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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C07K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07K |
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管理番号 | 1268918 |
審判番号 | 不服2010-4682 |
総通号数 | 159 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-03-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-03-03 |
確定日 | 2013-01-16 |
事件の表示 | 特願2000-566301「新規な抗糖尿病ペプチド」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月 2日国際公開、WO00/11029、平成14年 7月30日国内公表、特表2002-523424〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、1999年8月9日(パリ条約による優先権主張1998年8月21日、米国)を国際出願日とする出願であって、 平成21年10月2日付けで特許請求の範囲について補正がなされ、同年10月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年3月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。 第2.平成22年3月3日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年3月3日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.平成22年3月3日付けの手続補正(本件補正) 本件補正は、特許請求の範囲において、補正前の請求項2?6、請求項8?16、請求項18?22、請求項24、請求項28?55、請求項58?76を削除し、請求項が削除されたことで連番でなくなった請求項の番号を整理するとともに引用する請求項の番号の記載を整理し、また補正前の請求項1について、「式:」に特定される化合物のアミノ酸、ペプチドの選択肢を限定するものである。 したがって、本件補正は、請求項の削除、明りょうでない記載の釈明、および特許請求範囲の限定的減縮に相当するものである。 よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第1号、第2号および第4号を目的とする補正に該当する。 2.独立特許要件について 上記1.のとおり、本件補正は改正前特許法第17条の2第4項第2号を目的とするものであるから、補正後の各請求項に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、以下検討する。 (1)本願補正発明 補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 式: X_(1)-Xaa_(1)-X_(2)-Xaa_(2)-X_(3)-Xaa_(3)-X_(4)-Xaa_(4)-X_(5)-Xaa_(5)-X_(6)-NH_(2)[式中、X_(1)は、Lysであり; X_(2)は、Xaa_(6)Xaa_(7)Xaa_(8)Xaa_(9)(配列番号47)であり; X_(3)は、AlaThrであり; X_(4)は、ArgLeuAlaであり; X_(5)は、PheLeuであり; X_(6)は、ArgSerSerGlyTyr(配列番号48)、HisSerSerGlyTyr(配列番号50)、ArgAlaSerGlyTyr(配列番号54)、AlaSerSerGlyTyr(配列番号55)またはArgSerGlyTyr(配列番号58)であり; Xaa_(1)は、Cysであり; Xaa_(2)は、Cysであり; Xaa_(3)は、GlnまたはAlaであり; Xaa_(4)は、AsnまたはAlaであり; Xaa_(5)は、ValまたはAlaであり; Xaa_(6)は、Asnであり; Xaa_(7)は、Thrであり; Xaa_(8)は、Alaであり; Xaa_(9)は、Thrである] で表される化合物またはその医薬上許容される塩。」 (2)引用例2 拒絶査定で引用された引用例2(特表平07-509008号公報)には、以下の事項が記載されている。 a.「アミリン・アンタゴニストおよびアゴニスト」(発明の名称) b.「1.アミノ酸の式: R_(1) \ R_(2)-X-A^(8)-A^(9)-A^(10)-A^(11)-A^(12)-A^(13)-A^(14)-A^(15)-A^(16)-A^(17)-A^(18)-A^(19)-A^(20)-A^(21)- A^(22)-A^(23)-Y-Z 〔式中: Xは0-5個のアミノ酸の鎖で、そのN-末端のアミノ酸はR_(1)およびR_(2)に結合している: Yは0-4個のアミノ酸の鎖で、そのC-末端のアミノ酸はZに結合している: 各R_(1)およびR_(2)は、独立して、H、C_(1)-C_(12)アルキル(例えば、メチル)、C_(0)-C_(18)アリール(例えば、フェニル、ナフタレンアセチル)、C_(1)-C_(12)アシル(例えば、ホルミル、アセチル、およびミリストイル)、C_(7)-C_(18)アラルキル(例えば、ベンジル)、またはC_(7)-C_(18)アルカリール(例えば、p-メチルフェニル); A^(8)はAla、Nal、Thi、Phe、Bth、Pcp、N-Me-Thr、AibまたはAnb; A^(9)はThr、Ala、Anb、Aib、Ser、N-Me-SerまたはN-Me-Thr; A^(10)はGIn、Ala、Asn、N-Me-GIn、GIy、Nva、AibまたはAnb; A^(11)はArg、ホモ-Arg、ジエチル-ホモ-Arg、Lys-E-NH-R(ここで、RはH、分岐鎖もしくは直鎖のC_(1)-C_(10)アルキル基、またはアリール基)、OrnまたはLys: A^(12)はLeu、IIe、Val、Aib、AnbまたはN-Me-Leu; A^(13)はAla、Nal、Thi、Phe、Bth、Pcp、N-Me-Thr、AibまたはAnb; A^(14)はAsn、Ala、Gln、Gly、N-Me-Asn、Nva、AibまたはAnb; A^(15)はPheまたは置換基を有するもしくは有しないいずれかの芳香族アミノ酸: A^(16)はLeu、IIe、VaI、Aib、AnbまたはN-Me-Leu; A^(17)はVal、IIe、Aib、AnbまたはN-Me-Val; A^(18)はHis、Thr、3-Me-His、1-Me-His、β-ピロゾリルアラニン、N-Me-His、Arg、ホモーArg、ジエチル-ホモ-Arg、Lys-ε-NH-R(ここで、RはH、分岐鎖もしくは直鎖のC_(1)-C_(10)アルキル基、またはアリール基)、Ala、Aib、AnbまたはOrn: A^(19)はSer、Thr、N-Me-Ser、N-Me-Thr、Aib、AnbまたはAla; A^(20)はSer、Thr、N-Me-Ser、N-Me-Thr、Aib、AnbまたはAla: A^(21)はAsn、Ala、Gln、GIy、N-Me-Asn、Aib、AnbまたはNva; A^(22)はAsn、Ala、Gln、Gly、N-Me-Asn、Aib、AnbまたはNva; A^(23)はPhe、置換基を有するもしくは有しないいずれかの芳香族アミノ酸、Leu、lle、Val、Aib、Anb、AlaまたはN-Me-Leuであって; ZはNHR_(3)またはOR_(3);ここで、R_(3)はH、C_(1)-C_(12)アルキル、C_(7)-C_(10)フェニルアルキル、C_(3)-C_(20)アルケニル、C_(3)-C_(20)アルキニル、フェニルまたはナフチル] で示されるアミリン・アナログまたはその医薬上許容される塩。 2.アンタゴニストである請求項1記載のアミリン・アナログ。」(特許請求の範囲、請求項1,2) c.「5.アミノ酸の式: R_(1 ) \ R_(2)-X-A^(1)-A^(2)-A^(3)-A^(4)-A^(5)-A^(6)-A^(7)-A^(8)-A^(9)-A^(10)-A^(11)-A^(12)-A^(13)- A^(14)-A^(15)-A^(16)-A^(17)-A^(18)-A^(19)-A^(20)-A^(21)-A^(22)-A^(23)-Y-Z [式中:、 Xは0-5個のアミノ酸の鎖で、そのN-末端のアミノ酸はR_(1)およびR_(2)に結合している: Yは0-4個のアミノ酸の領で、そのC-末端のアミノ酸はZに結合している; 