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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B23K
管理番号 1269365
審判番号 不服2011-22033  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-12 
確定日 2013-01-31 
事件の表示 特願2008- 97563「マルチレーザシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月20日出願公開、特開2008-279503〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成20年4月3日(パリ条約による優先権主張2007年5月9日 韓国)の特許出願であって、同23年6月9日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成23年10月12日に本件審判の請求がされるとともに特許請求の範囲及び明細書について手続補正書が提出され、同24年5月25日付けで当審から拒絶の理由が通知され、同24年8月27日に意見書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成23年10月12日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項1の記載は以下のとおりである。
「【請求項1】
第1レーザビームを出射する第1レーザ発振器と、
第2レーザビームを出射する第2レーザ発振器と、
前記第1レーザ発振器から出射された第1レーザビームが入射され、入射された第1レーザビームを、加工しようとする基板上の所望の位置に偏向させるための第1スキャナ対と、
前記第2レーザ発振器から出射された第2レーザビームが入射され、入射された第2レーザビームを、加工しようとする基板上の所望の位置に偏向させるための第2スキャナ対と、
前記第1レーザ発振器と前記第1スキャナ対との間及び前記第2レーザ発振器と前記第2スキャナ対との間のそれぞれに設置されたシャトルユニットとであって、前記シャトルユニットは、入射されるレーザビームの全部を遮断するビーム遮断部と、入射されるレーザビームの全部を透過させるビーム透過部と、前記レーザビームが前記ビーム遮断部またはビーム透過部のうち何れか一つに選択的に入射されるように、前記ビーム遮断部またはビーム透過部の位置を変更させるための移送手段とを備えたシャトルユニットと、
前記第1及び第2スキャナ対を経由したレーザビームが入射され、入射されたそれぞれのレーザビームを所定直径のスポットに集束させて、前記基板上に照射するためのスキャンレンズと、
前記第1レーザ発振器と前記第1スキャナ対との間の前記シャトルユニットの入射側に配されるものであって、前記第1レーザビームが入射され、入射された第1レーザビームを二つの第1レーザビームに分割して、二つの第1経路に沿って進める第1分割手段と、
前記第2レーザ発振器と前記第2スキャナ対との間の前記シャトルユニットの入射側に配されるものであって、前記第2レーザビームが入射され、入射された第2レーザビームを二つの第2レーザビームに分割して、二つの第2経路に沿って進める第2分割手段と、をさらに備え、
前記第1スキャナ対は、前記二つの第1経路を経由した分割された二つの第1レーザビームのそれぞれに対応する二つのスキャナ対を備え、
前記第2スキャナ対は、前記二つの第2経路を経由した分割された二つの第2レーザビームのそれぞれに対応する二つのスキャナ対を備えることを特徴とするマルチレーザシステム。」(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

第3.引用刊行物記載の発明
これに対して、当審での平成24年5月25日付けの拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された下記刊行物には、以下の発明、あるいは事項が記載されていると認められる。
刊行物1:特開平 5-318151号公報
刊行物2:特開2004-306101号公報
刊行物3:特開2003-181675号公報
刊行物4:特開平 11-135505号公報

1.刊行物1
(1)刊行物1記載の事項
刊行物1には、「ディンプル加工装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア.特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】 鋳片鋳造用冷却ドラム(5)の表面に複数のレーザビームを照射してディンプルを形成するディンプル加工装置において、
レーザビームを照射して該ディンプル加工位置周辺面の表面粗度を上げる第1のレーザ手段(1)と、
レーザビームを照射して該ディンプル加工位置でディンプルを形成する第2のレーザ手段(2)と、
前記各レーザビームの照射点を前記冷却ドラム表面のディンプル加工位置に位置決めする光路手段(3)と、
前記第1のレーザビームと第2のレーザビームとを同時または、該第1のレーザビームの後に該第2のレーザビームを照射させる加工制御手段(4)と、
を具備することを特徴とするディンプル加工装置。」

イ.段落【0023】
「【0023】本加工装置は、第1のレーザビームとしてのエキシマレーザ発振器20/パワー制御ユニット21と、第2のレーザビームとしてYAGレーザ発振器22/パワー制御ユニット23と、これらから発振されたレーザビーム24,25の光路を構成するガルバノ・ミラー26-28(以後、ミラーという),三角ミラー29,30および集光レンズ31を含む光学系32と、各レーザの発振周波数および出力を制御すると共に光学系のミラー等を駆動制御する加工制御器33とを備えている。」

