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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1268173
審判番号 不服2011-10866  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-24 
確定日 2013-01-04 
事件の表示 特願2006-527225「呼吸器マスクおよびシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年3月31日国際公開、WO2005/028009、平成19年3月22日国内公表、特表2007-506482〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年9月24日(パリ条約による優先権主張 平成15年9月25日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成21年12月24日付けで拒絶理由が通知され、平成22年7月5日付けで手続補正がなされたものの、平成23年2月15日付けで拒絶査定がなされた。
本件は、前記拒絶査定を不服として、法定期間内である平成23年5月24日に請求された拒絶査定不服審判事件であって、請求と同時に手続補正がなされた。その後、当審において、前置報告書の内容について意見を求めるための審尋を行ったところ、平成24年7月4日付けで回答書が提出された。

第2 平成23年5月24日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年5月24日付け手続補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容と目的
平成23年5月24日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の記載を補正するものであって、本件補正後の請求項1は、補正前(平成22年7月5日付けで補正。以下同じ。)の請求項1について、補正前の請求項1に記載されていた「前記ハウジングが、前記シェルに対して連接する表面を形成している」という事項を「前記ハウジングが、前記羽根車の形状およびサイズに実質的に適合することによって、少なくとも前記羽根車を囲んでいる」と補正することにより、補正前の請求項1のハウジングを限定して減縮したものであるから、本件補正後の請求項1は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下、単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を行ったものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2 本件補正発明
本件補正発明は本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
持続的気道陽圧システムであって、
着用者の顔上に配置されるマスクを具備し、
このマスクが、
シェルと;
着用者の顔に対して前記マスクを密封的に連結し得るよう前記シェルに対して付設されたクッションであるとともに、前記シェルと着用者の顔との間にチャンバを形成するものとされたクッションと;
呼吸可能ガスの流れを受領し得るよう、前記シェルに設けられた導入ポートと;
を備え、
前記システムが、さらに、エア流生成源を具備し、
このエア流生成源が、前記マスク上に取り付けられているとともに、前記チャンバ内に2?40cmH_(2)O という圧力を生成し得るものであり、
さらに、前記エア流生成源が、ハウジングを備え、
このハウジング内に、羽根車と、この羽根車を駆動するためのモータと、を収容しており、
前記ハウジングが、前記羽根車の形状およびサイズに実質的に適合することによって、少なくとも前記羽根車を囲んでいることを特徴とするシステム。」

