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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B29C
管理番号 1268699
審判番号 不服2009-22856  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-11-24 
確定日 2013-01-07 
事件の表示 特願2001-545052「中性及び酸性基を有するアクリレート(メタクリレート)コポリマーの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月21日国際公開、WO2001/43935、平成15年 5月20日国内公表、特表2003-516881〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成12年12月9日(パリ条約による優先権主張 1999年12月17日 ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする特許出願であって、平成20年11月18日付けで拒絶理由が通知され、平成21年5月21日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年7月17日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年11月24日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2.本願発明について
本願の請求項1?9に係る発明は、平成21年5月21日提出の手続補正書によって補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。

「射出成形によって成形体を製造するに当たり、次ぎの方法段階:
A)a)ラジカル重合されたアクリル酸又はメタクリル酸のC_(1)?C_(4)-アルキルエステル40?99質量%及びアルキル基中に陰イオン基を有するアクリレート(メタクリレート)モノマー1?60質量%から成るアクリレート(メタクリレート)コポリマーであり、前記コポリマーが
b)離型剤0.1?3質量%を含有する
アクリレート(メタクリレート)コポリマーから成る混合物を溶融し、場合によりこの混合物中に
c)乾燥調節剤0?50質量%
d)可塑剤0?30質量%
e)添加剤又は助剤0?100質量%
f)製薬作用物質0?100質量%
g)他のポリマー又はコポリマー0?20質量%
が含有されていてもよく、この際成分b)?g)の成分の量の数値はアクリレート(メタクリレート)コポリマーa)を基準とし、該混合物は溶融前には120℃で少なくとも1.9バールの蒸気圧を有する低沸点成分を0.5質量%以上含有し、
B)同混合物を熱可塑性状態で少なくとも120℃の温度で脱ガスし、これによって120℃で少なくとも1.9バールの蒸気圧を有する低沸点成分の含量が0.5質量%以下に低下され、
C)溶融されかつ脱ガスされた混合物を、射出成形金型の成形キャビテイ中に注入し、この際前記成形キャビテイはアクリレート(メタクリレート)コポリマーのガラス転移温度よりも少なくとも10℃下にある温度を有し、溶融混合物を冷却しかつ得られた成形体を型から取出す
方法段階を有することを特徴とする、射出成形によって成形体を製造する方法。」

第3.原査定における拒絶の理由の概要
原査定は、「この出願については、平成20年11月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきもの」である。
そして、平成20年11月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由は、この出願に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものであり、引用例として、以下の刊行物が提示されている。
1.特開平08-073378号公報
2.特開昭52-145464号公報
3.特開平01-160614号公報
4.特開平07-214552号公報
5.特開昭59-198110号公報
6.特開平01-290408号公報

第4.当審の判断
1.引用刊行物
引用文献1:特開平08-073378号公報(原査定の引用例1)
引用文献2:特開昭59-198110号公報(同引用例5)

2.引用刊行物の記載事項
(1)引用文献1の記載事項
(1a)「【発明が解決しようとする課題】本発明は、公知の熱成形法によって腸液可溶性薬剤形状物、例えば差込カプセルを製造するために使用することのできる熱可塑性プラスチック成形材料を提供するという課題を基礎としている。
【課題を解決するための手段】ところで、前記課題の解決のためには、
A) アクリル酸及び/又はメタクリル酸16?40重量%、
B) メチルアクリレート30?80重量%、
C) アクリル酸及び/又はメタクリル酸の他のアルキルエステル0?40重量%
から成るコポリマーが適当であることが判明した。場合により常用の助剤の添加下に前記コポリマーから製造された薬剤被覆は、pH1?2の胃液中及び5以下のpH値を有する消化液又は緩衝液中では不溶であるが、5.5?8のpH値の腸液中では良好に可溶である。該コポリマーは熱可塑性状態で分解せずに加工することができる。
差込カプセル又は半差込カプセル(Steckkapselhaelfte)は、好ましくは数個取成形型(Mehrfachwerkzeug)を用いて、該コポリマーの溶融物から140?180℃の温度で射出成形法によって製造することができる。射出成形法はまた、前成形した薬剤芯をポリマー包被(Polymerisatmantel)で被覆するためのも適用することができる。この場合には、薬剤芯を補助工具(Hilfswerkzeuge)(キャビティの最終的充填及び成形材料の凝固の前には中空型から引出して元に戻す)によって中心部に置いておく。」(【0006】?【0008】)

