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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B61L
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B61L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B61L
管理番号 1268227
審判番号 不服2011-27512  
総通号数 158 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-02-22 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-21 
確定日 2013-01-04 
事件の表示 特願2006-143487「遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月 6日出願公開、特開2007-313957〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成18年5月24日の出願であって、平成23年1月5日付けで拒絶理由が通知され、平成23年3月6日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年9月21日付けで拒絶査定がなされ、平成23年12月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において平成24年3月19日付けで書面による審尋がなされ、平成24年5月11日付けで回答書が提出されたものである。

第2.平成23年12月21日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成23年12月21日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
(1)本件補正の内容
平成23年12月21日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成23年3月6日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の下記(a)を、下記(b)と補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
遮断かんの下降動作妨害時における自重下降切替を制御するためのソフトウェア制御およびハードウェア制御の併用によるシステムであって、該システムは、ソフトウェア制御を担うものとして、該遮断かんを動作させるモータ駆動回路に対する制御を行うCPUと、ハードウェア制御を担うものとして、該CPUによる所定の制御もしくは該制御に基づく該モータ駆動回路における所定の動作に異常が生じた場合であっても該所定の動作をなさしめることのできる電気回路とを備えてなり、かかる構成により、遮断かん下降動作時に妨害があった場合における自重下降切替の安全性を高められることを特徴とする、遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム。
【請求項2】
前記電気回路はCR回路であることを特徴とする、請求項1に記載の遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム。
【請求項3】
前記CPUによる所定の制御は前記モータ駆動回路の停止指令出力であり、前記所定の動作は該モータ駆動回路の停止であることを特徴とする、請求項1または2に記載の遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム。
【請求項4】
前記CPUによる所定の制御もしくは該制御に基づく該モータ駆動回路における所定の動作がなされない場合でも、所定時間経過後には前記電気回路が作動するように、該電気回路の動作開始が設定されていることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれかに記載の遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム。
【請求項5】
前記所定時間は0秒を超え5秒以内であることを特徴とする、請求項4に記載の遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム。
【請求項6】
前記CPUによる前記モータ駆動回路の停止は、前記モータ駆動回路動作開始後10秒経過時点でなされるように設定され、前記電気回路の動作開始は、該モータ駆動回路動作開始から11秒後になされるように設定されていることを特徴とする、請求項5に記載の遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
遮断かんの下降動作妨害時における自重下降切替を制御するためのソフトウェア制御およびこれとは独立してなされるハードウェア制御の併用によるシステムであって、
該システムは、ソフトウェア制御を担うものとして、該遮断かんを動作させるモータ駆動回路に対する制御を行うCPUと、
ハードウェア制御を担うものとして、該CPUによる該モータ駆動回路停止制御もしくは該制御に基づく該モータ駆動回路の停止動作に異常が生じた場合であっても該ソフトウェア制御とは独立して直接該モータ駆動回路に対して該所定の動作をなさしめることのできる該CPUとは独立して設けられた電気回路と、該モータ駆動回路の動作状態を検知するために該CPUとは独立して設けられた電圧検出手段とを備えてなり、
該電気回路は強制的に該モータ駆動回路の駆動を停止させる所定時間が設定されたタイマーを有し、
かかる構成により、所定時間経過しても該CPUによる停止動作がなされない場合であっても該電圧検出手段による検知に基づいて強制的に停止動作がなされ、
これにより遮断かん下降動作時に妨害があった場合における自重下降切替の安全性を高められることを特徴とする、
遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム。
【請求項2】
前記電気回路はCR回路であることを特徴とする、請求項1に記載の遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム。
【請求項3】
前記CPUによる所定の制御もしくは該制御に基づく該モータ駆動回路における所定の動作がなされない場合でも、所定時間経過後には前記電気回路が作動するように、該電気回路の動作開始が設定されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム。
【請求項4】
前記所定時間は0秒を超え5秒以内であることを特徴とする、請求項3に記載の遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム。
【請求項5】
前記CPUによる前記モータ駆動回路の停止は、前記モータ駆動回路動作開始後10秒経過時点でなされるように設定され、前記電気回路の動作開始は、該モータ駆動回路動作開始から11秒後になされるように設定されていることを特徴とする、請求項4に記載の遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム。」(なお、下線は、請求人が補正箇所を明示するために付した。)

