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審決分類 審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する B23K
審判 訂正 2項進歩性 訂正する B23K
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する B23K
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する B23K
管理番号 1268578
審判番号 訂正2012-390148  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2012-11-15 
確定日 2012-12-20 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3017054号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3017054号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり一群の請求項ごとに訂正することを認める。 
理由 1.手続の経緯

本件特許第3017054号(以下、「本件特許」という。)は、平成7年9月28日に出願された特願平7-251596号の請求項1?6に係る発明について、平成11年12月24日に特許権の設定登録がされ、平成24年11月15日に本件訂正審判の請求がされたものである。

2.請求の要旨

本件訂正審判は、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)を、審判請求書に添付した訂正明細書のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであって、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次の訂正事項1?6に示すとおり(下線部が訂正箇所)である。
なお、訂正明細書の特許請求の範囲において、請求項2?6はいずれも訂正事項を有する請求項1の記載を引用するから、前記一群の請求項には、請求項1?6が該当する。

訂正事項1
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載を、
「【請求項1】 金属外皮中にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全重量に対して、Ti及びTi化合物(Ti換算値):1.5乃至3.5重量%、Zr及びZr化合物(Zr換算値):0.25乃至0.40重量%、Si及びSi化合物(Si換算値):0.5乃至1.2重量%、Mn:2.0乃至3.0重量%及びC:0.02乃至0.1重量%を含有し、前記Ti及びTi化合物のTi換算値を重量%で[Ti]、Zr及びZr化合物のZr換算値を重量%で[Zr]、Si及びSi化合物のSi換算値を重量%で[Si]と表すと、数式([Ti]/[Zr])によって表される値が5乃至12であり、数式(2×[Zr]+[Si])によって表される値が1.1乃至1.9であり、かつ金属又は合金の形で添加されるTiがTi換算値で0.01乃至0.5重量%であることを特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。」に訂正する。

訂正事項2
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項3の記載を、
「【請求項3】 更に、ワイヤ全重量に対して、Ti酸化物をTi換算値で1.8乃至3.3重量%含有することを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。」
に訂正する。

訂正事項3
本件特許明細書の段落0007の記載を、
「【0007】
【課題を解決するための手段】本発明に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、ワイヤ全重量に対して、Ti及びTi化合物(Ti換算値):1.5乃至3.5重量%、Zr及びZr化合物(Zr換算値):0.25乃至0.40重量%、Si及びSi化合物(Si換算値):0.5乃至1.2重量%、Mn:2.0乃至3.0重量%及びC:0.02乃至0.1重量%を含有し、前記Ti及びTi化合物のTi換算値を重量%で[Ti]、Zr及びZr化合物のZr換算値を重量%で[Zr]、Si及びSi化合物のSi換算値を重量%で[Si]と表すと、数式([Ti]/[Zr])によって表される値が5乃至12であり、数式(2×[Zr]+[Si])によって表される値が1.1乃至1.9であり、かつ金属又は合金の形で添加されるTiがTi換算値で0.01乃至0.5重量%であることを特徴とする。」
と訂正する。

訂正事項4
本件特許明細書の段落0009の記載を、
「【0009】更に、ワイヤ全重量に対して、Ti酸化物をTi換算値で1.8乃至3.3重量%含有していることが好ましい。」
と訂正する。

訂正事項5
本件特許明細書の段落0032の表1、段落0033の表2、段落0034の表3及び段落0036の表5から、No.2,4?6,8?11に関する記載を削除し、実施例をNo.1,3,7,12のみに訂正する。

訂正事項6
本件特許明細書の段落0037の記載を、
「【0037】上記表1?3及び5に示すように、フラックス中の化学成分等が全て請求項1に規定した本発明の範囲内である実施例No.1,3,7,12については、優れた溶接作業性を示した。特に、実施例No.1,3,7については、請求項2?5に規定した範囲も満足しているので、水平隅肉溶接姿勢における溶接作業性がより一層優れたものとなった。」
と訂正する。

