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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10G
管理番号 1268961
審判番号 不服2010-13229  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-16 
確定日 2013-01-17 
事件の表示 特願2004-558118「粘度指数が80?140の基油を製造する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 6月24日国際公開、WO2004/053029、平成18年 3月16日国内公表、特表2006-509091〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成15年12月9日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年12月9日(EP)欧州特許庁)を国際出願日とする特許出願であって、平成21年10月23日付けの拒絶理由通知に対し、平成22年1月21日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、平成22年2月9日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年6月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

2.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成22年1月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
(a)蒸留物又は脱アスファルト油からなる原料を水素の存在下、酸性非晶質シリカ-アルミナ担体上にニッケル及びタングステンを含有する水素化脱硫用硫化触媒と接触させる工程であって、該水素化脱硫触媒はニッケル及びタングステンをキレート化剤の存在下で酸性非晶質シリカ-アルミナ担体に含浸する方法で得られる該工程、及び
(b)工程(a)の流出物に対し流動点降下工程を行って基油を得る工程、
により、蒸留物又は脱アスファルト油から出発して、粘度指数が80?140の基油を製造する方法。」

3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成21年10月23日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、当該理由2は、要するに、本願発明1は、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された次の文献1ないし4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
なお、原査定の備考欄には、文献1ないし4とともに周知技術の根拠として次の文献5も引用されている。
文献1:特表2001-526706号公報
文献2:特表平08-503234号公報
文献3:特表平10-503542号公報
文献4:G.Kishan 他4名, Journal of Catalysis, 米国, 2000年, Vol.196, P.180-189
文献5:特開2001-198471号公報

4.刊行物及びその記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
a 「1.炭化水素質の供給原料を、水素化分解条件下で、ゼオライト、水素化成分及び無機酸化物系マトリックス材料から成り、細孔容積が約0.25乃至約0.60cm^(3)/gであり、平均細孔径が約40乃至約100Åであり、そして細孔容積の少なくとも約5%が約200Åより大きい直径を有する細孔にある触媒と接触させることから成る、潤滑油基剤原料油の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)
b 「15.無機酸化物系マトリックス材料がアルミナ、シリカアルミナ及びそれらの組み合わせから選ばれる、請求の範囲第1項に記載の方法。
16.炭化水素質供給原料が約350乃至590℃の範囲の標準沸点範囲を有する減圧軽油である、請求の範囲第1項に記載の方法。
17.炭化水素質供給原料が約480乃至約650℃の範囲の標準沸点範囲を有する脱アスファルト化された残油である、請求の範囲第1項に記載の方法。」(特許請求の範囲第15?17項)
c 「本発明は炭化水素質の供給原料を水素化分解して潤滑油の基剤原料油を製造する方法に関する。本発明の方法は、特に、触媒系が驚くほどの安定性と高粘度指数(VI)選択性を示す接触水素化分解法に関する。
