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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1268117
審判番号 不服2009-23524  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-30 
確定日 2013-01-04 
事件の表示 特願2006-510064「炭素13ラベル化バイオマス生産方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年11月4日国際公開、WO2004/093922、平成18年11月30日国内公表、特表2006-526987〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年4月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年4月16日、米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成20年5月30日付けで拒絶理由が通知され、同年12月3日に手続補正がなされるとともに意見書が提出され、さらに、同年12月26日付けで拒絶理由が通知され、平成21年7月2日に手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが、同年7月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月30日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成22年1月20日付けで審判請求理由の手続補正書(方式)と上申書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?15に係る発明は、平成21年7月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項11に係る発明は以下のとおりのものである。

「【請求項11】^(13)Cの標的用量に達成するために十分である、実質的に均質に炭素-13ラベルされた藻の量を含み、ここで、前記藻が凍結乾燥されている、バルク薬剤。」(以下、「本願発明」という。)

第3 引用例の記載事項及び引用発明
1 原査定に引用された本願の優先日前である2000年6月13日に頒布された刊行物である「特表2000-507264号公報」(原査定の引用文献2。以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。なお、以下、下線は当審で付した。

(1a)「5.酸化されたとき、患者の呼吸の^(N)CO_(2)含量の検出可能な上昇を生ずるように、ベーキング前に^(N)CO_(2)(ここでNは数13および14の1つである)が高い雰囲気中の生長させた光合成の単細胞生物を添加したビスケットを含んでなる、胃内容排出試験と組合わせて患者が摂取するために適合した食品。
6.生物が食用藻類である、請求項5に記載の食品。
7.前記藻類がスピルリナ・プラテンシス(Spirulina Platensis)である、請求項6に記載の食品。」(特許請求の範囲)

(1b)「これらおよび他の目的は、本発明の概念に従い、固有的に標識化された単細胞生物を固相食事のマーカーとして使用する、胃内容排出を測定する方法および手段を提供することによって達成される。固有的に標識化された単細胞マーカー生物、タンパク質、脂質または炭水化物をベーキングされた生成物の中に混入し、この生成物を患者は摂取する。マーカー生物を含有する生成物は、好ましくは、その中に食用光合成藻類、例えば、約99%の^(13)CO_(2)の雰囲気中で生長させたスピルリナ・プラテンシス(Spirulina Platensis)を有するビスケットである。藻類を含む独特な組成を有するビスケットは、好ましくは、脂肪を含有するスプレッドおよび少量の果汁の飲み物とともに包装される。基線測定を確立する呼吸試料を集めることができるように、ある期間の間断食した後、患者はビスケットおよびスプレッドおよびジュースを消費し、次いで呼吸試料をほぼ10分の間隔で数時間にわたって集める。これらの試料の^(13)CO_(2)含量のデータを基線のデータと比較して、分析しかつ胃内容排出時間を計算し、これから異常な排出の診断を行うことができる。」(5頁12?25行)

(1c)「本発明によれば、胃内容排出試験を開始するために咀嚼しそして嚥下すべき固体状食物は、練り粉の処方物から作られ、約150カロリーを有する食用ビスケットである。ビスケットは、炭水化物、タンパク質、脂肪および成分の独特の組合わせを提供する量の^(13)Cスピルリナ(Spirulina)を含有する。藻類は光合成的であり、約99%の^(13)CO_(2)の雰囲気中で生長させ、こうして、光合成プロセスの結果として、藻類の中に含有されるすべての炭素原子は^(13)Cである。スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)は単細胞生物であり、そして検出可能な試験シグナルを生成するために要求される量は小さい。藻類はベーキング前に練り粉(ドウ)混合の中に混入される。本発明のビスケットは、好ましくは、クリームチーズ、ピーナッツバターまたは他の脂肪を含有するスプレッドの個々の部分、および食事の合計のカロリー値を約300とする果汁の小さい部分とともに包装される。
4つの本発明によるビスケットの処方物は、下記の成分を使用して製造することができる:
100gのコムギ粉
50gのライムギ粉
90mlの冷いコーヒー
10gのシロップ
3gの乾燥イースト
4gの塩
4gのアニス種子
2gの乾燥した均一に^(13)C標識化されたスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)
スピルリナ(Spirulina)をコムギ粉およびライムギ粉と一緒に篩分けし、1クォートの金属ボウルの中でシロップをコーヒー中に溶解し、酵母、塩およびアニス種子を添加することによって、上記成分を準備する。次いで、コムギ粉およびライムギ粉を液体に段階的に添加し、加工してドウのボールにする。ドウのボールを約5分間混練し、次いで4つの等しい片に分割し、これらをロールがけし、ボールにし、非粘着性パンの中に入れる。ボールを平らにして丸いロールにし、これらを加温位置に約45分間上昇させる。ロールを325°Fに予熱した炉の中で約25分間ベーキングし、次いで個々のパイント-サイズのフリーザーバッグの中に貯蔵し、フリーザー中で-20℃において使用するまで冷却する。」(6頁5行?7頁10行)

