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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1268917
審判番号 不服2010-4484  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-03-01 
確定日 2013-01-16 
事件の表示 特願2000-545565「インターナライズするErbB2抗体」拒絶査定不服審判事件〔平成11年11月 4日国際公開、WO99/55367、平成14年 8月 6日国内公表、特表2002-524024〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成11年4月23日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年4月24日 米国、1999年2月12日 米国)とする出願であって、平成21年7月7日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、平成21年10月21日付で拒絶査定がなされ、これに対して平成22年3月1日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

2.平成22年3月1日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成22年3月1日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により、補正前の特許請求の範囲の請求項1?53のうち、請求項2、7?11、18、40、48が削除されるとともに、特許請求の範囲の請求項1、12、19、41、49が補正され、そのうち請求項1は、補正前の
「【請求項1】c-erbB2レセプターに特異的に結合する単離され、合成され又は組換えられた抗体であって、前記抗体はF5(配列番号1)又はC1(配列番号2)により結合されるc-erbB2エピトープに特異的に結合し、また前記抗体はインターナライズする抗体である、前記抗体。」から、
「【請求項1】c-erbB2レセプターに特異的に結合する単離され、合成され又は組換えられた抗体であって、前記抗体はF5(配列番号1)又はC1(配列番号2)により結合されるc-erbB2エピトープに特異的に結合し、抗体によるエプトープの結合が前記F5又はC1により競合的に阻害され、また前記抗体はインターナライズする抗体である、前記抗体。」へと補正された。
上記請求項1に係る補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「前記抗体はF5(配列番号1)又はC1(配列番号2)により結合されるc-erbB2エピトープに特異的に結合し」にさらに「抗体によるエプトープの結合が前記F5又はC1により競合的に阻害され」という限定を付加するものであり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、請求項1についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、請求項12は補正前の
「【請求項12】 請求項10に記載の抗体であって、該抗体が、配列番号2のアミノ酸配列の3つの相補性決定領域を有する、抗体。」から、対応する補正後の請求項6の
「【請求項6】請求項1に記載の抗体であって、該抗体が、配列番号2のアミノ酸配列の3つの相補性決定領域を有し、配列番号1のアミノ酸配列の3つの相補性決定領域を有する、抗体。」へと補正された。
補正前の請求項12は、引用する「【請求項10】請求項1に記載の抗体であって、該抗体が、配列番号1の相補性決定領域(CDR)、および配列番号2の相補性決定領域からなる群より選択される、少なくとも3つの相補性決定領域を含む、抗体。」という記載を読み込むと、
「【請求項12】請求項1に記載の抗体であって、該抗体が、配列番号1の相補性決定領域(CDR)、および配列番号2の相補性決定領域からなる群より選択される、少なくとも3つの相補性決定領域を含み、該抗体が、配列番号2のアミノ酸配列の3つの相補性決定領域を有する抗体。」である。
上記補正後の請求項6に係る補正は、対応する補正前の請求項12に記載した発明を特定するために必要な事項である「該抗体が、配列番号2のアミノ酸配列の3つの相補性決定領域を有する」にさらに「配列番号1のアミノ酸配列の3つの相補性決定領域を有する」という限定を付加するものであり、引用する請求項1も上述の如く減縮されているから、その補正前の請求項12に記載された発明とその補正後の請求項6に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、該請求項についての補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1及び6に記載された発明(以下、「本願補正発明1」及び「本願補正発明6」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下検討する。

