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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1268703
審判番号 不服2010-15927  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-15 
確定日 2013-01-07 
事件の表示 特願2003-104144「光老化防御剤及び光老化改善剤」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月25日出願公開、特開2006-131503〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年4月8日の出願であって、平成21年9月18日付けの拒絶理由通知に応答して平成21年11月30日付けで手続補正がなされ、その後、平成21年12月18日付けの最後の拒絶理由通知に応答して平成22年2月22日付けで手続補正がなされたが、この手続補正は平成22年4月13日付けで却下され、同日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成22年7月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成22年7月15日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年7月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の概略
平成22年7月15日付けの手続補正により、本件補正前、平成21年11月30日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の
「生マイタケ、乾燥マイタケ及びマイタケ乾燥粉末から選ばれる少なくとも1種を水、温水又は熱水で抽出して得られた抽出液に、沈殿が生じないようにアルコールを最終容量濃度が30?60%となる範囲で添加し放置後、液面もしくは液中に浮遊又は容器の壁面に付着する物質を除去した後に得られたマイタケ抽出物を、有効成分として含有することを特徴とする、紫外線による皮膚のしわ形成を防御するのみならず、形成したしわを改善することができる光老化防御剤又は光老化改善剤。」は、
「生マイタケ、乾燥マイタケ及びマイタケ乾燥粉末から選ばれる少なくとも1種を、熱水で抽出して得られた抽出液に、沈殿が生じないようにアルコールを最終容量濃度が30?60%となる範囲で添加し放置後、液面もしくは液中に浮遊又は容器の壁面に付着する物質を除去した後に得られたマイタケ抽出物を、有効成分として含有することを特徴とする、慢性的あるいは長期的な紫外線暴露による皮膚のしわ形成を防御するのみならず、形成したしわを改善することができるしわ形成防御・改善剤。」と補正された。(以下、「本件補正1」と言う。)
また、請求項4及び7が削除された。(以下、「本件補正2」と言う。)

(2)本件補正の適否
(A)本件補正の目的について
(a)本件補正2について
本件補正2は、請求項を削除する補正であることが明らかであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。

(b)本件補正1について
本件補正1において、「水、温水又は熱水で抽出して」を「熱水で抽出して」に限定する補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する補正であることが明らかである。

本件補正1はさらに、「紫外線による皮膚のしわ形成を防御するのみならず、形成したしわを改善することができる光老化防御剤又は光老化改善剤」を「慢性的あるいは長期的な紫外線暴露による皮膚のしわ形成を防御するのみならず、形成したしわを改善することができるしわ形成防御・改善剤」とする補正を含む。
ここで、本件出願日前、当該技術分野には、
「通常の自然老化(intrinsic aging)と異なり,紫外線曝露部位に多く見られる加齢性の皮膚変化は光老化(photoaging)と呼ばれている。光老化は長期間の紫外線曝露により誘導されると考えられており,臨床的には戸外労働者の頸部に頻繁に見られる菱形状の深いしわ(菱形皮膚:farmer's skin)や顔面に散在する不定形な色素沈着(老人性色素斑:lentigosenilis)や老人性ゆう贅(verruca senilis)などの形で観察される。」(武田克之 他 監修、「化粧品の有用性-評価技術の進歩と将来展望-」、日本、2001.3.31発行(以下、「参考文献1」という。)の「第5節 紫外線ケア化粧品」の第130頁右欄下から3行-第131頁左欄第7行)、
「紫外線による老化を一般に光老化と呼ぶが,光老化の原因となる波長は主にUVA(320?400nm)とUVB(290?320nm)である。なかでも、UVBはしわの形成に,UVAはたるみの発生に主に関与しているという動物での研究がある。」(参考文献1の「第7節 しわ対応化粧品」の第165頁左欄第28-33行)という技術常識が存在した。
上記技術常識からみて、「光老化」は、長期間の紫外線暴露により誘導される皮膚変化であり、その一態様として「しわ」を含むものであることが、本件出願日前に当業者において周知であったといえる。
そうすると、前記補正は、「防御剤」又は「改善剤」を「防御・改善剤」に限定するとともに、防御・改善する対象を「光老化」から「しわ」に限定するものであるといえるから、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する補正である。
また、補正前の請求項1に記載された「光老化防御剤又は光老化改善剤」の発明と補正後の請求項1に記載される「しわ形成防御・改善剤」の発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。

