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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1268644
審判番号 不服2010-7574  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-04-09 
確定日 2013-01-10 
事件の表示 特願2000-584086「新規セリンプロテアーゼBSSP4」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 6月 2日国際公開、WO00/31277〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う1999年(平成11年)11月19日(優先日 1998年11月20日 特願平10-347813号)を国際出願日とする国際出願であって、平成21年10月23日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、平成22年1月7日付で拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月9日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

第2 平成22年4月9日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年4月9日付の手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成22年4月9日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)のうち、補正後の請求項1、2、3及び7についての補正事項は、それぞれ補正前(平成21年10月23日付手続補正書参照)の請求項3、4、41及び50を以下のように、補正後の請求項1、2、3及び7に補正したものと認められる(なお、下線は補正箇所を示すものである。)。

(補正前)
「【請求項3】 配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸97個から成るアミノ酸配列を有するタンパク質、または、配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の性質を有するタンパク質、あるいはこれらの修飾体。
【請求項4】 配列番号7の塩基番号151?441に示す塩基配列、配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、または、これらに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の性質を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。」
「【請求項41】 請求項2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32?40のいずれか1つに記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。」
「【請求項50】 請求項1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29または31のいずれか1つに記載のタンパク質またはその断片に対する抗体。」

(補正後)
「【請求項1】 配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸97個から成るアミノ酸配列を有するタンパク質、または、配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の性質を有するタンパク質、あるいはこれらの修飾体。
【請求項2】 配列番号7の塩基番号151?441に示す塩基配列、配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、または、これらに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の性質を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項3】 請求項2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。」
「【請求項7】 請求項1に記載のタンパク質またはその断片に対する抗体。」

2.補正後の請求項3について
本件補正のうち、補正前の請求項41は「請求項2、4、6、8、10、12、14、16、18、20、22、24、26、28、30、32?40のいずれか1つに記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター」と複数の請求項を択一的に引用していたところ、補正後の請求項3は請求項2(補正前の請求項4に相当)という単一の請求項を引用するものに補正された。
この補正は、発明を特定するために必要な事項が選択肢で記載されていた補正前の請求項41において、その選択肢の一部を削除するものであるから、発明を特定するための事項の限定であり、また、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、この補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3.補正後の請求項7について
本件補正のうち、補正前の請求項50は「請求項1、3、5、7、9、11、13、15、17、19、21、23、25、27、29または31のいずれか1つに記載のタンパク質またはその断片に対する抗体」と複数の請求項を択一的に引用していたところ、補正後の請求項7は請求項1(補正前の請求項3に相当)という単一の請求項を引用するものに補正された。
この補正は、発明を特定するために必要な事項が選択肢で記載されていた補正前の請求項50において、その選択肢の一部を削除するものであるから、発明を特定するための事項の限定であり、また、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、この補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

4.独立特許要件について
そこで、本件補正後の前記請求項3及び7に記載された発明(以下、「本願補正発明3」及び「本願補正発明7」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(1)特許法第29条第2項について
ア.引用例
(ア)原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の1998年8月20日に頒布された刊行物である国際公開第98/36054号(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は、合議体による。以下、同様。)。
(a)「本発明は、特に新規のセリンプロテアーゼおよび新規キナーゼおよびその誘導体、アゴニストおよびアンタゴニストに向けられている。一実施形態において、本発明は、精子形成、抑制精巣癌の抑制及び癌のマーカーとしての役割を持っている 「HELA2」又は「testisin」と呼ぶ新規なセリンプロテイナーゼを提供する。」(1頁7行?10行)

(b)「実施例12 HELA2(TESTISIN)のショート及びロングアイソフォームはオルターナティブmRNAスプライシングによって生成される 触媒His及びAsp残基の間に2個のアミノ酸(Tyr-Ser)を挿入することにより異なるHELA2(TESTISIN)の二つのアイソフォームが同定された。これらはロング(L)とショート(S)のアイソフォームを構成している。DNAレベルでsfc1制限酵素部位を創出する6ヌクレオチドの挿入に相当する。Hela細胞の全RNAから生成された1本鎖cDNAからのPCR増幅に続いて、増幅産物のDNA配列解析を行い、2つのアイソフォームが2つのオルターナティブmRNAスプライシング部位の使用を介して生成されることを実証した。イントロンと隣接するエクソンのDNA配列は、図17に示されている。」(51頁9行?19行)

