• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02F
管理番号 1268713
審判番号 不服2011-17696  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-16 
確定日 2013-01-08 
事件の表示 特願2008- 94496「エンジンの散熱構造」拒絶査定不服審判事件〔平成21年10月22日出願公開、特開2009-243450〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯

本件出願は、平成20年4月1日を出願日とする出願であって、平成22年6月1日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成22年9月24日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成22年11月8日付けで最後の拒絶理由が通知され、これに対して平成23年3月3日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年4月12日付けで前記平成23年3月3日付け手続補正書による補正を却下する補正の却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成23年8月16日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けの手続補正書によって明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において平成24年3月5日付けで書面による審尋がなされたものである。

第2.平成23年8月16日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年8月16日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正の内容
平成23年8月16日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成22年9月24日付けの手続補正書により補正された)下記(a)に示す請求項1ないし6を、下記(b)に示す請求項1へと補正するものである。

(a)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
エンジンの散熱構造であって、前記エンジンのシリンダヘッド内に燃焼室を有し、且つ、前記シリンダヘッドの周縁は間隔を隔てて設置された複数の散熱片を設置し、その特徴は、前記シリンダヘッドには冷却風チャネルが設置され、前記冷却風チャネルの冷却風出口の近くに配置される固定孔は、該冷却風出口をチェーン室側に偏移せしめて、上記冷却風出口を増大し、また、前記シリンダヘッドの散熱片の厚さは不等で、前記燃焼室に近い散熱片の厚さは、前記燃焼室から遠いその他の散熱片より厚いことを特徴とするエンジンの散熱構造。
【請求項2】
前記散熱片の厚さは徐々に変化することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの散熱構造。
【請求項3】
前記シリンダヘッド底端部から数えて前三片の散熱片の厚さは、その他の散熱片より厚いことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの散熱構造。
【請求項4】
前記シリンダヘッド底端部から数えて第一の散熱片の厚さは、その他の散熱片より厚いことを特徴とする請求項1に記載のエンジンの散熱構造。
【請求項5】
前記エンジンは導風カバーを設置することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの散熱構造。
【請求項6】
前記導風カバー内は導風機構を設置することを特徴とする請求項5に記載のエンジンの散熱構造。」

(b)本件補正後の特許請求の範囲
「 【請求項1】
エンジンの散熱構造であって、前記エンジンのシリンダヘッド(2)内に燃焼室(22)を有し、且つ、前記シリンダヘッド(2)の外周縁には間隔を隔てて複数の散熱片(21)を設置し、前記シリンダヘッド(2)には冷却風チャネル(24)が設置され、前記冷却風チャネル(24)の冷却風出口(241)の近くに配置され、前記シリンダヘッド(2)を前記エンジンのシリンダ本体(3)上に固定する固定孔(25)をチェーン室(28)側に偏移せしめて、上記冷却風出口(241)の面積を増大し、また、前記シリンダヘッド(2)の前記散熱片(21)の厚さは不等で徐々に変化し、該散熱片(21)は燃焼室(22)に近い散熱片(21A)の厚さが、前記燃焼室(22)から遠い散熱片(21B)より厚く、前記エンジンには導風カバー(16)を設置し、更に、該導風カバー(16)内に導風機構(5)を設置することを特徴とするエンジンの散熱構造。」
(なお、下線は補正箇所を示す。)

(2)本件補正の目的
特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項2ないし4を削除するとともに、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項5をさらに引用する請求項6について、複数の散熱片を設置する部位を、「シリンダヘッドの周縁」から「シリンダヘッド(2)の外周縁」に限定し、シリンダヘッドの散熱片について、「前記シリンダヘッドの散熱片の厚さは不等で、前記燃焼室に近い散熱片の厚さは、前記燃焼室から遠いその他の散熱片より厚い」から「前記シリンダヘッド(2)の前記散熱片(21)の厚さは不等で徐々に変化し、該散熱片(21)は燃焼室(22)に近い散熱片(21A)の厚さが、前記燃焼室(22)から遠い散熱片(21B)より厚く」に限定することを含むものである。

よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2.本件補正の適否についての判断
本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