(2)特許法第36条第4項について
(2-1)本願明細書の記載
本願明細書の段落【0009】には、本願補正発明1及び6の抗体に関する一般的な記載として、「本発明は、新規な2つのインターナライズする抗c-erbB-2抗体を提供する。これらは、本明細書において、それぞれF5およびC1と称される。好ましい抗体は、c-erbB-2レセプターに特異的に結合する。これらは、F5誘導抗体またはC1誘導抗体である(すなわち、F5および/またはC1により結合されるc-erbB-2レセプターエピトープに結合する抗体)。これらの抗体は、好ましくは、配列番号1、配列番号2、保存的置換を有する配列番号1、および保存的置換を有する配列番号2からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。特に好ましい抗体は、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を共有し、そして細胞のc-erbB-2に対して少なくとも105Mの結合親和性を有する。1つの実施態様において、これらの抗体は、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列と、多くて30残基だけ異なるアミノ酸配列を有する。この抗体は、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つの、配列番号1および/または配列番号2の相補性決定領域(CDR)を含み得る。さらに、あるいは代替的に、この抗体は、少なくとも1つ、少なくとも2つ、または少なくとも3つの、配列番号1および/または配列番号2のフレームワーク領域を含み得る。特に好ましいF5抗体およびC1抗体は、それぞれ、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列を有する。」と記載され、さらに、段落【0091】?【0092】にはより詳しく、「(III.改変されたF5およびC1抗体の改変および/または選択)
好ましい実施態様において、新たな(異なる)F5またはC1抗体の産生は、抗体(例えば、抗体全体、抗体フラグメント、または単鎖抗体)を産生する工程、次いで、それがF5またはC1抗体であること(すなわち、それがF5またはC1抗体によって結合されるエピトープと結合すること、およびより好ましくはそれがインターナライズされること)を確認するためにその抗体をスクリーニングする工程を包含する。スクリーニングされる抗体は、種々の手段によって無作為に産生され得、インビボで(例えば、c-erbB2エピトープで動物を免疫化することによって)作製され得るか、またはエキソビボで、例えば、ファージディスプレイライブラリーもしくは他のディスプレイライブラリーにおいて作製され得る。次いで、そのように作製された抗体は、c-erbB2結合親和性について、および/またはF5もしくはC1エピトープへの特異的結合について、および/またはc-erbB2レセプターもしくはそのフラグメントを保有する細胞内へのインターナリゼーションについて、スクリーニングされる。
(A)スクリーニングのためのF5誘導抗体およびC1誘導抗体の産生)
代替的に、F5およびC1誘導抗体は、本明細書中に提供されるF5配列およびC1配列を利用するいくつかのストラテジーのうちの1つによって、好ましくは獲得される。このような方法としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:1)鎖シャッフリング(chain shuffling)による誘導;2)CDRの部位特異的突然変異誘発による誘導;3)誤りがちなPCR、E.coliの突然変異誘発株、または「DNAシャッフリング」のいずれかによる、配列内に複数の突然変異を導入することによる誘導。これらの誘導抗体は、「ライブラリーアプローチ」を含む。ここでは、F5またはC1に基づく変異配列のライブラリーが作製され、次いで、結合機能が選択される。」(注:下線部は当審による。)と記載されている。
また、F5(配列番号1)又はC1(配列番号2)により結合されるc-erbB2エピトープについては、段落【0011】に「本発明はまた、F5またはC1によって特異的に認識されるエピトープも提供する。これらは、本明細書中に提供されるF5抗体またはC1抗体を利用するエピトープマッピング法によって容易に同定される。」と記載され、段落【0137】?【0138】に「(IV.F5およびC1エピトープ)別の実施態様において、本発明は、本発明のF5およびC1抗体によって特異的に認識されそして結合されるエピトープを提供する。このインターナライズするエピトープは、それぞれF5およびC1により特異的に結合される能力によって特徴づけられる。したがって、F5エピトープは、F5に特異的に結合する、c-erbB2の領域(配列番号1)(注:配列番号1はF5のアミノ酸配列であり、F5(配列番号1)の誤記である。)であり、他方、C1エピトープは、C1(配列番号2)に特異的に結合する、c-erbB2の領域である。F5およびC1は共に、同じc-erbB2エピトープに結合すると考えられる。
