• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1268921
審判番号 不服2010-16618  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-07-23 
確定日 2013-01-16 
事件の表示 特願2007-519239「固相重合工程が改良された2段階溶融重合法によるポリベンゾイミダゾールの製造方法。」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月 9日国際公開、WO2006/014211、平成20年 2月21日国内公表、特表2008-505209〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年6月9日(パリ条約による優先権主張 平成16年7月2日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成21年5月27日付けで拒絶理由が通知され、同年10月29日に意見書とともに誤訳訂正書が提出されたが、平成22年3月18日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成22年7月23日に審判請求と同時に手続補正書が提出され、同年9月17日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、同年12月1日付けで前置報告書がなされ、当審において平成24年3月6日付けで審尋がなされ、同年6月11日に回答書が提出されたものである。

2.平成22年7月23日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[結論]
平成22年7月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正の内容
平成22年7月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成21年10月29日提出の誤訳訂正書により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)及び特許請求の範囲をさらに補正するものであって、補正前の特許請求の範囲の記載である

「【請求項1】
攪拌手段と雰囲気を制御する手段とを有する第一反応容器を準備し、
前記反応容器に、芳香環上オルト位置に2対のアミン置換基を含む少なくとも一種の芳香族炭化水素テトラアミン、並びに下記式:
【化1】(略)
(式中、R’は、芳香族炭化水素環、アルキレン基及び複素環からなる群のうちのいずれかの二価の有機基でありそしてジカルボキシル成分を形成する各種分子中で同じでも異なっていてもよく、及びYは、水素、アリール又はアルキルでもよくYの95%までは水素又はフェニルである)を有する少なくとも一種の化合物からなるジカルボキシル成分を充填し、反応塊を生成し、
前記反応物を、実質的に酸素を含まない雰囲気内で加熱し、攪拌機のトルクが、粘度が上昇し始める前のトルクの1.5倍?6倍になるまで攪拌し、
攪拌を停止し、反応混合物を、230℃?350℃の温度に加熱し続けて前記反応塊を発泡させ、
前記反応塊を冷まして脆い発泡塊にし、
前記脆い発泡塊を破砕して粉砕プレポリマーを得る第一段階のステップを含み、次いで
攪拌手段及び圧力もしくは真空度を制御する手段を有する高強度反応容器の第二反応容器を準備し、
前記粉砕プレポリマーを前記第二反応容器に移し、
前記粉砕プレポリマーを攪拌しながら、大気圧下、90分?400分間、315?400℃に加熱するステップを含む第二段階を開始する、
第一段階と第二段階によるポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項2】
第二段階で、加熱と攪拌のステップを、僅かに正の圧力下で実施する請求項1に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項3】
第二段階における前記僅かに正の圧力が2mbar?30mbarである請求項2に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項4】
第二段階における前記僅かに正の圧力が0.61mbar?12.7mbarである請求項2に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項5】
第二段階における前記加熱が200分間?320分間実施される請求項2に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項6】
第二段階において、前記粉砕プレポリマーを攪拌しながら、僅かに正の圧力下、220分間?330分間、330℃?350℃に加熱して、平均インヘレント粘度が少なくとも0.7dL/gですべての粒子の粒径の範囲が150ミクロン以上1000ミクロン以下であるポリベンゾイミダゾールを製造する請求項1に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項7】
前記高分子量ポリベンゾイミダゾールが、10g/cm^(2)以上のプラッギング値を有する請求項6に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項8】
前記第一段階で、前記反応物の加熱に先立って、減圧して133.3mbar?613.3mbarの真空度にする、請求項1に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項9】
第二段階において、前記粉砕プレポリマーを攪拌しながら、僅かに正の圧力下、200分間?360分間、355℃?400℃に加熱して、平均インヘレント粘度が少なくとも1.0 dL/gですべての粒子の粒径範囲が150ミクロン以上1000ミクロン以下であるポリベンゾイミダゾールを製造する請求項1に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項10】
前記ポリベンゾイミダゾールが、10g/cm^(2)以上のプラッギング値を有する請求項9に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項11】
前記第二段階で、前記粉砕プレポリマーを攪拌しながら、僅かに正の圧力下、200分?360分間、330?350℃に加熱し、次いで