ウ.段落【0026】
「【0026】ビームエキスパンダ34,35は、各レーザ発振器20,22からのレーザ光の発散角を調整し、1つの集光レンズ31でも安定した集光条件が得られるようにしたものである。また、シャッタ36,37は、加工開始時、各レーザ発振器20,22からのレーザビーム22が安定するまでその光路を遮断するためのものである。」

エ.段落【0027】?【0028】
「【0027】ミラー26は、その反射角に従って第1のレーザビーム24の光路を変え、三角ミラー29を介してミラー28へ導く。ミラー28は、ミラー27により同様に導かれた第2のレーザビーム25と共有され、レーザビーム24,25を1組のビームとしてその光路を集光レンズ31へ入射角α_(1 ),α_(2) で入射させる。各入射角α_(1) ,α_(2) は、1組のレーザビームが冷却ドラムの照射位置38に集束するようように設定される。
【0028】ミラー28はその角度位置を動かす機械的または電気的な駆動部(図示せず)を備えている。ミラー28は、加工制御器33からの制御信号39により角度を振動周期fおよび振動角φで変えることができるので、1組のレーザビーム24,25の反射角をその振動角φの範囲で変位させることができる。これにより各レーザビームが集光レンズ31に入射する入射角α_(1) ,α_(2 )が変わり、冷却ドラムにレーザビームが集束する位置38を冷却ドラムの回転軸方向51に分散させることができる。」

オ.段落【0031】
「【0031】集光レンズ31も同様に、加工制御器33による制御信号42に従ってその焦点距離が制御され、冷却ドラムに集束させるレーザビームの発散角を変えることができる。これにより冷却ドラムの照射面38におけるレーザビームの集束面積が変わりディンプル径寸法を変えることができる。」

カ.段落【0033】
「【0033】このように1組のレーザビームは冷却ドラム表面において、たとえば概同心円上の位置に集束される。そして加工制御器33の発振タイミング制御により、第1のレーザビームが先に照射される。第1のレーザビーム24は、その加工面38を溶融してその粗度を上げ、直ぐその後に照射される第2のレーザビーム25の吸収度を上昇させる。よって、第2のレーザビーム25がその後照射されると、レーザビーム25はその加工効率を上げてディンプルの加工を行うことができる。」

(2)刊行物1記載の発明
まず、上記摘記事項イ.に、「本加工装置は、第1のレーザビーム・・・と、第2のレーザビーム・・・と制御する加工制御器33とを備えている。」とあることから、刊行物1記載の「加工装置」は、マルチレーザー加工装置、ということができる。
また、上記摘記事項オ.に、「集光レンズ31も・・・その焦点距離が制御され、冷却ドラムに集束させるレーザビームの発散角を変えることができる。これにより・・・レーザビームの集束面積が変わり」とあることなどから、「集光レンズ31」は、入射されたそれぞれのレーザビームの発散角を変えて集束させて、冷却ドラム50上に照射するための集光レンズ31と、ということができる。
そして、上記摘記事項カ.に、「そして加工制御器33の発振タイミング制御により、第1のレーザビームが先に照射される。・・・直ぐその後に照射される第2のレーザビーム25の吸収度を上昇させる。」とあることなどから、「加工制御器33」は、第1のレーザビーム24及び第2のレーザビーム25の発振タイミングをそれぞれ制御する、ということができる。

そこで、刊行物1の上記摘記事項ア.ないしカ.を図面を参照しつつ技術常識を踏まえて本願発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。
「第1のレーザビーム24を出射するエキシマレーザ発振器20と、
第2のレーザビーム25を出射するYAGレーザ発振器22と、
前記エキシマレーザ発振器20から出射された第1のレーザビーム24が入射され、入射された第1のレーザビーム24を、加工しようとする冷却ドラム50上の所望の位置に集束させるためのミラー28と、
前記YAGレーザ発振器22から出射された第2のレーザビーム25が入射され、入射された第2のレーザビーム25を、加工しようとする冷却ドラム50上の所望の位置に集束させるための共有されるミラー28と、
第1のレーザビーム24及び第2のレーザビーム25の発振タイミングをそれぞれ制御する加工制御器33と、
前記ミラー28を経由した1組のレーザビーム24,25が入射され、入射されたそれぞれのレーザビームの発散角を変えて集束させて、前記冷却ドラム50上に照射するための集光レンズ31と、
を備えるマルチレーザー加工装置。」(以下、「刊行物1発明」という。)
2.刊行物2
刊行物2には、「レーザ加工装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア.特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
レーザ光源と、
被加工物を載置して移動可能なステージと、
前記レーザ光源から出射したレーザビームを複数に分岐した後、集光して前記被加工物に照射する光学系と、
前記分岐された複数のレーザビームのそれぞれの光路に対して開閉可能なシャッタと、
前記分岐された複数のレーザビームを相互に独立に移動させ、前記レーザビームの照射位置を調整し得るビーム移動手段とを有することを特徴とするレーザ加工装置。」

