• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1268951
審判番号 不服2011-959  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-14 
確定日 2013-01-15 
事件の表示 特願2000-556402「制御されたアニールによる炭化シリコンパワーデバイスの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成11年12月29日国際公開、WO99/67825、平成14年 7月 2日国内公表、特表2002-519851〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、1999年6月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1998年6月8日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成12年12月8日に国内書面が提出され、平成22年5月10日付けの拒絶理由通知に対して、同年8月4日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年1月14日に審判請求がされるとともに手続補正書が提出されたものである。
そして、その後、平成24年1月18日付けで審尋がなされたが、これに対する回答書は提出されなかったものである。


第2.補正の却下の決定
【補正の却下の決定の結論】
平成23年1月14日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。

【理由】
1.補正の内容
平成23年1月14日に提出された手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであって、その内容は以下のとおりである。

〈補正事項1〉
補正前の請求項1の「前記深いp型注入領域と前記浅いn型注入領域を1650℃未満でアニールする工程」を、補正後の請求項1の「前記深いp型注入領域と前記浅いn型注入領域を1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする工程」と補正する。

〈補正事項2〉
補正前の請求項2?3を削除する。

〈補正事項3〉
補正前の請求項4?20を補正後の請求項2?18に繰り上げる。

〈補正事項4〉
補正前の請求項11?12が引用する請求項は「請求項10」であったものを、対応する補正後の請求項9?10は引用する請求項を「請求項8」に繰り上げ、補正前の請求項13が引用する請求項を「請求項7」であったものを、対応する補正後の請求項は引用する請求項を「請求項5」に繰り上げ、そして、補正前の請求項14?17が引用する請求項は「請求項13」であったものを、対応する補正後の請求項12?15が引用する請求項を「請求項11」に繰り上げる。

〈補正事項5〉
補正前の請求項18の「前記炭化シリコン基板の温度を増大させる工程の後に、前記深いp型注入領域及び前記浅いn型注入領域をアニールする工程」を、補正後の請求項16の「前記炭化シリコン基板の温度を増大させる工程の後に、前記深いp型注入領域及び前記浅いn型注入領域を1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする工程」と補正する。

〈補正事項6〉
補正前の請求項19?20が引用する請求項は「請求項18」であったものを、対応する補正後の請求項17?18が引用する請求項を「請求項16」に繰り上げる。

〈補正事項7〉
補正前の請求項21?23を削除する。

〈補正事項8〉
補正前の請求項24?35を補正後の請求項19?30に繰り上げる。

〈補正事項9〉
補正前の請求項24?28が引用する請求項は「請求項18」であったものを、対応する補正後の請求項19?23は引用する請求項を「請求項16」に繰り上げ、補正前の請求項29?30が引用する請求項は「請求項28」であったものを、対応する補正後の請求項24?25が引用する請求項を「請求項23」に繰り上げ、補正前の請求項31が引用する請求項は「請求項24」であったものを、対応する補正後の請求項26が引用する請求項を「請求項19」に繰り上げ、そして、補正前の請求項32?35が引用する請求項は「請求項31」であったものを、対応する補正後の請求項27?30が引用する請求項を「請求項26」に繰り上げる。

2.新規事項の有無
補正事項1及び補正事項5の補正について、新規事項の有無を検討する。

ア.補正事項1及び補正事項5の補正は、いずれも、「アニールする工程」が、「前記深いp型注入領域」及び「前記浅いn型注入領域」を「1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする工程」であると補正するものである。