本発明の触媒は非晶質の無機酸化物系マトリックス中に少量のゼオライトを含み、かつ水素化成分を含有する触媒である。この触媒は、更に、大きな細孔を有意量で有すると特徴付けられるものである。本発明の方法において、炭化水素質供給原料は、硫黄、窒素及び芳香族成分が除去され、そして潤滑油基剤原料油の粘度指数が供給原料の粘度指数に比較して増大せしめられるように、触媒系上で反応せしめられることによって品質改善が達成される。この触媒系は高VI選択性も示す。VI選択性は炭化水素質供給原料の品質改善処理中の粘度指数増大の相対的な尺度である。高VI選択率は所定の供給原料転化度についての粘度指数の増大が大きいことを示す。本発明の方法による炭化水素質供給原料の品質改善処理に伴われる反応は、一般に、水素化分解と称される。」(5頁5?17行)
d 「水素化成分は少なくとも1種の貴金属及び/又は少なくとも1種の非貴金属であることができる。適した貴金属に白金、パラジウム、並びに白金族の他の金属、例えばイリジウム及びルテニウムがある。適した非貴金属に周期律表の第VA、VIA及びVIIIA族の金属がある。好ましい非貴金属はクロム、モリブデン、タングステン、コバルト及びニッケル、並びにニッケル-タングステンのような上記の金属の組み合わせである。非貴金属成分は、硫化水素のような硫黄含有ガスに昇温下で暴露してその金属の酸化物形に対応する硫化物形に転化することにより、使用前に前以て硫化することができる。
水素化成分は、混合工程中に混ぜ合わせることにより、又は含浸により、或いは交換による等の任意、適当な方法で触媒に組み込むことができる。」(12頁6?15行)
e 「本発明の方法の触媒は、また、炭化水素質供給原料から有機窒素化合物及び有機硫黄化合物の実質的な部分も除去する。ヘテロ原子の化合物を除去するこれらの反応は有機窒素化合物として重要であり、一方有機硫黄化合物は、程度は有機窒素化合物よりも小さいが、潤滑油基剤原料油について下流での処理、例えば脱ろう処理及びハイドロフィニッシング処理に有害である。・・・・
この水素化分解工程で製造される潤滑油基剤原料油は、水素化分解に続いて脱ろう処理に供することができる。脱ろう処理は、溶媒脱ろう法又は触媒脱ろう法を含めて、この技術分野で公知の1つ又は2つ以上の方法で遂行することができる。」(16頁17行?17頁4行)
f 「本発明の触媒を次のようにして試験した。各試験について、パイロットプラントの反応器に標準ゼオライト含有水素化転化触媒(hydroconversion catalyst)の層とゼオライトを4%含有する本発明の水素化分解触媒(触媒A)の層を装填した。水素化転化触媒/水素化分解触媒の容積比はおおよそ1/2であった。
これら触媒を前以て硫化した後、それらを、供給原料として標準減圧軽油を用いて、目標転化率を達成するように制御された温度を用い、全圧2200psig(絶対圧15300KPa)及びLHSV0.48において試験した。生成物を分別蒸留し、次いで650°F+(343℃+)の留分を溶媒脱ろう処理し、そして粘度指数を測定した。図1は本発明の多数の触媒を試験することにより得られた結果を示すもので、そのデーターは650°F+留分の粘度指数を転化度の関数として示している。」(20頁下から6行?21頁5行)
g 【図1】として次の図面が示されている(22頁)。


5.引用発明
ア 文献3には、「炭化水素質の供給原料を、水素化分解条件下で、ゼオライト、水素化成分及び無機酸化物系マトリックス材料から成り、細孔容積が約0.25乃至約0.60cm^(3)/gであり、平均細孔径が約40乃至約100Åであり、そして細孔容積の少なくとも約5%が約200Åより大きい直径を有する細孔にある触媒と接触させることから成る、潤滑油基剤原料油の製造方法。」が記載されている(上記4.a)。
イ そして、上記アの製造方法における「炭化水素質の供給原料」は、上記4.bによれば、「約350乃至590℃の範囲の標準沸点範囲を有する減圧軽油」または「約480乃至約650℃の範囲の標準沸点範囲を有する脱アスファルト化された残油」である。
ウ また、上記アの製造方法における「無機酸化物系マトリックス材料」は、「シリカアルミナ」が使用可能であり(上記4.b)、上記4.cに「本発明の触媒は非晶質の無機酸化物系マトリックス中に少量のゼオライトを含み、かつ水素化成分を含有する触媒である。」と記載されていることも併せみると、上記アの製造方法の「無機酸化物系マトリックス材料」としては、「非晶質」の「シリカアルミナ」を使用することができるといえる。
エ さらに、上記アの製造方法における「水素化成分」は、「含浸」により触媒に組み込むことができ(上記4.d)、「ニッケル-タングステン」のような金属の組み合わせを硫化物形に「硫化」して使用することができる(上記4.d)。