(2)本件補正は、特許請求の範囲における請求項1に関して、以下の補正事項を含むものである。
(a)本件補正前の請求項1を引用する請求項3における「ハードウェア制御」の記載を「これとは独立してなされるハードウェア制御」と補正し、同じく「電気回路」の記載を「該CPUとは独立して設けられた電気回路」と補正する。
(b)電気回路に関して、「強制的に該モータ駆動回路の駆動を停止させる所定時間が設定されたタイマーを有し」との記載を付加する補正がなされている。
(c)本件補正前の請求項1を引用する請求項3においては「電圧検出手段」についてはなんら記載されていないところ、「該モータ駆動回路の動作状態を検知するために該CPUとは独立して設けられた電圧検出手段」及び「所定時間経過しても該CPUによる停止動作がなされない場合であっても該電圧検出手段による検知に基づいて強制的に停止動作がなされ」との記載を新たに付加する補正がなされている。

2.本件補正の適否についての判断
2.-1(目的要件違反)
本件補正後の請求項1に関する補正事項(a)及び(b)は、本件補正前の請求項1を引用する請求項3に係る発明を特定するために必要な事項(以下、単に「発明特定事項」という。)について限定的に減縮するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると認められるとしても、補正事項(c)については、本件補正前の請求項1を引用する請求項3に記載された発明に新たな発明特定事項を追加するものであり、本件補正前の請求項1を引用する請求項3に記載された発明の発明特定事項のいずれかを例えば概念的に下位の事項とすることなどによってその発明特定事項を限定的に減縮するものとは認められず、また、補正事項(c)を包含する本件補正後の請求項1に記載された発明は、本件補正前の請求項1を引用する請求項3に記載された発明とはその技術内容や発明の範囲を異にするものであり、別異の発明を構成するものとなっている。
したがって、本件補正後の請求項1に関する補正事項(c)は、本件補正前の請求項1を引用する請求項3に係る発明の発明特定事項に新たな発明特定事項を追加するものであって、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものとは認められず、さらに、請求項の削除、誤記の訂正あるいは明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもないことは明らかである。

以上のように、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に違反するものである。

2.-2(独立特許要件違反)
請求項1に関する本件補正が、仮に、本件補正前の請求項1を引用する請求項3に記載された発明の発明特定事項を限定するものであって、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであると解されるとしても、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
その理由は、以下のとおりである。

2.-3 引用文献
(1)引用文献の記載
原査定の拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願平1-73480号(実開平3-13275号)のマイクロフィルム(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次のような記載がある。

