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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01S
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01S
管理番号 1268975
審判番号 不服2011-16686  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-03 
確定日 2013-01-17 
事件の表示 特願2005- 10558「レーダ信号処理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 8月 3日出願公開、特開2006-200932〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年1月18日の出願であって、平成22年10月25日付けで明細書及び特許請求の範囲についての補正がなされ(以下、「補正1」という。)、平成23年7月1日付け(送達:同年同月5日)で拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に明細書及び特許請求の範囲についての補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。
その後、平成24年1月12日付け審尋書により審尋をしたところ、同年3月1日付け回答書の提出があった。

2.補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。
[理由]
(1)補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、次のように補正するものである。なお、検討の便宜のために改行してある。
(補正前)
「空港面探知レーダ装置から出力されたレーダビデオのスレッショルドレベルを算出し、そのスレッショルドレベルより大きい振幅を有するレーダビデオを検知するレーダビデオ検知手段と、
上記レーダビデオ検知手段により検知されたレーダビデオに含まれている目標とクラッタを区別し、そのレーダビデオからクラッタを除去するクラッタ除去手段と、
上記クラッタ除去手段によりクラッタが除去されたレーダビデオを参照して目標を検出する目標検出手段とを備え、
上記レーダビデオ検知手段は、逐次処理されるレーダビデオのスレッショルドレベルを算出する場合に、その処理されるレーダビデオの前後所定数分のレーダビデオの振幅の平均値に基づいてその処理されるレーダビデオのスレッショルドレベルを算出することを特徴とする
レーダ信号処理装置。」
(補正後)
「空港面探知レーダ装置から出力されたレーダビデオのスレッショルドレベルを算出し、そのスレッショルドレベルより大きい振幅を有するレーダビデオを検知するレーダビデオ検知手段と、
上記レーダビデオ検知手段により検知されたレーダビデオに含まれている目標とクラッタを区別し、そのレーダビデオからクラッタを除去するクラッタ除去手段と、
上記クラッタ除去手段によりクラッタが除去されたレーダビデオに含まれている塊毎に追尾を行い、複数の塊が同一の移動速度及び同一の進行方向に移動しており、前記複数の塊の隙間が所定の間隔以内であれば、前記複数の塊を1つの塊と判別して目標を検出する目標検出手段とを備え、
上記レーダビデオ検知手段は、逐次処理されるレーダビデオのスレッショルドレベルを算出する場合に、その処理されるレーダビデオの前後所定数分のレーダビデオの振幅の平均値に基づいてその処理されるレーダビデオのスレッショルドレベルを算出することを特徴とする
レーダ信号処理装置。」(下線は補正箇所。)

この補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「目標検出手段」に関して、「参照」を、「レーダビデオに含まれている塊毎に追尾を行い、複数の塊が同一の移動速度及び同一の進行方向に移動しており、前記複数の塊の隙間が所定の間隔以内であれば、前記複数の塊を1つの塊と判別」と限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。

