• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12Q
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12Q
管理番号 1268720
審判番号 不服2009-6256  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-03-24 
確定日 2013-01-09 
事件の表示 特願2003-556548「アルカリ性スフィンゴミエリナーゼを検出するための分析方法およびかかる方法に使用するキット」拒絶査定不服審判事件〔平成15年7月10日国際公開、WO03/56031、平成17年5月12日国内公表、特表2005-512601〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年12月19日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成13年12月21日 アイルランド)を国際出願日とする出願であって、平成20年12月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成21年3月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同年4月22日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成21年4月22日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成21年4月22日付けの手続補正を却下する。
[理由]
1 補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項7は、
「【請求項7】
以下の試薬を含有する、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼを検出するためのキット:
(i)スフィンゴミエリン、
(ii)中性スフィンゴミエリナーゼを阻害するのに十分な量のEDTAおよびEGTAを含むpH 8.9-9.1のアッセイ・バッファー、
(iii)グリセロリン酸、
(iv)アルカリホスファターゼ、
(v)コリンオキシダーゼ、
(vi)西洋わさびペルオキシダーゼ、
(vii) 10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン、および
(viii) 胆汁酸塩。」
(下線は、補正箇所を示す。)と補正された。

上記補正は、補正前の請求項9に記載した発明を特定するために必要な事項である「キレート剤」及び「発色剤」を「EDTAおよびEGTA」及び「10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン」と限定し、同じく「キット」について、「胆汁酸塩」を含むとの限定を付加したものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項7に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先日前に頒布された刊行物1(原査定の引用文献4)、刊行物2(原査定の引用文献3)、刊行物3(原査定の引用文献1)及び刊行物4(原査定の引用文献2)には以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審で付加した。

(1)刊行物1:国際公開第00/74712号の記載事項(当審抄訳。訳文は対応日本語公報である特表2003-501399号公報によるものであるが明らかな誤訳は当審で直し、段落番号も併せて記載した。)
(1a)「【0003】
3種類の異なるタイプのスフィンゴミエリナーゼ(SMase)がこれまでに同定されている。
【0004】
酸性のスフィンゴミエリナーゼはリソソームの酵素(最適pH4.5-5)であり、この酵素の欠如はニーマン‐ピック病の原因である。また、中性スフィンゴミエリナーゼは、最適pHが7.5であり、2種類のイソフォームがわかっている。これらのイソフォームの1種は細胞質の膜に存在し、マグネシウム依存性であるが、他方は細胞質に含有され陽イオン非依存性である。酸性および中性の両スフィンゴミエリナーゼは、多くの組織および細胞にみられ、普遍的な酵素であり、非常に多くの細胞機能を調節している。
【0005】
第三のタイプは、主にpH9で活性であるために、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼと呼ばれる。これはマグネシウム非依存性であり、腸刷子縁および胆汁中で発見されている。アルカリ性スフィンゴミエリナーゼは胃、十二指腸および膵臓では生じないが、腸、特に空腸の末端部でみられる。顕著なアルカリ性スフィンゴミエリナーゼの活性は、結腸および直腸でも観察されてきた。高レベルのアルカリ性スフィンゴミエリナーゼは胆汁中にもみられるが、このことは人類特有に思われる。この2倍のスフィンゴミエリナーゼ源のために、人類は、食養生を介して導入されるスフィンゴミエリン(SM)の加水分解に関して、他の生物に比べて非常に効率的である。従来、通常の動物と無菌の動物との間に差異が見られないことから、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼは腸細菌によって生産不能と、考えられてきた(R. D. Duan, Scand. J. Gastroenterology, 33 (1998) pp. 673-683参照)。」(第1頁16行?第2頁20行)

(1b)「【表1】


(第3頁Table)