3 本願の優先日前に頒布された刊行物
(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である米国特許出願公開第2003/0172930号明細書(以下「引用例」という。)には、図面とともに以下の技術的事項の記載(摘示箇所についての当審の邦訳を記載した)がある。
(1a)第1頁「ABSTRACT」の欄
「非常に小さなデッドスペース及びフロー抵抗を患者の肺の近くで可能にして、患者の可搬性、自立性、圧力支援された呼吸を支援するための小型装置が提供される。装置は、医学的適用に特に役立つ。装置は、流れの方向の上流に直接配置されたフィルタ(7)と共に提供される電気駆動モータを備えたロータリー圧縮機(3)を含んでいる。その圧縮機(3)は、呼吸マスク(2)、あるいは呼吸管の上流に直接配置される。制御装置(6)は、回転速度に基づいて、呼吸圧力を設定するために提供される。制御装置は圧縮機の駆動モーターに接続される。」
(1b)明細書第1頁左欄[0005]の欄
「 この発明の重要な利点は、呼気の圧力源として、送り出されるガスに勢いを与えることにより圧力の増加を引き起こすロータリー圧縮機を使用し、人工呼吸されている人の身体上にバッテリー駆動のコンパクトなデザインの装置を携帯可能とすることにより達成される。ロータリー圧縮機は、呼吸マスクあるいは呼吸管に直接接続され、接続ラインあるいはチューブなしで、ラジアル、軸、ドラム型あるいは横流式圧縮機として設計されている。その結果、呼吸の支援または呼吸が、肺に直接、あるいは肺へのアクセスの途中に可能となる。…(以下略)」
(1c)明細書第1頁右欄[0009]の欄
「[0009] 生成した圧力上昇は、特にラジアル圧縮機にとって、広範に、供給されたガス容積流れから独立している、その結果、人工呼吸されている患者は、呼吸マスクの緩さ、それに付随してしばしば避けられない漏れに関連する呼吸パラメータの実質的な変化を経験しないことが、この発明の別の利点となる。」
(1d)明細書第1頁右欄[0014]の欄
「[0014] 特に図面を参照すると、この発明の典型的な実施例は図1に示されているとおり、移動式装置として、呼吸支援が、人、例えば自由に動いている患者1の身体上でなされる。図2は、その右側部分の装置の個々のコンポーネントを拡大した詳細を示している。呼吸マスク2(あるいは、接続ラインのない呼吸管のような他のユーザ・インターフェース部分)と接続する直接的な流れの中に設けられ、そして同様なユニットに取り外し可能に接続されている非常にコンパクトなロータリー圧縮機3が、圧力源として使用さる。ロータリー圧縮機3は特にラジアル圧縮機であるが、軸、ドラム型あるいは横流式圧縮機として設計されてもよい。」
(1e)明細書第1頁右欄[0015]の欄
「[0015] “ロータリー圧縮機” として言及された4つのすべての圧縮機3(ラジアル圧縮機、軸流圧縮機、ドラム型圧縮機、あるいは横流圧縮機として設計されている)は、動的な圧縮機のグループに属する。それは、運動量を与えることにより、運ばれているガス中の圧力上昇を引き起こす。圧縮機3の羽根あるいは翼は、回転数に相当する流れを、流れるガス分子に対する回転力積に伝達し、そして、伝達されたエネルギーは、その設計により、異なる方法でガス速度及びガス圧力に変換される。」
(1f)明細書第1頁右欄[0016]の欄
「[0016] ロータリー圧縮機3は、直径40mm未満の圧縮機ホイールと電気駆動モータを備えた、一つの非常にコンパクトなユニットとして提供され、呼吸マスク2に接続される。バッテリーまたは2次電池は、エネルギー源5として使用される。エネルギー及び選択的信号は、電気的接続4によって伝送される。ロータリー圧縮機3は、呼吸するガス用の少なくとも75mm^(2)の十分に大きなガス流断面積を持っており、圧力支援呼吸のために必要とされる5000Paまでのガス圧力を生成する。電気駆動と圧縮機ホイールの両方は、非常に小さな回転質量慣性を持ち、合計で高々2g×cm^(2)である。呼吸するガスは、周囲空気8から粒子と微生物のために紙ファイバーで作られ、ロータリー圧縮機3の上流に直接設けられているフィルタ7を通って呼吸マスク2内へ運ばれる。そして、酸素または一酸化窒素のような補助ガス9が選択的に加えられて、ガスの肺への直接アクセスにより、患者1が利用可能となる。フィルタ7は、ロータリー圧縮機3からの音放射の吸音にも同時に使用され、それは結果的に、患者の直接装着の快適性を向上させる。」
(1g)Fig.1、Fig.2


引用例の上記記載事項からして、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
「患者の可搬性、自立性、圧力支援された呼吸を支援し、医学的適用に特に役立つ小型装置であって、
呼吸マスク2と、
前記呼吸マスク2に直接接続して、呼吸するガスを前記呼吸マスク2内に通気せしめる、直径40mm未満の圧縮機ホイールと電気駆動モータを備えて一つの非常にコンパクトなユニットとして提供されるロータリー圧縮機3を具備し、
前記ロータリー圧縮機3は、圧力支援呼吸のために5000Paまでのガス圧力を生成するものであって、羽根あるいは翼の回転によって流れるガス分子にエネルギーを伝達してガス速度及びガス圧力に変換するために、ラジアル圧縮機、軸流圧縮機、ドラム型圧縮機、あるいは横流圧縮機として設計されるものである、小型装置。」