2.-1 特開2001-241355号公報(以下、「刊行物1」という。)
(1)刊行物1の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である刊行物1には、図面とともに、例えば、次の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】 エンジン全体をエアシュラウドで覆うとともに、冷却ファンによってエアシュラウド内に導入される冷却風をシリンダヘッドに形成された冷却風通路を流すことによってシリンダヘッドを強制冷却するようにした強制空冷式4サイクルエンジンのシリンダヘッド冷却構造において、
前記シリンダヘッドに形成されたスタッドボルトボスの前記冷却風通路に臨む部分を切り欠いて平坦面としたことを特徴とする強制空冷式4サイクルエンジンのシリンダヘッド冷却構造。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

(イ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の強制空冷式4サイクルエンジンのシリンダヘッド冷却構造においては、シリンダヘッドに形成された冷却風通路の特に入口と出口面積がスタッドボルトボスやバルブガイド用ボスによって狭められるためにシリンダヘッドへの冷却風流入量が不十分となり、高温となるシリンダヘッドを効果的に冷却することができず、シリンダヘッドの冷却性を高めることができないという問題があった。
【0004】本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、シリンダヘッドへの冷却風流入量を増やしてシリンダヘッドの冷却性を高めることができる強制空冷式4サイクルエンジンのシリンダヘッド冷却構造を提供することにある。」(段落【0003】及び【0004】)

(ウ)「【0022】ここで、エンジン1におけるシリンダヘッド9の本発明に係る冷却構造を図4?図6に基づいて説明する。尚、図4はシリンダヘッドの底面図、図5は同シリンダヘッドの側面図、図6は図5の矢視A方向の図である。
【0023】図4に示すように、シリンダヘッド9の底面の略中央部にドーム状に形成された前記燃焼室Sには前記吸気ポート10と排気ポート11及び前記点火プラグ26を螺着するためのプラグ孔32が開口している。又、シリンダヘッド9の燃焼室Sの横(点火プラグ26が取り付けられる側とは反対側の左側部)には前記カムチェーン25が通過するための開口部9aが形成されている。尚、図5に示すように、シリンダヘッド9の燃焼室Sの上面の前記プラグ孔32の周囲にはプラグ取付座33が形成されている。
【0024】更に、シリンダヘッド9の燃焼室Sの周囲には4つのスタッドボルトボス34が一体に形成されており、各スタッドボルトボス34に形成されたボルト挿通孔35には前記シリンダボディ4に植設されたスタッドボルト36が通され、シリンダヘッド9は各スタッドボルト36に螺合する不図示の袋ナットを締め付けることによってシリンダボディ4に被着される。尚、本実施の形態においては、各スタッドボルトボス34に形成されたボルト挿通孔35とスタッドボルト36との間に円筒状のオイル通路37が形成されている(図4参照)。
【0025】又、シリンダヘッド9には燃焼室Sの上面を含む冷却風通路38が形成されており、この冷却風通路38の入口38Aは点火プラグ26が取り付けられる側(右側部)に向かって開口しており(図5参照)、出口38Bは入口38Aに対して直角方向下方に向かって開口している(図6参照)。そして、冷却風通路38の入口38Aには図5に示すように前記プラグ孔32とプラグ取付座33及び右側部の2つのスタッドボルトボス34が臨んでおり、出口38Bには図4及び図6に示すように左側部の下側の1つのスタッドボルトボス34とバルブガイド用ボス(排気バルブ13を挿通支持する前記バルブガイド15を圧入するためのボス)39が臨んでいる。
【0026】而して、本実施の形態に係るシリンダヘッド9においては、図4に示すように前記スタッドボルトボス(具体的には、冷却風通路38の入口38Aに臨む2つのスタッドボルトボス34と出口38Bに臨む1つのスタッドボルトボス34)とバルブガイド用ボス39の前記冷却風通路38に臨む部分がそれぞれ切り欠かれており、それらの切り欠かれた部分はそれぞれ平坦面34a,39aを形成している。」(段落【0022】ないし【0026】)

(エ)「【0033】一方、エンジン1においては、前述のように冷却ファン28が回転駆動されることによって、エアシュラウド40の右側面に開口する冷却風導入口40aから冷却風がエアシュラウド40内に導入され、この冷却風はエアシュラウド40内を車体前方に向かって流れてエンジン1のシリンダボディ4やシリンダヘッド9を含む各部を冷却する。
【0034】シリンダヘッド9においては、冷却風が図4及び図5に矢印にて示すように入口38Aから冷却風通路38に流入し、該冷却風は冷却風通路38を流れる過程でシリンダヘッド9の各部を冷却した後、出口38Bからシリンダヘッド9外へと排出される。
【0035】而して、本実施の形態では、前述のようにシリンダヘッド9に形成されたスタッドボルトボス34の冷却風通路38に臨む部分を切り欠いて平坦面34aとしたため、冷却風通路38の入口38A及び出口38Bの面積が広がり、該冷却風通路38への冷却風流入量が増えてシリンダヘッド9が冷却風によって効果的に強制冷却されることとなり、この結果、シリンダヘッド9の冷却性が高められてエンジン性能の向上が図られる。
【0036】又、シリンダヘッド9に形成されたバルブガイド用ボス39の冷却風通路38に臨む部分も切り欠いて平坦面39aとしたため、冷却風通路38の断面積が更に拡大して該冷却風通路38に更に多くの冷却風を流してシリンダヘッド9の冷却性を更に高めることができる。」(段落【0033】ないし【0036】)

