• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04J
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04J
管理番号 1268656
審判番号 不服2011-15015  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-12 
確定日 2013-01-10 
事件の表示 特願2007-512199「信号生成方法、信号処理方法、信号生成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月10日国際公開、WO2005/107098、平成19年12月13日国内公表、特表2007-536850〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2005年5月4日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2004年5月4日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年4月6日に拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年7月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。

第2.補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成23年7月12日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本願発明と補正後の発明
上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の平成22年11月22日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項2に記載された、

「【請求項1】
第1のアンテナおよび第2のアンテナを有する移動体無線ネットワークのネットワーク要素から移動端末との通信する方法であって、
前記第1および第2のアンテナの数を決定するステップと;
前記決定された数の複数のアンテナから前記第1のアンテナを決定するステップと;
前記第1のアンテナのための第1のトレーニングシーケンスを選択するステップと;
第1のデータペイロードを準備するステップと;
前記準備された第1のデータペイロードおよび前記トレーニングシーケンスを含む第1の信号を生成するステップと;
前記ネットワーク要素の前記第1のアンテナから前記MIMOタイムスロットにおいて前記第1の信号を送信するステップと;
前記第2のアンテナから第2の信号が送信するか否かを決定するステップと;
前記第2のアンテナのための前記第1のトレーニングシーケンスと異なる第2のトレーニングシーケンスを選択するステップと;
第2のデータペイロードを準備するステップと;
前記準備された第2のデータペイロードおよび前記第2のトレーニングシーケンスを含む第2の信号を生成するステップと;
前記MIMOタイムスロットにおける前記第1の信号の送信と共に、前記ネットワーク要素の前記第2のアンテナから前記MIMOタイムスロットにおいて前記第2の信号を送信するステップと;
を含む、方法。
【請求項2】
後続のフレームにおいて前記MIMOタイムスロットと同一位置のMIMOスロットに関し、前記第1のトレーニングシーケンスを前記ネットワーク要素の前記第1のアンテナからの送信のみのために使用し、前記第2のトレーニングシーケンスを前記ネットワーク要素の前記第2のアンテナからの送信のみのために使用することを含む、請求項1に記載の方法。」

という発明(以下、「本願発明」という。)を、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された、

「【請求項1】
第1のアンテナおよび第2のアンテナを有する移動体無線ネットワークのネットワーク要素から移動端末との通信する方法であって、
前記第1および第2のアンテナの数を決定するステップと;
前記決定された数の複数のアンテナから前記第1のアンテナを決定するステップと;
前記第1のアンテナのための第1のトレーニングシーケンスを選択するステップと;
第1のデータペイロードを準備するステップと;
前記準備された第1のデータペイロードおよび前記トレーニングシーケンスを含む第1の信号を生成するステップと;
前記ネットワーク要素の前記第1のアンテナから前記MIMOタイムスロットにおいて前記第1の信号を送信するステップと;
前記第2のアンテナから第2の信号が送信するか否かを決定するステップと;
前記第2のアンテナのための前記第1のトレーニングシーケンスと異なる第2のトレーニングシーケンスを選択するステップと;
第2のデータペイロードを準備するステップであって、前記第2のデータペイロードは、選択的に、前記第1のデータペイロードと相違するデータ、または、前記第1のデータペイロードと異なる符号化がなされた前記第1のデータペイロードの別バージョンとされる、前記第2のデータペイロードを準備するステップと;
前記準備された第2のデータペイロードおよび前記第2のトレーニングシーケンスを含む第2の信号を生成するステップと;
前記MIMOタイムスロットにおける前記第1の信号の送信と共に、前記ネットワーク要素の前記第2のアンテナから前記MIMOタイムスロットにおいて前記第2の信号を送信するステップと;
を含み、
後続のフレームにおいて前記MIMOタイムスロットと同一位置のMIMOスロットに関し、少なくとも1つの前記第1のトレーニングシーケンスの各々を前記ネットワーク要素の前記第1のアンテナからの送信のみのために使用し、少なくとも1つの前記第2のトレーニングシーケンスの各々を前記ネットワーク要素の前記第2のアンテナからの送信のみのために使用する、方法。」