(2)他の刊行物
本願優先日当時の当業者の技術水準を示す「機械工学便覧」(1993年7月30日新版6刷 社団法人日本機械学会発行)(以下「便覧」という。)には、以下の技術的事項の記載がある。
(2a)「第III・1章 空気機械一般」の章中のB5-115頁左欄第2行?右欄第21行
「1・1・1 分類 空気機械は気体を媒体としてエネルギの伝達を行う機械の総称である.このうち流体のもつエネルギを取り出し,機械的エネルギに変換し,動力として利用する原動機があり,タービン,風車がこれに属する.また,外部より機械的エネルギを流体に与え,その圧力,速度,温度などエネルギ的ポテンシャルを増大させ,それを多目的に利用する被動機があり,送風機,圧縮機がこれに含まれる.…(中略)…
送風機・圧縮機はエネルギ交換の機構上,羽根車,またはロータの回転運動,あるいはピストンの往復運動によって気体にエネルギを与える機械であるが,通常圧力比,または圧力上昇の大きさにより送風機と圧縮機に分けられる.一般に吐出し圧力と吸込圧力との比である圧力比が1.1未満,または圧力上昇(大気圧を吸込圧力とする)が約10kPa以下のものをファン(fan),圧力比1.1以上2.0未満,または圧力上昇が10?100kPaの範囲にあるものをブロワ(blower)と呼び,これらを総称して送風機(fan and blower)という.圧力比2以上,または圧力上昇が100kPa以上のものを圧縮機(compressor)と称している.また,圧力を高める作動原理から気体中で羽根車を回転させ,羽根の作用により通過気体の速度と圧力を増加させるターボ型(turbo type)と一定体積内に封入した気体の体積を減少させたり,背圧を利用し圧力を高める容積形(displacement type)とがある.
a.ターボ形 以下の形式がある(III部3章参照)
(1)遠心式(centrifugal type) 気体が羽根車内の大半の流路を半径方向に通過し,主に遠心力の作用で昇圧する.羽根車の羽根形状は後向き羽根,径向き羽根,前向き羽根などがあり,ファンではそれぞれ遠心ファン,ラジアルファン,多翼ファンの各羽根に対応する.…(中略)…
(2)軸流式(axial flow type) 気体が羽根車内を主に軸方向に通過し,翼の揚力作用で昇圧するファン,ブロア,圧縮機をいう.
(3)斜流式(mixed flow type) 気体が羽根車内を回転軸と傾斜して流れるもので,遠心,軸流両式の中間的作用で昇圧するブロア,圧縮機をいう.
(4)横流式(cross flow type) 気体が多翼形の羽根車内を軸に直角面内で通過する形式のものでファンに用いる.貫流ファン(○1(当審注:○の中に1を意味する。以下同様。) cross flow fan,○2 tangential fan,○3 transverse fan)ともいう.」
(2b)「第III・1章 空気機械一般」の章中のB5-115頁左欄の図268


4 本件補正発明と引用発明の対比
当業者の技術常識を踏まえ、本件補正発明と上記引用発明を対比する。
(1)引用発明の「患者の可搬性、自立性、圧力支援された呼吸を支援し、医学的適用に特に役立つ小型装置」と、本件補正発明の「持続的気道陽圧システム」を対比すると、両者はいずれも呼吸に関する障害を持つ患者に対して用いられる装置であるといえるから、両者は、「呼吸障害を持つ患者に対して用いられる装置」である点で共通している。
(2)引用発明の「呼吸マスク2」は、本件補正発明の「マスク」に相当する。そして、引用発明の「呼吸マスク2」は、外殻を有し、患者の顔に配置されることによって前記外殻と顔の間に閉鎖空間を形成するものであることは明らかであるから、本件補正発明と引用発明は、「着用者の顔上に配置されるマスクを具備し、このマスクが」「シェルと、前記シェルと着用者の顔との間にチャンバを形成する」点で一致する。また、引用発明の「呼吸マスク2」は、その「上流に直接接続して、呼吸するガスを前記呼吸マスク2内に通気せしめる…ロータリー圧縮機3を具備」することからして、引用発明が、呼吸するガスの流入口を具備していることは明らかであるから、本件補正発明と引用発明は「呼吸可能ガスの流れを受領し得るよう、前記シェルに設けられた導入ポート」を具備している点でも一致する。
(3)引用発明の「ロータリー圧縮機3」は、「呼吸するガスを前記呼吸マスク2内に通気せしめる」ものであるから、本件補正発明の「エア流生成源」に相当するといえる。そして、引用発明の「前記ロータリー圧縮機3」は、「前記呼吸マスク2に直接接続して」「圧力支援呼吸のために5000Paまでのガス圧力を生成するもの」であるから、呼吸マスク2に取り付けられていて、呼吸マスク2と患者の顔の間に形成される閉鎖空間に5000Pa、すなわち、51cmH_(2)Oまでの圧力を生成可能とするものであるといえるから、本件補正発明と引用発明は「さらに、エア流生成源を具備し、このエア流生成源が、前記マスク上に取り付けられているとともに、前記チャンバ内に2?40cmH_(2)O という圧力を生成し得るもの」である点で一致している。

