• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1268642
審判番号 不服2009-25323  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-12-22 
確定日 2013-01-10 
事件の表示 特願2004-506348「HIV調節/アクセサリータンパク質の融合タンパク質」拒絶査定不服審判事件〔平成15年11月27日国際公開、WO03/97675、平成18年 1月26日国内公表、特表2006-502704〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年(平成15年)5月14日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年5月16日 デンマーク)とする出願であって、平成21年5月11日に特許請求の範囲について手続補正がなされたが、同年8月3日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月22日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

2.平成21年12月22日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成21年12月22日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】Vif、Vpr、Vpu、Vpx、Rev、TatおよびNefから選択される少なくとも4つのHIVタンパク質のアミノ酸配列、または1種以上の前記タンパク質のアミノ酸配列の誘導体を含む融合タンパク質であって、当該融合タンパク質は、天然のN末端およびC末端を持つHIVタンパク質の生成を誘発するかもしれない細胞性プロテアーゼの特異的切断配列を、当該融合タンパク質を構成するHIVタンパク質のアミノ酸配列間に含まず、かつHIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体は、融合タンパク質中のアミノ酸配列の対応部分をHIV-1単離株HXB2R(GenBankアクセッション番号KO3455)における各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも50%の相同性を示すアミノ酸配列である、融合タンパク質。」から、
「【請求項1】Vif、Vpr、Vpu、Vpx、Rev、TatおよびNefから選択される少なくとも4つのHIVタンパク質のアミノ酸配列、または1種以上の前記タンパク質のアミノ酸配列の誘導体を含む融合タンパク質であって、当該融合タンパク質は、当該融合タンパク質を構成するHIVタンパク質のアミノ酸配列間に切断配列REKRAVVGを含まず、かつHIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体は、融合タンパク質中のアミノ酸配列の対応部分をHIV-1単離株HXB2R、HIV-2単離株BEN、HIV-2単離株CAM2、HIV-2単離株D194、HIV-2単離株EHO、HIV-2単離株GH1、HIV-2単離株KR、HIV-2単離株MDS、HIV-2単離株RODまたはHIV-2単離株SBLISYにおける各HIVタンパク質のSEQ ID No:1、SEQ ID No:2、SEQ ID No:3、SEQ ID No:4、SEQ ID No:5、SEQ ID No:6、SEQ ID No:7、SEQ ID No:8、SEQ ID No:9、SEQ ID No:10、SEQ ID No:11、SEQ ID No:12、SEQ ID No:13、SEQ ID No:14またはSEQ ID No:15で表されるアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも70%の相同性を示すアミノ酸配列である、融合タンパク質。」へと補正された。

(2)新規事項について
