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審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C12N 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1268118 |
審判番号 | 不服2010-377 |
総通号数 | 158 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-02-22 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-01-08 |
確定日 | 2013-01-04 |
事件の表示 | 特願2003- 43281「癌診断に関する物および方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 2月 5日出願公開、特開2004- 33210〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成15年2月20日(パリ条約による優先権主張2002年2月20日 英国、及び特許法第41条に基づく優先権主張 2002年(平成14年)5月2日 特願2002-130927号)を出願日とする出願であって、平成21年5月25日付で手続補正がなされたが、同年8月31日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成22年1月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。 第2 平成22年1月8日付の手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年1月8日付の手続補正を却下する。 [理由] 1.補正後の本願発明 上記補正により、請求項1は、補正前の 「【請求項1】エストロゲン受容体(ER)の状態に基づいて乳房腫瘍細胞を判別するためのin vitro評価方法であって、以下の段階: (a)乳房腫瘍細胞から発現産物を取得し、 (b)該発現産物を、表5aにおいて同定される遺伝子に対応する発現産物に結合し得る結合メンバーと接触させ、そして (c)該乳房腫瘍細胞からの発現産物の、1以上の結合メンバーへの結合に基づいてER状態によって乳房腫瘍を判別する、ことを含む、上記方法。」 から、 「【請求項1】エストロゲン受容体(ER)の状態に基づいて乳房腫瘍細胞を判別するためのin vitro評価方法であって、以下の段階: (a)乳房腫瘍細胞から発現産物を取得し、 (b)該発現産物を、表5aから同定されるカルボニックアンヒドラーゼXII、腸三葉(trefoil)因子3、乳癌由来のエストロゲン誘導性三葉因子1、エストロゲン受容体1、シトクロムP450(サブファミリーIIB、フェノバルビタール誘導性、ポリペプチド6)、N-アセチルトランスフェラーゼ1(アリールアミンN-アセチルトランスフェラーゼ)、推定タンパク質FLJ12910、LAG1長命保証ホモログ2(S. cerevisiae)、三裂(tripartite)モチーフ含有2及びsplit1のトランスデューシン様エンハンサー(E(sp1)ホモログ、ショウジョウバエ)の10種の遺伝子に対応する発現産物に結合し得る結合メンバーと接触させ、そして (c)該乳房腫瘍細胞からの発現産物の、上記結合メンバーへの結合に基づいてER状態によって乳房腫瘍を判別し、カルボニックアンヒドラーゼXII、腸三葉(trefoil)因子3、乳癌由来のエストロゲン誘導性三葉因子1、エストロゲン受容体1、シトクロムP450(サブファミリーIIB、フェノバルビタール誘導性、ポリペプチド6)、N-アセチルトランスフェラーゼ1(アリールアミンN-アセチルトランスフェラーゼ)、推定タンパク質FLJ12910及びLAG1長命保証ホモログ2(S. cerevisiae)の遺伝子発現産物のアップレギュレーション並びに三裂(tripartite)モチーフ含有2及びsplit1のトランスデューシン様エンハンサー(E(sp1)ホモログ、ショウジョウバエ)の遺伝子発現産物のダウンレギュレーションがER+腫瘍であることを示す、ことを含む、上記方法。」 へと補正された。 2.新規事項の追加について (1)本件補正 本件補正は、補正前の請求項に記載した発明を特定するための事項である、段階(b)の発現産物を接触させる結合メンバーについて、補正前の「表5aについて同定される遺伝子に対応する発現産物に結合し得る結合メンバー」を、表5aに示された25種の遺伝子のうち、特定の10種の遺伝子に対応する発現産物に結合し得る結合メンバーへと補正するものであり、また、段階(c)の乳房腫瘍の判別について、補正前の「1以上の結合メンバーへの結合に基づいて」判別するのを、上記特定の10種の遺伝子に対応する発現産物に結合し得る結合メンバーへの結合に基づいて判別するものへと補正するものである。 (2)本願明細書の記載 この出願の願書に最初に添付した明細書および図面(以下、「当初明細書等」という。)の段落【0069】には、「本発明の全ての態様と同様に、決定された遺伝子セット(表6bを除く表2?7)から選択された複数の遺伝子は実際の数が変動し得る。本発明を実施するためには、少なくとも5遺伝子、より好ましくは少なくとも10遺伝子を使用することが好ましい。」と記載されている。 (3)判断 当初明細書等の段落【0069】には、表5aから選択される遺伝子として、単に「より好ましくは少なくとも10遺伝子を使用することが好ましい。」と記載されているのみであって、当初明細書等には10種の遺伝子として具体名は記載されておらず、補正後の請求項1に記載される特定の10種の遺伝子に対応する発現産物に結合し得る結合メンバーと接触させ、それらの特定の10種の結合メンバーへの結合に基づいて、ER+腫瘍であるかどうかを判別することは、当初明細書等には記載されていない。また、これらの事項が当業者にとって自明な事項であるとも認められない。 そして、どのような遺伝子の組み合わせに基づいて乳房腫瘍のER状態の判別を行うかによって、判別結果に大きな影響があることは技術常識であるから、判別を実施する結合メンバーを、特定の10種の結合メンバーへと補正する補正事項は、出願当初明細書等に記載されている事項ではなく、出願当初の明細書又は図面のすべてを総合することによって導かれる技術的事項との関係で、新たな技術的事項を導入するものといえるから、新規事項を追加するものである。 3.むすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 1.本願発明 平成22年1月8日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年5月25日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】エストロゲン受容体(ER)の状態に基づいて乳房腫瘍細胞を判別するためのin vitro評価方法であって、以下の段階: (a)乳房腫瘍細胞から発現産物を取得し、 (b)該発現産物を、表5aにおいて同定される遺伝子に対応する発現産物に結合し得る結合メンバーと接触させ、そして (c)該乳房腫瘍細胞からの発現産物の、1以上の結合メンバーへの結合に基づいてER状態によって乳房腫瘍を判別する、ことを含む、上記方法。」 2.引用例 (1)原査定の拒絶の理由で引用例3として引用された本願優先日前に頒布された刊行物である医学のあゆみ,Vol.197.No.13,2001,p.1175-1178には、下記の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付加した。) ア.「マイクロアレイを用いた乳癌の遺伝子発現解析 マイクロアレイはスライドグラス上にcDNAを小さいspotとして大量に並べ、蛍光で標識したサンプルをhybridizeさせた後、蛍光強度を測定し各遺伝子の発現量を調べるものである。ここ数年マイクロアレイを用いて、乳癌、白血病、リンパ腫、前立腺癌などの発現解析を行った研究の報告が散見されるようになった。スタンフォード大学のPerouらは、乳癌42症例から採取した65検体を8102遺伝子の載ったマイクロアレイで解析した。その結果は従来の知見を裏づけるとともに、分子生物学的に乳癌を分類できる可能性を示した。具体的には、(1)ER陽性/luminal epithelial cell type、(2)ER陰性/basal epithelial cell type、(3)ER陰性/c-erbB2過剰発現、(4)ER陰性/その他の4グループである。」(第1176頁右欄下5行?1177頁左欄12行)(なお、原文においては「(1)」、「(2)」、「(3)」及び「(4)」は丸付き数字の1、丸付き数字の2、丸付き数字の3、及び、丸付き数字の4で記載されている。) (2)原査定の拒絶の理由で引用例1として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるNat.Gen.,Vol.24,2000,p.227-235には、下記の事項が記載されている。 イ.「国立癌研究所の抗癌剤検索に用いる60のセルライン間で約8000個の遺伝子の発現パターンをcDNAマイクロアレイを用いて調査した。・・・正常なヒト乳房組織及び乳癌標本の細胞系列において観察された遺伝子発現パターンの比較は、特定のセルラインにおいて認識可能なカウンターパートを有する腫瘍における、腫瘍及び腫瘍組織の間質性及び炎症成分を反映した発現パターンの特徴を明らかにした。こうした結果は、ヒトセルラインのこの重要なグループの新たな分子特性とインビボでの腫ようへの関連を示した。」(要約) (3)原査定の拒絶の理由で引用例4として引用された本願優先日前に頒布された刊行物であるProc.Natl.Acad.Ssi.USA,Vol.96,1999,p.9212-9217には、下記の事項が記載されている。 ウ.「cDNAマイクロアレイ及びクラスタ化アルゴリズムは、培養ヒト乳腺上皮細胞とヒト乳腺腫瘍での遺伝子発現パターンの同定のために用いられた。・・・培養細胞及び乳癌サンプルにおける明確な発現パターンを有する遺伝子集団は、サンプル間の生物学的変化の特異的な特徴に関連するかもしれない。細胞増殖速度の変化とIFN調節性シグナル伝達経路活性化に関するそれぞれのパターンを有する二つの集団が発見された。乳癌における間質細胞及びリンパ球により発現される遺伝子集団もこの分析により同定された。これらの結果は、固形腫瘍をより詳細に分析し、分類する手段として、ヒト腫瘍における遺伝子発現パターンにおける変化を研究するためのこの系統的なアプローチの実現性と有用性を裏付ける。」(要約) 3.対比 上記2.