3.当審の判断

訂正事項1?6について、訂正要件の適合性を判断する。

訂正事項1について
この訂正は、請求項1に記載されたガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの構成成分である「Zr及びZr化合物(Zr換算値)」の含有量について、訂正前の「0.2乃至0.5重量%」との数値限定を「0.25乃至0.40重量%」へ減縮するとともに、同じく構成成分である「Ti及びTi化合物(Ti換算値)」の含有量についても、訂正前の「1.5乃至3.5重量%」との総量限定に加え「金属又は合金の形で添加されるTiがTi換算値で0.01乃至0.5重量%である」との個別限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の段落0018に「好ましくは、Zr含有量は0.25乃至0.40重量%である。」こと、同段落0017に「従って、Tiが金属又は合金の形で添加される場合には、ワイヤ全重量に対するTi含有量は0.01乃至0.5重量%であることが好ましい。」ことがそれぞれ記載されていたから、この訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項2について
この訂正は、訂正事項1の訂正に伴い、請求項1の記載を引用する請求項3において「金属又は合金の形で添加されるTiがTi換算値で0.01乃至0.5重量%である」との記載が重複するのを避けるため、これを削除したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、この訂正は、訂正事項1と同様に、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項3について
この訂正は、訂正事項1の訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載を請求項1の記載と整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、この訂正は、訂正事項1と同様に、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項4について
この訂正は、訂正事項2の訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載を請求項3の記載と整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、この訂正は、訂正事項2と同様に、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

訂正事項5,6について
これらの訂正は、訂正事項1の訂正に伴い、請求項1の記載事項を満足しない実施例を削除して、発明の詳細な説明の記載を請求項1の記載と整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、これらの訂正は、訂正事項1と同様に、本件特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

独立特許要件について
次に、訂正事項1により特許請求の範囲が減縮された請求項1?6に係る発明(以下、「訂正発明1?6」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かについて検討する。

請求人が本件訂正審判の請求と同日付けで提出した上申書に添付の引用文献1(特開平5-77086号公報)の表3には、「比較例ワイヤ24」として、
「ワイヤ全重量に対する重量%で、Ti:0.047%及びTiO_(2):3.62%(Ti換算値は2.22%)、ZrO_(2):0.32%(Zr換算値は0.24%)、Si:0.68%及びSiO_(2):0.33%(Si換算値は0.83%)、Mn:2.32%及びC:0.071%を含有し、前記Ti換算値を[Ti]、Zr換算値を[Zr]、Si換算値を[Si]と表すと、数式([Ti]/[Zr])によって表される値が9.36であり、数式(2×[Zr]+[Si])によって表される値が1.31である0.5Mo鋼用ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
してみると、訂正発明1?6は、この引用発明1と比較して、引用発明1のZr換算値が0.24%であるのに対し、訂正発明1?6のZr換算値は「0.25乃至0.40重量%」である点で少なくとも相違するが、引用文献1には、比較例である引用発明1のZrやZr化合物の含有量を増加させることについて記載や示唆はない。

また、同じく上申書に添付の引用文献2(特開平7-9191号公報)の表2には、「本発明ワイヤ13」として、
「ワイヤ中重量%で、TiO_(2):5.0%(Ti換算値は3.0%)、ZrO_(2):0.5%(Zr換算値は0.4%)、Si:0.2%及びSiO_(2):0.8%(Si換算値は0.6%)、Mn:2.0%及びC:0.05%を含有し、前記Ti換算値を[Ti]、Zr換算値を[Zr]、Si換算値を[Si]と表すと、数式([Ti]/[Zr])によって表される値が8.1であり、数式(2×[Zr]+[Si])によって表される値が1.3であるチタニア系マグ溶接フラックス入りワイヤ。」の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
してみると、訂正発明1?6は、この引用発明2と比較して、引用発明2が、金属又は合金の形で添加されるTiを含まないのに対し、訂正発明1?6が、金属又は合金の形で添加されるTiを「0.01乃至0.5重量%」含む点で少なくとも相違するが、引用文献2には、チタニア系フラックスを前提とする引用発明2に、金属又は合金の形でTiを添加することについて記載や示唆はない。

したがって、訂正発明1?6は、引用文献1又は引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、他に、訂正発明1?6について拒絶理由を発見しない。
よって、訂正発明1?6は、特許出願の際独立して特許を受けることができる。