2 引用例の上記(1a)及び(1c)の記載によれば、引用例には、
「胃内容排出試験と組合わせて患者が摂取するために用いられる、乾燥した均一に^(13)C標識化された食用藻類であるスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

第4 対比
そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

1 藻について
本願発明の「藻」は、請求項13の「前記藻が食用の藻類である、請求項11または12に記載のバルク薬剤。」、及び請求項14の「前記藻がスピルリナプラテンシス(Spirulina platensis)藻類である、請求項13に記載のバルク薬剤。」からみて、食用藻類であるスピルリナプラテンシス(Spirulina platensis)藻類を含むものである。
よって、引用発明の「食用藻類であるスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)」は、本願発明の「藻」に相当する。

2 炭素-13ラベルについて
引用発明の「均一に^(13)C標識化された」藻は、本願発明の、「実質的に均質に炭素-13ラベルされた」藻に相当する。

3 ^(13)Cの標的用量に達成するために十分である、実質的に均質に炭素-13ラベルされた藻の量について
本願明細書には、以下のような記載がある。
「^(13)Cを用いる診断検査の重要な観点は、投与した^(13)Cの量を正確に理解しなければならないことである。・・・これは、藻類S.プラテンシス(S.platensis)の3つの異なる量の^(13)Cラベル標的用量を表す、表1中に示されている。^(13)Cラベル化S.プラテンシス(S.platensis)バイオマスの量は、以下の方程式により決定される^(13)Cの標的用量を達成するように投与する必要がある:
標的用量mg^(13)C÷(^(13)C-原子%×炭素%)=mg〔^(13)C〕-S.プラテンシス(S.platensis)
以下の表1は、使用する方程式のいくつかの例を提供する。
【表1】

本発明の利点は、本発明の方法を用いて調製したバイオマスは、予測できる炭素及び^(13)C導入レベルにより実質的に均質にラベルされるから、バイオマスからの標的用量の決定を単純化することにある。S.プラテンシス(S.platensis)を利用する態様のため、当該炭素含有量は、一般的に上記の表に示す通り約42%であり、そして^(13)C導入は約95%だろう。」(段落【0019】?【0021】)
この記載から、例えば^(13)Cラベル化S.プラテンシス(S.platensis)バイオマスを用いる場合、これを200mg投与すると、バイオマス中の炭素の重量%(約42%)と、^(13)C炭素の原子%(^(13)C導入は約95%)から、200mg×0.42×0.95=79.8mgの標的用量となる、すなわち、80mgの標的用量を得るために必要なバイオマスの量は200mgであることが示されている。
そうすると、本願発明の「^(13)Cの標的用量に達成するために十分である、実質的に均質に炭素-13ラベルされた藻の量」とは、標的用量が定まるとそれに応じて定まる量であるといえる。
他方、引用例には、上記(1b)に「これらおよび他の目的は、本発明の概念に従い、固有的に標識化された単細胞生物を固相食事のマーカーとして使用する、胃内容排出を測定する方法および手段を提供することによって達成される。固有的に標識化された単細胞マーカー生物、タンパク質、脂質または炭水化物をベーキングされた生成物の中に混入し、この生成物を患者は摂取する。マーカー生物を含有する生成物は、好ましくは、その中に食用光合成藻類、例えば、約99%の^(13)CO_(2)の雰囲気中で生長させたスピルリナ・プラテンシス(Spirulina Platensis)を有するビスケットである。」と記載されている。
ここには、胃内容排出試験の^(13)Cマーカーとして食用光合成藻類であるスピルリナ・プラテンシス(Spirulina Platensis)をビスケットの形態にして用いることは記載されているが、どの程度の量の藻を使用するのかについては記載されていない。
そうすると、引用発明の「胃内容排出試験と組合わせて患者が摂取するために用いられる」「食用藻類であるスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)」は、標的用量並びに藻の量について特に限定されていないものの、胃内容排出試験に用いるマーカーとして使用できる量の藻が用いられていることは明白である。
したがって、引用発明の「胃内容排出試験と組合わせて患者が摂取するために用いられる」「食用藻類であるスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)」と、本願発明の「^(13)Cの標的用量に達成するために十分である、実質的に均質に炭素-13ラベルされた藻の量」とは、「所定の量の、実質的に均質に炭素-13ラベルされた藻の量」という点で共通する。

