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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B
管理番号 1269204
審判番号 不服2011-9240  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-04-28 
確定日 2013-01-23 
事件の表示 特願2006-240516「有機電界発光表示装置及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 9日出願公開、特開2007-200856〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年(2006年)9月5日(パリ条約による優先権主張 平成18年1月27日 大韓民国)に出願された特願2006-240516号であって、平成21年10月29日付けで拒絶理由が通知され、平成22年2月1日付けで意見書が提出され、同日付けで手続補正がなされ、同年12月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成23年4月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされた。
その後、当審において平成24年3月29日付けで拒絶理由を通知し、これに対して同年7月2日付けで意見書が提出された。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)及び請求項7に係る発明(以下「本願発明7」という。)は、それぞれ、平成22年2月1日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
画素領域と非画素領域で分けられて、前記画素領域には第1電極、有機薄膜層及び第2電極でなる有機電界発光素子が形成されて、前記非画素領域にはスキャンドライバが形成された第1基板と、
前記第1基板の画素領域及び非画素領域と所定間隔が離隔されて封着される第2基板と、
前記第2基板の非画素領域の周辺部に沿って形成されたフリットを含み、
前記フリットは、前記第1基板の画素領域を覆うシール領域外で、かつ前記非画素領域に形成されたスキャンドライバの活性領域を除いた部分まで重畳されるように形成されることを特徴とする有機電界発光表示装置。」

「【請求項7】
画素領域と非画素領域で分けられた第1基板の前記画素領域に第1電極、有機薄膜層及び第2電極でなる有機電界発光素子を形成し、非画素領域にスキャンドライバを形成する段階と、
前記第1基板と所定間隔が離隔されて封着される第2基板で前記第1基板の非画素領域のスキャンドライバと対応される位置の周辺部に沿ってフリットを形成する段階と、
前記第2基板に形成されたフリットが、前記第1基板の画素領域を覆うシール領域外で、かつ前記第1基板の非画素領域であるスキャンドライバの活性領域を除いた部分まで重畳されるように前記第2基板を前記第1基板上部に配置する段階と、
前記第2基板の背面で前記フリットにレーザビームを照射して前記第1基板と前記第2基板を接着させる段階と、
を含むことを特徴とする有機電界発光表示装置の製造方法。」

第3 特許法第36条第6項第2号の規定違反の拒絶理由(当審拒絶理由)について
1 当審での拒絶理由
当審において平成23年3月29日付けで通知した拒絶理由の「第2 特許法第36条第6項第2号違反の拒絶理由について」には次の事項が記載されている。

『1 本願発明1及び7における「第1基板の画素領域を覆うシール領域外」については、「シール領域」が何を意味しているのか不明であり、発明を明確に特定できない。

2 上記「シール領域」に関連して、本願明細書の発明の詳細な説明及び図面には、次の事項が記載されている。
・・・・・以下略・・・・・・・。

3(1)上記の【0015】、【図1】及び【図2】の記載から、「シール領域」は、画素領域と非画素領域の間の領域であって、フリットを形成する領域であるものと認められる。
これに対して、【0037】【0038】【図3】及び【図5】の記載から、「シール領域」は、非画素領域の内側の領域であることは認められるものの、画素領域との関係は明確でなく、また、当該「シール領域」には、フリットは形成されていない。
すると、【0015】、【図1】及び【図2】の記載と、【0037】【0038】【図3】及び【図5】の記載とでは、「シール領域」の意味するところが異なり、明細書全体を通じて「シール領域」が何を意味しているのか不明である。
また、実施例の記載である【0037】【0038】【図3】及び【図5】の記載では、「シール領域」はフリットが形成される領域とは異なる領域となり、それであれば、「シール領域」は、何によってシールする(又はシールされる)領域であるのか不明で、「シール領域」の意味するところは、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても明確でない。

