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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1269192 |
審判番号 | 不服2010-24308 |
総通号数 | 159 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-03-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-10-28 |
確定日 | 2013-01-23 |
事件の表示 | 特願2006-266293「2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノールと2種の酸化ベースを含有するケラチン繊維の酸化染色用組成物及び染色方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月 8日出願公開、特開2007- 56028〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成10年7月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 1997年9月1日,フランス)を国際出願日とする出願である特願平11-516364号の一部を平成18年9月29日に新たな特許出願としたものであって、平成18年10月25日受付けで手続補正がなされ、拒絶理由通知に応答して平成21年3月2日受付けで手続補正書と意見書が提出され、平成21年3月31日受付けで上申書が提出されたが、平成22年6月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年10月28日に拒絶査定不服審判が請求され、その審判の請求と同時に手続補正がなされ(以下、当該手続補正を「平成22年10月28日付けの手続補正」ともいう。)、平成23年1月20日受付けで手続補正書(方式)が提出されたものであり、その後、前置報告書を用いた審尋に応答して平成24年7月10日受付けで回答書が提出されたものである。 2.平成22年10月28日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成22年10月28日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 [理由] (1)補正の概略 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、 補正前(平成21年3月2日受付けの手続補正書参照)の 「【請求項1】 染色に適した媒体中に: - 修正剤として、2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノール及び/又はその酸付加塩類の少なくとも1種; - パラ-フェニレンジアミン類、パラ-アミノフェノール類、ピリジン誘導体、ピラゾール誘導体、ピラゾロピリミジン誘導体及びそれらの酸付加塩類から選択される異なる種類の少なくとも2つの酸化ベース; を含有してなる毛髪等のヒトのケラチン繊維の酸化染色用組成物であって、2-(β-ヒドロキシエチル)-パラ-フェニレンジアミンとテトラアミノピリミジンとを同時には含有していないことを特徴とする組成物。」から、 補正後の 「【請求項1】 染色に適した媒体中に: - 修正剤として、2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノール及び/又はその酸付加塩類の少なくとも1種; - パラ-フェニレンジアミン類とパラ-アミノフェノール類との組み合わせ、パラ-フェニレンジアミン類とピラゾール誘導体との組み合わせ、及びそれらの酸付加塩類から選択される異なる種類の少なくとも2つの酸化ベース; を含有してなる毛髪等のヒトのケラチン繊維の酸化染色用組成物であって、2-(β-ヒドロキシエチル)-パラ-フェニレンジアミンとテトラアミノピリミジンとを、又はパラ-フェニレンジアミンとパラ-アミノフェノールとを同時には含有していないことを特徴とする組成物であって、 前記パラ-フェニレンジアミン類が、次の式(I): 【化1】 [- R_(1)は、(C_(1)-C_(4))アルコキシ(C_(1)-C_(4))アルキル基、C_(1)-C_(4)モノヒドロキシアルキル基又は水素原子を表し; - R_(2)は、(C_(1)-C_(4))アルコキシ(C_(1)-C_(4))アルキル基、C_(1)-C_(4)モノヒドロキシアルキル基又は水素原子を表し; - R_(3)は、C_(1)-C_(4)モノヒドロキシ-アルキル基、C_(1)-C_(4)アルキル基又は水素原子を表し; - R_(4)は、水素原子又はC_(1)-C_(4)アルキル基を表す] で示される化合物及びそれらの酸付加塩類から選択され、 前記パラ-アミノフェノール類が、次の式(III): 【化2】 [- R_(13)は、水素原子、C_(1)-C_(4)アルキル基、C_(1)-C_(4)モノヒドロキシアルキル基を表し、 - R_(14)は、水素原子、C_(1)-C_(4)アルキル基を表し、 R_(13)又はR_(14)基の少なくとも1つは水素原子を表す] に相当する化合物及びそれらの酸付加塩類から選択される組成物。」