(オ)「【0038】
【発明の効果】以上の説明で明らかなように、本発明によれば、エンジン全体をエアシュラウドで覆うとともに、冷却ファンによってエアシュラウド内に導入される冷却風をシリンダヘッドに形成された冷却風通路を流すことによってシリンダヘッドを強制的に冷却するようにした強制空冷式4サイクルエンジンのシリンダヘッド冷却構造において、前記シリンダヘッドに形成されたスタッドボルトボスの前記冷却風通路に臨む部分を切り欠いて平坦面としたため、シリンダヘッドへの冷却風流入量を増やしてシリンダヘッドの冷却性を高めることができるという効果が得られる。」(段落【0038】)

(2)上記(1)(ア)ないし(オ)及び図面の記載より、刊行物1には以下のことが記載されていることが分かる。

(カ)上記(1)(エ)並びに図5及び図6の記載より、シリンダヘッド9の外周縁には間隔を隔てて複数の散熱片を設置していることが分かる。

(キ)上記(1)(ウ)及び図4の記載より、スタッドボルトボス34に形成されたボルト挿通孔35は、シリンダヘッド9をエンジン1のシリンダボディ4上に固定するものであることが分かる。

(ク)上記(1)(ウ)及び(エ)並びに図4の記載より、ボルト挿通孔35及びそれが形成されたスタッドボルトボス34は、冷却風通路38の出口38Bの近くに配置されていることが分かる。

(3)刊行物1に記載された発明
したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「刊行物1に記載された発明」という。)。

「エンジン1の冷却構造であって、前記エンジン1のシリンダヘッド9内に燃焼室Sを有し、且つ、前記シリンダヘッド9の外周縁には間隔を隔てて複数の散熱片を設置し、前記シリンダヘッド9には冷却風通路38が設置され、前記冷却風通路38の出口38Bの近くに配置され、前記シリンダヘッド9を前記エンジン1のシリンダボディ4上に固定するボルト挿通孔35が形成されたスタッドボルトボス34の冷却風通路38に臨む部分を切り欠いて平坦面34aとして、上記出口38Bの面積を増大し、前記エンジン1にはエアシュラウド40を設置したエンジン1の冷却構造。」

2.-2 実願昭54-182817号(実開昭56-101440号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)
(1)刊行物2の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である刊行物2には、図面とともに、例えば、次の事項が記載されている。

(ア)「本考案は空冷式内燃機関のシリンダの冷却装置に関するものである。
一般に内燃機関の運転時のシリンダの温度分布状態は、燃焼室に近いシリンダヘツド側端部で最も高く、クランク室側端部にいくにつれて漸次低くなつている。ところで従来の空冷式内燃機関では、シリンダの外周に、そのシリンダの軸方向に略等間隔を存して略等厚の複数個の冷却フインでが並設されているので、これらの冷却フインではシリンダの全長に亘つて温度分布が略均一になるような放熱効果は期待し得ず、これがシリンダに熱歪を生ぜしめる原因になつており、機関性能上好ましくない。
そこで本考案は前記複数枚の冷却フインはシリンダヘツド側端部からクランクケース側端部にいくにつれて漸次その放熱量が少なくなるように構成して、シリンダはその全長に亘つて温度分布が均一になるようにしてシリンダの熱歪を少なくして機関性能の向上、およびシリンダの重量軽減が図れるようにした、内燃機関のシリンダ冷却装置を提供することを目的とするものである。」(明細書第2ページ第2行ないし第3ページ第5行)

