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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C30B
管理番号 1268988
審判番号 不服2011-24296  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-10 
確定日 2013-01-17 
事件の表示 特願2005-116372号「窒化物半導体基板及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月26日出願公開、特開2006-290697号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成17年4月14日の出願であって、平成22年11月10日付けの拒絶理由の通知に対して平成23年1月14日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年8月4日付けで拒絶査定がなされ、同年11月10日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成23年1月14日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「結晶成長中に晶癖によって基板外周部の六回対称の位置に形成されたファセット面と主面との交線をオリエンテーションフラットとしてもつことを特徴とする窒化物半導体基板。」

2.引用例記載の発明
(2-1)原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用した特開2000-22212号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(a)「【0023】GaNは六方晶系である。(0001)面は六回対称性がある。GaAsは立方晶系であるから(100)や(110)面は3回対称性を持たない。そこでGaAs(111)A面或いはB面を基板として用いる。これは三回対称性のある軸に直交する面である。A面というのはGa原子が露出している面である。B面はAs原子の露呈している面である。」

(b)【0028】800℃?1050℃程度の高温にして、HVPE法でGaNエピタキシャル層を形成する。この時バッファ層は結晶化する。図4のように孤立した窓で核発生したGaN結晶は通常六角錐を形成する。核発生後、六角錐が高さ方向と底部側方に次第に成長する。底面は六角形状に広がり窓を埋める。やがてGaNはマスクをこえて広がる。それも六角錐の形状を保持したままである。図5のように隣接窓からの結晶と接触し上に向けて成長する。このエピタキシャル成長層の厚みによって基板結晶の大きさが決まる。1枚のウエハ-は70μm?1mmの厚みをもつのでその程度の厚みであれば良い。これが図6(3)の状態である。上記のような成長過程をとるので、成長表面は荒れていて擦りガラス状である。透明とするためには研磨しなければならない。
【0029】さらに王水によってGaAs部分をエッチング除去する。マスクの部分は研磨によって除く。図6(4)の状態になる。これは1枚のGaN結晶である。透明であり自立している。1枚のウエハ-だけを作るのであればこれで終わりである。」

(c)「【0078】
【発明の効果】本発明は大型のGaN単結晶ウエハを提供する。窓付きマスクを通したラテラル成長法によるからGaN結晶中の転位等の欠陥が少ない。欠陥が少ないし内部応力が小さいので反りを低減することができる。さらに研磨によって基板表面を平坦化するため、反りは極めて少ない。フォトリソグラフィなどのウエハ-プロセスで処理する事ができる。また結晶面の揺らぎも実用性のある範囲内にある。デバイス形成に問題はない。低欠陥で反りの小さいこのウエハ-を使用してLED、LDを作製することができる。そうすればLEDの特性を向上させることができ、LDの寿命を延ばす事ができる。」

上記(a)ないし(c)の記載事項より、引用例1には、
「エピタキシャル成長がなされ、六方晶系のGaNの(0001)面には六回対称性があり、フォトリソグラフィなどのウエハ-プロセスで処理されるGaN単結晶基板。」の発明(以下、「引用例1記載の発明」という。)が開示されている。

(2-2)原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用した特開平9-110589号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載及び図示されている。
(d)「【請求項6】シリコンウェハ結晶を引上げる時に形成される結晶方位を示す晶癖線を残して外周加工するステップと、
前記晶癖線を境界にして、それぞれ態様の異なるベベルを加工するステップとを有するシリコンウェハの製造方法。」

(e)「【0004】その目印を付ける方法としては、シリコンウェハの一部分を面取りし、その位置を目印として結晶方位を示す方法が一般的である。代表的な例としては、オリエンテーションフラット加工が挙げられるが、最近ではノッチ(溝)加工も実用化されている。」

(f)「【0010】そこで本発明の目的は、レーザーマーク等を行うことなく結晶方位を容易に示すことができるシリコンウェハ及びその製造方法を提供することにある。」

(g)「【0022】まず、単結晶シリコンウェハをCZ法にて引き上げた後、いくつかのブロックに切断し、図1の平面図に示すように、例えば単結晶シリコンウェハ1の周囲に形成された4つの晶癖線S1?S4の中で結晶方位を示す晶癖線S1(方位は(011))を目印として残し、150mmφの近傍まで外周研削を行う。この外周研削を行なった単結晶シリコンウェハ1の平面図を図2(a)に、斜視図を図2(b)に示す。
【0023】従来は、この外周研削を行う際にX線による結晶方位測定を行うことが一般的であり、現在の装置性能では1ブロックに付き約2.0secの測定時間を要するため時間がかかる。これに対して、本実施の形態では図2(b)に示すような晶癖線S1を利用して結晶方向を決定するため、X線による結晶方位検索を行う必要がなく、工程数が減り最良である。」

