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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F
管理番号 1269390
審判番号 不服2009-17042  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-09-14 
確定日 2013-01-30 
事件の表示 特願2002-584345「三相変圧器用アモルファス金属製三脚磁心」拒絶査定不服審判事件〔平成14年10月31日国際公開、WO02/86921、平成16年 9月24日国内公表、特表2004-529498〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1. 手続の経緯
本件は,平成14年4月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2001年4月25日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成19年11月12日付けの最後の拒絶理由通知に対して,平成20年5月14日に手続補正書及び意見書が提出されたが,平成21年5月8日付けで,平成20年5月14日に提出された手続補正書による手続補正が却下されるとともに拒絶査定がされ,これに対して平成21年9月14日に審判請求がされるとともに,同日に手続補正書が提出されたものである。その後,当審において平成24年1月18日付けで拒絶理由が通知され,これに対して,同年7月13日に手続補正書及び意見書が提出されたものである。

2. 本願発明について
(1) 本願発明
本願発明は,平成24年7月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであり,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定される以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
アモルファス金属製三脚変圧器磁心(70)において,
第1及び第2の内側磁心部分(80,90)と,
前記第1及び第2内側磁心部分(80,90)を内部に入れて,磁心部分(72,80,90)を形成する1つの外側磁心部分(72)を備えており,
前記第1及び第2内側磁心部分(80,90)と,前記外側磁心部分(72)とにおいて,磁心部分のそれぞれが,単独の嵌込み結合部(88,98,78)を含んでおり,
第1組の巻線(85)及び第2組の巻線(87)が,同一の連続ループ状ワイヤの一部分であり,該連続ループ状ワイヤの一部分の各端部がDC電源(81)の陽極および陰極に取り付けられ,前記第1組の巻線(85)が前記第1内側磁心(80)及び前記外側磁心(72)の一部分の周りに形成され,且つ前記第2組の巻線(87)が前記第2内側磁心(90)及び前記外側磁心(72)の他の一部分の周りに形成されており,
前記第1組及び第2組の巻線(85,87)の数が等しいことにより,焼鈍作業中に前記磁心に適用されうる磁界に影響を及ぼして,前記磁界が,焼鈍作業中に,前記内側及び外側磁心(80,90,72)の両方に対して適用される均等な磁界を保証する,アモルファス金属製三脚変圧器磁心(70)。」

(2)刊行物に記載された発明
ア 特開平6-231986号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平6-231986号公報(以下「引用例1」という。)には,図1?図12とともに次の記載がある。(下線は当合議体において付加。以下同様。)

・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,非晶質磁性合金薄帯を使用した1ターンカット方式の三相巻鉄心変圧器の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年,配電用変圧器等の静止誘導電気機器に用いる巻鉄心には,鉄心材料として非晶質磁性合金薄帯(以下,単に磁性薄帯という。)を用いることが種々検討されている。この磁性薄帯は磁性合金の熔融体を超急冷して固体化することにより製造していたので,鉄損が非常に小さく優れた磁気特性を備えている反面,前記磁性薄帯は製造上の理由からその厚さが20?50μで,けい素鋼帯の厚さに比べて1/10と極端に薄く,又,歪取り焼鈍後は脆弱化しているため,取扱い時に破損するおそれがある。」

・「【0009】本発明は,前記種々の問題に鑑み,磁性薄帯を巻回してなる三相巻鉄心の内側巻鉄心と外側巻鉄心とを同時に整形加工し,かつ,焼鈍処理を行い,しかも,磁性薄帯の剛性を強化して欠損等により破片が生じるのを確実に阻止して,鉄心特性及び生産性の向上をはかるようにした三相巻鉄心変圧器の改良された製造方法を提供することを目的とする。」