よって、本件補正1は、平成18年改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(B)独立特許要件について
そこで、本件補正1後の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(a)引用例記載の発明
本件出願日前である平成13年6月19日に頒布され、原査定の拒絶の理由(平成21年12月18日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由)に引用された「特開2001-163754号公報」(以下、引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審による。)

(i)
「【請求項1】 マイタケ乾燥粉末又は/及びマイタケ抽出物を含有することを特徴とする老化防止剤。
・・・
【請求項4】 マイタケ抽出物が、生マイタケ、乾燥マイタケ又は/及びマイタケ乾燥粉末を水又は熱水で抽出して得られる抽出液にアルコールを加え、放置後液面若しくは液中に浮遊、又は容器の壁面に付着する物質を除去したものであることを特徴とする請求項1記載の老化防止剤。」(【特許請求の範囲】請求項1-4)
(ii)
「【従来の技術】従来より、太陽紫外線によって加速される肌荒れやシワ形成あるいは頭皮・毛髪の損傷などの光老化に対しては、それを防止する目的で様々な老化防止剤が利用されてきた。老化防止剤の有する作用には、皮膚細胞の活性を高める細胞賦活作用や紫外線によって生じる活性酸素を捕捉する抗酸化作用等があり、これらの作用によって皮膚や頭皮・頭髪は健常な状態が維持できたり、老化状態が改善されたりする。」(段落【0002】)
(iii)
「【発明が解決しようとする課題】優れた細胞賦活・抗酸化効果を有する老化防止剤およびこれを配合した化粧料を提供することを課題とする。」(段落【0005】-【0006】)
(iv)
「(3)マイタケ抽出物B
マイタケ子実体乾燥粉末1kgをイオン交換水10リットルで加圧下、120℃で30分間処理した後、濾過して黒褐色の抽出液 6.2リットルを得た。該液を減圧下で2リットルまで濃縮して、室温で95%エタノール2リットルを加え、10℃以下で数時間放置すると、液面、液中に浮遊、又は壁面に付着する茶褐色の物質が生成した。これらの物質を金網を用いて除去し、褐色の溶液を得た。該溶液を減圧下でアルコールを除去し、更に減圧下Brix値約30%になるまで濃縮し、黒褐色の濃厚な液を得た。該溶液をスプレードライ装置を用いて噴霧乾燥し、マイタケ特有の甘い香りの微細な褐色粉末185 gを得た。」(段落【0029】)
(v)
「〔実施例2〕<マイタケ抽出物の効果>
細胞賦活効果先ず、本発明に係る老化防止効果を測る指標として細胞賦活効果について検討した。
・・・
<試験結果>
(1)正常ヒト皮膚線維芽細胞(NB1RGB)における細胞賦活効果
実施例2-(1):実施例1で得たマイタケ抽出物B
比較例1:リン酸L-アスコルビン酸マグネシウム(陽性コントロール)
【0034】
【表1】
NBIRGBにおける細胞増殖率(%)


【0035】(2)正常ヒト新生児包皮表皮角化細胞(NHEK(F))における細胞賦活効果
実施例2-(2):実施例1で得たマイタケ抽出物B
比較例1:リン酸L-アスコルビン酸マグネシウム(陽性コントロール)
【0036】
【表2】
NHEK(F)における細胞増殖率(%)

【0037】上記表1、2から明らかなように、実施例2-(1)、2-(2)においてマイタケ抽出物Bは、比較例に比べて細胞増殖率がNB1RGBではかなり高く、NHEK(F)においても高くなっていることがわかり、優れた細胞賦活効果を有していたことを示している。
【0038】〔実施例3〕<マイタケ抽出物の効果>
抗酸化(活性酸素消去)効果・・・
・・・
<試験結果>
【0042】
【表3】
各試料の抑制率(%)とIC50値

【0043】上記表3から明らかなように、実施例に示した老化防止剤は3-(1)のスーパーオキシドラジカルの消去作用ではIC50が2.0で、3-(2)の一重項酸素に対する消去作用は、IC50が1.3といずれも2.5以下であり、優れた抗酸化効果を有していた。以上実施例2、3から明らかなように、本発明品は細胞賦活効果があり、また抗酸化効果も有しているので、前述したように肌荒れの改善やシワ形成の抑制、頭皮・頭髪の損傷防止等を促すことができる。」(段落【0030】-【0043】)

