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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01L
審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1269765
審判番号 無効2011-800184  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-09-28 
確定日 2013-01-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2803742号発明「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由
第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第2803742号(以下「本件特許」という。平成5年4月28日出願、平成10年7月17日登録、登録時の請求項の数は3であるが、後記第2(1)のとおり、平成11年12月27日になされた手続補正書(訂正請求書)による訂正後の請求項の数は1である。)の請求項1に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
(1)本件特許の訂正に係る経緯は次のとおりである。
平成11年 1月 4日 無効審判請求(平成11年審判第35008号)
平成11年 3月24日 特許異議申立(平成11年異議第71116号)
平成11年 4月14日 訂正請求(平成11年審判第35008号によるもの。訂正後の請求項の数は1である。)
平成11年 6月18日 異議申立手続中止通知書(平成11年異議第71116号)
平成11年10月29日 訂正拒絶理由通知書
平成11年12月27日 手続補正書(訂正請求書)
平成12年 3月27日 審決
平成12年 8月15日 異議申立手続中止解除通知(平成11年異議第71116号)
平成12年 8月28日 異議決定
上記審決の結論は、
「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」
というものである(なお、通知書等の日付は発送日である。)。

(2)本件審判の経緯は、以下のとおりである。
平成23年 9月28日 審判請求
平成23年12月19日 訂正請求及び審判事件答弁書提出
平成24年 2月23日 審判事件弁駁書提出
平成24年 4月 5日 補正許否の決定
平成24年 5月 9日 訂正請求及び審判事件答弁書(2回目)提出
平成24年 7月 9日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成24年 7月 9日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成24年 7月23日 口頭審理
平成24年 8月 6日 上申書提出(請求人)

第3 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由
(1)無効理由1(特許法第29条第2項)
本件特許発明は、特開平3-183173号公報(甲第1号証)に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)無効理由2(特許法第29条第2項)
本件特許発明は、「Fabrication and Properties of GaN P-N Junction LED」(甲第4号証)に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)無効理由3(特許法第29条第2項)
本件特許発明は、特開平4-199752号公報(甲第7号証)に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(4)無効理由4(旧特許法第36条第5項第2号)
本件特許発明は、「ほぼ全面に」が不明確であり、本件特許の請求項1に係る発明は不明確であるので、本件訂正明細書の特許請求の範囲には特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものとは認められず、本件特許出願は、平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という)特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていない。
(以上、審判請求書にて主張)
(5)無効理由5
ア (旧特許法第36条第5項第1号)
(平成23年12月19日付け訂正請求による)訂正後の特許請求の範囲における「AuとNiとを含む合金またはPtとTiとを含む合金からなる」との記載は、AuとNiまたはPtとTi以外の金属を組み合わせる構成も含まれ、そのような発明は、発明の詳細な説明に記載されていないから、上記訂正後の本件特許出願は旧特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない。
イ (旧特許法第36条第5項第2号)
(平成23年12月19日付け訂正請求による)訂正後の特許請求の範囲における「AuとNiとを含む合金またはPtとTiとを含む合金からなる」との記載は、AuとNiまたはPtとTi以外の金属を組み合わせる構成も含まれ、いかなる他の金属を、いかなる比率で組みあ合わせることまでが、本件特許の請求項記載の発明に含まれるのか、その外延が明確でないから、上記訂正後の本件特許出願は旧特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていない。
(以上、平成24年2月23日付けの審判事件弁駁書にて主張)
(6)無効理由6
ア (旧特許法第36条第5項第1号)
(平成24年5月9日付け訂正請求による)訂正後の特許請求の範囲における「AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金である」との記載は、実施例において記載されている合金の形成方法(アニーリング)だけでなく、実施例以外のあらゆる形成方法までもが包摂されるが、アニーリング以外の方法で合金を形成する場合は、発明の詳細な説明には記載されていないから、上記訂正後の本件特許出願は旧特許法第36条第5項第1号に規定する要件を満たしていない。
イ (旧特許法第36条第5項第2号)
(平成24年5月9日付け訂正請求による)訂正後の特許請求の範囲における「AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金」という記載は、「AuとNiのみからなる合金またはPtとTiのみからなる合金」という記載ではないので、他の金属をも含む余地を残しているといえるから、不明確であり、上記訂正後の本件特許出願は旧特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていない。
(以上、平成24年7月9日付けの口頭審理陳述要領書提出(請求人)にて主張)

