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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1269223
審判番号 不服2011-22754  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-21 
確定日 2013-01-23 
事件の表示 特願2004- 9434「電子ビーム装置及び検出装置」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 8月 5日出願公開、特開2004-221089〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続きの経緯
本願は、平成16年1月16日(パリ条約による優先権主張、2003年1月16日、ドイツ)の出願であって、平成22年2月19日及び同年9月24日に手続補正がなされたが、同年11月4日付けで平成22年9月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定がなされ、平成23年6月16日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月21日に審判請求がなされたものである。

第2 本願発明
上記のとおり、平成22年9月24日付けの手続補正が却下されたため、本願の請求項20に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年2月19日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項20に記載された事項により特定される、次のとおりのものと認める。
「光軸を有する電子ビーム装置であって、
電子ビームを発生するビーム発生器と、
アノード電位が印加され、それによって前記ビーム発生器で発生された電子ビームの電子が該アノード電位まで加速されるアノードと、
前記アノード電位にあり、内部で電子のエネルギが維持されるビーム案内管と、
標本に電子ビームを集光させる対物レンズと、
前記電子ビームの前記電子が、前記標本に当たる少し前に所望の低いエネルギに減速されるように、前記標本とともに前記ビーム案内管の電位と比べ低い電位を有する電極と、
前記標本において散乱された電子、および、前記標本により放出された電子のうち少なくとも一方を検出する、前記ビーム案内管とともに前記光軸に沿って配置された少なくとも一つの検出器と、
前記少なくとも一つの検出器の前記標本側設けられた少なくとも一つの逆電界格子であって、前記標本において散乱された電子のみが前記少なくとも一つの検出器によって検出されるように、前記逆電界格子に電圧が印加される逆電界格子と
を有する電子ビーム装置。」

第3 刊行物に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、国際公開第01/75929号(以下「刊行物1」という。)には、図面とともに以下の記載がある。

(a)頁番号8、9?15行
「次に○2(当審注:○の中に数字の2)の二次電子のエネルギー差を分離検出するエネルギーフィルタリングについて説明する。エネルギーフィルタは、一般的にメッシュ状の電極を有する。走査電子顕微鏡のように電子を検出する装置の場合、メッシュ状電極に負電圧が印加されるか、或いはメッシュ状電極と他部材との間で、電子検出器方法に向かう二次電子に対する減速電界を形成することで、或る一定以上のエネルギーを持つ二次電子を選択的に通過させ、検出する。」

(b)頁番号12、10行?頁番号13、5行
「以下、本発明実施例のエネルギーフィルタを組み込んだ走査電子顕微鏡について説明する。第10図は走査電子顕微鏡の概略図である。
第10図は、二次電子放出比が1を超えるような低加速電圧で用いられる走査形電子顕微鏡で、特に低加速電圧でも高分解能が得られるように対物レンズ内に設けた加速円筒に正の電圧を印加する後段加速法と試料に負電圧を印加して試料直前で電子ビームを減速するリターデング法を採用している。
電界放出陰極1と引出電極2との間に引出電圧3を印加すると、放出電子4が放出される。放出電子4は、引出電極2と接地電圧にある陽極5の間でさらに加速(減速の場合もある)される。陽極5を通過した電子ビーム(一次電子ビーム7)の加速電圧は電子銃加速電圧6と一致する。一次電子ビーム7はコンデンサレンズ14,上走査偏向器15,下走査偏向器16で走査偏向を受ける。
上走査偏向器15,下走査偏向器16の偏向強度は、対物レンズ17のレンズ中心を支点として試料12上を二次元走査するように調整されている。偏向を受けた一次電子ビーム7は、対物レンズ17の通路に設けられた加速円筒9に印加された後段加速電圧22の加速をうける。後段加速された一次電子ビーム7は、対物レンズ17のレンズ作用で試料12上に細く絞られる。対物レンズ17を通過した一次電子ビーム7は、リターデング電圧13(負電圧)が印加された試料12と加速円筒9間に作られる減速電界で減速されて、試料12に到達する。」

(c)頁番号14、13行?頁番号15、5行
「一次電子ビーム7を試料12に照射すると二次電子11が発生する。本実施例で言う二次電子とは加速電圧が50eV以下程度の狭義の意味での二次電子と、反射電子を含むものである。
試料12に与えている電界は、発生した二次電子11に対しては加速電界として作用するため、対物レンズ17の通路内(加速円筒9内)に吸引され、対物レンズ17の磁界でレンズ作用を受けながら上昇する。対物レンズ17内を通過した二次電子11は走査偏向器15,16を通過する。
走査偏向器15,16を通過した二次電子11はエネルギーフィルタ50に入射する。エネルギーフィルタ50を通過した二次電子11a(エネルギーの高い二次電子及び/または反射電子)は反射板29に衝突する。反射板29は中央に一次電子ビーム7を通過させる開口を持った導電性の板である。二次電子11aが衝突する面は二次電子の発生効率のよい物質、例えば金蒸着面になっている。なお、以下の説明はエネルギーフィルタを通過した二次電子11aを反射板29に衝突させて検出する例を採って説明するが、例えばシンチレータやマイクロチャンネルプレートを反射板と同じような位置に配置して二次電子11aを検出するようにしても良い。」