融合タンパク質に含むHIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体のアミノ酸配列について、補正後の請求項1には、「HIV-1単離株HXB2R、HIV-2単離株BEN、HIV-2単離株CAM2、HIV-2単離株D194、HIV-2単離株EHO、HIV-2単離株GH1、HIV-2単離株KR、HIV-2単離株MDS、HIV-2単離株RODまたはHIV-2単離株SBLISYにおける各HIVタンパク質のSEQ ID No:1、SEQ ID No:2、SEQ ID No:3、SEQ ID No:4、SEQ ID No:5、SEQ ID No:6、SEQ ID No:7、SEQ ID No:8、SEQ ID No:9、SEQ ID No:10、SEQ ID No:11、SEQ ID No:12、SEQ ID No:13、SEQ ID No:14またはSEQ ID No:15で表されるアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも70%の相同性を示すアミノ酸配列である」と記載され、配列番号1?6としてHIV-1タンパク質のアミノ酸配列が、配列番号7?15としてHIV-2タンパク質のアミノ酸配列が記載された配列表が、上記補正と同時に追加された。
一方、HIV単離株及びHIVタンパク質のアミノ酸配列についての本願明細書の記載は、段落【0012】?【0013】に「本発明に関して「HIV」という用語は、当業者に知られている任意のHIVグループ、サブタイプ(クレード)、株または分離株を表す。具体的には、HIVは、HIV-1でもHIV-2でもよい。HIV-1は9つのサブタイプ(クレードA?I)に分類されており、HIV-2は5つのサブタイプ(A?E)に分類されているが、これらはすべて本発明の範囲に包含される。本発明の場合、最も好ましいHIVクレードは、HIV-1クレードA、BおよびCである。しかし本発明は最も好ましいこれらのクレードに限定されるわけではない。
HIV調節タンパク質Vif、Vpr、Vpu、Rev、Tat、VpxおよびNefのタンパク質配列は、当業者に知られている。一例として、GenBankデータベースに開示されているさまざまな配列、特にGenBankアクセッション番号KO3455を持つHIV-1分離株HXB2Rの配列が挙げられるが、本発明はこの態様に限定されるわけではない。このGenBankエントリーでは、さまざまなHIV1遺伝子の配列とそれらの遺伝子がコードするタンパク質が特定されている。」とあるだけである。
このように、本願の出願当初の明細書及び図面(以下、「当初明細書等」という。)には、HIV-1分離株HXB2R以外の、HIV-1分離株の名称及びHIV-2分離株の名称、及びそれらの遺伝子がコードするアミノ酸配列又はGenBankアクセッション番号については何ら記載されておらず、本願優先日当時多数知られていたHIV-1分離株及びHIV-2分離株の中から、HIV-2単離株BEN、HIV-2単離株CAM2、HIV-2単離株D194、HIV-2単離株EHO、HIV-2単離株GH1、HIV-2単離株KR、HIV-2単離株MDS、HIV-2単離株ROD、及びHIV-2単離株SBLISYを選択することは、当初明細書等には記載されておらず、かつ、その記載から自明な事項であるとはいえない。また、配列表で追加された配列番号7?15のHIV-2のタンパク質のアミノ酸配列についても、当初明細書等には記載されておらず、かつ、その記載から自明な事項であるとはいえない。
したがって、上記請求項1に係る補正は、本願の当初明細書等のすべての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであり、この補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、平成18年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(3)目的要件について
上記補正前の請求項1の「HIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体は、融合タンパク質中のアミノ酸配列の対応部分をHIV-1単離株HXB2R(GenBankアクセッション番号KO3455)における各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも50%の相同性を示すアミノ酸配列」は、上記補正により、「HIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体は、融合タンパク質中のアミノ酸配列の対応部分をHIV-1単離株HXB2R、HIV-2単離株BEN、(単離株名は省略)またはHIV-2単離株SBLISYにおける各HIVタンパク質のSEQ ID No:1、SEQ ID No:2、SEQ ID No:3、SEQ ID No:4、SEQ ID No:5、SEQ ID No:6、SEQ ID No:7、SEQ ID No:8、SEQ ID No:9、SEQ ID No:10、SEQ ID No:11、SEQ ID No:12、SEQ ID No:13、SEQ ID No:14またはSEQ ID No:15で表されるアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも70%の相同性を示すアミノ酸配列」と補正された。
