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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C04B
管理番号 1268647
審判番号 不服2010-16845  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-27 
確定日 2013-01-10 
事件の表示 特願2006-137290「建築用表面仕上げ材」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月29日出願公開、特開2007-308319〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本願は、平成18年5月17日の出願であって、平成21年1月8日付けで拒絶理由が通知され、同年3月13日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月21日付けで拒絶理由が通知され、同年9月28日に意見書及び手続補正書が提出され、平成22年4月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、その後、平成24年1月23日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋が通知され、これに対する回答書が同年3月23日に提出されたものである。


第2.平成22年7月27日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成22年7月27日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1.補正後の本願発明

平成22年7月27日付けの手続補正(以下、必要に応じて「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
建物の外装材や内装材に用いられるパネル状の焼成タイル、無焼成タイルまたは無機板材の平滑に加工された、平滑度を光沢計による光沢度60以上とした鏡面に、金属の光沢と色艶を発現できる自動車塗装用のポリウレタン樹脂系の塗料が120?150°Cで焼き付けることにより塗膜厚さ0.2mm程度にスプレイ塗装され、かつ塗料の上に自動車の塗装のコーティングに使用されるポリマーグラス、フッ素樹脂系、あるいはセラミック系などのコーティング材が被覆されていることを特徴とする建築用表面仕上げ材。」に補正された。
この補正は、本件補正前の平成21月9月28日付けの手続補正書により補正された本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項の「焼成タイル、無焼成タイルまたは無機板材」について「パネル状」と限定し、「ポリウレタン樹脂系の塗料」の塗装について「塗膜厚さ0.2mm程度にスプレイ」塗装すると限定したものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「補正後発明1」という。)について、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか、以下に検討する。

2.本件補正の適否について

本件補正により請求項1には、「塗膜厚さ0.2mm程度にスプレイ塗装され」との記載がなされた。この、「程度」との記載で特定された塗膜厚さは明確とはいえない。
よって、補正後発明1は、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

なお、本件補正前からの発明特定事項である「ポリマーグラス、フッ素樹脂系、あるいはセラミック系など」は「ポリマーグラス、フッ素樹脂系、あるいはセラミック系」を含むものであり、上記「塗膜厚さ0.2mm程度」は「塗膜厚さ0.2mm」を含むものであるから、それぞれ、「ポリマーグラス、フッ素樹脂系、あるいはセラミック系」、「塗膜厚さ0.2mm」と扱い、予備的に補正後発明1が下記刊行物1?3に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるか否かについても以下に検討する。