(h)【図1】及び【図2】には、「単結晶シリコンウェハの周囲の4回対称の位置に4つの晶癖線S1?S4が形成されている」ことの図示がある。

上記(d)ないし(h)の記載事項及び図示内容より、引用例2には、
「単結晶シリコンウェハを引き上げる時に単結晶シリコンウェハの周囲の4回対称の位置に形成された4つの晶癖線S1?S4の中で結晶方位を示す晶癖線S1を目印として残して外周研磨が行われる単結晶シリコンウェハ。」の発明(以下、「引用例2記載の発明」という。)が開示されている。

3.対比・判断
本願発明と引用例1記載の発明とを対比する。
○引用例1記載の発明の「エピタキシャル成長」、「GaN単結晶基板」は、本願発明の「結晶成長」、「窒化物半導体基板」にそれぞれ相当する。

○引用例1記載の発明の「六方晶系のGaNの(0001)面には六回対称性があり」と、本願発明の「六回対称の」とは、「六回対称である」という点で共通する。

○引用例1記載の発明の「フォトリソグラフィなどのウエハ-プロセスで処理されるGaN単結晶基板(窒化物半導体基板)」は、フォトリソグラフィ自体、精密な位置合わせが行われるものであることから、「位置合わせ手段をもつ窒化物半導体基板」である場合を包含するものであるということができ、この場合と、本願発明の「オリエンテーションフラットとしてもつ窒化物半導体基板」とは、「位置合わせ手段をもつ窒化物半導体基板」という点で共通する。

上記より、本願発明と引用例1記載の発明とは、
「結晶成長がなされ、六回対称であり、位置合わせ手段をもつ窒化物半導体基板。」という点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点>
本願発明では、「結晶成長中に晶癖によって基板外周部の六回対称の位置に形成されたファセット面と主面との交線をオリエンテーションフラットとしてもつ」のに対して、
引用例1記載の発明では、エピタキシャル成長がなされ、六方晶系のGaNの(0001)面には六回対称性があり、フォトリソグラフィなどのウエハ-プロセスで処理されているものの、上記事項を特定していない点。

<相違点>について検討する。
上記2.(2-1)で示したように、引用例2には、「単結晶シリコンウェハを引き上げる時に単結晶シリコンウェハの周囲の4回対称の位置に形成された4つの晶癖線S1?S4の中で結晶方位を示す晶癖線S1を目印として残して外周研磨が行われる単結晶シリコンウェハ。」の発明が開示されている。
ここで、一般に、単結晶成長中に晶癖によって基板外周部の複数回対称の位置に形成される晶癖線が、晶癖により現れる面(ファセット面)と結晶面(主面)との間の交線であることは、本願出願前に普通に知られた事項(例えば、特開2001-31494号公報の特に下記で示す【0003】参照)であることから、これを前提にして引用例2記載の発明をみるならば、「単結晶シリコンウェハを引き上げる時に単結晶シリコンウェハの周囲の4回対称の位置に形成された『晶癖により現れる面(ファセット面)と結晶面(主面)との間の交線である4つの晶癖線S1?S4』の中で結晶方位を示す晶癖線S1を目印として残して外周研磨が行われる単結晶シリコンウェハ。」、更にいうと、「結晶成長中に晶癖によってシリコン半導体基板(単結晶シリコンウェハ)外周部の4回対称の位置に形成されたファセット面と主面との間の交線である晶癖線S1?S4の中の一つを結晶方位を示す目印として残して外周研磨が行われるシリコン半導体基板。」と言い換えることができる。
また、引用例1記載の発明は、GaN単結晶基板(窒化物半導体基板)であり、一方、引用例2記載の発明は、単結晶シリコンウェハ(シリコン半導体基板)であるものの、両者は、「単結晶成長がなされ、複数回対称である、単結晶半導体基板」という点で共通しており、このことからして、引用例2記載の発明の「単結晶シリコンウェハ」において生起する事象は、引用例1記載の発明の「GaN単結晶基板」においても同様の事象が生起するものと推認することができる。
なお、本願明細書には、「【0063】
さらに、窒化物半導体結晶に限らず、様々な結晶に対して、簡便で高精度なオリフラ形成方法として広く適用するこが可能であると考えられる。」との記載がある。
そうすると、引用例1記載の発明の「結晶(単結晶)成長がなされ、六回対称であり、位置合わせ手段をもつ窒化物半導体基板」について、上記の点で共通するとともに上記の推認ができる引用例2記載の発明の上記事項を適用することで、「結晶成長中に晶癖によって基板外周部の六回対称の位置に形成されたファセット面と主面との6つの晶癖線(交線)の中の一つを結晶方位を示す目印として残して外周研磨が行われ、位置合わせ手段をもつ窒化物半導体基板」とすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、半導体基板において、位置合わせ手段としてオリエンテーションフラット(オリフラ)を用いるとともに、溝や切り欠きを目印として外周研磨によりオリフラを形成することは、当業者における常套手段である(例えば、特開平4-113619号公報の特に第4頁左上欄第8?14行、特開2001-358549号公報の特に【0024】参照)ことから、引用例1記載の発明において、上記のように「結晶成長中に晶癖によって基板外周部の六回対称の位置に形成されたファセット面と主面との6つの晶癖線(交線)の中の一つを結晶方位を示す目印として残して外周研磨が行われ、位置合わせ手段をもつ窒化物半導体基板」とするときに、位置合わせ手段をオリフラとし、晶癖線(交線)を結晶方位を示す目印(参照部)として外周研磨によりオリフラを形成する、つまり、本願明細書の「【0056】(実施例2)・・・前記ファセット部を残すように両鏡面研磨および外形研削することにより、従来にない高精度のオリフラ(長さ約8mm)を有する・・・このオリフラを参照面としてさらに研削を行うことにより、長さ15mmのオリフラを形成した。・・・」に対応する事項を構成することは、当業者であれば適宜行う設計事項であるというべきである。
したがって、相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、引用例1、2記載の発明及び本願出願前周知の事項に基いて当業者であれば容易になし得ることである。
そして、本願発明の「オリフラの方位精度を充分に確保する等」の作用効果は、引用例1、2記載の発明及び本願出願前周知の事項に基いて当業者であれば普通に予測できるものである。
よって、本願発明は、引用例1、2記載の発明及び本願出願前周知の事項に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものである。

