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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F |
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管理番号 | 1269187 |
審判番号 | 不服2010-20384 |
総通号数 | 159 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-03-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-09-10 |
確定日 | 2013-01-21 |
事件の表示 | 特願2006-501179「フォトレジスト組成物のための溶解速度調整剤」拒絶査定不服審判事件〔平成16年9月2日国際公開、WO2004/074933、平成19年9月6日国内公表、特表2007-525543〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成16年2月20日(パリ条約による優先権主張 2003年2月20日、2003年10月17日 ともにアメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成20年10月2日付けで拒絶理由が通知され、平成21年4月6日付け意見書、手続補正書及び手続補足書が提出されたが、平成22年5月6日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年9月10日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成23年3月7日付けで前置報告がなされ、当審において平成24年4月4日付けで審尋がなされ、同年7月3日に回答書が提出されたものである。 第2.補正の却下の決定 [結論] 平成22年9月10日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.手続補正の内容 平成22年9月10日付け手続補正(以下、「本件手続補正」という。)の内容は、平成21年4月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の記載をさらに補正するものであり、具体的には以下のとおりである。なお、請求項3?12及び請求項14?42については本件手続補正の前後で記載が変更されていないので記載を省略する。 「【請求項1】 1以上の以下の式A、B、C、D又はE: 【化1】 によるモノマーから誘導される繰返し単位を含んでなるオリゴマーを含んでなる溶解速度調整剤であって、 前記繰返し単位は、式A及び式Eの少なくとも1つによるフッ素化された酸不安定基の置換基を含むモノマーから誘導される第1の繰返し単位を含んでなり、但し、式Aによるモノマーが存在する場合、式B、C、およびDの少なくとも1つが存在しなければならず;式Eによるモノマーが存在する場合、少なくとも一つの式A、B又はCによるモノマーが存在しなければならず;式Eが存在する場合、式Dは存在しないことを条件とし、但し、少なくとも一つの繰返し単位が式D又はEから誘導される場合、オリゴマーの誘導がフリーラジカル触媒を使用することを含んでなり、そしてここで前記繰返し単位が式A、B及び/又はCによるモノマーからのみ誘導される場合、オリゴマーの誘導がNi又はPdを含んでなる触媒を使用することを含んでなることを条件とし; 式中、mは、0?5の整数であり;Zは、-CH_(2)-、-CH_(2)-CH_(2)-、-O-、-S-、又は-NH-であり;式中、少なくとも一つのR^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)置換基は、独立に、酸不安定基によって所望により保護された1?10個の炭素原子を有するフッ素化されたカルビノールであり、そして残りのR^(1)、R^(2)、R^(3)、及びR^(4)は、独立に、水素、ハロゲン、或いは、1?20個の炭素原子を含有するヒドロカルビル、或いは任意の水素原子がO、S、N、又はSiで置換された1?20個の炭素原子を有するヒドロカルビル、或いは各炭素原子が、独立に0、1、2、又は3個のフッ素原子を置換基として有する、1?20個の炭素原子を有するフッ素化されたヒドロカルビルであり;式中、少なくとも一つのR^(5)、R^(6)、R^(7)、又はR^(8)は、独立に酸に不安定な部分を含有し、そして残りの1以上のR^(5)、R^(6)、R^(7)、又はR^(8)は、独立に水素、ハロゲン、又は1?20個の炭素原子を有するヒドロカルビル、或いは任意の水素原子がO、S、N、又はSiで置換された1?20個の炭素原子を含有するヒドロカルビル、或いは各炭素原子が、独立に0、1、2、又は3個のフッ素原子を置換基として有する、1?20個の炭素原子を有するフッ素化されたヒドロカルビルであり;式中、R^(9)、R^(10)、R^(11)、又はR^(12)は、独立に水