(1b)「本発明のコポリマーはラジカル重合の常法により製造することができる。この場合、例えばアルキルメルカプタンのような調節剤
(Regler)を併用して、50,000?1,500,000ダルトンの分子量(重量平均値)を得ることができる。単離された重合体もしくは大量生産された完成成形材料の溶融粘度は120?145℃及び圧力1?5MPaで好ましくは1,000?100,000Pasの範囲にある(DIN54811、方法Bにより測定)。経済的寸法は、例えばスクリュー押出機でのモノマーの塊状重合である。好ましくは該コポリマーは、特に陰イオン性の乳化剤の存在で水相中で乳化重合することによって製造され、噴霧乾燥、凍結乾燥又は凝集及び脱水によって単離される。
所望の場合には、アクリル酸及び/又はメタクリル酸及びメチルアクリレートと一緒にアクリル酸及び/又はメタクリル酸の他のアルキルエステル、特にアルキル基中に炭素原子1?8個を有するものを40重量%までの量で併用する。特にエチル-、プロピル-、ブチル-及び2-エチルヘキシルアクリレート及びメチル-、エチル-、プロピル-及びブチルメタクリレートが適当である。また他のエチレン系不飽和のラジカル重合性モノマー、例えばヒドロキシアルキルアクリレート(メタクリレート)も少量併用してもよい。
コポリマーには、薬剤被覆物質中で常用される助剤を溶融物中で加えることができる。この助剤には、可塑剤、例えばクエン酸エステル、ポリエチレングリコール、増量剤、染料、顔料、保存剤、矯味剤、作用物質及び離型剤、例えばグリセリンモノ-及び-ジステアレート、両者ならびにステアリン酸及びその金属塩から成る混合物が属する。
製造された成形材料は120?180℃で熱可塑的に加工される。射出成形のためには10,000Pas未満の粘度が望ましく、このような粘度は140?180℃の温度で得られる。」(【0012】?【0015】)

(1c)「【実施例】
例 1
メチルアクリレート60重量%、メチルメタクリレート20重量%及びメタクリル酸20重量%から成るモノマー混合物の乳化重合によって製造し、次に噴霧乾燥したコポリマーを、実験用練りロール機で160℃のロール温度で溶融した。この溶融物を均質化した後、グリセリンモノステアレート6重量%を加え、数分間混合した。ロールドシート(Walzfell))を取出し、破砕し、ハンマーミル(Schlagmuehle)で粉砕して平均粒度0.2mmを有する粉末を得た。
該コパリマーは145℃/5MPaで7700Pasの溶融粘度を有する。
熱可塑的加工性を試験するため、プラスチック粉末を射出成形用金型の控室に充填し、170℃で150barの圧力下に直径0.5mmの開口によってキャビティ中に射出した。この際亀裂及び気泡を含まず、わずかに不透明な薄壁状の半薬剤カプセルが得られた。このものを冷却後に開いた金型から取出した。同半カプセルはpH7.5の緩衝液中で90分以内に可溶であった。
例2?5
次の組成(重量%):
例2 :メチルアクリレート/メタクリル酸80:20
モノマー比70:30/90:10を有する1:1芯/シェル構造
例3 :メチルアクリレート/メタクリル酸80:20
モノマー比90:10/70:30を有する1:1芯/シェル構造
例4 :メチルアクリレート/エチルアクリレート/メタクリル酸
40:25:35
例5 :メチルアクリレート/メタクリル酸8:20
芯/シェル構造、但し芯のみが調節剤の添加下に製造された。
例6 :メチルアクリレート/エチルアクリレート/ブチルアクリレート/メタクリル酸30:15:15:40
を有する、噴霧乾燥した乳化重合体を、離型助剤としてのグリセリンモノステアレート2重量%(例4のみ1重量%)を加えて同様に加工して半カプセルを得た。すべての場合において該半カプセルはpH7.5の緩衝液中で90分以内に可溶であった。
(中略)
例7?9
次の重量比:
例7 : 40:40:20
例8 : 60:20:20
例9 : 60:25:15
のメチルアクリレート、メチルメタクリレート及びメタクリル酸から成る噴霧乾燥した乳化重合体を、離型助剤としてのグリセリンモノステアレート3重量%を加えて、同様に加工して半カプセルを製造した。例8及び例9の場合には、離型助剤6もしくは5重量%の使用によって離型性はより容易になり、カプセル表面はより平滑になった。半カプセルは長さ16.5mm、外径6.8mm壁厚さ0.5mm及び重量146mgを有していた。」(【0016】?【0021】)