(2)引用例記載の事項・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である特開2003-172777号公報(以下「引用例」という。)には、目標検出システムおよび目標検出方法(発明の名称)に関し、次の事項(a)ないし(d)が図面とともに記載されている。
ア 記載事項
(a)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、空港内を走行する航空機、車両などを管制する際に、空港面上にある航空機などの目標を検出して、表示画面にその位置を表示するシステムおよび方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、空港に離着陸する航空機、あるいは空港内を走行する航空機や車両の安全かつ円滑な運行を確保するために、空港面探知装置(Airport Surface Detection Equipment. 以下「ASDE」という。)、空港監視レーダー(Airport Surveillance Radar. 以下「ASR」という。)および2次監視レーダー(Secondary Surveillance Radar. 以下「SSR」という。)により目標を検出して、管制するシステムが知られている。」
(b)「【0011】
【発明が解決しようとする課題】このようなシステムが有効であるためには、目標を正確に検出することが必要不可欠である。しかし、一般に目標検出は、レーダーエコーを表す信号が所定の閾値を越えるか否かで目標の有無を判定して行うため、雪や降雨の影響により目標以外のものからの反射(以下、クラッタという)が強くなった場合には、一時的に検出の精度が悪くなることがある。」
(c)「【0026】
【発明の実施の形態】以下、本発明の好適な実施の形態を示す。なお、以下に示す実施の形態は、いずれも、図16のASDE101の出力であるレーダービデオ11を入力とするシステムである。
【0027】実施の形態1.図1は、実施の形態1の目標検出システムの構成を示すブロック図である。図に示すように、このシステムは、入力されたレーダービデオ11をディジタル信号に変換するA/D変換部34と、レーダーの送受信のタイミング信号を生成するレーダータイミング変換部36と、生成されたタイミング信号37に基づいてレーダービデオ38を積分処理するレンジ/アジマス積分処理部39(レンジ:距離方向、アジマス:方位方向)と、積分処理されたレーダービデオ40を一時的に記録するレーダービデオバッファ部41と、ヒット検定のためのスレッショルドレベルを算出するスレッショルドレベル算出部44と、算出されたスレッショルドレベル以下の信号を切り捨てるヒット検定処理部45と、ヒット検定により抽出されたレーダービデオ47を一時記録する2次元メモリ48と、レーダービデオ49中に残存する微小クラッタを低減させる収縮処理部50と、クラッタ低減後のデータを移動平均処理することによりノイズを除去する2次元移動平均処理部52と、ターミナルビル等の目標検出不要エリアを示すブランクマップを記憶するブランクマップメモリ56と、ノイズ除去後のレーダービデオ53とブランクマップ57に基づいて目標を検出する2値化処理部54と、検出した目標をラベル付けして統合するクラスタリング・ラベル付け処理部58と、目標の重心位置を算出する重心位置算出処理部60と、算出した重心位置の変化に基づいて移動する目標を追尾する目標追尾処理部62と、検出および追尾した目標の位置を所定のフォーマットに変換して高機能表示装置6に出力する表示用データ生成処理部64とを備えている。
【0028】さらに、このシステムは、本発明のクラッタ要因調査手段に相当するレーダーマップメモリ66と、クラッタレベル判定手段に相当するクラッタレベル判定部68とを備えている。また、前記表示用データ生成処理部64は、本発明の信頼性情報出力手段としての機能を兼ね備えている。」
(d)「【0029】次に、このシステムの動作、すなわち上記各手段が行う処理について説明する。ASDEの出力であるレーダービデオ11は、A/D変換部34に入力されてディジタル信号(レーダービデオ38)に変換される。一方、レーダーからのACP(Azimuth Count Pulse),ARP(Azimuth Reference Pulse),トリガ信号35は、レーダータイミング変換部36に入力され、レーダービデオ処理のための内部タイミング信号37としてレンジ/アジマス積分処理部39に入力される。レンジ/アジマス積分処理部39は、内部タイミング信号37からレーダーのアンテナ回転のタイミングと距離方向の測定単位を把握し、それらに合わせて、レーダービデオ38を積分処理する。同一の場所でスイープを繰り返した場合、実際にレーダーエコーが強ければ常に高い信号値が得られるので、積分処理をしても高い値が得られる。一方、例えば電気的なノイズなどはランダムに発生するため、積分処理すれば低い値となる。すなわち、レンジ/アジマス積分処理により、レーダーエコーの信号のみが強調される。積分処理後のレーダービデオ40は、レーダービデオバッファ部41に数スイープ分蓄えられ、スレッショルドレベル算出部44とヒット検定処理部45とにスイープごとに順次出力される。スレッショルドレベル算出部44は、後述するヒット検定処理のためのスレッショルドレベルをスイープごとに算出する。スレッショルドレベルの算出は、クラッタレベル判定部68から送られた情報69に基づいて行うが、この処理については後述する。また、スレッショルドレベルの算出を、管制官により手動で入力された情報103に基づいて行うようにすることもできる。スレッショルドレベル算出部44がいずれの情報を参照するかは、自動/手動切替器102により切り替える。
【0030】目標の検出は、ヒット検定処理部45、収縮処理部50、2次元移動平均処理部52による3段階の前処理を経た後に、2値化処理部54によって行われる。まず、ヒット検定処理部45は、各スイープについて、算出されたスレッショルドレベル46とレーダービデオ43とを比較し、信号の振幅がスレッショルドレベル46を越えればヒットとし、ヒットしなかった信号は切り捨てる。その結果、ヒットした信号以外の信号の振幅を0とするスイープごとのレーダービデオ47が2次元メモリ48に順次記録される。この処理によりレーダービデオ43に含まれているノイズの一部を除去することができる。ここで、レーダービデオ47を一旦2次元メモリ48に記録することによって、それまでスイープごとに(1次元的に)処理していたレーダービデオを、以降の処理においてレンジ(距離方向)、アジマス(方位方向)を座標軸とする2次元画像として取り扱うことが可能となる。次に、収縮処理部50により、2次元画像となったレーダービデオ49に対して画像処理を施して、点在する微少クラッタを不要信号として除去する。飛行機などの目標はある程度の大きさを有するため、点在して現れる信号は微小クラッタとみなしてよいからである。さらに次に、2次元移動平均処理部52により、微小クラッタ除去後のレーダービデオ51に対して2次元移動平均処理を施す。2次元移動平均処理は2次元画像を構成する各画素の信号値を、その周辺画素の値に所定の重み付けをして求めた平均値と置き換えることによって、全体として2次元画像のスムージングを行うという処理である。この処理により、有効な信号に混在しているノイズを除去することができる。2値化処理部54は、以上の前処理を経たレーダービデオ53を、予め定められた所定のスレッショルドレベルをもとに2値化処理する。但し、ターミナルビルなどの建物の位置は、あらためて検出する必要がないため、2値化処理を行う際には、ブランクマップメモリ56から目標検出不要エリアを記憶したブランクマップ57を読み出し、目標検出不要エリアの信号値は0とし、それ以外のエリアについて2値化を行う。これにより、検出対象を示す信号のみが残存する2値化画像55が得られる。
【0031】次に、クラスタリング・ラベル付け処理部58により、レーダービデオ55中の信号を群(クラスタ)ごとに統合し、各クラスタにラベルを付ける。すなわち、飛行機、車両といった1つ1つの目標に対してラベルをつける。重心位置算出処理部60は、ラベル付けされた2値化画像59に基づいて、各目標の重心位置を算出する。また、目標追尾処理部62は、算出された重心位置のデータ61を一時保持し、1スキャン前に保持したデータとの差分を表す追尾データ63を生成し、表示用データ生成処理部64に受け渡す。表示用データ生成処理部64は、それらのデータに基づいて、空港設備などを示した地図画像と、飛行機などを示すシンボルとを画像合成する。さらに、必要に応じて目標が検出された周辺の地図画像に拡大処理を施すなどして、所定のフォーマットの表示用データ65を生成し、高機能表示装置6に出力する。」

