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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C |
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管理番号 | 1268677 |
審判番号 | 不服2012-5952 |
総通号数 | 159 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-03-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-04-03 |
確定日 | 2013-01-10 |
事件の表示 | 特願2005-364025「内燃機関の軸受給油構造」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月28日出願公開,特開2007-162921〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯の概略 本願は,平成17年12月16日に出願され,平成23年9月1日(起案日)付けで拒絶の理由が通知され,平成23年10月21日付けで意見書の提出及び手続補正がなされたが,平成24年1月5日(起案日)付けで拒絶査定がなされた。 これに対し,平成24年4月3日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成24年4月3日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の結論] 平成24年4月3日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正後の請求項1に係る発明 平成24年4月3日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により,特許請求の範囲の請求項1は 「【請求項1】 平軸受に潤滑油を供給する第1の給油通路と,転がり軸受に潤滑油を供給する第2の給油通路とを備えている内燃機関の軸受給油構造であって, 前記第2の給油通路の油圧を,前記第1の給油通路の油圧よりも低くするオリフィスを備え, 前記第2の給油通路は,前記オリフィスによって油圧が低下した潤滑油を前記オリフィスの下流側で複数の転がり軸受に供給することを特徴とした内燃機関の軸受給油構造。」 と補正された(なお,下線は,請求人が付した本件補正による補正箇所を示す。)。 本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0019】及び【0020】の記載並びに図1,6及び9の記載からすると,上記補正は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内においてしたものである。 そして,上記補正は,請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項で,転がり軸受に潤滑油を供給するための事項に係る「第2の給油通路」及び「油圧低減手段」について,「油圧低減手段」が「オリフィス」であり,「前記第2の給油通路は,前記オリフィスによって油圧が低下した潤滑油を前記オリフィスの下流側で複数の転がり軸受に供給する」ものであると限定するもので,本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について,以下に検討する。 2 引用刊行物の記載事項 (1) 原査定の拒絶の理由に引用された,本願の出願前に頒布された刊行物である特開2001-82444号公報(以下「引用刊行物」という。)には,「内燃機関に関し,特に,クランクシャフトの支持構造の改善に関(し)」(段落【0001】),以下の事項が記載されている。 ・「滑り軸受には,構造が簡単という利点がある。また,軸受隙間に存在する潤滑油膜の動的作用により油膜圧力を発生し,油膜圧力により荷重を支持しているので,大荷重に耐えられるという利点がある。 一方,転がり軸受は構造が複雑である。また,転動体の転がりを利用して荷重を支持しているので,低回転域での摩擦係数が小さいという利点がある。