・「【0014】
【実施例】以下,本発明の実施例を図1ないし12よって説明する。図1ないし4において,非晶質磁性合金薄帯11を巻枠12に所定回数円形状に巻取って巻層体13を形成する。つづいて,図2で示すように,前記巻層体13から巻枠12を取出し,この巻層体13の周囲の一部を締付部材14,14aと,ボルト14bとからなる挟圧装置15にて一定の間隔を空けて締着・固定し,この状態で,図示しない切断装置により,前記締付部材14,14aの間に位置する巻層体13を,その径方向に図2で示す切断線16に沿って切断する。次に,前記2分割した締付部材14,14aの一方を巻層体13から取外し,図3のように,切断された巻層体13を直線状に展開し,その最上及び下層には,巻層体13と同幅な金属板,例えば,けい素鋼帯を配置して展開積層体17を形成する。前記展開積層体17の締付部材14にて拘束される一方の切断面は,前記展開積層体17の長さ方向に対して直角となっており,又,自由端となっている他方の切断面は,展開積層体17の長さ方向に対して傾斜しており,これによって長さが順次大きくなる多数枚の非晶質磁性合金薄帯(以下,単に磁性薄帯という。)11を直線状に積層した状態となす。そして,前記図3に示す直線状の状態から例えば,図4で示すように,磁性薄帯11を複数組に分割した状態でそれぞれ1枚,あるいは,複数枚毎に所定寸法で長さ方向に順次ずらし,これにより,多数の磁性薄帯11が積層され,かつ,両端を階段状にずらした積層ブロック18を形成する。なお,前記積層ブロック18は成形加工すべき巻鉄心を所定厚み毎に径方向に複数段に分割した単位積層ブロック18a,18b,18cを構成する。この単位積層ブロック18a?18cは3ブロックに限定されることなく,必要に応じたブロック数で形成されることは云うまでもない。
【0015】次に,前記積層ブロック18において,三相巻鉄心の内側巻鉄心となる巻鉄心素体を形成する場合は,図5,6で示すように,前記内側巻鉄心の長さ寸法を備えた積層ブロック18を,図示しない円形な巻枠部材を用いてリング状に加工し,その最外周に配置した図示しないけい素鋼帯を粘着テープ等を用いて止着することにより,円形な巻鉄心素体19,19aを形成する。この際,積層ブロック18の長さ方向の両端は前記円形加工を行うことにより,互いに接合して図5で示すように,階段状の接合部aが形成される。又,三相巻鉄心の外側巻鉄心となる巻鉄心素体20を形成する場合は,前記積層ブロック18を外側巻鉄心の長さ寸法で形成し,この外側巻鉄心用の積層ブロックを図5で示すように,長円形状に加工し,その最外周に配置した図示しないけい素鋼帯を粘着テープ等により止着して外側巻鉄心素体20を形成する。この巻鉄心素体20においても,階段状の接合部bが形成されることは云うまでもない。
【0016】前記のようにして,三相巻鉄心の内,外両巻鉄心を構成するための巻鉄心素体19,19a,20を形成した後,つづいて,図5に示すように,長円形の巻鉄心素体20内に円形な巻鉄心素体19を挿入し,これら巻鉄心素体19,20を三相巻鉄心の脚鉄部となる部位(1ヶ所)で,締付板21と締付ボルト22とからなる締付部材23を用いて一体的に仮固定することにより,図5のように,内,外両巻鉄心素体19,20を良好に接触させることができる。この場合,巻鉄心素体19,20の素材となる磁性薄帯は,極めて薄く,しかも,靭性に富んでいるので,焼鈍前においては任意の形状に変形させることが可能となる。従って,前記のように,外側の巻鉄心素体20に内側の巻鉄心素体19を1個挿入した状態で,更に,もう一方の内側の巻鉄心素体19aを挿入するときは,図6で示すように,既に挿入されている巻鉄心素体19をだ円形に変形させて巻鉄心素体20内の空間を拡げた状態でもう一方の内側の巻鉄心素体19aを挿入し,この巻鉄心素体19aと外側の巻鉄心素体20とを締付部材23を用いて前記巻鉄心素体19と同様に仮固定すると,図6のように,巻鉄心素体20の内側コーナー部において,内側の巻鉄心素体19,19aはそれぞれ良好に接触して三相巻鉄心の原形を形成する。なお,内側巻鉄心19,19aと外側巻鉄心20は締付部材23を用いる代わりに,しゃこ万力を用いて仮固定するようにしてもよい。