イ.これに対して、特許法第184条の6第2項の規定により本願の願書に添付して提出した明細書及び図面とみなされる、平成12年12月8日付けで提出された、本願の国際出願日における明細書及び図面の翻訳文を提出した書面である国内書面には、「アニールする工程」に関して以下の事項が記載されている。
a.「【0026】
次に図1(F)参照すると、アニールは、深いp型注入領域118a、118bを横方向へそれぞれの浅いn型注入領域124a、124bを囲む炭化シリコン基板の表面102aまで拡散させるのに十分で、それぞれの深いp型注入領域を縦方向にそれぞれの浅いn型注入領域124a、124bを通って、炭化シリコン基板の表面まで拡散させることのない温度と時間で実行される。例えば好ましくは、深いp型注入領域の浅いn型注入領域124a、124b内への、その浅いn型注入領域124a、124bの厚さの5%未満までの縦方向の拡散が生じる。アニールは、例えば5分間1600℃において生じて深いp型注入領域を約1μmだけ拡散させる。しかしながら、他のアニール時間と温度を使用することもできる。例えば、約1500℃?約1600℃の間のアニール温度と約1分?約30分の間のアニール時間とにより、ホウ素を深いp型注入領域から縦及び横方向へ約0.5μm?3μm間の距離まで拡散させうることを利用してもよい。」
b.「【0049】
次に図9を参照して、本発明による、アニール時間を一定としてアニール温度を変動させた場合の拡散を説明する。ホウ素と窒素の注入条件は図8に関連して説明されたものである。
【0050】
図9に示されているように、注入された窒素と比較すると1600℃では窒素の極めてわずかな拡散しか生じない。しかしながら、1650℃では、窒素拡散が生じ始める。図9はまた、1500℃または1600℃において、浅い窒素注入領域へのホウ素の極めてわずかなホウ素の拡散しか生じないことも示している。しかしながら、1650℃では、深いホウ素注入領域から浅い窒素注入領域への著しいホウ素拡散が生じる。したがって、アニールは、好ましくは1650℃未満、しかし好ましくは1550℃以上の温度で行われる。より好ましくは、アニールは約1600℃で行われる。
【0051】
いかなる動作原理によって拘束されることは望まないが、1550℃未満の温度では、不十分な熱エネルギーが、実用的な時間内において、深いp型注入領域から浅いn型注入領域を囲む炭化シリコンの表面への拡散を可能にするように与えられることが考えられる。それとは対照的に、1650℃を越える温度においては、深いp型注入領域が浅いn型注入領域を通る炭化シリコンの表面と縦方向に顕著に拡散する。この著しい縦方向拡散はデバイス性能を劣化させることがあり、また浅い窒素注入領域を囲む炭化シリコン基板の表面へ側方拡散して残存するホウ素量を減少させることもある。したがって、アニール温度は1550℃?1650℃の間が好ましい。このことは、公開されたPCT国際特許出願WO98/02916においてアニール時間が1650℃?1800℃の間で行われていることと、はっきりと対照的である。」
c.「【0052】
次に図10を参照すると、アニール時間もデバイス性能に対して重大な影響があり得ることも見出されている。特に、図10は、1600℃において5分間、10分間及び20分間のアニール中の注入されたホウ素及び窒素の拡散をグラフで示している。図10の注入条件は図8のそれと同一である。
【0053】
図10に示されているように、5分間1600℃におけるアニールでは、窒素は全く拡散せず、顕著でない量のホウ素が浅いn型注入領域内に拡散する。10分間のアニールでは、窒素の若干の縦方向の拡散とホウ素の浅い窒素注入領域内への若干の拡散とが存在するが、これらの量は著しくデバイス性能を劣化させるものではないであろう。それとは対照的に、20分間のアニールでは、ホウ素の浅い窒素注入領域への著しい縦方向の拡散が生じる。したがって、5分間?15分間の多様な温度が好ましいが、10分間のある1つの温度が最も好ましい。
【0054】
いかなる動作原理によっても拘束されることは望まないが、15分よりも長いアニール時間では、ホウ素の浅い窒素注入領域内への著しい拡散が、低いアニール温度でも生じることがあるということが考えられる。さらに、5分未満のアニール時間では、基板表面への側方拡散を満足するp+拡散領域を形成するにはホウ素の深いp型注入領域からの拡散が不十分であることもある。」

ウ.前記aには、「深いp型注入領域の浅いn型注入領域124a、124b内への、その浅いn型注入領域124a、124bの厚さの5%未満までの縦方向の拡散が生じる」ことが「好まし」いこと、そのため、「5分間1600℃」の「アニール」で「深いp型注入領域を約1μmだけ拡散させる」こと、「約1500℃?約1600℃の間のアニール温度と約1分?約30分の間のアニール時間とにより、ホウ素を深いp型注入領域から縦及び横方向へ約0.5μm?3μm間の距離まで拡散させうることを利用してもよい。」ことが記載されている。
前記bには、「アニール時間を一定としてアニール温度を変動させた場合の拡散」の結果から、「アニール温度は1550℃?1650℃の間が好ましい。」こと、「より好ましくは、アニールは約1600℃で行われる」ことが記載されているが、図9を参照しても、上記「一定」の「アニール時間」は何分であるのか不明である。
前記cには、「1600℃において5分間、10分間及び20分間のアニール中の注入されたホウ素及び窒素の拡散」の結果から、「20分間のアニールでは、ホウ素の浅い窒素注入領域への著しい縦方向の拡散が生じる。したがって、5分間?15分間の多様な温度が好ましい」こと、「15分よりも長いアニール時間では、ホウ素の浅い窒素注入領域内への著しい拡散が、低いアニール温度でも生じ」、「5分未満のアニール時間では、基板表面への側方拡散を満足するp+拡散領域を形成するにはホウ素の深いp型注入領域からの拡散が不十分である」ことが記載されている。