しかし,大荷重の支持に向かないため,比較的小荷重の軸に適用されることが多い。」(段落【0003】及び【0004】) ・「従来の一般的な内燃機関は,主軸受として滑り軸受を設けることが多い。そしてこの種の内燃機関では,両端の軸受に偏摩耗が生じやすい傾向がある。まず,タイミングベルト,補機ベルト等を取り付ける側の端部について見ると,これらベルトの荷重が主として上方向に作用するために軸受上部の負担が大きい。変速機側の端部について見ると,重量の大きいフライホイールが取り付けられているために軸受下部の負担が大きい。これらの偏った負担の影響は低回転域で大きく,しかも低回転域は常用回転域でもある。そのために,クランク両端の軸受では偏摩耗が生じやすくなる。 上記のような偏摩耗を防止するため,従来は,軸受の幅を広く設定する,軸受オーバーレイの材質を変更する,といった対策がとられている。しかし,これらの対応には,摩擦損失の増加およびコスト増加を招くという不利がある。 また,転がり軸受タイプの内燃機関は,上記のすべり軸受タイプの内燃機関と異なり,低回転域での摩擦に対して有利である。しかしながら,滑り軸受で見られるような潤滑油によるダンピング効果が期待できない。そのため,内燃機関の特徴である爆発時の衝撃荷重の下では,振動騒音の問題が比較的大きい。このような事情から,転がり軸受タイプの内燃機関の適用範囲は極限られている。 本発明は上記の背景に鑑みてなされたものであり,その目的は,偏摩耗を抑制でき,摩擦損失も低減できるクランク支持構造を提供することにある。」(段落【0005】ないし【0008】) ・「上記目的を達成するため,本発明は,複数のジャーナルを有するクランクシャフトを含む内燃機関であって,クランクシャフトの両端のジャーナルの少なくとも一方を転がり軸受で支持するとともに,残りのジャーナルを滑り軸受で支持することを特徴とする。具体的にはベルト駆動側の端部のジャーナルを転がり軸受で支持する。また変速機結合側の端部のジャーナルを転がり軸受で支持する。 本発明によれば,クランク端部のジャーナルが転がり軸受で支持される。転がり軸受は,クランク端部に低回転域で作用する偏った荷重を適切に支持することができる。しかも,残りのジャーナルに作用する大荷重は滑り軸受を用いて適切に支持される。さらに,転がり軸受は,実用される低回転域での摩擦抵抗が少ない。さらにまた,滑り軸受と異なり,転がり軸受に対しては給油が不要か,大幅に少なくてよい。 以上より,本発明によれば,滑り軸受と転がり軸受の適切な組合せと配置により,内燃機関の爆発荷重に対する軸受能力を維持しつつ,軸受偏摩耗を防止し,かつ,軸受摩擦損失を低減し,さらにはオイルポンプ吐出量の低減とそれに伴うポンプ小型化も可能になる。これにより,機関寿命の延長と燃費の向上,機関の小型化に寄与することができる。」(段落【0009】ないし【0011】) ・「次にクランクシャフト周辺の構成を説明する。クランクシャフト3は,各シリンダ#1?#4の中央に対応する位置に1番ピン?4番ピン(1P?4P)を有する。各ピン1P?4Pには,コネクティングロッド5が取り付けられている。コネクティングロッド側には滑り軸受が取り付けられている。コネクティングロッドの先にはピストン(図示せず)が取り付けられている。 クランクシャフト3には,ピンと交互に配置されるように5つのジャーナル,すなわち,1番?5番ジャーナル(1J?5J)が設けられている。各ジャーナルと各ピンの間は,カウンタウエイト付きのウエブで連結されている。1番ジャーナル1Jの更に前側に,ベルト駆動プーリ等の取付軸7が続く。また5番ジャーナル5Jの更に後側に変速機連結軸9が続いている。 各ジャーナル1J?5Jは,シリンダブロック1に支持されている。より詳細には,シリンダブロック1は,ブロック本体11とベアリングキャップ13の分割構造を有し,これらの構成要素により形成されるハウジングに主軸受が挿入され,主軸受に各ジャーナルが支持されている。 本発明の特徴として,ベルト駆動側の端部である1番ジャーナル1Jは転がり軸受15(玉軸受またはころ軸受)により支持され,残りの2番?5番ジャーナル2J?5Jは滑り軸受17により支持されている。そして,2番?5番ジャーナル2J?5Jに対しては,ベアリングキャップ内の給油孔を通して潤滑油が供給される。」