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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B01J
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B01J
管理番号 1268175
審判番号 不服2011-11780  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-06-02 
確定日 2013-01-04 
事件の表示 特願2008-187970「炭素酸化物のメタン化反応用触媒およびその触媒を使用したメタン化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月 4日出願公開、特開2010- 22944〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成20年7月18日の出願であって、平成22年11月18日付けで拒絶理由の起案がなされ、平成23年1月28日付けで意見書が提出され、同年2月22日付けで拒絶査定の起案がなされ、これに対して同年6月2日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、平成24年3月19日付けで特許法第164条第3項の規定に基づく報告書を引用した審尋の起案がなされ、同年6月4日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成23年6月2日付けの手続補正書による補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年6月2日付けの手続補正書による補正についての補正を却下する。

[理由]
1.平成23年6月2日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に関し、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1である、
「【請求項1】
二酸化炭素、一酸化炭素と二酸化炭素との混合物、またはこれらを主成分とする混合物を水素化してメタンを製造するための触媒であって、
元素状態の金属を基準とした原子%で、
A)正方晶系ジルコニア担体を構成するための、Zr:18?70原子%、
B)正方晶ジルコニア構造を安定化するための安定化元素として、Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,CaおよびMgからなるグループから選んだ1種または2種以上(2種以上の場合は合計で):1?20原子%、および
C)正方晶系ジルコニア担体に担持されて触媒活性を担う鉄族元素:25?80原子%、
からなり、正方晶系ジルコニア構造の酸化物が安定化元素とともに鉄族元素の一部をも結晶構造に取り込むことにより安定化され、この担体に金属状態の鉄族元素が担持されていることを特徴とするメタン化反応用触媒。」を
「 【請求項1】
二酸化炭素、一酸化炭素と二酸化炭素との混合物、またはこれらを主成分とする混合物を水素化してメタンを製造するためのメタン化反応用触媒であって、
元素状態の金属を基準とした原子%で、
A)Zr:18?70原子%、
B)Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ca,およびMgからなるグループから選んだ1種または2種以上の安定化元素(2種以上の場合は合計で):1?20原子%、および
C)鉄族元素:25?80原子%、
からなる組成を有し、正方晶系のジルコニアからなる担体に、金属状態の鉄族元素が触媒活性を担う活性種として担持された構造であって、この担体が、上記した安定化元素の原子とともに上記した鉄族元素の若干の原子を結晶格子点の一部に取り込んで安定化された状態で存在することを特徴とするメタン化反応用触媒。」
と補正することを含むものである。
2.この請求項1に係る補正は、
(ア)「メタンを製造するための触媒」を「メタンを製造するためのメタン化反応用触媒」
(イ)「正方晶系ジルコニア担体を構成するための、Zr」を「Zr」
(ウ)「正方晶ジルコニア構造を安定化するための安定化元素として、Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,CaおよびMgからなるグループから選んだ1種または2種以上」を「Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ca,およびMgからなるグループから選んだ1種または2種以上の安定化元素」
(エ)「正方晶系ジルコニア担体に担持されて触媒活性を担う鉄族元素」を「鉄族元素」
(オ)「からなり」を「からなる組成を有し」
(カ)「正方晶系ジルコニア構造の酸化物が安定化元素とともに鉄族元素の一部をも結晶構造に取り込むことにより安定化され、この担体に金属状態の鉄族元素が担持されている」を「正方晶系のジルコニアからなる担体に、金属状態の鉄族元素が触媒活性を担う活性種として担持された構造であって、この担体が、上記した安定化元素の原子とともに上記した鉄族元素の若干の原子を結晶格子点の一部に取り込んで安定化された状態で存在する」
と補正するものである。
そこで、これら補正について順に検討する。
・(ア)及び(オ)は、特定する内容に実質的な変更を伴わない単なる表現の変更であることは明らかである。