3.刊行物に記載された事項

(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である国際公開第03/047871号(以下、「刊行物1」という。)には、図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「1.光沢を有する表面を備えた光沢物に、塗料が付着してなる塗装物であって、前記塗料は、金属顔料が0.6重量%以下、平均粒子径1?180nmの金属酸化物顔料が0.1?70重量%配合されていることを特徴とする塗装物。」(請求の範囲、請求項1)
(イ)「3.前記光沢物に付着した塗料の表面側にクリヤー層が備えられている請求項1又は2記載の塗装物。」(請求の範囲、請求項3)
(ウ)「本発明は、・・・ダウンフロップ性を呈する塗装物・・・に関する。」(明細書第1頁第4?6行)
(エ)「・・・ダウンフロップ性を得るためには、前提として光沢、特に金属光沢が必要であるため、上記従来の塗料は、光沢を付与するために多くの金属顔料が配合され、同時に、金属酸化物顔料が配合されることによって、ダウンフロップ性を呈するものとなっている。」(明細書第1頁第13?16行)
(オ)「本発明に於いて、光沢物とは、光沢を有する表面を備えたものを意味する。
ここで、光沢を有するとは、通常、JIS Z 8741(85度鏡面光沢度、好ましくは60度鏡面光沢度)に基づく鏡面光沢度が測定可能な範囲であることを意味する。従って、測定可能である限り、表面が平滑でない艶消し面であっても光沢を有する表面に含まれる。
また、この光沢度(60度鏡面光沢度)は、10%以上が好ましい。
この光沢度は、表面を平滑にする等、従来公知の方法で向上させることができる。
本発明に於いて、光沢を有する表面は、金属又は非金属の何れからなるものであっても良い・・・。
・・・。
また、非金属としては、木材、樹脂、ガラス、タイル、石、絹糸等を挙げることができる。」(明細書第4頁第10?24行)
(カ)「被塗装物・・・自体が、光沢を有する表面を備えている場合には、そのまま光沢物として採用できる。
例えば、光沢を有するアルミニウム板、アルミニウム箔、金箔、銀箔、銅箔、クロム合金板、パール、プラスチック等であれば、そのまま光沢物として採用できる。」(明細書第5頁第6?9行)
(キ)「塗料、インキに用いる樹脂としては、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、フッ素樹脂及びシリコン樹脂等、塗料やインキの分野で通常使用される樹脂を挙げることができる。」(明細書第6頁第2?5行)
(ク)「尚、金属酸化物顔料の配合量が少ない場合には、付着量を増やし塗料、インキの層厚を厚くすれば、充分なダウンフロップ性を呈するものとなる。
塗装物、印刷物に於ける塗料、インキの層厚としては、金属酸化物顔料が15重量%未満の場合には、3?15μmが好ましく、15重量%以上の場合には、1?30μmが好ましい。
この塗料、インキには、・・・ダウンフロップ性を阻害しない範囲(0.6重量%以下、好ましくは、0?0.3重量%)で金属顔料が配合されていても良い。0.6重量%以下であれば、光の透過性を殆ど低下させず、ダウンフロップ性が阻害される虞も低減する。
また、金属酸化物顔料に対する割合としては、金属酸化物顔料1重量部に対して0?1/5重量部が好ましい。斯かる範囲であれば、比較的層厚(塗料層、インキ層の厚さ)を厚くした場合であってもダウンフロップ性の阻害される虞が殆どない。」(明細書第7頁第15?26行)
(ケ)「本発明に於いて、光沢物に塗料を付着させる方法としては、スプレー塗装、静電塗装、ローラーコート、電着塗装、粉体塗装等の通常の方法を採用することができる。」(明細書第8頁第12?14行)
(コ)「本発明に於いては、付着した塗料又はインキの表面側にクリヤー層が備えられてなるものであっても良い。
斯かる構成を採用することにより、耐食性、耐候性、耐衝撃性に優れたものとなる。
従って、自動車の外装等にも適用しうる。
前記クリヤー層は、例えば、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂等の樹脂を吹き付けたり、はけ塗りしたり、更には、透明な樹脂フィルムを貼着すること等により形成しうる。
尚、本発明の塗装物等及び塗装物等の作成方法は、例えば、自動車、缶、装飾品、コンテナ、看板、包装材、ラベル、カタログ、容器、家電製品、通信機器、筆記具、絵の具、マニキュア等及びこれらの作成方法に適用されうる。」(明細書第9頁第8?18行)

(2)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭63-261051号公報(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。
(サ)「・・・コンクリート建造物の内装、外装に使用するタイルまたは石板・・・」(第1頁左下欄第14?15行)

(3)同じく、原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2005-089221号公報(以下、「刊行物3」という。)には、次の事項が記載されている。
(タ)「・・・昨今のデザイン性、装飾性に優れた住居、ホール等の屋内外を調度する場合、旧来のタイルには存在しない金属色(光沢)を帯びたタイルの要望が高まってきた。」(段落【0002】)

4.対比、判断

(1)刊行物1に記載された発明
ア 刊行物1の記載事項(ア)には、「光沢を有する表面を備えた光沢物に、塗料が付着してなる塗装物」が記載されている。
イ アでいう「光沢物」について、同記載事項(オ)に「光沢物とは、光沢を有する表面を備えたものを意味する」と記載され、「光沢度は、表面を平滑にする等、従来公知の方法で向上させることができる」とも記載され、光沢物としてタイルや石が挙げられているから、上記「光沢物」は、「タイルや石の表面を平滑にし光沢度を向上させたもの」といえる。
ウ また、アでいう「光沢度」とは、同記載事項(オ)をみると「JIS Z 8741に基づく鏡面光沢度の光沢度(60度鏡面光沢度)」が「10%以上」といえる。
エ また、同記載事項(ウ)によれば、上記記載事項(ア)の「塗装物」は「ダウンフロップ性を呈する」ものであり、このダウンフロップ性を呈する前提として、同記載事項(エ)には、「特に金属光沢が必要」であり、光沢を付与するために上記「塗料」として「金属顔料と金属酸化物顔料が配合されて」いることが記載されており、同記載事項(キ)には、「塗料に用いる樹脂」として「ポリウレタン樹脂」が挙げられている。
オ さらに、上記アの「光沢物」に関し、同記載事項(ケ)には、「光沢物に塗料を付着させる方法としては、スプレー塗装・・・を採用することができる」ことが記載されている。
カ 加えて、上記アの「光沢物」は、同記載事項(イ)によれば、「光沢物に付着した塗料の表面側にクリヤー層が備えられている」ものであって、同記載事項(コ)によれば、この「クリヤー層」は、「熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂等の樹脂を吹き付けたり、はけ塗りしたり、更には、透明な樹脂フィルムを貼着すること等により形成」することができ、「耐食性、耐候性、耐衝撃性に優れたものとなる」ので、上記アの「塗装物」は、「耐食性、耐候性、耐衝撃性に優れたものとなる」から、「自動車の外装等にも適用しうる」ものであるといえる。
キ これらの記載を補正後発明1の記載ぶりに則して整理すると、刊行物1には、
「タイルや石の表面を平滑にし光沢度を向上させた、JIS Z 8741に基づく鏡面光沢度の光沢度(60度鏡面光沢度)が10%以上の光沢物に、金属光沢を有するように金属顔料と金属酸化物顔料とポリウレタン樹脂が配合された塗料がスプレー塗装され、かつ塗料の上に熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂等の樹脂を吹き付けたり、はけ塗りすることにより形成したクリヤー層が備えられた塗装物」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。