素原子、1?20個の炭素原子を有するヒドロカルビル、及び任意の水素原子がO、S、N、又はSiで置換された1?20個の炭素原子を有し、そしてエポキシ、ヒドロキシ、及び/又はカルボン酸官能基を所望により含有するヒドロカルビルから独立に選択され;式中、Yは、酸不安定基によって所望により保護された1?10個の炭素原子を有するフッ素化されたカルビノールであり、Xは、OH、CN、OC(O)R^(13)、C(O)OR^(13)、OR^(13)、N(R^(13))_(2)であり、ここでR^(13)は、1?12個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝鎖又は環式の脂肪族ヒドロカルビル基であり、そして所望により前記ヒドロカルビルの少なくとも一つの炭素原子は、1、2、又は3個のフッ素原子を置換基として有し;そして前記オリゴマーが、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された3000より少ない重量平均分子量(Mw)を有する、前記溶解速度調整剤。 【請求項2】 存在するY、R^(1)、R^(2)、R^(3)、又はR^(4)の少なくとも一つが式 -((CH_(2))_(n)O)_(n’)-CH_(2)-C(OR’)(CF_(3))_(2)[式中R’がH又は酸不安定基であり、そしてn及びn’が独立に0?10である]によるフッ素化された基である、請求項1に記載の溶解速度調整剤。 【請求項13】 前記開始剤が、モノマー混合物の全重量の1%?20重量%の水準で存在する、請求項12に記載の方法。」 を、 「【請求項1】 1以上の以下の式A、B、C、D又はE: 【化1】 によるモノマーから誘導される繰返し単位を含んでなるオリゴマーを含んでなる溶解速度調整剤であって、 前記繰返し単位は、式A及び式Eの少なくとも1つによるフッ素化された酸不安定基の置換基を含むモノマーから誘導される第1の繰返し単位を含んでなり、但し、式Aによるモノマーが存在する場合、式B、C、およびDの少なくとも1つが存在しなければならず;式Eによるモノマーが存在する場合、少なくとも一つの式A、B又はCによるモノマーが存在しなければならず;式Eが存在する場合、式Dは存在しないことを条件とし、但し、少なくとも一つの繰返し単位が式D又はEから誘導される場合、オリゴマーの誘導がフリーラジカル触媒を使用することを含んでなり、そしてここで前記繰返し単位が式A、B及び/又はCによるモノマーからのみ誘導される場合、オリゴマーの誘導がNi又はPdを含んでなる触媒を使用することを含んでなることを条件とし; 式中、mは、0?5の整数であり;Zは、-CH_(2)-、-CH_(2)-CH_(2)-、-O-、-S-、又は-NH-であり;式中、少なくとも一つのR^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)置換基は、独立に、式-(CH_(2))n-C(OR’)(CF_(3))_(2)(式中、nは0?10であり、R’はHまたは酸不安定基である)により表されるフッ素化されたカルビノールであり、そして残りのR^(1)、R^(2)、R^(3)、及びR^(4)は、独立に、水素、ハロゲン、或いは、1?20個の炭素原子を含有するヒドロカルビル、或いは任意の水素原子がO、S、N、又はSiで置換された1?20個の炭素原子を有するヒドロカルビル、或いは各炭素原子が、独立に0、1、2、又は3個のフッ素原子を置換基として有する、1?20個の炭素原子を有するフッ素化されたヒドロカルビルであり;式中、少なくとも一つのR^(5)、R^(6)、R^(7)、又はR^(8)は、独立に酸に不安定な部分を含有し、そして残りの1以上のR^(5)、R^(6)、R^(7)、又はR^(8)は、独立に水素、ハロゲン、又は1?20個の炭素原子を有するヒドロカルビル、或いは任意の水素原子がO、S、N、又はSiで置換された1?20個の炭素原子を含有するヒドロカルビル、或いは各炭素原子が、独立に0、1、2、又は3個のフッ素原子を置換基として有する、1?20個の炭素原子を有するフッ素化されたヒドロカルビルであり;式中、R^(9)、R^(10)、R^(11)、又はR^(12)は、独立に水素原子、1?20個の炭素原子を有するヒドロカルビル、及び任意の水素原子がO、S、N、又はSiで置換された1?20個の炭素原子を有し、そしてエポキシ、ヒドロキシ、及び/又はカルボン酸官能基を所望により含有するヒドロカルビルから独立に選択され;式中、Yは、酸不安定基によって所望により保護された1?10個の炭素原子を有するフッ素化されたカルビノールであり、Xは、OH、CN、OC(O)R^(13)、C(O)OR^(13)、OR^(13)、N(R^(13))_(2)であり、ここでR^(13)は、1?12個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝鎖又は環式の脂肪族ヒドロカルビル基であり、そして所望により前記ヒドロカルビルの少なくとも一つの炭素原子は、1、2、又は3個のフッ素原子を置換基として有し;そして前記オリゴマーが、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された3000より少ない重量平均分子量(Mw)を有する、前記溶解速度調整剤。 