【0017】前記のようにして三相巻鉄心の原形を形成したら,図7で示すように,内側の巻鉄心素体19,19aに巻鉄心の継鉄部に相当する位置において,1対の成形金型24,24を,この成形金型24,24に凹設した凹溝25を互いに相対向させて挿入配置し,この状態で,前記成形金型24,24の凹溝25,25間に,テーパー状の整形板26を挿入してこれを油圧プレス等により押圧して前記整形金具24,24間に圧入する。前記整形板26の圧入と同時に,外側巻鉄心素体20の外側に押圧板27を当接し,これを図7で示すように,前後左右方向からプレス等にて押圧することにより,前記内,外両巻鉄心素体19,19a,20を,その内,外両方向から矩形状に押圧・付勢させて外側及び内側の各巻鉄心28a?28cからなる三相巻鉄心28を形成する。前記矩形状に整形された三相巻鉄心28は,図8で示すように,矩形整形枠体29に嵌挿させることにより,押圧板27の押圧を解除しても,成形金型24,24と該成形金型24,24間に挿入した整形板26及び前記矩形整形枠体29とによって良好に矩形保持することができる。
【0018】次に,前記のようにして矩形整形した三相巻鉄心28の外側脚鉄部U,Wに,図8で示すように,耐熱性の電線を互いに逆方向に所定回数巻装して磁場印加用第1,第2の励磁コイル30,31を設ける。これらコイル30,31は電流開閉器S_(1) ,S_(2) を介して直流電源装置32に接続し,直流電流を通電したとき鉄心中に発生する磁束の流れる方向が,互いに逆方向となるように形成されている。そして,前記励磁コイル30,31の巻回数については,通常任意とするものの,一般に,磁性薄帯11の磁場中焼鈍には,800?1,200A/mが適しており,印加する励磁電流との関係から選択すればよい。例えば,今,800A/mの磁化の大きさを必要とする場合,鉄心の磁路長を0.5mとし,直流電源装置32からの出力電流が80Aと設定した場合,800/80×0.5=5となる。この結果,三相巻鉄心28の外側脚鉄部U,Wには耐熱電線を5巻回することにより,励磁コイル30,31を設けることができるので,励磁コイル30,31を迅速・容易に製作することが可能となる。なお,出力電流が80Aより大きい直流電源装置を用いることができれば,更に,巻回数を少なくすることが可能となる。
【0019】つづいて,励磁コイル30,31の巻回後三相巻鉄心28を不活性ガスが充満する図示しない焼鈍炉に入れ,約350?400℃の温度で約2時間焼鈍を行う。そして,前記加熱焼鈍時における磁場中焼鈍は,三相巻鉄心28の加熱開始と同時に行う。即ち,最初に電流開閉器S_(1) を閉じて第1の励磁コイル30のみに直流電流を通電すると,三相巻鉄心28には図9の(a)のように,1対の外側脚鉄部U,Wのうち,U相となる外側脚鉄部Uと内側巻鉄心28cとを最大励磁するようにして磁束が流れる。前記第1の励磁コイル30に一定時間通電させたあと,電流開閉器S_(1) を開放し,つづいて,もう一方の電流開閉器S_(2) を閉じて第2の励磁コイル31にのみ通電を行うと,このコイル31は前記U相に巻回した第1の励磁コイル30と逆方向に巻回されているため,三相巻鉄心28には図9の(b)のように,外側脚鉄部U,Wのうち,W相となる外側脚鉄部Wと内側巻鉄心28bとを最大励磁するようにして磁束が流れる。このように,第1の励磁コイル30と第2の励磁コイル31とに一定時間毎に交互に,かつ,連続的に通電を行うことにより,三相巻鉄心28の各脚鉄部U,V,Wに流れる磁束を均等化させて良好に磁場中焼鈍を行うことが可能となる。
【0020】三相巻鉄心28の磁場中焼鈍は以上説明したように,外側脚鉄部U,Wを個別に集中して2回行うことにより,これを1サイクルとなし,又,外側脚鉄部U,Wにおける第1,第2の励磁コイル30,31の1回当りの通電時間(最大励磁時間)を10分以内に設定し,これを焼鈍終了までの所定時間内において連続して繰り返すことにより焼鈍を終了するものである。」