(ア)「〈産業上の利用分野〉
本考案は、電子制御駆動モータを使用して遮断桿を昇降駆動する踏切遮断機に関し、特に、モータが故障した時に遮断桿を確実に下降させることのできる踏切遮断機の安全装置に関する。
〈従来の技術〉
列車位置を検知し、その位置検知信号に基づいてモータを駆動制御して遮断桿を自動的に昇降させる踏切遮断機において、近年では遮断桿駆動用モータとしてメインテナスの容易な電子制御駆動モータが実用化されつつある。
電子制御駆動モータでは、列車位置検知信号に基づいて発生する遮断桿の上昇指令又は下降指令が電子制御回路に入力すると、電子制御回路により例えばトランジスタ等の半導体素子をオン・オフ制御してモータの界磁巻線の各相の通電方向を制御し、入力した指令に応じてモータの回転方向を制御して遮断桿を昇降制御するように構成されている。
〈考案が解決しようとする課題〉
ところで、モータを用いて遮断桿を昇降動作させる踏切遮断機においては、停電等のモータヘの電源供給が停止するような故障が発生した場合は、ウエイトバランスにより遮断桿が自重で下降して遮断桿が閉状態になるよう構成され、安全性を高めている。
本考案は、電源供給が停止するような故障の場合だけでなく、遮断機の動作に異常が発生した時には、確実に遮断桿を閉状態にする電子制御駆動モータを使用する踏切遮断機の安全装置を提供することを目的とする。
〈課題を解決するための手段〉
このため本考案は、電子制御駆動モータを使用して遮断桿を昇降駆動制御する一方、遮断桿下降時にモータヘの電源供給が停止した時に自重で下降して遮断桿が閉状態となるよう構成された踏切遮断機において、遮断桿の下降制御指令を発生する下降指令手段と、該下降指令手段からの指令に基づいて前記モータを駆動制御するモータ駆動制御手段と、遮断桿が所定の下降位置に到達したことを検出する遮断桿位置検出手段と、前記下降指令が発生してからの時間を計測するタイマ手段と、該タイマ手段が計測を開始してから所定時間内に前記遮断桿位置検出手段からの遮断桿検出信号が発生しないときのみ前記モータヘの電源供給を停止する電源遮断手段とを含んで構成した。
〈作用〉
上記の構成において、モータ駆動制御手段は、下降指令手段からの遮断桿下降指令の入力によりモータを駆動制御して遮断桿を下降駆動する。
タイマ手段は、前記下降指令の発生により動作して計時を開始する。そして、下降指令の発生から所定時間経過しても遮断桿が所定の下降位置に到達せず遮断桿位置検出手段から遮断桿検出信号が発生しない場合には、遮断機の異常として電源遮断手段によってモータヘの電源供給が停止される。これにより、遮断桿は、そのウエイトバランスにより自重で下降して閉状態となる。」(第2ページ第1行ないし第4ページ第18行)

(イ)「 第1図は本考案の一実施例の要部である踏切遮断機のモータ通電制御回路を示し、第2図は遮断機の駆動回路全体を示す。
まず、第2図で踏切遮断機の駆動回路全休について説明する。
1は直流電源端子A、B間に接続され列車検知の有無に応じて励磁・無励磁となることにより遮断桿の上昇・下降を制御するための昇降制御リレー、2は遮断桿の回動角度が略水平な下降位置に対して85°?90°の時閉成する接点2aと、0°?5°の時閉成する接点2bとを有する回路制御器、3は前記回路制御器2及び前記昇降制御リレー1の定位接点1a又は反位接点1bを介して直流電源端子C、Dに接続するブレーキ制御リレー、4は前記ブレーキ制御リレー3の定位接点3aを介して前記直流電源端子C、Dに接続され遮断桿停止直前で制動力を発生するブレーキ、5はブレーキ制御リレー3の2つの反位接点3b、3cを介して直流電源端子C、Dに接続する電子制御駆動モータで、制御部5Aとモータ部5Bとで構成されている。尚、第2図中6はスナップスイッチ、7はサージアブソーバ、8は押しボタンスイッチである。
次に、第1図のモータ通電制御回路について説明する。
図において、直流電源端子E、F間には、前記昇降制御リレー1とブレーキ制御リレー3のそれぞれの定位接点1c、3dの並列回路と、リレー部9A及びコンデンサC_(1)、調整用コンデンサC_(2)、抵抗Rからなるタイマ部9Bとで構成された時素リレー9(注:磁素リレー9の誤記)とが接続されている。また、前記定位接点1c、3cの並列回路と時素リレー9(注:磁素リレー9の誤記)に対して並列に、時素リレー9(注:磁素リレー9の誤記)の定位接点9aとモータコイルの各相U、V、W間の電流を遮断するためのモータ断リレー10との直列回路が接続されている。
前記磁素リレー9は、電源が遮断されてから所定時間T(例えば6秒?7秒)の間はコンデンサC_(1)の放電電流により励磁状態を保持できるよう構成されており、前記所定時間Tは遮断桿の正規の下降時間(例えば5秒?6秒)以上に設定しておく。尚、調整用コンデンサC_(2)は前記所定時間Tを設定する時の微調整用である。
前記モータ断リレー10は、電子制御駆動モータ5のモータ部5Bに設けられる界磁コイルの各相U、V、Wのうち2つの相(例えばU、V)と直列にその定位接点10a、10b が接続してある。」(第5ページ第2行ないし第7ページ第7行)