【請求項2】 存在するYの少なくとも一つが式 -((CH_(2))_(n)O)_(n’)-CH_(2)-C(OR’)(CF_(3))_(2)[式中R’がH又は酸不安定基であり、そしてn及びn’が独立に0?10である]によるフッ素化された基である、請求項1に記載の溶解速度調整剤。 【請求項13】 前記開始剤が、モノマー混合物の全重量の1重量%?20重量%の水準で存在する、請求項12に記載の方法。」 と補正するものである。 2.本件手続補正の適否について 本件手続補正は、審判請求と同時にされた補正であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「特許法」という。)第17条の2第4項第1号から第4号に掲げるいずれかの事項を目的とするものに限られる。 そこで、本件手続補正の目的について検討する。 本件手続補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項の一つである置換基であるR^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)に関し、補正前に「独立に、酸不安定基によって所望により保護された1?10個の炭素原子を有するフッ素化されたカルビノール」であったものを「独立に、式-(CH_(2))_(n)-C(OR’)(CF_(3))_(2)(式中、nは0?10であり、R’はHまたは酸不安定基である)により表されるフッ素化されたカルビノール」のみへと特定する補正事項を含むものであり、かかる補正事項は、発明の産業上の利用分野も、解決しようとする課題も変更するものでもなく、いわゆる限定的減縮に該当する。 したがって、本件手続補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むものである。 3.独立特許要件について 上記のとおり、本件手続補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるので、本件手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という。)が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件(いわゆる、独立特許要件)を満足するか否かについて、以下に検討する。 (1)補正発明1について 補正発明1は、本件手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される前記第2.1.に記載のとおりのものと認める。 (2)刊行物 国際公開第2002/31595号(以下、「引用例」という(原審での引用文献1)。) (3)引用例の記載について 引用例には、以下の事項が記載されている。なお、引用例の摘示記載は、引用例に対応する公表公報である特表2004-523774号公報の記載によった。 ア.「【請求項1】 (a)ポリマー結合剤と、 (b)光活性成分と、 (c)次の構造、 -C(R_(f))(R_(f’))OR (式中、R_(f)およびR_(f’)は、1?約10の炭素原子を有する同一または異なるフルオロアルキル基であるか、あるいは一緒になって(CF_(2))_(a)であり、aは2?約10の範囲の整数であり、そしてRは水素原子または酸不安定性保護基である。)を有する少なくとも1つの官能基を含有するパラフィン系またはシクロパラフィン系化合物を含む少なくとも1つの溶解抑制剤と を含むことを特徴とするフォトレジスト組成物。」(特許請求の範囲、請求項1) イ.「【請求項11】 前記溶解抑制剤が、約3000以下の分子量を有する飽和オリゴマーであることを特徴とする請求項1に記載のフォトレジスト組成物。 【請求項12】 前記飽和オリゴマーが、 【化1】 (式中、mは2?約9の範囲の整数であり、そしてRは酸不安定性保護基である。)からなる群から選択されることを特徴とする請求項11に記載のフォトレジスト組成物。」(特許請求の範囲、請求項11?12) ウ.「(発明の分野) 本発明はフォトレジスト組成物に関し、特に半導体デバイス製造用フォトレジスト組成物に関する。本発明は、レジスト中で溶解抑制剤として有用な、(特に短波長、例えば157nmにおいて)高いUV透過性を有するフッ素含有化合物にも関する。」(段落【0001】) エ.「本発明の一態様において、溶解抑制剤は、次の構造、 -C(R_(f))(R_(f’))OR (式中、R_(f)およびR_(f’)は本明細書に記載される通りである。)を有する保護されたフルオロアルコール官能基を含有する、少なくとも1つ、典型的には少なくとも2つ、より典型的には2?約10、そしてより一層典型的には2?約3のエチレン系不飽和化合物から誘導された繰り返し単位を含むオリゴマーである。 この場合、オリゴマーは、3000以下の数平均分子量を有する低分子量ポリマー(例えば、二量体、三量体、四量体)である。