4.むすび

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】金属外皮中にフラックスを充填してなるガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤにおいて、ワイヤ全重量に対して、Ti及びTi化合物(Ti換算値):1.5乃至3.5重量%、Zr及びZr化合物(Zr換算値):0.25乃至0.40重量%、Si及びSi化合物(Si換算値):0.5乃至1.2重量%、Mn:2.0乃至3.0重量%及びC:0.02乃至0.1重量%を含有し、前記Ti及びTi化合物のTi換算値を重量%で[Ti]、Zr及びZr化合物のZr換算値を重量%で[Zr]、Si及びSi化合物のSi換算値を重量%で[Si]と表すと、数式([Ti]/[Zr])によって表される値が5乃至12であり、数式(2×[Zr]+[Si])によって表される値が1.1乃至1.9であり、かつ金属又は合金の形で添加されるTiがTi換算値で0.01乃至0.5重量%であることを特徴とするガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
【請求項2】更に、ワイヤ全重量に対して、金属又は合金の形で添加されるSiがSi換算値で0.5乃至1.1重量%、Si酸化物をSi換算値で0.05乃至0.35重量%含有することを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
【請求項3】更に、ワイヤ全重量に対して、Ti酸化物をTi換算値で1.8乃至3.3重量%含有することを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
【請求項4】更に、ワイヤ全重量に対して、金属又は合金の形で添加されるZrがZr換算値で0.01乃至0.3重量%、Zr酸化物をZr換算値で0.15乃至0.45重量%含有することを特徴とする請求項1に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
【請求項5】更に、ワイヤ全重量に対して、Mg及びMg酸化物(Mg換算値):0.3重量%以下、Al及びAl酸化物(Al換算値):0.3重量%以下に規制されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
【請求項6】前記金属外皮は軟鋼又は合金鋼であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、軟鋼、高張力鋼又は低合金鋼の溶接に適用することができ、水平隅肉溶接及び立向上進溶接に好適であると共に、溶接作業性が優れ、溶接速度の向上が可能なガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
近時、溶接作業について、省人化及び高能率化を促進するための開発が進められている。特に造船分野においては二重船殻が必要とされており、隅肉溶接線が他の分野の1.5乃至2倍程度となるので、溶接の高速化が強く要求されてきている。
【0003】
従来のガスシールドアーク溶接の分野については、ビードの外観を改善するための技術が公知である(特開昭62-33093号公報)。これは、フラックスの成分であるTiO_(2)の粒度分布を適切に規定することにより、アークを安定させるものである。また、溶接速度を向上させる技術も提案されている(特開昭63-235077号公報)。これは多電極溶接によるものであり、電極間隔を50mm以下にすることによって、溶接速度の高速化を図っている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、TiO_(2)の粒度分布を規定しても、ビードの外観が改善されるのみであって、その溶接速度は40cm/分程度と低速である。また、多電極溶接による方法については、溶接速度は高速化されているが、多電極溶接であるために、溶接施工上においてトーチ周りが大型化したり、設備投資費が高くなる等の問題点がある。
【0005】