(ウ)「 まず、第2図を参照して列車通過に伴う遮断機の遮断桿回動動作について説明する。
列車の通過がなく遮断桿が上昇位置に停止している状態では、直流電源端子A、Bに電圧が印加されており、昇降制御リレー1が励磁状態にある。従って、定位接点laが接続状態にあり、回路制御器2の接点2aが接続しているのでブレーキ制御リレー3が励磁状態にあり、その定位接点3aが接続してブレーキ4が動作状態になっていて遮断桿を上昇位置に停止保持している。
この状態から列車の接近が検知されると、直流電源端子A、Bが開放され昇降制御リレー1が無励磁になり、前記定位接点1a側から反位接点1b側に切換わる。これにより、ブレーキ制御リレー3が無励磁になり、その定位接点3aが開放されブレーキ4の制動力がなくなる。また、ブレーキ制御リレー3の反位接点3b、3cが接続状態となり、電子制御駆動モータ5が直流電源端子C、Dに接続される。そして、前記昇降制御リレー1の動作条件信号Sの入力により、励磁状態から無励磁状態に変化したと制御部5Aが判断すると、モータ部5Bを遮断桿下降方向に回転駆動制御して遮断桿を下降させる。尚、モータ5は、昇降制御リレー1が励磁状態で上昇方向へ回転し、無励磁状態で下降方向へ回転する。ここで、昇降制御リレー1が下降指令手段に相当し、制御部5Aがモータ駆動制御手段に相当する。
遮断桿が下降し下降位置に対して5°の位置まで下降すると、回路制御器2の接点2bが接続しブレーキ制御リレー3が反位接点1bを介して通電され励磁される。これにより、その定位接点3aが接続し、反位接点3b、3cが開放されるので、ブレーキ4が制動力を発生すると共に、電子制御駆動モータ5への電源供給が断たれてモータ5が停止し、遮断桿を下降位置に停止保持して踏切を閉鎖する。」(第7ページ第9行ないし第9ページ第4行)

(エ)「 次に本実施例の特徴であるモータ通電制御について第1図を参照して説明する。
遮断桿が、上昇位置にある時は昇降制御リレー1の定位接点lc及びブレーキ制御リレー3の定位接点3dの両方が接続しており、下降位置にある時はブレーキ制御リレー3の定位接点3dが接続しており、上昇途中では昇降制御リレー1の定位接点1cが接続しており、このときにコンデンサC_(1)は充電される。また、磁素リレー9のリレー部9Aは励磁状態にあり、その定位接点9aが接続し、モータ断リレー10は励磁状態にあり、その定位接点10a、10 b はいずれも接続して電子制御駆動モータ5のモータ部5Bの各相U、V、W間は接続されモータ5への通電が可能な状態になっている。
今、上昇位置にある遮断桿が、列車の検知により下降動作を開始した場合、まず、列車検知信号により昇降制御リレー1が無励磁になりその定位接点1cが開放される。また、昇降制御リレー1の無励磁により定位接点1a側から反位接点1b側へ切換わったことにより、ブレーキ制御リレー3が無励磁となり、その定位接点3dも開放されるので、その後はコンデンサC_(1)の放電電流により磁素リレー9は励磁状熊に保持される。遮断桿が正常に動作して正規の下降時間内に下降を完了すれば、コンデンサC_(1)の放電電流がなくなる以前にブレーキ制御リレー3の定位接点3dが接続するので、磁素リレー9は励磁状態が継続され、モータ断リレー10は励磁状態に保持され、モータ5の各相U、V、W間は遮断されることはなく、常に電源の供給が可能な状態になっている。
一方、遮断桿の下降動作において、遮断桿が正規の下降時間内に下降せずコンデンサC_(1)の放電電流がなくなる以前に所定の下降位置まで下降しない場合には、ブレーキ制御リレー3の定位接点3dが接続しないので、磁素リレー9は無励磁となり、その定位接点9aが開放し、モータ断リレー10が無励磁となる。これにより、その定位接点10a、10b が開放するので、モータ5の各相U、V、W間が電気的に遮断され、モータ5への電流供給が停止され、遮断桿のウエイトバランスによ自重で遮断桿が下降し踏切を閉鎖する。ここで、回路制御器2及びブレーキ制御リレー3が遮断桿位置検出手段に相当し、時素リレー9(注:磁素リレー9の誤記)がタイマ手段に相当し、モータ断リレー10が電源遮断手段に相当する。
かかる構成によれば、電子制御駆動モータ5の制御部5B等遮断機の駆動回路になんらかの異常が発生して遮断桿が正規の時間内に下降しない時は、自動的にモータ部5Bの界磁コイルの各相U、V、W間を遮断してモータ5への通電を停止して遮断桿を自重で下降させるので、踏切が閉鎖され踏切での事故を未然に防止することができる。」(第10ページ第7行ないし第12ページ第19行)