(イ)「次に第1図により本考案の第1実施例について説明すると、空冷式内燃機関のシリンダ1は、その上端部が燃焼室を形成した図示しないシリンダヘツドの連接されるシリンダヘツド側端部2であり、またその下端部が図示しないクランクケースに連接されるクランクケース側端部3である。シリンダ1の外周には、その軸万向に間隔を存して複数枚の冷却フイン4,4・・が並設され、・・・(中略)・・・
いま前記シリンダ1を備えた内燃機関が運転されると、燃焼室に近いシリンダヘツド側端部2が最も高温に加熱され、それよりクランクケース側端部3にいくにつれて漸次その加熱温度が低くなり、クランクケース側端部3で最も低温に加熱されるが、・・・(中略)・・・シリンダヘツド側端部2で放熱量が最も多く、それよりクランクケース側端部3にいくにつれて漸次その放熱量が少なく、クランクケース側端部3で最少なり、シリンダ1はその全長に亘つて加熱量と放熱量とを略比例させることができ、したがつてシリンダ1はその全長に亘つてその温度分布を略一定に保つことができ、その不均一な熱歪を最少に止めることができる。」(明細書第3ページ第6行ないし第5ページ第3行)

(ウ)「第2図には本考案の第2実施例が示される。この実施例ではシリンダ1'の外周に並設される複数枚の冷却フイン4',4'・・は、シリンダヘツド側端部2'において最も肉厚に、しかも最長に形成され、クランクケース側端部3'にいくにつれて漸次肉簿に、しかも短く形成され、クランクケース側端部3'において最も肉簿でしかも最短に形成される。前記第1実施例と同じくシリンダ1'の放熱量はシリンダヘツド側端部2'で最も多く、クランクケース側端部3'にいくにつれ漸次少なく、クランクケース側端部3'で最少になり、シリンダ1'はその全長に亘つて加熱量と放熱量とを略比例させ、温度分布を略均一に保つことができる。」(明細書第5ページ第4行ないし16行)

(エ)「以上のように本考案によれば、シリンダの外周に並設される冷却フインは、そのシリンダヘツド側端部からクランクケース側端部にいくにつれて漸次その放熱量が少なくなるように構成したので、内燃機関運転時に、シリンダの冷却効果を何ら妨げずにシリンダの温度分布を略均一に保つことができ、不均一な熱歪を最少にし、その結果ピストンの摩擦損失の軽減、その焼付防止等が効果が得られ、内燃機関の性能の著しい向上を図ることができる。
また複数枚の冷却フインは無用に数、厚さ、長さ等を増すことがないのでシリンダの重量軽減にも役立つものである。」(明細書第5ページ第17行ないし第6ページ第12行)

(2)上記(1)(ア)ないし(エ)並びに図面の記載より、刊行物2には以下のことが記載されていることが分かる。

(オ)上記(1)(イ)及び(ウ)並びに第2図の記載より、シリンダ1'の外周縁には冷却フイン4'が設置され、該冷却フイン4'の厚さは不等で徐々に変化し、シリンダヘツドに形成された燃焼室に近い冷却フイン4'の厚さを、該燃焼室から遠い冷却フイン4'より厚くしていることが分かる。
(3)刊行物2に記載された技術
したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物2には、次の技術が記載されているものと認められる(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)。

「内燃機関の冷却装置において、シリンダ1'の温度分布を略均一に保つために、シリンダ1'の冷却フイン4'の厚さを不等で徐々に変化させ、燃焼室に近い冷却フイン4'の厚さを、前記燃焼室から遠い冷却フイン4'より厚くする技術。」

2.-3 特開昭62-197623号公報(以下、「刊行物3」という。)
(1)刊行物3の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である刊行物3には、図面とともに、例えば、次の事項が記載されている。

(ア)「この発明は、空冷式多気筒機関の冷却装置に関する。」(第1ページ右下欄第1行及び2行)

(イ)「冷却風ガイド(16)の内側面には、ステー(22)を介して、そらせ板(23)が、該冷却風ガイド(16)との間に間隔をおいて取り付けられている。」(第3ページ左上欄第4行ないし6行)

(ウ)「この発明によれば、冷却風ガイド(16)とシリンダブロック(1)側面との冷却風通路(20)が、そらせ板(23)によって分割され、該冷却風ガイド(16)側の冷却風は、そらせ板(23)の背面側を通って第2シリンダ(9)側へ供給され、そのため、この第2シリンダ(9)側には、それよりも上流の第1シリンダ(8)によって暖められていない新鮮な冷気が供給されることとなり、第2シリンダ(9)側の冷却効率が向上する。また、このそらせ板(23)によって、各シリンダ(8)(9)間にも冷却風が供給されることから、これら両シリンダ(8)(9)間の冷却も良好となる効果が得られる。」(第3ページ右上欄第2行ないし14行)