平均インヘレント粘度が少なくとも0.7 dL/gですべての粒子の粒径範囲が150ミクロン以上1000ミクロン以下でかつプラッギング値が10g/cm^(2)以上である高分子量ポリベンゾイミダゾールを製造する請求項1記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項12】
前記芳香族テトラアミンが3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニルである請求項1に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項13】
前記ジカルボキシル成分がイソフタル酸ジフェニルである請求項1に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項14】
前記高強度反応容器が、回転炉型の反応機、流動床型の反応機、静的混合型の反応機、攪拌オートクレーブ、攪拌ガラス容器、連続ニーダー反応機、逆方向回転プロセッサー、同方向回転プロセッサー及び一軸形回転プロセッサーから成る群から選ばれる請求項1記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。」
から、
「【請求項1】
攪拌手段と雰囲気を制御する手段とを有する第一反応容器を準備し、
前記反応容器に、芳香環上オルト位置に2対のアミン置換基を含む少なくとも一種の芳香族炭化水素テトラアミン、並びに下記式:
【化1】(略)
(式中、R’は、芳香族炭化水素環、アルキレン基及び複素環からなる群のうちのいずれかの二価の有機基でありそしてジカルボキシル成分を形成する各種分子中で同じでも異なっていてもよく、及びYは、水素、アリール又はアルキルでもよくYの95%までは水素又はフェニルである)を有する少なくとも一種の化合物からなるジカルボキシル成分を充填し、反応塊を生成し、
前記反応物を、実質的に酸素を含まない雰囲気内で加熱し、攪拌機のトルクが、粘度が上昇し始める前のトルクの1.5倍?6倍になるまで攪拌し、
攪拌を停止し、反応混合物を、230℃?350℃の温度に加熱し続けて前記反応塊を発泡させ、
前記反応塊を冷まして脆い発泡塊にし、
前記脆い発泡塊を破砕して粉砕プレポリマーを得る第一段階のステップを含み、次いで
攪拌手段及び圧力もしくは真空度を制御する手段を有する高強度反応容器であって、回転炉型の反応機、流動床型の反応機、静的混合型の反応機、攪拌オートクレーブ、攪拌ガラス容器、連続ニーダー反応機、逆方向回転プロセッサー、同方向回転プロセッサー及び一軸形回転プロセッサーから成る群から選ばれた高強度反応容器の第二反応容器を準備し、
前記粉砕プレポリマーを前記第二反応容器に移し、
前記粉砕プレポリマーを攪拌しながら、大気圧下、90分?400分間、315?400℃に加熱するステップを含む第二段階を開始する、
第一段階と第二段階によるポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項2】
第二段階で、加熱と攪拌のステップを、僅かに正の圧力下で実施する請求項1に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項3】
第二段階における前記僅かに正の圧力が2mbar?30mbarである請求項2に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項4】
第二段階における前記僅かに正の圧力が0.61mbar?12.7mbarである請求項2に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項5】
第二段階における前記加熱が200分間?320分間実施される請求項2に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項6】
第二段階において、前記粉砕プレポリマーを攪拌しながら、僅かに正の圧力下、220分間?330分間、330℃?350℃に加熱して、平均インヘレント粘度が少なくとも0.7dL/gですべての粒子の粒径の範囲が150ミクロン以上1000ミクロン以下であるポリベンゾイミダゾールを製造する請求項1に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項7】
前記高分子量ポリベンゾイミダゾールが、10g/cm^(2)以上のプラッギング値を有する請求項6に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項8】
前記第一段階で、前記反応物の加熱に先立って、減圧して133.3mbar?613.3mbarの真空度にする、請求項1に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項9】
第二段階において、前記粉砕プレポリマーを攪拌しながら、僅かに正の圧力下、200分間?360分間、355℃?400℃に加熱して、平均インヘレント粘度が少なくとも1.0 dL/gですべての粒子の粒径範囲が150ミクロン以上1000ミクロン以下であるポリベンゾイミダゾールを製造する請求項1に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項10】
前記ポリベンゾイミダゾールが、10g/cm^(2)以上のプラッギング値を有する請求項9に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項11】
前記第二段階で、前記粉砕プレポリマーを攪拌しながら、僅かに正の圧力下、200分?360分間、330?350℃に加熱し、次いで
平均インヘレント粘度が少なくとも0.7 dL/gですべての粒子の粒径範囲が150ミクロン以上1000ミクロン以下でかつプラッギング値が10g/cm^(2)以上である高分子量ポリベンゾイミダゾールを製造する請求項1記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項12】
前記芳香族テトラアミンが3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニルである請求項1に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。
【請求項13】
前記ジカルボキシル成分がイソフタル酸ジフェニルである請求項1に記載のポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。」
へと補正するものである。