4 凍結乾燥について
引用発明の「乾燥した」藻と、本願発明の「ここで、前記藻が凍結乾燥されている」とは、「藻が乾燥されている」点で共通する。

5 バルク薬剤について
引用例には、「乾燥した均一に^(13)C標識化された食用藻類であるスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)」が薬剤であるとの直接の言及はないが、「胃内容排出試験と組合わせて患者が摂取するために用いられる」のであるから、薬剤として用いられているといえる。
よって、引用発明の「胃内容排出試験と組合わせて患者が摂取するために用いられる、乾燥した均一に^(13)C標識化された食用藻類であるスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)」と、本願発明の「バルク薬剤」とは、「薬剤」という点で共通する。

6 小括
以上のことから、両者は、以下の一致点、及び相違点1?3を有する。

一致点:「所定の量の、実質的に均質に炭素-13ラベルされた藻の量を含み、ここで、前記藻が乾燥されている、薬剤」

相違点1:「乾燥」が、本願発明では、「凍結乾燥」であるのに対し、引用発明では、乾燥手段が特定されていない点。

相違点2:「薬剤」が、本願発明では、「バルク薬剤」であるのに対し、引用発明では、薬剤であるもののバルク薬剤とは特定されていない点。

相違点3:「所定の量」が、本願発明では、「^(13)Cの標的用量に達成するために十分である」藻の量であるのに対し、引用発明では、胃内容排出試験に用いるマーカーとして使用できる藻の量である点。

第5 判断
1 相違点1について
引用例には、上記(1c)に「乾燥した均一に^(13)C標識化されたスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)」と記載されているが、どのような手段により乾燥したかは記載されていない。
しかしながら、培養した藻類を回収して凍結乾燥することは普通に行われていると認められるところ、食品分野に利用されるスピルリナ・プラテンシスを凍結乾燥することも知られている(特開平8-9940号公報の段落【0008】?【0009】の「本発明で用いるスピルリナとしては、例えば、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)、・・・等が挙げられる。熱水抽出に用いるスピルリナ藻体は、湿藻体、凍結乾燥藻体、・・・」及び段落【0014】の「従って本製造法によるスピルリナ抽出液は、最適な清涼飲料剤加工用原液として用いることが出来る。」との記載、特開2001-37444号公報の【特許請求の範囲】の「【請求項1】スピルリナとマコモそれぞれの乾燥物の組合せを必須とする食品組成物。」、段落【0014】の「本発明で用いるスピルリナは、藍藻類紐子目スピルリナ属スピルリナの中で、従来食用されてきた何れの種類の使用も可とするが、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina Platensis)、・・・等の使用を好適とする。」及び段落【0017】の「[実施例]凍結乾燥し粉砕し100メッシュで篩過したスピルリナ・プラテンシスと」との記載、及び特開2002-249437号公報の【特許請求の範囲】の「【請求項1】キノコ類と、米胚芽大豆発酵抽出物と、藻類とを含有することを特徴とする健康増進剤組成物。」、段落【0023】の「スピルリナは、微細なラセン藻であり、例えば、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)、・・・等が挙げられる。・・・このスピルリナを含有させる場合には、スピルリナを乾燥(凍結乾燥、減圧乾燥又は熱風乾燥)させた後に粉砕した乾燥粉末」との記載参照)。
よって、乾燥を凍結乾燥と特定することは容易になし得たことである。