(2)一致点と相違点
補正後発明1と刊行物1発明とを対比する。
ア 刊行物1発明の「タイルや石」は、補正後発明1の「焼成タイル、無焼成タイルまたは無機板材」に相当し、刊行物1発明の「表面を平滑にし光沢度を向上させ」ることは、補正後発明1の「平滑に加工された」ことに相当する。
イ また、刊行物1発明の「金属光沢を有するように金属顔料と金属酸化物顔料とポリウレタン樹脂が配合された塗料」は、補正後発明1の「金属の光沢を発現できるポリウレタン樹脂系の塗料」に相当し、刊行物1発明の「スプレー塗装」が補正後発明1の「スプレイ塗装」に相当することは明らかである。
ウ そして、刊行物1発明の「塗料の上に熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂等の樹脂を吹き付けたり、はけ塗りすることにより形成したクリヤー層が備えられた」ことは、補正後発明1の「塗料の上にコーティング材が被覆されていること」に相当し、補正後発明1の「建築用表面仕上げ材」も塗装されたものであるから、「塗装物」であることも明らかである。
エ そうすると、補正後発明1と刊行物1発明は、
「焼成タイル、無焼成タイルまたは無機板材の平滑に加工された表面に、金属の光沢を発現できるポリウレタン樹脂系の塗料がスプレイ塗装され、かつ塗料の上にコーティング材が被覆されている塗装物」の点で一致し、下記(A)?(D)の点で相違する。
相違点(A);補正後発明1の「焼成タイル、無焼成タイルまたは無機板材」が「建物の外装材や内装材に用いられるパネル状の」ものであるのに対して、刊行物1発明の「タイルや石」はその用途や形状に特定がない点。
相違点(B);被塗装物の表面が、補正後発明1は「平滑度を光沢計による光沢度60以上とした鏡面」であるのに対して、刊行物1発明は「JIS Z 8741に基づく鏡面光沢度の光沢度(60度鏡面光沢度)が10%以上の光沢を有する表面」である点。
相違点(C);ポリウレタン樹脂系の塗料が、補正後発明1では「金属の光沢と色艶を発現できる自動車塗装用のポリウレタン樹脂系の塗料が120?150°Cで焼き付けることにより塗膜厚さ0.2mm程度にスプレイ塗装され」るのに対して、刊行物1発明は「金属光沢を有するように金属顔料と金属酸化物顔料とポリウレタン樹脂が配合された塗料がスプレー塗装され」るものである点。
相違点(D);補正後発明1のコーティング材が「自動車の塗装のコーティングに使用されるポリマーグラス、フッ素樹脂系、あるいはセラミック系」であるのに対して、刊行物1発明のクリヤー層は「熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂等の樹脂」である点。
相違点(E);補正後発明1は「建築用表面仕上げ材」であるのに対して、刊行物1発明は「塗装物」である点。

(3)相違点についての検討
ア 相違点(A)及び(E)について
ア-1 刊行物2の記載事項(サ)に「コンクリート建造物の内装、外装」に「タイルまたは石板」を使用することが記載されているように、「建造物の内装や外装」すなわち「建物の外装材や内装材」に「タイルや石」を用いることは、本願の出願前より一般的に行われていることであるし、「建物の外装材や内装材」は「建築用表面仕上げ材」であることは明らかである。そして、現に刊行物1発明の「塗装物」は、その記載事項(コ)に「付着した塗料の表面側にクリヤー層が備えられ」て「耐食性、耐候性、耐衝撃性に優れたもの」となり、「自動車の外装」や「看板」等にも適用しうるものであるから、刊行物1発明の「タイルや石」は「表面仕上げ」されるものといえ、刊行物1には「タイルや石」を「建物の外装材や内装材」に用いることを阻害するものは見当たらない。
ア-2 そして、「建物の外装材や内装材」としてタイルや石板を使用するためには、施工される外装や内装の大きさに合わせてタイルや石板を割り付ける必要があるため、これらを規格の揃ったパネル状とすることが当業者にとっても自然なことである。
ア-3 そうすると、刊行物1発明の「タイルや石」を「建物の外装材や内装材に用いられるパネル状」とした「建築用表面仕上げ材」とすることは、当業者にとって容易に想到し得ることである。