(2)本願発明1,7のように「第1基板の画素領域を覆うシール領域外」にフリットを形成することによりどのような作用効果が生じるのかが不明で、「前記フリットは、前記第1基板の画素領域を覆うシール領域外で、かつ前記非画素領域に形成されたスキャンドライバの活性領域を除いた部分まで重畳されるように形成される」ことに技術的意義を把握できず、発明を明確に特定できない。
この点、明細書の発明の詳細な説明においては、【0020】において「デッドスペースを減少することができる」ことを本願発明の効果としており、また、審判請求書において「「フリットは、第1基板の画素領域を覆うシール領域に形成せず、スキャンドライバの活性領域を除いた部分まで重畳にまで形成することで、デッドスペースを減少させることができる」(本願明細書の段落0037)、との効果を奏するものであります。」と主張している。
しかしながら、【図2】と【図5】を比較することによって容易にわかることであるが、フリットを「第1基板の画素領域を覆うシール領域に形成せず、スキャンドライバの活性領域を除いた部分まで重畳にまで形成する」ことによって、「非画素領域」の一部のデッドスペースを有効利用できるといえると同時に、「シール領域」がデッドスペースとなり(なお、【図5】と【図3】は正確に対応しておらず、【図3】では新たに生じるデッドスペースもシール領域430の外側となる)、すなわち、フリットの位置を移動させたことにより、デッドスペースの位置もそれに応じて、フリットの配置されていないところに移動しただけであるといえる。そうすると、実質的に何らの効果を生じるものではないから、本願発明1,7のように、フリットを「第1基板の画素領域を覆うシール領域外」に形成することの技術的意義は不明で、本願発明1,7は明確でない。』

2 請求人の応答
上記の拒絶理由に応答して、請求人は、平成24年7月2日付けで提出された意見書において次のように主張している。

『(1-2)審査官殿は、項目3の(1)において、“上記段落の0015、図1及び図2の記載から、「シール領域」は、画素領域と非画素領域の間の領域であって、フリットを形成する領域であるものと認められる。これに対して、段落0037、0038、図3及び図5の記載から、「シール領域」は、非画素領域の内側の領域であることは認められるものの、画素領域との関係は明確でなく、また、当該「シール領域」には、フリットは形成されていない。すると、段落0015、図1及び図2の記載と、段落0037、0038、図3及び図5の記載とでは、「シール領域」の意味するところが異なり、明細書全体を通じて「シール領域」が何を意味しているのか不明である”とのご見解を示されています。
これにつきましては、審査官殿が示されます、本願明細書の段落0015には「画素領域11と非画素領域15の間のシール14領域内にフリット30を形成する」と記載されていますが、これは、「画素領域11と非画素領域15の間にフリット30が配置される」との意味であって、シール領域の箇所を示すものではない、と解されます。
前述したように、図1、図3及び図5の記載から、「シール領域(14/430)は画素領域(11/210)を覆うように配置される」と見るのが自然であると思量致します。

