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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C04B |
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管理番号 | 1269243 |
審判番号 | 不服2011-18498 |
総通号数 | 159 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-03-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-08-26 |
確定日 | 2013-01-25 |
事件の表示 | 特願2005-159284「セメント組成物、セメント組成物を用いる注入材及びセメント組成物の使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月14日出願公開、特開2006-335585〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成17年5月31日の出願であって、平成22年6月7日付けで拒絶理由が起案され、同年7月30日に意見書並びに特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正書が提出され、同年11月4日付けで最後の拒絶理由が起案され、同年12月27日に意見書並びに特許請求の範囲及び明細書に係る手続補正書が提出され、平成23年4月26日付けで上記平成22年12月27日付け手続補正書でした補正の却下の決定が起案されるとともに同日付で拒絶査定が起案され、同年8月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 よって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成22年7月30日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 セメント、鋳物ダストとともに、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン及び/又は硬化促進剤を含有してなり、前記鋳物ダストが、セメント100部に対して、50?300部であり、前記硬化促進剤が、アルミン酸カルシウムと硫酸カルシウムの混合物であることを特徴とするセメント組成物。」 第2 原査定の理由 原審でなされた拒絶査定は、「この出願については、平成22年11月 4日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。 意見書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。 なお、平成22年12月27日付け手続補正書については、平成23年4月26日付けで決定をもって却下され、当該補正はないものとなりました。」と記載され、その理由の2の概要は、「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物(特開2002-029803号公報(以下、「引用文献1」という。)、特開2004-115353号公報(以下、「引用文献2」という。)、特開2004-143037号公報(以下、「引用文献3」という。))に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものである。 第3 引用文献の記載事項 3-1.引用文献1には、次の事項が記載されている。 (ア)「不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和化合物の共重合により得られるアルカリ増粘型ポリマーエマルジョンと、ベントナイトとから成るセメント混和剤。」(特許請求の範囲【請求項1】) (イ)「【従来の技術】従来から、吹付けコンクリートのリバンド低減方法、及び地下やトンネル背面の空隙充填やひび割れ等の逸流を防止する方法、並びに、これらを水が存在する場所で使用する場合の材料分離を防止する方法として、流動性を極力低下させることが有効であり、その方法として、ケイ酸塩、アルミン酸塩、塩化物及びアルミニウム塩等を添加することが知られている。」(段落【0002】) (ウ)「アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンの使用量は、セメント100部に対して、固形分で0.1?10部が好ましく、0.2?5部がより好ましく、0.3?3部がさらに好ましい。0.1部未満ではこの増粘効果が少ない場合があり、10部を超えると初期強度発現性が悪くなる場合がある。 本発明のセメント混和剤に使用されるベントナイトは、さらに増粘させるという点で有効である。ベントナイトの種類は、特に限定されるものではなく、通常のナトリウムベントナイトやカルシウムベントナイト等のモンモリロナイト系粘土鉱物が用いられる。 ベントナイトの使用量は、その種類によって異なるが、通常はセメント100部に対して、10?150部が好ましく、20?100部がより好ましい。10部未満ではこの増粘効果が少ない場合があり、150部を超えると初期強度発現性が悪くなる場合がある。」」(段落【0016】?【0018】) (エ)「また、セメントに、砂や砂利等の骨材の他、各種セメント混和材やセメント混和剤を使用することが可能である。」(段落【0022】) (オ)「実施例1 セメント100部、ベントナイト100部、水250部をミキサで混練してセメントベントナイトミルク(A液)を製造した。