このように従来技術では、ガスシールドアーク溶接において、優れたビード形状と高速溶接とを低コストで得ることが実現できる単電極のフラックス入りワイヤは開発されていない。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、単電極による水平隅肉溶接において溶接速度を例えば1m/分まで向上させることができ、優れたビード形状及びなじみ性を有していると共に、単電極による立向上進溶接においても優れた溶接作業性を有するガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤは、ワイヤ全重量に対して、Ti及びTi化合物(Ti換算値):1.5乃至3.5重量%、Zr及びZr化合物(Zr換算値):0.25乃至0.40重量%、Si及びSi化合物(Si換算値):0.5乃至1.2重量%、Mn:2.0乃至3.0重量%及びC:0.02乃至0.1重量%を含有し、前記Ti及びTi化合物のTi換算値を重量%で[Ti]、Zr及びZr化合物のZr換算値を重量%で[Zr]、Si及びSi化合物のSi換算値を重量%で[Si]と表すと、数式([Ti]/[Zr])によって表される値が5乃至12であり、数式(2×[Zr]+[Si])によって表される値が1.1乃至1.9であり、かつ金属又は合金の形で添加されるTiがTi換算値で0.01乃至0.5重量%であることを特徴とする。
【0008】
また、ワイヤ全重量に対して、金属又は合金の形で添加されるSiがSi換算値で0.5乃至1.1重量%、Si酸化物をSi換算値で0.05乃至0.35重量%含有していることが好ましい。
【0009】
更に、ワイヤ全重量に対して、Ti酸化物をTi換算値で1.8乃至3.3重量%含有していることが好ましい。
【0010】
更にまた、ワイヤ全重量に対して、金属又は合金の形で添加されるZrがZr換算値で0.01乃至0.3重量%、Zr酸化物をZr換算値で0.15乃至0.45重量%含有していることが好ましい。
【0011】
更にまた、ワイヤ全重量に対して、Mg及びMg化合物(Mg換算値):0.3重量%以下、Al及びAl化合物(Al換算値):0.3重量%以下に規制されていると、より一層好ましい。
【0012】
更にまた、前記金属外皮は軟鋼又は合金鋼にすることができる。
【0013】
なお、例えば、ワイヤ全重量において、Ti及びTi化合物(Ti換算値):1.5乃至3.5重量%とは、金属又は合金として添加されるTi及びTiO_(2)等のTi化合物として添加されるTiの総量が、Ti換算値で1.5乃至3.5重量%ということである。この場合に、TiとTi化合物の双方を必ず添加する必要があるということではなく、いずれか一方の添加のみの場合であっても本発明の範囲に入ることは勿論である。その他の成分も同様である。
【0014】
【作用】
本願発明者等は、使用するフラックスの化学成分を適正量に限定することにより、前記課題を解決することができることを見い出した。即ち、水平隅肉溶接における高速溶接時の溶接作業性(ビードの形状及びなじみ性)、及び立向上進姿勢における溶接作業性(ビードの垂れ落ち防止性)を向上させることができる。
【0015】
以下、本発明におけるフラックス入りワイヤ全重量に対するフラックス中の含有成分の組成限定理由について説明する。
【0016】
Ti(Ti換算値):1.5乃至3.5重量%
Tiは金属又は合金の形で添加されると、脱酸作用によりTiO_(2)を生成し、このTiO_(2)はスラグ形成剤として作用する。また、チタン酸化物として添加しても、同様のスラグ形成剤としての作用を有する。Ti含有量が1.5重量%未満であると、スラグ量が不足するので、水平隅肉溶接姿勢においてはビードの形状が劣化し、立向上進姿勢においてはビードの垂れ落ちが発生する。一方、Ti含有量が3.5重量%を超えると、水平隅肉姿勢におけるビードのなじみ性が低下する。従って、ワイヤ全重量に対するTi含有量は1.5乃至3.5重量%とする。好ましくは、Ti含有量は2乃至3重量%である。なお、Tiは金属Tiの他に、Fe-Ti等のTi合金又はルチール及びルコキシン等の化合物から添加されるものであり、Ti合金又はTi化合物から添加される場合は、Ti含有量はこれらに含有されるTi換算値を示す。
【0017】
また、Tiが金属又は合金の形で添加される場合と、Ti酸化物の形で添加される場合とでは、スラグ形成剤としての作用は同一であるが、溶接金属中の酸素量が異なるものとなる。従って、これらの添加量を変化させることにより、溶接金属中の酸化量を調整することができる。Ti又はTi合金が0.01重量%未満であると、溶接部の靱性が低下する。一方、Ti又はTi合金が0.5重量%を超えると、溶接部の強度が過度に高くなる。また、TiO_(2)含有量がTi換算値で1.8重量%未満であると、水平隅肉姿勢におけるビード形状が凸状になりやすくなる。一方、TiO_(2)含有量がTi換算値で3.3重量%を超えると、ビードのなじみ性が劣化する。従って、Tiが金属又は合金の形で添加される場合には、ワイヤ全重量に対するTi含有量は0.01乃至0.5重量%であることが好ましい。また、TiがTi酸化物の形で添加される場合には、ワイヤ全重量に対するTiO_(2)含有量はTi換算値で1.8乃至3.3重量%であることが好ましい。