イ.段落【0022】
「【0022】
そのレーザ加工装置は、図1に示すように、一つのレーザ光源14と、一本のレーザビームを2本に分岐するハーフミラーからなるビームスプリッタ5と、2本のレーザビームのうち一つのレーザビーム(主レーザビームとなる。)とは独立に他のレーザビーム(副レーザビームとなる。)をX方向に走査するXガルバノミラー(ビーム移動手段)7と、同じく一つのレーザビームとは独立に他のレーザビームをY方向に走査するYガルバノミラー(ビーム移動手段)8と、各レーザビームの光路を開閉するシャッタ6と、2本のレーザビームを集光する集光レンズ9と、被加工物である、例えば複数のヒューズ1が形成された半導体基板2を載置して、X、Y方向に移動させるX-Yステージ10とを備えている。」

ウ.段落【0030】?【0032】
「【0030】
以上のように、本発明の第1の実施の形態に係るレーザ加工装置では、レーザ光源からのレーザビームを複数に分岐した後、集光してヒューズ1に照射する光学系を有している。従って、一つのレーザ光源で2つの主及び副レーザビーム12、13を照射し得る。装置を簡略化できるとともに、2以上のヒューズ1を同時に加工することが可能である。これにより、加工効率の向上を図ることができる。
【0031】
また、分岐された2つの主及び副レーザビーム12、13のうち、少なくとも1つのレーザビーム12又は13の照射位置をそれぞれ独立に調整し得るビーム移動手段7、8を有している。従って、多数並ぶヒューズ1のピッチの変化に対しても、少なくとも1以上のレーザビーム12、13の照射位置を変えることにより、同時加工するヒューズ1相互への照射位置を正確に合わせることができる。このため、最小スポット径を小さく保ち、かつスポット品質を落とすことなく、複数のヒューズ1の配列方向と間隔に合わせて2以上のヒューズ1を同時に加工することが可能となる。
【0032】
さらに、分岐された2つの主及び副レーザビームのそれぞれの光路に対して開閉が可能なシャッタ6を備えているため、2以上のヒューズ1を同時に選び、かつ対象となる2以上のヒューズ1のうちから加工すべきヒューズ1を選択して加工することが可能となる。」

エ.段落【0047】
「【0047】
さらに、分岐された2つのレーザビームのそれぞれの光路に対して開閉が可能なシャッタ6を備えているため、隣接する2つのヒューズ1を同時に選び、かつ対象となる2つのヒューズのうちから加工すべきヒューズを選択して加工し、或いはともに加工しないようにすることが可能となる。」

上記摘記事項イ.の「2本のレーザビームのうち一つのレーザビーム・・・とは独立に他のレーザビーム(副レーザビームとなる。)をX方向に走査するXガルバノミラー(ビーム移動手段)7と、同じく・・・他のレーザビームをY方向に走査するYガルバノミラー(ビーム移動手段)8と・・・を備えている」なる記載などから、刊行物2には、レーザ光源14から出射されたレーザビームが入射され、入射されたレーザビームを、加工しようとする半導体基板2の所望の位置に走査させるための一対のビーム移動手段7、8を備えることが開示されていると認められる。
また、上記摘記事項ウ.の「【0032】・・・分岐された2つの主及び副レーザビームのそれぞれの光路に対して開閉が可能なシャッタ6を備えている」なる記載、上記摘記事項エ.「分岐された2つのレーザビームのそれぞれの光路に対して開閉が可能なシャッタ6を備えているため、隣接する2つのヒューズ1を・・を選択して加工し」なる記載、及び図1の記載から、レーザ光源14から分岐した主レーザビーム上、及び副レーザビーム上のレーザ光源14と一対のビーム移動手段7、8との間のそれぞれに設置されたシャッタ6であって、前記シャッタ6は、入射されるレーザビームそれぞれの光路に対して開閉が可能、ということができる。