相同性比較の基準となるアミノ酸配列が、補正前では「HIV-1単離株HXB2R(GenBankアクセッション番号KO3455)における各HIVタンパク質のアミノ酸配列」であったものが、補正後には「各HIVタンパク質のSEQ ID No:1?15で表されるアミノ酸配列」となっており、上記(2)で述べたように、SEQ ID No:7?15は、HIV-1単離株HXB2R由来のHIVタンパク質のアミノ酸配列ではないから、補正により、相同性比較の基準となるアミノ酸配列が追加あるいは変更されている。また、追加された各HIV株のアミノ酸配列は、HXB2Rと相違しており、これらのアミノ酸配列と少なくとも70%の相同性を示すアミノ酸配列が、補正前のHXB2Rのアミノ酸配列と少なくとも50%の相同性を示すアミノ酸配列に包含されるとはいえないから、かかる補正は、発明特定事項を概念的により下位の発明特定事項とするものではなく、しかも特許請求の範囲を変更するものである。
したがって、この補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく、また、請求項の削除、誤記の訂正、又は明りょうでない記載の釈明の何れかを目的とするものでもないので、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成21年12月22日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本出願に係る発明は、平成21年5月11日付手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1?26に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は、以下のとおりである。

「【請求項1】Vif、Vpr、Vpu、Vpx、Rev、TatおよびNefから選択される少なくとも4つのHIVタンパク質のアミノ酸配列、または1種以上の前記タンパク質のアミノ酸配列の誘導体を含む融合タンパク質であって、当該融合タンパク質は、天然のN末端およびC末端を持つHIVタンパク質の生成を誘発するかもしれない細胞性プロテアーゼの特異的切断配列を、当該融合タンパク質を構成するHIVタンパク質のアミノ酸配列間に含まず、かつHIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体は、融合タンパク質中のアミノ酸配列の対応部分をHIV-1単離株HXB2R(GenBankアクセッション番号KO3455)における各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも50%の相同性を示すアミノ酸配列である、融合タンパク質。」(以下、「本願発明1」という。)

(1)特許法第29条第2項
(1-1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の2002年1月24日に頒布された刊行物である国際公開第02/6303号(以下、「引用例」という。)には、(なお、下線は当審による。)
(i)「本発明は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)アクセサリータンパク質のVif、Vpu及びNefのタンパク質コンポーネントの配列を含むポリタンパク質に関係する。幾つかの具体例において、このポリタンパク質のコンポーネントタンパク質は、N末端からC末端へ、Vif、Vpu及びNefの順序で配置される。幾つかの具体例においては、少なくとも1つのタンパク質コンポーネントは、弱毒化形態のアクセサリータンパク質である。幾つかの具体例においては、ヒト免疫不全ウイルスのアクセサリータンパク質のVif、Vpu及びNefタンパク質コンポーネントの各々は、弱毒化形態である。
幾つかの具体例においては、プロテアーゼ開裂部位を、ポリタンパク質のタンパク質コンポーネントの間に導入する。」(第7頁第13行?第21行)、