当業者に知られているように、ある種のエチレン系不飽和化合物(モノマー)は、フリーラジカル重合または金属触媒による付加重合を受けて、エチレン系不飽和化合物から誘導された繰り返し単位を有するポリマーを形成する。重合条件の適切な調節により、特に、合成時に連鎖移動剤または連鎖停止剤を使用することにより、生成物の分子量を所望の範囲に制御することができる。保護されたフルオロアルコール基を含有するエチレン系不飽和モノマーのラジカル共重合は、与えられたコポリマー性ベース樹脂を形成するために重合される1つ以上のコモノマー中に保護された酸基を含むことを伴い得る。あるいは、PCT US00/11539に開示されるように、酸含有コモノマーとの共重合によりコポリマー性ベース樹脂を形成することができ、そしてその後、得られた酸含有コポリマーの酸官能性を部分的にまたは全体的に、適切な手段により、保護された酸基を有する誘導体へと変換することができる。 フリーラジカル重合において分子量を制御するために有用である連鎖移動剤は当該分野において周知であり、メタノール、エタノールおよび2-プロパノールのような第一および第二アルコール、四塩化炭素のようなクロロカーボン、ならびにドデシルメルカプタンのようなチオールが挙げられる。遷移金属触媒による保護された、または保護されていないフルオロアルコール官能基を含有するモノマーの付加重合が利用されてもよい。適切な連鎖移動剤、例えば、水素、シラン、またはエチレン、プロピレンもしくは1-ヘキセンのようなオレフィンの添加により、オリゴマーが形成されるように分子量を低下させることができる。ニッケルおよびパラジウム触媒により触媒されたノルボルネン型モノマーの重合における分子量の制御および低下にオレフィンを使用することについては当該分野で既知であり、例えば、米国特許第5,741,869号、第5,571,881号、第5,569,730号および第5,468,819号を参照されたい。 本発明の範囲内の、保護されたフルオロアルコール基を含有する代表的なモノマーの幾つかの実例を以下に示すが、これは非限定的な例である。 【化4】 」(段落【0039】?【0043】) (4)引用例に記載された発明 引用例には、摘示ウより、半導体デバイス製造用フォトレジスト組成物中で溶解抑制剤として有用な、(特に短波長、例えば157nmにおいて)高いUV透過性を有するフッ素含有化合物が記載され、摘示アより、係る溶解抑制剤としては、 「次の構造、 -C(R_(f))(R_(f’))OR (式中、R_(f)およびR_(f’)は、1?約10の炭素原子を有する同一または異なるフルオロアルキル基であるか、あるいは一緒になって(CF_(2))_(a)であり、aは2?約10の範囲の整数であり、そしてRは水素原子または酸不安定性保護基である。)を有する少なくとも1つの官能基を含有するパラフィン系またはシクロパラフィン系化合物を含む少なくとも1つの溶解抑制剤」が記載され、前記化合物の具体例として、摘示エより、【化4】に記載された化合物が列挙されている。 さらに、摘示イ及びエより、前記溶解抑制剤が、約3000以下の数平均分子量を有する飽和オリゴマーであることも記載されている。 してみると、引用例には、 「以下の化合物を含む約3000以下の数平均分子量を有する飽和オリゴマーからなる少なくとも1つの溶解抑制剤。 【化4】 」の発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。 (5)補正発明1と引用例発明との対比 引用例発明の「溶解抑制剤」は、補正発明1の「溶解速度調整剤」に相当することは明らかである。 摘示エから、引用例発明のオリゴマーが、【化4】に記載のモノマーから誘導される繰り返し単位を含んでなるものを採用できることは明らかである。 ここで、【化4】の以下の構造のモノマー(以下、「aモノマー」という。)は、補正発明1の式Aのモノマーにおいて、mが0、R^(1)?R^(3)がH、R^(4)が式-(CH_(2))n-C(OR’)(CF_(3))_(2)において、式中、nは1であり、R’は酸不安定基である-CH_(2)OCH_(3)であるモノマーに相当するから、補正発明1の式Aのモノマーに相当する。 また、【化4】の以下の構造のモノマー(以下、「bモノマー」という。)は、補正発明1の式Bのモノマーにおいて、mが0、R^(5)?R^(7)がH、R^(8)が酸に不安定な部分である-CH_(2)OCH_(3)を含有するモノマーに相当するから、補正発明1の式Bのモノマーに相当する。 してみると、補正発明1と引用例発明は、 「1以上の以下の式A、B、C、D又はE: 【化1】 によるモノマーから誘導される繰返し単位を含んでなるオリゴマーを含んでなる溶解速度調整剤」である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:補正発明1では、式Aによるモノマーが存在する場合、式B、C、およびDの少なくとも1つが存在しなければならず」と特定しているが、引用例発明ではそのような特定がない点。 