2 相違点2について
バルク薬剤とは、一般に最終薬剤製品とする前の薬剤を意味する。
一方、引用例の上記(1b)には、「固有的に標識化された単細胞マーカー生物、タンパク質、脂質または炭水化物をベーキングされた生成物の中に混入し、この生成物を患者は摂取する。マーカー生物を含有する生成物は、好ましくは、その中に食用光合成藻類、例えば、約99%の^(13)CO_(2)の雰囲気中で生長させたスピルリナ・プラテンシス(Spirulina Platensis)を有するビスケットである。」と記載されており、最終的な薬剤製品であるビスケットを作成する工程として、「固有的に標識化された単細胞マーカー生物、タンパク質、脂質または炭水化物をベーキングされた生成物の中に混入」する工程、すなわち、ビスケットの材料に標識化されたスピルリナ・プラテンシス(Spirulina Platensis)を混入する工程が記載されている。
そうすると、混入前の「スピルリナ・プラテンシス(Spirulina Platensis)」は、最終薬剤製品であるビスケットに他の材料とともに混合される一種のバルク薬剤ということができ、相違点2は実質的な相違点ではない。

ここで、本願明細書には、本願発明のバルク薬剤が最終薬剤製品とする前の薬剤であることとともに、以下のようにも説明されているので、仮に、本願発明のバルク薬剤が本願明細書に記載されているようなものを意味すると解釈した場合についても検討しておく。
すなわち、本願発明の「バルク薬剤」について、本願明細書には、「本発明は、特にヒト及び動物の疾患又は生理学的機能障害の評価及び/又は診断のための最終薬剤製品へと製剤化され得る^(13)Cラベル化バイオマスバルク薬剤を提供する。」(段落【0010】)、「当該方法の更なるステップは、バイオマスを凍結乾燥させること、及び最終薬剤製品における単位投与のために適した単一形態のバルク薬剤へバイオマスを粉砕することを含んでよい。」(段落【0015】)、「当該藻類バイオマスは、凍結乾燥され、且つバルク薬剤へと粉砕され得る(薬剤原料はまだ最終薬剤製品へ製剤化されてない)。」(段落【0016】)、「本明細書において使用されるバルク薬剤は、最終薬剤製品の活性成分となる薬剤の生産において使用する場合、薬剤製品の製造における使用を意図した物質(例えば^(13)C-ラベル化スピルリナ(Spirulina)バイオマス)を意味する。」(段落【0024】)のように記載されている。
また、「本発明のバイオマスを含むバルク薬剤は、本明細書において組み入れられた開示、米国特許No.5,785,949において発表された胃内容排出呼気検査(GEBT)において用いるために適している。」(段落【0057】)、「藻類は呼気検査中で消化源として有用であることが見出された微生物である。・・・かかる有機体を使用すれば、それらをビスケットのような食料品に導入することにより、診断的及び生理学的測定のために容易に取り入れられる。」(段落【0006】)と記載されている。
そして、バイオマスについては、「本明細書において使用される用語“バイオマス”とは、例えば植物細胞、及び微生物(藻類を含む)のような光合成生育が可能な、液相で生育可能な単細胞性又は多細胞性形態にある全ての有機体を含む。」(段落【0023】)と説明されている。
これらのことからすると、本願発明の「バルク薬剤」は、胃内容排出呼気検査に使用するビスケットなどの最終薬剤製品へと製剤化する前の薬剤であって、藻からなるバイオマスが凍結乾燥され、粉砕されたものといえる。
そこで検討するに、引用例の上記(1c)には、「スピルリナ(Spirulina)をコムギ粉およびライムギ粉と一緒に篩分けし」と記載されているとおり、スピルリナ・プラテンシスは、小麦粉やライ麦粉とともに篩分けできる程度の粒度の乾燥粉体を用いているといえる。
また、引用例のスピルリナ・プラテンシスは、特段の処理を行ったことが示されていないことから、培養した藻類を回収したバイオマスといえる。
そして、上記「1 相違点1について」で検討したとおり、引用発明の標識化されたスピルリナ・プラテンシス(Spirulina Platensis)として、凍結乾燥したものを用いること、さらには、それを粉砕して小麦粉やライ麦粉とともに篩分けできる程度の粒度のものとすることは格別なことでなく(上記特開2001-37444号公報、特開2002-249437号公報の記載参照)、標識化された藻類からなるバイオマスを凍結乾燥し、粉砕したものをビスケットに混入すること、すなわち、本願明細書で説明されているようなバルク薬剤として用いることは、当業者が容易になし得たことである。