【0018】
Zr(Zr換算値):0.2乃至0.5重量%
Zrは金属又は合金の形で添加されると、脱酸作用によりZrO_(2)を生成し、このZrO_(2)は水平隅肉姿勢におけるビードのなじみ性を向上させる効果を有する。また、Zr酸化物として添加しても、同様に作用する。Zr含有量が0.2重量%未満であると、この効果が低下する。一方、Zr含有量が0.5重量%を超えると、溶接金属の表面にスラグが均一に被覆されなくなり、ビードの形状が低下する。従って、ワイヤ全重量に対するZr含有量は0.2乃至0.5重量%とする。好ましくは、Zr含有量は0.25乃至0.40重量%である。なお、Zrは金属Zrの他に、Fe-Zr及びFe-Si-Zr等のZr合金又はジルコンサンド等の酸化物から添加されるものであり、Zr合金又はZr酸化物から添加される場合は、Zr含有量はこれらに含有されるZr換算値とする。
【0019】
また、Zrが金属又は合金の形で添加される場合と、Zr酸化物の形で添加される場合とでは、ビードのなじみ性を向上させる効果は同一であるが、溶接金属中の酸素量が異なるものとなる。従って、これらの添加量を変化させることにより、溶接金属中の酸化量を調整することができる。Zr又はZr合金が0.01重量%未満であると、溶接部の靱性が低下する。一方、Zr又はZr合金が0.3重量%を超えると、ビードの形状が劣化する。また、ZrO_(2)含有量がZr換算値で0.15重量%未満であると、水平隅肉姿勢におけるビードのなじみ性が低下する。一方、ZrO_(2)含有量がZr換算値で0.45重量%を超えると、ビード形状が劣化する。従って、Zrが金属又は合金の形で添加される場合には、ワイヤ全重量に対するZr含有量は0.01乃至0.3重量%であることが好ましい。また、ZrがZr酸化物の形で添加される場合には、ワイヤ全重量に対するZrO_(2)含有量はZr換算値で0.15乃至0.45重量%であることが好ましい。
【0020】
Si(Si換算値):0.5乃至1.2重量%
Siは金属又は合金の形で添加されると、脱酸作用によりSiO_(2)を生成し、このSiO_(2)は水平隅肉姿勢におけるビード形状を向上させる効果を有する。また、Si酸化物として添加しても、同様に作用する。Si含有量が0.5重量%未満であると、この効果が低下し、ビードの形状が凸状になりやすくなる。一方、Si含有量が1.2重量%を超えると、スラグの剥離性が低下する。従って、ワイヤ全重量に対するSi含有量は0.5乃至1.2重量%とする。好ましくは、Si含有量は0.6乃至1.0重量%である。なお、Siは金属Siの他に、Fe-Si及びFe-Si-Mn等のSi合金又は長石及び珪砂等の酸化物から添加されるものであり、Si合金又はSi酸化物から添加される場合は、Si含有量はこれらに含有されるSi換算値とする。
【0021】
また、Siが金属又は合金の形で添加される場合と、Si酸化物の形で添加される場合とでは、ビード形状を向上させる効果は同一であるが、溶接金属中の酸素量が異なるものとなる。従って、これらの添加量を変化させることにより、溶接金属中の酸化量を調整することができる。Si又はSi合金が0.5重量%未満であると、脱酸不足により溶接部にブローホール等の溶接欠陥が発生しやすくなる。一方、Si又はSi合金が1.1重量%を超えると、溶接部の靱性が低下する。また、SiO_(2)含有量がSi換算値で0.05重量%未満であると、ビードの形状が凸状になりやすくなる。一方、SiO_(2)含有量がSi換算値で0.35重量%を超えると、スラグの剥離性が低下する。従って、Siが金属又は合金の形で添加される場合には、ワイヤ全重量に対するSi含有量は0.5乃至1.1重量%であることが好ましい。また、SiがSi酸化物の形で添加される場合には、ワイヤ全重量に対するSiO_(2)含有量はSi換算値で0.05乃至0.35重量%であることが好ましい。
【0022】
C(炭素):0.02乃至0.1重量%
Cは溶接金属の強度を向上させる効果を有する。C含有量が0.02重量%未満であると、溶接金属の強度が不足する。一方、C含有量が0.1重量%を超えると、スパッタの発生が増加する等によって、溶接作業性が低下する。従って、ワイヤ全重量に対するC含有量は0.02乃至0.1重量%とする。
【0023】
Mn(Mn換算値):2.0乃至3.0重量%