・(イ)ついて
本件補正後の請求項1は(カ)の補正により「正方晶系のジルコニアからなる担体」を有しており、この「正方晶系のジルコニアからなる担体」をZrは構成していることは明らかであるから、「正方晶系ジルコニア担体を構成するための、」なる発明特定事項が削除されても、本件補正により請求項1の特定内容の実質的な変更はない。
・(ウ)について
本件補正後の請求項1は(カ)の補正により「正方晶系のジルコニアからなる担体に・・・・・・この担体が、上記した安定化元素の原子・・・・・・を結晶格子点の一部に取り込んで安定化」と特定されているから、「Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ca,およびMgからなるグループから選んだ1種または2種以上の安定化元素」は「正方晶ジルコニア構造を安定化するための安定化元素」といえ、「正方晶ジルコニア構造を安定化するための安定化元素として、」なる発明特定事項が削除されても、本件補正により請求項1の特定内容の実質的な変更はない。
・(エ)について
本件補正後の請求項1は(カ)の補正により「正方晶系のジルコニアからなる担体に、金属状態の鉄族元素が触媒活性を担う活性種として担持された構造であ」るから、「鉄族元素」は「正方晶系ジルコニア担体に担持されて触媒活性を担」っていることは明らかであり、「正方晶系ジルコニア担体に担持されて触媒活性を担う」なる発明特定事項が削除されても、本件補正により請求項1の特定内容の実質的な変更はない。
・(カ)について
本件補正後の請求項1の「正方晶系のジルコニア」は、「酸化物」である。また、正方晶系ジルコニアとは、ジルコニウムイオンZr^(4+)の格子点にこれよりも価数が小さな陽イオンが存在するものであるから、本件補正前の「正方晶系ジルコニア構造の酸化物が安定化元素とともに鉄族元素の一部をも結晶構造に取り込むことにより安定化され」ることは、本件補正後の「正方晶系のジルコニアからなる・・・・・・担体が、上記した安定化元素の原子とともに上記した鉄族元素の若干の原子を結晶格子点の一部に取り込んで安定化された状態で存在する」ことに他ならない。よって、「正方晶系ジルコニア構造の酸化物が安定化元素とともに鉄族元素の一部をも結晶構造に取り込むことにより安定化され、この担体に金属状態の鉄族元素が担持されている」を「正方晶系のジルコニアからなる担体に、金属状態の鉄族元素が触媒活性を担う活性種として担持された構造であって、この担体が、上記した安定化元素の原子とともに上記した鉄族元素の若干の原子を結晶格子点の一部に取り込んで安定化された状態で存在する」と補正しても、本件補正により請求項1の特定内容の実質的な変更はない。
3.以上のとおり、本件補正により、本件補正前と本件補正後の請求項1の発明特定事項は実質的に変更されていないから、請求項1に係る本件補正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正を目的としたものとはいえないし、請求項1の記載に関して拒絶理由が示されていないから明りょうでない記載の釈明を目的としたものにはなり得ないし、請求項の削除を目的としたものでないことは明らかである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
4.なお、予備的に、上記請求項1に係る本件補正が特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものとして、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正後発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるかについて、さらに検討する。
(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された「山崎倫昭他、アモルファスNi-Zr-RE合金を前駆体とする二酸化炭素のメタネーション触媒の創製、材料と環境討論会講演集、1997年、44、第73-76頁 」(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
(サ)「1.緒言
・・・・・・グローバルCO_(2)リサイクルを提案している。・・・・・・H_(2)とCO_(2)からメタンを生成して・・・・・・再利用するものである。このリサイクルを実現するためには、鉄族等の廉価な材料から高活性なCO_(2)のメタン化触媒を作り出す必要がある。・・・・・・そこで、本実験では、・・・・・・サマリウムをNi-Zr二元系アモルファス合金前駆体に少量添加することにより活性向上を期した。」(73頁本文1?16行)
(シ)「2.実験方法
液体急冷法によって作製したアモルファスNi-Zr-Sm合金リボンを予備処理として酸化を大気中773Kで5時間、還元を水素雰囲気下573Kで5時間行い、ジルコニア担持ニッケル触媒としたものを試料とした。・・・・・・Ni含有量を60at%に固定しサマリウム添加量を1,3,5,7,10at%と変化させたアモルファス合金前駆体(・・・・・・)と、サマリウム含有量を5at%に固定しNi含有量を30,40,50,60,70at%と変化させたアモルファス合金前駆体(・・・・・・)の2つのシリーズを用意した。これらアモルファス合金前駆体の公称組成を表1に示す。」(73頁本文17?29行)
(ス)

(73頁表1)
(セ)「サマリウムを含んだ触媒では、高温安定型正方晶ZrO_(2)が安定化され単斜晶ZrO_(2)の生成が抑えられている。」(74頁25?28行)