オ さらに、上記アの製造方法における「触媒」は、炭化水素質供給原料を「水素化分解」するためのものであって、これにより炭化水素質供給原料は硫黄等が除去され、粘度指数が増大したものとなり(上記4.c)、この水素化分解工程で製造される潤滑油基剤原料油は、「水素化分解」に続いて「脱ろう処理」に供することができ(上記4.e)、「脱ろう処理」で得られた脱ろう油は、粘度指数が80以上で115以下の値となる(上記4.f及びg)。
カ 上記ア?オで検討したところを踏まえ、文献3の記載事項を整理すると、文献3には、
「炭化水素質の供給原料を、水素化分解条件下で、ゼオライト、水素化成分及び無機酸化物系マトリックス材料から成り、細孔容積が約0.25乃至約0.60cm^(3)/gであり、平均細孔径が約40乃至約100Åであり、そして細孔容積の少なくとも約5%が約200Åより大きい直径を有する細孔にある触媒と接触させて水素化分解し、前記炭化水素質の供給原料は、約350乃至590℃の範囲の標準沸点範囲を有する減圧軽油または約480乃至約650℃の範囲の標準沸点範囲を有する脱アスファルト化された残油であり、前記無機酸化物系マトリックス材料は、非晶質のシリカアルミナであり、前記水素化成分は、含浸により触媒に組み込み、ニッケルとタングステンの金属の組み合わせを硫化物形に硫化して使用し、前記水素化分解をすることで、前記炭化水素質の供給原料は、硫黄等が除去され、粘度指数が増大したものとなり、続いて脱ろう処理をすることで、粘度指数が80以上で115以下の値となった脱ろう油を得る、潤滑油基剤原料油の製造方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

6.対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 本願発明1では、「原料」として「蒸留物又は脱アスファルト油」を使用し、この原料から出発して、粘度指数が80?140の「基油」を製造する。
他方、引用発明では、「炭化水素質の供給原料」として「約350乃至590℃の範囲の標準沸点範囲を有する減圧軽油または約480乃至約650℃の範囲の標準沸点範囲を有する脱アスファルト化された残油」を使用し、この「炭化水素質の供給原料」から「80以上かつ115以下の粘度指数を有する脱ろう油」を得て「潤滑油基剤原料油」を製造する。
ここで、引用発明の「炭化水素質の供給原料」は、本願発明1の「原料」に相当し、引用発明の「潤滑油基剤原料油」は、本願発明1の「基油」に相当する。
また、引用発明の「約350乃至590℃の範囲の標準沸点範囲を有する減圧軽油」は、蒸留により得られるものであることは明らかであるから、本願発明1の「蒸留物」に相当し、引用発明の「約480乃至約650℃の範囲の標準沸点範囲を有する脱アスファルト化された残油」は、本願発明1の「脱アスファルト油」に相当する。
これらのことを踏まえると、引用発明において、「炭化水素質の供給原料」として「約350乃至590℃の範囲の標準沸点範囲を有する減圧軽油または約480乃至約650℃の範囲の標準沸点範囲を有する脱アスファルト化された残油」を使用し、この「炭化水素質の供給原料」から「粘度指数が80以上で115以下の値となった脱ろう油」を得て「潤滑油基剤原料油」を製造することは、本願発明1と同様、「原料」として「蒸留物又は脱アスファルト油」を使用し、この原料から出発して、「粘度指数が80?140」の「基油」を製造することであるということができる。
イ 本願発明1に係る請求項1に記載の「該水素化脱硫触媒」は、同請求項1に記載の「水素化脱硫用硫化触媒」を意味するものであることは明らかである。すなわち、本願発明1の「水素化脱硫用硫化触媒」は、「酸性非晶質シリカ-アルミナ担体上にニッケル及びタングステンを含有する水素化脱硫用硫化触媒」であって、「ニッケル及びタングステンをキレート化剤の存在下で酸性非晶質シリカ-アルミナ担体に含浸する方法で得られる」ものである。
他方、引用発明の「触媒」は、ゼオライト、水素化成分及び無機酸化物系マトリックス材料から成るものであって、前記無機酸化物系マトリックス材料は、非晶質のシリカアルミナであり、前記水素化成分は、含浸により触媒に組み込み、ニッケルとタングステンの金属の組み合わせを硫化物形に硫化して使用するものであることからみて、
引用発明の「触媒」は、非晶質のシリカアルミナをマトリックス材料(担体)とし、ゼオライトを含み、水素化成分であるニッケルとタングステンの金属を含浸により担持し、これら金属を硫化物形に硫化した触媒であるといえる。
また、引用発明の「触媒」は、炭化水素質供給原料を「水素化分解」することで「硫黄」を除去するものでもあるから、「水素化脱硫用」の触媒であるということもできる。
してみると、本願発明1の「水素化脱硫用硫化触媒」と引用発明の「触媒」とは、「非晶質シリカ-アルミナ担体上にニッケル及びタングステンを含有する水素化脱硫用硫化触媒」であって、「ニッケル及びタングステンを非晶質シリカ-アルミナ担体に含浸する方法で得られる」ものである点で共通するということができる。