Mnは溶接金属の脱酸を促進すると共に、溶接金属の靱性及び強度を高める効果も有している。Mn含有量が2.0重量%未満であると、溶接金属の強度及び靱性が低下する。一方、Mn含有量が3.0重量%を超えると、強度が必要以上に高くなり、靱性が低下する。従って、ワイヤ全重量に対するMn含有量は2.0乃至3.0重量%とする。なお、Mnは金属Mnの他に、Fe-Mn及びFe-Si-Mn等のMn合金から添加されるものであり、Mn合金から添加される場合は、Mn含有量はこれに含有されるMn換算値とする。
【0024】
Mg(Mg換算値):0.3重量%以下
Mgは一般的には、Zr及びAlと共に、強力な脱酸剤として使用されることが多い。また、MgOは一般的に、スラグ形成剤として使用されることが多い。しかしながら、Mg及びMgOには、水平隅肉溶接におけるビード形状及びビードのなじみ性を向上させる効果はないので、添加量を規制する必要がある。Mg含有量が0.3重量%を超えると、溶接金属に対するスラグの被包性が不均一となり、ビード形状が低下する。従って、ワイヤ全重量に対するMg含有量は0.3重量%以下とする。なお、MgがMgOとして添加される場合は、Mg含有量はMg換算値とする。
【0025】
Al(Al換算値):0.3重量%以下
Alは一般的には、Zr及びMgと共に、強力な脱酸剤として使用されることが多く、脱酸作用によって生成したAl_(2)O_(3)は、酸化物として添加したときと同様に、スラグの凝固点を上昇させる作用を有する。従って、立向上進姿勢においては、これらの酸化物を添加することにより溶接作業性が向上する。しかしながら、Al含有量が0.3重量%を超えると、水平隅肉溶接におけるビードのなじみ性が低下する。従って、ワイヤ全重量に対するAl含有量は0.3重量%以下とする。なお、AlがAl_(2)O_(3)として添加される場合は、Al含有量はAl換算値とする。
【0026】
更に、Ti、Zr及びSiの含有量を夫々重量%で、[Ti]、[Zr]及び[Si]と表すと、以下の数式によって算出される数値を限定することにより、ビード形状及びビードのなじみ性をより一層向上させることができる。
【0027】
[Ti]/[Zr]:5乃至12
水平隅肉溶接におけるビード形状を向上させる効果を示すパラメーターとして、Ti及びTi化合物のTi換算値を重量%で[Ti]、Zr及びZr化合物のZr換算値を重量%で[Zr]と表すと、数式([Ti]/[Zr])で表すことができる。これは、溶融スラグ中においてTi酸化物であるTiO_(2)とZrの酸化物であるZrO_(2)とが相互に作用するからである。([Ti]/[Zr])が12を超えると、TiO_(2)と比較して凝固点が高いZrO_(2)が相対的に不足することによって、スラグ全体の凝固点が低下する。従って、水平隅肉溶接姿勢においてビードを支えることができなくなり、ビード形状が凸状になりやすくなる。一方、([Ti]/[Zr])が5未満であると、ZrO_(2)が相対的に過剰となることによって、スラグ全体の凝固点が高くなり、スラグの凝固が早くなるので、ビードのなじみ性が低下する。従って、ワイヤ全重量に対する([Ti]/[Zr])は5乃至12とする。好ましくは、([Ti]/[Zr])は7乃至11である。
【0028】
2×[Zr]+[Si]:1.1乃至1.9
水平隅肉溶接におけるビードのなじみ性を向上させる効果を示すパラメーターとして、Zr及びZr化合物のZr換算値を重量%で[Zr]、Si及びSi化合物のSi換算値を重量%で[Si]と表すと、数式(2×[Zr]+[Si])で表すことができる。これは、溶融スラグ中においてZr酸化物であるZrO_(2)とSiの酸化物であるSiO_(2)が相互に作用するからである。(2×[Zr]+[Si])が1.1未満であると、スラグの粘性が低下するので、水平隅肉溶接姿勢においてビードを支えることができなくなり、ビード形状が凸状になりやすくなる。一方、(2×[Zr]+[Si])が1.9を超えると、スラグの粘性が高くなるため、ビードのなじみ性が低下する。従って、ワイヤ全重量に対する(2×[Zr]+[Si])は1.1乃至1.9とする。好ましくは、(2×[Zr]+[Si])は1.2乃至1.7である。
【0029】
【実施例】
以下、本発明に係るガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤの実施例についてその比較例と比較して具体的に説明する。
【0030】
先ず、フラックス中における全ての含有成分等が本発明の範囲内であるものを実施例とし、少なくとも1種が本発明の範囲から外れているものを比較例として、鋼製外皮中にフラックスを充填してフラックス入りワイヤを作製した。各フラックス中の含有成分(重量%)等を下記表1乃至3に示す。但し、表中に示した化学成分が、合金又は化合物の形でフラックス中に含有される場合は、それらの換算値とする。また、鋼製外皮はJIS G 3141、SPCCを使用し、ワイヤ全重量に対するフラックスの割合は18重量%、ワイヤ径は1.4mmとした。