という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。

2.新規事項の有無、補正の目的要件について
本件補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において、補正前の特許請求の範囲の請求項1を削除し、請求項1を引用する請求項2を独立形式で表現して請求項1とするとともに、「第2のペイロードを準備するステップ」に関し、「前記第2のデータペイロードは、選択的に、前記第1のデータペイロードと相違するデータ、または、前記第1のデータペイロードと異なる符号化がなされた前記第1のデータペイロードの別バージョンとされる、前記第2のデータペイロードを準備するステップと;」という構成を付加して限定することにより特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)及び平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(補正の目的)の規定に適合している。

3.独立特許要件について
上記本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、上記補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて以下に検討する。

(1)補正後の発明
上記「1.本願発明と補正後の発明」の項で「補正後の発明」として認定したとおりである。

(2)引用発明
原審の拒絶理由に引用された、特開2003-338802号公報(以下、「引用例1」という。)には「送信方法、送信装置および受信装置」として図面とともに以下の事項が記載されている。

イ.「【0095】(実施の形態1)実施の形態1では、同一周波数帯域に複数のチャネルの変調信号を多重する送信方法において、あるチャネルに復調のためのシンボルを挿入した時刻の他のチャネルのシンボルでは、同相-直交平面における同相および直交信号はゼロの信号とする送信方法、その送信方法における送信装置および受信装置について説明する。
【0096】図1は、本実施の形態における時間軸におけるチャネルAおよびチャネルBのフレーム構成の一例を示しており、101、104、107はチャネルAにおけるパイロットシンボル、102、105、108はチャネルAにおけるガードシンボル、103、106はチャネルAにおけるデータシンボルを示しており、データシンボルは、例えば、QPSK変調で変調されているシンボルとする。109、112、115はチャネルBにおけるガードシンボル、110、113、116はチャネルBにおけるパイロットシンボル、111、114はチャネルBにおけるデータシンボルを示しており、データシンボルは、例えば、QPSK変調されているものとする。
【0097】そして、チャネルAのパイロットシンボル101とチャネルBのガードシンボル109が同時刻におけるシンボルとなる。同様に、チャネルAのガードシンボル102とチャネルBのパイロットシンボル110、チャネルAのデータシンボル103とチャネルBのデータシンボル111、チャネルAのパイロットシンボル104とチャネルBのガードシンボル112、チャネルAのガードシンボル105とチャネルBのパイロットシンボル113、データシンボル106とチャネルBのデータシンボル114、チャネルAのパイロットシンボル107とチャネルBのガードシンボル115、チャネルAのガードシンボル108とチャネルBのパイロットシンボル116が同時刻におけるシンボルとなる。
【0098】図2は、本実施の形態における送信装置の構成の一例を示しており、チャネルAの変調信号生成部202は、フレーム構成信号210、チャネルAの送信ディジタル信号201を入力とし、フレーム構成にしたがったチャネルAの変調信号203を出力する。
【0099】チャネルAの無線部204は、チャネルAの変調信号203を入力とし、チャネルAの送信信号205を出力する。
【0100】チャネルAの電力増幅部206は、チャネルAの送信信号205を入力とし、増幅し、増幅されたチャネルAの送信信号207を出力し、電波としてチャネルAのアンテナ208から出力される。
【0101】フレーム構成生成部209は、フレーム構成信号210を出力する。
【0102】チャネルBの変調信号生成部212は、フレーム構成信号210、チャネルBの送信ディジタル信号211を入力とし、フレーム構成にしたがったチャネルBの変調信号213を出力する。
【0103】チャネルBの無線部214は、チャネルBの変調信号213を入力とし、チャネルBの送信信号215を出力する。
【0104】チャネルBの電力増幅部216は、チャネルBの送信信号215を入力とし、増幅し、増幅されたチャネルBの送信信号217を出力し、電波としてチャネルBのアンテナ218から出力される。
【0105】図3は、図2の変調信号生成部202、212の詳細の構成の一例を示しており、データシンボル変調信号生成部302は、送信ディジタル信号301およびフレーム構成信号311を入力、フレーム構成信号311がデータシンボルであることを示していた場合、QPSK変調し、データシンボルの送信直交ベースバンド信号の同相成分303および直交成分304を出力する。
【0106】パイロットシンボル変調信号生成部305は、フレーム構成信号311を入力とし、フレーム構成信号がパイロットシンボルであることを示していた場合、パイロットシンボルの送信直交ベースバンド信号の同相成分306および直交成分307を出力する。
【0107】ガードシンボル変調信号生成部308は、フレーム構成信号311を入力とし、フレーム構成信号がガードシンボルであることを示していた場合、ガードシンボルの送信直交ベースバンド信号の同相成分309および直交成分310を出力する。
【0108】同相成分切り替え部312は、データシンボル送信直交ベースバンド信号の同相成分303、パイロットシンボルの送信直交ベースバンド信号の同相成分306、ガードシンボルの送信直交ベースバンド信号の同相成分309、フレーム構成信号311を入力とし、フレーム構成信号311で示されたシンボルに相当する送信直交ベースバンド信号の同相成分を選択し、選択された送信直交ベースバンド信号の同相成分313として出力する。
【0109】直交成分切り替え部314は、データシンボル送信直交ベースバンド信号の直交成分304、パイロットシンボルの送信直交ベースバンド信号の直交成分307、ガードシンボルの送信直交ベースバンド信号の直交成分310、フレーム構成信号311を入力とし、フレーム構成信号311で示されたシンボルに相当する送信直交ベースバンド信号の直交成分を選択し、選択された送信直交ベースバンド信号の直交成分315として出力する。
【0110】直交変調器316は、選択された送信直交ベースバンド信号の同相成分313および選択された送信直交ベースバンド信号の直交成分315を入力とし、直交変調し、変調信号317を出力する。」(11頁19欄?12頁21欄)