上記(i)、(iii)には、マイタケ抽出物を含有する、優れた細胞賦活・抗酸化効果を有する老化防止剤が記載され、上記(iv)には「マイタケ抽出物B」の抽出方法が記載され、上記(v)には、「マイタケ抽出物B」が細胞賦活効果、及び、抗酸化効果を有することが、実験結果に基づいて具体的に示されている。
そうすると、上記(i)、(iii)?(v)から、引用例1には、
「マイタケ子実体乾燥粉末1kgをイオン交換水10リットルで加圧下、120℃で30分間処理した後、濾過して黒褐色の抽出液 6.2リットルを得、該液を減圧下で2リットルまで濃縮し、これに室温で95%エタノール2リットルを加え、10℃以下で数時間放置し、液面、液中に浮遊、又は壁面に付着する茶褐色の物質を金網を用いて除去し、得られた褐色の溶液を濃縮及び噴霧乾燥して得たマイタケ抽出物Bを含有する、優れた細胞賦活・抗酸化効果を有する老化防止剤。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(b)対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
引用発明の「マイタケ子実体乾燥粉末」、「イオン交換水10リットルで加圧下、120℃で30分間処理し」及び「エタノール」は、それぞれ本件補正発明の「マイタケ乾燥粉末」、「熱水で抽出し」及び「アルコール」に相当する。
引用発明は、抽出液6.2リットルを2リットルまで濃縮し、これに室温で95%エタノール2リットルを加え、数時間放置するところ、この際のエタノールの最終容量濃度は、47.5%と計算され、これは本件補正発明のアルコールの最終容量濃度「30?60%」の範囲に含まれる。

そうすると、両者は、「マイタケ乾燥粉末を、熱水で抽出して得られた抽出液に、アルコールを最終容量濃度47.5%で添加し放置後、液面もしくは液中に浮遊又は容器の壁面に付着する物質を除去した後に得られたマイタケ抽出物を、有効成分として含有することを特徴とする、剤。」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本件補正発明は「沈殿が生じないように」アルコールを添加するのに対して、引用発明にはこの点の記載がない点。
<相違点2>
本件補正発明は「慢性的あるいは長期的な紫外線暴露による皮膚のしわ形成を防御するのみならず、形成したしわを改善することができるしわ形成防御・改善剤」であるのに対して、引用発明は「優れた細胞賦活・抗酸化効果を有する老化防止剤」である点。

(c)当審の判断
上記相違点1について検討する。
本件補正発明の「沈殿が生じないように」の点について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、段落【0010】には「更に必要に応じて、沈殿が生じない程度にアルコール加え、放置後液中に浮遊又は容器の壁面に付着する物質を除去する。・・・沈殿が生じない程度のアルコールの添加量は、抽出液の濃度や温度により異なり一概には決めがたいが、アルコールの最終容量濃度が、30?60%になるのを目安に添加することが薦められる。」と記載され、また、実施例の【光老化防御剤の有効成分の調整】の製造例1?3のうち、抽出液にアルコールを添加する工程を含む製造例3には、「マイタケ(Grifola frondosa)子実体乾燥粉末2kgとイオン交換水20リットルを加圧釜に入れ、加圧下、120℃で30分間処理した後、濾過して黒褐色の抽出液12.5リットルを得た。該液を減圧下で4リットルまで濃縮して、室温で95%エタノール4リットルを加え、10℃以下で数時間放置すると・・・」(段落【0032】)と記載されている。
ここで、上記の製造例3と引用発明は、抽出液を得るために用いるマイタケ子実体乾燥粉末とイオン交換水の重量比、抽出条件、抽出液の濃縮の程度、及び、濃縮した抽出液に室温で95%エタノールを等量加えてアルコールの最終容量濃度を47.5%とする点において一致することから、引用発明においても本件補正発明と同様に沈殿が生じていないものといえる。
よって、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。

