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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C
管理番号 1269220
審判番号 不服2011-21195  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-09-30 
確定日 2013-01-23 
事件の表示 特願2008-511049「複数の気体流入口を有する原子層堆積装置の反応器」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月16日国際公開、WO2006/121264、平成20年11月20日国内公表、特表2008-540840〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成18年5月4日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 平成17年5月9日 (KR)韓国)を国際出願日とする出願であって、平成23年2月2日付けで拒絶理由が通知され、同年5月9日付けで手続補正書が提出されたが、同年5月27日付けで拒絶査定がされたものである。
そして、本件審判は、この拒絶査定を不服として請求されたもので、平成23年9月30日付けで審判請求書と共に手続補正書が提出され、その後、平成24年1月19日付けで審尋がされたが、回答書は提出されなかった。

第2 本願発明

平成23年9月30日付けの手続補正書による特許請求の範囲についての補正は、明りょうでない記載の釈明及び請求項の削除を目的とするものであるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に適合するものである。
よって、本願の請求項1?38に係る発明は、平成23年9月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?38に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
原子層堆積反応器であって、
反応空間、
複数の気体流入口、
気体流出口、
前記反応空間内に配置されている気体流れ調節部、及び
前記反応空間に基板を装着する基板支持台を含む反応チャンバーを含み、
前記気体流れ調節部は、前記複数の気体流入口と前記反応空間との間に配置され、複数の気体流入チャンネルを有し、
前記複数の気体流入チャンネルは、各々、前記複数の気体流入口のうちの一つの気体流入口から前記反応空間の周辺の第1部分に延びて、前記一つの気体流入口から前記反応空間の周辺の第1部分に行くほど面積が広くなり、
前記気体流れ調節部は、反応気体の数に応じて、互いに幾重にも積まれている複数の気体流れ調節板を含み、前記気体流れ調節板の各々は、前記複数の気体流入チャンネルの各々の下部表面と側壁を定義する、原子層堆積反応器。」

第3 原査定の理由の概要

原審の拒絶査定の理由の概要は、本願発明は、その優先権の主張の基礎とされた先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1、2に記載された発明に基いて、その優先権の主張の基礎とされた先の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。