3 相違点3について
引用例の上記(1c)には、「本発明によれば、胃内容排出試験を開始するために咀嚼しそして嚥下すべき固体状食物は、練り粉の処方物から作られ、約150カロリーを有する食用ビスケットである。ビスケットは、炭水化物、タンパク質、脂肪および成分の独特の組合わせを提供する量の^(13)Cスピルリナ(Spirulina)を含有する。・・・本発明のビスケットは、好ましくは、クリームチーズ、ピーナッツバターまたは他の脂肪を含有するスプレッドの個々の部分、および食事の合計のカロリー値を約300とする果汁の小さい部分とともに包装される。」と記載されており、ビスケットは、決められたカロリーとなるように包装されていることが理解される。
さらに、上記(1c)には、次のように記載されている。
「4つの本発明によるビスケットの処方物は、下記の成分を使用して製造することができる:
100gのコムギ粉
50gのライムギ粉
90mlの冷いコーヒー
10gのシロップ
3gの乾燥イースト
4gの塩
4gのアニス種子
2gの乾燥した均一に^(13)C標識化されたスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)
スピルリナ(Spirulina)をコムギ粉およびライムギ粉と一緒に篩分けし、1クォートの金属ボウルの中でシロップをコーヒー中に溶解し、酵母、塩およびアニス種子を添加することによって、上記成分を準備する。次いで、コムギ粉およびライムギ粉を液体に段階的に添加し、加工してドウのボールにする。ドウのボールを約5分間混練し、次いで4つの等しい片に分割し、これらをロールがけし、ボールにし、非粘着性パンの中に入れる。ボールを平らにして丸いロールにし、これらを加温位置に約45分間上昇させる。ロールを325°Fに予熱した炉の中で約25分間ベーキングし、次いで個々のパイント-サイズのフリーザーバッグの中に貯蔵し、フリーザー中で-20℃において使用するまで冷却する。」
このことから、ビスケットのドウは、所定の大きさとなるよう等しく分割され、ベーキングされたビスケットは必ず等しい製品となることが理解される。
そうすると、引用例に記載の胃内容排出試験は、患者が包装された等しい重量のビスケットを食べることによって行われていることとなり、試験中に食べられるビスケットに含まれる「スピルリナ・プラテンシス」の藻の量、及び、「^(13)C標識化されたスピルリナ・プラテンシス」の量は一定量となる。

また、引用例の上記(1b)に「これらおよび他の目的は、本発明の概念に従い、固有的に標識化された単細胞生物を固相食事のマーカーとして使用する、胃内容排出を測定する方法および手段を提供することによって達成される。」と記載されていることから、「^(13)C標識化されたスピルリナ・プラテンシス」は、マーカーとして使用されるものである。そして、その測定手段は、上記(1b)の「基線測定を確立する呼吸試料を集めることができるように、ある期間の間断食した後、患者はビスケットおよびスプレッドおよびジュースを消費し、次いで呼吸試料をほぼ10分の間隔で数時間にわたって集める。これらの試料の^(13)CO_(2)含量のデータを基線のデータと比較して、分析しかつ胃内容排出時間を計算し、これから異常な排出の診断を行う」という方法によるものである。
この測定原理からみて、「^(13)C標識化されたスピルリナ・プラテンシス」に含まれる^(13)Cの絶対量が測定に影響を与えることは自明な事項である。
一般に、測定は常に同じ条件下で行うと正確であることは技術常識であり、「^(13)C標識化されたスピルリナ・プラテンシス」に含まれる^(13)Cの絶対量、すなわち、本願発明でいう「^(13)Cの標的用量」を一定量とすべく、用いる「^(13)C標識化されたスピルリナ・プラテンシス」の藻の量を、上記(1b)記載の「藻類の中に含有されるすべての炭素原子は^(13)Cである」ことから計算して決め、上記相違点3に記載の本願発明の特定事項のごとくする程度のことは、当業者が適宜なし得た事項といえる。

