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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1269407
審判番号 不服2011-22215  
総通号数 159 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-03-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-14 
確定日 2013-01-30 
事件の表示 特願2004-336218「補助的な静磁場成形コイルを利用するMRIシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月16日出願公開、特開2005-152632〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、平成16年11月19日(パリ条約による優先権 2003年11月20日、米国(US))の特許出願(2004年特許願第336218号。以下「本件出願」という。)であって、平成23年6月15日付けで拒絶査定(発送日:同月21日)がなされたところ、これに対し、同年10月14日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成23年10月14日付けの手続補正についての補正却下の決定
1 補正却下の決定の結論
平成23年10月14日付けの手続補正を却下する。

2 補正却下の決定の理由
(1)平成23年10月14日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)の内容
本件補正は、本件出願の明細書の特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり補正することを含むものである。

ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(平成23年5月13日付け手続補正書によるもの)
「【請求項1】
静磁場を発生させる少なくとも1つの超伝導マグネット(14)と、
少なくとも1つの傾斜磁場を発生させる少なくとも1つの傾斜コイル(52)を備えた対応する患者ボア・エンクロージャ(18)を有する傾斜コイル・アセンブリ(50)と、
少なくとも1つの傾斜シールドコイル(54)と、
前記少なくとも1つの傾斜シールドコイル(54)と前記患者ボア・エンクロージャ(18)の間に位置すると共に前記静磁場を補助している少なくとも1つの静磁場成形コイル(11)と、
を備える磁気共鳴イメージング・システム(10)。」

イ 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
静磁場を発生させる少なくとも1つの超伝導マグネット(14)と、
少なくとも1つの傾斜磁場を発生させる少なくとも1つの傾斜コイル(52)を備えた対応する患者ボア・エンクロージャ(18)を有する傾斜コイル・アセンブリ(50)と、少なくとも1つの傾斜シールドコイル(54)と、
前記少なくとも1つの傾斜シールドコイル(54)と前記患者ボア・エンクロージャ(18)の間に位置すると共に前記静磁場を補助している正のコイル(20)と負のコイル(22)を含む静磁場成形コイル(11)と、
を備える磁気共鳴イメージング・システム(10)。」
(なお、下線部は補正箇所を示す。)

(2) 本件補正の適否について
本件補正について、本件補正前の請求項1に係る発明の「静磁場成形コイル(11)」を、「正のコイル(20)と負のコイル(22)を含む静磁場成形コイル(11)」と補正することは、「静磁場成形コイル(11)」を、減縮し特定する補正であるから、特許請求の範囲を減縮するものである。
そうすると、本件補正は減縮する補正を含む補正であり、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例とされる同法による改正前(以下、単に「平成18年改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3) 独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(ア)引用刊行物記載の発明
(3A)原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先権主張の日前に頒布された特開昭63-292948号公報(以下、「引用刊行物A」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審で付与したものである。以下、同様である。)

(3A-1)「2.特許請求の範囲
1.内側が筒状の超電導磁石と、該超電導磁石の内側に設けられた筒状の静磁場補正コイルと、該静磁場補正コイルの内側に設けられた筒状でNMR信号に位置情報を付与する傾斜磁場コイルと、該傾斜磁場コイルの内側に設けられ、パルス状の電磁波を送信しNMR信号を受信するNMR用高周波送受信コイルと、を備えたMRイメージング装置において、前記傾斜磁場コイルと前記NMR用高周波送受信コイルとの間に非金属性であり非磁性の筒を設け、該筒の各端部と前記超電導磁石の内側の該各端部に対応する端部とを端板で接合して閉鎖空間を形成したことを特徴とするMRイメージング装置。」(1頁左下欄4?17行)

(3A-2)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、MRイメージング装置に係り、特に傾斜磁場コイルの巻枠に伝達される電磁振動による騒音を低減するに好適な超電導磁石ユニットに関する。
〔従来の技術〕
MRイメージング装置の超電導磁石はクライオスタツトの形状をしており、その内側に円筒状のボビンで構成した静磁場補正コイル、傾斜磁場コイル、NMR用高周波送受信コイルを配置し、簡易なカバーを付設したものが従来用いられていた。これを第5図に示す。このため、傾斜磁場コイルに高周波パルスをかけた時発生する電磁振動によって巻枠に生じる騒音(打撃音)振動,発熱等については何ら考慮されていなかった。」(2頁左上欄1?15行)

(3A-3)「〔実施例〕
・・・
第1図は本発明の第1実施例を示す。超電導磁石はクライオタツト1で形成され、その内部に導体N_(2)容器2と、その容器2の内部に液体He容器3が円筒状に形成されている。超電導線4は液体He容器4の中に収納されており、外部より図示されていない着磁電源によって励磁され、静磁場を発生するようになっている。このクライオスタット1は人体測定用になつているのでその内部は円筒状の中空になつている。そしてこの中に静磁場の均一度を補正するための円筒状の静磁場補正コイル5が配置され、さらにその内部にX,Y,Zの各方向に任意の傾斜磁場を発生する傾斜磁場コイル6が配置され、その内側にNMRの高周波を送受信するための照射コイル7、受信コイル8が配置され、患者9は、これらの中心である磁石の中心部におかれ任意の断層像が影響されるよう構成されている。このため傾斜磁場コイル6にパルス電源による励磁電流が流れるとコイルに瞬時的に強力な電磁力が作用するためコイルが振動し、それがコイル固定部を通して巻枠に伝えられ騒音を発生し、その中にいる患者に直接伝わり心理的な圧迫感、不快感となつている。本実施例は上記従来装置に第1図で示すように静磁場補正コイル5と傾斜磁場コイル6を閉じ込めるように非磁性,非金属性筒10を傾斜磁場コイル6と照射コイル7との間に配置し、その各端部をクライオスタツト1の内部円筒端部と端板で接合して閉鎖空間を形成している。これにより傾斜磁場コイル6の巻枠より発生する打撃音は閉鎖された空間内に閉じこめられ外に洩れにくいので騒音は減少する。このため患者へ心理的な圧迫感、不快感を与えこれによる失禁、嘔吐などによる汚れや、その汚れによって大電流の流れる傾斜磁場コイル6に発生する電気的ショートの恐れもなくなる。また中に入る患者が不注意に傾斜磁場コイルに触れることもなく安全で快適な測定が可能となる。」(3頁左上欄3行?右上欄18行)