・「【0022】三相巻鉄心28に接着剤層33を設けたあと,前記三相巻鉄心28の外側及び内側の各巻鉄心28a?28cの最外周に配置したけい素鋼帯の止着を一旦解き,接合部a,bを有する前記各巻鉄心28a?28cの継鉄部Xを,それぞれ接合部a,bの位置で開放し,図10で示すように,三相巻鉄心28をW字状に拡開する。前記W字状に拡開した三相巻鉄心28は,開放された継鉄部Xを,図10のように巻線34の鉄心挿入孔35と相対向させ,この状態で,拡開された継鉄部X側から三相巻鉄心28を前記巻線34の鉄心挿入孔35に嵌め込む。この場合,三相巻鉄心28は継鉄部Xを除く積層端面が接着剤層33により剛性強化が図られているため,自重変形を起したり,三相巻鉄心28自体の素材である磁性薄帯11が巻線34と衝接した際の損傷により破片が外部に飛散するということもなく,図11で示すように,三相巻鉄心28の各脚鉄部U,V,Wを対応する巻線34に円滑に,しかも,一動作で嵌め込むことができる。
【0023】前記のように,W字状に拡開した三相巻鉄心28を巻線34の鉄心挿入孔35に挿入したあと,内側及び外側の両巻鉄心28a?28cの各拡開した継鉄部Xを開放前の状態(内側)に折り曲げて接合部a,bを図11で示すように,再接合する。そして,前記再接合を行った継鉄部Xは,図12で示すように,内,外両巻鉄心28a?28cの最外周に配置したけい素鋼帯を止着して接合部a,bの解離防止を行ったあと,前記継鉄部Xの積層端面(継鉄部Yに接着剤を事前に塗布していないときも含む)を,他の部位と同様に接着剤を塗布して第2の接着剤層33aを形成することにより,三相巻鉄心28の組立を終了するものである。なお,前記三相巻鉄心28の組立後,巻線34と三相巻鉄心28との間の隙間にスペーサや楔等を用いて三相巻鉄心28が揺動することによって損傷するのを防ぐ手段を講ずることによって最終的に三相巻鉄心28の組立を完了し,図12で示す三相巻鉄心変圧器36を製作する。」