上記摘記事項ア.ないしエ.を図面を参照しつつ、技術常識を踏まえ整理すると、刊行物2には以下の事項が記載されていると認める。
「レーザビームを出射するレーザ光源14と、
前記レーザ光源14から出射されたレーザビームが入射され、入射されたレーザビームを、加工しようとする半導体基板2の所望の位置に走査させるための一対のビーム移動手段7、8と、
前記レーザ光源14から分岐した主レーザビーム上、及び副レーザビーム上の前記レーザ光源14と前記一対のビーム移動手段7、8との間のそれぞれに設置されたシャッタ6であって、前記シャッタ6は、入射されるレーザビームそれぞれの光路に対して開閉が可能なシャッタ6と、
前記主レーザビーム、及び一対のビーム移動手段7、8を経由した副レーザビームが入射され、入射されたそれぞれのレーザビームを集光して前記半導体基板2上に照射するための集光レンズ9と、
前記レーザ光源14と前記一対のビーム移動手段7、8との間の前記シャッタ6の入射側に配されるものであって、前記レーザビームが入射され、入射されたレーザビームを二つのレーザビームに分岐させて、二つの経路に沿って進めるビームスプリッタ5と、をさらに備えるレーザ加工装置。」(以下、「刊行物2事項」という。)

3.刊行物3
(1)刊行物3記載の事項
刊行物3には、「レーザ加工装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

ア.段落【0014】
「【0014】偏光板13は、P波をそのまま透過させ、S波を反射する。偏光板13を透過したP波は、光軸20に沿って伝搬するパルスレーザビームpl_(1)となる。偏光板13で反射したS波は、他の光軸30に沿って伝搬するパルスレーザビームpl_(2)となる。光軸20に沿って伝搬するパルスレーザビームpl_(1)は、折返しミラー21で反射され、第1の走査装置17に入射する。他の光軸30に沿って伝搬するパルスレーザビームpl_(2)は、第2の走査装置35に入射する。」

イ.段落【0015】
「【0015】第1の走査装置25は、X用ガルバノミラー25XとY用ガルバノミラー25Yとを含んで構成される。2つのガルバノミラー25X及び25Yを回転移動させることにより、入射したレーザビームを2次元方向に走査することができる。ガルバノミラーの回転移動動作を走査動作と呼ぶこととする。ガルバノミラー25X及び25Yは、制御装置40から入力される制御信号sig_(1)により制御される。第2の走査装置35は、Y用ガルバノミラー35XとY用ガルバノミラー35Yとを含んで構成され、入射したレーザビームを2次元方向に走査する。ガルバノミラー35X及び35Yは、制御装置40から入力される制御信号sig_(2)により制御される。」

上記摘記事項イ.における、「ガルバノミラー25X及び25Y」及び「ガルバノミラー35X及び35Y」は、その機能からして、スキャナ対、ということができる。そして、上記摘記事項ア.及びイ.を図面(特に図1)を参照しつつ、技術常識を踏まえ整理すると、刊行物3には以下の事項が記載されていると認める。
「レーザ加工装置において、分割された二つのレーザビームのそれぞれに対応する二つのスキャナ対を備えること。」(以下、「刊行物3事項」という。)

(2)周知事項A
上記刊行物3事項のような技術的事項は、刊行物3のみならず、例えば、上記刊行物2に「分岐された2つの主及び副レーザビーム12、13のうち、少なくとも1つのレーザビーム12又は13の照射位置をそれぞれ独立に調整し得るビーム移動手段7、8を有している。」(上記摘記事項2.ウ.)と記載されているように従来周知の事項ともいえる。これを下記のように「周知事項A」という。
周知事項A:「レーザ加工装置において、分割された二つのレーザビームのそれぞれに対応する二つのスキャナ対を備えること。」

4.刊行物4
(1)刊行物4記載の事項
刊行物4には、「レーザ加工装置」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
ア.段落【0018】
「【0018】図1に示した本発明の実施の形態に係る半導体製造装置であるレーザ加工装置は、・・・(中略)・・・半導体ウェーハの加工点に対してレーザ加工を行うための第1,第2のレーザビームをそれぞれ発生する第1,第2のレーザ発生源5,6と、第1,第2のレーザビームをそれぞれ反射して半導体ウェーハ7の第1,第2の加工点に照射する第1,第2の可動ミラー16,17と、第1,第2の可動ミラー16,17に反射された第1,第2のレーザビームを遮断する第1,第2のレーザビーム遮断シャッタ18,19と、・・・(中略)・・・加工データ最適化部15により最適化された最適化済加工データに基づき第1,第2のレーザ発生源5,6及び第1,第2の可動ミラー16,17,第1,第2のレーザビーム遮断シャッタ18,19を制御するレーザ出力制御部13とから構成されている。」