(d)頁番号17、13行?頁番号18、4行
「次にエネルギーフィルタを動作させたときに得られる信号について詳細に説明する。第12図はエネルギーフィルタを通過した二次電子を検出している第1の電子検出器の出力とフィルタメッシュ38に印加するフィルタ電圧44(VF)の関係を示したものである。グラフの横軸はフィルタ電圧44で、負電圧を与える。
カーブ205は第3図のコンタクト配線105から放出された二次電子のフィルタ電圧44による変化を示している。エネルギーフィルタ50へ入射するときの二次電子11の内、50eV以下の二次電子は、ほぼリターデング電圧13による加速に相当するエネルギーを持っている(試料から放出された後、リターデング電圧13と後段加速電圧22で加速されるが、加速円筒9を出るとき後段加速電圧22の減速を受ける)。
一方、反射電子は電子銃加速電圧6の相当するエネルギーを持っている。そのため、フィルタ電圧44がリターデング電圧(Vr)になったところからまず加速エネルギーの低い二次電子が透過できなくなり、信号が減り始める。更に10V程度負電圧にすると減少が止まり、ほぼ一定値になる。この後の信号はほとんど反射電子である。」

(e)頁番号24、14行?頁番号25、18行
「第21図は本発明の他の実施例である。第10図の実施例で二次電子は試料12に印加されたリターデング電圧に相当するエネルギーを持ってエネルギーフィルタに入射している。すなわち、リターデング電圧13が印加されていることが必須の条件である。第21図は試料に電圧を印加しない場合での本発明の実施例である。二次信号を加速円筒9に印加した後段加速電圧22で加速円筒9内に引き込む。
加速円筒9の試料12とは反対側にエネルギーフィルタ50が設置されている。・・・
この実施例では、第1の電子検出器で反射電子を検出する事はできない。エネルギーフィルタの上方に加速円筒9と同電位の反射板を設け、エネルギーフィルタ50を透過した二次電子を衝突させ、発生した二次電子を検出するようにしてもよい。この方法では、エネルギーフィルタで二次電子を遮断した場合には、反射電子のみの検出が可能になる。」

(f)「第10図



(g)「第12図



(h)第10図を参照すれば、試料12の上方近傍に試料12に印加されたリターデング電圧13と同じ電圧が印加される電極27が見て取れる。

(i)第10図を参照すれば、反射板29が放出電子4の光軸に沿って配置されているのがわかる。

上記各記載事項及び図面を含む刊行物1全体の記載並びに当業者の技術常識を総合すると、刊行物1には、以下の発明が記載されているものと認められる。

「放出電子(4)を放出する電界放出陰極(1)と、
放出電子を加速する陽極(5)と、
陽極を通過した電子ビームを試料(12)上に細く絞る対物レンズ(17)と、
対物レンズの通路に設けられた加速円筒(9)と、
を備え、
対物レンズを通過した電子ビームは、リターデング電圧(13)が印加された試料及び試料近傍の電極(27)と加速円筒間に作られる減速電界で減速されて、試料に到達する走査電子顕微鏡であって、
メッシュ状の電極を有し、メッシュ状電極と他部材との間で、電子検出器に向かう二次電子及び/または反射電子に対する減速電界を形成することで、或る一定以上のエネルギーを持つ電子を選択的に通過させるエネルギーフィルタ(50)を有し、
一次電子ビーム(7)を試料に照射することにより、加速電圧が50eV以下程度の狭義の意味での二次電子と反射電子を含む二次電子(11)が発生し、
該二次電子は前記エネルギーフィルタに入射し、エネルギーフィルタを通過したエネルギーの高い二次電子及び/または反射電子は、光軸に沿って配置される反射板(29)と同じような位置に配置されたシンチレータやマイクロチャンネルプレートのような電子検出器によって検出される走査電子顕微鏡。」(以下「引用発明」という。)