(ii)「我々は、弱毒化vif、vpr、vpu及びnefクローンによりそれぞれの抗原刺激により誘導されるT細胞増殖応答をも測定した。図1Bは、T細胞増殖実験からのデータを示しており、該実験においては、T細胞の増殖が、vif、vpu、vpr及びnefを発現するプラスミドでの免疫化により誘導された。100μgの各cDNA発現カセットをマウスに筋肉注射し、2週間後に一回、それらのマウスに追加の注射をした。追加の注射の1週間後に、2匹のマウスから脾臓を分離してT細胞増殖用に用いた。脾臓細胞を、5及び1μg/mlの組換えタンパク質で3日間刺激した。1μCi3Hを加えて、取り込まれたcpmを計数した。抗原特異的な刺激(SI)を計算し、Vif、Vpu及びNefにつき提示した。少なくとも3つの別々の実験において、同様の結果が得られた。結果は、vif、vpu及びnefが有意のリンパ球増殖応答誘導することができるが、Vpr抗原による刺激はこのアッセイにおいて利益がなかったことを示している。これらの結果及び以前の研究から得られた情報に基づいて、アクセサリー遺伝子vprは、本研究にマルチ遺伝子ワクチン構築物の部分として含めない。」(第29頁第18行?第30頁第2行)、
(iii)「vif/vpu/nef融合タンパク質カセット(pVVN)及びタンパク質分解性開裂部位を有するvif/vpu/nef融合タンパク質構築物(pVVN-P)の構築及び発現:融合タンパク質としてアクセサリー遺伝子を含むマルチ遺伝子DNA発現カセットを構築するために、我々は、弱毒化して尚免疫学的に活性なvif(N17)vpu(M5256)及びnef(S313)クローンを出発点として選択した。vif及びvpuの停止コドンを除去して、融合タンパク質が個々の遺伝子と同じエピトープを有するようにイン・フレームで融合した。このvif/vpu/nef融合遺伝子構築物を、pVVNと呼ぶ。我々は、タンパク質分解による開裂部位を有するvif/vpu/nef融合タンパク質を発現させることによって、天然のアミノ及びカルボキシ末端を保存することをも希望し、該融合タンパク質を、ここでは、pVVN-Pと呼ぶ。」(第30頁第7行?第15行)、
(iv)「このCTLアッセイを、上記のように免疫化したマウスから採収した脾臓細胞について行なった。同様の結果が、複数の実験において得られた。50:1のエフェクター:標的比において、Nefワクシニア感染標的を用いて、特異的溶解のパーセンテージは、pVVN-P及びpVVN免疫化マウス由来の脾臓細胞によって、それぞれ、38及び31%である。」(第34頁第2行?第6行)、
(v)「それらのデータは、HIV-1に感染したNIH3T3/CD4/CCR5細胞を用いるpVVN及びpVVN-Pによる特異的溶解のパーセンテージを示している。50:1のエフェクター:標的比において、VVN及びVVN-Pによる溶解パーセンテージは、二向性ウイルスに感染した標的では、それぞれ、29及び42であり、特異的溶解は、T向性感染標的において、16及び21%である。興味深いことに、pVVN-P構築物により誘導された特異的CTLのパーセンテージは、常に、pVVN構築物による免疫化よりも高い。」(第35頁第6行?第12行)、
(vi)「自然の感染において、抗HIV-1 CTL応答は、非常に初期に現われ、一時的に、ウイルスのセットポイントの確立に相関するようである。CTLは、ウイルス感染細胞をターゲットとして破壊することによるウイルスクリアランスにおいて決定的な役割を演じる。特異的CTL応答の生成によって免疫応答をウイルスタンパク質に向けることは、ウイルス内の複数の抗原性標的に対する広範な免疫応答の誘導を可能にするであろう。」(第36頁第21行?第26行)、
(vii)「Vpu及びNefの両方とも、内部で発現された場合にCD4及びMHCクラスI分子のダウンレギュレーションに関与することが示されている。Nefは、感染細胞表面のMHCクラスIの発現をブロックし、それにより、ウイルス感染細胞をCTL媒介の破壊から保護する。これらの遺伝子の生物学的機能の適当な弱毒化は、宿主細胞の仮説的な負の効果を、それらの重要な免疫学的エピトープを保持したままで排除するであろう。
我々の研究において、これらのvif、vpu及びnef遺伝子を、様々な臨床状態の患者から分離したウイルスからクローン化した。これらの遺伝子の機能的及び弱毒化形態の両方を発現するDNA構築物を、免疫適格マウスにおいて細胞性及び液性応答を誘導する能力について分析した。機能的及び弱毒化遺伝子を免疫原として使用した免疫学的データは、完全に類似している。弱毒化並びに機能的クローンの両方が、強いが変化しやすいCTL及びT細胞増殖応答をマウスにおいて誘導することができた。」(第37頁第8行?第20行)、