(1c)「【0029】
以下の実験は、本発明による細菌中のアルカリ性スフィンゴミエリナーゼの存在と効力を確認するために行った。これらの実験には、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼ、すなわちヒトの皮膚内でセラミドを生成することを司る酵素の検出が含まれた。
【0030】
(方法)
乳酸菌中および腸生検材料中の、酸性、中性およびアルカリ性スフィンゴミエリナーゼの分析
10mgの凍結乾燥した細菌Streptococcus thermophilusを、50 mMのTris-HCl(pH 7.4)、10 mMのMgCl_(2)、2 mMのEDTA、5 mMのDTT、0.1 mMのNa_(3)VO_(4)、0.1 mMのNa_(2)MoO_(4)、30 mMのp-リン酸ニトロフェニル、10 mMのβ-グリセロリン酸、750 mMのATP、1μMのPMSF、10μMのロイペプチン、10μMのペプスタチン(Sigma Chemical Co.より)、および0.2%のTriton X-100 (中性SMaseの活性分析用)または 500μlの0.2%のTriton X-100 (酸性SMaseの活性分析用)を含有する500μlの緩衝液に懸濁した。アルカリ性SMaseの分析のために、細菌および(ホモジェナイズした)腸生検材料を、5 mMのMgCl_(2)、0.15 MのKCl、50 mMのKH_(2)PO_(4)、1 mMのPMSFおよび1 mMのベンズアミジン(pH 7.4)を含有する0.25 Mのショ糖緩衝液に懸濁した。このようにして調整したサンプルを、その後Vibracellソニケーター(Sonic and Materials Inc., Danbury, CT)を用いて、超音波破砕により溶解した(30分間の超音波破砕中に、10秒間の「入」の期間と10秒間の「切」の期間を交互に設けた)。超音波破砕したサンプルを、その後30分間、14,000 rpmで、4℃で遠心分離し、上清を採り、Bio-Rad Laboratories (Richmond, CA)作成のキットでタンパク質濃度を測定した。
【0031】
中性SMaseを測定するために、100μgのサンプルを、37℃で2時間、50mMのTris-HCl、1 mMのMgCl_(2)、pH 7.4、および2.25μlの[N-メチル-^(14)C]-スフィンゴミエリン(SM) (0.2μmCi/ml、比活性: 56.6 mCi/mmol, Amersham)を含む緩衝液中でインキュベートした(最終容積: 50μl)。
【0032】
酸性SMaseを測定するために、100μgの細菌溶解液を、37℃で2時間、250 mMの酢酸ナトリウム、1 mMのEDTA、pH 5.0、および2.25μlの[N-メチル-^(14)C]-SMを含む緩衝液中でインキュベートした(最終容積: 50μl)。
【0033】
アルカリ性SMaseを測定するために、サンプルを、50 mMのTris、0.15 MのNaCl、2 mMのEDTA、およびTC : TDC : GC : GCDCのモル比が3 : 2 : 1.8 : 1である胆汁酸塩混合物3 mM、を含むTris-EDTA緩衝液(pH 9)375μlに加え、最終容積0.4 mlとした。この胆汁塩混合物は、アルカリ性SMaseに対する最高の刺激効果を有した。緩衝液へのEDTAの付加は、Mg^(++)依存性で最適pHが7.5である中性SMaseの活性を阻害するのに役立った。この^(14)C-SMをエタノールに溶解し、窒素下で乾燥し、3%のTriton X-100および3 mMの胆汁塩の混合物を含有する分析緩衝液に溶解した。
【0034】
クロロホルムおよびエタノール2:1の混合物2mlを加え、反応を停止した。リン脂質を抽出し、薄層クロマトグラフィー板上で分析した。一方、SMの加水分解を、オートラジオグラフィーおよび液体シンチレーション計測で定量した。超音波破砕した中のSMaseおよび腸生検材料中のSMaseを、タンパク質1ミリグラム当り、1時間当りのSM加水分解pmolで表わした。」(9頁25行?12頁6行)

(2)刊行物2:Biochimica et Biophysica Acta,Vol.1259,1995,p.49-55(当審抄訳)
(2a)「スフィンゴミエリナーゼ活性の試験。 スフィンゴミエリナーゼ活性は、Gatt等[8]の変法で測定した。エタノール中の^(14)C-SMは、窒素下で乾燥され、TC、TCDC、GC及びGCDCをモル比で3:2:1.8:1の胆汁酸塩混合物3mMを含有する0.15M NaClに懸濁された。他の箇所では特定しないが、0.1mlの^(14)C-SM(40000dpm)は、3mMの胆汁酸塩混合物、2mMCaCl_(2)および25μlのサンプル(タンパク質10-15μg)含有375μl 50mMのTris-HCl緩衝液(pH9.0)に、最終濃度0.5mlで添加された。反応は、37℃30分間行われ、2mlクロロフォルム/メタノール(2:1)の添加により終了させた。遠心分離と相分離後、上相のアリコートが取り出され、放射活性が液体シンチレーションカウンターで測定された。活性は・・・計算され正規化された。」(50頁左欄最終行?右欄17行)