(3)補正の目的
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項14に記載した「前記高強度反応容器が、回転炉型の反応機、流動床型の反応機、静的混合型の反応機、攪拌オートクレーブ、攪拌ガラス容器、連続ニーダー反応機、逆方向回転プロセッサー、同方向回転プロセッサー及び一軸形回転プロセッサーから成る群から選ばれる」なる事項によって、同請求項1に記載の事項である「高強度反応容器」を限定するものであって、本件補正の目的は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第2号に揚げる特許請求の範囲の減縮に該当する。

(4)独立特許要件について
そこで、本件補正が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定、いわゆる「独立特許要件」を満たすかどうかについて、検討する。

(4-1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明1」という。)は、本件補正後の明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「攪拌手段と雰囲気を制御する手段とを有する第一反応容器を準備し、
前記反応容器に、芳香環上オルト位置に2対のアミン置換基を含む少なくとも一種の芳香族炭化水素テトラアミン、並びに下記式:
【化1】(略)
(式中、R’は、芳香族炭化水素環、アルキレン基及び複素環からなる群のうちのいずれかの二価の有機基でありそしてジカルボキシル成分を形成する各種分子中で同じでも異なっていてもよく、及びYは、水素、アリール又はアルキルでもよくYの95%までは水素又はフェニルである)を有する少なくとも一種の化合物からなるジカルボキシル成分を充填し、反応塊を生成し、
前記反応物を、実質的に酸素を含まない雰囲気内で加熱し、攪拌機のトルクが、粘度が上昇し始める前のトルクの1.5倍?6倍になるまで攪拌し、
攪拌を停止し、反応混合物を、230℃?350℃の温度に加熱し続けて前記反応塊を発泡させ、
前記反応塊を冷まして脆い発泡塊にし、
前記脆い発泡塊を破砕して粉砕プレポリマーを得る第一段階のステップを含み、次いで
攪拌手段及び圧力もしくは真空度を制御する手段を有する高強度反応容器であって、回転炉型の反応機、流動床型の反応機、静的混合型の反応機、攪拌オートクレーブ、攪拌ガラス容器、連続ニーダー反応機、逆方向回転プロセッサー、同方向回転プロセッサー及び一軸形回転プロセッサーから成る群から選ばれた高強度反応容器の第二反応容器を準備し、
前記粉砕プレポリマーを前記第二反応容器に移し、
前記粉砕プレポリマーを攪拌しながら、大気圧下、90分?400分間、315?400℃に加熱するステップを含む第二段階を開始する、
第一段階と第二段階によるポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。」

(4-2)引用文献の記載事項
本出願の優先日前に頒布された刊行物であって、原審の拒絶査定の理由に引用された刊行物である特開昭63-22833号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア.「1.第1段階において芳香族環上互いにオルト位置にある2対のアミン置換基をもつ少なくとも1の芳香族テトラアミン、少なくとも1の遊離ジカルボン酸および1価フエノール系化合物の混合物を上記テトラアミンの融点以上の縮合重合温度に加熱し、攪拌しながら攪拌トルクの急昇がおこるまで加熱をつづけた後攪拌をやめ反応混合物を230から350℃まで加熱をつづけて実質的に発泡させ、脆い発泡体を冷し粉砕して粉末プレポリマーとした後第2段階で上記プレポリマーを第1段階で使つた最高温度以上の温度に加熱攪拌して望む重合度をもつものとする工程を特徴とするポリベンズイミダゾールの2段階製造法。」(特許請求の範囲「請求項1」)