各R_(1)およびR_(2)は、独立して、H、C_(1)-C_(12)アルキル、C_(6)-C_(18)アリール、C_(1)-C_(12)アリル、C_(7)-C_(18)アラルキルまたはC_(7)-C_(18)アルカリール; A^(1)はLys、Arg、ホモ-Arg、ジエチル-ホモ-Arg、Lys-ε-NH-R(ここで、RはH、分岐鎖もしくは直鎖のC_(1)-C_(10)アルキル基、またはアリール基)、またはOrn: A^(2)はCysまたはAnb; A^(3)はAsn、Ala、Gln、Gly、N-Me-Asn、Aib、AnbまたはNva; A^(4)はThr、Ser、N-Me-Ser、N-Me-Thr、Ala、AibまたはAnb; A^(5)はAla、Nal、Thi、Phe、Bth、Pcp、N-Me-Ala、AibまたはAnb; A^(6)はThr、Ser、N-Me-Ser、N-Me-Thr、Ala、AibまたはAnb; A^(7)はCysまたはAnb: A^(8)はAla、Nal、Thi、Phe、Bth、Pcp、N-Me-Ala、AibまたはAnb; A^(9)はThr、Ser、N-Me-Ser、N-Me-Thr、Ala、AibまたはAnb; A^(l0)はGln、Ala、Asn、N-Me-Gln、Gly、Nva、AibまたはAnb; A^(11)はArg、ホモ-Arg、ジエチル-ホモ-Arg、Lys-ε-NH-R(ここで、RはH、分岐鎖もしくは直鎖のC_(1)-C_(10)アルキル基、またはアリール基)、またはOrn: A^(12)はLeu、Ile、Val、Aib、AnbまたはN-Me-Leu; A^(13)はAla、Nal、Thi、Phe、Bth、Pcp、N-Me-Ala、AibまたはAnb; A^(14)はAsn、Ala、Gln、Gly、N-Me-Asn、Aib、AnbまたはNva; A^(15)はPheまたは置換基を有するもしくは有しないいずれかの芳香族アミノ酸: A^(16)はLeu、Ile、Val、Aib、AnbまたはN-Me-Leu; A^(17)はVal、Ile、Aib、AnbまたはN-Me-Val: A^(18)はHis、Thr、3-Me-His、β-ピロゾリルアラニン、N-Me-His、Arg、ホモ-Arg、ジエチル-ホモ-Arg、Lys-ε-NH-R(ここで、RはH、分岐鎖もしくは直鎖のC_(1)-C_(10)アルキル基、またはアリール基)、Orn、AIa、Aib、またはAnb; A^(19)はSer、・Thr、N-Me-Ser、N-Me-Thr、Ala、AibまたはAnb; A^(20)はSer、Thr、N-Me-Ser、N-Me-Thr、Ala、AibまたはAnb; A^(21)はAsn、Ala、Gln、Gly、N-Me-ASn、Aib、AnbまたはNva; A^(22)はAsn、Ala、Gln、GIy、N-Me-Asn、Aib、AnbまたはNva; A^(23)はPhe、置換基を有するもしくは有しないいずれかの芳香族アミノ酸、Leu、Ile、Val、Aib、Anb、AlaまたはN-Me-Leuであって; ZはNHR_(3)またはOR_(3);ここで、R_(3)はH、C_(1)-C_(12)アルキル、C_(7)-C_(10)フェニルアルキル、C_(3)-C_(20)アルケニル、C_(3)-C_(20)アルキニル、フェニルまたはナフチル] で示されるアミリン・アナログまたはその医薬上許容される塩。 6.式: Lys-Cys-Asn-Thr-Ala-Thr-Cys-Ala-Thr-Gln-Arg-Leu-Ala-Asn-Phe-Leu-Val-His-Ser-Ser-Asn-Asn-Phe-NH_(2)を有し、C-末端にアミド化カルボキシルを有するヒト・アミリンのアミノ酸1ないし23に対応する請求項5記載のアミリン・アナログ(「ヒト・アミリン(1-23)-NH_(2)」)またはその医薬上許容される塩。」(特許請求の範囲、請求項5,6) d.「 結果 Fig2を参照し、本発明の1のアンタゴニスト、N-α-ac-ヒト・アミリン(8-23)-NH_(2)は、別々にテストした場合、イン・ビトロアッセイにおけるインスリン刺激性のグルコース取込みに有意な作用を示さなかった。さらにFig2に示すように、N-α-ac-ヒト・アミリン(8-23)-NH_(2)(1μM)と共にヒト・アミリンが存在すると、ヒト・アミリンのインスリン刺激性のグルコースの取込みに対する用量-反応曲線を一貫して右側(すなわち、高濃度のヒト・アミリン)ヘシフトさせ、IC_(50)値を0.20nMから350nMへ増加させた。 