【0031】
次に、これらのワイヤを使用して、下記表4に示す溶接方法によって鋼板を溶接し、ビード形状及びビードのなじみ性等を観察することによって、溶接作業性を評価した。これらの評価結果を下記表5に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
上記表1?3及び5に示すように、フラックス中の化学成分等が全て請求項1に規定した本発明の範囲内である実施例No.1、3、7、12については、優れた溶接作業性を示した。特に、実施例No.1、3、7については、請求項2?5に規定した範囲も満足しているので、水平隅肉溶接姿勢における溶接作業性がより一層優れたものとなった。
【0038】
一方、比較例No.13はTi含有量及び([Ti]/[Zr])が本発明範囲の下限未満であり、酸化物から添加されるSi及び(2×[Zr]+[Si])が本発明範囲の上限を超えているので、水平隅肉溶接におけるビード形状が不良であると共に、立向上進溶接において、ビードの垂れが発生しやすくなった。また、スラグ剥離性についても不良であった。比較例No.14はZr含有量が本発明範囲の下限未満であり、([Ti]/[Zr])、Al含有量及び酸化物から添加されるSiが本発明範囲の上限を超えているので、水平隅肉溶接におけるビードのなじみ性及びスラグの剥離性が不良であった。
【0039】
比較例No.15はSi含有量及び([Ti]/[Zr])が本発明範囲の下限未満であり、Zr、C及びMgの含有量が本発明範囲の上限を超えているので、ビードの形状が不良であると共に、スパッタ量が増加した。比較例No.16はC含有量が本発明範囲の下限未満であり、Ti、Zr、Siの含有量及び(2×[Zr]+[Si])が本発明範囲の上限を超えているので、ビード形状、ビードのなじみ性及びスラグの剥離性が不良であり、継手強度も低下した。比較例No.17は(2×[Zr]+[Si])及びMn含有量が本発明範囲の下限未満であり、Ti、Mgの含有量及び([Ti]/[Zr])が本発明範囲の上限を超えているので、水平隅肉溶接におけるビード形状及びビードのなじみ性が不良であると共に、継手強度が低下し、靱性の劣化が生じた。
【0040】
更に、比較例No.18はMn、Al含有量、金属又は合金として添加されるSi及び(2×[Zr]+[Si])が、いずれも本発明範囲の上限を超えているので、水平隅肉溶接におけるビードのなじみ性が不良であると共に、継手強度が過度に高くなり、靱性の劣化が生じた。比較例No.19は酸化物から添加されるSiが本発明範囲の下限未満であり、(2×[Zr]+[Si])が本発明範囲の上限を超えているので、ビード形状及びビードのなじみ性が不良であった。
【0041】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、ワイヤ中の化学成分の含有量を適正量に規定しているので、単電極による水平隅肉溶接において溶接速度の向上が可能となり、優れたビード形状及びなじみ性を有していると共に、単電極による立向上進溶接においても優れた溶接作業性を有するガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤを得ることができる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2012-12-11 
出願番号 特願平7-251596
審決分類 P 1 41・ 851- Y (B23K)
P 1 41・ 121- Y (B23K)
P 1 41・ 856- Y (B23K)
P 1 41・ 853- Y (B23K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 進  
特許庁審判長 小柳 健悟
特許庁審判官 大橋 賢一
佐藤 陽一
登録日 1999-12-24 
登録番号 特許第3017054号(P3017054)
発明の名称 ガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤ  
代理人 井上 美和子  
代理人 大森 桂子  
代理人 井上 美和子  
代理人 渡邊 薫  
代理人 渡邊 薫  
代理人 松田 政広  
代理人 大森 桂子  
代理人 松田 政広  

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