ウ 本願発明1では、工程(a)において、「水素の存在下」で原料を触媒と接触させる。他方、引用発明では、炭化水素質の供給原料を触媒と接触させて「水素化分解」をするところ、「水素化分解」をする以上、引用発明も、本願発明1と同様、「水素の存在下」で原料を触媒と接触させるものであることは明らかである。
エ 上記ア?ウで検討したところを踏まえると、本願発明1の「(a)蒸留物又は脱アスファルト油からなる原料を水素の存在下、酸性非晶質シリカ-アルミナ担体上にニッケル及びタングステンを含有する水素化脱硫用硫化触媒と接触させる工程であって、該水素化脱硫触媒はニッケル及びタングステンをキレート化剤の存在下で酸性非晶質シリカ-アルミナ担体に含浸する方法で得られる該工程」と、引用発明の「炭化水素質の供給原料を、水素化分解条件下で、ゼオライト、水素化成分及び無機酸化物系マトリックス材料から成り、細孔容積が約0.25乃至約0.60cm^(3)/gであり、平均細孔径が約40乃至約100Åであり、そして細孔容積の少なくとも約5%が約200Åより大きい直径を有する細孔にある触媒と接触させて水素化分解し、前記炭化水素質の供給原料は、約350乃至590℃の範囲の標準沸点範囲を有する減圧軽油または約480乃至約650℃の範囲の標準沸点範囲を有する脱アスファルト化された残油であり、前記無機酸化物系マトリックス材料は、非晶質のシリカアルミナであり、前記水素化成分は、含浸により触媒に組み込み、ニッケルとタングステンの金属の組み合わせを硫化物形に硫化して使用し、前記水素化分解をすることで、前記炭化水素質の供給原料は、硫黄等が除去され、粘度指数が増大したものと」なることとは、「蒸留物又は脱アスファルト油からなる原料を水素の存在下、非晶質シリカ-アルミナ担体上にニッケル及びタングステンを含有する水素化脱硫用硫化触媒と接触させる工程であって、該水素化脱硫触媒はニッケル及びタングステンを非晶質シリカ-アルミナ担体に含浸する方法で得られる該工程」である点で共通するということができる。
オ さらに、本願発明1では、「工程(a)の流出物に対し流動点降下工程を行って基油を得る工程」が工程(b)として行われる。他方、引用発明では、水素化分解をすることに続いて脱ろう処理をすることで、粘度指数80乃至115の範囲の脱ろう油とし、潤滑油基剤原料油を製造する。
ここで、本願発明1の「工程(a)の流出物」と引用発明の「水素化分解」をしたものは、いずれも「水素化脱硫用硫化触媒」と接触させる工程の流出物とみることができるので、本願発明1と引用発明とは、「水素化脱硫用硫化触媒」と接触させる工程の流出物に対し「後処理を行って基油を得る工程」を有する点で共通するということができる。
カ 以上検討したところを踏まえ、本願発明1と引用発明とを対比すると、両発明は、「蒸留物又は脱アスファルト油からなる原料を水素の存在下、非晶質シリカ-アルミナ担体上にニッケル及びタングステンを含有する水素化脱硫用硫化触媒と接触させる工程であって、該水素化脱硫触媒はニッケル及びタングステンを非晶質シリカ-アルミナ担体に含浸する方法で得られる該工程、及び上記水素化脱硫用硫化触媒と接触させる工程の流出物に対し後処理を行って基油を得る工程により、蒸留物又は脱アスファルト油から出発して、粘度指数が80?140の基油を製造する方法。」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:「水素化脱硫用硫化触媒」の担体として用いる「シリカ-アルミナ」に関し、本願発明1では、「酸性」との特定がなされているのに対し、引用発明では、かかる特定がなされていない点。
相違点2:「ニッケル及びタングステン」を含有する「水素化脱硫用硫化触媒」を得るにあたり、本願発明1では、ニッケル及びタングステンを「キレート化剤の存在下で」担体に含浸するのに対し、引用発明では、ニッケル及びタングステンを含浸により担体に担持するものの、「キレート化剤の存在下で」含浸するとの特定がなされていない点。
相違点3:水素化脱硫用硫化触媒と接触させる工程の流出物に対する後処理として、本願発明1では、「流動点降下工程」を行うのに対し、引用発明では、「脱ろう処理」を行う点。

7.判断
(1)相違点1について
引用発明においては、「シリカ-アルミナ」に関し、「酸性」との特定がなされていないが、「シリカ-アルミナ」が本質的に「酸性」であることは、技術常識である(必要であれば、例えば原査定の拒絶の理由に文献2として引用された特表平08-503234号公報の5頁17?18行や、化学大辞典4,共立出版株式会社,1997年9月20日発行,縮刷版第36刷,870頁,「シリカアルミナしょくばい」の項を参照。)。
したがって、相違点1は実質的なものではない。

(2)相違点2について