(注:下線は、原文のとおり。) とする補正を含むものである。 上記補正前後の発明特定事項を対比すると、上記補正は、 (イ)請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「異なる種類の少なくとも2つの酸化ベース」について、 (イ-1)「パラ-フェニレンジアミン類、パラ-アミノフェノール類、ピリジン誘導体、ピラゾール誘導体、ピラゾロピリミジン誘導体及びそれらの酸付加塩類から選択される」を、「パラ-フェニレンジアミン類とパラ-アミノフェノール類との組み合わせ、パラ-フェニレンジアミン類とピラゾール誘導体との組み合わせ、及びそれらの酸付加塩類から選択される」と補正し、かつ、 (イ-2)該「パラ-フェニレンジアミン類」と「パラ-アミノフェノール類」について、「前記パラ-フェニレンジアミン類が、次の式(I): 【化1】 [- R_(1)は、(C_(1)-C_(4))アルコキシ(C_(1)-C_(4))アルキル基、C_(1)-C_(4)モノヒドロキシアルキル基又は水素原子を表し; - R_(2)は、(C_(1)-C_(4))アルコキシ(C_(1)-C_(4))アルキル基、C_(1)-C_(4)モノヒドロキシアルキル基又は水素原子を表し; - R_(3)は、C_(1)-C_(4)モノヒドロキシ-アルキル基、C_(1)-C_(4)アルキル基又は水素原子を表し; - R_(4)は、水素原子又はC_(1)-C_(4)アルキル基を表す] で示される化合物及びそれらの酸付加塩類から選択され、 前記パラ-アミノフェノール類が、次の式(III): 【化2】 [- R_(13)は、水素原子、C_(1)-C_(4)アルキル基、C_(1)-C_(4)モノヒドロキシアルキル基を表し、 - R_(14)は、水素原子、C_(1)-C_(4)アルキル基を表し、 R_(13)又はR_(14)基の少なくとも1つは水素原子を表す] に相当する化合物及びそれらの酸付加塩類から選択される」との限定を付加し、 (ロ)同じく「同時には含有していない」ことについて、「又はパラ-フェニレンジアミンとパラ-アミノフェノール」との限定を付加する ものである。 すなわち、前記(イ-1)の補正は、「異なる種類の少なくとも2つの酸化ベース」の組合せを特定の組合せに限定するものであり、前記(イ-2)の補正は、「パラ-フェニレンジアミン類」と「パラ-アミノフェノール類」について、それぞれの類を更に特定の化学構造式で特定するものであり、前記(ロ)の補正は、「パラ-フェニレンジアミンとパラ-アミノフェノール」の組合せを範囲外とするものである。 してみると、本件補正に含まれる特許請求の範囲の請求項1についての補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「平成18年改正前特許法」ともいう。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (2)引用例 原査定の拒絶理由に引用された本願優先権主張日前に頒布された刊行物である国際公開96/15765号(以下、「引用例」という。)には、次のような技術事項が記載されている。また、酸化染毛剤の技術常識を示すために、「周知図書」として、日本化粧品技術者会編、「最新化粧品科学-改訂増補II-」、株式会社薬事日報社、平成4年7月10日、改訂増補II発行、第157頁(酸化染毛剤の項目)の記載を提示しておく。 なお、引用例は、ドイツ語であるため翻訳文で示し、下線を当審で付与した。翻訳にあたっては、引用例に係る国際出願が日本国への出願時に提出された翻訳文である特表平10-508861号公報を参考にし、Entwicklerkomponente(染料中間体成分)を「第一中間体」と訳し、Kupplerkomponente(カプラー成分)を「第二中間体」と訳すこととした。 [引用例] (1-i)「1.水含有担体中に染料中間体成分(Entwicklerkomponente;以下、「第一中間体」ともいう。)及びカプラー成分(Kupplerkomponente;以下、「第二中間体」ともいう。)