上記相違点2について検討する。
上記(ii)には、従来技術として、太陽紫外線によって加速されるしわ形成などの光老化に対して、それを防止する目的で様々な老化防止剤が利用されてきたこと、老化防止剤の有する細胞賦活作用や抗酸化作用によって、皮膚は健常な状態が維持できたり、老化状態が改善されたりすることが記載されていることから、引用例1には、光老化の防御や光老化皮膚の改善のために、優れた細胞賦活・抗酸化効果を有する引用発明の老化防止剤を用いることが示唆されているといえるところ、(A)(b)に前述のとおり、本件出願日前の当該技術分野における技術常識からみて、「光老化」は、長期間の紫外線暴露により誘導される皮膚変化であり、その一態様として「しわ」を含むものであることが、当業者において周知であったといえることから、引用例1には、「長期間な紫外線暴露」と同義であることが当業者に明らかな「慢性的あるいは長期的な紫外線暴露」による皮膚のしわ形成の防御やそのようなしわの改善のために、引用発明の老化防止剤を用いることが示唆されているといえる。

そして、本件出願日前、当該技術分野には、しわ対策に関して、
「しわは,自然老化や光老化,角層,表皮,真皮の変化が複合的に絡み合った結果であるため,考えられる要因に対して,複合的に防御策をとることが望ましい。・・・日常のスキンケアでしわやたるみの発生を防御する手段として以下のものがあげられる。・・・紫外線や活性酸素・フリーラジカルによる皮膚ダメージを防ぐための抗酸化剤,表皮の機能低下に対して細胞賦活成分・・・,線維芽細胞の機能低下を防止する細胞賦活剤,・・・などがあけられる。」(参考文献1の「第7節 しわ対応化粧品」の第169頁左欄第9-26行)という技術常識が存在した。
また、しわの発生機序に関して、
「自然老化および光老化した皮膚では,線維芽細胞の活性低下に伴い,真皮細胞外マトリックスの量的減少と質的変化が起こる。・・・その結果皮膚は大きく柔軟性を失って,しわが発生すると考えられる。」(同第165頁左欄第9-18行)、
「真皮マトリックスの90%以上を占めるコラーゲンのしわに及ぼす影響は大きい。光老化皮膚の免疫組織染色によるコラーゲン量は,生理的老化皮膚に比べて著しく減少しているが,このことはしわ,たるみのかなり大きな要因と考えられる。」(同第166頁左欄第15-20行)
「紫外線照射された皮膚における真皮マトリックス変性の原因は,産生,分解系の両面でみた場合,コラーゲン産生能は紫外線および活性酸素暴露により,有意に低下し,また,分解系であるMMPの活性亢進が結果的にコラーゲンを減少させ,その結果,マトリックス成分の減少を来し,しわやたるみをもたらすものと考えられる。」(同第167頁右欄下から8行-最終行)という技術常識が存在した。
上記技術常識からみて、本件出願日前に当業者は、細胞賦活剤及び抗酸化剤が、線維芽細胞の活性改善及び活性酸素消去により、真皮マトリックスの減少状態や変性を改善して、光老化皮膚のしわを改善することを、実現可能なものと認識したものといえる。

そうすると、引用例1の上記示唆に基づいて、引用発明の老化防止剤を、慢性的あるいは長期的な紫外線暴露による皮膚のしわ形成の防御やそのようなしわを改善することができるしわ形成防御・改善剤とすることは、当業者が容易になし得たことである。
加えて、本願発明の効果が引用例1に記載された発明から、当業者が予測できる程度を越えるものであるとも認められない。