(c)「実施例15 HELA2(TESTISIN)は、染色体16pl3.3上のホモログ遺伝子クラスタの一部である
NCBIデータベース中に公開されたDNA配列の解析により、染色体16pl3.3上のクラスタ内にHELA2(TESTISIN)のホモログの存在を明らかにする。図19は、これらが存在するHELA2(TESTISIN)およびそれぞれのコスミド(・・・)に関連して、SPOO1LA、SP002LA、SP003LA及びSP004LAと称するこれらの遺伝子の位置を示している。図20A、20B、20Cは、それぞれSPOO1LA、SP002LA及びSP003LAの部分cDNA及び推定アミノ酸配列を示す。各cDNAは、His、Asp及びSer(円)の触媒三残基、10個のシステイン残基(小さい四角)及びHELA2(testisin)で発見された活性化部位(三角形)が含まれるタンパク質をコードしている。・・・
これらの遺伝子がコードするセリンプロテアーゼの各々は、彼らがカルボキシ末端伸長部を有することを示しており、SP002LAは、唯一膜アンカータンパク質を示す疎水性のカルボキシ末端テールを持つものである。」(52頁19行?53頁10行)

(d)「図20Aは、以下の事項を表している。(A)SP001LAのcDNA配列(配列番号28)。触媒残基は円で示されており、ジスルフィド結合にを形成しているかもしれないシステインは、四角で示されている。(B)SP001LAアミノ酸配列の疎水性プロット。」(9頁27行?29行)

(e)「

」(図20A(A))

(f)「本発明のさらに別の態様は、プロテアーゼ/キナーゼおよびその誘導体に対する抗体に向けられている。このような抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルでもよく、天然に存在する抗体を選択してもよいし、又は、プロテアーゼ/キナーゼまたはその誘導体に対して作成してもよい。」(33頁12行?15行)

(イ)原査定の拒絶の理由で引用文献2として引用された刊行物であるJournal of Biological Chemistry, 1998, Vol.273, No.36, p.23004-23011(以下、「引用例2」という。)は、「げっ歯類海馬におけるセリンプロテアーゼ」という表題の論文であり、以下の事項が記載されている。
(g)「我々は、大人のラットとマウスの海馬において発現しているセリンプロテアーゼの系統的な研究を紹介する。ポリメラーゼ連鎖反応増幅とノーザンブロット法を含む技術の組合せを使用すると、主要な種として組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)が示された。意外なことに、次に多い分子種は、脳の中で以前に報告されていないリンパ球プロテアーゼであるRNK-Met-1及び、新しい2種のファミリーメンバーである酵素BSP1(脳セリンプロテアーゼ1)とBSP2であった。」(要約1行?14行)

イ.本願補正発明3について
(ア)対比
本願補正発明3は、「請求項2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。」というものである。
ここで引用されている「【請求項2】配列番号7の塩基番号151?441に示す塩基配列、配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、または、これらに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の性質を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。」という記載を読み込むと、本願補正発明3は、
「配列番号7の塩基番号151?441に示す塩基配列、配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、または、これらに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の性質を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。」
の発明である。

本願補正発明3は、ベクターに含まれるポリヌクレオチドの塩基配列が「配列番号7の塩基番号151?441に示す塩基配列、配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、または、これらに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の性質を有するタンパク質をコードする塩基配列」と選択肢で記載されているが、このうち、「配列番号7の塩基番号151?441に示す塩基配列」を選択した場合に係る発明について検討する。

上記記載事項(a)?(f)によると、引用例1には、セリンプロテアーゼであるHELA2ホモログが記載されており、図20Aには、それをコードする塩基配列が記載されていることから、引用例1には、HELA2ホモログをコードする、図20Aに示された塩基配列からなるポリヌクレオチドが記載されているに等しいといえる。