(段落【0017】ないし【0020】) ・「上述のように,ベルト駆動側には,タイミングベルトおよび補機ベルトが掛けられている。通常は,機関全体の構造という観点から,さらに車両搭載時の整備性という観点から,動弁系および補機は殆ど機関の上部に配置されている。そして,ベルトによる曲げ力は全体として上方に作用しており,クランクシャフトの最前部付近には上向きの初期荷重が作用している。この初期荷重の影響で,機関回転数が高くない運転条件下では,1番ジャーナル1Jが軸受内の上側に位置する時間の割合が多い。・・・ 従来一般には,1番ジャーナル1Jにも他のジャーナルと同様に滑り軸受が用いられている。そのため,上記の偏った荷重に起因する上半部の偏摩耗が生じる傾向がある。この偏摩耗は,軸受寿命の低下を招く可能性がある。そして,偏摩耗防止を目的とする軸受幅の拡大およびオーバーレイ材質の変更は,摩擦損失の増加およびコスト増加を招くという不利がある。」(段落【0022】ないし【0024】) ・「このような事情に鑑み,本発明では,1番ジャーナル1Jを転がり軸受15で支持し,残りのジャーナル2J?5Jを滑り軸受17で支持している。転がり軸受15では,転動体(玉,ころ等)の自転,公転によって荷重が分散される。したがって,ジャーナルによる荷重の方向が偏っている場合でも,偏摩耗の発生が抑制,防止される。 しかも,残りのジャーナル2J?5Jには滑り軸受17を用いているので,油膜のダンピング効果により高回転域での爆発荷重を適切に支持することができる。」(段落【0025】及び【0026】) ・「また本実施形態では,以下に説明するようにオイルポンプの吐出量を低減できる。転がり軸受は,グリースおよびミスト・エア潤滑でも十分に機能し,多量の潤滑油を本来的に必要としていない。そしてクランクケース内は周知のようにオイルミストで満ちている。したがって,図1に示すように,1番ジャーナル1Jのベアリングキャップには給油通路が設けられていない。 このように軸受給油量を削減できるので,機関全体の潤滑油量も低減することができる。そしてオイルポンプの吐出量も低減することができる。概算ではオイルポンプの吐出量低減率は10%程度になる。吐出量が少なくてもよいので,オイルポンプを小型化でき,内燃機関の小型化も図れる。またオイルポンプの消費エネルギ低減は,燃費の向上にも寄与する。」(段落【0028】及び【0029】) ・「また,もし転がり軸受の油量が不足するのであれば,図4に示すような構造を採用することが好適である。ここでは,1番ジャーナル1Jのベアリングキャップ21が,内部に分岐オイル孔23を有している。分岐オイル孔23は,滑り軸受給油用のメインホール24から分岐している。分岐オイル孔23は,他のジャーナルの給油孔25より大幅に細い。転がり軸受15の軸受外輪27は,外周面に浅い給油溝28を有している。給油溝28は,軸受幅方向の中央に設けられ,軸受を一周している。さらに軸受外輪27は,小径の給油孔29を有する。給油孔29は,円周方向に等間隔をあけて複数個設けられている。オイルは,メインホール24から分岐オイル孔23を通って給油溝28に給油され,給油孔29を通って軸受内部に到達し,さらに軸受側面から排出される。 このような給油構造の設置により,転がり軸受15に対して必要な給油が行われる。また,元々転がり軸受15の必要油量が少なく,そして分岐オイル孔23および給油孔29は細い。したがってこの構造によっても,本発明の吐出量低減効果は十分に得られる。」(段落【0030】及び【0031】) ・「次に,図5を参照し,本発明のもう一つの好適な実施形態を説明する。本実施形態では,5番ジャーナル5J,すなわち,変速機結合側の端部のジャーナルが転がり軸受31(玉軸受またはころ軸受)で支持されている。1番ジャーナル1Jも,前の実施形態と同様に転がり軸受15で支持されている。残りのジャーナル2J?4Jは滑り軸受17で支持されている。5番ジャーナル5Jへの給油孔は廃止されている。」(段落【0035】) ・「さらに,5番ジャーナルに転がり軸受を設けたことにより,1番ジャーナルに関する上記の利点と同様の利点が得られる。すなわち,転がり軸受の摩擦低減効果により,摩擦損失が低減し,燃費が向上する。またオイルポンプの吐出量を低減でき,ポンプ小型化等の利点が得られる。