水中の成分は異なる。
・・・参考文献(水道施設設計指針、解説1990第2版(1991年3月20日発行)p.284、315)には、オゾン処理では「トリハロメタン前駆物質も減少しないこともある」、「オゾン注入率が低いと、トリハロメタン前駆物質が増加することもある」との記載があり、このことからオゾンを注入した結果、必ずしもトリハロメタン生成能が減少するとは限らない。
一方、本願発明による活性炭処理では、水中の物質の吸着処理をしており、注入率の増加に伴い吸着量が増加する。即ち、相対蛍光強度もトリハロメタン生成能も本願の【図3】のように活性炭の注入率増加に伴い低下(減少)する。従って、本願発明のように、【図2】、【図3】の関係を元に制御することで、トリハロメタン生成能を目標値になるよう制御することができる。
この点を本願の発明者らは本願発明に至る過程でつきとめた。
以上説明したように、本願発明と刊行物3とを比較する場合、オゾン処理と活性炭処理の処理機構が異なる点を考慮する必要があり、オゾンと活性炭の置換えだけでは本願発明を実現することは不可能である。このことから、活性炭が“トリハロメタン生成能を低減させる処理剤”であるからといって、オゾンと活性炭を単に置換えただけで本願発明に至るものではない。」(同意見書2頁35行?3頁8行)

(2)請求人の上記主張アに対して
刊行物2にはトリハロメタン前駆物質の規定値と予測値との差に応じて粉末活性炭注入量を変化させて制御するという技術思想が開示ないし示唆されていることは、上記4.の(1)(2)で述べたとおりである。
規定値と予測値との差に応じて粉末活性炭注入量を変化させる変化のさせ方は、例えば、規定値と予測値との差が大きければ粉末活性炭注入量を多くするというような方法をとればよいことは当業者であれば普通に想起できるものである。

(3)請求人の上記主張イに対して
トリハロメタン前駆物質の低減化方法として、粉末活性炭による低減化処理がオゾンを用いた低減化処理と同様にこの出願前周知技術であることは、上記刊行物1、2に加えて、多田弘、大戸時喜雄、「トリハロメタンの検出と低減化技術」富士時報、Vol.71、No.56、1998、342?346頁(特に、343頁右欄?344頁左欄の「5.トリハロメタン低減化対策の現状」の項、参照のこと。)に記載されるとおりである。
そして、その低減化のメカニズムが、オゾンの場合にはトリハロメタン前駆物質である有機物の酸化・分解であるが、活性炭の場合にはトリハロメタン前駆物質である有機物の吸着除去であることは化学常識であるから、活性炭を用いた場合は、活性炭の注入量(注入率)の増加に伴いトリハロメタン前駆物質の吸着量が増加することは当業者であれば自明の事項であって、活性炭の注入量とトリハロメタン前駆物質吸着量との間に相関関係があることは当業者が容易に予測できることである。
そうであるところ、刊行物3の開示は、相対蛍光強度はトリハロメタン前駆物質濃度の指標となるので、この相対蛍光強度を測定してトリハロメタン前駆物質濃度を間接的に検出してそれに見合った処理剤を注入制御するというものであるから、このような相対蛍光強度を用いたトリハロメタン前駆物質濃度の検出手法が、オゾン処理の場合は利用できるが活性炭処理では利用できないというような格別な事情は見当たらない。
してみると、上記4.(2)のとおり、活性炭を用いる場合にトリハロメタン前駆物質の規定値と予測値との差、すなわち、除去すべきトリハロメタン前駆物質量に相当する分だけ粉末活性炭を注入する技術思想が知られている以上、活性炭処理においても、トリハロメタン前駆物質濃度を算出するための指標として刊行物3に開示される相対蛍光強度を採用することは、当業者が容易に想到し得ることといわざるを得ない。

(4)請求人は「本願発明のように、【図2】、【図3】の関係を元に制御することで、トリハロメタン生成能を目標値になるよう制御することができる。この点を本願の発明者らは本願発明に至る過程でつきとめた。」と主張しているので、本願明細書の記載をみると、
「【0026】蛍光分析計7では、原水の相対蛍光強度が常時測定され、測定値FL1として活性炭注入率演算装置8に常時出力される。活性炭注入率演算装置8には、相対蛍光強度とトリハロメタン生成能の関係式、活性炭注入率と相対蛍光強度の残存率(FLr)の関係式、及び上記関係式を用いたトリハロメタン生成能の制御目標値(FLco)が設定されており、前記FL1をFLco以下にするのに必要な活性炭注入率(Drm1)を演算し、活性炭注入制御装置9に出力する。
【0027】図2は、相対蛍光強度とトリハロメタン生成能の関係の一例を示す図である。また、図3は、活性炭注入率と相対蛍光強度の残存率(FLr)の関係の一例を示す図である。
【0028】活性炭注入制御装置9では、流量計6の計測値と活性炭注入率演算装置8からの活性炭注入率(Drm1)を入力として、活性炭注入量目標値Psを演算し、このPsに基づいて活性炭を注入するFF(フィード・フォワード)制御を活性炭注入部4aに対して実施する。
【0029】以上のような方法により、原水の相対蛍光強度から活性炭注入率演算装置8において目標とする活性炭注入率を算出し、注入量をFF制御することで、トリハロメタン生成能低減に使用する活性炭注入量を必要最小限にすることができる。」
との記載がある(他の記載箇所も上記【0026】?【0029】の記載と同内容である。)ものの、上記記載は、活性炭注入率と相対蛍光強度の残存率(FLr)の関係式が設定されている旨の記載に留まり、具体的な関係式を示すものではない。活性炭注入率と相対蛍光強度の残存率(FLr)の関係について具体的に記載されるのは【図3】のみであるところ、以下のとおり、【図3】の活性炭注入率を示す横軸には、単位はおろか目盛りの数値さえ示されていない。



したがって、本願明細書の記載を見る限り、本願発明において、活性炭注入率と相対蛍光強度の残存率との間に当業者が予期できないような新たな関係式を見出して、それに基づいて活性炭注入量を制御しているとはいえない。

(5)以上検討したとおり、請求人の上記主張はいずれも採用できない。

第7 まとめ
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2、3に開示ないし示唆された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本願は拒絶すべきものであり、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-06 
結審通知日 2012-11-09 
審決日 2012-11-20 
出願番号 特願2000-365858(P2000-365858)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中澤 登  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 小川 慶子
斉藤 信人
発明の名称 蛍光分析計を用いた水処理制御システム  
代理人 磯貝 克臣  
代理人 永井 浩之  
代理人 岡田 淳平  
代理人 吉武 賢次  
代理人 勝沼 宏仁  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