なお、摘示(1c)には「例5 :メチルアクリレート/メタクリル酸8:20」と記載されているが、「8:20」では、メチルアクリレートとメタクリル酸との合計が100重量%にならず、また、メチルアクリレート30?80重量%(摘示(1a))との条件を満たさず、さらに、引用文献1のパテントファミリーにかかる以下の公報における例5の記載は、それぞれ、
「Beispiel 5: Methylacrylat/Methacrylsaeure 80:20 Kern/Schale-Aufbau, wobei nur der Kern unter Zusatz eines Reglers hergestellt worden war」(欧州特許出願公開第704207号明細書第4欄第28?31行)
及び
「Example 5: 80:20 methyl acrylate:methacrylic acid core/shell structure, wherein only the core was produced with the addition of a regulator」(米国特許第5705189号明細書第4欄下から7?10行)」
とされていることから、「8:20」は、「80:20」の誤記と認められる。

(2)引用文献2の記載事項
(2a)「(1)使用に際し垂直に配置される周囲壁を備えた円筒体と、顆粒状樹脂を重力により前記円筒体内を下降させるために顆粒状樹脂をその上方部分へ受入れる装置と、その円筒体の下方部分から顆粒状樹脂を排出させる装置とをもち、複数の縦方向にのびるスペーサー装置が前記円筒体壁から内部へ、しかもそれと一体的に形成されたフイン状突起を形成し、その円筒体壁には複数個の離れて位置する孔が形成されており、前記フイン状突起は、円筒体壁と一体的に形成され、前記円筒体の長さ方向にのびる装置がガス流をその中へ及びそれに沿つて流動させるためのチヤンネルを形成し、前記フイン状突起が、前記チヤンネル装置を前記円筒体の中心に位置ぎめし、顆粒状樹脂を乾燥させるために、前記円筒体壁の孔を通るガス流を、前記円筒体内の樹脂の顆粒上に、又、前記チヤンネル装置内へチヤンネル装置に沿つて、流動させる装置が設けられ、前記チヤンネル装置はガスを顆粒状樹脂から離し前記円筒体の外へと排出させるように取付けられている事を特徴とするプラスチツク樹脂の顆粒から湿気を除去する装置。
・・・
(8)前記円筒体の排出開口をこえて伸長するように前記チヤンネル装置の伸長部を形成する装置と、それは、前記装置の使用時、プラスチツク成型機、或いはプラスチツク押出し機の入口へ、すなわち、適切な状態にした顆粒状樹脂を受入れる入口へ伸長し、その伸長部は第2チヤンネルを形成し、その中へは、可塑化用ねじにおいてそのような顆粒状樹脂を可塑化することによつて生じた水蒸気が流入する事と、前記伸長装置は、その下方部分のまわりに孔が形成されており、前記チヤンネルを上昇するガス流は、そのような水蒸気を孔を通つて前記伸長装置へ引きこみ、それから、前記円筒体から排出させるために前記チヤンネル装置内へ上昇する事を特徴とする、前述の特許請求の範囲のいづれか1つに記載した装置。」(請求項1、8)

(2b)「本発明はプラスチツク成型機械、又はプラスチツク押出し機械で使用するための顆粒状樹脂を適切な状態にする装置と方法に関する。」(第2頁左下欄第20行?右下欄第2行)

(2c)「プラスチツクの注入成型や押出しの技術分野では、プラスチツク樹脂をプラスチツク形成機械に使用する前に、その樹脂を除湿する必要がしばしばある。これは、樹脂に存在する湿気が出来上り製品にきずとなつて残るような場合は、特に重要である。プラスチツク形成機械に使用される多くの樹脂は使用前に、乾燥時間を長時間必要とする。そのような吸湿性樹脂の例としては、ナイロン、アクリル、ABS(アクリロニトリルーブチジエン-スチレン)、ポリカーボネイト、熱可塑性ポリエステルがある。」(第2頁右下欄第3?13行)