刊行物1:特表2003-502501号公報
刊行物2:米国特許出願公開第2004/0142558号明細書

第4 刊行物の主な記載事項

(1)刊行物1の主な記載事項
(1a)「【請求項1】化学蒸着装置の反応炉であって、
反応ガスの流出入口を有し、反応炉内部より低い圧力を有する反応炉の他の箇所から反応ガスを隔離させるための反応炉蓋と、
突出部を有し前記突出部とともに前記反応炉蓋に装着され、前記流出入口を通過するガスの流れを前記蓋との隙間により調節するガス流れ調節板と、
前記反応炉蓋と接触して反応室を形成し、前記反応室に設けられる基板を支持する基板支持板とを含むことを特徴とする反応炉。」
(1b)「【0013】
以下、時分割蒸着メカニズムに対して説明する。一般に、基板上における反応物の化学吸着温度は反応物の熱分解温度より低い。従って、蒸着温度を熱分解温度より低く化学吸着温度より高い状態にて維持すれば、炉内に流入した反応物は分解せず、単に基板表面に化学吸着された状態で存在する。続いてパージガスを炉内に供給すれば、吸着されず残った反応ガスは外部に排出される。その後、他の反応物が流入され、基板表面上に吸着された反応物が流入反応物と反応することによって成膜が行われる。基板上に吸着される反応物は一つの分子層だけ生成することができるため、反応物の供給量或いは供給時間に関係なく、一供給サイクルTcycleにて形成される膜の厚さは一定である。従って、図2Bに示すように、反応ガスの供給時間に対する膜の蒸着厚さは時間経過に伴い飽和状態となる。この場合、膜の蒸着厚さは供給サイクルの反復回数のみによって制御できる。」
(1c)「【0041】
図3は本発明の第1好適実施例による化学蒸着反応炉の断面図である。図3に示すように、反応炉蓋100に反応ガスの流入口110及び流出口120が設けられる。蓋100の周りは蓋加熱部130によって囲まれている。
【0042】
蓋100の底面には、突出部を有するガス流れ調節板140が設けられ、流入口110及び流出口120を通過するガス流れ(矢印で示す)を蓋100と調節板140との間のすきまにより調節する。このすきまの幅は任意に決定され得る。一方、化学蒸着膜が形成されるべき半導体基板150は基板支持板160に載置される。基板150の温度は、基板支持板160の下部に設けられる支持板加熱器170により調節される。この時、反応ガスが反応炉内部よりも圧力が低い反応炉の他の部分へ漏れないようにする必要がある。このため、反応炉蓋100と基板支持板160との接合部に沿って不活性ガスを供給してもよい。従って、反応炉蓋100と基板支持板160との接合部分には、反応炉蓋100の周りに沿って凹溝を形成してガス漏れ防止向け通路180として利用する。ガス流れ調節板140は反応炉内に流入した反応ガスが反応炉内部に留まることなく容易に排気されるようにするためにガスの流れを調節する。
【0043】
図4は、本発明の好適実施例による反応炉に使用されるガス流れ調節板の斜示図である。このガス流れ調節板によって、ガス流入口を通じて反応炉内に入ってきた反応ガスは一様に拡散され、ガス流れ調節板と半導体基板との間の狭い空間を水平方向に流れ、流出口120に吹き抜けることとなる。このようなガス流れ調節板を用いることによって、反応ガスは半導体基板上で水平方向に流れ、反応炉の内部体積が小さいので、ガスの供給を素早く切り換えることができる。」
(1d)【図3】


(1e)【図4】


(2)刊行物2の主な記載事項
(2a)「[0002] The invention relates generally to the field of semiconductor processing and, more particularly, to an apparatus and method for the atomic layer deposition (ALD) of films onto semiconductor substrates.」
(仮訳:本発明は、半導体処理の分野、特に、半導体基板上の原子層堆積(ALD)の薄膜のための装置及び方法に関する。)
(2b)「[0061] With reference to FIG. 6, a particularly advantageous embodiment is shown, wherein the upper block 120 is provided with two different, separated sets of gas distribution channels, one set of channels for each one of the two mutually reactive reactants typically used during the deposition process. The first set comprises a gas inlet opening 124, in communication with one end of a gas inlet channel 125, the other end of the gas inlet channel 125 in communication with a vertical inlet channel 126, discharging into an annular gas distribution channel 127. A plurality of gas dispersion channels 128 is in communication with the annular gas distribution channel 127. Finally, gas is discharged from the gas dispersing channels 128 through gas injection channels 129 towards the first surface 110a of the wafer 110.
(仮訳:図6は、特に有利な実施形態を示す。上部ブロック120には、2つの独立したガス供給通路、蒸着工程で典型的に使用される2つの互いに反応する反応ガスの供給通路が提供される。1つ目のガス供給通路は、ガス注入口124を含み、ガス注入口124は、ガス注入通路125の一端とつながり、ガス注入通路125の他端は、垂直のガス注入通路126とつながり、垂直のガス注入通路126は、環状のガス供給通路127に流れ込んでいる。環状のガス供給通路127(の他端)は、多数のガス分散通路128とつながっている。そして、第1の反応ガスは、ウエハー110の表面110aに向かって、ガス噴射通路129を通って、ガス分散通路128から放出される。)
[0062] A second set of gas distribution channels, separated from the first set, is configured similarly to the first set. The second set comprises a second gas inlet opening 144, in communication with one end of a second gas inlet channel 145, the other end of the second gas inlet channel 145 being in communication with a second vertical inlet channel 146, discharging into a second annular gas distribution channel 147. A plurality of second gas dispersion channels 148 are in communication with the annular gas distribution channel 147. Finally, gas is discharged from the gas dispersing channels 148 through the second gas injection channels 149 towards the first surface 110a of wafer 110. Preferably, other features in FIG. 6 are similar as those in FIG. 3.」
(仮訳:1つ目のガス供給通路と独立した2つ目のガス供給通路は、1つ目のガス供給通路と同様に構成される。2つ目ガス供給通路は、ガス注入口144を含み、ガス注入口144は、ガス注入通路145の一端とつながり、ガス注入通路145の他端は、垂直のガス注入通路146とつながり、垂直のガス注入通路146は、環状のガス供給通路147に流れ込んでいる。環状のガス供給通路147(の他端)は、多数のガス分散通路148とつながっている。そして、第2の反応ガスは、ウエハー110の表面110aに向かって、ガス噴射通路149を通って、ガス分散通路148から放出される。好ましくは、図6の他の特徴は図3のものと似ている。)
(2c)Figure 6