一方、固形分濃度30%のアルカリ増粘型ポリマーエマルジョン(B液)を準備した。A液をスクイズ式ポンプにより毎分20リットルの流量で圧送し、また、B液をスパイラルポンプによりセメント100部に対して、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンが固形分で表2示す配合量になるように流量を調節して別々に混合管に圧送し、無駆動ラインミキサで混合しながら連続的に可塑状コンクリートを製造した。製造した可塑状コンクリートのフロー値と、型枠への充填性と、水中に流し込んだ際の材料分離の有無を確認した。結果を表2に併記する。なお、比較のためセメント混和剤を使用しない系、及びアルカリ増粘性を有さないポリマーエマルジョン系で同様な実験を行った。結果を表2に併記する。」(段落【0029】) 3-2.引用文献2には、図面と共に次の事項が記載されている。 (ア)「【従来の技術】 ・・・また最近は、廃棄物処理の必要性の高まりから、各種廃棄物を添加混合する技術が提供されているが、その中で鋳物製造工程時に発生する鋳物廃砂を混合した気泡コンクリート製品や床板が既に公知資料として提供され、コストパフォーマンスの高い製品を製造する技術がある。」(段落【0002】) (イ)「本発明において、各原料の主成分の配合割合は、セメント30?85重量%、ケイ酸含有物質30?60重量%、補強繊維物質5?15重量%、多孔性物質5?15重量%、鋳物廃砂1?15重量%であることが好ましい。この配合割合の場合には、外壁材、屋根材などの初期の目標強度を確実に発現させることが可能となる。本発明において、上記主成分に対し、さらに、マイカ、発泡ビーズなどを1?10重量%添加しても良い。また、防水剤や撥水剤など、従来のこの種の無機質板を製造するときに添加されてきた第三成分を任意に添加しても差し支えない。」(段落【0017】) 第4 対比・判断 引用文献1には、記載事項(ア)に「不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和化合物の共重合により得られるアルカリ増粘型ポリマーエマルジョンと、ベントナイトとから成るセメント混和剤」が記載され、記載事項(ウ)には、記載事項(ア)に記載されたベントナイトについて「ベントナイトの使用量は、その種類によって異なるが、通常はセメント100部に対して、10?150部が好まし」いことが記載されている。 そこで、これら記載事項を本願発明の記載ぶりに則って整理すると、引用文献1には、 「不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和化合物の共重合により得られるアルカリ増粘型ポリマーエマルジョンと、セメント100部に対して、10?150部の使用量であるベントナイトとから成るセメント混和剤。」 の発明(以下、「引用1発明」という。)が記載されているものと認められる。 本願発明と引用1発明を対比すると、 本願発明の「アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン」は、「不飽和カルボン酸類とエチレン性不飽和化合物の共重合により得られるポリマーエマルジョンが好ましい」(本願明細書段落【0016】)ものであるから、引用1発明の「不飽和カルボン酸とエチレン性不飽和化合物の共重合により得られるアルカリ増粘型ポリマーエマルジョン」は、本願発明の「アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン」に相当し、引用1発明の「セメント」が本願発明の「セメント」に相当することは明らかである。 そして、引用1発明のセメント混和剤がセメントと混和され、セメント組成物を形成することは、記載されているに等しい事項と認められる。 さらに、本願発明においては、「及び/又は硬化促進剤」とあることから、「硬化促進剤」は必須成分ではないといえる。 そうすると、両者は、 「セメント、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンを含有してなるセメント組成物。」 で一致し、次の点で相違する。 相違点a:本願発明は、「鋳物ダスト」がセメント組成物に含有され、「鋳物ダストが、セメント100部に対して、50?300部である」のに対し、引用1発明は、「セメント100部に対して、10?150部の使用量であるベントナイト」を使用する点 そこで、相違点aについて検討する。 本願発明は、「土木・建築分野で使用するセメント組成物、特に、鋳物ダストの有効利用方法に関するものである。地山の空洞や空隙部分の裏込め材、シールドセグメントの充填材、また、二重管単相又は複相の注入工法での瞬結性注入材、さらに、二重管ダブルパッカー工法でのシール材や一次注入材など、セメントミルク、セメントモルタル、又はコンクリートの粘度を急激に上昇させる必要がある用途に使用するセメント組成物、及びその使用方法に関する。」(本願明細書段落【0001】)というものである。 一方、例えば、補正却下の理由において引用された「村川悟,鋳造工場から排出される廃砂の有効利用に関する調査,三重県科学技術振興センター工業研究部研究報告,日本,2002年,No.26」p.47-52に「3.調査結果 3.1 鋳造工場から排出される廃棄物の概要と廃砂の概要 ・・・最も排出量が多い廃砂の中で,鋳型の種類別では,生型の廃砂が79%を占める. 生型砂は,85?95%のけい砂,5?15%の粘結剤および添加剤で構成されるように調整される.粘結剤には,無機質のベントナイトが用いら,添加剤は,でんぷん,石炭粉が用いられる.・・・ 実際の工程での生型砂の構成比は,およそ以下の通りである. けい砂 72?85% ベントナイト 10?12% オーリティック 14?16% でんぷん 0.3?0.4% その他 0.1%以下」と記載されるように鋳物廃砂が少なくとも10%のベントナイトを含むこと、およびその有効利用が求められることが公知であるということができる。 