(viii)「【請求項11】 HIV Vifが、SEQ ID NO:1であり;HIV Vpuが、SEQ ID NO:2であり且つHIV Nefが、SEQ ID NO:3である、請求項11に記載のポリタンパク質。」(特許請求の範囲第11項)、と記載されている。

(1-2)対比
本願発明1の「誘導体」について、本願明細書の段落【0017】には、「本融合タンパク質中のタンパク質のコンフォメーションは生物学的に活性なタンパク質の天然のコンフォメーションとは異なるので、本融合タンパク質中のHIVタンパク質が個々のタンパク質と比較して低下した活性を持つこと、または全く活性を持たないことは、既に指摘したとおりである。しかし、融合タンパク質中のHIVタンパク質が生物学的に活性である危険性は、さらに減少させることが望ましいかもしれない。この目的にとって、融合タンパク質の一部である個々のHIVタンパク質の特に好ましい「誘導体」は、低下した活性を持つHIVタンパク質または活性を全く持たないHIVタンパク質が得られるように、いくつかのアミノ酸、より好ましくは10個を超えないアミノ酸、最も好ましくは5個を超えないアミノ酸が、欠失しているか、または挿入もしくは置換されているアミノ酸配列誘導体である。あるHIVタンパク質の生物活性が低下しているかどうかを判定するための試験は、当業者に知られている。」と記載されており、「低下した活性を持つHIVタンパク質または活性を全く持たないHIVタンパク質」とは、弱毒化したHIVタンパク質に他ならないから、本願発明1は、融合タンパク質に含むHIVタンパク質として、弱毒化した誘導体を用いる態様を包含するものである。
そこで、融合タンパク質に含むHIVタンパク質のアミノ酸配列が、「Vif、Vpr、Vpu、Vpx、Rev、TatおよびNefから選択される少なくとも4つのHIVタンパク質のアミノ酸配列」である態様を本願発明1Aと、「Vif、Vpr、Vpu、Vpx、Rev、TatおよびNefから選択される少なくとも4つのHIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体であって、HIV-1単離株HXB2R(GenBankアクセッション番号KO3455)における各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも50%の相同性を示すアミノ酸配列」である態様を本願発明1Bとして、以下検討する。

(1-2-1)本願発明1Aについて
まず、本願発明1Aと引用例に記載された事項を比較すると、上記引用例記載事項(iii)に記載のVVPとは、弱毒化されたHIV Vif-Vpu-Nefの融合タンパク質であって、タンパク質分解性開裂部位を有さないものであるから、本願発明1Aにおける「Vif、Vpr、Vpu、Vpx、Rev、TatおよびNefから選択される複数のHIVタンパク質のアミノ酸配列を含む融合タンパク質であって、当該融合タンパク質は、天然のN末端およびC末端を持つHIVタンパク質の生成を誘発するかもしれない細胞性プロテアーゼの特異的切断配列を、当該融合タンパク質を構成するHIVタンパク質のアミノ酸配列間に含まない」融合タンパク質に相当し、両者は、そのような融合タンパク質である点で共通する。
一方、両者は、(イ)Vif、Vpr、Vpu、Vpx、Rev、TatおよびNefから選択される複数のHIVタンパク質が、前者では、少なくとも4つのHIVタンパク質であるのに対して、後者では3つのHIVタンパク質である点、及び(ロ)それらHIVタンパク質が、前者ではネイティブなタンパク質であるのに対して、後者では弱毒化形態のタンパク質である点、の2点で相違する。

(1-2-2)本願発明1Bについて
次に、本願発明1Bと引用例に記載された事項を比較すると、上記引用例記載事項(iii)に記載のVVPとは、弱毒化されたHIV Vif-Vpu-Nefの融合タンパク質であって、タンパク質分解性開裂部位を有さないものであり、弱毒化されたHIVタンパク質は、HIVタンパク質の誘導体に該当するから、本願発明1Bにおける「Vif、Vpr、Vpu、Vpx、Rev、TatおよびNefから選択される複数のHIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体を含む融合タンパク質であって、当該融合タンパク質は、天然のN末端およびC末端を持つHIVタンパク質の生成を誘発するかもしれない細胞性プロテアーゼの特異的切断配列を、当該融合タンパク質を構成するHIVタンパク質のアミノ酸配列間に含まない」融合タンパク質に相当し、両者は、そのような融合タンパク質である点で共通する。