N-α-ac-ヒト・アミリン(8-23)-NH_(2)のイン・ビボの作用は、-晩(220時間)絶食させ、麻酔(45mg/kg)したスプラーグ・ドーリ-ラット(?300g)で実験した。ラット・アミリン(50μg)の2分後に、以下の試料をカニユーレを通した頚静脈を介して個々のラットに注射した:(1)100μmのセーライン(n=5)、(2)ラット・アミリン(50μg)、(3)N-α-ac-ヒト・アミリン(8-23)-NH_(2)(100μg)および(4)N-α-ac-ヒト・アミリン(8-23)-NH_(2)(10(bzg)。注射30分後に、各々のラットから4-5m1の血液をヘパリン処理した試験管に採集し、遠心により血漿を分離した。血漿中のグルコースレベルおよびインスリンレベルを続いて測定し、その結果をFig.3aおよびFig.3bに各々掲載する。 Fig.3aを参照し、ラット・アミリンは、セーライン対照に比して、有意に血漿中のグルコースレベルを上昇させた。一方、N-α-ac-ヒト・アミリン(8-23)-NH_(2)は、恐らく内因的なアミリンの作用に拮抗することにより、該対照に比して有意に該血漿中のグルコースレベルを低下させた。さらにFig.3aに示すように、N-α-ac-ヒト・アミリン(8-23)-NH_(2)は、N -α-ac-ヒト・アミリン(8-23)-NH_(2)およびラット・アミリンを摂取したラットにおいて、ラット・アミリンによる血漿中のグルコースの上昇を有意に減じた(すなわち、血漿中のグルコースレベルを対照のレベル付近まで低下した)。Fig.3aおよびFig.3bならびに本明細書を通してのp値は、n=5?8として該ANOVA・プロダラムを用いて得た値を示す。 これらの知見は、N-α-ac-ヒト・アミリン(8-23)-NH_(2)が、イン・ビトロにおけるヒト・アミリンやイン・ビボにおけるラット・アミリンが潜在的なアンタゴニストであることを明確にしている。 Fig.4に参照し、ヒト・アミリン(1-23)-NH_(2)は、ヒト・アミリンと同様のイン・ビトロアッセイにおいて、インスリン刺激性のグルコース取込み阻害した。さらにFig.4に示すように、ヒト・アミリン(1-23)-NH_(2)は、天然のヒト・アミリンのものに比して、C_(2)C_(12)細胞によるインスリン-刺激性グルコースの取込みに対する潜在的な用量-反応阻害作用を示した。 Fig.5aに参照し、ヒト・アミリン(1-23)-NH_(2)は、ラット・アミリン誘導性の高血糖症を減じた。」(第7頁右上欄2行?左下欄11行) 上記a?dの記載から、引用例2の請求項1に特定されるポリペプチドはアミリン・アンタゴニストであり、また請求項5に特定されるポリペプチドはアミリン・アゴニストであると認められる。 (3)対比・検討 引用例2にアミリンのアゴニストとして記載されている、請求項5に特定されるポリペプチド化合物は、A^(1)?A^(23)のアミノ酸について複数の選択肢を有するものであるが、選択肢のなかから天然のヒトアミリンと同じアミノ酸(引用例2のFIG.1、配列番号:6のアミノ酸1-23)を選択した場合、請求項6に特定される以下のものとなる。なおこの化合物は、その配列が天然のヒトアミリンに近いことからみて、他の選択肢が選択された場合よりも、アミリンの生理活性機能が発揮される可能性がより高いものであると考えられる。 「Lys Cys Asn Thr Ala Thr Cys Ala Thr Gln Arg Leu Ala Asn Phe Leu Val His Ser Ser Asn Asn Phe -NH_(2)」 したがって、このアミリンの生理活性機能を持つことが予測される化合物を「引用発明」とする。 一方、本願補正発明について具体的なアミノ酸でその配列を記載すると、以下のとおりとなる。 「Lys Cys Asn Thr Ala Thr Cys Ala Thr [GlnまたはAla(Xaa3)] Arg Leu Ala[AsnまたはAla(Xaa4)] Phe Leu [ValまたはAla(Xaa5)] [ArgSerSerGlyTyr(配列番号48)、HisSerSerGlyTyr(配列番号50)、ArgAlaSerGlyTyr(配列番号54)、AlaSerSerGlyTyr(配列番号55)またはArgSerGlyTyr(配列番号58)(X_(6))]-NH_(2)」 本願補正発明のうち、X_(6)がHisSerSerGlyTyr(配列番号50)である場合と、引用発明を対比すると、両者は、N末端から1-20番目のアミノ酸配列の部分とC末端がアミド化(-NH_(2))されている点で一致し、本願補正発明のC末端のアミノ酸配列がGlyTyr(N末端から21、22番目のアミノ酸)であるのに対して、引用発明のC末端のアミノ酸配列がAsn Asn Phe(N末端から21-23番目のアミノ酸)である点で相違している。 