(2d)「本発明の好ましい実施例が図面に示されている。
本発明に従つた装置は、顆粒状プラスチツク樹脂、特に、吸湿性樹脂から湿気を除去するために、種々の状態で使用される。そのような装置は、通常加熱円筒体と共に、標準型の可塑化用ねじ送り装置を有するプラスチツク注入成型機及びプラスチツク押出し機に使用される。吸湿性樹脂の場合、顆粒の中に湿気が保持されているので、その表面を通つて空気を通過させるだけでは、湿気を容易に除去することはできない。本発明によれば、プラスチツクを可塑化する間、樹脂内の湿気を加熱することによつて釈放される水蒸気は、ねじ部分から除去される。
本発明を実施した装置は、注入成型機、又は押出し機のようなプラスチツク形成装置の可塑化ねじを備えたものに使用される。プラスチツク形成機械のねじ装置10は、カートリツジヒーター等(図示せず)により加熱される管体12と、その中に設けたオーガー、又はねじ装置14とからなる。該ねじ装置は、螺旋ねじうね18を備えたテーパー芯16を有する。調整した顆粒状樹脂20は受容入口22からねじ部分24へ下降する。ねじ部分24は、温まつた樹脂20が管体12に沿つて移動する時、可塑化状態となり、次の押出しや注入成形目的のために軟化するような温度に、加熱されている。
樹脂を適切な状態にする調整装置26は、その上方部にホツパー供給部30をもつ円筒体又は容器体28を有する。下方部34には、排出口36がある。樹脂は、ホツパー供給部30に入れられ、その樹脂は重力流により、円筒体28、排出口36を通つて入口22へと下降する。
円筒体の周壁38は複数の孔40を有する。本発明の好適実施例においては、これらの孔は、周囲方向に伸長するスロツトである。それ以外の形の孔も壁に備えうることは明らかである。矢印42で示すように調整ガスが円筒体壁の孔40から内部へ流入し、顆粒状樹脂20の上やそのまわりを流れるようにする。円筒体28の内部には、チヤンネル46を形成する装置44がある。チヤンネル46は、円筒体28の中心をその長手方向にのびている。この好適実施例においては、装置44は、孔あき管体48から成り、その詳細は第2図に示されている。したがつて、ガスは、顆粒状樹脂の上を流れ、孔あき管体48を通り、チヤンネル46を上方へ矢印50の方向へ流れ、かくして円筒体28から外へ矢印52の方向に流出する。」(第3頁右上欄第13行?右下欄第19行)

(2e)「気流42により顆粒状樹脂から除去されるべき表面の湿気に加えて、樹脂が溶解するねじ区域24には、水蒸気も発生する。吸湿性樹脂の場合、その内部に含まれているいかなる湿気も加熱されて、プラスチツクが溶ける時、水蒸気を形成する。管装置66によりチヤンネル46には延長部が設けられている。管装置66は円筒体の排出部分36から入口22へとのび、ねじ装置14の溶解区域24近くまでのびている。この区域に発生した水蒸気は、管装置66を矢印68の方向へ上昇する。矢印50で示すように、チヤンネル46内の上昇気流はそのような水蒸気を矢印68の方向へ引つぱる。」(第4頁右上欄第17行?左下欄第9行)

(2f)「第3図に示すように、管装置の伸長部66は第1の管112と第2管の114とで成る。
・・・
第6図を参照すれば、管114の位置づけがより詳細に示されている。管端部124はねじ14の螺旋うね18の最高の高さ126よりわずかに上方に位置する。樹脂20は、プラスチツク形成装置の技術に熟達した人々がよく理解しているような方法で、ねじ14の回転により、区域24から離反移動するように、矢印128の方向へ入口22から下降する。樹脂が可塑化されることによつて区域24に生じる水蒸気は、管114内を矢印130の方向へ上昇する。チヤンネル46内に上昇ガス流を生じさせる装置62又はその同等物によつて、蒸気は円筒体から外方へ排出するように、管114内から上方へ吸引される。
本発明の好ましい面によれば、管114の下方部分には孔132があいている。区域24で生じた水蒸気は主に、その管の下端部124へ向つて拡散する。しかしながら、いくらかの蒸気は環状区域134を通つて上方へ拡散する。かくして、孔132により、そのような蒸気は管内へ矢印136の方向へ向つて引き込まれる。この装置により、顆粒樹脂の表面が除湿されるのとは別に、可塑化が生じるところのねじ供給体部分の所で、下方区域に生じる湿気、すなわち水蒸気は注入前に溶解プラスチツクから除去されるので、成型製品の不完全さを最少限にするか、又はなくすことができる。」(第5頁左下欄第13行?第6頁左上欄第20行)