第5 当審の判断

(1)刊行物1に記載された発明
(1a)の記載によれば、刊行物1には、反応ガスの流出入口を有し、反応炉内部より低い圧力を有する反応炉の他の箇所から反応ガスを隔離させるための反応炉蓋と、突出部を有し前記突出部とともに前記反応炉蓋に装着され、前記流出入口を通過するガスの流れを前記蓋との隙間により調節するガス流れ調節板と、前記反応炉蓋と接触して反応室を形成し、前記反応室に設けられる基板を支持する基板支持板とを含む化学蒸着装置の反応炉について記載されており、(1b)の記載によれば、刊行物1に記載の化学蒸着法は、基板上に反応物を一つの分子層ずつ生成するものである。
また、(1c)、(1d)の記載によれば、ガス流れ調節板140の下部表面と基板支持板160により画定される空間が、基板支持板160上に装着された基板150上に反応ガスによる化学蒸着が生じる反応空間であることは明らかであって、前記ガス流れ調節板140は、前記突出部が前記反応炉蓋100の下面と接するように反応室内に配置されることにより、前記突出部以外の上部表面と前記突出部の側壁とで隙間の下部表面と側壁とを定義し、前記反応ガスは、前記反応ガスの流入口110から一方の隙間を通って反応空間の周辺の一部分に向かい、ガス流れ調節板の下を通って、反応空間の周辺の他部分に向かい、他方の隙間から前記反応ガスの流出口120に至ることが見て取れる。
さらに(1e)の記載によれば、前記隙間は、反応空間の周辺部分に行くほど面積が広くなっていることも見て取れる。

そうすると、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「反応物を一つの分子層ずつ生成する化学蒸着装置であって、
反応空間、
反応ガスの流出入口を有する反応炉蓋、
ガス流れ調節板、及び
前記反応空間に基板を装着する基板支持板を含む反応室を含み、
前記ガス流れ調節板は、前記反応ガスの流入口と前記反応空間との間に配置され、ガスの流れを調節する隙間を有し、
前記隙間は、前記反応炉蓋の反応ガスの流入口から前記反応空間の周辺の一部分に延びて、前記反応ガスの流入口から前記反応空間の周辺の一部分に行くほど面積が広くなり、前記ガス流れ調節板は、前記隙間の下部表面と側壁を定義する、化学蒸着装置。」

(2)本願発明と引用発明との対比
引用発明における「反応物を一つの分子層ずつ生成する化学蒸着装置」、「反応ガスの流出入口」、「ガス流れ調節板」、「基板支持板」、「反応室」及び「隙間」は、それぞれ、本願発明における「原子層堆積反応器」、「気体流入口、気体流出口」、「気体流れ調節板」、「基板支持台」、「反応チャンバー」及び「気体流入チャンネル」に相当する。
そして、引用発明において、「ガス流れ調節板」は、それ自体で「気体流れ調節部」であるともいえる。