一方、両者は、(イ)Vif、Vpr、Vpu、Vpx、Rev、TatおよびNefから選択される複数のHIVタンパク質が、前者では、少なくとも4つのHIVタンパク質であるのに対して、後者では3つのHIVタンパク質である点、及び(ハ)HIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体が、本願発明1Bでは、融合タンパク質中のアミノ酸配列の対応部分をHIV-1単離株HXB2R(GenBankアクセッション番号KO3455)における各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも50%の相同性を示すアミノ酸配列であるのに対して、引用例に記載のVVPは、弱毒化形態のVif、Vpu、Nefであり、それらをコードするヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号1?3に示されているものの、それらによりコードされるアミノ酸配列が、HIV-1単離株HXB2R(GenBankアクセッション番号KO3455)における各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも50%の相同性を示すかどうかは記載されていない点、の2点で相違する。

(1-3)当審の判断
(1-3-1)相違点(イ)について
上記引用例記載事項(ii)には、Vif-Vpu-Nef融合タンパク質とした理由として、HIVアクセサリータンパク質の弱毒化vif、vpr、vpu及びnefクローン、各クローンによる抗原刺激により誘導されるT細胞増殖応答を予め測定したところ、Vpr抗原による刺激はこのアッセイでT細胞を増殖しなかったという結果及び以前の研究から得られた情報に基き、アクセサリー遺伝子vprをマルチ遺伝子ワクチン構築物の部分として含めなかったことが記載されており、もし仮にvprクローンによる刺激でT細胞増殖が誘導されていれば、このvpr遺伝子も含めて4つのHIVタンパク質を融合した可能性が高いといえる。
さらに、原査定の拒絶の理由で引用した引用文献2(国際公開第02/36806号)に「【請求項7】前記疾患関連抗原が、連結してひとつになっているが、この順序である必要はないHIVの抗原性フラグメントGag-Pol-Tat-Rev-NefまたはTat-Rev-Env-Nefを含む、請求項6に記載の核酸構築物。」と記載され、また、上記引用例記載事項(vi)に「CTLは、ウイルス感染細胞をターゲットとして破壊することによるウイルスクリアランスにおいて決定的な役割を演じる。特異的CTL応答の生成によって免疫応答をウイルスタンパク質に向けることは、ウイルス内の複数の抗原性標的に対する広範な免疫応答の誘導を可能にするであろう。」とあるように、細胞性免疫又は体液性免疫の獲得のため、ウイルスの複数の抗原性標的を用いて広範な免疫応答を誘導しようとすることは、本願優先日前既に周知の技術的課題であるから、Vif-Vpu-Nef融合タンパク質が細胞性免疫を誘導できたという上記引用例の記載に接した当業者であれば、より多くのHIVアクセサリータンパク質を用いて、さらに広範な免疫応答を誘導しようとすることは自然の発想であり、この点に格別の特徴は見出せない。

(1-3-2)相違点(ロ)について
引用例の記載で実際にCTL誘導及びT細胞増殖反応を測定するために用いたVVPは、弱毒化形態の融合タンパク質であるが、上記引用例記載事項(i)には「幾つかの具体例において、このポリタンパク質のコンポーネントタンパク質は、N末端からC末端へ、Vif、Vpu及びNefの順序で配置される。幾つかの具体例においては、少なくとも1つのタンパク質コンポーネントは、弱毒化形態のアクセサリータンパク質である。幾つかの具体例においては、ヒト免疫不全ウイルスのアクセサリータンパク質のVif、Vpu及びNefタンパク質コンポーネントの各々は、弱毒化形態である。」とあるように、引用例でも弱毒化タンパク質に限定しているわけではなく、弱毒化していないネイティブなタンパク質を用いることもその1態様として包含しており、弱毒化形態のタンパク質に代えネイティブなタンパク質を用いることは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。