さらに同文献のp.51には「3.5.3 流動化処理土 流動化処理土の主たる構成物は砂とフライアッシュ,セメントの混合物であるが,砂を廃砂に置き換える.鋳物砂はベントナイトを含んでおり,自然の砂と性質が異なるが,フライアッシュ,セメントとの混合比を変えることにより,流動化処理土に求められる流動性,充填性,強度を調節する.また,ベントナイトを含むことにより,透水性を調節するのが容易となるという利点も見出されている.」と本願発明と同様な用途である流動化処理土が挙げられている。 そして、引用文献1の記載事項(ウ)には、ベントナイトについて、その「種類は、特に限定されるものではなく、通常のナトリウムベントナイトやカルシウムベントナイト等のモンモリロナイト系粘土鉱物が用いられる。」とあるように、特に限定されるものでない。 そうすると、引用文献2の記載事項(ア)に「廃棄物処理の必要性の高まりから、各種廃棄物を添加混合する技術が提供されているが、その中で鋳物製造工程時に発生する鋳物廃砂を混合した気泡コンクリート製品や床板が既に公知資料として提供され、コストパフォーマンスの高い製品を製造する技術がある。」と記載されるように廃棄物の活用が一般的な技術課題であることに鑑みれば、引用発明の「ベントナイト」として、鋳物廃砂即ち鋳物ダストを採用することは、当業者であれば容易に想到し得るというべきであり、そのセメント組成物への含有量も、鋳物廃砂におけるベントナイトの構成比の最低量の10%を引用発明に適用すると、「セメント100部に対して、100?1500部の使用量」の鋳物廃砂となり、本願発明の「鋳物ダストが、セメント100部に対して、50?300部である」ことと「100?300部」において重複すると認められ、ベントナイトの含有量は、両者において相違点とはいえない。 そして、本願明細書及び図面の記載を検討しても、本願発明において、格別顕著な効果が奏されたものとは認められない。 第5 請求人の主張について 請求人は、審判請求書において「しかしながら、引用文献2においては、上記(2b)?(2k)のように、鋳物廃砂の使用は、廃棄物を使用することで、原料費の低減とゼロエミッションへの貢献を可能とするものであり、上記(2c)?(2e)、(2i)?(2k)のように、鋳物廃砂原料がマトリックス内の細孔を埋めた状態で成型されるので、炭酸化収縮の寸法変化量を抑制した無機質板を製造するものであり、本願発明のように、増粘や、水中不分離性を向上させるために使用するものではありません。しかも、引用文献2においては、鋳物廃砂の使用量は、上記(2g)のように、セメント100部に対して、1.1?50部配合できる旨の記載はありますが、上記(2h)のように、実施例で具体的に使用している量は、セメント100部に対して、11?44部であり、本願発明の、セメント100部に対して、50?300部の範囲外であります。」と主張している。この点について検討すると、上記(2g)に相当する引用文献2の記載事項(イ)では、「セメント30?85重量%、・・・、鋳物廃砂1?15重量%である」から「セメント100重量部に対して鋳物廃砂1.2?50重量部」であるが、引用文献2とは、「セメント100部に対して50部配合」する点で一致しているし、たとえ相違したとしても、鋳物廃砂をさらに増量して配合することに格別の困難性は認められない。 また、「c-4-1.たしかに、審査官が認定されたように、鋳物廃砂にベントナイトが含まれていることが周知であるとしても、引用文献4には、上記(4b)のように、鋳物廃砂中のベントナイトの含有量は数パーセントであることが示されていますから、ベントナイトをそのまま含有させるか、あるいは鋳物廃砂を含有させ、鋳物廃砂中のベントナイトを利用するかは大きな違いがあります。 本願発明において、鋳物ダストは、セメント100部に対して、50?300部でありますが、鋳物ダスト(鋳物廃砂)中にベントナイトが、例えば3パーセント含有されているとした場合、ベントナイトの含有量は、セメント100部に対して、1.5?9部となります。 一方、引用文献1には、ベントナイトの使用量は、セメント100部に対して、10?150部が好ましいことが記載されていますから、本願発明は、ベントナイトの含有量が、引用文献1に記載の発明と相違するといえます。」とも主張するが、補正の却下の決定の理由において提示した引用文献4における「ベントナイトが、例えば3パーセント含有されているとした場合」については、格別の根拠がなく、上記したように「実際の工程での生型砂の構成比」は、「ベントナイト10?12%」であるから、わずか1%増やしてベントナイト4%にすれば鋳物廃砂6?12部となり、引用文献1のベントナイトの使用量と10?12部で重複することからみても、本質的な相違とも認められない。 よって、請求人のこれらの主張を採用することができない。 第6 むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2012-11-29 |
結審通知日 | 2012-11-30 |
審決日 | 2012-12-12 |
出願番号 | 特願2005-159284(P2005-159284) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C04B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 立木 林 |
特許庁審判長 |
松本 貢 |
特許庁審判官 |
中澤 登 國方 恭子 |
発明の名称 | セメント組成物、セメント組成物を用いる注入材及びセメント組成物の使用方法 |
代理人 | 松本 悟 |