エ.前記aが、「前記深いp型注入領域」及び「前記浅いn型注入領域」を「1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする工程」を開示したものでないことは明らかである。
前記bには、「アニール時間を一定としてアニール温度を変動させた場合」は「アニール温度は1550℃?1650℃の間が好ましい。」こと、「より好ましくは、アニールは約1600℃で行われる」ことが記載されているものの、その時の「一定」の「アニール時間」は何分であるのか、図9を参照しても、不明である。そして、前記「約1600℃」で行われる「アニール」は、「一定」の「アニール時間」で行われるものであり、「5分間?15分間」というアニール時間範囲が好ましいことを開示したものではない。
また、前記cは、「1600℃」という特定のアニール温度のときに、「5分間?15分間」というアニール時間が好ましいことを開示したものであって、「1550℃以上で1600℃未満」の温度範囲内において当該アニール時間でアニールを行うことを記載したものではない。
そして、国内書面の他の記載を参照しても、「前記深いp型注入領域」及び「前記浅いn型注入領域」を「1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする」ことは、記載も示唆もされていない。また、「前記深いp型注入領域」及び「前記浅いn型注入領域」を「1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする」ことが、国内書面の記載から自明な事項であるとも認められない。

オ.以上から、補正事項1及び補正事項5の本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく、よって、補正事項1及び補正事項5の本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入する補正であると認められる。
したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反する。

3.補正目的の適否
前項で述べたように、補正事項1及び補正事項5の本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでない。
しかし、仮に、補正事項1及び補正事項5の本件補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるとして、補正事項1?9の補正目的について検討する。

ア.補正事項1についての補正は、「前記深いp型注入領域と前記浅いn型注入領域」の「アニール」条件を、補正前の請求項1においては「1650℃未満でアニールする」であったものを、補正後の請求項1においては「1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮(発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とするものである。

イ.補正事項5における、補正前の請求項18を補正後の請求項16に繰り上げるとともに、補正前の請求項18の「前記炭化シリコン基板の温度を増大させる工程の後に、前記深いp型注入領域及び前記浅いn型注入領域をアニールする工程」を、補正後の請求項16の「前記炭化シリコン基板の温度を増大させる工程の後に、前記深いp型注入領域及び前記浅いn型注入領域を1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする工程」とする補正は、補正前の請求項18にあっては特に限定されていなかった前記「アニール」の条件を、補正後の請求項16においては「1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする」と限定するものであるから、前記特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ウ.補正事項2及び補正事項7における補正前の請求項2?3及び21?23を削除する補正、補正事項3及び補正事項8における補正前の請求項を繰り上げる補正、また、補正事項4、6、9における引用する請求項を繰り上げる補正は、いずれも、請求項の削除を目的とするものである。

エ.したがって、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

4.独立特許要件
前項で述べたように、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かについて、以下において検討する。

(1)本件補正後の発明
本件補正による補正後の請求項1?30に係る発明は、本件補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1?30に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】 炭化シリコン基板の一表面をマスク(112)して該表面に開口部を確定する工程と、
前記開口部を通して前記炭化シリコン基板内にp型ドーパント(116)を、深いp型注入領域(118a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程と、
前記開口部を通して前記炭化シリコン基板内にn型ドーパント(122)を、前記深いp型注入領域と比較して浅いn型注入領域(124a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程と、
前記深いp型注入領域と前記浅いn型注入領域を1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする工程と、
を有することを特徴とする炭化シリコン・パワーデバイスの製造方法。」

(2)引用例及び引用例に記載された発明
(2-1)引用例1の記載
本願の優先権主張の日前に外国において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において「引用文献1」として引用された刊行物である、Jayarama N. Shenoy et al.,“High-Voltage Double-Implanted Power MOSFET's in 6H-SiC”,IEEE ELECTRON DEVICE LETTERS,1997年3月1日,vol.18,No.3,pp.93-95(以下「引用例1」という。)には、Fig.1とともに、次の記載がある(下線は、参考のため、当審において付したものである。以下、他の刊行物についても同様である。)。

a.“Abstract-We report on the first planar high-voltage MOSFET’s in 6H-SiC. A double-implant MOS (DIMOS) process is used. The planar structure ameliorates the high-field stressing encountered by SiC UMOS transistors fabricated by other groups. Blocking mode operation of up to 760 V is demonstrated, which is nearly three times higher than previously reported operating voltages for SiC MOSFET’s. ”
翻訳:「アブストラクト-我々は、6H-SiCを用いる最初のプレーナ形高電圧MOSFETについて報告する。ダブル注入MOS(DIMOS)プロセスが用いられる。プレーナ構造は、他のグループによって製造されたSiC-UMOSが遭遇する高電界ストレスの問題を解決する。ブロッキングモードで760V以上の動作を実現したが、これは、先に報告されたSiC-MOSFETの動作電圧の約3倍である。」