ここで,上記段落【0014】?【0018】の記載とともに図8を参照すると,非晶質磁性合金薄帯を使用した三相巻鉄心が,外側巻鉄心28a並びに該外側巻鉄心28aの内側に入れられた第1の内側巻鉄心28b及び第2の内側巻鉄心28cを有するとともに,該三相巻鉄心を磁場中焼鈍するに際しては,第1の励磁コイル30が前記第2の内側巻鉄心28cと前記外側巻鉄心28aとからなる外側脚鉄部Uに設けられ,第2の励磁コイル31が前記第1の内側巻鉄心28bと前記外側巻鉄心28aとからなる外側脚鉄部Wに設けられることがわかる。

以上を総合すると,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「非晶質磁性合金薄帯を使用した三相巻鉄心において,
外側巻鉄心28a並びに該外側巻鉄心28aの内側に入れられた第1の内側巻鉄心28b及び第2の内側巻鉄心28cを有し,
前記第1の内側巻鉄心28bは階段状の接合部aを有し,前記第2の内側巻鉄心28cは階段状の接合部aを有し,前記外側巻鉄心28aは階段状の接合部bを有し,
第1の励磁コイル30が前記第2の内側巻鉄心28cと前記外側巻鉄心28aとからなる外側脚鉄部Uに設けられ,第2の励磁コイル31が前記第1の内側巻鉄心28bと前記外側巻鉄心28aとからなる外側脚鉄部Wに設けられ,前記第1の励磁コイル30と前記第2の励磁コイル31は電流開閉器S_(1) ,S_(2) を介して直流電源装置32に接続されており,
前記第1の励磁コイル30と第2の励磁コイル30はいずれも5巻回されており,前記第1の励磁コイル30と前記第2の励磁コイル31とに一定時間毎に交互に,かつ,連続的に通電を行うことにより,前記外側脚鉄部Uと前記外側脚鉄部Wと脚鉄部Vに流れる磁束を均等化させて良好に磁場中焼鈍を行う,非晶質磁性合金薄帯を使用した三相巻鉄心。」

イ 特開平10-22145号公報
当審において通知した拒絶理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10-22145号公報(以下「引用例2」という。)には,図1?図6とともに次の記載がある。

・「【0009】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施例を図1乃至図図6により説明する。図1及び図2は本発明によるアモルファス変圧器の製造方法の一実施例を示す。
【0010】実施例では,まず図1(b)に示すように,二個の内側鉄心2と,一個の外側鉄心3とが予め形成され,次いで,これら二個の内側鉄心2が外側鉄心3に対し同図(a)に示す如く組み付けられることにより,三本の脚部1A?1Cを有する三相用のアモルファス多脚巻鉄心1が形成される。内側鉄心2及び外側鉄心3は,所定枚数からなる薄板状のアモルファス磁性材料を積層して矩形状に巻回すことにより形成される。
【0011】そして,これらアモルファス多脚巻鉄心1が形成されると,所定の鉄損特性を有するように励磁焼鈍が行われ,次いでワニス等に含浸して所定の絶縁処理が施された後,図示しないコイルがアモルファス磁性材料1の各脚部1A?1Cに装荷されることにより,アモルファス変圧器が構成される。
【0012】本発明においては,アモルファス多脚巻鉄心1が形成された後,図2に示すように,励磁コイル4を用いて励磁焼鈍する。例えば,アモルファス多脚巻鉄心1の中央の脚1Aの一箇所に,電線及び電極棒等で構成された励磁コイル4が装着され,該励磁コイル4に通電したとき,アモルファス多脚巻鉄心1に対し中央脚1Aが矢印5の方向に励磁され,全体として中央脚1Aを中心とする対称形状の磁束が白抜き矢印6の如く流れることにより,励磁焼鈍を行う。従って,この変圧器は,中央脚1Aを中心として対称な磁束6の流れを有するように励磁焼鈍されたアモルファス多脚巻鉄心1を有している。
【0013】このように,アモルファス多脚巻鉄心1において中央脚1Aを中心として周囲に対称な方向となる磁束6が流れるように励磁焼鈍を行うと,従来技術に比較し,アモルファス多脚巻鉄心1を構成する内側鉄心2と外側鉄心1とを個別に励磁焼鈍することが不要になり,全体を一括して励磁できるので,励磁焼鈍作業を大幅に向上させることができる。しかも,中央脚1Aにのみ励磁コイル4を装着するだけで全体を励磁焼鈍できるので,極めて容易に行うことができる。
【0014】また,上述の如く中央脚1Aを中心として対称な磁束に流れにすると,鉄損及び励磁容量とも良好となり,結果的に鉄心特性が特に良好となる。
【0015】なお,図示実施例では,励磁焼鈍したとき,アモルファス多脚巻鉄心1における磁束の流れ6が図2に示す如く方向とした例を示したが,その逆方向であっても同様の作用効果を得ることができるのは勿論である。また,励磁焼鈍時には図2の形態以外のもの,即ち,図3及び図4に示す形態で行っても良い。
【0016】例えばアモルファス多脚巻鉄心1の両側の脚1B,1Cに対し,図3に示すように励磁コイル4が夫々装着され,励磁コイル4に通電したとき,両側の脚1B,1Cに白抜き矢印6の如き同一方向で励磁してもよい。或いは図4に示す如く,中央脚1Aと両側の脚1B,1Cとの全てに励磁コイル4を装着し,矢印6の如く,中央の脚1Aと両側の脚1B,1Cとが互いに逆方向で励磁されるようにしてもよい。
【0017】因みに,図2?図4の如き形態で励磁焼鈍した場合と,参考用として,それ以外の磁束の流れをもつように励磁焼鈍した場合とを比較し,それによる鉄損及び励磁容量を解析した結果を図6に示す。図5において,(a)?(c)に示すNo1?No3のものは,図2?図4に示す実施例に対応するものであり,(d)?(f)に示すNo4?No6のものは,No1?No3に類似したものであるが,アモルファス多脚鉄巻線全体としては磁束の流れが異なるように励磁焼鈍している。また,図6においては,夫々のアモルファス多脚巻鉄心の鉄損及び励磁容量の解析データであり,アモルファス多脚巻鉄心1を図2に示す方法で励磁したものを100とした数値で表している。
【0018】図6に示すように,No1のアモルファス多脚巻鉄心に比較し,No2,No3のものが鉄損及び励磁容量が若干上がっているが,その程度のものは実用上無視できるものであり,良好な鉄心特性を得ることができる。これに対し,比較例としてのNo4?No6のものは,No1のものに比較し,鉄損及び励磁容量が全体的に大きい。特にNo4,No6のものは鉄損が大きくなっているばかりでなく,励磁容量が著しく大きくなっている。」