を含有するケラチン繊維染色用の酸化染料であって、第一中間体として、2-(2,5-ジアミノフェニル)-エタノールまたは無機もしくは有機酸とのその塩を含有し、第二中間体として、2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノールまたは無機もしくは有機酸とのその塩を含有する酸化染料。」(第14頁の特許請求の範囲の1.を参照) (1-ii)「いわゆる酸化染料は、色の純度が高く、耐久性が良好である故に、ケラチン繊維(とりわけ人毛)の染色において重要な役割を担っている。このような酸化染料は、酸化染料前駆物質、いわゆる第一中間体および第二中間体を含有する。第一中間体どうし、または第一中間体と1種もしくはそれ以上の第二中間体とが、酸化剤または空気中の酸素の存在下にカップリングして、実際の染料を形成する。 良好な酸化染料前駆物質は、とりわけ次のような条件を満足することが求められる: 酸化カップリング反応によって、充分な純度および耐久性を有する所望の色調を生成しなければならない。更に、顕著なムラ無く、繊維に容易に吸収されなければならず、特に人毛の場合、傷んだ毛髪と新しい再生毛髪との間にムラがあってはならない(均染性)。光、熱、および化学的還元剤(例えばパーマネントウェーブローション)に対し、抵抗性でなければならない。また、染毛に使用する場合には、過度に頭皮を染めてはならず、とりわけ毒物学的および皮膚科学的に安全であるべきである。」(第1頁4行?同頁22行参照) (1-iii)「通例用いられる第一中間体は、ヒドロキシまたは置換基を有しても良いアミノ基をパラまたはオルト位に更に有する第一級芳香族アミン、ジアミノピリジン誘導体、複素環ヒドラゾン、4-アミノピラゾロン誘導体、並びに2,4,5,6-テトラアミノピリミジンおよびその誘導体である。 その例は、例えば、p-トルイレンジアミン、2,4,5,6-テトラアミノピリミジン、p-アミノフェノール、N,N-ビス-(2-ヒドロキシエチル)-p-フェニレンジアミン、2-(2,5-ジアミノフェニル)-エタノール、2-(2,5-ジアミノフェノキシ)-エタノール、1-フェニル-3-カルボキシアミド-4-アミノ-ピラゾロン-5および4-アミノ-3-メチルフェノール、2-ヒドロキシ-4,5,6-トリアミノピリミジン、2,4-ジヒドロキシ-5,6-ジアミノピリミジンおよび2,5,6-トリアミノヒドロキシピリミジンである。 通例用いられる第二中間体は、m-フェニレンジアミン誘導体、ナフトール、レゾルシノールおよびレゾルシノール誘導体、ピラゾロン並びにm-アミノフェノールである。特に適当な第二中間体は、α-ナフトール、ピロガロール、1,5-、2,7-および1,7-ジヒドロキシナフタレン、5-アミノ-2-メチルフェノール、5-アミノ-2-メチルフェノール、m-アミノフェノール、レゾルシノール、レゾルシノールモノメチルエーテル、m-フェニレンジアミン、1-フェニル-3-メチル-ピラゾロン-5、2,4-ジクロロ-3-アミノフェノール、1,3-ビス-(2,4-ジアミノフェノキシ)-プロパン、2-クロロレゾルシノール、2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノール、並びに2-メチルレゾルシノールである。」(第1頁23行?第2頁14行参照) (1-iv)「ある種の第一中間体は、種々の第二中間体と組み合わせることにより、広範な色調を生成し得る。しかし、第一中間体を1種のみ使用した場合は、広範な自然な色調を得られないことがしばしばである。そこで、実際には、自然に見える色1種を得るのに、種々の第一中間体および第二中間体を組み合わせて使用しなければならない。すなわち、新しい改善された第一中間体/第二中間体組み合わせが、常に必要とされている。このことは、青色に特に当てはまる。青色を生成する従来の染料は、均染性、並びにコールドウェービングおよび洗浄に対する抵抗性に関して、充分満足できないことがしばしばであった。 すなわち、本発明の課題は、青色域の色を生成する新規第一中間体/第二中間体組み合わせであって、酸化染料前駆物質の条件を満足し得るものを提供することであった。 驚くべきことに、既知の第一中間体と既知の第二中間体との特定の組み合わせは、非常に鮮明で、しかも摩擦耐久性に優れた濃青色をもたらすということがわかった。 本発明は、水含有担体中に第一中間体および第二中間体を含有する、ケラチン繊維染色用の酸化染料であって、第一中間体として、2-(2,5-ジアミノフェニル)-エタノールまたは無機もしくは有機酸とのその塩を含有し、第二中間体として、2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノールまたは無機もしくは有機酸とのその塩を含有する酸化染料に関する。」(第2頁15行?