イ 引用発明
上記記載(c)、(d)及びシステム構成を示すブロック図である図1において、A/D変換部34、レーダータイミング変換部36、レンジ/アジマス積分処理部39、レーダービデオバッファ部41、スレッショルドレベル算出部44、ヒット検定処理部45、及び2次元メモリ部48からなる部分を手段Aと呼び、収縮処理部50、2次元移動平均処理部52、2値化処理部54、及びブランクマップメモリ部56とからなる部分を手段Bと呼び、クラスタリングラベル付け処理部58、重心位置算出処理部60、目標追尾処理部62、表示用データ生成処理部64とからなる部分を手段Cと呼ぶこととする。
してみると、上記記載(a)ないし(d)及び図1の記載によれば、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。

「空港面探知装置から出力されたレーダビデオのスレッショルドレベルを算出し、そのスレッショルドレベルを越えるレーダビデオを検知する、A/D変換部34、レーダータイミング変換部36、レンジ/アジマス積分処理部39、レーダービデオバッファ部41、スレッショルドレベル算出部44、ヒット検定処理部45、及び2次元メモリ部48からなる手段Aと、
上記手段Aにより検知されたレーダービデオ49に対して画像処理を施して、目標と微少クラッタを区別して不要信号として除去する、収縮処理部50、2次元移動平均処理部52、2値化処理部54、及びブランクマップメモリ部56とからなる手段Bと、
上記手段Bによりクラッタが除去されたレーダービデオ55中の信号をクラスタ毎に統合し、目標に対するラベルを付けるべく重心位置を算出して追尾データ63を生成し高機能表示装置6に表示用データ65を出力する、クラスタリングラベル付け処理部58、重心位置算出処理部60、目標追尾処理部62、表示用データ生成処理部64とからなる手段Cとを備えた
目標検出システム。」(以下、「引用発明」という。)

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明における「空港面探知装置」は、本願補正発明における「空港面探知レーダ装置」に相当し、「A/D変換部34、レーダータイミング変換部36、レンジ/アジマス積分処理部39、レーダービデオバッファ部41、スレッショルドレベル算出部44、ヒット検定処理部45、及び2次元メモリ部48からなる手段A」は、「レーダビデオ検知手段」に相当し、以下、同様に、「微小クラッタ」は、「クラッタ」に、「収縮処理部50、2次元移動平均処理部52、2値化処理部54、及びブランクマップメモリ部56とからなる手段B」は、「クラッタ除去手段」に、「クラスタ」は、「塊」に、「クラスタリングラベル付け処理部58、重心位置算出処理部60、目標追尾処理部62、表示用データ生成処理部64とからなる手段C」は、「目標検出手段」に、「目標検出システム」は、「レーダ信号処理装置」に、それぞれ相当する。