ロ.「【0137】次に、図5、図6を用いて、受信装置の動作、特に、チャネルAの伝送路歪み推定部506、チャネルBの伝送路歪み推定部508、信号処理部525について説明する。
【0138】図5におけるアンテナ501で受信した受信信号の受信直交ベースバンド信号の同相成分504および直交成分505を例に図6について説明する。
【0139】図6において、時刻0では、チャネルAのパイロットシンボル601とチャネルBのガードシンボル609が多重されており、このときの受信直交ベースバンド信号の同相成分504および直交成分505をそれぞれI0,Q0とする。そして、チャネルA伝送路歪みを(Ia0,Qa0)、チャネルB伝送路歪みを(Ib0,Qb0)とすると、送信装置において、チャネルBのガードシンボルではゼロを送信しているため、受信直交ベースバンド信号の同相成分504および直交成分505のI0,Q0はチャネルAのパイロットシンボル601の成分から構成されていることになる。よって、受信直交ベースバンド信号の同相成分504および直交成分505のI0,Q0より、チャネルAの伝送路歪み(Ia0,Qa0)=(I’0,Q’0)と推定可能である。
【0140】ただし、チャネルAの伝送路歪み(Ia0,Qa0)の推定は上記に限ったものではなく、他の時刻のチャネルAのパイロットシンボルを用いて、時刻0のチャネルAの伝送路歪み(Ia0,Qa0)をもとめてもよい。
【0141】同様に、時刻1では、チャネルAのガードシンボル602とチャネルBのパイロットシンボル610が多重されており、このときの受信直交ベースバンド信号の同相成分504および直交成分505をそれぞれI1,Q1とする。そして、チャネルA伝送路歪みを(Ia1,Qa1)、チャネルB伝送路歪みを(Ib1,Qb1)とすると、送信装置において、チャネルAのガードシンボルではゼロを送信しているため、受信直交ベースバンド信号の同相成分504および直交成分505のI1,Q1はチャネルBのパイロットシンボル610の成分から構成されていることになる。よって、受信直交ベースバンド信号の同相成分504および直交成分505のI1,Q1より、チャネルBの伝送路歪み(Ib1,Qb1)=(I’1,Q’1)と推定可能である。ただし、チャネルBの伝送路歪み(Ib1,Qb1)の推定は上記に限ったものではなく、他の時刻のチャネルBのパイロットシンボルを用いて、時刻1のチャネルBの伝送路歪み(Ib1,Qb1)をもとめてもよい。」(13頁24欄?14頁25欄)

ハ.「【0156】ただし、本実施の形態において、多重するチャネル数を2として説明したが、これに限ったものではない。また、フレーム構成は、図1、図6、図7に限ったものではない。そして、パイロットシンボルを例に説明したが、チャネルを分離するためのシンボルはパイロットシンボルに限ったものではなく、復調のためのシンボルであれば、同様に、実施が可能である。このとき、復調のためのシンボルとは、例えば、パイロットシンボル、ユニークワード、同期シンボル、プリアンブルシンボル、制御シンボル、テイルシンボル、コントロールシンボル、既知PSK変調シンボル、データを付加したPSK変調シンボルを意味している。」(15頁28欄)