b.“II. DEVICE FABRICATION
Two n-type 6H-SiC wafers are used to fabricate DIMOS transistors in this report. Both have 10-μm thick n^(-)epilayers of dopings 1.7×10^(16)cm^(-3) (wafer D1) and 6.5×10^(15)cm^(-3) (wafer D2), respectively. The p-type wells are created by multiple energy boron implants performed at 650℃ through a polysilicon mask. The desired implant profiles are calculated from the empirical data of Ahmed et al. [11], and the implant mask thickness is calculated using TRIM [12]. The first wafer has a retrograde implant profile at energies of 30, 50,100,160,240, and 360 keV with doses of 1.5,2.0,3.0,8.0,28,and 36×10^(13)cm^(-2), respectively. The second wafer has a box profile implant with the same energies but with doses of 1.5,2.0,3.0,8.0,14,and 18×10^(13)cm^(-2),respectively.”(第93頁右欄第11?25行)
翻訳:「II. デバイスの製造
この報告では、2つのn型6H-SiCウエハがDIMOSトランジスタを製造するために使用される。両者は、それぞれ、1.7×10^(16)cm^(-3) (wafer D1) と6.5×10^(15)cm^(-3) (wafer D2) の不純物濃度を有する厚さ10μmのn^(-)エピ層を有している。p型ウェルが、ポリシリコン・マスクを通って650℃で行なわれる多数のエネルギーのホウ素の注入によって作成される。希望の注入プロフィールは、アフマッドらの実験データから計算され、また、注入マスク厚さはTRIMを使用して計算される。第1のウエハーは、それぞれ、30,50,100,160,240及び360kevの注入エネルギーで、注入量が1.5,2.0,3.0,8.0,28及び36×10^(13)cm^(-2)の、逆の注入プロファイルを有する。第2のウエハーは、同じ注入エネルギーだが、注入量が1.5,2.0,3.0,8.0,14及び18×10^(13)cm^(-2)のボックス注入プロファイルを有する。」

c.“On test wafers used for implant activation studies, we have found B-implanted profiles to be deeper by 40-45% than their predicted values and the activation to be about 6% after a 1600℃ implant activation anneal. The profiles were measured by CV profiling, and the 6H-SiC test wafers were given a single-dose implant at 240 keV. The increased implant depths may be caused by in-diffusion of boron during the activation anneal [13]. Nitrogen implants are performed with a second implant mask layer aligned to the first one. A multiple nitrogen implant profile at energies of 30, 70,120, and 190 keV with doses of 4.0, 6.5, 8.0, and 11×10^(14)cm^(-2), respectively, is used for both wafers. The implant mask for this step is thermally evaporated Cr-Au patterned by a liftoff technique. Both implants are activated simultaneously in an alumina lined tube furnace at 1600℃ for 30 min in an argon ambient.”(第93頁右欄第30行?第94頁左欄第11行)
翻訳:「注入の活性化の研究のために用いたテストウェハにおいて、ホウ素の注入プロファイルは、その予測値より40?45%深く、1600度のアニールの後は約6%活性化が進んだことを見出した。注入プロファイルはCV特性のプロファイルから測定し、6H-SiCのテストウエハには240eVで一回の注入を行った。活性化のためのアニールの間のホウ素の内部への拡散により、注入の深さの増加を引き起こす。窒素の注入は、最初のマスクに一直線に合わせられた第2の注入マスクにより行なわれる。前記二つのウェハを使用して、それぞれ、30,70,120と190kevの注入エネルギーで、注入量が4.0,6.5,8.0と11×10^(14)cm^(-2)で、窒素が注入される。このステップのための注入マスクは、リフトオフ技術による、Cr-Auの熱蒸着パターンである。両方の注入は、筒型炉に並べられたアルミナ上で、アルゴン雰囲気下で1600℃30分の条件で処理することで、同時に活性化される。」

d.“The next photoresist layer is used to open windows in the oxide over the n^(+) source regions and to lift off nickel contacts to the source. Nickel is deposited by electron-beam evaporation to a thickness of 100 nm and the contacts are not annealed in the devices reported here.”(第94頁左欄第20?24行)
翻訳:「n^(+)ソース領域上の酸化膜に開口を開けるために次のフォトレジスト層が使用され、前記ソース上にニッケルコンタクトが形成される。ニッケルは電子ビーム蒸着により100nmの厚さに蒸着されるが、コンタクトは本報告においてはアニールされていない。」

e.ダブル注入MOSトランジスタの断面図を図示するFig.1には、n^(+)ドレインコンタクトの上に形成されたn^(-)ドリフト領域の上部に、2つのpウェルが設けられており、前記2つのpウェル内に、それぞれ、n^(+)領域が設けられていることが、図示されている。

(2-2)引用発明
以上のa?eから、引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「n型6H-SiCウエハが有するn^(-)エピ層上に設けられたポリシリコン・マスクを通ってホウ素を、所定の注入エネルギーと所定の注入量で注入することで、p型ウェルを形成するステップと、
前記ポリシリコン・マスクに一直線に合わせられた第2の注入マスクにより、窒素を、所定の注入エネルギーと所定の注入量で注入することで、前記p型ウェル内にn^(+)ソース領域を形成するステップと、
アルゴン雰囲気下で1600℃30分の条件でアニールすることで、両方の前記注入を同時に活性化するステップと、
を有することを特徴とする6H-SiCを用いる高電圧DIMOSトランジスタの製造方法。」