以下は、特開2001-31494号公報の【0003】の記載である。
「【0003】一方、CZ法とは、多結晶シリコンを石英ルツボに入れて溶融し、融液にシード結晶を接触させた後、ネッキングを行い、その後、結晶本体部を所定の直径に達するまで拡大させ、所定の長さの本体部を成長させた後、結晶径を小さくしながらテール部を形成し、テール部先端の結晶径が約5mm未満になった時点で結晶を融液から切り離し、引き上げ装置からシリコン単結晶を取り出す方法である。CZ法でシリコン単結晶を育成すると、晶癖線が結晶の表面に結晶軸に平行に現れる。この晶癖線の本数と現れる位置は育成される結晶方位の対称性に依存しており、CZ結晶で最も一般的に製造されている<100>結晶(結晶軸方向が<100>の結晶)の場合には、結晶軸に垂直な(100)面に直交する等価な2つの(110)面と結晶表面との交線の位置に4本の晶癖線が現れる。晶癖線は結晶が単結晶の場合にのみ現れ、多結晶化すると消滅するため、結晶育成中の単結晶判定に用いられている。従来の方法で育成されたシリコン結晶の場合には、図2に示すように、晶癖線の部分が他の部分よりも外に張り出している。即ち、対向する晶癖線と晶癖線との間の直径は他の位置での直径よりも大きくなってしまう。先に述べたべべリング工程では装置の制約により、所定の範囲の直径のスライスウエーハしかべべリングすることができないため、従来の方法では、一度、円筒研削を行なってべべリング可能な直径までに研削する必要があった。」(下線は、当審において付与した。)

次に、請求人は、審判請求書において、
「本願発明者らによって、オリエンテーションフラットとして用いることができる『晶癖』を初めて実現した点に、本願発明の第一の大きな特徴があります。
すなわち、本願発明者らは、300μm以上の厚さで基板全面で鏡面成長させアズグロウンで鏡面となるような条件で結晶成長することで、本発明の『晶癖』を初めて実現し(段落[0015]、[0032]?[0038])、本願発明である『結晶成長中に晶癖によって基板外周部の六回対称の位置に形成されたファセット面と主面との交線をオリエンテーションフラットとしてもつことを特徴とする窒化物半導体基板』を初めて完成することができました。」及び
「また、引用文献1は、その段落[0028]に『成長表面は荒れていて擦りガラス状である。透明とするためには研磨しなければならない。』とあるように、基板の表面がアズグロウンで鏡面ではありません。このような基板では、GaN結晶の晶癖が発現しないことが本願発明者らによって確認されております。」との主張をしているので、以下、これについて検討する。

特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)は、「300μm以上の厚さで基板全面で鏡面成長させアズグロウンで鏡面となるような条件で結晶成長することで、本発明の『晶癖』を初めて実現し」たとの事項を発明特定事項にするものではないことから、上記事項をもって特許性がある旨の主張は、特許請求の範囲の請求項1の記載に基づかない主張である。
また、「基板の表面がアズグロウンで鏡面でない基板では、GaN結晶の晶癖が発現しないことが本願発明者らによって確認されて」いるとの主張について、これを実証する具体的なデータ等が示されておらず、根拠が不十分である。
したがって、請求人の上記主張を採用することはできない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1、2記載の発明及び本願出願前周知の事項に基いて当業者であれば容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2ないし15に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-15 
結審通知日 2012-11-20 
審決日 2012-12-04 
出願番号 特願2005-116372(P2005-116372)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C30B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近野 光知  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 斉藤 信人
真々田 忠博
発明の名称 窒化物半導体基板及びその製造方法  

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