(3A-4)図1には、筒10の長手方向に円筒状の2つの超電導線4を設けることが描かれている。

上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-1)?(3A-4)の記載を参照すると、上記引用刊行物Aには、
「静磁場を発生するための2つの超電導線4等を有し、内側が筒状の超電導磁石と、
該超電導磁石の内側に設けられ、静磁場の均一度を補正するための円筒状の静磁場補正コイル5と、
該静磁場補正コイルの内側に設けられ、X,Y,Zの各方向に任意の傾斜磁場を発生する筒状の傾斜磁場コイル6と、
該傾斜磁場コイル6と高周波送受信コイルとの間に配置された非磁性,非金属性筒10と、
を備えるMRイメージング装置。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

(3B)原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先権主張の日前に頒布された、特開平2-68038号公報(以下、「引用刊行物B」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(3B-1)「(産業上の利用分野)
本発明は、磁気共鳴(MR・・・)現象を利用して生体である被検体の特定の断面における特定原子核の密度分布をCT像(・・・)として画像化(Imaging)する磁気共鳴イメージング装置の超電導マグネットに関する。」(2頁左上欄14?20行)

(3B-2)「第9図に従来の磁気共鳴イメ-ジング装置を示す。被検体すなわち患者1はベット2の上に載置される。この患者1を取り囲んでRFコイル(プローブベツド:高周波送受信コイル)3、更にその外周に磁界補正用のシムコイル4、傾斜磁界発生用のグラジェントコイル5が配置されている。これらすべてのコイル系は、大型の静磁界磁石6の常温ボアー7(通常はボアー内径的1m)内部に収納されている。静磁界磁石としては、超電導磁石、常電導磁石、永久磁石のいずれかが使用される。」(2頁右下欄最下行?3頁左上欄10行)

(3B-3)「第10図にこの構造を示す。
主グラジェントコイル24の外部に同心でキャンセルグラジェントコイル25が配置されこれによってアクティブグラジエントコイル26が形成されている。このアクティブグラジェントコイル26はシムコイル4の内部に、シムコイル4とほぼ同心で配置されている。
主グラジェントコイル24とキャンセルグラジェントコイル25は発生するパルス磁界が逆極性になっており、両コイルのアンペア・ターン、径などのパラメータを適合させることにより主グラジェントコイル24の内部では画像処理に必要なグラジェントパルス強度が得られ、キャンセルグラジェントコイル25の外部ではパルス磁界がキャンセルされて零となる構造を有している。アクティブグラジェントコイル26の外部ではパルス磁界が零となるので、これに起因する渦電流の発生およびシムコイル4とのカップリングは無くなり画質が向上する。」(4頁左上欄13行?右上欄11行)

(3B-4)「(実施例)
本発明の一実施例を第1図を用いて説明する。
(実施例の構成)
常温ボアー7と超電導マグネット内部の80に輻射熱シールド板22との間に超電導コイル19と同心にキャンセルグラジェントコイル25を配置する。また、常温ボアー7の内部にキャンセルグラジェントコイル25と同心に主グラジェントコイル24を配置する。常温ボアー7の内面に鉄シム27を貼付ける。
(実施例の作用)
・・・
又、鉄シム27を主グラジェントコイルとキャンセルグラジェントコイルとの間に配置したのでグラジェントコイルと鉄シム27との電気的カップリングはない。
・・・
(他の実施例1)
本発明の他の実施例1を第2図を用いて説明する。
(他の実施例1の構成)
超電導マグネットボアー内筒28をキャンセルグラジェントコイル25の巻枠と兼用する。この場合、キャンセルグラジェントコイル25はFRP製ボアー内筒の外周に巻回してもよいし内周側に巻回してコイルを構成してもよい。他の構成は第1図に示す実施例と同一である。
・・・
(他の実施例3)
本発明の他の実施例3を第4図を用いて説明する。
スペクトロスコピー診断、および超高速イメージングを行なう場合、患者のもつ体内磁性による磁界均一度変動を修正するために、電流シムコイルによるオートシミングが必要となる。
この場合、鉄シムとは別にオートシムコイルをマグネットに取付けねばならぬ。本実施例はこの場合の例である。
(他の実施例3の構成)
第2図に示す他の実施例1に於いて、電流シムコイル4(オートシムコイル)を最外輻射シールド板22の内筒部に内巻き又は外巻きする。」(5頁左上欄1行?6頁左上欄14行)

(3C)原査定の拒絶の理由に引用され、本件出願の優先権主張の日前に頒布された、特開平10-328159号公報(以下、「引用刊行物C」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(3C-1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気共鳴イメージング装置(以下、MRI装置という)に適した静磁場発生装置に係り、特に、大きな開口を備えた開放感のあるMRI装置を実現可能にする静磁場発生装置の磁場補正技術に関する。」