(1-3)審査官殿は、項目3の(2)において、“本願発明1,7のように「第1基板の画素領域を覆うシール領域外」にフリットを形成することによりどのような作用効果が生じるのかが不明で、「前記フリットは、前記第1基板の画素領域を覆うシール領域外で、かつ前記非画素領域に形成されたスキャンドライバの活性領域を除いた部分まで重畳されるように形成される」ことに技術的意義を把握できず、発明を明確に特定できない。(中略) 図2と図5を比較することによって容易にわかることであるが、フリットを「第1基板の画素領域を覆うシール領域に形成せず、スキャンドライバの活性領域を除いた部分まで重畳にまで形成する」ことによって、「非画素領域」の一部のデッドスペースを有効利用できるといえると同時に、「シール領域」がデッドスペースとなり(なお、図5と図3は正確に対応しておらず、図3では新たに生じるデッドスペースもシール領域430の外側となる)、すなわち、フリットの位置を移動させたことにより、デッドスペースの位置もそれに応じて、フリットの配置されていないところに移動しただけであるといえる。そうすると、実質的に何らの効果を生じるものではないから、本願発明1,7のように、フリットを「第1基板の画素領域を覆うシール領域外」に形成することの技術的意義は不明で、本願発明1,7は明確でない”とのご見解を示されています。
これにつきましては、本願の図1及び図2と段落0015を参照すると、フリット(30)は、シール領域(14)の内側に形成され、該シール領域(14)は、フリット(30)が形成される領域であり、密封材が形成される領域を意味します。さらに、図5及び段落0037を参照すると、フリット(320)は、シール領域(430)の外側に形成され、該シール領域(430)は、フリット(320)によって密封される領域を意味します。
すなわち、本願図面の図2(本願従来図)と、図5(本願発明図)とを比較して分かるように、従来図の図2では「フリット30が第1基板10の画素領域11を覆うシール領域14の内側縁部に配置」され、これに対して、本願図面の図5では「フリット320がシール領域430の外側縁部にあるとともに、非画素領域220に形成されたスキャンドライバ410の活性領域を除いた部分に配置」されるものであります。
図5(本願発明図)に示されるフリット320の配置領域は、特に使用目的のないデッドスペースであるのに対して、図2(本願従来図)に示されるフリット30の配置領域は、「フリット30が第1基板10の画素領域11を覆うシール領域14の内側縁部、すなわち、画素領域11の一部を覆う領域」であり、該画像領域11の一部を占有してしまうと解されます。
その結果、本願発明のフリット320は、従来図である図2のフリット30と比べてスペースの有効利用が図られたもので、審査官殿が示されます“フリットを「第1基板の画素領域を覆うシール領域外」に形成することの技術的意義は不明”とのご認定は当を得ない思量致します。』

3 当審の判断
(1)上記「2」の意見書の(1-2)において請求人は、「図1、図3及び図5の記載から、「シール領域(14/430)は画素領域(11/210)を覆うように配置される」と見るのが自然であると思量致します。」と述べており、上記から、請求人は「シール領域」は、「画素領域を覆うように配置される」領域としているが、この請求人の主張からも、「シール領域」と「画素領域」の関係は明確ではない。すなわち、「シール領域」は「画素領域」を覆うとだけ特定され、「シール領域」が「画素領域」と略同じ領域である等とは特定されていないから、「画素領域」が既知であったとしても、当該「画素領域」から、上記「シール領域」は特定されない。(なお、仮に、「シール領域」が「画素領域」と略同じ領域であると仮定した場合は、下記の「第4 特許法第29条第2項の規定違反の拒絶理由(原査定の拒絶理由)について」で述べるように、原査定が維持されることになる。)

(2)上記「2」の意見書の(1-3)において請求人は、「本願の図1及び図2と段落0015を参照すると、フリット(30)は、シール領域(14)の内側に形成され、該シール領域(14)は、フリット(30)が形成される領域であり、密封材が形成される領域を意味します。さらに、図5及び段落0037を参照すると、フリット(320)は、シール領域(430)の外側に形成され、該シール領域(430)は、フリット(320)によって密封される領域を意味します。」と述べており、この主張から、「シール領域」が、「フリット」(シール部材)の位置から特定されるものではないことは明らかである。

(3)以上のとおりであるから、請求人の意見書における主張から、本願発明1,7の「シール領域」は、「画素領域」によって特定されるものではなく、また、「フリット」の位置によって特定されるものでもないといえる。
すると、「シール領域」がどのように特定されるかは、上記意見書における請求人の主張を参酌しても、明確でなく、上記の「1 当審での拒絶理由」は、解消されていない。
すなわち、本願発明1及び本願発明7は明確でなく、本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないから拒絶すべきものである。