相違点2:補正発明1では、オリゴマーの重量平均分子量(Mw)が3000より少ないと特定しているが、引用例発明では、数平均分子量が3000以下と特定している点。 相違点3:補正発明1では、「繰返し単位が式A、B及び/又はCによるモノマーからのみ誘導される場合、オリゴマーの誘導がNi又はPdを含んでなる触媒を使用することを含んでなることを条件とし」と、繰り返し単位と触媒との関係を特定しているが、引用例発明ではそのような特定がない点。 (6)判断 ア.相違点1について 摘示エから、引用例発明のオリゴマーとして、前記【化4】に記載のモノマーから複数のものを選択して得たものを採用できることは、明らかであるから、式Aに相当するaモノマーと式Bに相当するbモノマーを採用することは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば、溶解抑制(速度)の程度等を勘案し、適宜なし得ることを認められる。 また、式Aと式Bのモノマーを併用することにより格別顕著な効果が奏されているとも認められない。 イ.相違点2について 補正発明1の3000より少ない重量平均分子量(Mw)の意味は、明細書の段落【0033】の記載からみて、分子量が150?3000間の低分子量のものを意味しており、これは、同じく明細書の合成実施例1?4の記載からみて、2量体、3量体、4量体程度のものからなることを意味するものと認められる。一方、引用例の摘示エから、引用例発明のオリゴマーは、「低分子量ポリマー(例えば、二量体、三量体、四量体)」と記載されている。 してみると、相違点2にかかる分子量について、補正発明1と引用例発明の定義は異なるが、同じ低分子量のものを意味しており、実質的な相違点とは認められない。 ウ.相違点3について 補正発明1における「繰返し単位が式A、B及び/又はCによるモノマーからのみ誘導される場合」とは、オリゴマーがノルボルネン型モノマーのみから誘導される場合であり、そして、摘示エには、「ニッケルおよびパラジウム触媒により触媒されたノルボルネン型モノマーの重合における分子量の制御および低下にオレフィンを使用することについては当該分野で既知であり」と記載され、ノルボルネン型モノマーの重合にNi又はPdを含んでなる触媒を使用することが引用例に開示されていることからみて、相違点3は実質的な相違点ではないか、あるいは当業者が適宜使用し得る程度のことに過ぎない。 (7)まとめ したがって、補正発明1は、引用例に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたというべきであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成22年9月10日付けの手続補正は、上述のとおり却下されたので、本願の請求項1?42に係る発明は、平成21年4月6日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?42に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は以下のとおりのものである。 「1以上の以下の式A、B、C、D又はE: 【化1】 によるモノマーから誘導される繰返し単位を含んでなるオリゴマーを含んでなる溶解速度調整剤であって、 前記繰返し単位は、式A及び式Eの少なくとも1つによるフッ素化された酸不安定基の置換基を含むモノマーから誘導される第1の繰返し単位を含んでなり、但し、式Aによるモノマーが存在する場合、式B、C、およびDの少なくとも1つが存在しなければならず;式Eによるモノマーが存在する場合、少なくとも一つの式A、B又はCによるモノマーが存在しなければならず;式Eが存在する場合、式Dは存在しないことを条件とし、但し、少なくとも一つの繰返し単位が式D又はEから誘導される場合、オリゴマーの誘導がフリーラジカル触媒を使用することを含んでなり、そしてここで前記繰返し単位が式A、B及び/又はCによるモノマーからのみ誘導される場合、オリゴマーの誘導がNi又はPdを含んでなる触媒を使用することを含んでなることを条件とし; 式中、mは、0?5の整数であり;Zは、-CH_(2)-、-CH_(2)-CH_(2)-、-O-、-S-、又は-NH-であり;式中、少なくとも一つのR^(1)、R^(2)、R^(3)、R^(4)置換基は、独立に、酸不安定基によって所望により保護された1?10個の炭素原子を有するフッ素化されたカルビノールであり、そして残りのR^(1)、R^(2)、R^(3)、及びR^(4)は、独立に、水素、ハロゲン、或いは、1?20個の炭素原子を含有するヒドロカルビル、或いは任意の水素原子がO、S、N、又はSiで置換された1?20個の炭素原子を有するヒドロカルビル、或いは各炭素原子が、独立に0、1、2、又は3個のフッ素原子を置換基として有する、1?20個の炭素原子を有するフッ素化されたヒドロカルビルであり;式中、少なくとも一つのR^(5)、R^(6)、R^(7)、又はR^(8)は、独立に酸に不安定な部分を含有し、そして残りの1以上のR^(5)、R^(6)、R^(7)、又はR^(8)は、独立に水素、ハロゲン、又は1?20個の炭素原子を有するヒドロカルビル、或いは任意の水素原子がO、S、N、又はSiで置換された1?20個の炭素原子を含有するヒドロカルビル、或いは各炭素原子が、独立に0、1、2、又は3個のフッ素原子を置換基として有する、1?20個の炭素原子を有するフッ素化されたヒドロカルビルであり;式中、R^(9)、R^(10)、R^(11)、又はR^(12)は、独立に水素原子、1?20個の炭素原子を有するヒドロカルビル、及び任意の水素原子がO、S、N、又はSiで置換された1?20個の炭素原子を有し、そしてエポキシ、ヒドロキシ、及び/又はカルボン酸官能基を所望により含有するヒドロカルビルから独立に選択され;式中、Yは、酸不安定基によって所望により保護された1?10個の炭素原子を有するフッ素化されたカルビノールであり、Xは、OH、CN、OC(O)R^(13)、C(O)OR^(13)、OR^(13)、N(R^(13))_(2)であり、ここでR^(13)は、1?12個の炭素原子を含有する直鎖若しくは分枝鎖又は環式の脂肪族ヒドロカルビル基であり、そして所望により前記ヒドロカルビルの少なくとも一つの炭素原子は、1、2、又は3個のフッ素原子を置換基として有し;そして前記オリゴマーが、ゲル浸透クロマトグラフィーによって測定された3000より少ない重量平均分子量(Mw)を有する、前記溶解速度調整剤。」 2.原査定における拒絶の理由 原査定の拒絶の理由とされた、平成20年10月2日付け拒絶理由通知書に記載した理由3の概要は、請求項1?43に係る発明は、引用文献1に記載の発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 第4.当審の判断 本願発明1が引用文献1(国際公開第2002/31595号)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたか否か検討する。 (1)本願発明1について 引用文献1は、前記第2.3.(2)の刊行物と同じであるから、引用文献1には、前記第2.3.(3)に記載した事項及び第2.3.(4)に記載の発明が記載されている。以下、引用文献1に記載された発明を引用例発明ともいう。 本願発明1は、前記第2.2から、置換基であるR^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)について、「酸不安定基によって所望により保護された1?10個の炭素原子を有するフッ素化されたカルビノール」とするものであり、該カルビノールが、補正発明1の「式-(CH_(2))_(n)-C(OR’)(CF_(3))_(2)(式中、nは0?10であり、R’はHまたは酸不安定基である)により表されるフッ素化されたカルビノール」を含むことは明らかであるから、本願発明1は補正発明1を含んでいる。 そこで、本願発明1と引用例発明とを対比すると、両者は、前記第2.3.(5)に記載した点で一致し、同じく前記第2.3.(5)に記載した相違点1?3で相違する。そして、相違点1?3については、前記第2.3.(6)に記載したとおりである。 そうすると、前記第2.2.(6)に記載したとおり、補正発明1は引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、補正発明1を含む本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)まとめ よって、本願発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第5.回答書の補正案について 審判請求人は、平成24年7月3日提出の回答書において、本願明細書の段落番号【0045】の「R’は、酸に不安定な基であり、」との記載を「R’は、H又は酸に不安定な基であり、」と補正したい旨主張している。 しかしながら、係る補正によっても、前記第4.の判断はいささかも変更されないことから、上記補正は受け入れられない。 第6.むすび 以上のとおりであるから、本願発明1についての原査定の拒絶の理由は妥当なものである。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-08-30 |
結審通知日 | 2012-08-31 |
審決日 | 2012-09-11 |
出願番号 | 特願2006-501179(P2006-501179) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C08F)
P 1 8・ 575- Z (C08F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 村上 騎見高 |
特許庁審判長 |
田口 昌浩 |
特許庁審判官 |
小野寺 務 加賀 直人 |
発明の名称 | フォトレジスト組成物のための溶解速度調整剤 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 寺地 拓己 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 小野 新次郎 |