(3C-2)「【0002】
【従来の技術】従来のMRI装置用静磁場発生装置の第1の例を図9,図10に示す。図9,図10は、水平磁場方式の超電導磁石装置の構成を示しており、図9は装置全体の断面図、図10は傾斜磁場コイルの斜視図である。図9において、静磁場発生用磁石(超電導磁石)1は円筒形状をしており、その内部の均一磁場領域2に水平方向(Z軸方向)の静磁場B0を発生させている。超電導磁石1では、コイル3に超電導線材を用いるために、所定の温度にまで冷却する必要があり、超電導コイル3は真空容器4や冷媒容器(図では、液体ヘリウム容器)5などから構成される冷却容器6の中に保持される。
【0003】また、超電導磁石1の内径側には、1組の傾斜磁場コイル7が配置されている。傾斜磁場コイル7は、1組の円筒上に構成されており、3次元空間に合わせてX,Y,Zの3方向の傾斜磁場を発生させる。最近では、傾斜磁場コイル7に近接した導電体(具体的には、超電導磁石の真空容器や熱シールド材など)に発生する渦電流を抑制するため、図10に示すように、傾斜磁場コイル7は主コイル8とシールドコイル9とで構成され、主コイル8の外周にシールドコイル9が同軸に配置されるのが一般的である。この時、主コイル8は主に均一磁場領域2に所定の傾斜磁場を発生させ、シールドコイル9は主コイル8と逆方向の磁場を発生することにより、傾斜磁場コイル7の外部に生じる磁場強度を低減させる作用をする。この働きにより、上記の渦電流の発生を効果的に抑制することができる。
【0004】さらに、超電導磁石1の内径側には、円筒の内周に沿う形で磁場補正手段10が設けられている。これは、超電導磁石1だけでは補正しきれない均一磁場領域2の磁場均一度を改良し、画質を更に向上させるために用いるものである。この磁場補正手段10には、一般にパッシブシムと呼ばれる磁性体(鉄,永久磁石等)を用いたものが採用されている。また、最近では、被検者が超電導磁石1の均一磁場領域2内に挿入された時に生じる磁場の乱れを補正するためにも、磁場補正手段10が使用されている。この場合には、被検者ごとに補正量が異なるので、コイルを用いたもの(シムコイルと呼ばれている)が採用されている。シムコイルでは、そのコイルに流れる電流量を調整して、磁場均一度の補正を行っている。シムコイルは、プリント基板と同様なエッチング加工、あるいはウォータージェット加工などにより作成される。また、線材を絶縁基材の上に、所定のパターンを形成するように、這い回すことによっても作成することができる。」

(3C-3)「【0017】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明の静磁場発生装置では、静磁場発生領域を挾んで、対向して、ほぼ平行に配置された2個の静磁場発生源と、該静磁場発生源が前記静磁場発生領域に発生させた静磁場の均一性を高めるための磁場補正手段と、前記静磁場発生領域に傾斜磁場を発生させる傾斜磁場発生手段と、前記静磁場発生源、磁場補正手段、傾斜磁場発生手段を覆うカバーとを有する静磁場発生装置において、前記傾斜磁場発生手段は2組のほぼ平坦な形状をもつ主コイルとシールドコイルとから成り、該主コイルと該シールドコイルは前記静磁場発生源とほぼ平行で、かつ該主コイルが前記静磁場発生領域に近い側に位置するように配置され、前記磁場補正手段の少なくとも一部が前記主コイルと前記シールドコイルとの間に配置されている(請求項1)。」

(3C-4)「【0043】本実施例では、傾斜磁場コイル15を構成する主コイル22とシールドコイル23との間に、平板形状をもつ磁場補正手段24が配置されている。傾斜磁場コイル15を構成する主コイル22とシールドコイル23との間は、上述の如く、必ず一定値以上の距離を離すことになるので、両コイル間に磁場補正手段24を配置することは、計測空間2と超電導磁石1の内側面25との間の狭い空間を有効に利用することになる。従来技術では、磁場補正手段24は傾斜磁場コイル15の外側に配置されていたので、本実施例のように磁場補正手段24を両コイル間に配置することにより、磁場補正手段24の厚さに相当する分だけのスペースを削減することが可能となる。この結果、被検者の入る計測空間2をより広く確保することができるので、開放感のある静磁場発生装置を提供することができる。
【0044】本実施例で用いる磁場補正手段24としては、従来技術と同様に、パッシブシム(鉄,磁石等の磁性体)やシムコイルを用いることができる。また、両者を併用することも可能である。磁場補正手段としてシムコイルを用いる場合には、磁場補正が必要となる程度に応じて、コイルの数が決定される。高次項まで補正するためには、当然、必要となるコイルの数が増えるためにシムコイル全体が厚くなるとともに、コイルに電流を流すための電源やその制御装置などのシステムも多く必要となる。」

(イ)本願補正発明と引用発明との対比・判断
(イ-1)本願補正発明と引用発明とを対比する。
(i)引用発明の「静磁場を発生するための」「超電導線4等を有し、内側が筒状の超電導磁石」が、その構成・機能からみて、本願補正発明の「静磁場を発生させる」「超伝導マグネット(14)」に相当し、引用発明の「超電導磁石」は2つの超電導線4を有することから、引用発明の「超電導磁石」の数と、本願補正発明の「少なくとも1つの超伝導マグネット(14)」の数とは、「2つ」である点で一致する。
そうすると、引用発明の「静磁場を発生するための2つの超電導線4等を有し、内側が筒状の超電導磁石」が、本願補正発明の「静磁場を発生させる少なくとも1つの超伝導マグネット(14)」のうちの、「静磁場を発生させる2つの超伝導マグネット(14)」に相当する。

(ii)引用発明の「該静磁場補正コイルの内側に設けられ、」「任意の傾斜磁場」の「傾斜磁場コイル6」は、「X,Y,Zの各方向に任意の傾斜磁場を発生する」ことから、引用発明の「傾斜磁場コイル6」の数と、本願補正発明の「少なくとも1つの傾斜磁場を発生させる少なくとも1つの傾斜コイル(52)」の数とは「3つ」である点で一致する。
そうすると、「該静磁場補正コイルの内側に設けられ、X,Y,Zの各方向に任意の傾斜磁場を発生する筒状の傾斜磁場コイル6」が、本願補正発明の「少なくとも1つの傾斜磁場を発生させる少なくとも1つの傾斜コイル(52)」のうちの、「3つの傾斜磁場を発生させる3つの傾斜コイル(52)」に相当する。
また、引用発明の「傾斜磁場コイル6」は、X,Y,Zの各方向に任意の傾斜磁場を発生する筒状の傾斜磁場コイル6であるから、X,Y,Zの各方向に任意の傾斜磁場を発生する3つの傾斜磁場コイルが筒状に形成されており、さらに、「アセンブリ」は、「機械・建材などの組立て。組立て部品」(広辞苑第5版)を意味するから、「傾斜磁場コイル6」が、1種のアセンブリを構成することは明らかである。
よって、引用発明の「該静磁場補正コイルの内側に設けられ、X,Y,Zの各方向に任意の傾斜磁場を発生する筒状の傾斜磁場コイル6」と、本願補正発明の「少なくとも1つの傾斜磁場を発生させる少なくとも1つの傾斜コイル(52)を備えた対応する患者ボア・エンクロージャ(18)を有する傾斜コイル・アセンブリ(50)」とは、「3つの傾斜磁場を発生させる3つの傾斜コイル(52)を備えた傾斜コイル・アセンブリ(50)」である点で共通する。