(2-3)引用例2の記載
本願の優先権主張の日前に外国において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において「引用文献2」として引用された刊行物である、国際公開第98/02916号(以下「引用例2」という。)には次の記載がある。

f.“First of all an insulating layer 1 of AlN is applied on top of a SiC-layer 2 being lightly n- doped preferably at a doping concentration of about 10^(15) cm^(-3) with a suitable donor, such as for instance N or P. The SiC-layer is monocrystalline, and due to the good lattice- match of monocrystalline AlN with SiC the AlN-layer may be applied on the SiC-layer while obtaining a high interface quality between the layers 1 and 2 by for instance CVD. A further layer 3 of a refractory material being a conductor of electricity, in this case TiN, is applied on top of the AlN-layer. An aperture 4 is then etched through the layers 1 and 3 and to the surface of the SiC-layer 2. n-type dopants are then implanted into an area of the SiC-layer defined by said aperture for forming a high doping concentration of donors in a surface-near layer 5 of the SiC-layer under said area. Any type of donors suitable for SiC may be used, such as for instance N and P. After that p-type dopants having a considerably higher diffusion rate in SiC than the n-type dopants implanted for forming the layer 5 are implanted into the area of the SiC-layer defined by said aperture to such a degree that the doping type of said surface-near layer is maintained, i.e. the donors do still dominate in this layer. The implantation of the p-type dopants are carried out to different depths, i.e. while using different acceleration energies therefor, into said SiC-layer, so that p-type dopants are implanted deeply into this area when high energies, such as 300 keV, are used for creating a deep layer 6 of p-type under the layer 5. This implantation is preferably carried out so that the layer 6 will be highly doped. Acceptors having a reasonable high diffusion rate in SiC are boron, beryllium and aluminium. Boron is the preferred one, since beryllium is highly toxic and aluminium requires temperatures of about 2 000℃ for obtaining a reasonable diffusion rate, whereas the corresponding temperature for boron is about 1 700℃.”(明細書の第8頁第4?33頁)
翻訳:「先ず最初に、僅かにn-ドープした、好ましくは適当なドナー、例えば、N又はPのようなドナーを約10^(15)cm^(-3)のドーピング濃度でドープしたSiC層2の上表面の上にAlNの絶縁層1を適用する。SiC層は単結晶質であり、単結晶AlNとSiCとの良好な格子整合により、層1と2との間に高品質の界面を形成しながら、SiC層上に、例えばCVDによりAlN層を適用する。電気伝導体である耐火性材料、この場合にはTiNである耐火性材料の層3をAlN層の上表面の上に更に適用する。次に層1及び3を通ってSiC層2の表面まで孔4をエッチングする。次に前記孔によって定められたSiC層領域中にn-型ドーパントをインプラントし、前記領域下のSiC層の表面近辺層5中に高濃度のドナーをドープする。例えば、N及びPのように、SiCに適したどのような型のドナーでも使用することができる。層5を形成するためにインプラントしたn-型ドーパントよりもSiC中でかなり大きな拡散速度を有するp-型ドーパントを、前記孔によって定められたSiC層領域内に、前記表面近辺層のドーピング型が維持され、即ち、この層内でドナーが依然として優勢であるような程度にインプラントする。p-型ドーパントのインプランテーションは、前記SiC層中の異なった深さまで、即ちそのための異なった加速エネルギーを用いながら行い、大きなエネルギー、例えば、300keVを用いた場合にはこの領域中深くp-型ドーパントをインプラントし、層5の下のp-型の深層6を形成する。このインプランテーションは、層6が高度にドープされるように行うのが好ましい。SiC中で合理的な大きな拡散速度を有するアクセプタはホウ素、ベリリウム、及びアルミニウムである。ホウ素が好ましいものである。なぜなら、ベリリウムは極めて毒性が強く、アルミニウムは合理的な拡散速度を得るためには約2000℃の温度を必要とするのに対し、ホウ素の対応する温度は約1700℃だからである。」

(3)対比
(3-1)補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比する。

ア.引用発明は「n型6H-SiCウエハが有するn^(-)エピ層上に設けられたポリシリコン・マスクを通ってホウ素を、所定の注入エネルギーと所定の注入量で注入することで、p型ウェルを形成する」ものである。
したがって、「ホウ素」を「注入」して「p型ウェルを形成」するためには、引用発明の「p型ウェルを形成するステップ」に先立って、「n型6H-SiCウエハが有するn^(-)エピ層上に設けられたポリシリコン・マスク」に、「n^(-)エピ層」の「p型ウェルを形成」しようとする部分の表面が露出するように、開口を設けていることは、明らかである。
そして、この、引用発明の「p型ウェルを形成するステップ」に先立って、「n型6H-SiCウエハが有するn^(-)エピ層上に設けられたポリシリコン・マスク」に、「n^(-)エピ層」の「p型ウェルを形成」しようとする部分の表面が露出するように、開口を設けるステップは、補正発明の「炭化シリコン基板の一表面をマスク(112)して該表面に開口部を確定する工程」に相当する。