イ.段落【0019】
「【0019】XYステージ4とレーザ発生源5とを同期して連動させるために、XYステージ制御部12とレーザ出力制御部13とは相互に接続され同期させられている。第1のレーザ発生源5と第2のレーザ発生源6,第1の可動ミラー16と第2の可動ミラー17,第1のレーザビーム遮断シャッタ18と第2のレーザビーム遮断シャッタ19は、それぞれ相互に独立に動作するように制御することができる。第1,第2のレーザ発生源5,6から第1,第2の可動ミラー16,17によりそれぞれ反射されて半導体ウェーハ7に照射されるレーザビームの2つの照射点(加工点)の間隔31は、第1,第2の可動ミラー16,17の動作により任意に変更することができる。」

ウ.段落【0024】?【0025】
「【0024】各ダイ領域を各加工範囲に組み合わせた後、各加工範囲ごとにレーザ加工を行う。1つの加工範囲に組み合わされたダイ領域であっても、通常、その加工内容は相互に異なるので、入力された加工データに応じて2組のレーザ発生源5,6及び可動ミラー16,17,レーザビーム遮断シャッタ18,19の動作をそれぞれ独立に制御してレーザ加工を行う。
【0025】例えば、加工範囲27においては、加工点を含む2つのダイ領域20,21が含まれているので、第1,第2のレーザビーム遮断シャッタ18,19はいずれも開状態となり、・・・(中略)・・・一方、加工範囲30においては、加工点を含むダイ領域としてはダイ領域30のみが含まれているので、第1のレーザビーム遮断シャッタ18は開状態、第2のレーザビーム遮断シャッタ19は閉状態となり、・・・(後略)。」

上記摘記事項ア.ないしウ.を図面(特に図1)を参照しつつ、技術常識を踏まえ第1,第2のレーザビーム遮断シャッタに着目して整理すると、刊行物4には以下の事項が記載されていると認める。
「二つのレーザビームのそれぞれに、相互に独立して作動し、開状態と閉状態とを選択可能なレーザビーム遮断シャッタを備えること。」(以下、「刊行物4事項」という。)

(2)周知事項B
上記刊行物4事項のような技術的事項は、刊行物4のみならず、例えば、特開平2-119128号公報(「シャッタ3」)を参照。)に記載されているように従来周知の技術の事項ともいえる。これを下記のように「周知事項B」という。
周知事項B:「二つのレーザビームのそれぞれに、相互に独立して作動し、開状態と閉状態とを選択可能なレーザビーム遮断シャッタを備えること。」

第4.対比
本願発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
まず、刊行物1発明の「第1のレーザビーム24」が本願発明の「第1レーザビーム」に相当することは、技術常識に照らして明らかであり、以下同様に、「エキシマレーザ発振器20」は「第1レーザ発振器」に、「第2のレーザビーム25」は「第2レーザビーム」に、「YAGレーザ発振器22」は「第2レーザ発振器」に、「所望の位置に集束させる」は「所望の位置に偏向させる」に、「発散角を変えて集束させて」は「所定直径のスポットに集束させて」に、「集光レンズ31」は「スキャンレンズ」に、「マルチレーザー加工装置」は「マルチレーザシステム」にそれぞれ相当することも明らかである。

次に、刊行物1発明の「冷却ドラム50」と本願発明の「基板」とは、いずれも、被加工物、である限りにおいて共通する。
また、刊行物1発明の「ミラー28」と本願発明の「第1スキャナ対」及び「第2スキャナ対」とはいずれも、レーザビーム偏向手段、である限りにおいて共通する。
また、刊行物1発明の「第1のレーザビーム24及び第2のレーザビーム25の発振タイミングをそれぞれ制御する加工制御器33と」と
本願発明の「第1レーザ発振器と前記第1スキャナ対との間及び前記第2レーザ発振器と前記第2スキャナ対との間のそれぞれに設置され」「レーザビームが前記ビーム遮断部またはビーム透過部のうち何れか一つに選択的に入射されるように、前記ビーム遮断部またはビーム透過部の位置を変更させるための移送手段とを備えたシャトルユニット」とは、
第1レーザビームと第2レーザビームを独立して制御する手段、である限りにおいて共通する。
さらに、刊行物1発明の「ミラー2を経由した1組の第1レーザビーム,第2レーザビームが入射され」ることと本願発明の「第1及び第2スキャナ対を経由したレーザビームが入射され」ることとは、レーザビーム偏向手段を経由したレーザビームが入射されること、である限りにおいて共通する。