必要に応じて,図4に示した構造と同様に少量のオイルを給油する構造を設けてもよい。さらに,クランク端部のジャーナルには低回転域では準静的荷重が作用するので,転がり軸受に伴う振動,騒音という問題も少ない。この構成の摩擦損失とポンプ吐出量の低減率は,概算では,図1の構成と比較して1.5倍?2倍であると考えられる。」(段落【0039】) ・「以上に説明したように,本発明によれば,クランク端部のジャーナルを転がり軸受けで支持したので軸受偏摩耗を防止でき,かつ,残りのジャーナルの滑り軸受で大荷重を適切に支持できる。さらに摩擦損失を低減し,オイルポンプの必要給油量も少なくできる。 したがって,滑り軸受けと転がり軸受けの適切な組合せと配置により,内燃機関の爆発荷重に対する軸受性能を維持しつつ,偏摩耗を防止し,かつ,摩擦損失を低減し,さらにはオイルポンプ吐出量の低減とそれに伴うポンプ小型化も可能になる。これにより,機関寿命の延長と燃費の向上,機関の小型化に寄与することができる。」(段落【0042】及び【0043】) (2) 以上の記載及び図面の記載からすると,引用刊行物には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 (引用発明) 「滑り軸受17に潤滑油を供給するメインホール24及び給油孔25と,転がり軸受15,31に潤滑油を供給する分岐オイル孔23とを備えている内燃機関の軸受給油構造であって, 前記分岐オイル孔23は,前記メインホール24から分岐しており,前記給油孔25よりも大幅に細いものであって,前記メインホール24からの潤滑油を,前記転がり軸受15,31の軸受外輪27に設けられた給油溝28及び小径の給油孔29を通じて,前記転がり軸受15,31の内部に供給する内燃機関の軸受給油構造。」 3 対比及び判断 (1) 本願補正発明と引用発明とを,その有する機能に照らして対比すると,引用発明の「滑り軸受17」は本願補正発明の「平軸受」に相当し,以下同様に,「メインホール24及び給油孔25」は「第1の給油通路」に,「転がり軸受15,31」は「転がり軸受」に,「分岐オイル孔23」は「第2の給油通路」に,それぞれ相当するから,本願補正発明と引用発明とは,次の点で一致し,相違するといえる。 (一致点) 「平軸受に潤滑油を供給する第1の給油通路と,転がり軸受に潤滑油を供給する第2の給油通路とを備えている内燃機関の軸受給油構造であって, 前記第2の給油通路は,潤滑油を複数の転がり軸受に供給する内燃機関の軸受給油構造。」である点 (相違点) 本願補正発明は,「前記第2の給油通路の油圧を,前記第1の給油通路の油圧よりも低くするオリフィスを備え」,「前記第2の給油通路は,前記オリフィスによって油圧が低下した潤滑油を前記オリフィスの下流側で」複数の転がり軸受に供給するのに対し,引用発明はそのような構成を有していない点。 (2)ア 上記相違点について検討する。 引用刊行物の記載によれば,引用発明において,「転がり軸受は,グリースおよびミスト・エア潤滑でも十分に機能し,多量の潤滑油を本来的に必要としていない。」(段落【0028】)ものではあるが,「もし転がり軸受の油量が不足するのであれば」(段落【0030】),付加的に分岐オイル孔23や給油溝28及び小径の給油孔29を設け,潤滑油を転がり軸受15,31に供給するようにしたのであって,「元々転がり軸受15の必要油量が少なく,そして分岐オイル孔23および給油孔29は細い。したがってこの構造によっても,本発明の吐出量低減効果は十分に得られる。」(段落【0031】)と記載されているように,潤滑油を少量供給することを企図している発明である。 イ ところで,絞り弁は流量制御弁の一種として広く知られ,オリフィスはその代表例である。 例えば,原査定の拒絶の理由において「引用文献2」として引用された,本願の出願前に頒布された刊行物である特開平7-54831号公報に,油圧供給制御弁35の第1オイル供給通路36が,#1,#3,#5の主軸受16,18,20に形成された供給路32及び#2,#4の主軸受17,19に形成された供給路33に,それぞれ所定のオリフィス37,38を介して接続され,油圧供給制御弁35の第2オイル供給通路39が,#2,#4の主軸受17,19に形成された供給路33に,所定のオリフィス40を介して接続される点(段落【0029】)が記載されているように,流体圧回路において,オリフィスを利用して所定の流量に制御した上で供給することは周知の技術である。 