第4 特許法第29条第2項の規定違反の拒絶理由(原査定の拒絶理由)について
1 原査定の拒絶理由維持の検討をする前提
上記の「第3 特許法第36条第6項第2号の規定違反の拒絶理由(当審拒絶理由)について」の「3 当審の判断」の「(1)」で述べたように「仮に、「シール領域」が「画素領域」と略同じ領域であると仮定した場合」、原査定の拒絶理由が維持できるか検討する。

2 引用例
(1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-151716号公報(以下「引用例1」という)には、次の事項が記載されている。(下線は当審で付したものである。)

「【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶等の光学部材を用いた表示装置に関し、特に、駆動回路を内蔵した表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
所定の電極配線が形成された一組の基板を細隙をもって貼り合わせ、その細隙に液晶を封入することで、表示画素として液晶を誘電層とした容量を構成してなる液晶表示装置(LCD)、あるいは、電流量により発光量が制御できる有機エレクトロルミネッセンス(EL)を用いた有機EL表示装置は、小型、薄型、低消費電力の利点から、OA機器、AV機器の分野において、ディスプレイとして広く用いられている。特に、LCDにおいて、各表示画素容量に表示信号電圧の書き込みと保持を制御するためにスイッチング素子として薄膜トランジスタ(TFT)を接続形成したアクティブマトリクス型は、高精細な表示を行うことができ、主流となっている。
【0003】
図11は、LCDの全容を示す平面図である。(1)は紙面向こう側に位置するTFT基板、(2)は紙面手前に位置する対向基板、(3)は基板(1)と基板(2)とを貼り合わせる周縁シール材であり、エポキシ樹脂等の熱硬化性の接着材、UV光の照射により硬化する樹脂等からなる。TFT基板(1)と対向基板(2)との間には、不図示のスペーサにより支持された細隙があり、また、シール材(3)は一部が切り欠かれて注入孔(31)となっている。この注入孔(31)より内部の細隙に液晶を注入し、注入孔(31)を封止材(32)で塞ぐことにより液晶が密封されている。
【0004】
TFT基板(1)は、基板上にチャンネル層として多結晶シリコン(p-Si)を用いたTFTが形成されてなる。この基板(1)上には、複数のゲートライン(GL)とドレインライン(DL)が交差配置され、これらの交差部には画素TFT(SE)及び画素TFT(SE)に接続された表示画素容量の一方を成す画素電極(PX)が形成されてなる表示領域(4)と、表示領域(4)の周辺に、主として双方向シフトレジスタからなり画素TFT(SE)に走査信号を供給するゲートドライバー(5)、および、主として双方向シフトレジスタとアナログスイッチからなりゲートドライバー(5)の走査に同期して画素TFT(SE)に表示信号電圧を供給するドレインドライバー(6)、さらには、シフトレジスタのシフト方向を切り換えて各ドライバー(5,6)の動作方向を切り換える制御回路(7)が形成されている。これらドライバー(5,6)は、表示領域(4)と同じ構造のp-SiTFTから構成されるが、p-SiTFTは動作速度が十分に速いため、このように画素TFT(SE)としてのみならず、これを駆動するための周辺ドライバーをも構成することができ、ドライバーを表示パネルに内蔵形成したドライバー内蔵型LCDが可能となっている。これらのTFTはアクリル樹脂、SOG(SPIN ON GLASS)、BPSG(BORO-PHOSPHO SILICATE GLASS)等の平坦化絶縁膜により覆われており、表示領域(4)においては、画素電極(PX)がこの上に形成されて、平坦化絶縁膜に開けられたコンタクトホールを介して画素TFT(SE)に接続された構造となっている。(8)はこれらドライバーの信号入力端子である。
【0005】
対向基板(2)は、表示画素容量の他方を成す共通電極(9)が表示領域(4)に対応して全面的に形成されている。表示画素容量は、液晶および共通電極(9)が画素電極に区画された形で構成されている。共通電極(9)の一部は、基板(2)の角部に引き出されて第2の対極接続端子(91)とされている。また、TFT基板(1)には、共通電極(9)用の対極信号入力端子(91)が設けられており、引き回し線(82)により対極接続端子(91)に対応する領域に形成された第1の対極接続端子(83)へと引き回され、これら第1および第2の対極接続端子(91,83)が導電性接着材(92)により接続されている。」