そこで、以下検討する。 まず、引用例2には、A^(21)(N末端から21番目のアミノ酸)として、Asn以外にGlyも選択肢として記載されている(特許請求範囲、請求項1を参照。)から、引用発明の配列においてA^(21)のAsnをGlyに置換することは、当業者が容易になし得ることである。 また、引用例2には、A^(23)としてPhe以外に「置換基を有するもしくは有しないいずれかの芳香族アミノ酸」が選択肢として記載されており、「置換基を有する芳香族アミノ酸」としてTyrがあることは技術常識であるから、引用発明において、PheをTyrに置換することも、当業者が容易になし得ることである。 さらに、本願優先日当時において、ある活性を有するペプチドを取得した際に、当該ペプチドの活性を維持するように当該ペプチドを構成するアミノ酸の一部を欠失、置換又は付加して変異体を作製することは当該技術分野における周知技術であったものと認められるから、引用発明の配列において、A^(22)のAsnを欠失させた変異体を作製することも、当業者が容易になし得ることであると考えられる。 次に、ポリペプチドの生理活性機能(アミリン・アゴニスト活性およびカルシトニン・アゴニスト活性)について検討する。 本願補正発明のポリペプチドは、アミリンのアゴニストとしての活性を有することが、本願明細書の実施例A、実施例D、表I、表IIに示されている。 しかし上述したとおり、上記a?dの記載から、引用例2の請求項1に特定されるポリペプチドは、アミリン・アンタゴニストであり、また請求項5に特定されるポリペプチドはアミリン・アゴニストであると認められるが、請求項1に特定されるポリペプチドと請求項5に特定されるものの配列を比べると、両者の違いは、N末端側のアミノ酸配列(A^(1)?A^(7))の存否であることが理解されることから、請求項5に特定されるアミリン・アナログのN末端側にアミリンの生理活性機能に重要な配列が存在する可能性が高いことが理解される。 そうすると、配列の改変が1つのアミノ酸の欠失のような比較的小さい改変であり、しかもその改変が生理活性機能に重要な配列が存在すると考えられる部分以外である場合、当業者は、生理活性機能が維持されている可能性が高いと予測すると考えられる。つまり、引用発明の配列のA^(21)、A^(23)について、引用例2に記載された他の選択肢に置換し、さらにA^(22)を欠失させたものがアミリンのアゴニストであることは、引用例2の記載および技術常識から当業者が予測し得ることである。 また、本願補正発明のポリペプチドは、カルシトニンのアゴニストとしての活性を有することが、本願明細書の実施例B、実施例C、表Iに示されている。 しかし、引用例1(特開昭64-063594号公報)のFIG.2bにアミリンとカルシトニン遺伝子関連ペプチド類が相同性を有することが示され、さらに引用例1の第8頁右上欄には「ひとCGRP-1に対するアミリンの高度に有意なスコア-8.31を与えた(第2B図、配列1および配列3)」と記載されていること、引用例3(特表平10-503785号公報)の請求項8に、「該アミリンアゴニストがs-カルシトニンである請求項1?6いずれかに記載の方法。」と、s-カルシトニンがアミリンアゴニストとして使用されることが記載されていることからみると、アミリンとカルシトニンは相互にアゴニストであると考えられることが公知であったといえるから、アミリンのアゴニストであることが予測されるポリペプチドがカルシトニンのアゴニストであることも、当業者が予測し得ると考えられる。 そして、本願明細書の実施例A?D、表I、IIの記載をみても、本願補正発明のポリペプチドが、例えば天然のアミリンと比較して格別顕著な生理活性機能を示すなどのような、当業者が予測できないような効果を奏するとも認められない。 (3)まとめ 引用例2に記載される引用発明の配列は、アミリンのアゴニストとして記載されているものであり、そのA^(21)、A^(23)について、引用例2に記載された他の選択肢に置換することは当業者が容易になし得ることであり、さらにA^(22)を欠失させたものを作製することは、技術常識から当業者が容易になし得ることである。また、このようにして作製されたポリペプチドがアミリンやカルシトニンの生理活性機能を有することは、引用例1?3の記載から当業者が予期し得ることである。