請求人は、平成22年2月22日付け意見書の「(3)-1.」において、
「紫外線が長い歳月をかけて皮膚のしわ形成に関わることはわかっていても、しわ形成の防御となると、まずは紫外線によるしわ形成について評価の出来る試験系を確立せねばならず課題の解決は容易ではありません。本願明細書の段落【0034】に記載されている、ヘアレスマウスの背部にマイタケ抽出物を塗布した群と塗布していない群(対照群)に、紫外線(UVB)を12週(1回/日、3回/週)という長期間照射して、対照群に比較して被験物塗布群の皮膚のしわ形成が防御できたか否かを観る試験は、刊行物1に記載した発明の後、このような試験の分野に詳しい研究者より教示を受け、手技の取得や工夫を重ねた結果、評価試験系として確立できたもので、本願発明完成までは時間がかかり、刊行物1の出願後3年以上を経て本願出願に至っております。該動物(in vivo)試験は、in vitro試験に比べ、動物の飼育条件、紫外線の照射方法など変動要因が多く、しかも結果が得られるまで12週間という長い期間を要すなど、一定の評価可能な試験系を確立するためにはかなりの努力を要し、発明者等の経験に照らして、当業者といえども容易に実施し得るものではないと思量致します。」と主張し、審判請求書の請求の理由の「(3)-5.」においても、同様に主張する。
しかし、本件出願日前、当該技術分野には、しわの評価技術として、
「光老化モデルとして開発されたヘアレスマウス用いた系が汎用されている。具体的には,ヘアレスマウス背中におよそ3ヶ月間,UVBあるいはUVAを長期に照射すると背部にしわが形成されるので,このモデル系を活用し、各種塗布して、しわの軽減が認められるかを観察する方法である。」(参考文献1の「第7節 しわ対応化粧品」の第169頁左欄下から6行-同頁右欄第2行)という技術常識が存在した。
このことから、本件明細書の段落【0034】に記載されている、ヘアレスマウスの背部にUVBを12週(3ヶ月)照射して、対照群と被験物塗布群の皮膚のしわを比較観察する試験系は、本件出願日前に当該技術分野において、しわの評価系として確立され、汎用されていたものといえるから、請求人の前記主張を受けいれることはできない。

(d)小括
以上のとおり、本件補正発明は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
したがって、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成22年7月15日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲に記載された発明は、平成21年11月30日付け手続補正書により補正された請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項1にかかる発明は、次のとおりのものである。(以下、「本願発明」という。)

「生マイタケ、乾燥マイタケ及びマイタケ乾燥粉末から選ばれる少なくとも1種を水、温水又は熱水で抽出して得られた抽出液に、沈殿が生じないようにアルコールを最終容量濃度が30?60%となる範囲で添加し放置後、液面もしくは液中に浮遊又は容器の壁面に付着する物質を除去した後に得られたマイタケ抽出物を、有効成分として含有することを特徴とする、紫外線による皮膚のしわ形成を防御するのみならず、形成したしわを改善することができる光老化防御剤又は光老化改善剤。」

4.引用例記載の発明
引用例1に記載された事項及び引用発明は、上記2.(2)(B)(a)に記載したとおりである。

5.対比
本願発明と引用発明を対比すると、両者は、「マイタケ乾燥粉末を、熱水で抽出して得られた抽出液に、アルコールを最終容量濃度47.5%で添加し放置後、液面もしくは液中に浮遊又は容器の壁面に付着する物質を除去した後に得られたマイタケ抽出物を、有効成分として含有することを特徴とする、剤。」の点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
本願発明は「沈殿が生じないように」アルコールを添加するのに対して、引用発明にはこの点の記載がない点。
<相違点2>
本願発明は「紫外線による皮膚のしわ形成を防御するのみならず、形成したしわを改善することができる光老化防御剤又は光老化改善剤」であるのに対して、引用発明は「優れた細胞賦活・抗酸化効果を有する老化防止剤」である点。

6.判断
上記相違点1は、上記2.(2)(B)(c)に記載したとおり、実質的な相違点ではない。
上記相違点2について検討すると、上記2.(2)(B)(c)に記載したとおりであるから、引用例1の示唆に基づいて、引用発明の老化防止剤を、慢性的あるいは長期的な紫外線暴露による皮膚のしわ形成の防御やそのようなしわを改善することができる光老化防御剤又は光老化改善剤とすることは、当業者が容易になし得たことである。

7.むすび
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、引用例1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-01 
結審通知日 2012-11-08 
審決日 2012-11-22 
出願番号 特願2003-104144(P2003-104144)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 天野 貴子
大久保 元浩
発明の名称 光老化防御剤及び光老化改善剤  
代理人 大塚 文昭  
代理人 西島 孝喜  
代理人 中村 稔  
代理人 箱田 篤  
代理人 大塚 文昭  
代理人 大塚 裕子  
代理人 小川 信夫  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 大塚 裕子  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 中村 稔  
代理人 小川 信夫  
代理人 西島 孝喜  
代理人 箱田 篤  

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