イ.「本発明の方法の第1段階は芳香族テトラアミン、ジカルボン酸、1価フエノール系化合物および使うならば触媒を230-350℃、好ましくは280-340℃の温度に激しく撹拌しながら加熱して行なう。ジカルボン酸化合物の融点とジカルボン酸とテトラアミンの化学特性によつて攪拌される液体はスラリ、均質混合物又は2不混和性液体の乳濁液となるであろう。反応物質の粘度が攪拌エネルギー増加によつてあらわれた攪拌機上の増加トルクで示される様に上昇を始めたとき攪拌をやめ更に加熱して発泡させる。攪拌を中止する点は一般に攪拌機トルクと攪拌エネルギーがテトラアミンがとけた後の初めのトルク又は攪拌エネルギーの約1000%以上に、好ましくは約300%以上に上昇しない様な点である。次いで物質は攪拌せずに例えば約230乃至350℃、好ましくは約280乃至340℃の温度に加熱される。この加熱は例えば約0.25乃至3時間、好ましくは約0.5乃至1.5時間の間つづけられる。次いで発泡体は融点以下、例えば室温に冷されて脆い固体塊となり容易に粉砕される。」(第6頁右下欄3行?第7頁左上欄5行)

ウ.「次いで粉砕したプレポリマーを第2段階中通常攪拌しながら約300乃至420℃、好ましくは約360乃至400℃に例えば約0.25乃至4時間、好ましくは約0.5乃至2時間加熱し望む重合度に到達させるのである。」(第7頁左上欄9行?12行)

エ.「本発明の2段階法によつて可能とされる操作利点の他にこの方法はまた分子量の表示である比較的高固有粘度とポリマー中にある不溶解ゲルと不溶解固体粒子の量を示している濾過能力尺度である比較的高プラツキング値をもつポリマーを生ずる。」(第7頁右上欄11行?15行)

オ.「本発明の両段階における使用圧力は少なくとも大気圧、例えば1乃至2気圧、好ましくは大気圧と同じでよい。この圧力は普通反応副成物として生成する化合物を除去するためのコンデンサーをもつ開放重合系を用いてえられる。
方法の両段階は実質的に酸素のない雰囲気中で行なわれる。例えば重合反応中窒素又はアルゴンの様な不活性ガスを反応域に絶えずとおすことができる。使用不活性ガスは実質的に酸素を含まないことが必要で、酸素量約20ppm以下、好ましくは約8ppm以下が必要である。不活性ガスは標準状態で、即ち大気圧、温度で毎分反応域容量の約1乃至200%の範囲の流速で反応域に入れる。不活性ガスは室温で又は必要ならば反応温度に予熱して重合反応域にとおすことができる。」(第7ページ左下欄1行?13行)

カ.「対照実施例AからDまで
本実施例は本発明の方法を用いたが但しモノマー反応体と共に反応機に1価フエノール系化合物を加えないポリマー製造について記載している。
窒素出入口、攪拌機およびコンデンサー付き三ツ首丸底1lフラスコにイソフタル酸(IPA)23.6g(0.140モル)、3,3’,4,4’-テトラアミノジフエニル(TAB)30.0g(0.140モル)およびトリフエニルホスフアイト(TPP)1.8g(5.8ミリモル)を入れた。フラスコの空気を排出し窒素を満たし、これを少なくとも3回反復した。フラスコを油浴中350℃/時に加熱し300℃とした。300rpm、で攪拌をつづけ凝縮物発生がおそくなり攪拌モーター上のトルクの急増がみられた。この時点で油温度290℃であつた。攪拌を止めると反応フラスコ中の重合物質は発泡した。油浴温を300℃に上げこの温度に1時間保つた。えた生成物を室温まで冷し粉砕した。粉砕したプレポリマーをフラスコに入れ排気を反復した後プレポリマーを60rpmで380℃で1.5時間攪拌加熱した。
実施例1-9
これらの実施例は重合反応にフエノール添加の効果を例証するものである。
対照実施例A-Dの方法を反復した。」(第7ページ右下欄下から2行?第8ページ右上欄5行)