そして本願明細書の記載をみても、本願補正発明において当業者が予期できないような格別顕著な効果が奏されたとは認められない。 3.請求人の主張について 請求人は審判請求書において「引用例2(特表平07-509008号公報)でさえ、ヒトアミリン中の活性部位の位置を示しません。引用例2からは、さらに短いペプチドが恐らく活性を失うか、あるいはアンタゴニストになるであろうことを予期したものと考えます。切形されたペプチドが本願に示した二重のアゴニスト活性を有することを予測するものは引用例2には何もありません。予期せぬことに、本願出願人は、さらなる切形が活性を失わないということを見出しました。そして、さらに驚くべきことには、特許請求されたさらなる改変は、切形と併せてさえ活性を保持しました。引用技術のうち、これらの結果を合理的に予測するのを可能とするものはありません。」と主張している。 しかし、上記2.で述べたとおり、引用例1?3の記載から、本願補正発明のポリペプチドは、アミリンやカルシトニンのアゴニストとしての生理活性機能を有することが予測される。したがって、請求人の主張は失当である。 また請求人は、「ペプチドに対する特許請求した変更の結果、より安定ならせんを生じることを推測し、このらせんは、各末端のランダムコイル構造に加えてアミリンの主要な二次構造です。このより安定ならせんが、活性の予期しない保持を可能としたものと考えます。 Koehlら、1999年の文献はこの考えと一致しています(参考資料1ご参照)。Koehlは、第12527頁、表2の第3カラムの「デザイン」は、各アミノ酸につき、アルファらせん構造を形成および安定化するためのそれについての計算された傾向を提供します。デザインのカラムにおけるよりネガティブな値は、安定なアルファらせんを形成するためのより大きな傾向を有します。表2から見ることができるように、「A」(アラニン)は、「Q」(グルタミン)または「N」(アスパラギン)よりもアルファらせんを形成するためのより大きな傾向を有します。また、「R」(アルギニン)は、アルファらせんを形成および安定化させるための「H」(ヒスチジン)よりも大きな傾向を有します。重要なことには、本願の特許請求された各ペプチドのC末端の「GY」(グリシン-チロシン)は、引用例の天然ヒトアミリン配列に位置する「NN」(アスパラギン-アスパラギン)より非常にらせん安定性です。結果的に、本願の特許請求されたペプチドのアミノ酸置換は、天然ペプチド、または引用例1もしくは引用例2のものより全体的によりらせん安定性です。」とも主張している。 しかし、本願補正発明のポリペプチドが天然ペプチド、または引用例1もしくは引用例2のものより全体的によりも安定ならせんを生じていることは、本願明細書に記載されていない。請求人の安定性に関する主張は、単なる推測に過ぎず、具体的に確認されたものではない。したがって、請求人の主張は、本願明細書の記載や証拠に基づかないものであって、採用できない。 4.むすび 以上のとおり、本願補正発明は、引用例1?3に記載された発明および技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明 平成22年3月3日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は、平成21年10月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし82に記載された事項により特定されるとおりのものである。 第4.原査定の理由 原査定の理由は、概ね以下のとおりのものである。 1.本願請求項1?82に係る発明は、先の引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。(進歩性) 2.請求項77?82に記載の医薬組成物として用いる化合物には、明細書において具体的に製造してその活性について開示している16種類の化合物に比して膨大なバリエーションを包含する以上、何ら実証のない化合物については、I型糖尿病を治療するための医薬組成物、II型糖尿病を治療するための医薬組成物及び胃腸運動を有利に調節するための医薬組成物として使用できることについてはその可能性が示唆されているに留まり、その客観的な裏付けがなされておらず、該薬理効果が記載されていない。 したがって、請求項77?82に係る発明が、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。(実施可能要件) 3.