ア 本願の優先日前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された文献4(G.Kishan 他4名, Journal of Catalysis, 米国, 2000年, Vol.196, P.180-189)には、水素化脱硫用硫化触媒に関し、次の記載がある。
a 「Silica-supported NiWS catalysts with a high activity for thiophene hydrodesulfurization are obtained when chelating agents such as 1,2-cyclohexanediamine-N,N,N’,N’-tetraacetic acid (CyDTA), ethylenediaminetetraacetic acid, or nitrilotriacetic acid are added in the impregnation stage.」(180頁左欄1?5行、当審訳:シリカ担持硫化ニッケルタングステン(NiWS)触媒は、1,2-シクロヘキサンジアミン-N,N,N’,N’-四酢酸(CyDTA)、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸などのキレート剤が含浸段階で添加されると、チオフェンの水素化脱硫に高い活性を有するものが得られる。)
b 「The production of low-sulfur diesel fuels is currently an important topic in oil refineries due to more stringent environmental legislation(1).」(180頁「INTRODUCTION」の欄1?3行、当審訳:低硫黄軽油の生産は、環境規制がより厳しくなっているため、現在の石油精製における重要なテーマである。)
c 「Promotion of W by Ni in sulfidic catalysts leads to a significant increase in catalytic activity for the hydrodesulfurization of thiophene to 1- and 2-butene, and the promoting effect becomes significantly higher if chelating agents such as NTA, EDTA, and CyDTA are added in the impregnation stage.」(187頁「DISCUSSION」の欄1?6行、当審訳:硫化触媒において、NiによりWの機能を促進することは、チオフェンを1-ブテンや2-ブテンとする水素化脱硫の触媒活性を高めることにつながり、この促進の効果は、NTA、EDTA、CyDTAなどのキレート剤が含浸段階で添加される場合に著しく高くなる。)
イ これらの記載からみて、文献4には、石油を水素化脱硫するための、シリカ担持硫化ニッケルタングステン触媒は、キレート剤を含浸段階で添加することにより、水素化脱硫活性を高めることができることが記載されているといえる。
ウ また、本願の優先日前に頒布された刊行物であって、拒絶査定の備考中に引用された文献5(特開2001-198471号公報)には、水素化脱硫用硫化触媒に関し、次の記載がある。
a 「【請求項1】 Moを含むイオンおよびWを含むイオンから選ばれる少なくとも一つの第1のイオンと、Coを含むイオンおよびNiを含むイオンから選ばれる少なくとも一つの第2のイオンとが少なくとも共存し、かつ前記第1のイオンおよび前記第2のイオンのうち主に第2のイオンは、この第2のイオンにキレート剤が配位された錯イオンとして実質的に存在する水素化処理触媒製造用含浸液であって、
前記キレート剤は、このキレート剤と前記第1のイオンとから生成される錯イオンの生成反応における平衡定数の対数が5以下、かつこのキレート剤と前記第2のイオンとから生成される錯イオンの生成反応における平衡定数の対数が15以上を満たすことを特徴とする含浸液。
・・・・
【請求項5】 請求項1ないし4のいずれか1項記載の水素化処理触媒製造用含浸液を担体に含浸させ、乾燥した後、硫化処理を施すことを特徴とする水素化処理触媒の製造方法。」(特許請求の範囲)
b 「前記担体としては、・・・・シリカ-アルミナ、・・・・等を挙げることができ、単独もしくは二種以上を組み合わせて用いることができる。・・・・。」(段落【0042】)
c 「【実施例】以下、本発明の実施例を比較例とともに記載する。」(段落【0056】)