「【0027】
図1は、本発明の第1の実施の形態にかかる液晶表示装置の一部平面図である。(1)及び(2)は各々、p-SiTFTが形成されたTFT基板と対向基板で、平面的にエッジを一致させている。TFT基板(1)は、複数のゲートライン(GL)及びドレインライン(DL)が互いに交差して配置され、それらの交差部には画素TFT(SE)及び画素TFT(SE)に接続され表示画素容量の一方を成す画素電極(PX)がマトリクス状に配列されてなる表示領域(4)を有している。また、表示領域(4)の周辺には、双方向の垂直シフトレジスタ(51)とその出力部であるバッファ部(52)からなるゲートドライバー、及び、双方向の水平シフトレジスタ(61)とこれに制御される出力部であるサンプリング部(52)(当審注;(62)の誤りと思われる。)からなるドレインドライバーが設けられている。更に、表示領域(4)の周辺には、これらシフトレジスタ(51,61)のシフト方向を切り換えて、ドライバーの動作方向を正逆に切り換えるための制御回路(7)が設けられている。対向基板(2)には不図示である共通電極が設けられている。」

「【0043】
図10は本発明の第8の実施の形態にかかる液晶表示装置の一部平面図である。
本実施の形態では、シール材(3)はドレインドライバー(61,62)あるいはゲートドライバー(51,52)の内側を迂回して設けられているので、シール材(3)によるTFT素子の閾値変動が全く無く、表示に悪影響を及ぼすことが完全に防がれる。また、シール材(3)は制御回路(7)上を回避しているので、ドライバーの動作方向の切換が不能となることが防がれる。」

「【図10】



(2)引用例1に記載された発明
【図10】から、シール材(3)が表示領域(4)の外側に、表示領域(4)に沿って設けらていることは明らかである。よって、上記記載(図面の記載も含む)から、引用例1には、
「TFT基板(1)、対向基板(2)、及び、TFT基板(1)と対向基板(2)と細隙を介して貼り合わせる周縁シール材(3)を有し、
TFT基板(1)は、画素電極(PX)がマトリクス状に配列されてなる表示領域(4)を有し、また、表示領域(4)の周辺領域には、双方向の垂直シフトレジスタ(51)とその出力部であるバッファ部(52)からなるゲートドライバー、及び、双方向の水平シフトレジスタ(61)とこれに制御される出力部であるサンプリング部(62)からなるドレインドライバーが設けられ、更に、これらシフトレジスタ(51,61)のシフト方向を切り換えて、ドライバーの動作方向を正逆に切り換えるための制御回路(7)が設けられ、
シール材(3)は、表示領域(4)の外側に表示領域(4)に沿って、ドレインドライバー(61,62)あるいはゲートドライバー(51,52)の内側を迂回して設けられている液晶表示装置。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

(3)引用例2
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平10-74583号公報(以下「引用例2」という)には、次の事項が記載されている。