(2)引用文献記載の事項
上記(1)(ア)ないし(エ)及び図面の記載から、以下の事項が分かる。
(オ)遮断桿の下降動作に関して、昇降制御リレー1による制御とこれとは独立してなされる電気回路のモータ通電制御回路であるハードウェア制御を併用して遮断機の下降動作切替の2重冗長制御システムを構成していることが分かる。

(カ)モータ通電制御回路は、制御部5Aの停止動作に異常が生じた場合であっても昇降制御リレー1とは独立して直接電子制御駆動モータ5に対して停止動作をなさしめる構成であることが分かる。

(キ)遮断桿位置検出手段の回路制御器2により、遮断桿の位置を検出し、遮断桿が正常に動作して正規の下降時間内に下降を完了するか否かを検知しているので、
遮断桿位置検出手段は電子制御駆動モータ5の動作状態を検知するために昇降制御リレー1とは独立して設けられた検出手段であることが分かる。

(ク)遮断桿の電子制御駆動モータ5への電源供給が停止するような故障の場合及び、下降指令の発生から所定時間経過しても所定の下降位置に到達せず遮断桿位置検出手段から遮断桿検出信号が発生しない場合において、遮断桿は自重で下降して閉状態となるので、自重下降切替の安全性が高められていることが分かる。

(3)引用発明
上記(1)(ア)ないし(エ)及び図面の記載、並びに、(2)(オ)ないし(ク)から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「遮断桿の電子制御駆動モータ5への電源供給が停止するような故障の場合及び、下降指令の発生から所定時間経過しても下降位置に到達せず遮断桿位置検出手段から遮断桿検出信号が発生しない場合において自重で下降して遮断桿が閉状態になるようにするための昇降制御リレー1による制御およびこれとは独立してなされるモータ通電制御回路による制御の併用によるシステムであって、
該システムは、昇降制御リレー1による制御を担うものとして、該遮断桿を駆動させる制御部5Aに対する制御を行う昇降制御リレー1と、
モータ通電制御回路による制御を担うものとして、該昇降制御リレー1による制御に基づく該制御部5Aの停止動作に異常が生じた場合であっても該昇降制御リレー1による制御とは独立して直接該電子制御駆動モータ5に対して停止動作をなさしめることのできる該昇降制御リレー1とは独立して設けられたモータ通電制御回路と、電子制御駆動モータ5の動作状態を検知するために該昇降制御リレー1とは独立して設けられた遮断桿位置検出手段とを備えてなり、
該モータ通電制御回路は電子制御駆動モータ5への通電を停止させる所定時間Tが設定された磁素リレー9を有し、
かかる構成により、所定時間T経過しても該昇降制御リレー1による停止動作がなされない場合であっても該遮断桿位置検出手段による検知に基づいて電子制御駆動モータ5への通電が停止され、
これにより遮断桿の電子制御駆動モータ5への電源供給が停止するような故障の場合及び、下降指令の発生から所定時間経過しても下降位置に到達せず遮断桿位置検出手段から遮断桿検出信号が発生しない場合における自重下降切替の安全性を高められる、
遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム。」