イ 上記相当関係を踏まえると、引用発明における「上記手段Bによりクラッタが除去されたレーダービデオ55中の信号をクラスタ毎に統合し、目標に対するラベルを付けるべく重心位置を算出して追尾データ63を生成し高機能表示装置6に表示用データ65を出力する、クラスタリングラベル付け処理部58、重心位置算出処理部60、目標追尾処理部62、表示用データ生成処理部64とからなる手段C」も、本願補正発明における「上記クラッタ除去手段によりクラッタが除去されたレーダビデオに含まれている塊毎に追尾を行い、複数の塊が同一の移動速度及び同一の進行方向に移動しており、前記複数の塊の隙間が所定の間隔以内であれば、前記複数の塊を1つの塊と判別して目標を検出する目標検出手段」も、共に、「上記クラッタ除去手段によりクラッタが除去されたレーダビデオに含まれている塊毎に追尾を行い、上記クラッタ除去手段によりクラッタが除去されたレーダビデオを参照して目標を検出する目標検出手段」である点で共通する。

ウ してみると、両者の一致点、相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「空港面探知レーダ装置から出力されたレーダビデオのスレッショルドレベルを算出し、そのスレッショルドレベルより大きい振幅を有するレーダビデオを検知するレーダビデオ検知手段と、
上記レーダビデオ検知手段により検知されたレーダビデオに含まれている目標とクラッタを区別し、そのレーダビデオからクラッタを除去するクラッタ除去手段と、
上記クラッタ除去手段によりクラッタが除去されたレーダビデオに含まれている塊毎に追尾を行い、目標に対するラベルを付けるべく上記クラッタ除去手段によりクラッタが除去されたレーダビデオを参照して目標を検出する目標検出手段とを備える、
レーダ信号処理装置。」
(相違点)
・相違点1:スレッショルドレベルの算出について、
本願補正発明では、「上記レーダビデオ検知手段は、逐次処理されるレーダビデオのスレッショルドレベルを算出する場合に、その処理されるレーダビデオの前後所定数分のレーダビデオの振幅の平均値に基づいてその処理されるレーダビデオのスレッショルドレベルを算出する」とあるように、処理されるレーダビデオの前後所定数分のレーダビデオの振幅の平均値に基づいて、その処理されるレーダビデオのスレッショルドレベルを算出する構成を有するのに対し、引用発明では、スレッショルドレベルを算出するとしているにとどまる点。
・相違点2:目標検出手段について、
本願補正発明では、「複数の塊が同一の移動速度及び同一の進行方向に移動しており、前記複数の塊の隙間が所定の間隔以内であれば、前記複数の塊を1つの塊と判別して目標を検出する目標検出手段」とあるように、複数の塊が同一の移動速度及び同一の進行方向に移動していて、かつ、前記複数の塊の隙間が所定の間隔以内であれば、前記複数の塊を1つの塊と判別するようにしているのに対し、引用発明ではクラスタ(本願補正発明における「塊」に相当する。以下、同様。)を統合して目標に対するラベルを付けるにとどまる点。