イ.引用発明は、「前記p型ウェル内にn^(+)ソース領域を形成する」から、「p型ウェル」は、「n^(+)ソース領域」と比較して深い注入領域である。
したがって、引用発明の「n型6H-SiCウエハが有するn^(-)エピ層上に設けられたポリシリコン・マスクを通ってホウ素を、所定の注入エネルギーと所定の注入量で注入することで、p型ウェルを形成するステップ」は、補正発明の「前記開口部を通して前記炭化シリコン基板内にp型ドーパント(116)を、深いp型注入領域(118a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程」に相当する。

ウ.引用発明は、「前記p型ウェル内にn^(+)ソース領域を形成する」から、「n^(+)ソース領域」は、「p型ウェル」と比較して浅い注入領域である。そして、引用発明において、「窒素」を「注入する」ための「第2の注入マスク」は、「前記ポリシリコン・マスクに一直線に合わせられ」ているものの、「前記ポリシリコン・マスク」とは異なるものである。
これに対して、補正発明において、「n型ドーパント(122)」を「注入する」ときと、「p型ドーパント(116)」を「注入する」ときとで、同じ「マスク(112)」の同じ「前記開口部」を利用している。
したがって、引用発明の「前記ポリシリコン・マスクに一直線に合わせられた第2の注入マスクにより、窒素を、所定の注入エネルギーと所定の注入量で注入することで、前記p型ウェル内にn^(+)ソース領域を形成するステップ」と、補正発明の「前記開口部を通して前記炭化シリコン基板内にn型ドーパント(122)を、前記深いp型注入領域と比較して浅いn型注入領域(124a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程」とは、開口部を通して前記炭化シリコン基板内にn型ドーパント(122)を、前記深いp型注入領域と比較して浅いn型注入領域(124a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程である点で共通する。

エ.引用発明の「アルゴン雰囲気下で1600℃30分の条件でアニールすることで、両方の前記注入を同時に活性化するステップ」と、補正発明の「前記深いp型注入領域と前記浅いn型注入領域を1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする工程」とは、前記深いp型注入領域と前記浅いn型注入領域をアニールする工程である点で共通する。

オ.引用発明の「6H-SiCを用いる高電圧DIMOSトランジスタ」は、補正発明の「炭化シリコン・パワーデバイス」に相当する。

(3-2)一致点及び相違点
以上、ア?オを総合すると、補正発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、相違する。
(一致点)
「炭化シリコン基板の一表面をマスク(112)して該表面に開口部を確定する工程と、
前記開口部を通して前記炭化シリコン基板内にp型ドーパント(116)を、深いp型注入領域(118a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程と、
開口部を通して前記炭化シリコン基板内にn型ドーパント(122)を、前記深いp型注入領域と比較して浅いn型注入領域(124a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程と、
前記深いp型注入領域と前記浅いn型注入領域をアニールする工程と、
を有することを特徴とする炭化シリコン・パワーデバイスの製造方法。」

(相違点1)
補正発明では、「深いp型注入領域(118a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程」と「浅いn型注入領域(124a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程」とで、同じ「マスク」の同じ「開口部」を用いるのに対して、引用発明は、「前記p型ウェル内にn^(+)ソース領域を形成するステップ」においては、「p型ウェルを形成するステップ」で用いた「前記ポリシリコン・マスク」とは異なる「前記ポリシリコン・マスクに一直線に合わせられた第2の注入マスク」を用いる点。

(相違点2)
補正発明では、「前記深いp型注入領域と前記浅いn型注入領域をアニールする工程」を「1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間」行うのに対して、引用発明は、「アルゴン雰囲気下で1600℃30分の条件でアニールすることで、両方の前記注入を同時に活性化する」点。

(4)相違点についての当審の判断
(4-1)相違点1について
ア.引用発明は、「前記p型ウェル内にn^(+)ソース領域を形成するステップ」においては、「p型ウェルを形成するステップ」で用いた「前記ポリシリコン・マスク」に「一直線に合わせられ」ているものの、当該「ポリシリコン・マスク」とは異なる「第2の注入マスク」を用いている。すなわち、引用発明においては、前記互いに異なる「ポリシリコン・マスク」と「第2の注入マスク」という2つの「マスク」に、それぞれ、「ホウ素」ないし「窒素」を「注入する」ための開口を設けるステップが必要となる。