本願補正発明3と引用例1に記載されたHELA2ホモログをコードするポリヌクレオチドを対比する。
本願明細書によると、本願補正発明3の配列番号7は、配列番号1のスプライシングバリアントであって(本願の再公表公報26頁16行?20行)、配列番号1は、セリンプロテアーゼをコードするものである(同25頁18行?下6行)。
そうすると、両者は、セリンプロテアーゼに関連する蛋白質をコードする塩基配列を含むものである点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:本願補正発明3は、配列番号7の塩基番号151?441に示す塩基配列を含むものであるのに対し、引用例1のポリヌクレオチドは、本願補正発明3の配列番号7の塩基番号232と233の間に、さらに50塩基の領域を含み、それ以外の領域では完全に一致する点。
相違点2:本願補正発明3は、ポリヌクレオチドを含むベクターであるのに対し、引用例1には、ポリヌクレオチドをベクターに挿入することが特に記載されていない点。

(イ)判断
(イ-1)相違点1について
本願明細書には、配列番号7に示した塩基配列は、配列番号1の塩基番号233?282が除去されたものであって、配列番号7は、配列番号1のオルターナティブスプライシングにより生じるものであることが記載されている(本願の再公表公報25頁16行?17行及び26頁16行?20行)。
そして、本願の配列番号1に示された塩基配列において、成熟タンパク質をコードする領域は、引用例1の図20Aに記載された塩基配列と完全に一致するのであるから、上記相違点1は、本願の配列番号7に示された塩基配列と引用例1に記載された塩基配列がスプライシングバリアントの関係にあることによるものであるといえる。

引用例1には、HELA2は、ショートとロングの2種のスプライシングバリアントがあることが記載されている(上記記載事項(b)参照)。このような記載に接した当業者であれば、引用例1のHELA2ホモログにもスプライシングバリアントが存在する可能性があることを期待して、引用例1の図20Aに記載された塩基配列を基にプローブやプライマーを作製してそれを取得しようとすることは、自然に発想することである。
その際、プローブやプライマーを設計する基となる領域として、セリンプロテアーゼのコンセンサス配列を用いると、HELA2ホモログのスプライシングバリアント以外のセリンプロテアーゼをコードするクローンが得られてしまう可能性があることから、HELA2ホモログのコンセンサス配列以外の領域を基にプローブやプライマーを作製して、HELA2ホモログのスプライシングバリアントをコードするポリヌクレオチドをクローニングすることは、当業者が容易になし得ることである。
また、引用例2には、ヒトの脳においてセリンプロテアーゼが発現していることが記載されていることを考慮して、ヒトの脳由来cDNAライブラリーを対象としてクローニングすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本願の配列番号7は、引用例1に記載された塩基配列のうち、途中の50塩基が欠失したものであって、それ以外の部分は完全に一致しているのであるから、上記の手法により取得することが特に困難であったとは認められない。

(イ-2)相違点2について
あるタンパク質をコードするポリヌクレオチドをベクターに挿入することは、例を挙げるまでもなく本願優先日前における周知技術であるから、上記手法により得られたポリヌクレオチドを含むベクターを作製することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(イ-3)効果について
本願明細書において、配列番号7の塩基配列によりコードされるタンパク質の機能に関する記載をみると、「セリンプロテアーゼに対する調節因子などの機能を有している可能性がある。」と記載されているが(本願の再公表公報47頁1行?8行)、この記載は、タンパク質の具体的な機能を明らかにしたとは到底いえるものではないから、格別顕著な効果として評価することはできない。

ウ.本願補正発明7
(ア)対比・判断
本願補正発明7は、「請求項1に記載のタンパク質またはその断片に対する抗体」というものである。
ここで引用されている「【請求項1】配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸97個から成るアミノ酸配列を有するタンパク質、または、配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の性質を有するタンパク質、あるいはこれらの修飾体」という記載を読み込むと、本願補正発明7は、
「配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸97個から成るアミノ酸配列を有するタンパク質、または、配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の性質を有するタンパク質またはその断片に対する抗体。」
となる。

本願補正発明7は、抗体の結合対象が、「配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸97個から成るアミノ酸配列を有するタンパク質、または、配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の性質を有するタンパク質」と選択肢で記載されているが、このうち、「配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸97個から成るアミノ酸配列を有するタンパク質」を選択した場合に係る発明について検討する。