(4)判断
上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
この種のレーダ信号処理装置において、レーダビデオ検知手段がレーダビデオのスレッショルドレベルを算出する際に、レーダ受信信号(すなわち、レーダビデオ)のうち、ある時刻において判定しようとする信号の時間的に前後の複数の信号についてその信号レベルを平均化し、さらにその平均した信号レベルに基づいて当該判定所望信号に対するクラッタ抑圧のための閾値を演算設定するようにすることは、いわゆるCFAR処理として周知な技術事項(以下、「周知技術1」という。)である。
この点については、例えば、原審で引用された特開昭64-53182号公報(発明の名称:レーダ信号処理装置)の、特に、従来の技術についての記載(第1頁右下欄8行?第2頁右上欄11行)を参照のこと。
したがって、引用発明において、レーダビデオのスレッショルドレベルを算出するにあたり、上記周知なCFAR処理(周知技術1)を適用し、本願補正発明のように、処理されるレーダビデオの前後所定数分のレーダビデオの振幅の平均値に基づいてその処理されるレーダビデオのスレッショルドレベルを算出するようにすることは、当業者ならば容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
一般に、レーダを用いた対象物の検出技術において、複数のクラスタ(塊)が1つのクラスタ(塊)であることを判別するための、グループに纏めるグループラベリング処理の手法として、相互に近接した位置において、ほぼ同じ動きをしているクラスタ(塊)を1つのクラスタ(塊)と判断し、1つのグループに纏めるようにすることは、周知な技術事項(以下、「周知技術2」という。)である。
この点については、例えば、特開平8-240660号公報(特に、段落【0026】の記載に留意のこと)や、特開2002-98509号公報(特に、段落【0095】、【0096】の記載に留意のこと。)を参照のこと。
したがって、引用発明において、上記周知なグループラベリング処理手法(周知技術2)を適用して、本願補正発明のように、複数の塊が同一の移動速度及び同一の進行方向に移動していて、かつ、複数の塊の隙間が所定の間隔以内であれば、前記複数の塊を1つの塊と判別して目標を検出するようにすることは、当業者ならば容易に想到し得たことである。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明及び周知技術1,2から当業者が予測可能なものであって格別のものではない。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術1,2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)請求人の主張
請求人は回答書において、概略、以下のとおりに主張している。
・目標が空港近辺の海上を航行する船舶などのレーダエコーが非常に大きいものであって、別の塊となって検出される場合でも、クラッタを除去してから複数の塊を1つの塊との判別を実行するので、判別基準を複数の塊が「同一の移動速度及び同一の進行方向に移動」と規定することができる。
・例えば、複数の塊を1つの塊と判別する判別基準を、複数の塊が「移動速度及び進行方向が類似」とした場合に起こり得る「船舶」と「その船舶の随伴船などの船舶近傍を航行する船舶」とを誤って、1つの塊と判別する誤判別の可能性が、極めて低い。
しかしながら、まず、本願補正発明において、目標が「船舶」であることは特定されていないから、請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものである。
また、引用発明において、検出対象である目標は、具体的には航空機や車両である(上記(2)ア(a)、(d)を参照のこと。)ところ、空港は海岸付近に位置することが多いことを考慮すれば、航空機や車両と共に、船舶も航空機の安全運行のための監視対象であるから、仮に、検出目標を船舶としたとしても、格別のものは認められない。
いずれにせよ、請求人の主張は採用できない。

(6)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし9に係る発明は、補正1によって補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりである。
「空港面探知レーダ装置から出力されたレーダビデオのスレッショルドレベルを算出し、そのスレッショルドレベルより大きい振幅を有するレーダビデオを検知するレーダビデオ検知手段と、
上記レーダビデオ検知手段により検知されたレーダビデオに含まれている目標とクラッタを区別し、そのレーダビデオからクラッタを除去するクラッタ除去手段と、
上記クラッタ除去手段によりクラッタが除去されたレーダビデオを参照して目標を検出する目標検出手段とを備え、
上記レーダビデオ検知手段は、逐次処理されるレーダビデオのスレッショルドレベルを算出する場合に、その処理されるレーダビデオの前後所定数分のレーダビデオの振幅の平均値に基づいてその処理されるレーダビデオのスレッショルドレベルを算出することを特徴とする
レーダ信号処理装置。」(以下、「本願発明」という。)

(1)引用例記載の事項・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された発明・事項は、上記「2.(2)引用例記載の事項・引用発明」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
上記「2.(3)対比」で説示した相当関係などを踏まえると、本願発明と引用発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「空港面探知レーダ装置から出力されたレーダビデオのスレッショルドレベルを算出し、そのスレッショルドレベルより大きい振幅を有するレーダビデオを検知するレーダビデオ検知手段と、上記レーダビデオ検知手段により検知されたレーダビデオに含まれている目標とクラッタを区別し、そのレーダビデオからクラッタを除去するクラッタ除去手段と、上記クラッタ除去手段によりクラッタが除去されたレーダビデオを参照して目標を検出する目標検出手段とを備えたレーダ信号処理装置。」
(相違点)
・相違点3:スレッショルドレベルの算出について、
本願発明では、「上記レーダビデオ検知手段は、逐次処理されるレーダビデオのスレッショルドレベルを算出する場合に、その処理されるレーダビデオの前後所定数分のレーダビデオの振幅の平均値に基づいてその処理されるレーダビデオのスレッショルドレベルを算出する」とあるように、処理されるレーダビデオの前後所定数分のレーダビデオの振幅の平均値に基づいて、その処理されるレーダビデオのスレッショルドレベルを算出する構成を有するのに対し、引用発明では、スレッショルドレベルを算出するとしているにとどまる点。

相違点3について検討するに、相違点3は相違点1と同内容であり、その判断も、上記「2.(4)判断 ア相違点1について」で説示したとおりである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-16 
結審通知日 2012-11-20 
審決日 2012-12-04 
出願番号 特願2005-10558(P2005-10558)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01S)
P 1 8・ 575- Z (G01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 説志  
特許庁審判長 飯野 茂
特許庁審判官 森 雅之
山川 雅也
発明の名称 レーダ信号処理装置  
代理人 高橋 省吾  
代理人 中鶴 一隆  
代理人 村上 加奈子  
代理人 稲葉 忠彦  

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