第3頁7行参照) (1-v)「本発明の染毛料は、本発明による第一中間体/第二中間体組み合わせに加えて、特殊な色調を得るために他の第一中間体および/または第二中間体を場合により含有し得る。・・・」(第4頁5?同頁7行参照) (1-vi)「以下の実施例は、本発明を説明するためのものである。 実施例 まず、下記組成のクリーム基剤を調製した[量はすべて、特記しない限りgで示す]: 獣脂脂肪アルコール 17.0 ロロール(工業用)^(1) 4.0 テキサポン^(R)N 28^(2) 40.0 デヒトン^(R)K^(3) 25.0 オイムルギン^(R)B 2^(4) 1.5 蒸留水 12.5 1 C_(12-18)脂肪アルコール[ヘンケル(Henkel)] 2 ナトリウムラウリルエーテルスルフェート[活性物質約28%; CTFA名: ナトリウム・ラウレス(Laureth)スルフェート](ヘンケル) 3 式: R-CONH(CH_(2))_(3)N^(+)(CH_(3))_(2)CH_(2)COO^(-)で示されるベタイン構造の脂肪酸アミド誘導体(活性物質約30%; CTFA名:ココアミドプロピル・ベタイン)(ヘンケル) 4 約20モルのEOを有するセチルステアリルアルコール[CTFA名: セテアレス(Ceteareth)-20](ヘンケル) 次いで、このクリームを基剤として、下記染毛クリームエマルジョンを調製した: クリーム基剤 50.0 第一中間体 7.5mmol 第二中間体 7.5mmol Na_(2)SO_(3)(抑制剤) 1.0 (NH_(4))_(2)SO_(4) 1.0 濃アンモニア溶液 pH10とする 水 100とする 上記順序で成分を混合した。酸化染料前駆物質および抑制剤を加えた後、濃アンモニア溶液でエマルジョンのpHを10に調節してから、水を加えてエマルジョンを100gとした。 酸化溶液としての3%過酸化水素溶液によって、酸化的に発色を行った。この目的のために、エマルジョン100gに、過酸化水素溶液(3%)を50g加えて、混合した。 その染料クリームを、標準化した90%灰色の特に前処理していない人毛の房(長さ約5cm)に適用し、32℃で30分間放置した。染色の後、毛髪を濯ぎ、標準的なシャンプーで洗い、乾燥した。 本発明の第一中間体/第二中間体組み合わせにより得られた色は、濃青色であった。染色した毛髪の摩擦耐久性は、非常に高かった。 更に、上記組成に基づく下記染毛クリームエマルジョンによって得られる色も調べた: B1 B2 B3 第一中間体 2-(2,5-ジアミノフェニル)- 7.5 7.5 7.5 エタノール mmol mmol mmol 第二中間体 2-クロロ-6-メチル-3-アミノ 7.5 7.5 7.5 フェノール mmol mmol mmol 他の成分 5-アミノ-2-メチルフェノール 0.025 - 0.05 4-(N-2-ヒドロキシエチル)-3 0.25 - - -ニトロアニリン 2-アミノ-6-クロロ-4-ニトロ - 0.25 - フェノール レゾルシノール - 0.17 - 2,4,5,6-テトラアミノピリミジン - - 0.13 色 紫紅 高純度 紫 の褐色 」(第11頁末行?13頁末行参照) [周知図書] (2-i)「4・5・2 酸化染毛剤(Oxidative Hair Dyes) 酸化染料(oxidative dyes)での毛染めの原理は,無色低分子量の酸化染料を毛髪中に浸透させ,毛髪内で酸化重合し,色素を生成させ,染着することである。ほとんどの酸化染毛剤は,(i)染料中間体(dye intermediate),(ii)カップラー(coupler)またはモデファイアー(modifier),(iii)酸化剤の3種類の反応性化合物から構成されている。染料中間体は,通常p-フェニレンジアミン,p-アミノフェノールなどのパラ成分,o-フェニレンジアミン,o-アミノフェノールなどのオルト成分であり,これらは酸化剤で酸化されると色素を生成する。カップラーはm-フェニレンジアミン,m-アミノフェノールなどのメタ成分,フェノール類であるが,これらは単独で酸化してもほとんど色素を生成しない。しかし,染料中間体の存在下で酸化すると色素を生成する。酸化剤は通常,過酸化水素(H_(2)O_(2))が用いられるが,そのほかに過ホウ酸ナトリウム・1水和物(NaBO_(3)・H_(2)O),過炭酸ナトリウム(Na_(2)CO_(3)・1.5H_(2)O_(2))なども使用される。また染料としてこの他に直接染料,特にニトロ染料が含まれているが,これらの染料は色素生成反応には関与しないが,毛髪の色調には影響を与える。」