(2g)「

」(第1図)

(2h)「

」(第2図)

(2i)「

」(第3図)

(2j)「

」(第6図)

3.引用文献1に記載された発明
摘示(1a)?(1c)の記載からみて、引用文献1には、アクリル酸及び/又はメタクリル酸16?40重量%、メチルアクリレート30?80重量%、アクリル酸及び/又はメタクリル酸の他のアルキルエステル0?40重量%から成る、ラジカル重合により製造されたコポリマーを用いて、差込カプセル、半差込カプセルなどの腸液可溶性薬剤形状物を射出成形により製造することが記載されている。
摘示(1c)には、例2?7として、メチルアクリレート/エチルアクリレート/ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸/離型助剤の各配合量(重量%)が、
例2、3、5:80/ 0/ 0/ 0/20/2
例4 :40/25/ 0/ 0/35/1
例6 :30/15/15/ 0/40/2
例7 :40/ 0/ 0/40/20/3
であるコポリマー混合物を用い、射出成形用金型のキャビティに射出して冷却後に金型から取り出すことにより、半カプセルを成形した旨が記載されている。
これらの記載から、引用文献1には、
「メチルアクリレート/エチルアクリレート/ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/メタクリル酸/離型助剤の各配合量(重量%)が、80/0/0/0/20/2、40/25/0/0/35/1、30/15/15/0/40/2、または、40/0/0/40/20/3である、ラジカル重合により製造されたコポリマーと離型助剤の混合物を溶融し、射出成形金型のキャビティに射出して冷却後に金型から取り出すことにより、射出成形によって成形体を製造する方法」に係る発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されているといえる。

4.本願発明1と引用文献1発明との対比
引用文献1発明の「メチルアクリレート」、「エチルアクリレート」、「ブチルアクリレート」及び「メチルメタクリレート」は、本願発明1の「アクリル酸又はメタクリル酸のC_(1)?C_(4)-アルキルエステル」に相当し、その配合量の合計(80重量%、65重量%、または、60重量%)は、本願発明1に規定される「40?99質量%」と重複一致している。また、引用文献1発明の「メタクリル酸」は、本願発明1の「アルキル基中に陰イオン基を有するアクリレート(メタクリレート)モノマー」に相当し、その配合量(20重量%、35重量%、または、40重量%)は、本願発明1に規定される「1?60重量%」と重複一致している。ゆえに、引用文献1発明における「コポリマー」は、本願発明1の「a)」成分のコポリマーに相当する。
また、引用文献1発明における離型助剤は本願発明1の離型剤に相当することは明らかであり、そしてその含有量(1、2、または、3重量%)は、本願発明1に規定される、離型剤の含有量0.1?3質量%と重複一致し、引用文献1発明における乾燥調節剤、可塑剤、添加剤又は助剤、製薬作用物質、他のポリマー又はコポリマーの各含有量は0であるから、本願発明1に規定されるc)?g)成分の含有量と0質量%において一致している。
したがって、両者は、
「射出成形によって成形体を製造するに当たり、次ぎの方法段階:
A)a)ラジカル重合されたアクリル酸又はメタクリル酸のC_(1)?C_(4)-アルキルエステル40?99質量%及びアルキル基中に陰イオン基を有するアクリレート(メタクリレート)モノマー1?60質量%から成るアクリレート(メタクリレート)コポリマーであり、前記コポリマーが
b)離型剤0.1?3質量%を含有する
アクリレート(メタクリレート)コポリマーから成る混合物を溶融し、場合によりこの混合物中に
c)乾燥調節剤0?50質量%
d)可塑剤0?30質量%
e)添加剤又は助剤0?100質量%
f)製薬作用物質0?100質量%
g)他のポリマー又はコポリマー0?20質量%
が含有されていてもよく、この際成分b)?g)の成分の量の数値はアクリレート(メタクリレート)コポリマーa)を基準とし、
C)溶融された混合物を、射出成形金型の成形キャビテイ中に注入し、溶融混合物を冷却しかつ得られた成形体を型から取出す
方法段階を有する、射出成形によって成形体を製造する方法。」
である点で一致し、次の点で相違している。