F5およびC1エピトープは、標準的な技術を使用するエピトープマッピング(例えば、Geysenら(1987)J.Immunol.Meth.102,259-274を参照)により同定され得る。この技術は、重複するc-erbB2ペプチドの合成を包含する。次いで、合成ペプチドを、F5およびC1それぞれに対してスクリーニングし、そして結合特異性およびアフィニティーにより特徴的なF5およびC1エピトープを同定し得る。」と記載されている。
さらに、インターナライズする抗体については、段落【0061】に「その他のc-erbB-結合抗体はインターナライズされないことが知られている。従って、特定の理論に拘束されることなく、本発明のF5およびC1抗体の効果的なインターナリゼーションが、これらの抗体に結合される特異的なエピトープの結果であると考えられる。F5およびC1抗体の両方が同じエピトープを結合し、そして本明細書で同定されたこのF5およびC1抗体(例えば、配列番号1および2)を用いて、同じエピトープに結合する他の抗体が容易に同定され得ると考えられる。」と記載されている。
一方、本願明細書の実施例には、ファージミドベクターを用いてscFvファージ抗体ライブラリーを作製し、そのライブラリーをSKRB3細胞(高ErbB2発現細胞)との結合によりスクリーニングして得られたクローンのうち、SKRB3細胞によってインターナライズされる2つの独特なファージ抗体F5及びC1を同定したことが記載され、それらのアミノ酸配列が配列番号1及び2であり、F5及びC1のKdが、それぞれ3.2×10^(-7)M及びKd=1.0×10^(-6)Mであることを測定し、競合アッセイによりF5及びC1が同じエピトープを認識することを確認したことが記載されている。
しかしながら、F5及びC1が認識するc-erbB2エピトープをエピトープマッピング法により同定したことやそのエピトープの構造については記載されていない。また、F5及びC1以外の本願補正発明1及び6に該当する抗体は、スクリーニングによっても、あるいはF5又はC1のアミノ酸配列を改変することによっても得られたことは記載されておらず、本願明細書で具体的に記載されている抗体は、F5及びC1のみである。

(2-2)当審の判断
(2-2-1)本願補正発明1について
本願補正発明1は、「単離され、合成され又は組換えられた抗体であって、F5又はC1により結合されるc-erbB2エピトープに特異的に結合し、該抗体によるエプトープの結合が前記F5又はC1により競合的に阻害され、前記抗体はインターナライズする、c-erbB2レセプターに特異的に結合する抗体」に係るものである。
一方、本願明細書には、F5及びC1については具体的に記載されているが、上記(2-1)で述べたように、F5及びC1により結合されるc-erbB2エピトープがどのようなアミノ酸配列からなるどのような構造のものであるかについては、記載も示唆もされていない。その代わり、上記(2-1)の段落【0091】の下線部の記載のように、種々の手段によって無作為に産生された抗体を、その抗体によるエピトープの結合がF5又はC1により競合的に阻害さるか否かについてスクリーニングすることにより、本願補正発明1の抗体が得られることが記載されている。
そうすると、本願補正発明1の抗体を得るためには、上記(2-1)に記載されたような、c-erbB2エピトープで動物を免疫化することによって作製したり、ファージディスプレイライブラリーもしくは他のディスプレイライブラリーにおいて作製されたり、あるいは、鎖シャッフリング(chain shuffling)、CDRの部位特異的突然変異誘発による誘導、E.coliの突然変異誘発株、またはDNAシャッフリングのいずれかによる、配列内に複数の突然変異を導入することによる誘導等、本願出願時の技術常識を考慮して使用しうる様々な方法により作成する抗体、抗体誘導体という無数ともいえる抗体の中から、F5又はC1との競合実験でスクリーニングする必要があり、当業者に期待し得る程度を超える過度な実験、試行錯誤を要するものであるから、本願の発明の詳細な説明には、本願補正発明1の抗体を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
また、本願補正発明1の抗体は、特定のスクリーニング方法で得られる化合物に係る発明であるともいえ、本願の発明の詳細な説明には、F5又はC1の化学構造が記載されているが、それ以外の抗体については化学構造が記載されておらず、かつその化学構造がどの範囲のものであるかを推認するてがかりもないので、この点からも、本願の発明の詳細な説明には、本願補正発明1の抗体を当業者が作ることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
したがって、本願明細書には、本願補正発明1について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(2-2-2)本願補正発明6について