引用例1には、図20Aに記載されたアミノ酸配列からなるHELA2ホモログが記載されている。
本願補正発明7と引用例1に記載されたHELA2ホモログを対比する。
上記イ.で述べたように、引用例1の図20Aに記載されたアミノ酸配列からなるHELA2ホモログは、本願の配列番号7の塩基配列によりコードされるタンパク質(本願の配列番号8のアミノ酸配列からなるタンパク質)とスプライシングバリアントの関係にあるものである。
そうすると、両者は、セリンプロテアーゼに関連するタンパク質である点で一致するが、本願補正発明7は、配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸97個から成るアミノ酸配列を有するタンパク質に対する抗体であるのに対し、引用例1は、配列番号8のアミノ酸配列からなるタンパク質とスプライシングバリアントの関係にあるタンパク質が記載されているに過ぎない点で相違する。

ところで、上記イ.において検討した「配列番号7の塩基番号151?441に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド」は、本願補正発明7の「配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸97個から成るアミノ酸配列を有するタンパク質」をコードするものである。
そして、上記イ.で述べたように、引用例1に記載されたHELA2ホモログのスプライシングバリアントに相当する「配列番号7の塩基番号151?441に示す塩基配列からなるポリヌクレオチド」は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができるものであるところ、引用例1には、HELA2に対する抗体を作製することが記載されている(上記記載事項(f)参照)ことを考慮すれば、HELA2ホモログのスプライシングバリアントである「配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸97個から成るアミノ酸配列を有するタンパク質」に対する抗体を作製することもまた、当業者が容易に想到し得ることである。

エ.請求人の主張について
請求人は、審判請求の理由において、配列番号8はコンセンサス配列をいずれも含まない配列であるため、引用例1のコンセンサス配列以外の配列を参考にプローブを作成したとしても、有用なセリンプロテアーゼ以外のタンパク質ばかりが得られることとなり、配列番号8を得るためには無数ともいえる選択肢(プローブの組合せ)を1つ1つ検討するという膨大な試行錯誤による作業が必要となるという技術的な困難性を有するものであり、また、引用例1?4には、どの領域をプローブとして用いるかに関して示唆もされていないことを主張する。

しかしながら、本願の配列番号8のアミノ酸配列をコードする配列番号7の塩基配列は、引用例1に記載された塩基配列のうち、途中の50塩基が欠失したものであって、それ以外の領域(配列番号7の塩基番号1?232及び233?441)は完全に一致しているのであるから、引用例1に記載された塩基配列の5’末及び3’末の領域を基にプローブやプライマーを作製すれば、配列番号7の塩基配列に示されたポリヌクレオチドは、当業者が容易に取得することができるものと認められる。
また、本願明細書の記載をみても、配列番号8のスプライシングバリアントをコードする遺伝子をクローニングするために、格別な工夫を要したものとも認められない。
よって、請求人の主張は採用できない。

オ.小括
よって、本願補正発明3及び7は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(2)特許法第36条第4項について
ア.本願明細書の記載
本願明細書には、配列番号7の塩基配列によりコードされる、配列番号8のアミノ酸配列からなるタンパク質の機能に関して以下の事項が記載されている。
(ア)「配列番号8に示したアミノ酸配列はヒト型(hBSSP4)であるが、セリンプロテアーゼのコンセンサス配列は有していなかった。しかし、mRNAでの発現は確認されているので、何らかの役割を有しているものと考えられる。配列番号7に示した塩基配列は配列番号1の塩基番号233?282が除去されたものである。」(本願の再公表公報(以下、同様。)第26頁16行?20行)

(イ)「さらに、おそらくオルターナティブスプライシングに起因する異なる塩基配列を有する8種のクローンも得られた。これらのDNAの塩基配列を配列番号3、5、7、9、11、13、15および17に示す。さらに、これらの塩基配列から推定されるアミノ酸配列を配列番号4、6、8、10、12、14、16および18に示す。上記のように、これらの中には、セリンプロテアーゼのコンセンサス配列を有するものおよび有しないものが含まれている。これらの遺伝子産物(転写物または翻訳産物)はセリンプロテアーゼに対する調節因子などの機能を有している可能性がある。」(47頁1行?8行)