「【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記装置において、有機ELからなる白色発光体(4)は湿気に弱いので、湿気から遮断する必要がある。そこで第1,第2の透明基板(1,2)の間に白色発光体(4)を封止して、湿気から遮断している。ガラスからなる第1,第2の透明基板(1,2)は、湿気を通さないが、側面のシール材(6)は樹脂からなるので、どうしても湿気が侵入する恐れがあった。このため、シール材(6)から装置の内部に入って来る湿気によって、有機ELからなる白色発光体が劣化してしまうという問題が生じていた。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は上記従来の欠点に鑑み成されたもので、第1の透明基板と、前記第1の透明基板上に形成された陰極と、前記陰極上に形成された有機ELからなる発光体と、前記発光体上に形成された陽極と、前記第1の透明基板に対向配置された第2の透明基板と、少なくとも前記発光体を封止するように前記第1の透明基板と前記第2の透明基板とを接着するシール材を有し、かつ前記シール材は、フリットガラス(低融点ガラス)からなることを特徴とする有機ELディスプレイや、 第1の透明基板上に陰極を形成する工程と、前記陰極上に有機ELからなる発光体を形成する工程と、前記発光体上に陽極を形成する工程と、前記第1の透明基板上に、少なくとも前記発光体を取り囲むようにフリットガラスからなるシール材を形成する工程と、前記シール材が形成された前記第1の透明基板上に、第2の透明基板を対向配置して載置する工程と、レーザビームを用いて選択的に前記シール材を加熱して溶融し、前記第1の透明基板と前記第2の透明基板とを接着する工程とを有することを特徴とする有機ELディスプレイの製造方法により、上記課題を解決するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】以下で、本発明の実施形態に係る有機ELディスプレイについて図面を参照しながら説明する。なお、図2は本実施形態に係る有機ELディスプレイの構造を説明する上面図であって、図1は図2のX-X線断面図である。このディスプレイは、図1,図2に示すように、ガラスからなる第1,第2の透明基板(11,12),MgInなどからなる陰極(13),有機ELなどからなる白色発光体(14),ITO膜などからなる陽極(15)及び低融点のフリットガラスからなるシール材(16)から構成されている。なお、図2では白色発光体(14)の図示を省略している。
【0009】
第1の透明基板(11)上には、陰極(13)がストライプ状に配置され、表示領域の陰極(3)の上には白色発光体(14)が形成されている。また、白色発光体(14)上には、陰極(13),白色発光体(14)と直交するように配置された陽極(15)が形成されており、これらはマトリクス状に配置されている。
【0010】
この第1の透明基板(11)上に、第2の透明基板(12)が対向配置され、両者はシール材(16)で接着されている。このシール材(16)は、上述のようにフリットガラスからなるので、ここで湿気が透過することは殆どない。従って、シール材として湿気が透過しやすい低融点のエポキシ樹脂若しくはUV硬化性の樹脂などを用いていた従来装置に比して、湿気による発光体の劣化が少ないので、ディスプレイの耐久性が向上し、寿命の短縮を抑止できる。」

(4)引用例3
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2004/095597号(以下「引用例3」という)には、次の事項が記載されている。(日本語訳を記載した)

「本発明は、密封OLEDディスプレイおよび密封OLEDディスプレイを製造する方法を含む。基本的に、密封OLEDディスプレイは、第1の基板および第2の基板を提供し、フリットを第2の基板上に配置することによって製造される。OLEDを第1の基板上に堆積させる。次いで、照射源(例えば、レーザ、赤外線)を用いて、フリットを加熱し、このフリットが溶融して、第1の基板を第2の基板に連結し、OLEDを保護もする密封シールを形成する。フリットは、少なくとも一種類の遷移金属と、ことによると、照射源がフリットを加熱したときに、フリットが軟化し、結合部を形成するようなCTE低下充填剤とがドープされたガラスである。これにより、OLEDへの熱的損傷を避けながら、フリットが溶融し、密封シールを形成することができる。」(明細書第3ページ第26行?第4ページ第8行)