引用文献には、上記摘示ア.のとおり、ポリベンズイミダゾールの2段階製造法が記載されているところ、摘示オ.には、かかる2段階製造法は大気圧で実施することが好ましいこと及び実質的に酸素のない雰囲気中で行われることが記載され、摘示ウ.には、2段階製造法における第2段階では撹拌しながら約300乃至420℃で約0.25乃至4時間、すなわち約15乃至240分間加熱することが記載されている。してみれば、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「第1段階において芳香族環上互いにオルト位置にある2対のアミン置換基をもつ少なくとも1の芳香族テトラアミン、少なくとも1の遊離ジカルボン酸および1価フエノール系化合物の混合物を、大気圧下、実質的に酸素のない雰囲気中で、上記テトラアミンの融点以上の縮合重合温度に加熱し、攪拌しながら攪拌トルクの急昇がおこるまで加熱をつづけた後攪拌をやめ反応混合物を230から350℃まで加熱をつづけて実質的に発泡させ、脆い発泡体を冷し粉砕して粉末プレポリマーとした後第2段階で上記プレポリマーを約15乃至240分間、約300乃至420℃に加熱攪拌して望む重合度をもつものとする工程を特徴とするポリベンズイミダゾールの2段階製造法。」

(4-3)対比
ここで、引用発明における「芳香族環上互いにオルト位置にある2対のアミン置換基をもつ少なくとも1の芳香族テトラアミン」及び「遊離ジカルボン酸」としては、摘示カ.のとおり、3,3’,4,4’-テトラアミノジフエニル及びイソフタル酸が用いられており、これらは、本願明細書の発明の詳細な説明における「好ましい芳香族テトラアミンは3,3’,4,4’-テトラアミノビフェニルである。」(段落【0009】)及び「イソフタル酸は、遊離型またはエステル化された型のいずれかのジカルボン酸であり、又はイソフタル酸ジフェニル(1,3-ベンゼンジカルボン酸、ジフェニルエステル)が本発明の方法に使うのに最も好ましい。」(段落【0012】)の記載からみて、本件補正発明1における「芳香環上オルト位置に2対のアミン置換基を含む少なくとも一種の芳香族炭化水素テトラアミン」及び「下記式:【化1】(略)
(式中、R’は、芳香族炭化水素環、アルキレン基及び複素環からなる群のうちのいずれかの二価の有機基でありそしてジカルボキシル成分を形成する各種分子中で同じでも異なっていてもよく、及びYは、水素、アリール又はアルキルでもよくYの95%までは水素又はフェニルである)を有する少なくとも一種の化合物からなるジカルボキシル成分」にそれぞれ相当することは明らかである。
したがって、本件補正発明1と引用発明と対比すると、両者の一致点及び相違点は次のとおりであると認められる。

<一致点>
「第一反応容器を準備し、
前記反応容器に、芳香環上オルト位置に2対のアミン置換基を含む少なくとも一種の芳香族炭化水素テトラアミン、並びに下記式:
【化1】(略)
(式中、R’は、芳香族炭化水素環、アルキレン基及び複素環からなる群のうちのいずれかの二価の有機基でありそしてジカルボキシル成分を形成する各種分子中で同じでも異なっていてもよく、及びYは、水素、アリール又はアルキルでもよくYの95%までは水素又はフェニルである)を有する少なくとも一種の化合物からなるジカルボキシル成分を充填し、反応塊を生成し、
前記反応物を、実質的に酸素を含まない雰囲気内で加熱し、攪拌し、
攪拌を停止し、反応混合物を、230℃?350℃の温度に加熱し続けて前記反応塊を発泡させ、
前記反応塊を冷まして脆い発泡塊にし、
前記脆い発泡塊を破砕して粉砕プレポリマーを得る第一段階のステップを含み、次いで
前記粉砕プレポリマーを攪拌しながら、大気圧下、90分?400分間、315?400℃に加熱するステップを含む第二段階を開始する、
第一段階と第二段階によるポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。」