d 「(実施例2)まず、キレート剤としてのCyDTA、2.21gを、内容積10mLのメスフラスコ内にあらかじめ収容しておいた3.5mLの蒸留水中に分散させた後、水道水をこのメスフラスコの外面に注水して内容物を冷却しながら、28質量%アンモニア水、1.2mLを加えてCyDTAを溶解させた。つづいて、このメスフラスコ内の内容物に、第1の金属化合物としてのメタタングステン酸アンモニウム(NH_(4))_(6)H_(2)W_(12)O_(40)、2.51g(CyDTA/W=0.6mol/mol)を加え、溶解させた。さらに、あらかじめ硝酸ニッケル六水和物Ni(NO_(3))_(2)・6H_(2)O、0.94g(Ni/W=0.32mol/mol)を溶解させた約1mLの蒸留水を加えた後、蒸留水を加えて総体積10mLとした含浸液を調製した。この含浸液のpHは3.5であった。
次に、120℃で十分に乾燥させた60?100メッシュのγ‐アルミナ担体(比表面積329m^(2)/g、細孔容積0.78mL/g)、3.0gを内容積100mLのナスフラスコ内に収容した。このナスフラスコ内に上記含浸液2.5mLを滴下してγ‐アルミナ担体に含浸させた(incipient wetness法)。
次に、60℃で2時間、減圧乾燥し、さらに、大気中120℃で一晩、常圧乾燥して触媒前駆体を得た。この触媒前駆体は、タングステンが三酸化タングステン換算で15.0質量%およびニッケルが酸化ニッケル換算で1.5質量%の各金属量を含有していた。
得られた触媒前駆体を用い、前述した実施例1と同様な手法によって、硫化処理を施し、水素化脱硫反応および水素化反応を行ない、こられの反応における触媒活性値を各々求めた。」(段落【0078】?【0081】)
e 「上記表3に示すように、特定のキレート剤CyDTAを添加した含浸液を用い、焼成せずに調製された実施例2のNi-W系触媒は、キレート剤無添加の含浸液を用い、焼成せずに調製された比較例6のNi-W系触媒とほぼ同じ金属含有量であるにもかかわらず、この比較例6の触媒と比べ、水素化脱硫活性および水素化活性とも高い活性能を有することがわかった。
【発明の効果】・・・・したがって、本発明により製造された触媒は、重質油の水素化分解や軽油の水素化脱硫等において優れた活性を発揮することができる。」(段落【0086】?【0087】)
エ これらの記載からみて、文献5には、WのイオンとNiのイオンとが共存しキレート剤を含有する含浸液をシリカ-アルミナ等の担体に含浸させ、乾燥した後、硫化処理を施すことで、重質油の水素化分解や軽油の水素化脱硫等において優れた活性を有する、Ni-W系の水素化処理触媒の製造方法が記載されているといえる。
オ 上記イ及びエの事実によれば、炭化水素質原料を水素化脱硫するための触媒として、ニッケル及びタングステンが硫化物となって担持されたものを製造するにあたり、ニッケル及びタングステンをキレート化剤の存在下で担体に含浸することにより、水素化脱硫活性を高めることは、本願の優先日前、周知技術であったと認められる。
カ そして、上記オの周知技術を引用発明に照らしてみれば、水素化脱硫活性を高めるという上記オの周知技術の有する機能は、引用発明が炭化水素質の供給原料中の硫黄を除去し、その品質改善を課題としている以上(上記4.(1)c)、引用発明の実施をする当業者からみて当然に所望される機能であるから、引用発明において、上記オの周知技術を採用し、相違点2に係る発明特定事項を導出することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。

(3)相違点3について
本願発明1の「流動点降下工程」とは、本願明細書の段落【0026】の「流動点降下処理とは、処理毎に基油の流動点が10℃より大きく、好ましくは20℃より大きく、更に好ましくは25℃より大きく降下する処理であると理解する。」との記載によれば、基油の流動点を少なくとも10℃より大きく降下させる処理であると解される。
ところで、引用発明では、水素化脱硫用硫化触媒と接触させる工程の流出物に対する後処理として、「脱ろう処理」を行うものであるものの、流動点を降下させることに関し、何ら特定がなされていない。
しかしながら、基油となる炭化水素質の供給原料に対し、「脱ろう処理」を行うことで、その流動点を降下させ得ることは、技術常識である(必要であれば、例えば原査定の拒絶の理由に文献1として引用された特表2001-526706号公報の19頁下から7行参照。)。なお、このことは、化学大辞典9(共立出版株式会社,1997年9月20日発行,縮刷版第36刷,747?748頁,「りゅうどうてん」の項)に「一般にパラフィン系原油から得られる油はロウ分を含むために、ロウ分を含まぬナフテン系原油から得られる油より流動点が高い。」と記載されていることからも裏付けらる。
よって、引用発明において、「脱ろう処理」を行うことで流動点を降下させていることは、当業者には明らかである。そして、流動点をどの程度降下させるかは、当業者が適宜定め得る設計的事項であるから、流動点を少なくとも10℃より大きく降下させることとし、これを「流動点降下工程」と称することで相違点3に係る発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得ることである。

(4)判断のまとめ