そして,所望の流量に制御するために,どのような手段を採用するかは,発明の具体化に当たって当業者が適宜に選択できるものである。 そうすると,引用発明において,オリフィスを設け流量を少量に制御した上で,転がり軸受15,31に供給することは,当業者にとって格別困難なことではない。 ウ また,滑り軸受は,「軸受隙間に存在する潤滑油膜の動的作用により油膜圧力を発生し,油膜圧力により荷重を支持するものである」(引用刊行物段落【0003】)から,クリアランスが小さくされているのに対し,転がり軸受は「滑り軸受で見られるような潤滑油によるダンピング効果が期待できない。」(引用刊行物段落【0007】)ように,滑り軸受に比し開放的な構造になっているから,給油孔29の出口側の圧力がより低くなりえることは,当業者であれば,引用刊行物から容易に読み取ることができる。 そして,そのような場合,給油孔29の前後の圧力差が大きくなり,少量を供給することが困難になる可能性があることから,給油孔29の入口側の圧力を低くすることが所期の目的からすると有利であること,給油孔29の入口側の圧力を低くするために,通過した流体の圧力が低下するといった性質を有するオリフィスを,その上流側に介在させることが合理的であることも,技術常識に照らせば,当業者が容易に理解することができる。 エ 以上の点を総合的にみれば,引用発明において,転がり軸受15,31に必要最低限の少量の潤滑油を供給するために,オリフィスを介して,分岐オイル孔23,軸受外輪27の給油溝28及び給油孔29をメインホール24に接続し,オリフィスによって圧力が低下した潤滑油を転がり軸受15,31へ供給するよう構成することは当業者が容易に想到できた事項である。 その場合,引用発明においてメインホール24に複数の滑り軸受17を給油孔25を介して並列に接続しているように,設定流量,設定圧力が同一の複数の供給先を共通の油圧源に並列に接続することが通常の形態であることからしても,一のオリフィスの下流から各転がり軸受15,31へ供給することは,当業者が適宜になしうる事項である。 結局,引用発明において,上記相違点に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到できた事項である。 本願補正発明の奏する効果をみても,引用発明,周知の技術から当業者が予測しうる範囲内のものであって,格別ではない。 オ(ア) 請求人は,この点に関し,概ね次のように主張している。 ・本願補正発明は,潤滑油がオリフィスの下流側の第2の給油通路を流れる過程において,潤滑油の圧力をさらに低下させることができる,すなわち,潤滑油がオリフィスの下流側を流れることによって圧損が生じ,転がり軸受に供給される潤滑油の圧力を所望の圧力まで低下させることができる。 ・本願補正発明は,オリフィスによって油圧が低下した潤滑油をオリフィスの下流側で複数の転がり軸受に供給する。複数の転がり軸受が存在する場合,複数の転がり軸受は,ある程度の間隔を隔てて配置されることになるが,間隔を隔てて配置される複数の転がり軸受に対し,第2の給油通路が潤滑油を供給するためには,オリフィスの下流側においてある程度の距離が確保されなければならないから,オリフィスの下流側において複数の転がり軸受に給油する第2の給油通路は,圧損による油圧の低下を実現することができる。 ・引用刊行物では,小径の給油孔29の直後に転がり軸受15が位置しており,給油孔29の下流側にさらなる給油通路は存在していないため,給油孔の下流側に複数の転がり軸受に潤滑油を供給する給油通路を備える構成とはなっていない。この結果,給油孔29の下流側において潤滑油が転がり軸受に到達するまでに圧損によるさらなる圧力の低下を期待することができない。 (イ) しかし,上述のとおり,引用発明において,転がり軸受15,31に必要最低限の少量の潤滑油を供給するために,オリフィスを介して,分岐孔23,軸受外輪27の給油溝28及び給油孔29をメインホール24に接続し,オリフィスによって圧力が低下した潤滑油を転がり軸受15,31へ供給するよう構成すること,その場合,一のオリフィスの下流から転がり軸受15,31へ供給することは,上記の周知の技術を踏まえれば,当業者が容易に想到できた事項である。 