ここで,上記段落【0012】?【0016】の記載,特に「中央脚1Aを中心として対称な磁束6の流れを有するように励磁」されるとの記載とともに図3を参照すると,二個の内側鉄心2及び外側鉄心3が組み付けられることにより形成された,三本の脚部1A?1Cを有する三相用のアモルファス多脚巻鉄心1について,励磁コイル4によって励磁されたときに流れる磁束は,該アモルファス多脚巻鉄心1の各部において均等であることが見て取れる。
以上から,図3及び図5(b)に示されたものに注目すると,引用例2には,「アモルファス多脚巻鉄心1」の「片側の脚1B」,「中央脚1A」,「他方の脚1C」のうちの,「片側の脚1B」と「他方の脚1C」に,各々「励磁コイル4」を設け,「アモルファス多脚巻鉄心1」の各部において均一な磁束となるように,全体を一括して励磁しつつ焼鈍することにより,良好な鉄心特性を得るとともに励磁焼鈍作業を大幅に向上させることが記載されているものと認められる。
さらに,上記段落【0017】?【0018】には,図5(e)に示されたNo5のものを含む「No4?No6のもの」について,「No1のものに比較し,鉄損及び励磁容量が全体的に大きい」旨が記載されているが,上記No5のものの鉄損及び励磁容量について図6を参照すると,図3及び図5(b)に示されたNo2のものと同程度の特性が得られることが見て取れる。

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「非晶質磁性合金薄帯を使用した三相巻鉄心」は,本願発明の「アモルファス金属製三脚変圧器磁心」に相当する。

イ 引用発明の「第1の内側巻鉄心28b」と「第2の内側巻鉄心28c」とを併せたものは,本願発明の「第1及び第2の内側磁心部分(80,90)」に対応し,引用発明の「外側巻鉄心28a」は,「該外側巻鉄心28aの内側に」「第1の内側巻鉄心28b及び第2の内側巻鉄心28c」が「入れられ」て「三相巻鉄心」となるものであるから,引用発明の「外側巻鉄心28a並びに該外側巻鉄心28aの内側に入れられた第1の内側巻鉄心28b及び第2の内側巻鉄心28cを有」することは,本願発明の「前記第1及び第2内側磁心部分(80,90)を内部に入れて,磁心部分(72,80,90)を形成する1つの外側磁心部分(72)を備えて」いることに相当する。