さらに、上記引用例記載事項(vii)に「機能的及び弱毒化遺伝子を免疫原として使用した免疫学的データは、完全に類似している。弱毒化並びに機能的クローンの両方が、強いが変化しやすいCTL及びT細胞増殖応答をマウスにおいて誘導することができた。」とあるように、ネイティブなタンパク質と弱毒化したタンパク質におけるCTL及びT細胞増殖は同等であったことが記載されており、弱毒化したタンパク質を免疫原として用いる不利益がなければ、ワクチンとしての安全性等の見地から、引用例のように弱毒化したものを用い、弱毒化したタンパク質を用いる不利益があればネイティブなタンパク質を用いるという、二者択一の事項にすぎず、引用例に記載の融合タンパク質にネイティブなタンパク質を用いることは、当業者であれば必要に応じて随時なし得ることである。

(1-3-3)相違点(ハ)について
引用例に記載の配列番号1?3の核酸配列は、いずれもHIV-1由来のものであることが記載されており、配列番号1?3で示される弱毒化したvif、vpu、nefのそれぞれの核酸配列は、相同性検索の結果、HIV-1単離株HXB2R(GenBankアクセッション番号KO3455)におけるvif、vpu、nefと、核酸レベルでそれぞれ94%、96%、98%の相同性、アミノ酸レベルで80%以上の相同性を有するから、相違点(ハ)は実質的な相違ではない。

(1-3-4)本願発明1A、1Bの効果について
本願明細書には、本願発明1Aの融合タンパク質をコードする核酸配列を、ウイルスゲノムに挿入してウイルスベクターを作成することが記載されているにとどまり、実際に、このウイルスベクターによってCTL誘導やT細胞増殖を誘導できることは確認されておらず、本願発明1A及び1Bにおいて、融合タンパク質を構成するHIVタンパク質を3つではなく、4つ以上としたことにより、上記引用例の記載から予測できない程の格別な効果が奏されたものとはいえない。
また、本願発明1Aにおいて奏される、融合タンパク質にネイティブなタンパク質を組み込むことにより、個々のネイティブなタンパク質の活性を低下できる点については、自然界において個別に発現し、機能しているタンパク質を融合タンパク質にすれば、個々のタンパク質のネイティブなコンフォメーションが変化して、その個々の活性に変化を与えることは、当業者であれば予測し得る範囲内のことであり、本願発明1Aにおいて奏される効果が、上記引用例の記載から予測できない程の格別なものとはいえない。
したがって、本願発明1は、引用例の記載から当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(1-4)審判請求人の主張
審判請求人は、平成23年12月13日付回答書中で、(i)「本発明の融合タンパク質は副作用の少ないワクチンの調製に有用です。本発明のポイントは、本発明の融合タンパク質は、融合タンパク質を構成するHIVタンパク質のアミノ酸配列の間に切断配列を有しないという点にあります。すなわち、本発明の融合タンパク質は切断されて本来のHIVタンパク質を生成させることはありません。本発明の融合タンパク質は天然のHIVタンパク質に起因する欠点を失っており、それゆえ、免疫応答を抑制するこれらのタンパク質の好ましくない効果を避けることができます。本発明者らは、単一タンパク質が有する副作用をもたないワクチンとして利用できるタンパク質を提供するという課題を解決することを目指しました。 発明者らは、本発明の融合タンパク質は、好ましくない副作用を有することなく、免疫応答を生起する能力を維持していることを見出しました。本発明の融合タンパク質は、融合タンパク質を構成するHIVタンパク質を弱毒化形態で用いる必要がないという利点も有します。」、及び(ii)「しかし、本発明者らは、この行動指針をとることにより(大きな困難にもかかわらず)驚くべき成功をおさめ、予測できない免疫応答を観察したのです。WO2011/042180に示されるとおり、本発明の融合タンパク質を含むワクチンは、臨床試験において、安全かつ有効であることが示されました(参考資料1:実施例3(25-34頁)、及びFig.2)。 」と主張している。
まず、上記(i)の主張については、引用例記載事項(iv)、(v)には、pVVNとタンパク分解切断部位を有するpVVN-pの両方について、Nefワクシニア感染標的を用いてのCTLの特異的溶解のパーセンテージが31%と38%であり、HIV-1に感染したNIH3T3/CD4/CCR5細胞を用いてのCTLの特異的溶解のパーセンテージが、二向性ウイルスに感染した標的では、29%と42%、T向性感染標的では16%と21%であり、pVVN-P構築物により誘導された特異的CTLのパーセンテージは、常に、pVVN構築物による免疫化よりも高いと記載されている。しかしながら、タンパク分解切断部位を有さないpVVNにおいても、31、29、16%と有意に細胞性免疫誘導がなされたことが具体的に記載されており、しかも、引用例には、Hela細胞中のVVNは、61kDaの融合タンパク質の形態で存在し切断されないことも具体的に確認されており、融合タンパク質を構成するHIVタンパク質のアミノ酸配列の間に切断配列を有さないVVPは、切断されて本来のHIVタンパク質を生成させることはないにもかかわらず、細胞性免疫を誘導することが確認されており、引用例には、タンパク分解切断部位を有さないVVNをその一態様とする発明が明確に記載されている。