(iii)引用発明の「円筒状の静磁場補正コイル5」は、静磁場の均一度を補正するために設けられているから、静磁場補正コイル5が発生する磁場により、2つの超電導線4が発生する静磁場を補助し、均一な静磁場を形成しているものといえる。
他方、「成形」は「形を作ること。形成。」(広辞苑第5版)を意味することであるから、本願補正発明の「静磁場を補助している」「静磁場成形コイル(11)」は、静磁場成形コイル(11)が発生する磁場により、静磁場を補助し静磁場を形成するコイルを意味することになる。
そうすると、引用発明の「該超電導磁石の内側に設けられ、静磁場の均一度を補正するための円筒状の静磁場補正コイル5」と、本願補正発明の「前記少なくとも1つの傾斜シールドコイル(54)と前記患者ボア・エンクロージャ(18)の間に位置すると共に前記静磁場を補助している正のコイル(20)と負のコイル(22)を含む静磁場成形コイル(11)」とは、「前記静磁場を補助する静磁場補助コイル」である点で共通する。

(iv)引用発明の「MRイメージング装置」が、本願補正発明の「磁気共鳴イメージング・システム(10)」に相当する。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、
「静磁場を発生させる2つの超伝導マグネットと、
3つの傾斜磁場を発生させる3つの傾斜コイルを備えた傾斜コイル・アセンブリと、
前記静磁場を補助する静磁場補助コイルと、
を備える磁気共鳴イメージング・システム。」
である点で一致し、次の相違点(あ)?相違点(う)で相違する。

・相違点(あ)
3つの傾斜磁場を発生させる3つの傾斜コイルを備えた傾斜コイル・アセンブリが、本願補正発明では、「3つの」「傾斜磁場を発生させる」「3つの」「傾斜コイル(52)を備えた対応する患者ボア・エンクロージャ(18)を有する傾斜コイル・アセンブリ(50)」であるのに対して、引用発明では、静磁場補正コイルの内側に設けられ、X,Y,Zの各方向に任意の傾斜磁場を発生する筒状の傾斜磁場コイル6である点。

・相違点(い)
本願補正発明では、「少なくとも1つの傾斜シールドコイル(54)」を備えているのに対して、引用発明では、そのような構成を備えていない点。

・相違点(う)
静磁場を補助する静磁場補助コイルが、本願補正発明では、「前記少なくとも1つの傾斜シールドコイル(54)と前記患者ボア・エンクロージャ(18)の間に位置すると共に前記静磁場を補助している正のコイル(20)と負のコイル(22)を含む静磁場成形コイル(11)」であるのに対して、引用発明では、超電導磁石の内側に設けられ、静磁場の均一度を補正するための円筒状の静磁場補正コイル5である点。

(イ-2)当審の判断
そこで、上記相違点(あ)?相違点(う)について判断する。

・相違点(あ)について、
本件出願明細書の段落【0026】に、
「患者ボア18は、その内部にRFコイル・アセンブリ(図示せず)を装着させて有している。RFコイル・アセンブリは、1次RFコイル及びRFシールドを含むことがある。」
と記載されていることを考慮すると、引用発明では、「傾斜磁場コイル6と高周波送受信コイルとの間に配置された非磁性,非金属性筒10」が、患者ボア・エンクロージャを形成することになる。
ところで、引用発明では、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-3)に、
「本実施例は上記従来装置に第1図で示すように静磁場補正コイル5と傾斜磁場コイル6を閉じ込めるように非磁性,非金属性筒10を傾斜磁場コイル6と照射コイル7との間に配置し、その各端部をクライオスタツト1の内部円筒端部と端板で接合して閉鎖空間を形成している。これにより傾斜磁場コイル6の巻枠より発生する打撃音は閉鎖された空間内に閉じこめられ外に洩れにくいので騒音は減少する。」
と記載されているように、傾斜磁場コイルの巻枠より発生する打撃音による騒音を減少させるために、傾斜磁場コイル6と高周波送受信コイルとの間に非磁性,非金属性筒10が配置されているが、MRイメージング装置において、傾斜磁場コイルの巻枠より発生する打撃音による騒音を減少させることを課題としない構成、すなわち、傾斜磁場コイル6と高周波送受信コイルとの間に非磁性,非金属性筒10を設けないで、傾斜磁場コイル6の内側に高周波送受信コイルのみを設ける構成を採用することは、周知である。
例えば、上記引用刊行物Aの摘記事項(3A-2)に、
「MRイメージング装置の超電導磁石はクライオスタットの形状をしており、その内側に円筒状のボビンで構成した静磁場補正コイル、傾斜磁場コイル、NMR用高周波送受信コイルを配置し、簡易なカバーを付設したものが従来用いられていた。」
と記載されている。また、上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-2)及び(3B-3)に、それぞれ、
「第9図に従来の磁気共鳴イメ-ジング装置を示す。被検体すなわち患者1はベット2の上に載置される。この患者1を取り囲んでRFコイル(プローブベツド:高周波送受信コイル)3.更にその外周に磁界補正用のシムコイル4、傾斜磁界発生用のグラジェントコイル5が配置されている。これらすべてのコイル系は、大型の静磁界磁石6の常温ボアー7(通常はボアー内径的1m)内部に収納されている。静磁界磁石としては、超電導磁石、常電導磁石、永久磁石のいずれかが使用される。」
こと、及び、
「第10図にこの構造を示す。
主グラジェントコイル24の外部に同心でキャンセルグラジェントコイル25が配置されこれによってアクティブグラジエントコイル26が形成されている。このアクティブグラジェントコイル26はシムコイル4の内部に、シムコイル4とほぼ同心で配置されている。」
ことが記載されている。
そして、引用発明も上記周知のものも、ともにMRイメージング装置である点で共通するものであるし、さらに、上記引用刊行物Aの従来例として記載されたMRイメージング装置や、上記引用刊行物Bに記載されたMRメージング装置では、傾斜磁場コイルの巻枠より発生する打撃音による騒音を減少させることを課題としていないことを考慮すると、傾斜磁場コイルの巻枠より発生する打撃音による騒音を減少させることを課題とするかしないかは当業者が適宜採用する選択事項にすぎないことから、引用発明において、周知例のごとく、傾斜磁場コイルの巻枠より発生する打撃音による騒音を減少させることを課題としない構成、すなわち、傾斜磁場コイル6と高周波送受信コイルとの間に非磁性,非金属性筒10を設けないで、傾斜磁場コイル6の内側に高周波送受信コイルのみを設ける構成、すなわち、傾斜磁場コイル6が患者ボア・エンクロージャを形成する構成を採用することにより、本願補正発明のごとく、3つの傾斜磁場を発生させる3つの傾斜コイル(52)を備えた傾斜コイル・アセンブリ(50)が、「3つの」「傾斜磁場を発生させる」「3つの」「傾斜コイル(52)を備えた対応する患者ボア・エンクロージャ(18)を有する傾斜コイル・アセンブリ(50)」の構成とすることは当業者が必要に応じて適宜選択する設計的事項にすぎないものである。