ウ 引用発明の「階段状の接合部a」と「階段状の接合部b」は,本願発明の「嵌込み結合部」に対応するので,引用発明の「前記第1の内側巻鉄心28bは階段状の接合部aを有し,前記第2の内側巻鉄心28cは階段状の接合部aを有し,前記外側巻鉄心28aは階段状の接合部bを有」することは,本願発明の「前記第1及び第2内側磁心部分(80,90)と,前記外側磁心部分(72)とにおいて,磁心部分のそれぞれが,単独の嵌込み結合部(88,98,78)を含んで」いることに相当する。

エ 引用発明の「第1の励磁コイル30」,「第2の励磁コイル31」は,それぞれ,本願発明の「第1組の巻線(85)」,「第2組の巻線(87)」に対応するので,引用発明の「第1の励磁コイル30が前記第2の内側巻鉄心28cと前記外側巻鉄心28aとからなる外側脚鉄部Uに設けられ,第2の励磁コイル31が前記第1の内側巻鉄心28bと前記外側巻鉄心28aとからなる外側脚鉄部Wに設けられ,前記第1の励磁コイル30と前記第2の励磁コイル31は電流開閉器S_(1) ,S_(2) を介して直流電源装置32に接続されて」いることは,本願発明の「前記第1組の巻線(85)が前記第1内側磁心(80)及び前記外側磁心(72)の一部分の周りに形成され,且つ前記第2組の巻線(87)が前記第2内側磁心(90)及び前記外側磁心(72)の他の一部分の周りに形成されて」いることに相当する。

オ 引用発明の「前記第1の励磁コイル30と第2の励磁コイル30はいずれも5巻回されて」いることは,本願発明の「前記第1組及び第2組の巻線の数が等しいこと」に対応し,引用発明の「磁束を均等化させ」ることは,本願発明の「均等な磁界を保証する」に対応するので,引用発明の「前記第1の励磁コイル30と第2の励磁コイル30はいずれも5巻回されており,前記第1の励磁コイル30と前記第2の励磁コイル31とに一定時間毎に交互に,かつ,連続的に通電を行うことにより,前記外側脚鉄部Uと,前記外側脚鉄部Wと脚鉄部Vに流れる磁束を均等化させて良好に磁場中焼鈍を行う」ことは,本願発明の「前記第1組及び第2組の巻線(85,87)の数が等しいことにより,焼鈍作業中に前記磁心に適用されうる磁界に影響を及ぼして,前記磁界が,焼鈍作業中に,」「均等な磁界を保証する」ことに相当する。

そうすると,両者は以下の点で一致する。

「アモルファス金属製三脚変圧器磁心(70)において,
第1及び第2の内側磁心部分(80,90)と,
前記第1及び第2内側磁心部分(80,90)を内部に入れて,磁心部分(72,80,90)を形成する1つの外側磁心部分(72)を備えており,
前記第1及び第2内側磁心部分(80,90)と,前記外側磁心部分(72)とにおいて,磁心部分のそれぞれが,単独の嵌込み結合部(88,98,78)を含んでおり,
第1組の巻線(85)及び第2組の巻線(87)が,前記第1組の巻線(85)が前記第1内側磁心(80)及び前記外側磁心(72)の一部分の周りに形成され,且つ前記第2組の巻線(87)が前記第2内側磁心(90)及び前記外側磁心(72)の他の一部分の周りに形成されており,
前記第1組及び第2組の巻線(85,87)の数が等しいことにより,焼鈍作業中に前記磁心に適用されうる磁界に影響を及ぼして,前記磁界が,焼鈍作業中に,均等な磁界を保証する,アモルファス金属製三脚変圧器磁心(70)。」

一方,両者は次の各点で相違する。

《相違点1》
・本願発明は,「前記磁界が,焼鈍作業中に,前記内側及び外側磁心(80,90,72)の両方に対して適用される均等な磁界を保証する」のに対して,引用発明は,「前記外側脚鉄部Uと,前記外側脚鉄部Wと脚鉄部Vに流れる磁束を均等化させて良好に磁場中焼鈍を行う」ものである点。