本願の発明の詳細な説明に具体的に記載されている化合物は、配列番号1?46に示す46種類のペプチドのみであり、さらに、その中の配列番号1?16に示す16種類のペプチドについて、アミリン受容体への結合活性、カルシトニンアゴニスト活性及びカルシトニン受容体への結合活性を測定し、配列番号1,3,5?6,13?14に示す6種類のペプチドについて、胃内容物排出活性を測定しているのみである。 そして、ペプチドの技術分野では、当該ペプチドの一部を改変することでその活性が著しく変化し得ると考えるのが技術常識であることも勘案すると、上述したごく一部のペプチドに関する記載から、請求項1に記載されている膨大な化合物のバリエーションにまで本願発明を拡張ないし一般化することはできないと考えるのが合理的である。 請求項1?82の範囲は、発明の詳細な説明において発明として記載した範囲をこえていることが明らかであり、請求項1?82に係る発明は、発明の詳細な説明に発明として記載していない範囲について特許請求しようとするものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。(サポート要件) 第5.当審の判断 1.進歩性について (1)本願発明1 本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 式: X_(1)-Xaa_(1)-X_(2)-Xaa_(2)-X_(3)-Xaa_(3)-X_(4)-Xaa_(4)-X_(5)-Xaa_(5)-X_(6)-NH_(2)[式中、X_(1)は、Lys、Argまたは不存在であり; X_(2)は、Xaa_(6)Xaa_(7)Xaa_(8)Xaa_(9)(配列番号47)またはZ-Xaa_(10)SerThrであり、但し、X_(2)がZ-Xaa_(10)Ser-Thrである場合、X_(1)およびXaa_(1)は共に不存在であって、X_(6)は、ArgSer、LysSer、HisSerまたはArgThrである; X_(3)は、AlaThr、AlaSer、SerMet、GluThrまたはValThrであり; X_(4)は、ArgLeuAla、HisLeuAla、ArgIleAla、LysIleAla、ArgMetAla、HisMetAla、LysMetAlaまたはArgLeuThrであり; X_(5)は、PheLeu、PheIle、PheMet、TyrLeu、TyrIle、TyrMet、TrpIleまたはTrpMetであり; X_(6)は、ArgSerSerGlyTyr(配列番号48)、LysSerSerGlyTyr(配列番号49)、HisSerSerGlyTyr(配列番号50)、ProSerSerGlyTyr(配列番号51)、ArgSerArgGlyTyr(配列番号52)、ArgThrSerGlyTyr(配列番号53)、ArgAlaSerGlyTyr(配列番号54)、AlaSerSerGlyTyr(配列番号55)、ArgSerAlaGlyTyr(配列番号56)、HisSerAlaGlyTyr(配列番号57)またはArgSerGlyTyr(配列番号58)であり; Xaa_(1)は、Cysまたは不存在であり; Xaa_(2)は、CysまたはAlaであり; Xaa_(3)は、Gln、AlaまたはAsnであり; Xaa_(4)は、Asn、AlaまたはGlnであり; Xaa_(5)は、Val、Ala、Ile、Met、Leu、ペンチルGly、またはt-ブチルGlyであり; Xaa_(6)は、Asn、GlnまたはAspであり; Xaa_(7)は、Thr、Ser、Met、Val、LeuまたはIleであり; Xaa_(8)は、AlaまたはValであり; Xaa_(9)は、ThrまたはSerであり; Xaa_(10)は、Leu、Val、MetまたはIleであり;および Zは、1ないし8個の炭素原子のアルカノイル基または不存在である] で表される化合物またはその医薬上許容される塩。」 (2)検討 本願発明1は、「式:」で特定される化合物のアミノ酸、ペプチドの選択肢について、本願補正発明が特定するものよりも広い範囲のアミノ酸、ペプチドを選択肢として特定しており、本願発明1は本願補正発明を内包している。 したがって、上記第2の2.で検討した本願補正発明と同様の理由により、本願発明1は、引用例1?3に記載された発明および技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 2.実施可能要件について 本願の請求項77?82は以下に示すとおり、医薬組成物に関するものである。 