<相違点1>
本件補正発明1が、第一反応容器に関して、「攪拌手段と雰囲気を制御する手段とを有する第一反応容器」なる事項を発明を特定するために必要と認める事項(以下、「発明特定事項」という。)として備えるのに対して、引用発明においてはかかる事項について規定していない点。
<相違点2>
引用発明においては、第1段階において、芳香族テトラアミン及び遊離ジカルボン酸に加えて、1価フェノール系化合物を用いるのに対して、本件補正発明1においては、かかる化合物を用いることについて規定していない点
<相違点3>
第1段階において撹拌を停止する時点について、本件補正発明1が、「攪拌機のトルクが、粘度が上昇し始める前のトルクの1.5倍?6倍になるまで攪拌し」なる事項を発明特定事項として備えるのに対して、引用発明においてはかかる事項を規定していない点。
<相違点4>
本件補正発明1が、「攪拌手段及び圧力もしくは真空度を制御する手段を有する高強度反応容器であって、回転炉型の反応機、流動床型の反応機、静的混合型の反応機、攪拌オートクレーブ、攪拌ガラス容器、連続ニーダー反応機、逆方向回転プロセッサー、同方向回転プロセッサー及び一軸形回転プロセッサーから成る群から選ばれた高強度反応容器の 第二反応容器を準備し、前記粉砕プレポリマーを前記第二反応容器に移し」なる事項を発明特定事項として備えるのに対して、引用発明においてはかかる事項について規定していない点。

(4-4)判断
以下、上記各相違点について検討する。

<相違点1>について
引用発明においては、第1段階に使用する反応容器についてどのような手段を有するものであるのかについて規定していないが、第1段階において撹拌しながら加熱していることは、摘示ア.、イ.及びカ.に記載のとおりであるから、引用発明において第1段階で使用する反応容器が実質的に撹拌手段を備えていることは明らかである。さらに、引用発明における第1段階も、摘示オ.からみて、実質的に酸素のない雰囲気で行われるものであって、かかる雰囲気を創成するためには反応容器に雰囲気を制御するための何らかの手段が必要であることは自明の事項である。そうであれば、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

<相違点2>について
本件補正発明1は、「前記反応容器」に、「芳香族炭化水素テトラアミン」、並びに「ジカルボキシル成分」を「充填」することをその発明特定事項として備えるものであり、かかる事項からは、第3の成分、例えば1価フェノール系化合物を用いることを排除するものとは解することができないことから、相違点2は実質的な相違点とはいえない。また、本願明細書の発明の詳細な説明には、「色、PV、『ゲル』のレベル、粒径分布、比重を含む最終ポリマー製品の特性は、他の要因、例えばモノマーの化学量論、・・・、フェノールのレベル、及びモノマー(特にテトラアミノビフェニル(TAB))の純度によって、影響を受けることがある。」(段落【0029】)なる記載のとおり、フェノール系化合物の存在を前提とした記載があることから、かかる記載からも、本件補正発明1にあっては、フェノール系化合物を用いることを排除するものであるとはいえない。
なお、請求人は、この点に関して、平成24年6月11日提出の回答書において補正案に関連した主張をしているところであり、下記7.請求人の主張に対する検討の項において検討する。