(2b)「胆汁酸塩依存性は、Ca^(2+)、Mg^(2+)の有り無しで、異なる濃度の胆汁酸塩について、スフィンゴミエリナーゼ活性を評価して調べられた。2価イオンの影響は、種々の濃度のCa^(2+)、Mg^(2+)及びCu^(2+)で、胆汁酸塩の有り又は無しで評価された。」(50頁右欄下から15?10行)

(2c)「アルカリ性スフィンゴミエリナーゼの活性に対する胆汁酸塩の影響を、図5に示した。胆汁酸塩なしでは、酵素活性は極めて低い。胆汁酸塩は濃度に依存し、3mMの含有量で最大効果をもって、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼを活性化した。高濃度の胆汁酸塩は効果が低い。胆汁酸塩の効果は、2mMEGTAとEDTAを含有することで、Ca^(2+)、Mg^(2+)をなくした溶液でも、同様の結果が得られたことから、2価イオンの存在を要しない。」(53頁右欄下から7行?54頁左欄2行)

(2d)「中性スフィンゴミエリナーゼは、Mg^(2+)依存性[7,10,24]であるから、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼに対する、Mg^(2+)及びEDTAの効果が、胆汁酸塩の有無において観測された。Ca^(2+)の影響が同様に研究され、Ca^(2+)及びMg^(2+)は、胆汁酸塩存在下のアルカリ性スフィンゴミエリナーゼ活性に、顕著な効果は有さない(表3)。胆汁酸塩の不存在では、低いスフィンゴミエリナーゼ活性が、Ca^(2+)及びMg^(2+)により、さらに減少した(表3)。」(54頁左欄下から7行?右欄1行

(2e)表3には、胆汁酸塩が存在する場合でも、Ca^(2+)、Mg^(2+) の濃度が2mMを越えると、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼの活性が、低下することが示されている。(54頁左欄Table3)

(3)刊行物3:Free Radical Biology & Medicine,Vol.30,No.6,Mar 2001,p.671-678 (当審抄訳)
(3a)「スフィンゴミエリナーゼの活性
中性スフィンゴミエリナーゼ(SPH)-特異的フォスフォリパーゼC(・・・)活性は、脱核画分中で、市販の96穴プレートを用いたアンプレックスレッドフルオレッセント法により評価された。脱核画分は、前述のように低速遠心分離で得られた[31]。各反応は、50μMアンプレックスレッド試薬、1U/ml西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)、0.1U/mlコリンオキシダーゼ,4U/mlアルカリフォスファターゼ,0.25mMスフィンゴミエリン(SPH)、及びアリコートの分析試料を含有した。細胞関連蛍光は、・・・により測定された。スタフィロコッカス アウレウスのスフィンゴミエリナーゼ(0-40mU/ml)は、標準として採用された。活性は、検量線に基づいて計算され、タンパク質1mg当たりに換算し、mgタンパク質当たりのスフィンゴミエリナーゼ活性mUで表された。」(第673頁左欄8?24行)

(3b)「脱核画分は、細胞ホモジネートを1000g、10分、4℃で遠心分離することにより、PC12細胞から分離された。」(672頁右欄22?24行)

(4)刊行物4:J.Neural Transm.,Vol.108,May 2001,p.541-557
(4a)「中性スフィンゴミエリナーゼの活性
中性スフィンゴミエリナーゼ-特異的フォスフォリパーゼC活性は、市販の96穴プレートを用いたアンプレックスレッドフルオレッセント法を用い、Ex/Em 530/590nm(モレキュラープローブ)により評価された。各反応は、50μMアンプレックスレッド試薬、1U/ml西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)、0.1U/mlコリンオキシダーゼ,4U/mlアルカリフォスファターゼ,0.25mMスフィンゴミエリン、及びアリコートの分析試料を含有した。スタフィロコッカス アウレウスのスフィンゴミエリナーゼ(0-40mU/ml)は、標準として採用された。活性は、検量線に基づいて計算され、タンパク質1mg当たりに換算し、全スフィンゴミエリナーゼ活性に対する%で表された。蛍光は・・・で測定された。」(544頁下から3行?545頁7行)