(第157頁3?16行参照) (3)対比、判断 引用例には、上記「(2)」の摘示の記載によれば、「水含有担体中に、第一中間体(Entwicklerkomponente,染料中間体成分)として、2-(2,5-ジアミノフェニル)-エタノールまたは無機もしくは有機酸とのその塩を含有し、第二中間体(Kupplerkomponente,カプラー成分)として、2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノールまたは無機もしくは有機酸とのその塩を含有する、ケラチン繊維染色用の酸化染料」(摘示(1-i)参照)が開示され、さらに、ケラチン繊維がとりわけ人毛であること(摘示(1-ii)参照)、他の中間体を含有させて良いこと(摘示(1-iv)、(1-v)参照)、実施例において、そのような他の中間体を配合していること(摘示(1-vi)参照)に鑑みると、次の発明(以下、「引用例発明」ともいう。)が開示されていると認められる。 「水含有担体中に、第一中間体(Entwicklerkomponente,染料中間体成分)として、2-(2,5-ジアミノフェニル)-エタノールまたは無機もしくは有機酸とのその塩を含有し、第二中間体(Kupplerkomponente,カプラー成分)として、2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノールまたは無機もしくは有機酸とのその塩を含有し、更に他の中間体を含有する、ケラチン繊維(とりわけ人毛)染色用の酸化染料。」 そこで、本願補正発明と引用例発明を対比する。 (a)引用例発明の「ケラチン繊維(とりわけ人毛)染色用の酸化染料」は、本願補正発明の「毛髪等のヒトのケラチン繊維の酸化染色用組成物」に相当する。 (b)引用例発明の「水含有担体」は、本願補正発明の「染色に適した媒体」としては、「水」や「水と有機溶媒の混合物」などが例示され(本願明細書段落【0021】参照)、実施例において水と他の溶媒(エチルアルコール、プロピレングリコールなど)が用いられていることに鑑みれば、本願補正発明の「染色に適した媒体」に相当し、両者は、「水含有担体」で一致する。 (c)引用例発明の「2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノールまたは無機もしくは有機酸とのその塩」は、本願補正発明の「2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノール及び/又はその酸付加塩類の少なくとも1種」に相当する。 (d)引用例発明の「2-(2,5-ジアミノフェニル)-エタノールまたは無機もしくは有機酸とのその塩」は、本願補正発明の「パラ-フェニレンジアミン類」に包含されるものであり、式Iにおいて、R_(1)とR_(2)が水素原子であり、R_(3)が「C_(1)-C_(4)モノヒドロキシ-アルキル基」に含まれるC_(2)モノヒドロキシ-エチル基であり、R_(4)が水素原子であるもの、即ち、「2-(β-ヒドロキシエチル)-パラ-フェニレンジアミン」で一致する(両者は、名称が異なるだけであり、その化学構造は同一である。)。 (e)引用例発明の「更に他の中間体」は、第一又は第二中間体であり得るものであって、具体的に例示された「ヒドロキシまたは・・・をパラ・・位に更に有する第一級芳香族アミン」、「4-アミノピラゾロン誘導体」、「2,4,5,6-テトラアミノピリミジン」(実施例B3で使用)、「4-アミノ-3-メチルフェノール」、「5-アミノ-2-メチルフェノール」(実施例B1で使用)、「1-フェニル-3-メチル-ピラゾロン-5」(摘示(1-iii)、(1-vi)参照)は、本願補正発明の「パラ-フェニレンジアミン類とパラ-アミノフェノール類との組み合わせ、パラ-フェニレンジアミン類とピラゾール誘導体との組み合わせ、及びそれらの酸付加塩類から選択される異なる種類の少なくとも2つの酸化ベース」のうち、パラ-フェニレンジアミン類と組み合わされる「パラ-アミノフェノール類」や「ピラゾール誘導体」に対応し、それらが酸化染料になり得る中間体と言えることが明らかであることから、両発明が「更に他の中間体」を含有する点では軌を一にしていると認められる。 (f)上記(d)と(e)の判断を併せ勘案すると、両発明は、「パラ-フェニレンジアミン類である2-(β-ヒドロキシエチル)-パラ-フェニレンジアミンと他の中間体との組み合せ」で一致する。 してみると、両発明は、次の点で一致する。 「染色に適した媒体(水含有担体)中に: - 2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノール及び/又はその酸付加塩類の少なくとも1種; - 2-(β-ヒドロキシエチル)-パラ-フェニレンジアミン(パラ-フェニレンジアミン類)または無機もしくは有機酸とのその塩と、他の中間体との組合せ を含有してなる毛髪等のヒトのケラチン繊維の酸化染色用組成物。」 で一致し、次の相違点A,Bで相違する。 <相違点> A.「2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノール及び/又はその酸付加塩類の少なくとも1種」について、本願補正発明では、「修正剤として」とされているのに対し、引用例発明では、そのような表現で特定されていない点 B.「他の中間体」について、本願補正発明では、(イ)2-(β-ヒドロキシエチル)-パラ-フェニレンジアミン(パラ-フェニレンジアミン類)との組合せで、「パラ-アミノフェノール類との組み合わせ」、「ピラゾール誘導体との組み合わせ」、「及びそれらの酸付加塩類」、「から選択される異なる種類の少なくとも2つの酸化ベース」と特定されていて、且つ(ロ)「前記パラ-アミノフェノール類が、次の式(III): 【化2】 [- R_(13)は、水素原子、C_(1)-C_(4)アルキル基、C_(1)-C_(4)モノヒドロキシアルキル基を表し、 - R_(14)は、水素原子、C_(1)-C_(4)アルキル基を表し、 R_(13)又はR_(14)基の少なくとも1つは水素原子を表す]」と特定されていて、且つ(ハ)「2-(β-ヒドロキシエチル)-パラ-フェニレンジアミンとテトラアミノピリミジンとを、又はパラ-フェニレンジアミンとパラ-アミノフェノールとを同時には含有していない」こと、が特定されているのに対し、引用例発明ではそのような表現では特定されていない点 そこで、これらの相違点について検討する。 (1)相違点Aについて 引用例発明では、「2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノール及び/又はその酸付加塩類の少なくとも1種」を、第2中間体即ちカプラー成分として用いている(摘示(i)参照)。3-アミノフェノール類、即ちm-アミノフェノール類であるカプラー成分は、モデファイアーと同様に使用されるものである(周知図書の摘示(2-i)参照)から、そのカプラー成分を、「修正剤」と言い換えることに格別の困難性があるわけではないし、そもそも、実体において差異があるわけではなく、単なる表現上の差異に過ぎないものというべきである。 (2)相違点Bについて 先ず、(ハ)の「2-(β-ヒドロキシエチル)-パラ-フェニレンジアミンとテトラアミノピリミジンとを、又はパラ-フェニレンジアミンとパラ-アミノフェノールとを同時には含有していない」点については、前者は、引用例の実施例B3(摘示(1-vi)参照)との同一性を回避するためになされたものと認められ、また、後者は、本件出願の分割元の原出願の特許との同一性を回避するためになされたものに過ぎず、いずれも格別の技術的意義を有さないものである。 そして、「他の中間体」の化合物について検討すると、引用例には、「第一中間体と1種もしくはそれ以上の第二中間体とが、酸化剤または空気中の酸素の存在下にカップリングして、実際の染料を形成する。」(摘示(1-ii)参照、下線は当審で付与)との技術常識が説明され、「本発明の染毛料は、本発明による第一中間体/第二中間体組み合わせに加えて、特殊な色調を得るために他の第一中間体および/または第二中間体を場合により含有し得る。」(摘示(1-v)参照、下線は当審で付与)と説明されている。 そして、その実施例として、第一中間体の2-(2,5-ジアミノフェニル)-エタノールと第二中間体の2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノールの他に、他の成分として(a)5-アミノ-2-メチルフェノール、(b)4-(N-2-ヒドロキシエチル)-3-ニトロアニリン、(c)2-アミノ-6-クロロ-4-ニトロ-フェノール、(d)レゾルシノール、(e)2,4,5,6-テトラアミノピリミジンが配合されている(摘示(1-vi)参照、注:記号(a)?(e)は便宜的に当審で付したものである。)し、前記少なくとも(a)5-アミノ-2-メチルフェノールと(d)レゾルシノールは、引用例に通例用いられる第二中間体として例示されたもの(摘示(1-iii)参照)であるし、前記少なくとも(e)2,4,5,6-テトラアミノピリミジンは引用例に通例用いられる第1中間体と認められる。 してみると、引用例発明において、実施例として記載されたもの以外に他の中間体として、通例用いられる第一中間体または第二中間体をも採用し配合することは、当然に意図されているものというべきである。 そして、そのような「他の中間体」に該当する3つ目の中間体の採用に当たっては、引用例に通例用いられる第一中間体や第二中間体として例示された、例えば「4-アミノ-3-メチルフェノール」や「4-アミノピラゾロン誘導体」、「1-フェニル-3-メチル-ピラゾロン-5」などを採用し、引用例発明に配合してみる程度のことは、当業者が容易に想到し得たものと言うべきである。