<相違点3>について
引用発明は、第1段階において撹拌を停止する条件に関する事項を発明特定事項として備えるものではないが、摘示イ.には、かかる事項に関して、「攪拌を中止する点は一般に攪拌機トルクと攪拌エネルギーがテトラアミンがとけた後の初めのトルク又は攪拌エネルギーの約1000%以上に、好ましくは約300%以上に上昇しない様な点である。」と記載がある。一方、本願明細書には、「攪拌エネルギーが増大することによって示される攪拌機に対するトルクの増大で示されるように反応塊の粘度が上昇し始めた時、撹拌を停止し、その反応塊をさらに加熱して発泡させる。撹拌を停止する時点は、一般に、攪拌機トルクと攪拌エネルギーが、テトラアミンが溶融した後、最初のトルク又は攪拌エネルギーの例えば約1000%を超えて好ましくは約300%を超えて上昇しない様な時点である。」(段落【0019】)なる記載があり、かかる記載内容が、本件補正発明1における「攪拌機のトルクが、粘度が上昇し始める前のトルクの1.5倍?6倍になるまで攪拌し」なる事項に対応していることは明らかである。そして、上記摘示イ.の記載内容と本願明細書の上記段落における記載内容が同等の事項を意味していることも明らかであるから、結局、引用発明は、本件補正発明1と同等の発明特定事項を備えた態様を含むものと解するのが自然であり、相違点3は実質的な相違点とはいえない。

<相違点4>について
相違点4については、(1)第二反応容器が撹拌手段及び圧力もしくは真空度を制御する手段を有する高強度反応容器であること、(2)高強度反応容器が、回転炉型の反応機、流動床型の反応機、静的混合型の反応機、攪拌オートクレーブ、攪拌ガラス容器、連続ニーダー反応機、逆方向回転プロセッサー、同方向回転プロセッサー及び一軸形回転プロセッサーから成る群から選ばれたものであること、及び(3)粉砕プレポリマーを第二反応容器に移すこと、に分節することができるので、それぞれ順に検討する。
(1)について
引用発明においても、第2段階において撹拌していることは、摘示ア.、ウ.及びカ.に記載のとおりであるから、引用発明において第2段階で使用する反応容器が実質的に撹拌手段を備えていることは明らかである。
また、引用文献には、摘示オ.のとおり、第2段階における使用圧力は1乃至2気圧と記載していることから、第2段階を2気圧で実施することが引用発明の態様として含まれるものと解することができるものである。そうであれば、第二反応容器としては2気圧で実施するための手段を備えたもの、すなわち圧力を制御する手段を有する第二反応容器も引用発明に含まれるものと解することができる。
さらに、第二反応容器が高強度反応容器であることについて、本願明細書にはいかなる基準により「高強度」であるかどうかを判断するのかについて記載がなく、「高強度」であることを具体的に把握することは困難であるから、「高強度」とは第2段階の反応を実施するのに十分な強度を備えていると解することが自然である。引用発明においては、第二反応容器の強度を特段規定していないが、引用発明における第2段階とは、本件補正発明1と実質的に同等の条件で実施する第1段階の反応により得られるプレポリマーの粉砕物を撹拌・加熱することであって、本件補正発明1の第2段階と相違するものではないから、引用発明における第二反応容器は本願補正発明1の第2段階を実施するのに十分な強度を備えた程度のものとなり、引用発明における第二反応容器は「高強度」であるといえる。
(2)について
摘示カ.からみて、引用発明は、第2段階をフラスコを用いて撹拌加熱することをその実施の態様として含むものであり、かかる態様においては引用発明は撹拌手段を有するフラスコを使用していると解することが自然である。また、高分子化学を含めて化学の分野においてはフラスコは通常ガラス製であることを考慮すれば、引用発明において第2段階で使用している容器、すなわち第二反応容器としては、撹拌ガラス容器を含むものである。
(3)について
摘示カ.には、「粉砕したプレポリマーをフラスコに入れ」と記載されており、かかる記載におけるフラスコが第二反応容器を指すことは明らかであるから、引用発明においても、粉砕プレポリマーを第二反応容器に移す態様が含まれると解される。

以上のとおりであるから、(1)?(3)に分節して検討した相違点4は実質的な相違点とはいえない。

<小括>
上記相違点1乃至4については、上記検討のとおりであるから、本件補正発明1は、引用文献に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。