・相違点(い)について
引用発明では、傾斜シールドコイルを設けていないが、静磁場補正コイルと傾斜磁場コイルを備えたMRイメージング装置において、傾斜磁場コイルからの傾斜磁場による渦電流を防止するために、傾斜磁場シールドコイルを設けることは周知である。
例えば、上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-2)及び(3B-3)に、それぞれ、
「第9図に従来の磁気共鳴イメ-ジング装置を示す。被検体すなわち患者1はベット2の上に載置される。この患者1を取り囲んでRFコイル(プローブベツド:高周波送受信コイル)3.更にその外周に磁界補正用のシムコイル4、傾斜磁界発生用のグラジェントコイル5が配置されている。これらすべてのコイル系は、大型の静磁界磁石6の常温ボアー7(通常はボアー内径的1m)内部に収納されている。静磁界磁石としては、超電導磁石、常電導磁石、永久磁石のいずれかが使用される。」
こと、及び、
「第10図にこの構造を示す。
主グラジェントコイル24の外部に同心でキャンセルグラジェントコイル25が配置されこれによってアクティブグラジエントコイル26が形成されている。このアクティブグラジェントコイル26はシムコイル4の内部に、シムコイル4とほぼ同心で配置されている。
主グラジェントコイル24とキャンセルグラジェントコイル25は発生するパルス磁界が逆極性になっており、両コイルのアンペア・ターン、径などのパラメータを適合させることにより主グラジェントコイル24の内部では画像処理に必要なグラジェントパルス強度が得られ、キャンセルグラジェントコイル25の外部ではパルス磁界がキャンセルされて零となる構造を有している。アクティブグラジェントコイル26の外部ではパルス磁界が零となるので、これに起因する渦電流の発生およびシムコイル4とのカップリングは無くなり画質が向上する。」
ことが記載されている。また、上記引用刊行物Cの摘記事項(3C-2)に、
「【0002】
【従来の技術】従来のMRI装置用静磁場発生装置の第1の例を図9,図10に示す。図9,図10は、水平磁場方式の超電導磁石装置の構成を示しており、図9は装置全体の断面図、図10は傾斜磁場コイルの斜視図である。図9において、静磁場発生用磁石(超電導磁石)1は円筒形状をしており、その内部の均一磁場領域2に水平方向(Z軸方向)の静磁場B0を発生させている。超電導磁石1では、コイル3に超電導線材を用いるために、所定の温度にまで冷却する必要があり、超電導コイル3は真空容器4や冷媒容器(図では、液体ヘリウム容器)5などから構成される冷却容器6の中に保持される。
【0003】また、超電導磁石1の内径側には、1組の傾斜磁場コイル7が配置されている。傾斜磁場コイル7は、1組の円筒上に構成されており、3次元空間に合わせてX,Y,Zの3方向の傾斜磁場を発生させる。最近では、傾斜磁場コイル7に近接した導電体(具体的には、超電導磁石の真空容器や熱シールド材など)に発生する渦電流を抑制するため、図10に示すように、傾斜磁場コイル7は主コイル8とシールドコイル9とで構成され、主コイル8の外周にシールドコイル9が同軸に配置されるのが一般的である。この時、主コイル8は主に均一磁場領域2に所定の傾斜磁場を発生させ、シールドコイル9は主コイル8と逆方向の磁場を発生することにより、傾斜磁場コイル7の外部に生じる磁場強度を低減させる作用をする。この働きにより、上記の渦電流の発生を効果的に抑制することができる。
【0004】さらに、超電導磁石1の内径側には、円筒の内周に沿う形で磁場補正手段10が設けられている。これは、超電導磁石1だけでは補正しきれない均一磁場領域2の磁場均一度を改良し、画質を更に向上させるために用いるものである。この磁場補正手段10には、一般にパッシブシムと呼ばれる磁性体(鉄,永久磁石等)を用いたものが採用されている。また、最近では、被検者が超電導磁石1の均一磁場領域2内に挿入された時に生じる磁場の乱れを補正するためにも、磁場補正手段10が使用されている。この場合には、被検者ごとに補正量が異なるので、コイルを用いたもの(シムコイルと呼ばれている)が採用されている。シムコイルでは、そのコイルに流れる電流量を調整して、磁場均一度の補正を行っている。シムコイルは、プリント基板と同様なエッチング加工、あるいはウォータージェット加工などにより作成される。また、線材を絶縁基材の上に、所定のパターンを形成するように、這い回すことによっても作成することができる。」
ことが記載されている。
そして、上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-3)に記載されているように、傾斜磁場シールドコイルを設けることより、傾斜磁場コイルの傾斜磁場の発生の際の渦電流発生を抑制することは、画質を向上させるためであることは明らかである。
ところで、引用発明のMRイメージング装置が、測定した患者の断層像を観察する観点からみて、MRイメージング装置の画質を向上させる課題を有することは自明な事項であることから、引用発明の静磁場補正コイルと傾斜磁場コイルを備えたMRイメージング装置において、MRイメージング装置の画質を向上させる課題を解決するために、静磁場補正コイルと傾斜磁場コイルを備えたMRイメージング装置に傾斜磁場シールドコイルを設ける上記周知の構成を採用し、本願補正発明のごとく、「少なくとも1つの傾斜シールドコイル(54)」を備える構成とすることは当業者であれば容易になし得るものである。