3 対比・判断
刊行物1の記載事項(特に上記(1c)の【0033】【0034】)から、刊行物1には、
「アルカリ性SMaseの検出方法であって、
サンプルを、50 mMのTris、0.15 MのNaCl、2 mMのEDTA、およびTC : TDC : GC : GCDCのモル比が3 : 2 : 1.8 : 1である胆汁酸塩混合物3mM、を含むTris-EDTA緩衝液(pH 9)に加え、この胆汁塩混合物は、アルカリ性SMaseに対する最高の刺激効果を有し、緩衝液へのEDTAの付加は、Mg^(++)依存性で最適pHが7.5である中性SMaseの活性を阻害するものであり、^(14)C-SMをエタノールに溶解し、窒素下で乾燥し、3%のTriton X-100および3mMの胆汁塩の混合物を含有する分析緩衝液に溶解し、クロロホルムおよびエタノール2:1の混合物2mlを加え、反応を停止し、^(14)C-SMの加水分解を、オートラジオグラフィーおよび液体シンチレーション計測で定量する方法」が記載されている。

そして、刊行物1には、上記アルカリ性SMaseの検出方法を実施するのに使用する、以下の試薬のセット、つまりアルカリ性SMaseを検出するための試薬キットも記載されていると認められる。

「以下の試薬を含む、アルカリ性SMaseを検出するための試薬キット
・50 mMのTris、0.15 MのNaCl、2 mMのEDTA、およびTC : TDC : GC : GCDCのモル比が3 : 2 : 1.8 : 1である胆汁酸塩混合物3 mM、を含むTris-EDTA緩衝液(pH 9)、
・^( 14)C-SMを溶解した3%のTriton X-100および3 mM胆汁塩含有分析緩衝液。
前記胆汁塩混合物は、アルカリ性SMaseに対する最高の刺激効果を有し、緩衝液へのEDTAの付加は、Mg^(++)依存性で最適pHが7.5である中性SMaseの活性を阻害するものである。」(以下、「刊行物1発明」という。)

そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「中性SMase」及び「^(14)C-SM」は、それぞれ、中性スフィンゴミエリナーゼ、及び^(14)Cで標識したスフィンゴミエリンを意味し、刊行物1発明の「^(14)C-SM」と本願補正発明の「スフィンゴミエリン」とは、「スフィンゴミエリン」である点で共通する。

(イ)刊行物1発明の「50 mMのTris、0.15 MのNaCl、2 mMのEDTA、およびTC : TDC : GC : GCDCのモル比が3 : 2 : 1.8 : 1である胆汁酸塩混合物3 mM、を含むTris-EDTA緩衝液(pH 9)」は、刊行物1に記載された上記アルカリ性SMaseの検出方法からみて、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼにより、^(14)C-SMを分解する際に用いる緩衝液であるから、アッセイバッファーといえ、「EDTAの付加は、Mg^(++)依存性で最適pHが7.5である中性SMaseの活性を阻害するものである」し、緩衝液のpH9はpH 8.9-9.1に包含されるから、本願補正発明の「中性スフィンゴミエリナーゼを阻害するのに十分な量のEDTAおよびEGTAを含むpH 8.9-9.1のアッセイ・バッファー」とは、中性スフィンゴミエリナーゼを阻害するのに十分な量のEDTAを含むpH 8.9-9.1のアッセイ・バッファーである点で共通する。

(ウ)刊行物1発明の「胆汁酸塩混合物」は、緩衝液中に含有されているが、本願補正発明とは、試薬キットが、胆汁酸塩を含む点で共通する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
スフィンゴミエリン、中性スフィンゴミエリナーゼを阻害するのに十分な量のEDTAを含むpH 8.9-9.1のアッセイ・バッファー、及び胆汁酸塩を試薬として含む、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼを検出するための試薬キットである点。

(相違点1)
本願補正発明では、スフィンゴミエリンが、^(14)C標識されたものでなく、試薬キットが、「アルカリホスファターゼ」、「コリンオキシダーゼ」、「西洋わさびペルオキシダーゼ」及び「 10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン」を含有するのに対して、刊行物1発明では、スフィンゴミエリンが、^(14)C標識されたものであり、試薬キットが、「アルカリホスファターゼ」、「コリンオキシダーゼ」、「西洋わさびペルオキシダーゼ」及び「 10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン」を含まない点。