相違点1:本願発明1は、混合物が溶融前には120℃で少なくとも1.9バールの蒸気圧を有する低沸点成分を0.5質量%以上含有することが規定されているのに対し、引用文献1発明にはそのような規定がなされていない点。

相違点2:本願発明1は、「混合物を熱可塑性状態で少なくとも120℃の温度で脱ガスし、これによって120℃で少なくとも1.9バールの蒸気圧を有する低沸点成分の含量が0.5質量%以下に低下され」る工程(以下、「B)工程」という。)を有し、B)工程により脱ガスされた混合物を射出成形すると規定しているのに対し、引用文献1発明は、B)工程を有していない点。

相違点3:本願発明1は、成形キャビテイがアクリレート(メタクリレート)コポリマーのガラス転移温度よりも少なくとも10℃下にある温度を有することを規定するのに対し、引用文献1発明にはそのような規定がなされていない点。

5.本願発明1と引用文献1発明との相違点に対する判断
(1)相違点1について
本願明細書【0045】の
「低沸点成分
自体公知のアクリレート(メタクリレート)コポリマーは市販の形では実際に常に120℃で少なくとも1.9バールの蒸気圧を有する、0.5質量%を超える含量の低沸点成分を有する。同成分の通常の含量は0.7?2.0質量%の範囲にある。低沸点成分は概して空気中の湿気から吸収されるか又はポリマーの製造工程から一緒に含有されている水である。」との記載、及び、アクリル樹脂が吸湿性樹脂であることは技術常識であること(例えば、引用文献2摘示(2c)参照)からみて、アクリル樹脂である引用文献1発明におけるコポリマーは、溶融前に、120℃で少なくとも1.9バールの蒸気圧を有する低沸点成分を0.5質量%以上含有しているものと認められる。
よって、相違点1は実質的な相違点ではない。

(2)相違点2について
引用文献1には、成形前に除湿、脱ガスを行う旨の記載はないが、傷をなくすなどして成形品外観の改善を図ることは、成形品の製造における当然の課題である。
そして、引用文献2の摘示(2c)には、プラスチツクの注入成型や押出しの技術分野では、成形前に樹脂を除湿する必要がしばしばあり、樹脂に存在する湿気が出来上り製品にきずとなつて残るような場合は、特に重要であることと、アクリルが吸湿性樹脂であることとが記載され、また、摘示(2a)、(2b)、(2d)?(2j)には、成形前の樹脂の除湿に関して、除湿に用いる装置が記載されるとともに、
・プラスチツクを可塑化する間、樹脂内の湿気を加熱することによつて釈放される水蒸気は、ねじ部分から除去されること(摘示(2d))、
・温まつた樹脂20が管体12に沿つて移動する時、可塑化状態となり、次の押出しや注入成形目的のために軟化するような温度に、加熱されていること(摘示(2d))、
・気流42により顆粒状樹脂から除去されるべき表面の湿気に加えて、樹脂が溶解するねじ区域24には、水蒸気も発生し、吸湿性樹脂の場合、その内部に含まれているいかなる湿気も加熱されて、プラスチツクが溶ける時、水蒸気を形成すること(摘示(2e))、
・この装置により、顆粒樹脂の表面が除湿されるのとは別に、可塑化が生じるところのねじ供給体部分の所で、下方区域に生じる湿気、すなわち水蒸気は注入前に溶解プラスチツクから除去されるので、成型製品の不完全さを最少限にするか、又はなくすことができること(摘示(2f))、
が記載されている。
また、引用文献1に記載されるようなアクリレート(メタクリレート)コポリマーを溶融可塑化するにあたって120℃以上の温度とすることは、技術常識である(例えば、特開平1-235623号公報第5頁実施例1、2、特開平11-227120号公報【0053】?【0061】、【0027】?【0031】、【0050】、特開平11-49921号公報【0031】、【0036】、【0042】、特開平11-227026号公報【0040】?【0042】参照)。
さらに、本願明細書【0045】の記載からみて、「水」が本願発明1における「120℃で少なくとも1.9バールの蒸気圧を有する低沸点成分」であることは明らかである。
よって、射出成形を含む成形の分野全般において当然の課題である良好な外観の維持・向上を図り、成形品の傷を防止すべく、引用文献2に記載の、アクリルなどの吸湿性樹脂に対する樹脂成形前の除湿・脱ガス処理手法を参照し、引用文献1発明における成形前のコポリマー混合物に対して可塑化溶融状態の少なくとも120℃の温度で水分除去・脱ガス処理を行い、水分含有量の低いコポリマー混合物とした上で、射出成形を行うことは、本願発明1の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば適宜なし得ることであり、その効果についても、上記引用文献2の記載から予測し得る範囲内である。その際に、水分含有量をどこまで低いものとするかは、求める成形品の外観の程度、生産性、コストその他の所望の条件を満たすように当業者が適宜決定すべき設計的事項にすぎない。