(2)上記(1)(ア)ないし(ウ)及び図面の記載より、刊行物3には以下のことが記載されていることが分かる。

(エ)上記(1)(イ)及び第1ないし3図の記載より、空冷式機関に冷却風ガイド(16)を設置し、該冷却風ガイド(16)内にそらせ板(23)を設置していることが分かる。

(3)刊行物3に記載された技術
したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物3には、次の技術が記載されているものと認められる。

「空冷式機関の冷却装置において、冷却を良好にするために、空冷式機関には冷却風ガイド(16)を設置し、冷却風ガイド(16)内にそらせ板(23)を設置する技術。」(以下、「刊行物3に記載された技術」という。)

2.-4 対比
本件補正発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明における「エンジン1」は、その機能及び構造又は技術的意義からみて、本件補正発明における「エンジン」に相当し、以下同様に、「冷却構造」は「散熱構造」に、「排シリンダヘッド9」は「シリンダヘッド(2)」に、「燃焼室S」は「燃焼室(22)」に、「冷却風通路38」は「冷却風チャネル(24)」に、「出口38B」は「冷却風出口(241)」に、「シリンダボディ4」は「シリンダ本体(3)」に、「ボルト挿通孔35」は「固定孔(25)」に、「エアシュラウド40」は「導風カバー(16)」に、それぞれ相当する。

してみると、本件補正発明と刊行物1に記載された発明とは、
「エンジンの散熱構造であって、前記エンジンのシリンダヘッド内に燃焼室を有し、且つ、前記シリンダヘッドの外周縁には間隔を隔てて複数の散熱片を設置し、前記シリンダヘッドには冷却風チャネルが設置され、冷却風チャネルの冷却風出口の面積を増大し、エンジンには導風カバーを設置したエンジンの散熱構造。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>
冷却風出口の面積を増大させることを、
本件補正発明においては、「冷却風チャネルの冷却風出口の近くに配置され、前記シリンダヘッドを前記エンジンのシリンダ本体上に固定する固定孔をチェーン室側に偏移せしめて、」なしているのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、「冷却風通路38の出口38Bの近くに配置され、前記シリンダヘッド9を前記エンジン1のシリンダボディ4上に固定するボルト挿通孔35が形成されたスタッドボルトボス34の冷却風通路38に臨む部分を切り欠いて平坦面34aとして、」なしている点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
シリンダヘッドの散熱片の厚さに関し、
本件補正発明においては、シリンダヘッドの散熱片の厚さは不等で徐々に変化し、該散熱片は燃焼室に近い散熱片の厚さが、前記燃焼室から遠い散熱片より厚いのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、シリンダヘッド9の散熱片が、そのような厚さであるか否か明らかでない点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>
エンジンに設置した導風カバーに関し、
本件補正発明においては、導風カバー内に導風機構を設置しているのに対し、
刊行物1に記載された発明においては、エアシュラウド40内に導風機構が設置されているか否か明らかでない点(以下、「相違点3」という。)。

2.-5 判断
上記各相違点について検討する。
<相違点1>について
刊行物1に記載された発明における「冷却風通路38の出口38Bの近くに配置され、シリンダヘッド9をエンジン1のシリンダボディ4上に固定するボルト挿通孔35が形成されたスタッドボルトボス34の冷却風通路38に臨む部分を切り欠いて平坦面34aとして、」は、刊行物1の上記(ウ)及び(エ)並びに図4によれば、該「平坦面34a」によって、「冷却風通路38」をカムチェーン25が通過するための「開口部9a」(本件補正発明における「チェーン室」に相当する。)側に広げ、出口38Bの面積を増大させていることが分かる。
してみると、刊行物1に記載された発明において、「冷却風通路38」をカムチェーン25が通過するための「開口部9a」側に広げて、冷却風出口38Bの面積を増大させることを、「冷却風通路38の出口38Bの近くに配置され、シリンダヘッド9をエンジン1のシリンダボディ4上に固定するボルト挿通孔35が形成されたスタッドボルトボス34の冷却風通路38に臨む部分を切り欠いて平坦面34aとして、」なすことに代えて、冷却風通路38の出口38Bの近くに配置され、シリンダヘッド9をエンジン1のシリンダボディ4上に固定する「ボルト挿通孔35」をカムチェーン25が通過するための「開口部9a」側に偏移せしめてなすこととして、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項をなすことは、スタッドボルトボス34の強度、カムチェーン25が通過するための開口部9aのスペースの状況等に応じて、当業者であれば適宜なし得る設計事項である。