そうすると、本件補正発明と引用発明は、
「呼吸障害を持つ患者に対して用いられる装置であって、
着用者の顔上に配置されるマスクを具備し、
このマスクが、
シェルと;
前記シェルと着用者の顔との間にチャンバを形成し;
呼吸可能ガスの流れを受領し得るよう、前記シェルに設けられた導入ポートと;
を備え、
前記装置が、さらに、エア流生成源を具備し、
このエア流生成源が、前記マスク上に取り付けられているとともに、前記チャンバ内に2?40cmH_(2)O という圧力を生成し得るものである、装置。」の点で一致し、次の点で相違する。
〈相違点1〉
装置が、本件補正発明は「持続的気道陽圧システム」であるのに対し、引用発明は「患者の可搬性、自立性、圧力支援された呼吸を支援し、医学的適用に特に役立つ小型装置」である点。
〈相違点2〉
本件補正発明は「着用者の顔に対して前記マスクを密封的に連結し得るよう前記シェルに対して付設されたクッション」を具備し、当該「クッション」によって「前記シェルと着用者の顔との間にチャンバを形成する」のに対し、引用発明は、そのようなクッションを具備していない点。
〈相違点3〉
本件補正発明の「エア流生成源」は、「ハウジングを備え、このハウジング内に、羽根車と、この羽根車を駆動するためのモータと、を収容しており、前記ハウジングが、前記羽根車の形状およびサイズに実質的に適合することによって、少なくとも前記羽根車を囲んでいる」ものであるのに対し、引用発明のエア流生成源(ロータリー圧縮機3)は、「羽根あるいは翼の回転によって流れるガス分子にエネルギーを伝達してガス速度及びガス圧力に変換するために、ラジアル圧縮機、軸流圧縮機、ドラム型圧縮機、あるいは横流圧縮機として設計されるもの」であり、ハウジング、ならびに、ハウジングと羽根車等の関係について明らかでない点。