(1)の記載事項からみて、引用例3には、乳癌からサンプルを採取し、サンプルを8102遺伝子の載ったマイクロアレイにハイブリダイズさせて各遺伝子の発現量を解析し、解析した結果に基づいて、ERが陽性であるか陰性であるかを観点として含めた4グループに分類することが可能性のある方法として記載されていると認められる。 本願発明と引用例3に記載された発明を対比する。 引用例3に記載された乳癌から採取した「サンプル」は、その後遺伝子の載ったマイクロアレイにハイブリダイズさせ、各遺伝子の発現量を解析することから、技術的にみて「発現産物」であると認められる。そして、引用例3に記載された「乳癌」は、本願発明の「乳房腫瘍」に相当する。 そうすると、引用例3に記載された「乳癌からサンプルを採取」する段階は、本願発明の「乳房腫瘍細胞から発現産物を取得」する段階に相当する。 また、引用例3に記載された「サンプルを遺伝子の載ったマイクロアレイにハイブリダイズ」させる段階は、本願発明の「該発現産物を、遺伝子に対応する発現産物に結合しうる結合メンバーと接触」させる段階に相当する。 そして、引用例3に記載された「解析した結果に基づいて、ERが陽性であるか陰性であるかを観点として含めた4グループに分類する」ことは、in vitroで行われることは技術的に明らかであるから、本願発明の「1以上の結合メンバーへの結合に基づいて、ER状態によって乳房腫瘍を判別する」「in vitro評価方法」に相当する。 そうすると、両者は、「エストロゲン受容体(ER)の状態に基づいて乳房腫瘍細胞を判別するためのin vitro評価方法であって、以下の段階: (a)乳房腫瘍細胞から発現産物を取得し、 (b)該発現産物を、遺伝子に対応する発現産物に結合し得る結合メンバーと接触させ、そして (c)該乳房腫瘍細胞からの発現産物の、1以上の結合メンバーへの結合に基づいてER状態によって乳房腫瘍を判別する、ことを含む方法」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:本願発明では、発現産物を接触させる結合メンバーが「表5aにおいて同定される遺伝子に対応する発現産物に結合し得る」ものであるのに対し、引用例3では、具体的に遺伝子が記載されていない点。 相違点2:本願発明は、評価方法であるのに対し、引用例3は、当該方法が可能性のある方法として記載されている点。 4.判断 (1)相違点1について 引用例1及び4に記載されるように、目的サンプルと対照サンプル間で発現量に差がある遺伝子を、DNAマイクロアレイを用いた発現プロファイル解析により同定する方法は、本願優先日前における周知技術である。 そして、乳房腫瘍細胞におけるER状態(ER+又はER-)の判別において、組み合わせて使用する遺伝子の種類が多いほどより正確な判別が可能となることは自明であるから、当業者であれば、上記周知技術により、さらに、ER+とER-において発現量に差がある遺伝子を同定することは、容易になし得ることであり、本願発明の表5aに記載されている各遺伝子は、そのような手法により容易に決定し得るものにすぎない。 (2)相違点2について 引用例3の、ER状態を観点としたグループに分類できる可能性があるとの記載に接した当業者であれば、実際に当該方法をER状態を判別するための評価方法として実施することは、当業者が容易に想到し得ることである。 とER状態の判別をできるかどうか確認してみることは自然な発想である。 そして、引用例3における示唆どおり、ER状態の判別できることが確認できたとしても、格別顕著な効果であるとは認められない。 (3)効果について 請求人は、審判請求の理由において、本願発明の効果として、本願明細書の段落【0131】の記載に基づいて「腫瘍判別における得られた各CGSの正確性をLVO CVテストを用いて評価した結果、ER判別では、総体的正確性が92%であり、また平均クロスバリデーションの誤り率が7.286%である」ことを主張する。 ここで、クロスバリデーション(交差検定)とは、統計学において標本データを分割し、その一部をまず解析して、残る部分を最初の解析の仮説検定に用いる手法である。すなわち、得られたデータの統計学的な解析結果を示したものである。 ところで、本願発明の表5aに示された25種の遺伝子は、そもそもER+とER-の腫瘍間で発現量が異なる遺伝子として選択されたものであるから、これらの遺伝子のデータを統計学的に解析した結果、平均クロスバリデーションの誤り率が7.286%であったことは、当業者の予測を超えるものとはいえない。 また、この結果は、CGS(共通遺伝子セット)についてのものであるところ、本願発明は、単一の遺伝子に基づく判別をも含むものであるから、この結果が本願発明の範囲全体にわたって格別顕著な効果が奏されるものであることを示しているわけではない。 よって、請求人の主張は採用できない。 5.まとめ したがって、本願発明は、引用例1、3及び4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-07-24 |
結審通知日 | 2012-07-31 |
審決日 | 2012-08-17 |
出願番号 | 特願2003-43281(P2003-43281) |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡邊 倫子 |
特許庁審判長 |
鵜飼 健 |
特許庁審判官 |
田中 晴絵 冨永 みどり |
発明の名称 | 癌診断に関する物および方法 |
代理人 | 藤田 節 |
代理人 | 平木 祐輔 |