したがって、両者は、
「原子層堆積反応器であって、
反応空間、
気体流入口、
気体流出口、
気体流れ調節部、及び
前記反応空間に基板を装着する基板支持台を含む反応チャンバーを含み、
前記気体流れ調節部は、前記気体流入口と前記反応空間との間に配置され、気体流入チャンネルを有し、
前記気体流入チャンネルは、前記気体流入口から前記反応空間の周辺の第1部分に延びて、前記気体流入口から前記反応空間の周辺の第1部分に行くほど面積が広くなり、
前記気体流れ調節部は、気体流れ調節板を含み、前記気体流れ調節板は、前記気体流入チャンネルの下部表面と側壁を定義する、原子層堆積反応器。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
本願発明は、気体流れ調節部が、反応空間内に配置されるとともに気体流入口と反応空間との間に配置されるのに対し、引用発明は、気体流れ調節部が、反応チャンバー内に配置されるとともに気体流入口と反応空間との間に配置される点

相違点2
本願発明は、気体流れ調節部が、反応気体の数に応じて、互いに幾重にも積まれている複数の気体流れ調節板を含み、複数の気体流入口と複数の気体流入チャンネルとを有し、前記気体流れ調節板の各々は、前記複数の気体流入チャンネルの各々の下部表面と側壁を定義するのに対し、引用発明は、気体流れ調節部が、気体流れ調節板自体である、すなわち、一つの気体流れ調節板からなる点

(3)相違点についての判断
(3-1)相違点1について
本願明細書の段落【0023】には、「反応器蓋201及び反応器支え202は、互いに接触して、密閉されたり分離できるように構成されるが、互いに接触して密閉され、反応チャンバーを定義する。反応チャンバーは、基板250が処理される反応空間251を含む。反応空間251は、反応器支え202の上部表面と気体流れ調節部205の下部表面との間の空間に定義される。」と記載されているから、本願発明も、気体流れ調節部は、反応チャンバー内に配置されるとともに気体流入口と反応空間との間に配置されていると認められる。
したがって、相違点1は実質的な相違ではない。

(3-2)相違点2について
(2a)?(2c)の記載によれば、刊行物2には、原子層堆積法に用いる装置として、複数の反応ガスを供給するガス供給通路を上部ブロックに設け、複数の反応ガスを導入可能にしたものが記載されている。刊行物2において、それぞれのガス供給通路を別系統とする理由は明記されていないが、技術常識からして、それぞれの反応ガスの混合を防止するためと解するのが自然である(例えば、特開平2000-212752号公報の第3欄第49行?第4欄第20行参照)。
そうすると、引用発明において、反応ガスの混合を防止すべく、複数の反応ガスを供給するガス供給通路を設けること、すなわち、複数の気体流入口と気体流入チャンネルとを設けることは、当業者が容易になし得ることである。
ここで、引用発明においても、気体流れ調節板は、気体流入チャンネルの下部表面と側壁を定義しているところ、引用発明において、複数の気体流入口に導入された複数の反応ガスを混合することなく反応空間へ到達させるためには、当然に気体流れ調節部に気体流入チャンネルを反応気体の数に応じて複数設ける必要があるため、気体流れ調節板も複数設ける必要があるが、複数の気体流れ調節板によって定義される複数の気体流入チャンネルの下部表面と側壁は上下方向に配されることになるから、複数の気体流れ調節板は、自ずと複数重ね合わせることになるといえる。
そして、本願発明の効果は、刊行物1の(1c)や技術常識から予測できる範囲内のものであって格別顕著なものとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本願発明は、その優先権の主張の基礎とされた先の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物1、2に記載された発明に基いて、その優先権の主張の基礎とされた先の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は原査定の理由により拒絶すべきでものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-17 
結審通知日 2012-08-21 
審決日 2012-09-06 
出願番号 特願2008-511049(P2008-511049)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 要  
特許庁審判長 吉水 純子
特許庁審判官 佐藤 陽一
小川 進
発明の名称 複数の気体流入口を有する原子層堆積装置の反応器  
代理人 志賀 正武  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  
代理人 村山 靖彦  

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