ニ.「【0410】(実施の形態7)実施の形態7では、同一周波数帯域に複数のチャネルの変調信号を複数のアンテナから送信する場合と、1つのチャネルの変調信号をアンテナから送信する場合を切り替える送信方法、その送信方法における送信装置および受信装置について説明する。
【0411】図29は、本実施の形態におけるフレーム構成の一例を示しており、2901、2903は多重情報シンボル、2902、2904はチャネルAフレームシンボル群、2905はチャネルBフレームシンボル群を示している。
【0412】このとき、2901の多重情報シンボルは、チャネルAとチャネルBのフレームシンボル群が同時に送信されていることを示す情報を含んでおり、2902のチャネルAフレームシンボル群と2905のチャネルBフレームシンボル群は、同時の送信される。
【0413】そして、2903の多重情報シンボルは、チャネルAのフレームシンボル群のみが送信されていることを示す情報を含んでおり、2904のチャネルAフレームシンボル群のみ送信される。」(32頁61欄)

上記イ.?ニのうち(実施の形態1)に係る上記イ.?ハ.の記載及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、
引用例1の(実施の形態1)には、複数の送信アンテナを有する送信装置から複数の受信アンテナを有する受信装置への無線送信方法について記載されている。前記送信装置と前記受信装置は無線ネットワークに含まれているといえ、送信装置の複数の送信アンテナと受信装置の複数の受信アンテナ間との送受信、すなわちMIMOシステムによる送受信が行われている。
引用例1の(実施の形態1)に係る上記イ.および【図1】?【図3】の記載によれば、チャネルAの送信ディジタル信号(201)は、変調されてデータシンボル(103)となり、パイロットシンボル(101)等が付加され、変調信号(203)となり、無線部により送信信号(205)となり、アンテナ(208)から送信されている。また、同様に、チャネルBの送信ディジタル信号(211)は、変調されてデータシンボル(111)となり、パイロットシンボル(109)等が付加され、変調信号(213)となり、無線部により送信信号(215)となり、アンテナ(218)から送信されている。
ここで、送信信号(205)と送信信号(215)は【図1】等に記載されるように、所定の時刻において、各アンテナから同時に送信されている。
また、送信アンテナは、チャネルAのアンテナ(208)とチャネルBのアンテナ(218)の2本であるが、上記ハ.に「本実施の形態において、多重するチャネル数を2として説明したが、これに限ったものではない。」と記載されるように、チャネル数は可変、すなわち送信アンテナ数は可変である。

したがって、上記引用例1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されている。

(引用発明)
「アンテナ(208)およびアンテナ(218)を有する無線ネットワークの送信装置から受信装置との通信をする方法であって、
送信アンテナをアンテナ(208)とアンテナ(218)の2本とし、
前記2本の送信アンテナのうちアンテナ(208)について、
前記アンテナ(208)のためのパイロットシンボルをパイロットシンボル(101)とし、
データシンボルをデータシンボル(103)とし、
前記データシンボル(103)およびパイロットシンボル(101)を含むチャネルAの送信信号(205)を生成し、
前記送信装置の前記アンテナ(208)から所定の時刻においてチャネルAの送信信号(205)を送信するとともに、
前記2本の送信アンテナのうちアンテナ(218)について、
前記アンテナ(218)のための前記パイロットシンボル(101)と異なるパイロットシンボルをパイロットシンボル(109)とし、
データシンボルをデータシンボル(111)とし、
前記データシンボル(111)およびパイロットシンボル(109)を含むチャネルBの送信信号(215)を生成し、
前記所定の時刻における前記チャネルAの送信信号(205)の送信と共に、前記送信装置の前記アンテナ(218)から前記所定の時刻においてチャネルBの送信信号(215)を送信する、方法」