ここに、「4-アミノ-3-メチルフェノール」は、本願補正発明で特定する式IIIで特定されるパラアミノフェノール類(R_(14)がメチル基、R_(13)が水素原子)であり、「4-アミノピラゾロン誘導体」と「1-フェニル-3-メチル-ピラゾロン-5」は、本願補正発明で特定する「ピラゾール誘導体」に該当するものである。 したがって、引用例発明において、2-(β-ヒドロキシエチル)-パラ-フェニレンジアミン(パラ-フェニレンジアミン類)との組合せで、「式IIIで特定されるパラ-アミノフェノール類との組み合わせ」または「ピラゾール誘導体との組み合わせ」を用いることは、当業者が容易に想到し得たものといえる。 (3)作用効果について そして、そのような当業者が容易に想到し得た発明特定事項を採用することによって、本願補正発明に包含される全ての場合にまで格別予想外の作用効果を奏しているとは認められない。 すなわち、本願明細書を検討しても、「パラ-フェニレンジアミン」と「テトラアミノピリミジンスルファート」(即ち、2,4,5,6-テトラアミノピリミジンのスルファート塩)の着色の選択度合いが優れていることを示すデータが唯一示されているだけであり、それ以外の本願補正発明に包含される他の全ての組合せが一様に格別優れていることを示す根拠は示されていない。 この点について、請求人は、平成21年3月31日受付けの上申書において、データを提示している。しかし、上記のとおり引用例発明において他の中間体を用いることも適宜行われている状況であり、本願補正発明に該当する実施例がないだけで、そのなかの何れの場合が優れているか、データを採ってみなければ優位性が分からない状況であることを勘案すべきである。そのような場合に、格別優れているデータが当初明細書に記載されていればともかく、そうでない場合に、後日の追加データを勘案することは、後日の選択発明を阻害するものといえ、先願主義の主旨に反するものといわざるを得ないから、追加で提示されたデータを勘案することはできない。 また、仮に検討したところで、提示された比較実験1?12のうち、比較実験9及び10の組合せ以外は、修正剤の「2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノール」を用いるか否かを対比しているにすぎず、引用例発明において、「2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノール」が必須の要件であることに鑑みると、本願補正発明の優位性を示すデータとはなり得ないものである。請求人は、審判請求理由において、「「パラ-フェニレンジアミン類とパラ-アミノフェノール類」については、平成21年3月31日提出の上申書における本願発明品の組成物2,4,6,8,12において選択性ΔE値が低いという顕著な有意な効果を得ることを明らかにした。」と主張しているが、前記検討のとおりであって、引用例発明の発明特定事項を無視した当該請求人の主張は採用できるものではない。 そして、比較実験9及び10の組合せは、2,4,5,6-テトラアミノピリミジン硫酸塩に対する1-ヒドロキシエチル-4,5-アミノ-ピラゾール硫酸塩の優位性を示すものであるが、採用された組成は、本願明細書に記載されていないものであり、評価手段は、ΔEの点では同じであるが、ΔEを求める計算手法が異なっており、同じ意義を持つことは何等釈明されていないのであるから、採用できるものではない。しかも、実験に用いられた1-ヒドロキシエチル-4,5-アミノ-ピラゾール硫酸塩は、テトラアミノピリミジンを包含する「ピラゾール誘導体」全てを担保するものではないし、また、「式IIIのパラアミノフェノール類」とは化学構造が著しく異なるものであることから、本願補正発明に包含される「式IIIで特定されるパラ-アミノフェノール類との組み合わせ」または「ピラゾール誘導体との組み合わせ」全てが一様に、格別に予想外の作用効果を奏し得ることを根拠付けるものではない。 ところで、「異なる種類の少なくとも2つの酸化ベース」とは、周知図書に記載されているように、染料中間体のみならず、染料中間体の存在下でカップラーも酸化されることは明らかであると言えるため、「他の中間体」として上記の通例用いられる第一中間体と第二中間体のいずれかに含まれる化合物から採用したものは、当然の如く酸化ベースと言えることから、上記3つ目の中間体(「他の中間体」)を採用した場合に、「異なる種類の少なくとも2つの酸化ベース」となるものと言えるものであり、それに付随する内容を表明したに過ぎないものと認められる。 