本願補正発明6の抗体は、請求項1に記載の抗体であって、配列番号2のアミノ酸配列の3つの相補性決定領域を有し、配列番号1のアミノ酸配列の3つの相補性決定領域を有する抗体に係るものであるが、本願明細書にはこのような抗体を製造したことは記載されていない。
ここで、配列番号2はC1の、配列番号1はF5のscFvのアミノ酸配列であり、重鎖可変領域の相補性決定領域(以下、「CDR」という。)1?3と軽鎖可変領域のCDR1?3の、それぞれ計6つのCDRのアミノ酸配列がそれぞれ記載されており、両者のCDR1?3のアミノ酸配列の同一性は、重鎖可変領域のCDR1のみ80%であるが、それ以外は50%未満である。
本願出願時、抗体は、重鎖及び軽鎖のCDR1?3の6つをそれぞれその順序で有することで、初めて抗原との結合性、親和性が保持されるものであり、たとえCDR中の1アミノ酸の置換であっても、その結合性に影響を与え得ることが技術常識である。
そうすると、相互にアミノ酸配列の相同性が高いとはいえない、配列番号2及び1のCDRからそれぞれ3つずつ選択しても、請求項1に記載のF5及びC1により結合されるc-erbB2エピトープに、それらと同程度の結合親和性で特異的に結合する抗体が得られる蓋然性は限りなく低いものである。
したがって、本願の発明の詳細な説明には、本願補正発明6の抗体を当業者が作ることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

(2-3)審判請求人の主張
審判請求人は、平成22年4月16日付審判請求書の手続補正書で、「補正された本願請求項1に係る化合物(抗体)は「所望の性質」以上のものによって特定されている。c-erbB2及び提供される抗体の構造は、それらの相補的機能と共に公知である。たとえエピトープの構造又は配列が与えられなくても、当業者ならば特定の抗体が本願請求項を侵害するか否かを判断できる。出願人は、日本特許庁が抗原に対する合理的な範囲の抗体特許を得るためにエピトープの配列等を必須のものとして要求するものではないと信じる。また、本願発明においてエピトープ自体はクレームされていない。しかしながら、エピトープの配列を知ることを望むならば容易に決定できる。例えば、出願人は、線形ペプチ-ドエピトープではないErbB2 ECDのドメイン1に対するF5抗体の結合エピトープをマッピングした(添付の参考資料を参照)。いずれにしても、エピトープの配列又は構造の知識は、本願請求項に係る発明の実施には必要ないのである。当業者は、エピトープの配列を知ることなく、本願請求項の範囲によりカバーされる構造を抗体が有するか否かを決定できる。例えば、このような決定は、本願明細書の図2に示されているようなエピトープマッピングによって行うことができる。もし抗体がc-erbB2への所与のF5又はC1の結合を競合的に阻害するならば、それはエピトープでの結合にちがいないのである。よって、補正された請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に開示されている。」と主張している。
しかしながら、請求人が添付した参考資料には、F5抗体のエピトープが非線形エピトープであり、本願明細書の段落【0138】に「F5およびC1エピトープは、標準的な技術を使用するエピトープマッピング(例えば、Geysenら(1987)J.Immunol.Meth.102,259-274を参照)により同定され得る。」と記載された線形エピトープをマッピングするエピトープマッピングでは同定できないものであり、上記主張中の「エピトープの配列を知ることを望むならば容易に決定できる。」ことは、本願明細書の記載に基づかない主張であり、しかも非線形エピトープを特定することは、当業者といえども困難であることが本願出願時の技術常識である。
一方、当業者は、エピトープの配列を知ることなく、本願請求項1の範囲によりカバーされる構造を抗体が有するか否かを決定できるとしても、どのような抗体がカバーされるかを決定するためには、上記(2-2-1)で述べたように当業者といえども過度の実験を要するものであり、この点において、本願明細書には本願補正発明1を当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されていないから、審判請求人の上記主張は採用できない。

(3)特許法第36条第6項第1号について
本願補正発明6に係る抗体は、上記(2-2-2)に記載した理由により、本願明細書に記載されておらず、また、本願出願時の技術常識を考慮しても、かかる抗体を製造できることを当業者が理解できるよう本願明細書に記載されているとはいないから、本願補正発明6は、本願の発明の詳細な説明に記載されているものではない。

(4)小括
以上の理由により、本願の発明の詳細な説明には、本願補正発明1及び6について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、本願補正発明6は、本願の発明の詳細な説明に記載されていないから、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願補正発明1及び6は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(5)むすび