イ 相違点(B)について
イ-1 刊行物1発明の「JIS Z 8741に基づく鏡面光沢度の光沢度(60度鏡面光沢度)が10%以上の光沢を有する表面」について検討すると、JIS Z 8741には、光沢度の測定方法として、光源と受光器を用いて測定することが記載されている。
イ-2 一方、補正後発明1の「平滑度を光沢計による光沢度60以上とした鏡面」について検討すると、本願明細書【0027】に「この光沢度は、LED等の光源から表面に光を当てフォトダイオード等の受光部で受光して表面の光沢度を測定する光沢計(グロスチェッカー)による数値であり、鏡面光沢度100に対する百分率で表される。」と記載されていることからみて、光源から表面に光を当て受光部で受光して表面の光沢度を測定したものであるといえるから、光沢度の測定の原理は、JIS Z 8741と同じであり、受光角が不明であるが、技術的意義は同様のものであるといえる。
イ-3 また、刊行物1の記載事項(オ)における「JIS Z 8741(85度鏡面光沢度、好ましくは60度鏡面光沢度)に基づく鏡面光沢度」について「この光沢度(60度鏡面光沢度)は、10%以上が好ましい」との記載をみると、刊行物1発明の「JIS Z 8741に基づく鏡面光沢度の光沢度(60度鏡面光沢度)が10%以上」とは、一例にすぎないといえ、さらに、刊行物1の記載事項(カ)には、被塗装物となる「光沢物」として、「アルミニウム箔」や「金箔」も挙げられていることから、上記刊行物1発明の「JIS Z 8741に基づく鏡面光沢度の光沢度(60度鏡面光沢度)が10%以上」とは、金属箔等の光沢度の高いものも含まれる広い概念のものである。
イ-4 そして、刊行物1発明において、光沢度はダウンフロップ性を目的としているものの、「表面を平滑にし光沢度を向上させ」るものであり、同記載事項(コ)にも記載されているように、刊行物1発明の「塗装」は、「自動車の外装等にも適用しうる」ものであり、自動車の外装の塗装面が微視的にみると凹凸を有するものもあるものの、平滑な鋼板表面に塗装を施したものであるとみなし得ることは技術常識であることを鑑みると、表面を平滑にして光沢度を向上させるにあたり、その光沢度を補正後発明1で特定する60以上にすることは、当業者であれば適宜なし得るものである。

ウ 相違点(C)について
ウ-1 上記したように、刊行物1の記載事項(コ)には、「金属顔料と金属酸化物顔料とポリウレタン樹脂が配合された塗料」が用いられていることからみて、刊行物1発明においても「金属の光沢と色艶を発現できる」ものと認められる。
ウ-2 また、塗装を施すにあたり、塗料を焼き付けることは通常行うことであり、その焼き付け温度は塗料に配合される原料、特に配合される樹脂に依存するものである。そして、ポリウレタン樹脂系の塗料の焼き付け温度については、特開2006-61800号公報の【0026】?【0028】にも記載されているように、120?160℃であることが知られているから、補正後発明1の焼き付け温度は、ポリウレタン樹脂系の塗料の通常の焼き付け温度を特定したにすぎない。
ウ-3 ここで、補正後発明1において、「塗膜厚さ0.2mm」とすることの意義をみてみると、段落【0029】に「塗料3には、自動車の塗装に用いられるポリウレタン樹脂塗料、アクリル樹脂塗料などの樹脂塗料、油性塗料、あるいは水性塗料などが用いられる。自動車の塗装と同様に、防塵空間4内において、スプレイガン等を用いて塗装する。塗膜厚さは、例えば約0.2mm程度が望ましい。塗装後、乾燥させる。塗料3は120?150°Cで焼き付けることもできる。タイル素地2には塗料を比較的高温で焼き付けることができ、塗膜が完全に硬化することにより耐久性等の良好な建築用表面仕上げ材が得られる。」と記載されるにとどまり、塗膜の厚さは「例えば約0.2mm程度が望ましい」と一例が挙げられているにすぎないので、この「0.2mm」という数値に臨界的意義を見いだすことはできない。
ウ-4 そして、刊行物1において記載事項(ク)においては「ダウンフロップ性」という機能を満たすための具体的な塗膜厚さが記載されているが、ダウンフロップ性を阻害しない範囲で膜厚を増加させ得ることも記載されている。さらに、刊行物1発明においても、上記の本願明細書【0029】と同様に、塗料として「ポリウレタン樹脂系」のものを用い、塗料を付着させる方法として「スプレー塗装」を採用するものであり、また、塗膜の厚さは、塗膜に要求される機能に応じて適宜設定されるものであるから、刊行物1発明の「塗装物」の塗膜厚さを「0.2mm」とすることは、当業者であれば容易になし得る設計的事項である。