したがって、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「第1レーザビームを出射する第1レーザ発振器と、
第2レーザビームを出射する第2レーザ発振器と、
前記第1レーザ発振器から出射された第1レーザビームが入射され、入射された第1レーザビームを、加工しようとする被加工物上の所望の位置に偏向させるためのレーザビーム偏向手段と、
前記第2レーザ発振器から出射された第2レーザビームが入射され、入射された第2レーザビームを、加工しようとする被加工物上の所望の位置に偏向させるためのレーザビーム偏向手段と、
第1レーザビームと第2レーザビームを独立して制御する手段と、
前記レーザビーム偏向手段を経由したレーザビームが入射され、入射されたそれぞれのレーザビームを所定直径のスポットに集束させて、前記被加工物上に照射するためのスキャンレンズと、
を備えるマルチレーザシステム。」

そして、本願発明と刊行物1発明とは、以下の4点で相違している。
1.<相違点1>
第1レーザビームと第2レーザビームを独立して制御する手段として、本願発明は、第1レーザ発振器と第1スキャナ対との間及び第2レーザ発振器と第2スキャナ対との間のそれぞれに設置されたシャトルユニットとであって、シャトルユニットは、入射されるレーザビームの全部を遮断するビーム遮断部と、入射されるレーザビームの全部を透過させるビーム透過部と、レーザビームが前記ビーム遮断部またはビーム透過部のうち何れか一つに選択的に入射されるように、ビーム遮断部またはビーム透過部の位置を変更させるための移送手段とを備えたシャトルユニットであるのに対し、
刊行物1発明は、第1のレーザビーム24及び第2のレーザビーム25の発振タイミングをそれぞれ制御する加工制御器33である点。

2.<相違点2>
本願発明は、第1レーザ発振器と第1スキャナ対との間のシャトルユニットの入射側に配されるものであって、第1レーザビームが入射され、入射された第1レーザビームを二つの第1レーザビームに分割して、二つの第1経路に沿って進める第1分割手段と、
第2レーザ発振器と第2スキャナ対との間のシャトルユニットの入射側に配されるものであって、第2レーザビームが入射され、入射された第2レーザビームを二つの第2レーザビームに分割して、二つの第2経路に沿って進める第2分割手段を備えるのに対し、
刊行物1発明は、そのような分割手段を備えていない点。

3.<相違点3>
レーザビーム偏向手段に関し、本願発明は、第1レーザビーム上の第1スキャナ対と、第2レーザビーム上の第2スキャナ対とを備え、さらに、第1スキャナ対は、二つの第1経路を経由した分割された二つの第1レーザビームのそれぞれに対応する二つのスキャナ対を備え、第2スキャナ対は、二つの第2経路を経由した分割された二つの第2レーザビームのそれぞれに対応する二つのスキャナ対を備え、それらを経由してレーザビームがスキャンレンズに入射されるのに対し、
刊行物1発明は、第1のレーザビーム24のためのレーザビーム偏向手段と第2のレーザビーム25のためのレーザビーム偏向手段とを、ミラー28で共有している点。