・相違点(う)について
(う-1)上記「(イ-1)」の(iii)において検討したように、引用発明の「円筒状の静磁場補正コイル5」は、静磁場の均一度を補正するために設けられているから、静磁場補正コイル5が発生する磁場により、2つの超電導線4が発生する静磁場を補助し、均一な静磁場を形成しているものといえ、他方、本願補正発明の「静磁場を補助している」「静磁場成形コイル(11)」は、静磁場成形コイル(11)が発生する磁場により、静磁場を補助して静磁場を形成するコイルを意味するものであり、さらに、本願補正発明には、特に、静磁場を補助する具体的な構成が特定されていないことから、「静磁場を補助」する構成には、例えば、本件出願明細書に、
「【0020】
磁場成形コイル11は正のコイル20と負のコイル22を含んでいる。磁場成形コイル11は、超伝導マグネット14が発生させた静磁場と連携して動作し、かつこれを補助している。磁場成形コイル11は、超伝導磁場コイル16と比べ、大きさが概ね10分の1であり、かつ患者ボア18により近づけて位置させている。磁場成形コイル11の大きさがより小さく、このため磁場成形コイル11内の導体量が少ないため、傾斜コイル52が磁場成形コイル11内に発生させるうず電流加熱が最小限となる。このため、磁場成形コイル11は、図に示すように傾斜コイル52による変動する磁場から非シールドとすることができる。さらに、磁場成形コイル11を通過する電流は超伝導磁場コイル16を通過する電流と比べてかなり小さいが、患者ボア18に対して磁場成形コイル11の方がより近くにあるため、これによって静磁場の均一性の大幅な向上が提供される。磁場成形コイルをある具体的な数だけ図示しているが、任意の数の磁場成形コイルを利用することができる。所望により、負のコイル22のうちの幾つかを鉄製のリングに置き換えることができる。」
と記載されているように、単に、均一な静磁場を発生させるための補助の構成が含まれることを考慮すると、引用発明の「静磁場の均一度を補正するための円筒状の静磁場補正コイル5」と、本願補正発明の「静磁場を補助している」「静磁場成形コイル(11)」とには、実質的な差異はないものである。

(う-2)また、仮に、本願補正発明の「静磁場を補助している」「静磁場成形コイル(11)」の構成が、例えば、本件出願明細書に、
「【0011】
本発明の実施形態により幾つかの利点が提供される。本発明の一実施形態によって提供される1つの利点は、補助的な静磁場成形コイルの使用を取り込んでいるMRIシステムの提供である。この磁場成形コイルは、パルス式傾斜コイルによる望ましくないうず電流加熱の発生を最小限にする一方で、静磁場の強度及び均一性を増大させている。この磁場成形コイルは、パルス式傾斜コイルから非シールドとし、これにより設計要件及びこれに関連するコストを最小限にすることができる。」
に記載されているように、静磁場の静磁場の強度及び均一性を増大させて、補助する構成を含むとしても、MRイメージング装置において、静磁場を補正するコイルが、静磁場の磁場強度を増大させるとともに均一性も確保することは周知である。
例えば、特開昭63-73946号公報に、
「 (産業上の利用分野)
本発明は、超伝導磁石方式により静磁場を形成し、かつ、この磁場強度を可変とする磁気共鳴イメージング装置に関する。」(2頁左上欄4?7行)
こと、及び、
「そこで、プロトンイメージングモード(低静磁場モード)の場合には、磁場強度は超伝導磁石4によって設定し、シムコイル4には通電されないようにスイッチ5を0FFしておく。シムコイル4はオープンループとなるのでアクティブシム補正は実行されず、シム7によるパッシブシム補正によって磁場の均一性が確保される。・・・
そこで、スペクトロコピイモード(高磁場モード)の場合には、スイッチ5をONとしてシムコイル4に所定値の電流を通電する。この結果、静磁場の磁場強度が増大すると共に、アクティブシム補正により、局所的な高均一磁場が確保できる。」(3頁左下欄10行?右下欄14行)
ことが記載されている。また、特開昭63-109845号公報には、
「(産業上の利用分野)
本発明は、磁気共鳴現象を利用して被検体の任意断面の画像化を行う磁気共鳴イメージング(以下、MRIと略記する)装置に関する。」(1頁右下欄1?3行)
こと、及び、
「第1図において、1は例えば常電導磁石としての静磁場用コイルであり、同図の7方向に均一な静磁場を形成する。2,3.4はそれぞれ相直交するX、Y、Z方向の磁場を形成するための傾斜磁場コイルでおり、これらは前記静磁場用コイル1の空洞部内に配置される。5は静磁場強度可変手段の一例としての補助コイルであり、例えば4組のコイル5A乃至5Dで形成され、これらは前記空洞部内であって、かつ、前記各傾斜磁場コイル2,3,4の外側に配置されるようになっている。・・・この4組のコイル5A乃至5Dによって前記静磁場に均一な磁場を重畳させることができるようになっている。また、電流値を変化することで均一磁場強度を可変し、もって静磁場強度を可変するようになっている。」(3頁左上欄2行?右上欄1行)
ことが記載されている。
そして、引用発明も上記周知のものも、ともにMRイメージング装置において、静磁場を均一にする静磁場補正コイルを有する点で共通することから、引用発明において、静磁場補正コイル5を用いて静磁場を均一にする際に、静磁場の磁場強度を増大させて静磁場を均一化する、上記周知の静磁場補正コイルを採用し、本件出願明細書の段落【0011】に記載されているような、静磁場の強度及び均一性を増大させる機能を有する、本願補正発明の「静磁場を補助している」「静磁場成形コイル(11)」の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜になし得るものである。

(う-3)さらに、上記引用刊行物Aには、静磁場補正コイル5が正コイルと負コイルとを有することについては記載されていないが、磁気共鳴を用いた分析装置において、磁場を均一にする磁場補正コイルとして、正コイルと負コイルを設けて、磁場を均一にすることは周知である。
例えば、特開昭63-43306号公報に、
「〔発明の属する技術分野〕
本発明は核磁気共鳴形コンピュータ断層像撮影装置(以下NMR-CTと略称する)に用いられる空心形均一磁場発生装置、ことに不均一磁界の補正コイルを備えた装置に関する。」(2頁左上欄8?12行)
こと、及び、
「奇数次補正コイルの場合、第3図におけるコイル対12および13それぞれの2個のコイルに流す電流Iが等しく、その方向が互いに逆向きになるようにすることにより、偶数次の不均一磁束成分の発生を阻止できるので、三次成分を除く奇数次成分,例えば1次成分および5次成分を零にすることにより、三次成分の不均一磁束成分のみを発生する3次補正コイルを得ることができる。」(3頁左上欄4?16行)
ことが記載されている。また、特開昭59-99708号公報に、
「磁界補正コイル(2)は、シムコイルとも呼ばれ、NMR(核磁気共鳴)を用いた分析装置などの高均一磁界を必要とする装置には不可欠のコイルである。・・・また、第1図に示した2個の磁界補正コイルのアンペアターンは等しく、電流は矢印で示したように逆向きである。」(2頁左下欄2?12行)
ことが記載されている。
そして、引用発明も上記周知のものの、ともに磁気共鳴により分析する装置の磁場の不均一を補正する装置である点で共通するものであるから、引用発明のイメージング装置において、静磁場補正コイル5を用いて静磁場の均一度を補正する際、上記周知の、正コイルと負コイルを設けて、磁場を均一にする補正コイルの構成を採用し、本願補正発明のごとく、静磁場を補助する静磁場補助コイルが、「前記静磁場を補助している正のコイル(20)と負のコイル(22)を含む静磁場成形コイル(11)」とすることは、当業者であれば容易になし得るものである。

(う-4)ところで、静磁場補正コイルと傾斜磁場コイルを備えた、引用発明のMRイメージング装置において、画質を向上させる課題を解決するために、上記引用刊行物Bや引用刊行物Cに記載された、周知の傾斜磁場シールドコイルを設ける構成を採用することは、上記「・相違点(い)について」において検討したとおりである。
さらに、上記引用刊行物Bの摘記事項(3B-4)に
「(実施例の作用)
・・・
又、鉄シム27を主グラジェントコイルとキャンセルグラジェントコイルとの間に配置したのでグラジェントコイルと鉄シム27との電気的カップリングはない。」
と記載され、また、上記引用刊行物Cの摘記事項(3C-4)に、
「【0043】本実施例では、傾斜磁場コイル15を構成する主コイル22とシールドコイル23との間に、平板形状をもつ磁場補正手段24が配置されている。・・・
【0044】本実施例で用いる磁場補正手段24としては、従来技術と同様に、パッシブシム(鉄,磁石等の磁性体)やシムコイルを用いることができる。」
と記載されているように、傾斜磁場コイルと傾斜磁場シールドコイルの間に、静磁場補正手段を設けることは周知であることから、静磁場補正コイルと傾斜磁場コイルを備えた、引用発明のMRイメージング装置において、上記引用刊行物Bや引用刊行物Cに記載された、傾斜シールドコイルを設ける構成を採用した際、静磁場補正手段である静磁場補正コイル5を、上記周知例のごとく、傾斜磁場コイルと6と傾斜磁場シールドコイルの間に配置する構成を選択することは当業者が適宜成しうる設計的事項にすぎないものである。
そして、引用発明において、周知の傾斜磁場コイル6の内側に高周波送受信コイルのみを設ける構成を採用し、傾斜磁場コイル6が患者ボア・エンクロージャを形成するように構成することは、上記「・相違点(あ)において」検討したとおりであるから、引用発明のMRイメージング装置において、傾斜磁場コイル66と傾斜磁場シールドコイルの間に静磁場補正コイル5を配置する構成を選択すれば、引用発明の静磁場補正コイル5が、傾斜磁場シールドコイルと患者ボア・エンクロージャとの間に配置する構成、すなわち、本願補正発明のごとく、静磁場を補助する静磁場補助コイルが、「前記少なくとも1つの傾斜シールドコイル(54)と前記患者ボア・エンクロージャ(18)の間に位置する」「静磁場成形コイル(11)」の構成となることは明らかである。

そして、本願補正発明によってもたらされる効果は、引用発明及び周知の技術事項から予測される範囲内のものであって、格別のものではない。

なお、請求人は、当審が通知した審尋に対する回答書において、
(1)「本願明細書第0030段落に『ここで図4を参照すると、本発明の一実施形態に従った図1の超伝導マグネット構造13及び撮像ボリューム73の断面電流エリア図を表している。超伝導マグネット構造100と比較して、超伝導マグネット構造13の磁場成形コイル11及び超伝導磁場コイル16はかなり小さい。』と記載されておりますように、本願発明では、静磁場成形コイル(11)が静磁場を成形し、超伝導マグネット(14)の負荷を軽減します。このため、本願発明では超伝導マグネット(14)を含む構造(13)を従来の構造(100)に比べ小さいものとすることができます。
引用文献1は、静磁場補正コイル5を開示しますが、引用文献1の静磁場補正コイル5は静磁場を補正するのみで、超伝導線4の大きさを小さくすることを可能にするような静磁場を生成しません。
引用文献6も引用文献1と同様に補正コイルを開示するのみで、主コイル1の大きさを小さくすることを可能にするような静磁場を生成しません。 他の引用文献も引用文献1、6と同様に、超伝導マグネットが発生する静磁場を補助する静磁場を発生させる静磁場成形コイルを開示しません。」旨の主張、及び、
(2)「なお、上記前置報告書において、特開昭63-43306号公報が引用文献6として記載されておりますが、かかる文献は審査過程で引用された文献ではなく、出願人は、引用文献6に基づく拒絶理由通知は受領しておらず、補正の機会や意見を述べる機会は与えられておりません。」旨の主張をしている。