5 相違点についての検討、判断
(1)相違点1について
引用発明の装置が、「呼吸を支援し、医学的適用に特に役立つ」装置であって、「圧力支援呼吸のために5000Paまでのガス圧力を生成するもの」、すなわち、呼吸を支援するために陽圧を生成するための装置であることを勘案すると、当該装置を、気道の閉塞を防止して無呼吸を取り除くために気道内を陽圧とする、いわゆるCPAP(持続的気道陽圧)療法に用いることは、当業者であれば格別の困難なく想到し得る事項である。
(2)相違点2について
顔面に装着するマスク等のフィット感を改善するため、顔面との接触部にクッションを設けることは慣用手段であって、マスク内部に陽圧を形成するための医療用マスク、特にCPAP療法に用いるマスクにおいても、マスクと顔面の接触部にクッションを設けることは、例えば、国際公開2002/45784号にも記載され、請求人も熟知するとおり、本願の優先日前、周知の事項である。そして、当該クッションがマスクと顔面との密封性を向上させる作用を奏することは明らかであるから、引用発明の呼吸マスク2にクッションを設け、相違点2のごとき機能を発揮させることは、当業者が容易になし得る事項である。
(3)相違点3について
本件補正発明の「羽根車」は、本願の発明の詳細な説明の記載(段落【0039】)を参酌すると、「軸流ファンや、ラジアルファンや、遠心ファン」を含むものであって、上記「3」の「(2)」で摘記した便覧の記載を参酌すると、引用発明の「ロータリー圧縮機3」として例示されている「羽根あるいは翼の回転によって流れるガス分子にエネルギーを伝達してガス速度及びガス圧力に変換するために、ラジアル圧縮機、軸流圧縮機、ドラム型圧縮機、あるいは横流圧縮機」が、本件補正発明の「羽根車」に相当する「羽根あるいは翼」を具備するものであって、前記ロータリー圧縮機3が、その「羽根あるいは翼」の形状やサイズに応じて、それを取り囲む「ハウジング」を具備していることは明らかであるといえる。また、引用発明の「ロータリー圧縮機3」は「直径40mm未満の圧縮機ホイールと電気駆動モータを備えて一つの非常にコンパクトなユニットとして提供される」ものであるから、本件補正発明の「羽根車を駆動するためのモータ」に相当する構成を具備していることも明らかである。
してみると、引用発明の「ロータリー圧縮機3」は、本件補正発明の「ハウジング内に、羽根車と、この羽根車を駆動するためのモータと、を収容しており、前記ハウジングが、前記羽根車の形状およびサイズに実質的に適合することによって、少なくとも前記羽根車を囲んでいる」という構成を実質的に有しているといえるから、相違点3は実質的な相違点ではない。
(4)小括
以上検討したとおりであるから、本件補正発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 本件補正についての結び
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であって、本件補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たさないものである。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成23年5月24日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成22年7月5日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし29に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
持続的気道陽圧システムであって、
着用者の顔上に配置されるマスクを具備し、
このマスクが、
シェルと;
着用者の顔に対して前記マスクを密封的に連結し得るよう前記シェルに対して付設されたクッションであるとともに、前記シェルと着用者の顔との間にチャンバを形成するものとされたクッションと;
呼吸可能ガスの流れを受領し得るよう、前記シェルに設けられた導入ポートと;
を備え、
前記システムが、さらに、エア流生成源を具備し、
このエア流生成源が、前記マスク上に取り付けられているとともに、前記チャンバ内に2?40cmH_(2)O という圧力を生成し得るものであり、
さらに、前記エア流生成源が、ハウジングを備え、
このハウジング内に、羽根車と、この羽根車を駆動するためのモータと、を収容しており、
前記ハウジングが、前記シェルに対して連接する表面を形成していることを特徴とするシステム。」

2 刊行物
原査定において提示された本願の優先日前に頒布された刊行物およびその記載事項と引用発明、ならびに、他の刊行物の記載事項は、前記「第2 [理由]3」に記載したとおりである。

3 本願発明と引用発明の対比、検討・判断
本願発明は、上記「第2 [理由]2」に記載した本件補正発明のハウジングに係る、「前記ハウジングが、前記羽根車の形状およびサイズに実質的に適合することによって、少なくとも前記羽根車を囲んでいる」という特定事項を、「前記ハウジングが、前記シェルに対して連接する表面を形成している」と拡張したものに相当する。
そうすると、上記「第2 [理由]5」で述べたとおり、本件補正発明が、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も、本件補正発明と同様に、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、本願発明の上記「前記ハウジングが、前記シェルに対して連接する表面を形成している」という事項は、引用発明の「ロータリー圧縮機3」が「前記呼吸マスク2に直接接続して、呼吸するガスを前記呼吸マスク2内に通気せしめる、直径40mm未満の圧縮機ホイールと電気駆動モータを備えて一つの非常にコンパクトなユニットとして提供される」という事項から明らかに導き出せる事項にすぎない。

4 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例に記載された発明および周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-02 
結審通知日 2012-08-07 
審決日 2012-08-21 
出願番号 特願2006-527225(P2006-527225)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61M)
P 1 8・ 575- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平瀬 知明高田 元樹  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 関谷 一夫
松下 聡
発明の名称 呼吸器マスクおよびシステム  
代理人 志賀 正武  
代理人 実広 信哉  
代理人 村山 靖彦  
代理人 渡邊 隆  

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