以上のとおりであり、本願補正発明は、引用例発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4)むすび したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について 平成22年10月28日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?11にかかる発明は、平成21年3月2日受付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 染色に適した媒体中に: - 修正剤として、2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノール及び/又はその酸付加塩類の少なくとも1種; - パラ-フェニレンジアミン類、パラ-アミノフェノール類、ピリジン誘導体、ピラゾール誘導体、ピラゾロピリミジン誘導体及びそれらの酸付加塩類から選択される異なる種類の少なくとも2つの酸化ベース; を含有してなる毛髪等のヒトのケラチン繊維の酸化染色用組成物であって、2-(β-ヒドロキシエチル)-パラ-フェニレンジアミンとテトラアミノピリミジンとを同時には含有していないことを特徴とする組成物。」 (1)引用例 拒絶査定の理由に引用される引用例、およびその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。 (2)対比、判断 本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明から、(イ)請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「異なる種類の少なくとも2つの酸化ベース」について、(イ-1)「パラ-フェニレンジアミン類とパラ-アミノフェノール類との組み合わせ、パラ-フェニレンジアミン類とピラゾール誘導体との組み合わせ、及びそれらの酸付加塩類から選択される」ことを、「パラ-フェニレンジアミン類、パラ-アミノフェノール類、ピリジン誘導体、ピラゾール誘導体、ピラゾロピリミジン誘導体及びそれらの酸付加塩類から選択される」と拡張したものであり、かつ、(イ-2)「前記パラ-フェニレンジアミン類が、次の式(I): 【化1】 [- R_(1)は、(C_(1)-C_(4))アルコキシ(C_(1)-C_(4))アルキル基、C_(1)-C_(4)モノヒドロキシアルキル基又は水素原子を表し; - R_(2)は、(C_(1)-C_(4))アルコキシ(C_(1)-C_(4))アルキル基、C_(1)-C_(4)モノヒドロキシアルキル基又は水素原子を表し; - R_(3)は、C_(1)-C_(4)モノヒドロキシ-アルキル基、C_(1)-C_(4)アルキル基又は水素原子を表し; - R_(4)は、水素原子又はC_(1)-C_(4)アルキル基を表す] で示される化合物及びそれらの酸付加塩類から選択され、 前記パラ-アミノフェノール類が、次の式(III): 【化2】 [- R_(13)は、水素原子、C_(1)-C_(4)アルキル基、C_(1)-C_(4)モノヒドロキシアルキル基を表し、 - R_(14)は、水素原子、C_(1)-C_(4)アルキル基を表し、 R_(13)又はR_(14)基の少なくとも1つは水素原子を表す] に相当する化合物及びそれらの酸付加塩類から選択される」との特定を、「パラ-フェニレンジアミン類、パラ-アミノフェノール類」と拡張するものであって、(ロ)「同時には含有していない」ことについては、「又はパラ-フェニレンジアミンとパラ-アミノフェノール」との限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「2.(3)」に記載したとおり、引用例発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用例発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (3)むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 それ故、本願は、他の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-08-27 |
結審通知日 | 2012-08-28 |
審決日 | 2012-09-10 |
出願番号 | 特願2006-266293(P2006-266293) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 福井 美穂 |
特許庁審判長 |
川上 美秀 |
特許庁審判官 |
▲高▼岡 裕美 小川 慶子 |
発明の名称 | 2-クロロ-6-メチル-3-アミノフェノールと2種の酸化ベースを含有するケラチン繊維の酸化染色用組成物及び染色方法 |
代理人 | 園田 吉隆 |
代理人 | 小林 義教 |