(3)対比・判断
引用発明の「アンテナ(208)」、「アンテナ(213)」を、それぞれ「第1のアンテナ」、「第2のアンテナ」と称呼することは任意である。
引用発明の「無線ネットワークの送信装置から受信装置との通信」と、補正後の発明の「移動体無線ネットワークのネットワーク要素から移動端末との通信」とは、引用例の無線ネットワークが補正後の発明のように「移動体無線ネットワーク」であるか不明であるものの、補正後の発明の「ネットワーク要素」は送信側の無線装置で「移動端末」は受信側の装置であることから、両発明は「特定の無線ネットワークの送信装置から受信装置との通信」である点で共通する。
引用発明の「パイロットシンボル」が信号列を構成しているのは自明であり、そして、パイロットシンボルは上記「(2)引用発明」の項の摘記事項であるロ.に記載されているように伝送路歪みの推定に用いられているから、補正後の発明の「トレーニングシーケンス」に相当するものであり、引用発明の「パイロットシンボル(101)」、「パイロットシンボル(109)」を、それぞれ「第1のトレーニングシーケンス」、「第2のトレーニングシーケンス」と称呼することは任意である。
引用発明の「データシンボル」は、補正後の発明の「データペイロード」に相当するものであり、引用発明の「データシンボル(103)」、「データシンボル(111)」を、それぞれ「第1のデータペイロード」、「第2のデータペイロード」と称呼することは任意である。
引用発明の「送信信号」は、補正後の発明の各アンテナから送信される「信号」に相当するものであり、引用発明の「チャネルAの送信信号(205)」、「チャネルBの送信信号(215)」を、それぞれ「第1の信号」、「第2の信号」と称呼することは任意である。

引用発明では「チャネルAの送信信号(205)」を、「所定の時刻」で送信しているのに対し、補正後の発明では「第1の信号」を「MIMOタイムスロット」において送信しているが、両発明ともに「特定の期間」において送信しているといえるから、引用発明の「前記送信装置の前記アンテナ(208)から所定の時刻においてチャネルAの送信信号(205)を送信する」と、補正後の発明の「前記ネットワーク要素の前記第1のアンテナから前記MIMOタイムスロットにおいて前記第1の信号を送信する」は、「前記送信装置の前記第1のアンテナから特定の期間において前記第1の信号を送信する」点で共通する。
同様に、引用発明の「前記所定の時刻における前記チャネルAの送信信号(205)の送信と共に、前記送信装置の前記アンテナ(218)から前記所定の時刻においてチャネルBの送信信号(215)を送信する」は、補正後の発明の「前記MIMOタイムスロットにおける前記第1の信号の送信と共に、前記ネットワーク要素の前記第2のアンテナから前記MIMOタイムスロットにおいて前記第2の信号を送信する」と「前記特定の期間における前記第1の信号の送信と共に、前記送信装置の前記第2のアンテナから前記特定の期間において前記第2の信号を送信する」点で共通する。

ここで、引用発明の送信アンテナは2本であるが、これは可変である複数の送信アンテナの数から「2本」と「決定」されたものといえる。また、引用発明のアンテナ(208)およびアンテナ(218)は、チャネルAの送信信号を送信するため、及びチャネルBの送信信号を送信するためにそれぞれ「決定」されたアンテナであるといえる。また、引用発明の「データシンボル」は、送信のために「準備」されたものといえる。
引用発明の「パイロットシンボル(101)」、「パイロットシンボル(109)」は、それぞれ、アンテナ(208)およびアンテナ(218)のために「決定」されており、補正後の発明の第1のトレーニングシーケンス、第2のトレーニングシーケンスのように「選択」を経て「決定」されたものであるのか不明であるが、各アンテナのために「決定」されている点では共通している。

したがって、補正後の発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。

(一致点)
「第1のアンテナおよび第2のアンテナを有する特定の無線ネットワークの送信装置から受信装置との通信する方法であって、
前記第1および第2のアンテナの数を決定するステップと;
前記決定された数の複数のアンテナから前記第1のアンテナを決定するステップと;
前記第1のアンテナのための第1のトレーニングシーケンスを決定するステップと;
第1のデータペイロードを準備するステップと;
前記準備された第1のデータペイロードおよび前記トレーニングシーケンスを含む第1の信号を生成するステップと;
前記送信装置の前記第1のアンテナから特定の期間において前記第1の信号を送信するステップと;
前記第2のアンテナのための前記第1のトレーニングシーケンスと異なる第2のトレーニングシーケンスを決定するステップと;
前記第2のデータペイロードを準備するステップと;
前記準備された第2のデータペイロードおよび前記第2のトレーニングシーケンスを含む第2の信号を生成するステップと;
前記特定の期間における前記第1の信号の送信と共に、前記送信装置の前記第2のアンテナから前記特定の期間において前記第2の信号を送信するステップと;
を含む、方法。」