4 本願発明の効果について
藻の含有量や乾燥法を本願発明のように特定することによって、引用例に記載の事項に比べて予測もできない効果を奏したものともいえない。

なお、審判請求人が平成21年7月2日付けで提出した意見書に、「従来、当業者は、標識された藻を凍結乾燥することはできず、よって、薬物としての使用のために標識された藻を標準化することは困難でした。凍結乾燥によって多くの利益がもたらされ、藻を標準化し、藻マスの一貫した、信頼できる量を薬物に組み込むことが可能です。」と主張しているが、本願明細書には、標識された藻を凍結乾燥できないことについて説明されておらず、また、前記意見書にも具体的な理由は示されていない。
そして、本願明細書には、凍結乾燥の利点として、段落【0055】に非常に低い水含有レベルとすることができ、バクテリアやカビなどの生育を抑制し得ることが説明されているに過ぎず、格別な利点ということもできないから、前記意見書の主張を参酌しても、本願発明が格別な効果を奏するものということはできない。

さらに念のため付言するに、本願明細書の記載を参酌すると、炭素源として^(13)CO_(2)ガスを使用するのではなく、[^(13)C]-重炭酸ナトリウム塩のような水溶性炭素-13ラベル化固体炭素源を用いる点に特徴があるともいえる(段落【0007】?【0009】参照)。
しかしながら、本願発明は、ラベル化方法を特定するものではなく、しかも、「バルク製剤」、すなわち物の発明であるから、この点が相違点となることはない。
しかも、スピルリナ・プラテンシスのような光合成生物は、炭素源としてCO_(2)とHCO_(3)^(-)とを同等に利用してこれらを取り込むことができるものであるから、得られる^(13)C標識された藻自体が、炭素源の違いによって相違するとはいえない(必要ならば、日本醗酵工学会大会講演要旨集、昭和44年度、128?131頁、特に129頁右欄1?17行参照)。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

第7 付記
審判請求人は、平成22年1月20日付けで提出した審判請求理由の手続補正書(方式)と上申書に、「本件出願人は、拒絶理由を含まない請求項1?10及び15についてのみを維持し、請求項11?14を削除したいという意向です。本来であれば、審判請求と同時に手続補正により請求項11?14を削除すべきでしたが、審判請求時には、本件出願人の意向が確定しておりませんでした。従いまして、請求項11?14を削除するための手続補正の機会を与えて下さいますようお願い申し上げます。」と記載しているので、この点についても付記しておく。

特許法17条の2第1項4号に、拒絶査定に対する審判請求人は、拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時にするとき願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をする機会が与えられているが、審判請求人は、平成21年11月30日の拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正書を提出することなく、先のとおり補正の機会を求めたものである。
審判請求人には補正の機会が既に与えられており、それにも係わらず別途補正の機会を与えることは、審判手続の公平性を甚だしく損なうものであり特許法の予定とするところではない。
したがって、補正の機会を与える必要はない。

ただし念のため、請求項1?10及び15についてのみを維持し、請求項11?14を削除したと仮定して、その場合について付記しておく。

本願請求項1?11及び本願請求項15に係る発明は、唯一の炭素源として水溶性炭素-13ラベル化固体炭素源を用いる点に特徴を有する点で共通している。
この炭素源は、明細書の実施例などで使用されている[^(13)C]-重炭酸ナトリウムを含むものである。
そして、従来技術で採用されていた^(13)CO_(2)ガスを使用しないことを課題としている。
しかしながら、スピルリナ・プラテンシスを^(13)Cの炭素同位体で標識化する方法において、^(13)CO_(2)、^(13)C標識化炭酸塩類及び^(13)C標識化重炭酸塩類のうちの1種または2種以上を同等の炭素源として利用できること、具体的に^(13)C標識化重炭酸ナトリウム(NaH^(13)CO_(3))を炭素源として藻類を培養できることは、特開平7-227295号公報に記載されている(特許請求の範囲、実施例1など参照)。
よって、請求項11?14を削除しても、本願発明が拒絶の理由を有しないとすることはできない。
 
審理終結日 2012-07-23 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-21 
出願番号 特願2006-510064(P2006-510064)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三原 健治  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 鵜飼 健
関 美祝
発明の名称 炭素13ラベル化バイオマス生産方法  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 武居 良太郎  
代理人 福本 積  
代理人 中村 和広  

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