第4 対比・判断
本願発明と引用発明を対比する。
(あ)引用発明の「走査電子顕微鏡」は本願発明の「電子ビーム装置」に相当し、走査電子顕微鏡が光軸を有することは自明である。
同様に、引用発明の「陽極」は本願発明の「アノード」に相当し、陽極にアノード電位が印加されることは自明である。
同様に、引用発明の「電界放出陰極」は本願発明の「ビーム発生器」に相当し、引用発明の「電子ビーム」が電界放出陰極から放出された放出電子から構成されることは明らかである。
(い)引用発明の「対物レンズ」及び「試料」は、それぞれ、本願発明の「対物レンズ」及び「標本」に相当し、引用発明において「電子ビームを試料上に細く絞る」ことは本願発明の「標本に電子ビームを集光させる」ことに相当する。
(う)引用発明のリターデング電圧は電子ビームを減速させるためのものであるから、本願発明の「電子ビームの電子が所望の低いエネルギに減速されるよう」な「低い電位」に相当する。したがって、引用発明の「試料近傍の電極」と本願発明の「電極」は、ともに、「標本に当たる少し前に所望の低いエネルギに減速されるように、前記標本とともに低い電位を有する電極」である点で共通する。
(え)引用発明の「反射電子」は本願発明の「標本において散乱された電子」に相当し、引用発明の「シンチレータやマイクロチャンネルプレートのような電子検出器」は光軸に沿って配置されており、少なくとも反射電子を検出することから、当該検出器と本願発明の「少なくとも一つの検出器」とは「標本において散乱された電子を検出する、光軸に沿って配置された検出器」である点で一致する。
(お)引用発明の「メッシュ状の電極を有」する「エネルギーフィルタ」は本願発明の「逆電界格子」に相当し、エネルギーフィルタを通過した電子には反射電子(本願発明の「標本において散乱された電子」に相当)が含まれているから、引用発明の「エネルギーフィルタ」と本願発明の「逆電界格子」は、ともに「標本において散乱された電子が前記検出器によって検出されるように電圧が印加される逆電界格子」である点で共通する。ここで、引用発明のエネルギーフィルタが検出器の標本側に設けられていることは明らかである。

したがって両者は、
「光軸を有する電子ビーム装置であって、
電子ビームを発生するビーム発生器と、
アノード電位が印加され、それによって前記ビーム発生器で発生された電子ビームの電子が該アノード電位まで加速されるアノードと、
標本に電子ビームを集光させる対物レンズと、
前記電子ビームの前記電子が、前記標本に当たる少し前に所望の低いエネルギに減速されるように、前記標本とともに低い電位を有する電極と、
前記標本において散乱された電子を検出する、前記光軸に沿って配置された検出器と、
前記検出器の前記標本側設けられた逆電界格子であって、前記標本において散乱された電子が前記検出器によって検出されるように、前記逆電界格子に電圧が印加される逆電界格子と
を有する電子ビーム装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

(相違点1)
本願発明は「アノード電位にあり、内部で電子のエネルギが維持されるビーム案内管」を有し、その結果、電極の電位が「ビーム案内管の電位と比べ」低い電位を有するのに対して、引用発明はそのようなビーム案内管を有さない点。
(相違点2)
検出器によって検出される電子が、本願発明では、標本において散乱された電子のみであるのに対して、引用発明では、エネルギーフィルタを通過したエネルギーの高い二次電子及び/または反射電子である点。

上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
ビーム発生器から発生する電子ビームをアノード電位で加速し、標本に当たる手前で電極によって減速する構成の電子ビーム装置において、アノード電位にあり、内部で電子のエネルギが維持されるビーム案内管を設けることは、ごく普通に行われている周知技術(特開2000-30654号公報、ビーム案内管4参照)である。
引用発明に当該周知のビーム案内管を付加することに格別の技術的困難性も阻害要因もない。
してみると、引用発明に上記相違点1に係る構成を採用することは、当業者が容易になし得る事項である。
(相違点2について)
引用発明のエネルギーフィルタは或る一定以上のエネルギーを持つ電子を選択的に通過させるためのものであり、しかも刊行物1には、減速電界を変化させることにより選択される電子が変化すること(上記摘記事項(1d)参照)、及び、反射電子のみを検出すること(上記摘記事項(e)参照)が示唆されているから、引用発明の減速電界を、検出器によって検出される電子が反射電子のみ、すなわち標本において散乱された電子のみであるように設定することは、その必要に応じて、当業者が適宜なし得る事項である。

そして、本願発明の効果も引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-27 
結審通知日 2012-08-28 
審決日 2012-09-11 
出願番号 特願2004-9434(P2004-9434)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 遠藤 直恵  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 伊藤 昌哉
吉川 陽吾
発明の名称 電子ビーム装置及び検出装置  
代理人 杉村 憲司  
代理人 下地 健一  
代理人 澤田 達也  

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