(相違点)
(1)「特定の無線ネットワークの送信装置から受信装置との通信」に関し、補正後の発明では「移動体無線ネットワークのネットワーク要素から移動端末との通信」であるのに対し、引用発明では「無線ネットワークの送信装置から受信装置との通信」である点。
(2)第1および第2のトレーニングシーケンスをそれぞれ「決定」するに関し、補正後の発明では「選択」しているのに対し、引用発明では「決定」しているのみである点。
(3)補正後の発明では、「前記第2のアンテナから第2の信号が送信するか否かを決定」しているのに対し、引用発明では、そのような決定を行っていない点。
(4)「特定の期間」に関し、補正後の発明では「MIMOタイムスロット」であるのに対し、引用発明では「所定の時刻」である点。
(5)補正後の発明では「前記第2のデータペイロードは、選択的に、前記第1のデータペイロードと相違するデータ、または、前記第1のデータペイロードと異なる符号化がなされた前記第1のデータペイロードの別バージョンとされる」としているが、引用発明では、第1のペイロードに相当する「データシンボル(103)」と第2のペイロードに相当する「データシンボル(111)」との関係について記載がない点。
(6)補正後の発明では「後続のフレームにおいて前記MIMOタイムスロットと同一位置のMIMOスロットに関し、少なくとも1つの前記第1のトレーニングシーケンスの各々を前記ネットワーク要素の前記第1のアンテナからの送信のみのために使用し、少なくとも1つの前記第2のトレーニングシーケンスの各々を前記ネットワーク要素の前記第2のアンテナからの送信のみのために使用する」としているが、引用発明では、そのようにしているか不明な点。

そこで、上記相違点について検討する。
まず、上記相違点(1)について検討する。
無線ネットワークとして移動体無線ネットワークは周知であり、引用発明の送信装置を移動体ネットワークの基地局、すなわち「ネットワーク要素」、受信装置を移動体ネットワークの「移動端末」とすることは、当業者が適宜為し得ることにすぎない。

ついで、上記相違点(2)について検討する。
引用発明では、アンテナ(208)のためにパイロットシンボル(101)を、アンテナ(218)のためにパイロットシンボル(109)をそれぞれ割り当てているが、当業者であれば、パイロットシンボル(101)とパイロットシンボル(109)をアンテナ(208)とアンテナ(218)のいずれに割り当てるかは選択的な事項であることを容易に想到し得るから、上記のようにアンテナ(208)のためにパイロットシンボル(101)を、アンテナ(218)のためにパイロットシンボル(109)をそれぞれ割り当てることは、「選択」により「決定」されたものとみることができる。したがって補正後の発明と実質的な差異はない。
また、原審の拒絶理由に引用文献3として引用された特開2003-60604号公報(以下、「引用例2」という。)の段落【0004】?【0007】および【図10】には、MIMOシステムにおいて、N個の各アンテナに対応したN個のパイロット信号を送信データとともに前記N個のアンテナからそれぞれ送信する構成が記載されており、図面の記載からみるに、『N』が少なくとも『3』である例が示されている。このことから、当業者であれば、引用発明のように各アンテナそれぞれで送信されるパイロットシンボルの種類は、少なくとも3個以上であると想到できるから、そのような3個以上のパイロットシンボルから、アンテナ(208)およびアンテナ(218)に割り当てるパイロットシンボルを「選択」して「決定」することは、適宜為し得るものである。

ついで、上記相違点(3)について検討する。
引用例1には、上記3.(2)引用発明の項の摘記事項であるハ.および【図29】に記載のように、(実施の形態7)において、チャネルAの送信信号およびチャネルBの送信信号を複数のアンテナそれぞれから送信する場合と、チャネルAの送信信号のみを1つのアンテナから送信する場合とを切り替える送信方法が記載されている。
この送信方法を引用発明に適用して、アンテナ(208)でチャネルAの送信信号(205)のみを送信する、すなわちアンテナ(218)からチャネルBの送信信号(215)の送信を行わないようにすることを当業者は容易に為し得るものである。
そのように為せば、引用発明において「前記第2のアンテナから第2の信号が送信するか否かを決定」することになる。

ついで、上記相違点(4)について検討する。
複数の送信アンテナおよび複数の受信アンテナを有する引用発明や補正後の発明のようなMIMOシステムにおいて、時分割多重を行い、各タイムスロットにおいて送受信を行うことは周知であり(必要があれば、特開2002-290148号公報の段落【0033】?【0034】、国際公開第02/087107号の8頁28行?9頁4行の記載を参照。)、引用発明のアンテナ(208)とアンテナ(218)の各送信信号を同一の送信MIMOタイムスロット期間において所定の同一時刻で行うことは当業者が適宜為し得ることにすぎない。