「【請求項77】請求項1、56、57および58のうちいずれか1記載の化合物および医薬上許容される担体を含むことを特徴とする医薬組成物。 【請求項78】 治療上有効量の請求項1、56、57または58のうちいずれか1記載の化合物を含むことを特徴とする対象において糖尿病を治療するための医薬組成物。 【請求項79】 該糖尿病がI型糖尿病である請求項78記載の医薬組成物。 【請求項80】 該糖尿病がII型糖尿病である請求項78記載の医薬組成物。 【請求項81】 治療上有効量の請求項1、56、57または58のうちいずれか1記載の化合物を含むことを特徴とする対象において胃腸運動を有利に調節するための医薬組成物。 【請求項82】 胃腸運動の該有利な調節が胃内排出を遅延させることを含むことを特徴とする請求項81記載の医薬組成物。」 これらの医薬組成物は、有効成分の化合物として請求項1に特定される広範な化合物を選択肢に含むものであって、発明の詳細な説明に生理活性機能について具体的に開示されている配列番号1?16の化合物とは、アミノ酸配列が大きく異なるものを包含している。そして、ポリペプチドの生理活性機能について、あるアミノ酸配列をもつポリペプチドにおいて機能が確認されても、それとは配列が大きく異なる場合には、該機能が失われたり、変化すると考えられるから、発明の詳細な説明には、本願の医薬組成物全体が使用できることが明らかにされていない。 また、I型糖尿病を治療するための医薬組成物、II型糖尿病を治療するための医薬組成物及び胃内排出を遅延させるための医薬組成物として使用できることについては、その可能性が示唆されているに留まり、その客観的な裏付けがなされておらず、該薬理効果が記載されていない。 したがって、本願明細書は、請求項77?82に係る発明について、発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとは認められず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 3.サポート要件について 発明の詳細な説明における具体的に生理活性機能の記載についてみると、配列番号1?16の16種類のペプチドについて、アミリン受容体への結合活性、カルシトニンアゴニスト活性及びカルシトニン受容体への結合活性が測定され、配列番号1,3,5,6,13,14の6種類のペプチドについて、胃内容物排出活性が測定されていることが認められる。 しかし、上記2.で述べたように、ポリペプチドの生理活性機能について、あるアミノ酸配列をもつポリペプチドにおいて機能が確認されても、それとは配列が大きく異なる場合には、該機能が失われたり、変化すると考えられる。 そうすると、上記16種類または6種類という一部のポリペプチドの生理活性機能に関する記載から、請求項1に特定されるような、上記一部のポリペプチドとはアミノ酸配列が大きく異なるものを包含する、膨大な化合物のバリエーションにまで拡張ないし一般化することはできない。 したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に発明として具体的に記載された範囲を超えて特許を請求しようとするものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 4.むすび 以上のとおり、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また本願は、特許法第36条第4項および第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-08-14 |
結審通知日 | 2012-08-21 |
審決日 | 2012-09-03 |
出願番号 | 特願2000-566301(P2000-566301) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(C07K)
P 1 8・ 537- Z (C07K) P 1 8・ 121- Z (C07K) P 1 8・ 536- Z (C07K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 三原 健治、松田 芳子 |
特許庁審判長 |
鵜飼 健 |
特許庁審判官 |
中島 庸子 新留 豊 |
発明の名称 | 新規な抗糖尿病ペプチド |
代理人 | 山崎 宏 |
代理人 | 田中 光雄 |
復代理人 | 佐藤 剛 |
復代理人 | 鮫島 睦 |