(相違点2)
本願補正発明では、試薬キットが「グリセロリン酸」を含み、アッセイバッファーが「EGTA」を含有するのに対して、刊行物1発明は、これら含まない点。

(相違点3)
本願補正発明が、「アッセイ・バッファー」とは別に、胆汁酸塩を試薬として含むのに対して、刊行物1発明は、緩衝液に胆汁酸塩が含有されている点。

そこで、上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
スフィンゴミエリナーゼは、スフィンゴミエリンをコリンリン酸とセラミドに分解する酵素であることは技術常識である。そして、刊行物1には、[N-メチル-^(14)C]-スフィンゴミエリンを基質として用いることが記載されており(上記(1c))、スフィンゴミエリンのコリン部分のメチル基が^(14)Cであることから、刊行物1発明は、スフィンゴミエリンの分解物であるコリンリン酸の^(14)Cを検出するものといえる。さらに、刊行物1には、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼだけでなく、中性及び酸性スフィンゴミエリナーゼも同様の方法で測定することが記載されている。
一方、刊行物3及び4には、中性スフィンゴミエリナーゼ活性を測定するために、市販の96穴プレートを用いたアンプレックスレッドフルオレッセント法を用いることが記載され、このための試薬である、アンプレックスレッド試薬、西洋わさびペルオキシダーゼ、コリンオキシダーゼ,アルカリフォスファターゼ,スフィンゴミエリンを、試料と混合することが記載されている(上記(3a)(4a))。この反応混合物のpHについては記載がないが、試料中の中性スフィンゴミエリナーゼ活性を測定することから、その最適pHである7.4付近であるといえる(上記(1b)参照)。
そして、このアンプレックスレッドフルオレッセント法は、上記各試薬を用いることからみて、その測定原理は、スフィンゴミエリンの分解産物であるコリンリン酸をアルカリフォスファターゼでコリンとし、コリンをコリンオキシダーゼにより分解して過酸化水素を生成し、西洋わさびペルオキシダーゼにより、過酸化水素でアンプレックスレッド試薬を酸化して蛍光物質として測定を行うものといえる。(必要であれば、「ANALYTICAL BIOCHEMISTRY,Vol.253,1997,p.169-174」の169頁左欄要約の5?7行に、「この分析は、10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン(Amplex Red)を用いた、西洋わさびペルオキシダーゼによるH_(2)O_(2)カップリング反応に基づく。」ことが記載されている。)
上記のとおり、刊行物1に記載されたコリンリン酸の^(14)Cを検出することによる酵素の測定方法が、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼだけでなく、中性及び酸性スフィンゴミエリナーゼに適用されること、及びアンプレックスレッドフルオレッセント法の上記測定原理からみて、アンプレックスレッドフルオレッセント法が、中性スフィンゴミエリナーゼだけでなく、同様にコリンリン酸を生成するアルカリ性や酸性スフィンゴミエリナーゼにも適用し得る方法であることは、当業者が自然に考えることといえる。さらに、放射性物質を利用することをできるだけ回避することは、当業者が通常考慮することである。
そうすると、刊行物1発明において、スフィンゴミエリンの分解産物であるコリンリン酸の検出に、刊行物2及び3に記載されたアンプレックスレッドフルオレッセント法を採用し、基質である^(14)C-SMに代えて、放射性標識のないスフィンゴミエリンを用い、この方法に必要な試薬である「アルカリホスファターゼ」、「コリンオキシダーゼ」、「西洋わさびペルオキシダーゼ」及び「 10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン」を試薬キットの構成に加えることは当業者が容易になし得たことといえる。