3.本願発明
上記2.のとおり、平成22年7月23日付けの手続補正は、決定をもって却下された。
したがって、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成21年10月29日付けの誤訳訂正書により補正された明細書及び特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「攪拌手段と雰囲気を制御する手段とを有する第一反応容器を準備し、
前記反応容器に、芳香環上オルト位置に2対のアミン置換基を含む少なくとも一種の芳香族炭化水素テトラアミン、並びに下記式:
【化1】(略)
(式中、R’は、芳香族炭化水素環、アルキレン基及び複素環からなる群のうちのいずれかの二価の有機基でありそしてジカルボキシル成分を形成する各種分子中で同じでも異なっていてもよく、及びYは、水素、アリール又はアルキルでもよくYの95%までは水素又はフェニルである)を有する少なくとも一種の化合物からなるジカルボキシル成分を充填し、反応塊を生成し、
前記反応物を、実質的に酸素を含まない雰囲気内で加熱し、攪拌機のトルクが、粘度が上昇し始める前のトルクの1.5倍?6倍になるまで攪拌し、
攪拌を停止し、反応混合物を、230℃?350℃の温度に加熱し続けて前記反応塊を発泡させ、
前記反応塊を冷まして脆い発泡塊にし、
前記脆い発泡塊を破砕して粉砕プレポリマーを得る第一段階のステップを含み、次いで
攪拌手段及び圧力もしくは真空度を制御する手段を有する高強度反応容器の第二反応容器を準備し、
前記粉砕プレポリマーを前記第二反応容器に移し、
前記粉砕プレポリマーを攪拌しながら、大気圧下、90分?400分間、315?400℃に加熱するステップを含む第二段階を開始する、
第一段階と第二段階によるポリベンゾイミダゾールの溶融重合方法。」

4.拒絶査定の理由について
原審において拒絶査定の理由とされた、平成21年5月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由の概要は以下のとおりである。

「【理由1】この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
【理由2】この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(略)
【理由1】
・請求項 1?20
・引用文献等 1,2
・備考(略)

【理由2】
・請求項 1?20
・引用文献等 1,2
・備考(略)

引 用 文 献 等 一 覧

1.特開昭63-022833号公報
2.(略)」


5.引用文献の記載事項
平成21年5月27日付け拒絶理由通知書における引用文献1であって、上記2.(4-2)の引用文献である特開昭63-022833号公報の記載事項は、上記2.(4-2)引用文献の記載事項において、記載した事項と同じである。

6.対比・判断
本願発明は、上記2.で検討した本件補正発明1において、第二反応容器に関して「回転炉型の反応機、流動床型の反応機、静的混合型の反応機、攪拌オートクレーブ、攪拌ガラス容器、連続ニーダー反応機、逆方向回転プロセッサー、同方向回転プロセッサー及び一軸形回転プロセッサーから成る群から選ばれた」なる事項を備えないものである。
してみると、本願発明と本件補正発明1との関係において、本願発明に係る「第二反応容器」を限定した本件補正発明1が、上記2.(4)のとおり、引用文献1に記載された発明であれば、本願発明も同様の理由により、引用文献1に記載された発明である。

7.請求人の主張に対する検討
請求人は、平成24年6月11日提出の回答書において、第一反応容器に充填する反応物について、「芳香族炭化水素テトラアミンとジカルボキシル成分から成る」と補正することにより、引用文献1における1価フェノール系化合物を含まないことを明確にする用意がある旨主張するが、引用文献1には、上記2.(4-2)でカ.として摘示したとおり、「対照実施例A?D」として、1価フェノール系化合物を加えないポリマー製造について(引用文献1の)本発明の方法を用いた具体的な製造方法について記載していることから、仮に、本願発明を請求人に主張するように補正したとしても、かかる補正に基づいた発明は引用文献1に記載した発明であることから、請求人の主張を採用することはできない。

8.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-21 
結審通知日 2012-08-24 
審決日 2012-09-05 
出願番号 特願2007-519239(P2007-519239)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松岡 弘子村上 騎見高  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 大島 祥吾
藤本 保
発明の名称 固相重合工程が改良された2段階溶融重合法によるポリベンゾイミダゾールの製造方法。  
代理人 松島 鉄男  
代理人 森本 聡二  
代理人 深川 英里  
代理人 吉田 尚美  
代理人 河村 英文  
代理人 有原 幸一  
代理人 中村 綾子  
代理人 奥山 尚一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