(2)引用例に記載された発明
ア 引用例の(シ)には、「液体急冷法によって作製したアモルファスNi-Zr-Sm合金リボンを予備処理として酸化を大気中773Kで5時間、還元を水素雰囲気下573Kで5時間行」った「ジルコニア担持ニッケル触媒」が記載され、同(シ)によれば、この「ジルコニア担持ニッケル触媒」の「Ni含有量を60at%に固定しサマリウム添加量を1,3,5,7,10at%と変化させたアモルファス合金前駆体」と「サマリウム含有量を5at%に固定しNi含有量を30,40,50,60,70at%と変化させたアモルファス合金前駆体」が用意され、この「アモルファス合金前駆体の公称組成」は表1に示されているといえる。
イ 表1には、Ni、Zr、Smのat%(原子%)が、それぞれ、(Ni、Zr、Sm)=(60,39,1)、(60,37,3)、(60,35,5)、(60,33,7)、(60,30,10)、(70,25,5)、(60,35,5)、(50,45,5)、(40,55,5)、(30,65,5)のものが示されている。
ウ 上記アの「ジルコニア担持ニッケル触媒」は、「液体急冷法によって作製したアモルファスNi-Zr-Sm合金リボンを予備処理として酸化を大気中773Kで5時間、還元を水素雰囲気下573Kで5時間行」って得るものであるが、この酸化と還元の処理は、引用例(セ)の記載を参照すると、この触媒は、「アモルファス合金を酸化させることにより、正方晶ジルコニア構造を安定化する元素であるSmによって安定化された、正方晶ジルコニア構造の複酸化物と、Niが酸化した物との混合体が生成されて、その後、この混合体を水素によって還元することにより、酸化したNiが還元され、正方晶ジルコニア構造の複酸化物に金属状態のNiが担持された触媒」とみることができ、その組成は、上記イで示した、Ni、Zr、Smのat%(原子%)がそのまま当てはまるといえる。
エ また、上記アの「ジルコニア担持ニッケル触媒」は、引用例の(サ)の記載からみて、「二酸化炭素を水素化してメタンを製造するための触媒」であることは明らかである。
オ 以上を踏まえて、引用例の(サ)?(セ)の記載を補正後発明の記載ぶりに則して整理すると、引用例には、
「二酸化炭素を水素化してメタンを製造するための触媒であって、
元素状態の金属を基準とした原子%で、
(Ni、Zr、Sm)=(60,39,1)または(60,37,3)または(60,35,5)または(60,33,7)または(60,30,10)または(70,25,5)または(60,35,5)または(50,45,5)または(40,55,5)または(30,65,5)
からなる組成を有し、正方晶ジルコニア構造を安定化する元素であるSmによって安定化された正方晶ジルコニア構造の複酸化物に金属状態のNiが担持されたメタンを製造するための触媒」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
(3)対比・判断
ア 補正後発明と引用発明とを対比する。
イ 引用発明の「二酸化炭素を水素化してメタンを製造するための触媒」は、補正後発明の「二酸化炭素・・・・・・を水素化してメタンを製造するためのメタン化反応用触媒」に相当する。
ウ 引用発明のSmは、補正後発明と同じく「安定化元素」であことは明らかである。
エ 引用発明の「元素状態の金属を基準とした原子%で、
(Ni、Zr、Sm)=(60,39,1)または(60,37,3)または(60,35,5)または(60,33,7)または(60,30,10)または(70,25,5)または(60,35,5)または(50,45,5)または(40,55,5)または(30,65,5)」は、補正後発明の「元素状態の金属を基準とした原子%で、
A)Zr:18?70原子%、
B)Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ca,およびMgからなるグループから選んだ1種または2種以上の安定化元素(2種以上の場合は合計で):1?20原子%、および
C)鉄族元素:25?80原子%、」と「元素状態の金属を基準とした原子%で、
(Ni、Zr、Sm)=(60,39,1)または(60,37,3)または(60,35,5)または(60,33,7)または(60,30,10)または(70,25,5)または(60,35,5)または(50,45,5)または(40,55,5)または(30,65,5)」で一致している。
オ 引用発明の「正方晶ジルコニア構造を安定化する元素であるSmによって安定化された正方晶ジルコニア構造の複酸化物に金属状態のNiが担持された」ことは、Niは鉄族元素であるから、補正後発明の「正方晶系のジルコニアからなる担体に、金属状態の鉄族元素が触媒活性を担う活性種として担持された構造」と「正方晶系のジルコニアからなる担体に、金属状態のNi元素が触媒活性を担う活性種として担持された構造」である点で共通している。
カ そうすると、両者は、
「二酸化炭素を水素化してメタンを製造するためのメタン化反応用触媒であって、
元素状態の金属を基準とした原子%で、
(Ni、Zr、Sm)=(60,39,1)または(60,37,3)または(60,35,5)または(60,33,7)または(60,30,10)または(70,25,5)または(60,35,5)または(50,45,5)または(40,55,5)または(30,65,5)
からなる組成を有し、正方晶系のジルコニアからなる担体に、金属状態のNi元素が触媒活性を担う活性種として担持された構造であるメタン化反応用触媒」である点で一致し、次の点で一応相違している。