このような構成において,当該オリフィスから各転がり軸受15,31の間が所定の長さの通路となることは,引用刊行物に開示された具体的な構造に照らし明らかであり,その結果,本願補正発明同様に,圧損によりさらに圧力が低下する。 また,上述のとおり,引用発明において,給油孔29の入口側の圧力を低くすることが所期の目的からすると有利であることは,当業者が引用刊行物から容易に読み取ることができるところ,管路を通過することにより圧損が生じ圧力が低下することも技術常識であるから,その点も併せ考慮し,一のオリフィスの下流から転がり軸受15,31へ供給することも,当業者にとって格別困難なことではない。 よって,請求人の主張は採用することができない。 カ 以上を総合すると,本願補正発明は,引用発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。 (3) 以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1ないし請求項5に係る発明は,平成23年10月21日付けの手続補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載されたとおりのものであるが,そのうち,請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。 「【請求項1】 平軸受に潤滑油を供給する第1の給油通路と,転がり軸受に潤滑油を供給する第2の給油通路とを備えている内燃機関の軸受給油構造であって, 前記第2の給油通路の油圧を,前記第1の給油通路の油圧よりも低くする油圧低減手段を備え, 前記油圧低減手段によって油圧が低下した潤滑油を前記転がり軸受へ供給することを特徴とした内燃機関の軸受給油構造。」 2 引用刊行物に記載された事項 引用刊行物に記載された事項は,上記第2・2のとおりである。 3 対比及び判断 本願発明は,本願補正発明から,転がり軸受に潤滑油を供給するための事項に関し,「前記第2の給油通路の油圧を,前記第1の給油通路の油圧よりも低くする・・・手段」が「オリフィス」であり,「前記第2の給油通路は,前記オリフィスによって油圧が低下した潤滑油を前記オリフィスの下流側で複数の転がり軸受に供給する」ものであるとの限定を省いたものである(上記第2・1)。 そこで,本願発明と引用発明とを,その有する機能に照らして対比すると,両者は,本願補正発明と引用発明に係る一致点(上記第2・3)と同様の点で一致し, 本願発明は,「前記第2の給油通路の油圧を,前記第1の給油通路の油圧よりも低くする油圧低減手段を備え」,「前記油圧低減手段によって油圧が低下した潤滑油を前記転がり軸受へ供給する」のに対し,引用発明はそのような構成を有していない点 で相違する。 しかしながら,上記第2・3(2)で検討したとおり,本願補正発明は,引用発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願補正発明の転がり軸受に潤滑油を供給するための事項に関し上位概念に相当する事項を有する本願発明が,同様に,引用発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであることは明らかである。 4 以上のとおり,本願発明(請求項1に係る発明)は,引用発明及び周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 そして,本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができない以上,本願の請求項2ないし請求項5に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-11-12 |
結審通知日 | 2012-11-13 |
審決日 | 2012-11-27 |
出願番号 | 特願2005-364025(P2005-364025) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 上谷 公治 |
特許庁審判長 |
山岸 利治 |
特許庁審判官 |
島田 信一 窪田 治彦 |
発明の名称 | 内燃機関の軸受給油構造 |
代理人 | 片山 修平 |