(相違点2について)
本願補正発明の「グリセロリン酸」について、本願明細書の段落【0027】に「反応バッファーはβ-グリセロリン酸およびATPを含む」と記載されていることから、本願補正発明の「グリセロリン酸」が「β-グリセロリン酸」であることは明らかである。
そして、刊行物1には、中性スフィンゴミエリナーゼの活性分析用の試料を懸濁する緩衝液として、β-グリセロリン酸、ATP等を含有したものが記載されている(上記(1c))。β-グリセロリン酸及びATPを添加する意義について、刊行物1には記載がないが、特表2001-505201号公報(10頁3?12行)、特表2001-521552号公報(34頁1?9行)にも、中性スフィンゴミエリナーゼ活性アッセイの緩衝液として、β-グリセロリン酸、ATP等を含有したものが記載され、後者で「Wiegmannら、1994」として引用された「Cell,Vol.78,1994,p.1005-1015」(同公報の60頁参考文献一覧)には、「中性スフィンゴミエリナーゼ分析中に、酸性スフィンゴミエリナーゼ活性を排除するために、β-グリセロリン酸及びATPが添加され、これらは、中性pHにおける、いかなる残余の酸性スフィンゴミエリナーゼの活性も完全にブロックする。」(1006頁右欄27?30行)と記載されていることから、刊行物1で、β-グリセロリン酸及びATPを添加する意義は、中性pHにおける、酸性スフィンゴミエリナーゼの活性を排除することであることは明らかといえる。
さらに、刊行物1発明は、「アルカリ性SMaseに対する刺激効果を有する胆汁塩混合物を含有し、Mg^(++)依存性で最適pHが7.5である中性SMaseの活性を阻害すするために、EDTAを付加する」ものであり、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼの活性を最大限に引き出し、一方で他のスフィンゴミエリナーゼの活性を抑制するような試薬を含むものとなっている。
そして、刊行物2には、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼについて、胆汁酸塩の非存在下だけでなく、存在下においても、Ca^(2+)及びMg^(2+)の濃度が2mMを越えると、活性が若干低下することが示されており(上記(2e))、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼの測定には、、Ca^(2+)及びMg^(2+)を含有しない溶液を用いることが、よりよいことが理解できる。そして、刊行物2には、溶液からCa^(2+)及びMg^(2+)を除去するために、EGTA及びEDTAを含有させることが記載されている(上記(2c))。
一方、刊行物3及び4に記載された、中性スフィンゴミエリナーゼをアンプレックスレッドフルオレッセント法で測定する場合、中性スフィンゴミエリナーゼの最適pHが7.4であることから、反応混合物のpHはこの付近となっていると考えられ、アンプレックスレッドフルオレッセント法に用いる各酵素も中性付近に最適なpHを有するものを用いているといえるから、この中性付近のpHをアルカリ性スフィンゴミエリナーゼにより分解生成されたコリンリン酸の検出に適用すると、試料中に存在する可能性がある、中性及び酸性スフィンゴミエリナーゼの活性を排除することは、刊行物1発明が、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼの活性を最大限に引き出し、一方で他のスフィンゴミエリナーゼの活性を抑制するような試薬構成となっていることから、当業者が当然に考慮することである。
以上のことから、刊行物1発明において、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼの活性を最大限引き出し、かつ中性及び酸性スフィンゴミエリナーゼ活性と区別して測定するために、Tris-EDTA緩衝液に、Mg^(++)のキレート剤としてのEDTAに加え、刊行物2にCa^(2+)及びMg^(2+)を除去するためにEDTAに併用することが記載されているEGTAも併せて添加し、さらに、刊行物1に記載されたβ-グリセロリン酸を試薬キットに加えることは、刊行物3及び4に記載されたアンプレックスレッドフルオレッセント法を採用した際に、刊行物1ないし4の記載事項から、当然に行う最適化といえ、当業者が適宜になしえたことといえる。

(相違点3について)
試薬キットを構成する際に、試薬を緩衝液に予め添加した状態でキットの構成試薬とするか、緩衝液とは別にして、試薬のみでキットの構成試薬とするかは、試薬の使用方法や安定性等を考慮して、当業者が適宜に決定することであり、刊行物1発明において、胆汁酸塩混合物を緩衝液とは別にすることは、当業者が適宜になし得ることであり、格別の困難性はない。

(本願補正発明の効果について)
患者の便または体液中のアルカリ性SMaseの信頼できる安価なアッセイであるという効果は(本願明細書段落【0013】)、刊行物1ないし4の記載事項から予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1ないし4に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成21年4月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1ないし12に係る発明は、平成20年11月17日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項9に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「以下の試薬を含有する、アルカリ性スフィンゴミエリナーゼを検出するためのキット:
(i)スフィンゴミエリン、
(ii)中性スフィンゴミエリナーゼを阻害するのに十分な量のキレート化剤を含むpH 8.9-9.1のアッセイ・バッファー、
(iii)グリセロリン酸、
(iv)アルカリホスファターゼ、
(v)コリンオキシダーゼ、
(vi)西洋わさびペルオキシダーゼ、および
(vii) 発色剤」

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1ないし4、および、その記載事項は、前記「第2 2」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明の限定事項である「EDTAおよびEGTA」及び「10-アセチル-3,7-ジヒドロキシフェノキサジン」を、それぞれ「キレート剤」及び「発色剤」と上位概念とし、同じく「キット」の限定事項である「胆汁酸塩」を含むとの構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに構成を限定及び他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 3」に記載したとおり、刊行物1ないし4に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1ないし4に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1ないし4に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-08 
結審通知日 2012-08-14 
審決日 2012-08-29 
出願番号 特願2003-556548(P2003-556548)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12Q)
P 1 8・ 575- Z (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 三原 健治  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 ▲高▼岡 裕美
関 美祝
発明の名称 アルカリ性スフィンゴミエリナーゼを検出するための分析方法およびかかる方法に使用するキット  
代理人 志賀 美苗  
代理人 田中 光雄  
代理人 松谷 道子  
代理人 山崎 宏  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