2.-4 対比・判断
本願補正発明と引用発明とを比較すると、引用発明における「遮断桿」は、その機能及び構成からみて、本願補正発明における「遮断かん」に相当し、以下同様に、「遮断桿の電子制御駆動モータ5への電源供給が停止するような故障の場合及び、下降指令の発生から所定時間経過しても下降位置に到達せず遮断桿位置検出手段から遮断桿検出信号が発生しない場合」は「遮断かんの下降動作妨害時」及び「遮断かん下降動作時に妨害があった場合」に、「自重で下降して遮断桿が閉状態になるようにする」は「自重下降切替を制御する」に、「モータ通電制御回路による制御」は「ハードウェア制御」に、「駆動」は「動作」に、「制御部5A」は「モータ駆動回路」に、「モータ通電制御回路」は「電気回路」に、「所定時間T」は「所定時間」に、「磁素リレー9」は「タイマー」に、それぞれ相当する。
また、後者の「遮断桿の電子制御駆動モータ5への電源供給が停止するような故障の場合及び、下降指令の発生から所定時間経過しても下降位置に到達せず遮断桿位置検出手段から遮断桿検出信号が発生しない場合において自重で下降して遮断桿が閉状態になるようにする」態様は、前者の「遮断かんの下降動作妨害時における自重下降切替を制御する」態様に、以下同様に、「直接電子制御駆動モータ5に対して停止動作をなさしめることのできる」態様は、「直接モータ駆動回路に対して所定の動作をなさしめることのできる」態様に、「モータ通電制御回路は電子制御駆動モータ5への通電を停止させる」態様は、「電気回路は強制的にモータ駆動回路の駆動を停止させる」態様に、「モータ通電制御回路は電子制御駆動モータ5への通電を停止させる所定時間Tが設定された磁素リレー9を有」する態様は、「電気回路は強制的にモータ駆動回路の駆動を停止させる所定時間が設定されたタイマーを有」する態様に、それぞれ相当する。
さらに、後者の「昇降制御リレー1による制御」は、「ハードウェア制御とは異なる制御」という限りにおいて、前者の「ソフトウェア制御」に相当し、後者の「昇降制御リレー1」は、「ハードウェア制御とは異なる制御を担うもの」という限りにおいて、前者の「CPU」に相当し、後者の「電子制御駆動モータ5の動作状態を検知するために昇降制御リレー1とは独立して設けられた遮断桿位置検出手段」は、「モータの動作状態を検知するためにハードウェア制御とは異なる制御を担うものとは独立して設けられた検出手段」という限りにおいて、前者の「モータ駆動回路の動作状態を検知するためにCPUとは独立して設けられた電圧検出手段」に相当する。そして、後者の「所定時間T経過しても昇降制御リレー1による停止動作がなされない場合であっても遮断桿位置検出手段による検知に基づいて電子制御駆動モータ5への通電が停止され」る態様は、「所定時間経過してもハードウェア制御とは異なる制御を担うものによる停止動作がなされない場合であっても検出手段による検知に基づいて強制的に停止動作がなされ」るという限りにおいて、前者の「所定時間経過してもCPUによる停止動作がなされない場合であっても電圧検出手段による検知に基づいて強制的に停止動作がなされ」る態様に相当する。

したがって、両者は、
「遮断かんの下降動作妨害時における自重下降切替を制御するためのハードウェア制御とは異なる制御およびこれとは独立してなされるハードウェア制御の併用によるシステムであって、
該システムは、ハードウェア制御とは異なる制御を担うものとして、該遮断かんを動作させるモータ駆動回路に対する制御を行うハードウェア制御とは異なる制御を担うものと、
ハードウェア制御を担うものとして、ハードウェア制御とは異なる制御に基づく該モータ駆動回路の停止動作に異常が生じた場合であっても該ハードウェア制御とは異なる制御とは独立して直接該モータ駆動回路に対して該所定の動作をなさしめることのできる該ハードウェア制御とは異なる制御を担うものとは独立して設けられた電気回路と、モータの動作状態を検知するために該ハードウェア制御とは異なる制御を担うものとは独立して設けられた検出手段とを備えてなり、
該電気回路は強制的に該モータ駆動回路の駆動を停止させる所定時間が設定されたタイマーを有し、
かかる構成により、所定時間経過しても該ハードウェア制御とは異なる制御を担うものによる停止動作がなされない場合であっても該検出手段による検知に基づいて強制的に停止動作がなされ、
これにより遮断かん下降動作時に妨害があった場合における自重下降切替の安全性を高められる、
遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
(1)本願補正発明においては、2重冗長制御システムをCPUによるソフトウエア制御とこれとは独立してなされる電気回路によるハードウェア制御を併用して構成しているのに対して、引用発明においては、2重冗長制御システムを昇降制御リレー1による制御とこれとは独立してなされる電気回路によるハードウェア制御を併用して構成している点(以下、相違点1という。)。