相違点:補正後発明が、「正方晶系のジルコニアからなる担体が、安定化元素の原子とともに鉄族元素の若干の原子を結晶格子点の一部に取り込んだ状態で存在する」のに対し、引用発明は、鉄族元素のNiについてかかる事項を有していない点
キ そこで、この相違点について検討する。
ク 引用発明は、上記(2)ウで検討したように、「アモルファス合金を酸化させることにより、正方晶ジルコニア構造を安定化する元素であるSmによって安定化された、正方晶ジルコニア構造の複酸化物と、Niが酸化した物との混合体が生成」されているといえるから、この混合体において、Zr^(4+)が本来占めるべき格子点の一部の位置にSm^(3+)と同様にNi^(2+)も存在するとみることが自然であり、引用発明においても「正方晶系のジルコニアからなる担体が、安定化元素であるSmの原子とともに鉄族元素であるNiの若干の原子を結晶格子点の一部に取り込んだ状態で存在する」といえる。そうすると、上記相違点は実質的なものではない。
ケ なお、請求人は、回答書の「第四 補正による拒絶理由解消の可能性」の「1.本願発明の触媒の「構造」」において、「(1)本願発明を拒絶した原査定・・・・・・の拒絶理由は、前置報告書における
「本願請求項1において特定された(触媒の)構造と、引用文献1に記載の触媒の構造に差異が見当たらない」
という見解に集約される。
この論を・・・・・・触媒の構造における差異がどのような規定から主張できるか、という点を省みると、現状では必ずしも明確な根拠に基づいた説明ができないことを認めざるを得ない。
(2)・・・・・・本願の触媒と引用文献1(当審注:引用例のこと)の触媒とは、共通の用途に向けるものである。・・・・・・引用文献1に開示の触媒は安定化元素としてSmを選択したものだけであるが、Smは本願発明においても重要なものであるから、化学組成に関しても重複は否定できない。
(3)してみると、本願発明の触媒の構造を・・・・・・「正方晶系のジルコニアからなる担体に、金属状態の鉄族元素が触媒活性を担う活性種として担持された構造であって、この担体が、上記した安定化元素の原子とともに上記した鉄族元素の若干の原子を結晶格子点の一部に取り込んで安定化された状態で存在する」
と規定しただけでは、最終的に原査定の拒絶理由を覆すことができないのではないかと、請求人らは考えるに至った。」と記載されており、上記相違点が実質的なものでないことを請求人自身が認めている。
コ よって、補正後発明は引用発明と同一であり、引用例に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(4)予備的検討のむすび
したがって、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明
上記第2.で述べたように、平成23年6月2日付けの手続補正書による補正についての補正は却下されたから、本願の請求項1?5に係る発明は、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
二酸化炭素、一酸化炭素と二酸化炭素との混合物、またはこれらを主成分とする混合物を水素化してメタンを製造するための触媒であって、
元素状態の金属を基準とした原子%で、
A)正方晶系ジルコニア担体を構成するための、Zr:18?70原子%、
B)正方晶ジルコニア構造を安定化するための安定化元素として、Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,CaおよびMgからなるグループから選んだ1種または2種以上(2種以上の場合は合計で):1?20原子%、および
C)正方晶系ジルコニア担体に担持されて触媒活性を担う鉄族元素:25?80原子%、
からなり、正方晶系ジルコニア構造の酸化物が安定化元素とともに鉄族元素の一部をも結晶構造に取り込むことにより安定化され、この担体に金属状態の鉄族元素が担持されていることを特徴とするメタン化反応用触媒。」

第4.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、平成22年11月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由、すなわち、本願発明は、上記引用例(山崎倫昭他、アモルファスNi-Zr-RE合金を前駆体とする二酸化炭素のメタネーション触媒の創製、材料と環境討論会講演集、1997年、44、第73-76頁)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないというものを含むものである。

第5.当審の判断
1.引用例の記載と引用発明
引用例には、上記第2.の4.(1)の(サ)? (セ)に摘示した事項が記載され、同(2)で認定した引用発明が記載されている。
2.対比・判断
上記第2.及び3.で述べたように、補正後発明は実質的に本願発明と同じであり、上記第2.4.(3)で述べたように補正後発明と引用発明が実質的に同一であるから、本願発明と引用発明とを対比すると、本願発明と引用発明は同一である。
よって、本願発明は、引用例に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第6.回答書に記載された補正案について
1.請求人は、回答書において、次の2つの補正案を示しているので、以下に検討する。
補正案1:[請求項1]