<相違点2>について
刊行物2に記載された技術における「内燃機関」は、その機能及び構造又は技術的意義からみて、本件補正発明における「エンジン」に相当し、以下同様に、「冷却装置」は「散熱構造」に、「シリンダ1’」は「シリンダ本体(3)」に、「冷却フイン4’」は「散熱片(21)」に、「燃焼室」は「燃焼室(22)」に、それぞれ相当する。
してみると、刊行物2に記載された技術は、本件補正発明の用語を用いると、
「エンジンの散熱構造において、シリンダ本体の温度分布を略均一に保つために、シリンダ本体の散熱片の厚さを不等で徐々に変化させ、燃焼室に近い散熱片の厚さを、前記燃焼室から遠い散熱片より厚くする技術。」と言い換えることができる。
ところで、刊行物2の上記(ア)及び(イ)並びに第2図によれば、温度分布状態は、燃焼室に近いシリンダヘツド側端部2が最も高く、それより遠くになるにつれて漸次低くなっていることから、刊行物1に記載された発明における「燃焼室S」を有する「シリンダヘッド(2)」においても、温度分布状態は、燃焼室に近い部位が最も高く、それより遠くなるにつれて漸次低くなっていることは、当業者にとって自明な事項である。
そして、刊行物1に記載された発明と、刊行物2に記載された技術は、いずれもエンジンの散熱構造に関するものであるから、刊行物1に記載された発明において、「シリンダヘッド(2)」の温度分布を略均一に保つために、刊行物2に記載された技術を、複数の散熱片を設置した「シリンダヘッド(2)」に適用して、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

<相違点3>について
刊行物3に記載された技術における「空冷式機関」は、その機能及び構造又は技術的意義からみて、本件補正発明における「エンジン」に相当し、以下同様に、「冷却装置」は「散熱構造」に、「冷却風ガイド(16)」は「導風カバー(16)」に、「そらせ板(23)」は「導風機構(5)」に、それぞれ相当する。
してみると、刊行物3に記載された技術は、本件補正発明の用語を用いると、
「エンジンの散熱構造において、冷却を良好にするために、エンジンには導風カバーを設置し、導風カバー内に導風機構を設置する技術。」と言い換えることができる。

そして、刊行物1に記載された発明と、刊行物3に記載された技術は、いずれもエンジンに導風カバーを設置したエンジンの散熱構造に関するものであるから、刊行物1に記載された発明において、冷却を良好にするために、刊行物3に記載された技術を適用し、「エアシュラウド40」内に導風機構を設置して、相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項をなすことは、当業者が容易に想到し得たことである。

そして、本件補正発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び刊行物3に記載された技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び刊行物3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2.-6 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。


第3.本願発明について

1.手続の経緯及び本願発明
平成23年8月16日付けの手続補正は前述したとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2.の[理由]の1.(1)(a)の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2.刊行物
原査定の拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物1(特開2001-241355号公報)の記載事項及び刊行物1に記載された発明は、上記第2.の[理由]の2.における2.-1(1)ないし(3)に記載したとおりである。
また、原査定の拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物2(実願昭54-182817号(実開昭56-101440号)のマイクロフィルム)の記載事項及び刊行物2に記載された技術は、上記第2.の[理由]の2.における2.-2(1)ないし(3)に記載したとおりである。
また、原査定の拒絶理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物3(特開昭62-197623号公報)の記載事項及び刊行物3に記載された技術は、上記第2.の[理由]の2.における2.-3(1)ないし(3)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2.の[理由]の1.(2)で検討したように、実質的に、本件補正発明における発明特定事項の一部を削除したものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項をすべて含む本件補正発明が、前記第2.の[理由]の2.における2.-1ないし2.-6に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び刊行物3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び刊行物3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、本願発明は、全体としてみても、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び刊行物3に記載された技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明、刊行物2に記載された技術及び刊行物3に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-01 
結審通知日 2012-08-06 
審決日 2012-08-24 
出願番号 特願2008-94496(P2008-94496)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02F)
P 1 8・ 121- Z (F02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二之湯 正俊  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 柳田 利夫
岡崎 克彦
発明の名称 エンジンの散熱構造  
代理人 鈴木 征四郎  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