《相違点2》
・本願発明は,「第1組の巻線(85)及び第2組の巻線(87)が,同一の連続ループ状ワイヤの一部分であり,該連続ループ状ワイヤの一部分の各端部がDC電源(81)の陽極および陰極に取り付けられ」たものであるのに対して,引用発明は,第1の励磁コイル30と第2の励磁コイル31が,「電流開閉器S1 ,S2 を介して直流電源装置32に接続されて」はいるものの,「同一の連続ループ状ワイヤの一部分であり,該連続ループ状ワイヤの一部分の各端部がDC電源(81)の陽極および陰極に取り付けられ」てはいない点。

(4)判断
上記相違点1,2について検討する。
《相違点1について》
前記2.(2)イに記載したとおり,引用例2には,「アモルファス多脚巻鉄心1」の「片側の脚1B」,「中央脚1A」,「他方の脚1C」のうちの,「片側の脚1B」と「他方の脚1C」に,各々「励磁コイル4」を設け,「アモルファス多脚巻鉄心1」の各部において均一な磁束となるように,全体を一括して励磁しつつ焼鈍することにより,良好な鉄心特性を得るとともに励磁焼鈍作業を大幅に向上させることが示されている。そして,励磁焼鈍作業を向上させることは,磁心の生産工程において常に求められる課題であるから,励磁コイルにより励磁しつつ焼鈍を行う引用発明において,各励磁コイルに交互に通電することに代えて上記引用例2に記載された発明を用いて,一括して励磁すべく各励磁コイルに同時に通電するとともに,引用発明の「磁心に適用されうる磁界」が「焼鈍作業中に,均等な磁界」であることを維持して,相違点1に係る「前記磁界が,焼鈍作業中に,前記内側及び外側磁心(80,90,72)の両方に対して適用される均等な磁界を保証する」ようになすことは当業者が容易になし得たことである。
なお,前記2.(2)イの末尾に記載したとおり,引用例2において図6を参照すると,図5(e)に示されたNo5のものが,図3及び図5(b)に示されたNo2のものと同程度の特性が得られることが示されているから,引用発明において,各励磁コイルに交互に通電することに代えて,本願明細書の段落【0023】?【0024】に記載されたものと励磁方向が同じである,前記図5(e)に示されたNo5のものを採用し,一括して励磁すべく各励磁コイルに同時に通電することも,当業者が容易になし得たことである。
よって,相違点1は,当業者が適宜になし得た事項の範囲に含まれる程度のものである。

《相違点2について》
上記《相違点1について》において検討したとおり,励磁コイルにより励磁しつつ焼鈍を行う引用発明において,各励磁コイルに交互に通電することに代えて,一括して励磁すべく各励磁コイルに同時に通電することは,当業者が容易になし得たことであるところ,一般に励磁コイルは単なる電線(ワイヤ)であるから,この,各励磁コイルに同時に通電する際に,両励磁コイルを,直流電源装置32の陽極および陰極に対して直列に接続する「連続ループ状ワイヤの一部分」をなすようにして,相違点2に係る「第1組の巻線(85)及び第2組の巻線(87)が,同一の連続ループ状ワイヤの一部分であり,該連続ループ状ワイヤの一部分の各端部がDC電源(81)の陽極および陰極に取り付けられ」る構成を備えることは,当業者が回路を構成する上での設計的事項にすぎない。
よって,相違点2は,上記相違点1とともに当業者が適宜になし得た事項の範囲に含まれる程度のものである。

(5)まとめ
以上検討したとおり,本願発明は,引用発明及び引用例2に記載された発明,並びに技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3. むすび
以上のとおりであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-09-04 
結審通知日 2012-09-05 
審決日 2012-09-20 
出願番号 特願2002-584345(P2002-584345)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 重田 尚郎右田 勝則  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 近藤 幸浩
小野田 誠
発明の名称 三相変圧器用アモルファス金属製三脚磁心  
代理人 小林 泰  
代理人 富田 博行  
代理人 千葉 昭男  
代理人 阿久津 勝久  
代理人 社本 一夫  
代理人 小野 新次郎  

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