二酸化炭素、一酸化炭素と二酸化炭素との混合物、またはこれらを主成分とする混合物を水素化してメタンを得るためのメタン化反応用触媒であって、元素状態の金属を基準とした原子%で、
A)Zr:18?70原子%、
B)Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,CaおよびMgからなるグループから選んだ安定化元素の1種または2種以上(2種以上の場合は合計で):1?20原子%、ならびに
C)鉄族元素:25?80原子%、
からなる組成を有し、正方晶系のジルコニアからなる担体に、金属状態の鉄族元素が触媒活性を担う活性種として担持された構造であって、この担体が、上記した安定化元素の原子とともに上記した鉄族元素の若干の原子を結晶格子点の一部に取り込んで安定化された状態で存在し、粉末形状であることを特徴とする触媒。
補正案2:[請求項1]
二酸化炭素、一酸化炭素と二酸化炭素との混合物、またはこれらを主成分とする混合物を水素化してメタンを得るためのメタン化反応用触媒であって、ジルコニアのヒドロゾルに、Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,CaおよびMgからなるグループから選んだ1種または2種以上の安定化元素の塩の水溶液、ならびに鉄族元素の塩の水溶液を混合し、触媒形状に成形して焼成し、還元処理することによって製造され、元素状態の金属を基準とした原子%で、
A)Zr:18?70原子%、
B)上記安定化元素の1種または2種以上(2種以上の場合は合計で):1?20原子%、
ならびに
C)鉄族元素:25?80原子%、
からなる組成を有し、正方晶系のジルコニアからなる担体に、金属状態の鉄族元素が触媒活性を担う活性種として担持された構造であって、この担体が、上記した安定化元素の原子とともに上記した鉄族元素の若干の原子を結晶格子点の一部に取り込んで安定化された状態で存在することを特徴とする触媒。
2.補正案1について
ア 補正案1の請求項1に係る発明は、補正後発明に「粉末状である」という発明特定事項を付け加えるものであるから、原審の拒絶理由において特許をすることができないものか否かについての判断が示されたすべての発明(補正前の特許請求の範囲の最初に記載された発明との間で同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する発明に限る)と、当該補正案1の請求項1に係る発明とは、発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものではなく、補正案1のように補正することは特許法第17条の2第4項の規定に違反する。
また、この特許法第17条の2第4項の規定に違反することを不問としても、触媒の表面積が大きいほど触媒としての作用が大きいことは技術常識であるから、引用発明の触媒の表面積を大きくすべく粉末状にすることは適宜なし得ることであって、補正案1の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3.補正案2について
補正案2は、「ジルコニアのヒドロゾルに、Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,CaおよびMgからなるグループから選んだ1種または2種以上の安定化元素の塩の水溶液、ならびに鉄族元素の塩の水溶液を混合し、触媒形状に成形して焼成し、還元処理することによって製造され、」という事項を付け加え、実質的に、願書に最初に添付された特許請求の範囲の請求項4の末尾を「メタン化触媒」に変更するものといえる。
しかし、この請求項4に係る発明が、原審の拒絶理由において特許請求の範囲の最初に記載された発明との間で同一の又は対応する特別な技術的特徴を有する発明でないと判断されたように、原審の拒絶理由において特許をすることができないものか否かについての判断が示されたすべての発明と、当該補正案2の請求項1に係る発明とは、発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものではなく、補正案2のように補正することは特許法第17条の2第4項の規定に違反する。
4.よって、時機を逸した補正案の提示であるし、これら補正案を採用しても請求項1に係る発明は特許を受けることができないから、補正の機会を与えない。

第7.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、本願の出願日前に頒布された引用例に記載された発明あり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-24 
結審通知日 2012-10-30 
審決日 2012-11-12 
出願番号 特願2008-187970(P2008-187970)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (B01J)
P 1 8・ 113- Z (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 隆介  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 中澤 登
國方 恭子
発明の名称 炭素酸化物のメタン化反応用触媒およびその触媒を使用したメタン化方法  
代理人 須賀 総夫  
代理人 須賀 総夫  

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