(2)モータの動作状態を検知するために設けられた検出手段に関し、本願補正発明においては、モータ駆動回路の動作状態を検知する電圧検出手段であるのに対して、引用発明においては、電子制御駆動モータ5の動作状態を検知する遮断桿位置検出手段である点(以下、相違点2という。)。

相違点について検討する。
(1)相違点1について
機械設計上一般に、制御リレー手段の機能をCPUとして構成することは普通に行われていること(以下、慣用技術という。)であり、且つ、2重冗長制御システムにおいて、CPUによるソフトウエア制御と電気回路によるハードウェア制御により冗長制御システムを構築することは周知の技術(例えば、特公昭44-5912号公報(特に、第2ページ右欄第15ないし18行及び第3図等参照。)や特開平9-21345号公報(特に、段落【0013】ないし【0018】及び図1ないし図3等参照。)等を参照のこと。以下、「周知技術」という。)であることを参酌すれば、引用発明において、上記慣用技術及び上記周知技術を適用して、上記相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項のようにすることは、当業者が容易に推考し得るものである。

(2)相違点2について
モータの動作状態を検知するために、モータ駆動回路の電圧を検出することは一般に行われていることであって、遮断かんを駆動するモータの動作状態を検知するために、モータ駆動回路の電圧を検出するか、遮断かんの位置を検出するかは、当業者が適宜選択し得る設計事項に過ぎない。

また、本願補正発明を全体として検討しても、引用発明、上記慣用技術及び上記周知技術から予想される以上の格別の効果を奏するとも認められない。
以上から、本願補正発明は、引用発明、上記慣用技術及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおり、本件補正は、前記2.-1において検討したように、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に違反するので、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
また、本件補正における請求項1に関する補正事項が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると解されるとしても、前記2.-2ないし2.-4において検討したように、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

よって結論のとおり決定する。


第3.本願発明について
1.本願発明
前記のとおり、平成23年12月21日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年3月6日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書、並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1(第2.の[理由]の1.(1)(a)【請求項1】)に記載された事項により特定されたとおりのものである。

2.引用文献の記載内容
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献(実願平1-73480号(実開平3-13275号)のマイクロフィルム)記載の発明(引用発明)は、第2.の[理由]2.-3(3)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の[理由]1.(2)で検討した本願補正発明から、補正前の請求項3の発明特定事項、「ハードウェア制御」について「これとは独立してなされる」、及び「電気回路」について「該CPUとは独立して設けられた」及び「強制的に該モータ駆動回路の駆動を停止させる所定時間が設定されたタイマーを有し」との限定を省くとともに、「該モータ駆動回路の動作状態を検知するために該CPUとは独立して設けられた電圧検出手段」及び「所定時間経過しても該CPUによる停止動作がなされない場合であっても該電圧検出手段による検知に基づいて強制的に停止動作がなされ」との限定を省いたものに相当する。
そして、本願発明にさらに他の構成要件を付加した本願補正発明が、前記第2.の[理由]2.-4に記載したとおり、引用発明、上記慣用技術及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、相違点2についての検討が不要となるほかは、同様の理由により、引用発明、上記慣用技術及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、上記慣用技術及び上記周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-10-04 
結審通知日 2012-10-05 
審決日 2012-11-16 
出願番号 特願2006-143487(P2006-143487)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (B61L)
P 1 8・ 121- Z (B61L)
P 1 8・ 575- Z (B61L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 則夫  
特許庁審判長 大河原 裕
特許庁審判官 槙原 進
川口 真一
発明の名称 遮断機下降動作切替の2重冗長制御システム  
代理人 富沢 知成  
代理人 富沢 知成  

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