(3)相違点3について
射出成形の分野においては、射出した樹脂を冷却固化して成形体を金型から取り出し可能とするため、及び、射出サイクルを短くして生産性を向上するために、キャビテイ温度を射出樹脂のガラス転移温度よりも少なくとも10℃下にある温度とすることは、技術常識である。
したがって、相違点3は実質的な相違点ではない。

6.まとめ
よって、本願発明1は、出願当時の技術水準からみて、引用文献1?2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成21年11月24日提出の審判請求書において、概略、次の2つの主張をしている。
主張1:原審引例1には、本発明の方法段階B)に相当する構成が示されていない。原審引例1には低沸点成分の存在を考慮する記載がなく、仮に周知慣用技術から脱ガスを行うことが知られていても、低沸点成分の存在とその成分がもたらす欠点を認識していなければ、その構成を採用する動機付けが生まれない。
主張2:原審引例1に記載の発明では、離型剤の含有量を特定していない。実施例において、離型助剤を多く含む方が離型が容易になり、カプセル表面がより平滑となったことを示されていることから、原審引例1に記載の発明では、離型性やカプセル表面の平滑性を考慮すれば、離型剤は多いほうが良いものと見なされるべきである。一方、本発明は、離型剤含量を「0.1?3質量%」の低いものとして特定し、離型剤が多いと原審引例1の結果に反した結果となる比較例2をも示している。本発明と原審引例1に記載の発明とは、技術的思想の点で異なる。単に原審引例1に記載の発明に本発明の方法段階B)を採用しても、本発明による優れた効果が奏されるわけではない。

審判請求人の主張について、以下に検討する。
主張1について
上記第4.5.で検討したとおり、傷をなくすなどして成形品外観の改善を図ることは、成形品の製造における当然の課題であり、引用文献2には、アクリル樹脂が吸湿性樹脂であること(摘示(2c))、樹脂に存在する湿気が出来上り製品にきずとなって残る場合には、成形前の樹脂の除湿が特に重要であること(摘示(2c))、可塑化・溶融状態での除湿により、成型製品の不完全さを最少限にするか、又はなくすことができること(摘示(2f))が記載されていることから、引用文献2を参照することにより、当業者は、審判請求人の主張する「低沸点成分の存在とその成分がもたらす欠点」を認識し、成形前の樹脂の可塑化状態での除湿という引用文献2記載の除湿・脱ガス処理手法を採用することができる。
よって、審判請求人の主張1は採用できない。

主張2について
上記第4.3.及び4.で検討したとおり、引用文献1発明におけるコポリマーは、離型助剤すなわち離型剤を、1、2、または、3重量%含有しており、本願発明1に規定される0.1?3質量%と重複一致しているから、離型剤の含有量の点は相違点とはいえない。
よって、審判請求人の主張2は採用できない。

第6.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由は妥当なものである。したがって、請求項2?9に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-07 
結審通知日 2012-08-08 
審決日 2012-08-21 
出願番号 特願2001-545052(P2001-545052)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 奥野 剛規細井 龍史  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 富永 久子
大島 祥吾
発明の名称 中性及び酸性基を有するアクリレート(メタクリレート)コポリマーの製造方法  
代理人 高橋 佳大  
代理人 星 公弘  
代理人 二宮 浩康  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  
代理人 矢野 敏雄  

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