イ.判断
本願明細書の上記記載事項(ア)に示されるように、配列番号8のアミノ酸配列からなるタンパク質は、セリンプロテアーゼのコンセンサス配列を欠いているから、セリンプロテアーゼとしての機能は有しない蓋然性が高い。本願明細書には、オルターナティブスプライシング遺伝子産物が「セリンプロテアーゼに対する調節因子などの機能を有している可能性がある。」という一応の記載があるものの(上記記載事項(イ))、配列番号7にコードされるタンパク質の機能について具体的には記載されていないし、どのような機能を有しているのかを解析したことも示されていない。そうすると、本願出願日前の技術常識を考慮しても、配列番号7の塩基配列を含むベクターをどのように使用することができるのか、当業者は理解することができない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、本願補正発明3について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

ウ.小括
よって、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
平成22年4月9日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項4及び19に係る発明(以下、「本願発明4」及び「本願発明19」という。)は、平成21年10月23日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項4及び19に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項4】 配列番号7の塩基番号151?441に示す塩基配列、配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列、または、これらに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ配列番号8のアミノ酸番号1?97に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の性質を有するタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。」
「【請求項19】 配列番号2のアミノ酸番号-15?268に示すアミノ酸283個から成るアミノ酸配列を有するタンパク質、または、配列番号2のアミノ酸番号-15?268に示すアミノ酸配列において1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ配列番号2のアミノ酸番号-15?268に示すアミノ酸配列を有するタンパク質と同等の性質を有するタンパク質、あるいはこれらの修飾体。」

なお、本願発明4は、平成22年4月9日付手続補正書によって内容は補正されていないものであって、補正後の請求項2に相当するものである。

第4 特許法第29条第2項について
1.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1、2及びその記載事項は、前記「第2 4.(1)ア.」に記載したとおりである。

2.本願発明4について
(1)対比・判断
本願発明4と引用例1に記載されたポリヌクレオチドを対比する。
上記第2 4.(1)イ(ア)で検討したのと同様に、両者は、セリンプロテアーゼに関連する蛋白質をコードするポリヌクレオチドである点で一致し、本願発明4は、配列番号7の塩基番号151?441に示す塩基配列からなるものであるのに対し、引用例1では、本願発明4の配列番号7の塩基番号232と233の間に、さらに50塩基の領域を含む点で相違する。

上記相違点は、上記第2 4.(1)イ(イ)において述べたと同様の理由により、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものである。

3.本願発明19について
(1)対比・判断
本願発明19は、タンパク質が2つの選択肢により記載されているが、このうち、「配列番号2のアミノ酸番号-15?268に示すアミノ酸283個から成るアミノ酸配列を有するタンパク質」を選択した場合に係る発明について検討する。

本願発明19と引用例1の図20Aに示されたHELA2ホモログを対比すると、両者は、セリンプロテアーゼである点で一致し、本願発明19は、配列番号2のアミノ酸番号-15?268に示すアミノ酸配列からなるものであるのに対し、引用例1には、本願の配列番号2のアミノ酸番号-3?268の部分の塩基配列は記載されているが、その部分よりN末側のアミノ酸番号-15?-4のアミノ酸配列が記載されていない点で相違する。

ところで、成熟タンパク質のN末端側に分泌シグナル配列やプロ配列が存在することがあることは、本願優先日前における技術常識であることを考慮すると、引用例1に記載されたHELA2ホモログにも分泌シグナル配列やプロ配列が存在することを期待して、それを取得しようとすることは、当業者が容易に想起することである。
そして、引用例2には、ヒトの脳においてセリンプロテアーゼが発現していることが記載されているから、ヒトの脳由来cDNAに、引用例1に記載されたHELA2ホモログをコードする塩基配列を用いた5’RACE法等の周知技術を適用することにより、さらにN末側のアミノ酸配列を決定することは、当業者が容易に想到し得ることである。

そして、本願明細書の記載をみても、本願発明19が従来技術からは予期できない格別な効果を奏するものとも認められない。

4.小括
よって、本願発明4及び19は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願発明4及び19に係る発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-07 
結審通知日 2012-11-13 
審決日 2012-11-29 
出願番号 特願2000-584086(P2000-584086)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊達 利奈  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 田中 晴絵
冨永 みどり
発明の名称 新規セリンプロテアーゼBSSP4  
代理人 山崎 宏  
代理人 田中 光雄  
代理人 佐藤 剛  

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