4.<相違点4>
本願発明は、基板を被加工物とするのに対し、刊行物1発明は、冷却ドラム50を被加工物とする点。

第5.相違点の検討
1.<相違点1>について
上記第3.2.にて指摘したように、刊行物2事項は、
「レーザビームを出射するレーザ光源14と、
前記レーザ光源14から出射されたレーザビームが入射され、入射されたレーザビームを、加工しようとする半導体基板2の所望の位置に走査させるための一対のビーム移動手段7、8と、
前記レーザ光源14から分岐した主レーザビーム上、及び副レーザビーム上の前記レーザ光源14と前記一対のビーム移動手段7、8との間のそれぞれに設置されたシャッタ6であって、前記シャッタ6は、入射されるレーザビームそれぞれの光路に対して開閉が可能なシャッタ6と、
前記主レーザビーム、及び一対のビーム移動手段7、8を経由した副レーザビームが入射され、入射されたそれぞれのレーザビームを集光して前記半導体基板2上に照射するための集光レンズ9と、
前記レーザ光源14と前記一対のビーム移動手段7、8との間の前記シャッタ6の入射側に配されるものであって、前記レーザビームが入射され、入射されたレーザビームを二つのレーザビームに分岐させて、二つの経路に沿って進めるビームスプリッタ5と、をさらに備えるレーザ加工装置。」であるところ、
これを本願発明の用語に倣って表現すれば、刊行物2事項の「半導体基板2」は本願発明の「基板」に相当し、以下同様に、「走査させる」は「偏向させる」に、「分岐」は「分割」に、「集光レンズ9」は「スキャンレンズ」に相当する。
また、刊行物2事項の「レーザビーム」と本願発明の「第1レーザビーム」及び「第2レーザビーム」とは、レーザビーム、である限りにおいて共通する。
そして同様に、
刊行物2事項の「レーザ光源14」と本願発明の「第1レーザ発振器」及び「第2レーザ発振器」とは、レーザ発振器、である限りにおいて共通し、
刊行物2事項の「一対のビーム移動手段7、8」と本願発明の「第1スキャナ対」及び「第2スキャナ対」とは、スキャナ対、である限りにおいて共通し、
刊行物2事項の「シャッタ6」と本願発明の「シャトルユニット」とは、開閉手段、である限りにおいて共通し、
刊行物2事項の「ビームスプリッタ5」と本願発明の「第1分割手段」及び「第2分割手段」とは、分割手段、である限りにおいて共通し、
刊行物2事項の「レーザ加工装置」と本願発明の「マルチレーザシステム」とは、レーザシステム、である限りにおいて共通する。

したがって、刊行物2事項は、
「レーザビームを出射するレーザ発振器と、
前記レーザ発振器から出射されたレーザビームが入射され、入射されたレーザビームを、加工しようとする基板の所望の位置に偏向させるためのスキャナ対と、
前記レーザ発振器から分岐した主レーザビーム上、及び副レーザビーム上の前記レーザ発振器と前記スキャナ対との間のそれぞれに設置された開閉手段であって、前記開閉手段は、入射されるレーザビームそれぞれの光路に対して開閉が可能な開閉手段と、
前記主レーザビーム、及びスキャナ対を経由した副レーザビームが入射され、入射されたそれぞれのレーザビームを集光して前記基板上に照射するためのスキャンレンズと、
前記レーザ発振器と前記スキャナ対との間の前記開閉手段の入射側に配されるものであって、前記レーザビームが入射され、入射されたレーザビームを二つのレーザビームに分岐させて、二つの経路に沿って進める分割手段と、をさらに備えるレーザシステム。」、
と言い換えることができる。

ここで、刊行物1発明と刊行物2事項は、いずれも、レーザビーム偏向手段を有するレーザ加工装置である点で共通しており、刊行物1発明に刊行物2事項を適用することを試みることは当業者にとって容易である。

ア.そしてまず、相違点1のうち、第1レーザビームと第2レーザビームを独立して制御する手段として、本願発明が、(第1及び第2)レーザ発振器と(第1及び第2)スキャナ対との間に設置されたシャトルユニット(すなわち開閉手段)とである点については、刊行物1発明の発振タイミングをそれぞれ制御する加工制御器に換え、刊行物2事項における、レーザ発振器から分岐した主レーザビーム上、及び副レーザビーム上の前記レーザ発振器と前記スキャナ対との間のそれぞれに設置された開閉手段であって、前記開閉手段は、入射されるレーザビームそれぞれの光路に対して開閉が可能な開閉手段、を適用することによって、想到容易である。

イ.次に、相違点1のうち、その余の、シャトルユニットは、入射されるレーザビームの全部を遮断するビーム遮断部と、入射されるレーザビームの全部を透過させるビーム透過部と、レーザビームが前記ビーム遮断部またはビーム透過部のうち何れか一つに選択的に入射されるように、ビーム遮断部またはビーム透過部の位置を変更させるための移送手段とを備えたシャトルユニットである点について検討する。
上記第3.4.(2)にて指摘したように、周知事項Bは「二つのレーザビームのそれぞれに、相互に独立して作動し、開状態と閉状態とを選択可能なレーザビーム遮断シャッタを備えること。」であるところ、かかる周知事項Bを(刊行物2事項に加え)さらに刊行物1発明に適用して、上記ア.で検討した2つの「開閉手段」を相互に独立して作動し、開状態と閉状態とを選択可能とすることは、格別困難ではない。そして、開状態と閉状態とを選択可能とする機構としては、各種のものが想定されるところ、相違点1に係る本願発明のような「ビーム遮断部またはビーム透過部の位置を変更させるための移送手段とを備えたシャトルユニット」のような機構は、一般に開状態と閉状態とを選択可能とする機構としてごく一般的なものに過ぎない。