そこで、請求人の上記(1)及び(2)の主張について検討する。

(1)について
請求人の「本願発明では、静磁場成形コイル(11)が静磁場を成形し、超伝導マグネット(14)の負荷を軽減します。このため、本願発明では超伝導マグネット(14)を含む構造(13)を従来の構造(100)に比べ小さいものとすることができます。」旨の主張は、審査官が通知した拒絶理由通知書に対する意見書においてはなんら主張しておらず、当審が通知した前置報告書の内容を記載した審尋に対する回答書において初めて主張されたものである。

ところで、上記「・相違点(う)について」の(う-1)において検討したように、本願補正発明の「静磁場を補助している」「静磁場成形コイル(11)」は、静磁場成形コイル(11)が発生する磁場により、静磁場を補助して静磁場を形成するコイルを意味するものであり、さらに、本願補正発明には、特に、静磁場を補助する具体的な構成が特定されていないことから、「静磁場を補助」する構成には、単に、均一な静磁場を発生させるための補助の構成が含まれるものである。
そうすると、本願補正発明の「静磁場を補助している」「静磁場成形コイル(11)」の構成には、請求人の主張する「本願発明では、静磁場成形コイル(11)が静磁場を成形し、超伝導マグネット(14)の負荷を軽減します。このため、本願発明では超伝導マグネット(14)を含む構造(13)を従来の構造(100)に比べ小さいものとすることができます。」ことを含まないものも含んでいるから、請求人の主張は採用できない。
また、仮に、本願補正発明の「静磁場を補助している」「静磁場成形コイル(11)」の構成が、「静磁場成形コイル(11)が静磁場を成形し、超伝導マグネット(14)の負荷を軽減」する構成を含んでいるとしても、上記「・相違点(う)について」の(う-2)において検討したように、MRイメージング装置において、静磁場を補正するコイルが、静磁場の磁場強度を増大させるとともに均一性も確保することは周知であることから、引用発明において、静磁場補正コイル5を用いて静磁場を均一にする際に、静磁場の磁場強度を増大させて静磁場を均一化する、上記周知の静磁場補正コイルを採用することは、当業者が必要に応じて適宜なし得るものである。
そして、静磁場補正コイル5を用いて静磁場を均一にする際に、静磁場の磁場強度を増大させて静磁場を均一化すれば、静磁場を発生する超伝導マグネットをもちいて流す電流が少なくてすむから、超伝導マグネットの負荷を軽減できるのは電気工学的にみて自明な事項であると同時に、電流が少なければ、超伝導マグネットを構成するコイルが小さくてすみ、超伝導マグネットを構成する構造を小さくできることも自明な事項であって請求人の主張は採用できない。

(2)について
本願補正発明の構成は、査定時の手続補正書(平成23年5月13日付け手続補正書)の特許請求の範囲の請求項1に、請求項3に記載された一部の構成である、「前記少なくとも1つの静磁場成形コイル(11)は、正のコイル(20)と負のコイル(22)を含んでいる」構成を付加したものである。
このことに関連し、審査官は拒絶査定時の備考に、
「また、補正により請求項3,6,7に追加された事項は、いずれも普通のことである。」
と記載しており、前置報告書において、特開昭63-43306号公報を引用文献6として提示したことは、拒絶査定時の備考に記載した「普通のことである」ことを、明確にするために周知例として提示したにすぎないものであり、なんら違法性はないものである。

また、請求人は、補正案を提示しているが、「前記少なくとも1つの超伝導マグネット(14)と前記少なくとも1つの静磁場成形コイル(11)の間に配置され、磁気共鳴イメージング・システム(10)の内部に発生させたパルスシーケンスを補償する少なくとも1つの傾斜シールドコイル(54)と、
前記少なくとも1つの傾斜シールドコイル(54)と前記傾斜コイル・アセンブリ(50)の間に位置している静磁場成形コイル・ハウジング(24)を備えており、
前記少なくとも1つの静磁場成形コイル(11)は前記静磁場成形コイル・ハウジング(24)の内部に位置しており、
前記静磁場成形コイル・ハウジング(24)は冷却剤(32)を備え、
前記静磁場成形コイル・ハウジング(24)はその内部にうず電流の誘導を防止する材料から形成されている 」構成は周知の構成であり,補正案を採用することはできない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(4)補正却下の決定についてのむすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下しなければならないものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成23年10月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1?10に係る発明は、平成23年5月13日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2 2 (1)」の「ア 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1」に記載したように、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
静磁場を発生させる少なくとも1つの超伝導マグネット(14)と、
少なくとも1つの傾斜磁場を発生させる少なくとも1つの傾斜コイル(52)を備えた対応する患者ボア・エンクロージャ(18)を有する傾斜コイル・アセンブリ(50)と、
少なくとも1つの傾斜シールドコイル(54)と、
前記少なくとも1つの傾斜シールドコイル(54)と前記患者ボア・エンクロージャ(18)の間に位置すると共に前記静磁場を補助している少なくとも1つの静磁場成形コイル(11)と、
を備える磁気共鳴イメージング・システム(10)。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項は上記「第2 2 (3)」の(ア)に記載したとおりである。

3.本願発明と引用発明との対比・判断
上記「第2 2 (3)」の(イ)で検討した本願補正発明は、上記本願発明に、さらに「正のコイル(20)と負のコイル(22)を含む」構成を付加して、「静磁場成形コイル(11)」の構成を限定し、特定するものであり、言い換えれば本願発明の構成要件にさらなる構成要件を付加したものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに減縮したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 2 (3)」の(イ)において検討したとおり、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることから、本願発明も同様の理由により、引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、本件出願は、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-20 
結審通知日 2012-08-21 
審決日 2012-09-18 
出願番号 特願2004-336218(P2004-336218)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 右▲高▼ 孝幸  
特許庁審判長 後藤 時男
特許庁審判官 信田 昌男
小野寺 麻美子
発明の名称 補助的な静磁場成形コイルを利用するMRIシステム  
代理人 小倉 博  
代理人 荒川 聡志  
代理人 黒川 俊久  

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