以上のとおり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成22年3月1日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本出願に係る発明は、平成21年7月7日付手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1?53に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1、3、4、15には、以下のとおり記載されている。
「【請求項1】c-erbB2レセプターに特異的に結合する単離され、合成され又は組換えられた抗体であって、前記抗体はF5(配列番号1)又はC1(配列番号2)により結合されるc-erbB2エピトープに特異的に結合し、また前記抗体はインターナライズする抗体である、前記抗体。」(以下、「本願発明1」という。)
「【請求項3】請求項1に記載の抗体であって、該抗体が、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を共有し、そして該抗体が、細胞上のc-erbB2に対して少なくとも10^(-5)Mの結合親和性を有する、抗体。」(以下、「本願発明3」という。)
「【請求項4】請求項1に記載の抗体であって、該抗体のアミノ酸配列が、前記配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列とは、30残基以下異なる、抗体。」(以下、「本願発明4」という。)
「【請求項15】c-erbB2レセプターに特異的に結合する抗体であって、該抗体が、配列番号1または配列番号2に示すポリペプチド配列からの少なくとも10の連続するアミノ酸を含み、ここで、 該抗体は、抗原として提示される場合、配列番号1または配列番号2に示すポリペプチド配列に特異的に結合する抗イディオタイプ抗体の産生を誘発し;そして 該抗体は、配列番号1および配列番号2に示すポリペプチドに完全に免疫吸着させた、配列番号1および配列番号2に示すポリペプチドに対して惹起された抗血清には結合しない、請求項1に記載の抗体。」(以下、「本願発明15」という。)
(1)原査定の拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由は、
(i)本願の発明の詳細な説明には、本願請求項1?53に記載の発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、
(ii)本願の発明の詳細な説明には、本願請求項1?53に記載の発明が記載されておらず、本願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、
というものである。

(2)本願明細書の記載
本願明細書の記載は、上記(2-1)に記載のとおりであり、さらに、抗イディオタイプ抗体については、本願明細書の段落【0115】?【0117】に一般的記載として
「a)抗イディオタイプ抗体との交叉反応性)
イディオタイプは、抗体の高度に可変性である抗原結合部位を表し、そしてこれ自体免疫原性である。抗体媒介性免疫応答の発生の間に、個体は、抗原に対する抗体、ならびに高イディオタイプ抗体(この免疫原性結合部位(イディオタイプ)は、抗原を模擬する)を発達させる。
次いで、F5誘導抗体およびC1誘導抗体は、F5抗イディオタイプ抗体およびC1抗イディオタイプ抗体と特異的に結合するそれらの能力によって認識され得る。すなわち、F5誘導抗体およびC1誘導抗体は、好ましくは、F5抗イディオタイプ抗体またはC1抗イディオタイプ抗体を有するF5およびC1と交叉反応性である。
抗イディオタイプ抗体は、当業者に周知の標準的な方法を使用することによって、F5またはC1の可変領域に対して惹起され得る。簡潔には、抗イディオタイプ抗体は、本発明の抗体(例えば、F5抗体もしくはC1抗体、またはそれらのフラグメント(例えば、CDR))を動物に注射し、それによって抗体上の種々の抗原決定基(イディオタイプ領域における決定基を含む)に対する抗血清を誘導することによって作製され得る。」とあるが、実際にF5又はC1の抗イディオタイプ抗体を作製したことは、本願明細書には記載されいない。

(3)当審の判断
(3-1)本願発明1について
本願発明1は、上記(2-2-1)に記載のように、「F5及びC1により結合されるc-erbB2エピトープに特異的に結合する、単離され、合成され又は組換えられた抗体」であるといえる。
そして、上記(2-2-1)に記載した理由と同じ理由により、本願の発明の詳細な説明には、本願発明1の全体にわたり当業者がその実施をできるよう明確かつ十分に記載されておらず、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
さらに、本願請求項1を引用する本願請求項3、4、15にも同様な瑕疵が存在するが、これらの請求項毎のさらなる拒絶の理由について以下に述べておく。

(3-2)本願発明3、4について