ウ.これらを併せ考えると、刊行物1発明に、刊行物2事項及び周知事項Bを適用し、相違点1に係る発明特定事項を本願発明のものとすることは、当業者が容易に想到し得るところ、といえる。

2.<相違点2>及び<相違点3>について
ア.まず、相違点2について検討する。
刊行物2事項の本願発明の用語に倣っての表現、及び刊行物1発明への適用容易性については、上記「1.<相違点1>について」で検討したとおりである。
刊行物2事項は、レーザ発振器とスキャナ対との間の前記開閉手段の入射側に配されるものであって、レーザビームが入射され、入射されたレーザビームを二つのレーザビームに分岐させて、二つの経路に沿って進める分割手段を備えるものであるところ、該事項を刊行物1発明に適用するに際しては、刊行物1発明の第1のレーザビーム24及び第2のレーザビーム25の双方に分割手段を設けるのが自然であり、その場合、分割されたそれぞれのレーザビームはいずれも二つの経路に沿って進むこととなる。
よって、刊行物1発明に刊行物2事項を適用して、相違点2に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るころである。

イ.次に、相違点3について検討するに、相違点3のうち、本願発明が、第1レーザビーム上の第1スキャナ対と、第2レーザビーム上の第2スキャナ対とを(共有することなく)備える点については、まず、刊行物1発明は、第1レーザビーム24のためのレーザビーム偏向手段と第2レーザビーム24のためのレーザビーム偏向手段を共有するものであるところ、これを共有とせず、各レーザビーム毎に偏向手段を設けることは、格別困難ではない。
そして、偏向手段としてスキャナ対を採用することに関しては、刊行物2事項は、副レーザビーム上にスキャナ対を備えるものであるし、また、上記第3.3.(2)にて指摘した「レーザ加工装置において、レーザ加工装置において、分割された二つのレーザビームのそれぞれに対応する二つのスキャナ対を備えること。」なる周知事項Aを適用することによって、想到容易である。

ウ.相違点3のうち、その余の、本願発明が、第1スキャナ対は、二つの第1経路を経由した分割された二つの第1レーザビームのそれぞれに対応する二つのスキャナ対を備え、第2スキャナ対は、二つの第2経路を経由した分割された二つの第2レーザビームのそれぞれに対応する二つのスキャナ対を備え、それらを経由してレーザビームがスキャンレンズに入射される点について検討する。
上記のア.(相違点2)において検討したように、刊行物1発明において、第1のレーザビーム24及び第2のレーザビーム25の双方に分割手段を設けることは想到容易であるところ、そうした上で、上記イ.で検討した双方のレーザービーム(24,25)にそれぞれスキャナ対を設けようとした場合、スキャナ対はスキャンレンズの入射直前の区域に設けることが適切であることは明らかであるから、第1レーザビーム及び第2のレーザビームいずれも、分割された(後の)二つのレーザビームに対応してそれぞれスキャナ対を配置することは、ごく自然である。

エ.そうしてみると、刊行物1発明に、刊行物2事項及び周知事項Aを適用して、相違点3に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るころである。

3.<相違点4>について
レーザ加工装置において、基板を被加工物とすることは、刊行物2事項が備えているように、従来周知の事項に過ぎない。

4.本願発明の効果について
上記相違点1ないし相違点4を総合勘案しても、刊行物1発明、刊行物2事項及び上記従来周知の事項から当業者であれば予測できない格別な効果が生じるとは考えられない。

5.したがって、本願発明は、刊行物1発明、刊行物2事項及び上記従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明、刊行物2事項及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その余の請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-07 
結審通知日 2012-09-10 
審決日 2012-09-21 
出願番号 特願2008-97563(P2008-97563)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 齊藤 公志郎松本 公一  
特許庁審判長 豊原 邦雄
特許庁審判官 長屋 陽二郎
藤井 眞吾
発明の名称 マルチレーザシステム  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  
代理人 田中 秀佳  

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