また、審判請求人が、平成21年5月11日付意見書に添付した比較試験のデータによれば、Hela細胞において、Tatタンパク質が、Vif-Vpr-Vpu-Rev-Tatという融合タンパク質中でも活性ではあるが、Tat単独に比較して活性が1/5となること、弱毒化TatではTat単独に比べて1/9となることが示されているが、融合タンパク質ではネイティブなコンフォメーションが阻害され、個々のタンパク質の活性が変化することは、当業者であれば予測できることであるばかりか、活性は1/5程度といっても依然として存在するから、ワクチンの技術分野における当業者であれば、引用例のように弱毒化形態とすることを選択するといえ、むしろネイティブなタンパク質を用いることにより奏される効果が、当業者が予測できない程の格別なものとはいえない根拠となるものである。しかも、弱毒化タンパク質を用いる態様も本願発明1は包含しており、審判請求人の上記(i)の主張は採用できない。
次に上記(ii)の主張についても、本願優先日から9年後に公開されたWO2011/042180に記載のワクチンは、その図面1に示されているように、Vif-Vpr-Vpu-Revという融合タンパク質だけでなく、ウイルスベクターの異なる場所に、不活性化Nef及び不活性化Tat、Gag-Polを含有するウイルスベクターであり、本願発明1の融合タンパク質自体の効果を証明するものではなく、しかも、本願明細書の記載からは明らかではない効果について、本願優先日から9年という長期間を経過した後に、初めて明らかにされたものであるから、審判請求人の上記(ii)の主張は採用できない。

(2)特許法第36条第4項
本願発明1は、融合タンパク質という化学物質に係る発明であり、化学物質に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されているといえるためには、その化学物質が製造可能なように記載されているだけでなく、その用途が明らかにされ使用できるように記載されていること、あるいは技術常識を参酌すれば記載されているに等しいことが要件とされる。
一方、本願請求項1に記載の発明には、HIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体を含む融合タンパク質であって、融合タンパク質中のアミノ酸配列の対応部分をHIV-1単離株HXB2R(GenBankアクセッション番号KO3455)における各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも50%の相同性を示すアミノ酸配列を含む融合タンパク質が包含されている。
しかしながら、少なくとも50%の相同性を示すアミノ酸配列では、HIVタンパク質とはアミノ酸配列が著しく異なり、その結果、細胞性免疫を誘導できない融合タンパク質が多数包含されていることは明らかである。
したがって、本願請求項1に記載の化学物質に係る発明には、その用途が不明であって使用できない物が包含されており、本願の発明の詳細な説明には、当該発明について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願請求項1に記載の発明について、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-03 
結審通知日 2012-07-24 
審決日 2012-08-07 
出願番号 特願2004-506348(P2004-506348)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 明日香冨永 みどり  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 田中 晴絵
鵜飼 健
発明の名称 HIV調節/アクセサリータンパク質の融合タンパク質  
代理人 江崎 光史  
代理人 鍛冶澤 實  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