本願発明3の抗体は、「請求項1に記載の抗体であって、該抗体が、配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を共有し、そして該抗体が、細胞上のc-erbB2に対して少なくとも10^(-5)Mの結合親和性を有する」ものであり、本願発明4の抗体は、「請求項1に記載の抗体であって、該抗体のアミノ酸配列が、前記配列番号1または配列番号2のアミノ酸配列とは、30残基以下異なる」ものである。
しかしながら、抗体の技術分野において、元のタンパク質のアミノ酸配列と70%程度の低い相同性を有する抗体が、元のタンパク質と同様の作用・性質を有する蓋然性は、極めて低いことが本願出願時の技術常識であるから、配列番号1または2のアミノ酸配列と70%程度の低い配列同一性を有する抗体、若しくは該アミノ酸配列と30残基以下異なる抗体の中から、F5又はC1と同じエピトープに特異的に結合する抗体を得ることは困難であると考えられる。
また、そのような配列同一性が低いか、または全長約250残基のうち30アミノ酸残基も異なる抗体から、F5又はC1と同じエピトープに結合する抗体を選択するためには、通常当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行なう必要があると認められる。
よって、本願請求項3、4に記載の発明は、本願の発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に開示されていないから、本願は、特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3-3)本願発明15について
本願発明15は、c-erbB2レセプターに特異的に結合する抗体であって、配列番号1または配列番号2の10の連続するアミノ酸を含み、抗イディオタイプ抗体の産生を誘発し、配列番号1及び2に示すポリペプチドに完全に免疫吸着させた、配列番号1及び2に示すポリペプチドに対して惹起された抗血清には結合しない抗体」に係るものである。
しかしながら、本願明細書には、F5又はC1の抗イディオタイプ抗体を製造した記載はなく、また、一般に、元の抗体のアミノ酸配列の10程度の短い連続するアミノ酸を有する抗体や、元の抗体と同様の活性を有する蓋然性は低く、またそのような抗体を抗原して、抗イディオタイプ抗体を得ることは困難であることが、本願出願時の技術常識である。
そうすると、配列番号1又は2の10程度の短い連続するアミノ酸配列を有する抗体は、配列番号1又は2のアミノ酸配列からなる抗体と同様にc-erbB2レセプターに特異的に結合するとはいえず、しかもそのような配列番号1又は2の10程度の短い連続するアミノ酸配列を有する抗体から、c-erbB2レセプターに特異的に結合する抗体を選択するためには、通常当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行なう必要があると認められる。また、そのような抗体を抗原として、抗イディオタイプ抗体を得ることは通常困難であり、仮に得られたとしても、そのような抗体が、配列番号1及び2に示すポリペプチドに完全に免疫吸着させた、配列番号1及び2に示すポリペプチドに対して惹起された抗血清には結合しない抗体であるとは認められない。
したがって、本願請求項15に記載の発明は、本願の発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に開示されていないから、本願は、特許法第36条第4項及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願は、本願請求項1、3、4、及び15に記載の発明について、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、本願請求項3、4、及び15に記載の発明について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-17 
結審通知日 2012-08-21 
審決日 2012-09-03 
出願番号 特願2000-545565(P2000-545565)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C12N)
P 1 8・ 537- Z (C12N)
P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N)
P 1 8・ 536- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松原 寛子  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 鵜飼 健
六笠 紀子
発明の名称 インターナライズするErbB2抗体  
代理人 青木 篤  
代理人 石田 敬  
代理人 武居 良太郎  
代理人 古賀 哲次  
代理人 奥村 義道  
代理人 中島 勝  
代理人 福本 積  
代理人 渡辺 陽一  

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