イ.これに対して、前記「(2-3)引用例2の記載」の項において摘記したように、引用例2には、
n-型ドーパントとして好ましくは窒素で僅かにn-ドープしたSiC層2の上表面の上に、AlNの絶縁層1とTiNである耐火性材料層3を形成し、前記絶縁層1及び耐火性材料層3を通ってSiC層2の表面までエッチングして孔4を開口することで、前記絶縁層1及び耐火性材料層3に開口して設けた前記孔4を、前記孔4によって定められたSiC層2の領域に対するn-型ドーパントのインプラントと、前記孔4によって定められたSiC層の領域に対する好ましくはホウ素であるp-型ドーパントのインプラントとに共用すること、
が記載されている。

ウ.さて、半導体デバイスの製造方法に限らず、一般の製造方法において、使用する材料や道具を共有化して、製造工程を簡素化しようとすることは、共通する技術課題であると認められる。

エ.してみれば、引用例2に記載の公知技術と同様に、「n型6H-SiCウエハが有するn^(-)エピ層」表面の、「マスク」に設けた開口によって定められる領域に、「ホウ素」と「窒素」とを「注入する」引用発明において、前記「ホウ素」の「注入」と前記「窒素」の「注入」とで、同じ「マスク」の同じ開口を用いることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(4-2)相違点2について
ア.前記「2.新規事項の有無」の項で指摘したように、「前記深いp型注入領域」及び「前記浅いn型注入領域」を「1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする」ことは、本願の願書に添付して提出した明細書及び図面とみなされる国内書面には記載されておらず、また、国内書面の記載から自明な事項であるとも認められない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明に、「前記深いp型注入領域」及び「前記浅いn型注入領域」を「1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする」ことによって、何らかの臨界的な効果を奏することが記載されているとも認められない。

イ.請求人は、審判請求書の請求の理由の「5.本発明が特許されるべき理由」の項で「引用文献1には、SiC基板上にDIMOSを形成するために、Bをイオン注入した後にNをイオン注入する工程と、1600℃で30分間熱処理を行う技術が記載されて」いるが「本発明の「1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする」という特徴は、引用文献1にもその他の引用文献にも記載も示唆もされておりませんし、当業者が容易に想到し得ることではありません」と主張している。

ウ.しかしながら、所望の拡散領域の大きさを考慮して、アニール温度やアニール時間を設定することは慣用技術であり、また、不純物がどのように拡散するのかは、アニール条件だけではなく、ドーパントの注入量等によっても異なるものであるから、アニール温度及びアニール時間によって一義的に決定するものではない。
したがって、アニール温度やアニール時間をどの程度とするかは、所望の拡散領域の大きさや、ドーパントの注入量等を考慮して、当業者が適宜選択し得るものである。
よって、引用発明において、「1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする」ことによって、「両方の前記注入を同時に活性化する」ことは、当業者であれば適宜なし得たものと認められる。

エ.なお、請求人は、審判請求書の請求の理由の「5.本発明が特許されるべき理由」の項で「深いp型注入領域から浅いn型注入領域を囲む炭化シリコンの表面への好ましい拡散を可能にするという本発明の格別な効果についても、当業者が容易に予測できるものでもありません。」とも主張している。

オ.しかしながら、本願明細書の段落【0026】には、
・「アニールは、深いp型注入領域118a、118bを横方向へそれぞれの浅いn型注入領域124a、124bを囲む炭化シリコン基板の表面102aまで拡散させるのに十分で、それぞれの深いp型注入領域を縦方向にそれぞれの浅いn型注入領域124a、124bを通って、炭化シリコン基板の表面まで拡散させることのない温度と時間で実行される。」こと、
・「好ましくは、深いp型注入領域の浅いn型注入領域124a、124b内への、その浅いn型注入領域124a、124bの厚さの5%未満までの縦方向の拡散が生じる。アニールは、例えば5分間1600℃において生じて深いp型注入領域を約1μmだけ拡散させる。」こと、
・「他のアニール時間と温度を使用することもできる。例えば、約1500℃?約1600℃の間のアニール温度と約1分?約30分の間のアニール時間とにより、ホウ素を深いp型注入領域から縦及び横方向へ約0.5μm?3μm間の距離まで拡散させうる」こと、
が記載されている。
すなわち、引用発明の「1600℃30分の条件でアニールする」とのアニール条件は、前記段落【0026】に記載された「炭化シリコン基板の表面まで拡散させることのない温度と時間」の「他のアニール時間と温度」である、「約1500℃?約1600℃の間のアニール温度と約1分?約30分の間のアニール時間」というアニール条件に包含されている。

カ.したがって、上記エの主張は、当を得ておらず、これを採用することはできない。

(4-3)判断のまとめ
以上のとおりであるから、相違点1、2は、いずれも格別のものではなく、引用発明を相違点1、2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、補正発明の効果も、引用発明から当業者が予期し得たものである。
したがって、補正発明は、引用発明及び引用例2に記載された公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(5)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反する。