エ 相違点(D)について
エ-1 補正後発明1のコーティング材に用いられる「フッ素樹脂系」の材料は熱硬化性樹脂であることは明らかである。
エ-2 また、刊行物1発明において、その記載事項(コ)にも記載されているように、「熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂等の樹脂」のクリヤー層が「付着した塗料の表面側」に備えられることにより「耐食性、耐候性、耐衝撃性に優れたもの」となり、その結果「自動車の外装等にも適用しうる」ものであるから、刊行物1発明の「クリヤー層」は「自動車の塗装のコーティングに使用される」ものと認められる。
エ-3 してみると、相違点(D)は実質的な相違点ではない。

(4)回答書に記載された補正案についての検討
請求人は、平成24年3月23日付けの回答書において、上記審判請求時の平成22年7月27日付けの補正箇所に加えて、「自動車のメタリック塗装と同等の光沢と色艶を有する表面に形成されている」なる限定を追加する補正を検討する旨の主張をしている。
しかしながら、刊行物1発明においても、「金属光沢」を得るために、「金属顔料と金属酸化物顔料とポリウレタン樹脂が配合された塗料」を用いて「自動車の外装等にも適用しうる」塗装を行うものであるから、結果として得られた塗装物は「自動車のメタリック塗装と同等の光沢と色艶を有する表面に形成されている」と認められる。
さらに、金属光沢を有するタイルを製作することは、刊行物3の記載事項(タ)に「昨今のデザイン性、装飾性に優れた住居、ホール等の屋内外を調度する場合、旧来のタイルには存在しない金属色(光沢)を帯びたタイルの要望が高まってきた」と記載されているように、本願出願前より認識されていた周知の課題であり、タイルに金属光沢を持たせることについても、当業者にとって思考の飛躍を要しないことである。
よって、この補正案についても、上記刊行物1?3の記載に基いて当業者が容易に想到し得るものである。


第3.本願発明について

1.本願発明

平成22年7月27日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成21年9月28日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
建物の外装材や内装材に用いられる焼成タイル、無焼成タイルまたは無機板材の平滑に加工された、平滑度を光沢計による光沢度60以上とした鏡面に、金属の光沢と色艶を発現できる自動車塗装用のポリウレタン樹脂系の塗料が120?150°Cで焼き付けることにより塗装され、かつ塗料の上に自動車の塗装のコーティングに使用されるポリマーグラス、フッ素樹脂系、あるいはセラミック系などのコーティング材が被覆されていることを特徴とする建築用表面仕上げ材。」

2.引用刊行物

拒絶の理由に引用された刊行物である刊行物1,2の記載事項は、前記「第2.3」に記載したとおりである。

3.対比

本願発明1は、補正後発明1の「焼成タイル、無焼成タイルまたは無機板材」について「パネル状」との限定を削除し、「ポリウレタン樹脂系の塗料」の塗装について「塗膜厚さ0.2mm程度にスプレイ」塗装するとの限定を削除するものである。

4.判断

本願発明1は、上記の通り補正後発明1の「焼成タイル、無焼成タイルまたは無機板材」の形状について「パネル状」との限定を削除し、「ポリウレタン樹脂系の塗料」の塗装について「塗膜厚さ0.2mm程度にスプレイ」塗装するとの限定を削除したものであるから、補正後発明1の発明特定事項をすべて含むものである。
してみると、本願発明1は、補正後発明1と同様の上記「第2.4」に記載した理由により、本願発明1も特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。


第4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-08 
結審通知日 2012-11-13 
審決日 2012-11-27 
出願番号 特願2006-137290(P2006-137290)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C04B)
P 1 8・ 575- Z (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武石 卓  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 國方 恭子
木村 孔一
発明の名称 建築用表面仕上げ材  
代理人 久門 保子  
代理人 久門 享  

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