ついで、上記相違点(5)について検討する。
引用発明において、データシンボル(103)を含んだチャネルAの送信信号(205)と、データシンボル(111)を含んだチャネルBの送信信号(215)とは独立した送信信号であり、2本のアンテナにより空間多重化されて送信されている。このように、引用発明では、2つのデータシンボルに係る送信信号を空間多重している。
ここで、空間多重以外の多重方法で複数のデータを多重通信する際に、様々な関係(独立、関連等)にあるデータを多重することは広く行われていることにすぎず、当業者であれば、引用発明において空間多重されるデータシンボルを、2種類の相違するデータにそれぞれ基づくデータシンボルとすること、及び、2種類の関連したデータにそれぞれ基づくデータシンボルとすること、そして、必要に応じて選択的にそれらのデータシンボルをチャネルAおよびチャネルBの送信信号とすることを容易に為し得るものである。
ここで、第1のデータと、前記第1のデータと異なる符号化が為された第1のデータと別バージョンである第2のデータを多重通信することは、原審の拒絶理由に引用文献8として引用された国際公開第03/055252号(以下、「引用例3」という。特に、15頁26行?16頁10行の記載、第18図参照。)に記載のように周知であるから、引用発明において空間多重送信されるデータシンボルを、第1のデータシンボルと、前記第1のデータシンボルと異なる符号化が為された第1のデータと別バージョンである第2のデータシンボルとすることは適宜為し得ることである。

最後に、上記相違点(6)について検討する。
引用発明では、アンテナ(208)のためにパイロットシンボル(101)を、アンテナ(218)のためにパイロットシンボル(109)をそれぞれ割り当てている。そして、引用例の【図1】にはそれぞれのアンテナから送信される送信信号のフレーム構成が示されており、後続のフレームにおいても、同じ配置でパイロットシンボルが割り当てられることとなっている。また、相違点(4)において検討したように、引用発明において、時分割多重を行い、各タイムスロットにおいて送受信させることは当業者が適宜為し得ることにすぎず、その際、上記フレーム構成がタイムスロットと所定の位置関係となることは自明である。
一方、上記した引用例2の段落【0005】には、パイロット信号を送信アンテナに対応させる、すなわちユニークに関連づける構成が記載されている。
これらのことから、当業者であれば、後続のフレームに対応したタイムスロットにおいても、アンテナ(208)から送信される送信信号に係るパイロットシンボルと、アンテナ(218)から送信される送信信号に係るパイロットシンボルとを、それぞれのアンテナにユニークに関連づけることを容易に為し得るものである。
そのように為せば、引用発明において「後続のフレームにおいて前記MIMOタイムスロットと同一位置のMIMOスロットに関し、少なくとも1つの前記第1のトレーニングシーケンスの各々を前記ネットワーク要素の前記第1のアンテナからの送信のみのために使用し、少なくとも1つの前記第2のトレーニングシーケンスの各々を前記ネットワーク要素の前記第2のアンテナからの送信のみのために使用する」ことになる。

したがって各相違点は格別なものでなく、そして、補正後の発明に関する作用・効果も、引用発明、引用例2、3の記載事項及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。

以上のとおりであるから、上記補正後の発明は上記引用発明、引用例2、3の記載事項及び周知技術に基いて容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.結語
以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、平成18年法律第55号附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合していない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、上記「第2.補正却下の決定」の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。

2.引用発明及び周知技術
引用発明及び周知技術は、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の「(2)引用発明」及び「(3)対比・判断」の項で認定したとおりである。

3.対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比するに、本願発明は上記補正後の発明から、本件補正に係る構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2.補正却下の決定」の項中の「3.独立特許要件について」の項で検討したとおり、引用発明、引用例2、3の記載事項及び周知技術に基いて容易に発明することができたものであるから、上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いた本願発明も、同様の理由により、容易に発明できたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、上記引用発明、引用例2、3の記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-12 
結審通知日 2012-11-13 
審決日 2012-11-27 
出願番号 特願2007-512199(P2007-512199)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H04J)
P 1 8・ 121- Z (H04J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 洋  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 新川 圭二
矢島 伸一
発明の名称 信号生成方法、信号処理方法、信号生成装置  
代理人 亀谷 美明  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