相違点1?3に係る発明特定事項を有する本願発明1により奏される効果について、本願明細書及び図面の記載を精査しても格別なものは見いだせない。
よって、本願発明1は、引用発明並びに文献4及び5に例示される周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

なお、請求人は、審判請求書において、本願の触媒は、最小の分解活性を示しながら、高い水素化脱硫活性及び(ポリ)芳香族水素化活性を示すものであるのに対し、文献4には、最小の分解活性を示しながら、高い水素化脱硫活性及び(ポリ)芳香族水素化活性を示す水素化脱硫用硫化触媒を作るため、シリカ支持体の代りに酸性非晶質シリカ-アルミナを使用することや、この種の触媒を蒸留物又は脱アスファルト油の処理に適用した場合、キレート化剤が、触媒の水素化脱硫特性と(ポリ)芳香族水素化特性と分解特性とを組み合わせた特性に対しどのように影響を与えるかについての記載がなく、また、文献5は、キレート剤が触媒に高い分解活性を与えることを教示しており、本願の触媒にとって望ましくない分解活性の向上を意図していることからみて、文献1?5をどのように組合わせても、本願の触媒を想到し得ない旨、主張している。
これについても検討すると、引用発明と上記(2)オの周知技術との間には、上記(2)カで検討したように、水素化脱硫活性を高めるという共通の機能があることから、これを動機付けとして、「キレート化剤の存在下で」担体に含浸するという発明特定事項を導出することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
文献5には、確かに「重質油の水素化分解や軽油の水素化脱硫等において優れた活性を発揮することができる。」(段落【0087】)との記載があるが、文献5の当該記載が本願の触媒にとって望ましくない分解活性の向上を意図しているものと仮に解したとしても、そのことは、文献5に記載の触媒と本願の触媒との間の齟齬にすぎず、引用発明と文献4及び5に例示される周知技術との組み合わせを何ら阻害しない。
また、本願の触媒の特性の一つとして、請求人が主張している「最小の分解活性」についても検討すると、その根拠が何ら明示されていないが、これについて本願明細書の記載をみると、次の記載がある。
a 「触媒の非晶質シリカ-アルミナ担体は、特定の最小酸性度、換言すれば最小分解(cracking)活性を有する。所要の活性を有する好適な担体の例は、WO-A-9941337に記載される。更に好ましくは触媒担体は、好適には400?1000℃の温度で焼成した後、以下に更に詳細に説明するように、特定の最小n-ヘプタン分解活性を有する。」(段落【0018】)
b 「実施例1
シリカ/アルミナ上のニッケル/タングステン触媒として、Criterion Catalyst Company (Houston)から得たLH-21触媒を反応器に装填し、固定床として保持した。LH-21触媒の水素化脱硫活性は、32%であった。この触媒の担体は、ヘプタン分解試験値が320?345℃であった。」(段落【0032】)
これらの記載によれば、本願の触媒が有するとされる「最小の分解活性」は、「非晶質シリカ-アルミナ担体」の有する特性にすぎず、引用発明においても担体(マトリックス材料)として「非晶質のシリカアルミナ」が用いられていることに照らせば、本願の触媒が引用発明に比べて有利な効果をもたらすものと解することはできない。また、「最小の分解活性」がどの程度のものであるかについては、特許請求の範囲の記載において特定がなされておらず、本願の触媒が有するとされる「最小の分解活性」が量的に顕著なものであると解することもできない(仮に上記bに記載のヘプタン分解試験値により特定をしたとしても、それは市販のものが有する程度にすぎず、格別なものということはできない。)。
さらに、「水素化脱硫活性」及び「(ポリ)芳香族水素化活性」に関し、本願の触媒が格別であると解する根拠も見いだせない。
以上のとおりであるから、請求人の上記主張は採用できない。

8.むすび
以上検討したところによれば、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、文献3に記載された発明並びに文献4及び5に例示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-07-06 
結審通知日 2012-07-31 
審決日 2012-08-15 
出願番号 特願2004-558118(P2004-558118)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 新居田 知生
目代 博茂
発明の名称 粘度指数が80?140の基油を製造する方法  
代理人 奥村 義道  

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