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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1269362
審判番号 不服2010-24300  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-28 
確定日 2013-01-31 
事件の表示 特願2006-504644「マグネシウムジクロリド-アルコール付加物およびそれから得られる触媒成分」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月 7日国際公開、WO2004/085495、平成18年 9月21日国内公表、特表2006-521429〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年3月9日(パリ条約による優先権主張 2003年3月27日 (EP)欧州特許庁 2003年4月4日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成19年2月27日に手続補正書が提出され、平成21年12月21日付けで拒絶理由が通知され、平成22年5月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年6月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年10月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年12月6日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成23年1月4日付けで前置報告がなされ、当審において平成24年4月23日付けで審尋がなされたが、回答書の提出はなかったものである。


第2.本願発明
本願の請求項1?6に係る発明は、平成22年10月28日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」ともいう。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
MgCl_(2)・(EtOH)_(m)(ROH)_(n)(H_(2)O)_(p)付加物(式中、ROHはメタノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、i-プロパノール、2-エチル-1-ヘキサノール、および2-メチル-1-ペンタノールから選択され、nとmは式2≦(n+m)≦5および0.15≦n/(n+m)≦0.35を満たす0より大きい指数であり、かつpは0?0.7の範囲の数である)。」


第3.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由とされた、平成21年12月21日付け拒絶理由通知書に記載した理由1は、次のとおりである。

「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
……
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
I.理由1、2について
・請求項 1-6
・引用文献等 1-3
・備考
……
引用文献2には、本願請求項1-3に記載の事項を具備する発明が記載されている。
……
したがって、本願請求項1-6に係る発明は、引用文献1-3に記載された発明である。
……
引 用 文 献 等 一 覧
1.(省略)
2.特開平06-166718号公報
(以下省略)」


第4.合議体の判断
1.引用文献2の記載事項
本件出願の優先日前に頒布されたことが明らかな、引用文献2(特開平6-166718号公報)には、以下の事項が記載されている。

a.「【請求項1】 マグネシウム化合物のアルコール溶液をスプレーし、該アルコールの実質的な蒸発なしに球形固体成分[A]を得た後、該固体成分[A]を周期律表の第1族、第2族または第3族の有機金属化合物と反応させることにより固体成分[B]を調製し、しかる後該固体成分[B]をハロゲン化チタン及び電子供与性化合物で処理することを特徴とするオレフィン重合用触媒成分の製法。
【請求項2】 マグネシウム化合物のアルコール溶液の組成が一般式、MgCl_(2) ・nROH(但し、Rは炭素数1?10のアルキル基、n=4.0?8.0である。)である請求項第1項記載のオレフィン重合用触媒成分の製法。」(特許請求の範囲の請求項1及び2)

b.「すなわち、本発明の代表的構成は一般式、MgCl_(2) ・nROH(但し、Rは炭素数1?10のアルキル基、n=4.0?8.0)で表わされるマグネシウム化合物のアルコール溶液をスプレー塔内にスプレーし、該スプレー塔内を冷却することによりアルコールの実質的な蒸発なしに、上記組成と同じ組成を有する球形固体成分[A]を一般式、RM……で表わされる有機金属化合物のいづれか一以上と、70℃以下の温度で反応させることにより固体成分[B]を調製し、その後該固体成分をハロゲン化チタン及び電子供与性化合物で処理することを特徴とするオレフィン重合用触媒成分の製法である。
本発明において使用されるマグネシウム化合物は、無水塩化マグネシウムであり、市販品に含まれる程度の微量の水分を含むものであってもよい。また使用する溶剤としては、アルコール類(好ましくは一般式、ROHで表わされる)が有効であり、Rは炭素数1?10のアルキル基である。具体的には、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、ブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール等を挙げることができる。これらの中では、エタノールが好んで用いられる。これらのアルコールを2種類以上混合して使用することもできる。
アルコール/塩化マグネシウムのモル比は、4.0?8.0の範囲であり、特に5.0?7.0の範囲が好んで用いられる。マグネシウム化合物のアルコール溶液は、上記範囲のモル比にある混合物を加熱することにより得られる。加熱温度は、混合物が溶液状態になる温度以上であれば特に制限はないが、70℃以上が好んで使用される。」(段落【0005】-【0007】)

c.「実施例5
(a)固体触媒成分の調製
窒素置換したSUS製オートクレーブに、無水MgCl_(2) を191g、乾燥エタノール470ml、乾燥n-プロピルアルコール150mlを仕込み、この混合物を撹拌しながら、110℃に加熱し溶解した。1時間撹拌後、この溶液を110℃に加熱した加圧窒素(10Kg/cm^(2) G)で二流体スプレーノズルに送入した。噴霧ガスとしては120℃に加熱した窒素ガスを381/minの流量で供給した。スプレー塔中には、冷却用として液体窒素を導入し、塔内温度を-15℃に保った。生成物は塔内底部に導入された冷却ヘキサン中に集められ、536gを得た。生成物の分析結果から、この担体の組成は出発溶液と同じMgCl_(2) ・4EtOH・1n-PrOHであった。」(段落【0042】)