3 本願発明1と引用発明との対比
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「画素電極(PX)がマトリクス状に配列されてなる表示領域(4)」及び「表示領域(4)の周辺領域」が、本願発明1の「画素領域」及び「非画素領域」に相当する。
また、平成22年2月1日付けで出願人(請求人)から提出された意見書における[2]の(4)の「この点に関し、「スキャンドライバの活性領域」とは、スキャンドライバ(410)によって駆動される部分、例えば、特開2004-151716号公報では、スキャンドライバに相当する駆動回路7で駆動されるシフトレジスタ51、バッファ部52に相当する部分であります。」を参酌すれば、引用発明の「制御回路(7)」によって動作方向が正逆に切り換えられる「双方向の垂直シフトレジスタ(51)とその出力部であるバッファ部(52)からなるゲートドライバー、及び、双方向の水平シフトレジスタ(61)とこれに制御される出力部であるサンプリング部(62)からなるドレインドライバー」が、本願発明1の「スキャンドライバ」に相当する。
よって、引用発明の「画素電極(PX)がマトリクス状に配列されてなる表示領域(4)を有し、また、表示領域(4)の周辺領域には、双方向の垂直シフトレジスタ(51)とその出力部であるバッファ部(52)からなるゲートドライバー、及び、双方向の水平シフトレジスタ(61)とこれに制御される出力部であるサンプリング部(62)からなるドレインドライバーが設けられ、更に、これらシフトレジスタ(51,61)のシフト方向を切り換えて、ドライバーの動作方向を正逆に切り換えるための制御回路(7)が設けられ」ている「TFT基板(1)」と、本願発明1の「画素領域と非画素領域で分けられて、前記画素領域には第1電極、有機薄膜層及び第2電極でなる有機電界発光素子が形成されて、前記非画素領域にはスキャンドライバが形成された第1基板」とは、「画素領域と非画素領域で分けられて、前記非画素領域にはスキャンドライバが形成された第1基板」である点で一致する。

イ 引用発明の「対向基板(2)」は、「表示領域(4)」(本願発明1の「画素領域」に相当)及び「表示領域(4)の周辺領域」(本願発明1の「非画素領域」に相当)を有するTFT基板(1)と、「細隙を介して」「周縁シール材(3)」で「貼り合わせて」設けられているのであるから、引用発明の上記「対向基板(2)」が、本願発明1の「前記第1基板の画素領域及び非画素領域と所定間隔が離隔されて封着される第2基板」に相当する。

ウ 引用発明において、「シール材(3)は、表示領域(4)の外側に表示領域(4)に沿って」設けられていることから、「シール材(3)」は、「表示領域(4)の周辺領域」の(表示領域側の)周辺部に沿って形成されているといえる。(なお、この点は、本願発明1も同様であるといえる。)
また、本願発明1の「フリット」は、引用発明の「シール材(3)」と同様に、「封止材」であるといえる。
よって、引用発明の「表示領域(4)の外側に表示領域(4)に沿って」設けられている「シール材(3)」と、本願発明1の「前記第2基板の非画素領域の周辺部に沿って形成されたフリット」とは、「前記第2基板の非画素領域の周辺部に沿って形成された封止材」である点で一致する。

エ 上記「ア」に示した意見書の記載から、引用発明の「ドレインドライバー(61,62)あるいはゲートドライバー(51,52)」が設けられた領域が、本願発明1の「スキャンドライバの活性領域」に相当する。
また、上記「1 原査定の拒絶理由維持の検討をする前提」で述べたように、本願発明1の「シール領域」は「(画素領域を覆う)画素領域」と略同じ領域であると仮定されている。
これらの点を踏まえれば、引用発明の「シール材(3)は、表示領域(4)の外側に表示領域(4)に沿って、ドレインドライバー(61,62)あるいはゲートドライバー(51,52)の内側を迂回して設けられている」ことと、本願発明1の「前記フリットは、前記第1基板の画素領域を覆うシール領域外で、かつ前記非画素領域に形成されたスキャンドライバの活性領域を除いた部分まで重畳されるように形成される」こととは、「前記封止材は、前記第1基板の画素領域を覆うシール領域外で、かつ前記非画素領域に形成されたスキャンドライバの活性領域を除いた部分まで重畳されるように形成される」点で一致する。