5.小括
以上のとおりであるので、本件補正は、平成14年法律第24号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
そして、仮に、本件補正が前記改正前の特許法第17条の2第3項の規定に適合するとしても、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成23年1月14日に提出された手続補正書による補正は前記のとおり却下されたので、本願の請求項1?35に係る発明は、平成22年8月4日に提出された手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1?35に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載されている事項により特定される、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
炭化シリコン基板の一表面をマスク(112)して該表面に開口部を確定する工程と、
前記開口部を通して前記炭化シリコン基板内にp型ドーパント(116)を、深いp型注入領域(118a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程と、
前記開口部を通して前記炭化シリコン基板内にn型ドーパント(122)を、前記深いp型注入領域と比較して浅いn型注入領域(124a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程と、
前記深いp型注入領域と前記浅いn型注入領域を1650℃未満でアニールする工程と、
を有することを特徴とする炭化シリコン・パワーデバイスの製造方法。」

2.引用例及び引用例に記載された発明
本願の優先権主張の日前に外国において頒布され、原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された刊行物である引用例1及び引用例2には、「第2.補正の却下の決定」の「4.独立特許要件」の「(2)引用例及び引用例に記載された発明」において、「(2-1)引用例1の記載」及び「(2-3)引用例2の記載」の項で摘記したとおりの事項が記載されている。
そして、引用例1には、同「(2)引用例及び引用例に記載された発明」において、「(2-2)引用発明」の項に記載したとおりの発明(引用発明)が記載されている。

3.対比
ア.本願発明は、補正発明の「前記深いp型注入領域と前記浅いn型注入領域を1550℃以上で1600℃未満の温度において5分間?15分間にアニールする工程」を、「前記深いp型注入領域と前記浅いn型注入領域を1650℃未満でアニールする工程」に置き換えたものである。

イ.そして、引用発明の「アルゴン雰囲気下で1600℃30分の条件でアニールすることで、両方の前記注入を同時に活性化するステップ」において、「アルゴン雰囲気下で1600℃30分の条件でアニールする」というアニール条件は、本願発明の「1650℃未満でアニールする」というアニール条件に包含される。
よって、引用発明の「アルゴン雰囲気下で1600℃30分の条件でアニールすることで、両方の前記注入を同時に活性化するステップ」は、本願発明の「前記深いp型注入領域と前記浅いn型注入領域を1650℃未満でアニールする工程」に相当する。

ウ.してみれば、本願発明と引用発明とは、以下の点で一致し、また、相違している。
(一致点)
「炭化シリコン基板の一表面をマスク(112)して該表面に開口部を確定する工程と、
前記開口部を通して前記炭化シリコン基板内にp型ドーパント(116)を、深いp型注入領域(118a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程と、
開口部を通して前記炭化シリコン基板内にn型ドーパント(122)を、前記深いp型注入領域と比較して浅いn型注入領域(124a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程と、
前記深いp型注入領域と前記浅いn型注入領域を1650℃未満でアニールする工程と、
を有することを特徴とする炭化シリコン・パワーデバイスの製造方法。」

(相違点3)
補正発明では、「深いp型注入領域(118a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程」と「浅いn型注入領域(124a)を形成する注入エネルギー及び注入量で注入する工程」とで、同じ「マスク」の同じ「開口部」を用いるのに対して、引用発明は、「前記p型ウェル内にn^(+)ソース領域を形成するステップ」においては、「p型ウェルを形成するステップ」で用いた「前記ポリシリコン・マスク」とは異なる「前記ポリシリコン・マスクに一直線に合わせられた第2の注入マスク」を用いる点。

4.判断
前記相違点3は、「第2.補正の却下の決定」の「4.独立特許要件」の「(3)対比」の「(3-2)一致点及び相違点」の項において記載した、補正発明と引用発明との相違点の一つである相違点1と、同一の相違点である。
したがって、「第2.補正の却下の決定」の「4.独立特許要件」の「(4)相違点についての当審の判断」における「(4-1)相違点1について」の項で記載したと同じ理由により、引用例2に記載の公知技術と同様に、「n型6H-SiCウエハが有するn^(-)エピ層」表面の、「マスク」に設けた開口によって定められる領域に、「ホウ素」と「窒素」とを「注入する」引用発明において、前記「ホウ素」の「注入」と前記「窒素」の「注入」とで、同じ「マスク」の同じ開口を用いることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4.むすび
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
以上のとおりであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-22 
結審通知日 2012-08-24 
審決日 2012-09-04 
出願番号 特願2000-556402(P2000-556402)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宇多川 勉松本 陶子  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 近藤 幸浩
早川 朋一
発明の名称 制御されたアニールによる炭化シリコンパワーデバイスの製造方法  
代理人 畑中 孝之  
代理人 清水 邦明  
代理人 大日方 和幸  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  
代理人 林 鉐三  
代理人 岩見 晶啓  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