2.引用文献2に記載された発明の認定
引用文献2の摘示事項bには球形固体成分がマグネシウム化合物のアルコール溶液と同じ組成を有することが記載されていることから、該成分はMgCl_(2) ・nROH(但し、Rは炭素数1?10のアルキル基、n=4.0?8.0)なる組成を有するものであると認められるから、引用文献2には、摘示事項a及びbからみて、
「MgCl_(2) ・nROH(但し、Rは炭素数1?10のアルキル基、n=4.0?8.0)なる組成を有する球形固体成分」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3.対比、判断
(1)本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明及び本願発明がいずれもMgCl_(2)のアルコール付加物に包含されるものであることは明らかであり、引用発明の「n=4.0?8.0」なるROH付加量が、本願発明の「2≦(n+m)≦5」なるアルコール成分の合計付加量に重複・一致することは明らかである。
また、引用発明は構成成分としてH_(2)Oを有しないものであることから、該構成成分については本願発明における「(H_(2)O)_(p)」のp=0である場合に相当することは明らかであるから、本願発明と引用発明とは、
「MgCl_(2)に対して2?5モル倍のアルコールを有する付加物」の点で一致しているが、以下の相違点1において一応相違している。

[相違点1]
本願発明においてはアルコールが「(EtOH)_(m)」及び「(ROH)_(n)」から構成され、「ROHはメタノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、i-プロパノール、2-エチル-1-ヘキサノール、および2-メチル-1-ペンタノールから選択され」るものであって、これらアルコールに関し「0.15≦n/(n+m)≦0.35」であることが規定されているのに対し、引用発明においては、「ROH(但し、Rは炭素数1?10のアルキル基」であることが規定されている点。

(2)相違点1についての検討
引用文献2には、アルコール類に関し摘示事項bのとおり「具体的には、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、ブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール等を挙げることができる。これらの中では、エタノールが好んで用いられる。これらのアルコールを2種類以上混合して使用することもできる。」ことが記載されている。 そして、引用文献2の実施例5においては、摘示事項cのとおり「MgCl_(2) ・4EtOH・1n-PrOH」なる組成を有する球形固体成分が記載されており、該球形固体成分は「好んで用いられる」ものである「エタノール」を他のアルコールと「2種類」「混合して使用」した具体例であるといえ、さらに、該球形固体成分におけるエタノールと他のアルコールであるn-PrOHのMgCl_(2)に対する付加量はそれぞれ「4」及び「1」であり、他のアルコールであるn-PrOHのアルコール全体に対する比率は1/(4+1)=0.2と算出されることからみて、「エタノール」を他のアルコールと併用する際に他のアルコールの割合を0.2程度とする具体例が記載されているといえる。
ここで、上述のとおり引用文献2の摘示事項bには、エタノール以外のアルコールの例として「メタノール」、「n-プロピルアルコール」、「i-プロピルアルコール」、「ブチルアルコール」及び「2-エチルヘキシルアルコール」の5種が挙げられており、上記実施例5において用いられている「n-プロピルアルコール」と同等のものとして他の4種が挙げられていると認められ、選択肢が極めて多岐にわたる場合であればともかく、このように5種類の選択肢のみが記載されているような場合についてまでも特定の組合せ(「エタノール」と「メタノール」との組合せ、「エタノール」と「i-プロピルアルコール」との組合せ、「エタノール」と「ブチルアルコール」との組合せ、及び、「エタノール」と「2-エチルヘキシルアルコール」との組合せ)が記載されていないとすることはできないから、引用発明にはROHを該特定の組合せで使用し、その組合せにおける他のアルコールの割合を0.2程度とした態様についても包含されているといえる。
そして、これらの組合せのうち、少なくとも「エタノール」と「メタノール」との組合せ、「エタノール」と「i-プロピルアルコール」との組合せ、及び、「エタノール」と「2-エチルヘキシルアルコール」との組合せの3種については本願発明と一致する組合せであることは明らかであるし、特に、「エタノール」と「i-プロピルアルコール」との組合せについてみれば、該「i-プロピルアルコール」と上記実施例5において具体的に使用されている「n-プロピルアルコール」とは同一の分子式C_(3)H_(8)Oを有する構造異性体の関係にある脂肪族アルコールであって、引用文献2の摘示事項b及びcの記載並びに化学分野の技術常識からみれば、引用発明には「エタノール」と「n-プロピルアルコール」との組合せと「エタノール」と「i-プロピルアルコール」との組合せのいずれもが、互換可能な同等なものとして包含されていることを当該技術分野における通常の知識を有する者であればただちに認識しうるものと認められるから、引用発明には少なくとも、ROHとして「エタノール」と「i-プロピルアルコール」を使用し、i-プロピルアルコールの割合を0.2程度とした態様が包含されているといわざるを得ない。
よって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

(3)まとめ
よって、本願発明は、引用文献2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。


第5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由1は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-05 
結審通知日 2012-09-06 
審決日 2012-09-21 
出願番号 特願2006-504644(P2006-504644)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 亨  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 藤本 保
小野寺 務
発明の名称 マグネシウムジクロリド-アルコール付加物およびそれから得られる触媒成分  
代理人 新井 規之  
代理人 小野 新次郎  
代理人 富田 博行  
代理人 松山 美奈子  
代理人 社本 一夫  
代理人 小林 泰  
代理人 小磯 貴子  
代理人 沖本 一暁  
代理人 千葉 昭男  
代理人 松本 謙  

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