オ 引用発明の「液晶表示装置」と、本願発明1の「有機電界発光表示装置」とは、「表示装置」である点で一致する。

(2)一致点
そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「 画素領域と非画素領域で分けられて、前記非画素領域にはスキャンドライバが形成された第1基板と、
前記第1基板の画素領域及び非画素領域と所定間隔が離隔されて封着される第2基板と、
前記第2基板の非画素領域の周辺部に沿って形成された封止材を含み、
前記封止材は、前記第1基板の画素領域を覆うシール領域外で、かつ前記非画素領域に形成されたスキャンドライバの活性領域を除いた部分まで重畳されるように形成される表示装置。」
の発明である点で一致し、次の各点で相違する。

(3)相違点
ア 相違点1
表示装置が、本願発明1では「画素領域には第1電極、有機薄膜層及び第2電極でなる有機電界発光素子が形成されて」なる「有機電界発光表示装置」であるのに対して、引用発明では「液晶表示装置」である点。

イ 相違点2
封止材が、本願発明1では、「フリット」であるのに対して、引用発明ではその点の限定がない点。

4 当審の判断
(1) 各相違点についての検討
ア 相違点1について
引用例1には、発明の技術分野に関して、【0001】に「液晶等の光学部材を用いた表示装置に関し、特に、駆動回路を内蔵した表示装置に関する。」と記載されており、また、【0002】において「小型、薄型、低消費電力の利点から、OA機器、AV機器の分野において、ディスプレイとして広く用いられている」表示装置として「液晶表示装置」とともに、「電流量により発光量が制御できる有機エレクトロルミネッセンス(EL)を用いた有機EL表示装置」が挙げられているから、引用例1において発明者が発明をするに際しては、「液晶表示装置」のみならず、その他の、「駆動回路を内蔵した表示装置」も念頭にあり、具体的には、「有機EL表示装置」も想定されていたことが示唆されている。そして、上記からも認められるように、「液晶表示装置」と「有機EL表示装置」は、駆動回路を内蔵した表示装置である点で共通しており、隣接した技術分野に属するものであって、また、相互に技術を適用し合うことが多いものであることも知られている。
そうすると、引用発明の技術を、有機EL表示装置の技術分野にまで拡張することは当業者が容易に想到し得ることである。より具体的述べれば、引用発明の、対向する2つの基板間の封止材の、表示領域や駆動回路に対する位置関係の特定事項を、有機EL表示装置の、対向する2つの基板間の封止材の、表示領域や駆動回路に対する位置関係に適用し、上記相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
(ガラス)フリットは、表示装置の封止材として用いられる周知の部材であり、樹脂のシール材よりも湿気や酸素等に対する密封度が高いことで知られており、特に、引用例2,3にも記載されているように、より厳しい密封性が要請される有機EL表示装置に適用されることは周知の技術的事項であるといえる。
すると、上記「相違点1について」の検討により、引用発明を有機EL表示装置に適用した際に、より厳しい密封性の要請に対応すべく、上記周知技術を適用し、封止材(シール材)をフリットとして、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項を得ることは当業者が容易になし得たことである。

(2)本願発明1が奏する作用効果
本願発明1が奏する効果は、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものに過ぎない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得たものである。よって、本願発明1は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1,7に係る発明は、「画素領域を覆うシール領域」の意味が明確でなく、発明が明確でないから、本願は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないから拒絶すべきものである。
また、仮に、本願の請求項1に係る発明における「画素領域を覆うシール領域」が「画素領域と略同じ領域」と仮定した場合には、本願の請求項1に係る発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-27 
結審通知日 2012-08-28 
審決日 2012-09-10 
出願番号 特願2006-240516(P2006-240516)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H05B)
P 1 8・ 537- WZ (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池田 博一  
特許庁審判長 北川 清伸
特許庁審判官 吉川 陽吾
森林 克郎
発明の名称 有機電界発光表示装置及びその製造方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 渡邊 隆  
代理人 佐伯 義文  

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