なお、請求人は、上記無効理由5について、平成24年7月23日の口頭審理の場で、第1回口頭審理調書の「請求人 3」のとおり、「平成24年2月23日付け審判事件弁駁書第11頁第1行ないし第15頁末行に記載した無効理由を撤回する。」と陳述した。
また、請求人は、上記無効理由6について、平成24年8月6日付け上申書のとおり撤回した。

2 甲号証
請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。
(1)甲第1号証 特開平3-183173号公報
(2)甲第2号証 特開平5-63236号公報
(3)甲第3号証 Japanese Journal of Applied Physics Vol. 31, No. 2B, February 1992, L139?142頁,中村修二氏らによる論文「Thermal Annealing Effects on P-Type Mg-Doped GaN Films」
(4)甲第4号証 Electronic, Optical and Device Properties of Layered Structures, November, 1990. 165?168頁,天野浩氏及び赤崎勇氏による論文「Fabrication and Properties of GaN P-N Junction LED」
(5)甲第5号証 応用物理 1991 02 Vol. 60 No.2 (1991年2月10日発行)163?166頁,天野浩氏及び赤崎勇氏による論文「GaNpn接合青色・紫外発光ダイオード」
(6)甲第6号証 Japanese Journal of Applied Physics Vol. 28, No.l2, December 1989,L2112?2114頁,天野浩氏らによる論文「P-Type Conduction in Mg-Doped GaN Treated with Low-Energy Electron Beam Irradiation(LEEBI)」
(7)甲第7号証 特開平4-199752号公報
(8)甲第8号証 特開昭49-29770号公報
(9)甲第9号証 特開昭49-29771号公報
(10)甲第10号証 特開平4-68579号公報
(11)甲第11号証 特開昭50-42785号公報
(12)甲第12号証 特開平5-13812号公報
(13)甲第13号証 特開昭61-87381号公報
(14)甲第14号証 「半導体用語大辞典」539頁
(15)甲第15号証 特開昭56-81986号公報
(16)甲第16号証 特開昭49-122294号公報
(17)甲第17号証 特開昭51-85384号公報
(18)甲第18号証 特開昭60-175468号公報
(19)甲第19号証 特開昭61-56474号公報
(20)甲第20号証 特開平3-218625号公報
(21)甲第21号証 特開昭62-101089号公報
(22)甲第22号証 特開昭63-244689号公報
(23)甲第23号証 特開平3-183171号公報
(24)甲第24号証 特開平3-183172号公報
(25)甲第25号証 特開昭57-10280号公報
(26)甲第26号証 特開昭63-311777号公報
(27)甲第27号証 実開昭61-144659号公報
(28)甲第28号証 特開昭59-28384号公報
(以上、審判請求書に添付して提出。)
(29)甲第29号証 特許庁編、特許・実用新案審査基準 第II部第2章 特許要件 2.7 選択発明の進歩性の考え方
(以上、審判事件弁駁書に添付して提出。)

第4 被請求人の主張の概要
1 各無効理由に対して
(1)理由1
甲第1号証と請求人が主張する他の証拠とを組み合わせても本件発明に容易に想到することはない。
(2)理由2
甲第4号証と請求人が主張する他の証拠とを組み合わせても本件発明に容易に想到することはない。
(3)理由3
甲第7号証と請求人が主張する他の証拠とを組み合わせても本件発明に容易に想到することはない。
(4)理由4
不明確な記載に該当しない。

2 乙号証
被請求人が提出した乙号証は、以下のとおりである。
(1)乙第1号証 甲第6号証(Japanese Journal of Applied Physics Vol. 28, No.l2, December 1989, L2112?2114頁,天野浩氏らによる論文「P-Type Conduction in Mg-Doped GaN Treated with Low-Energy Electron Beam Irradiation(LEEBI)」)の表紙および裏表紙
(2)乙第2号証 甲第6号証(Japanese Journal of Applied Physics Vol. 28, No.l2, December 1989, L2112?2114頁,天野浩氏らによる論文「P-Type Conduction in Mg-Doped GaN Treated with Low-Energy Electron Beam Irradiation(LEEBI)」)の抄訳(L2 1 1 2頁の左欄下から2行から右欄5行の翻訳)
(3)乙第3号証 甲第3号証(Japanese Journal of Applied Physics Vol. 31, No. 2B, February 1992, L139?142頁,中村修二氏らによる論文「Thermal Annealing Effects on P-Type Mg-Doped GaN Films」)の抄訳(L139頁左欄7行?14行の翻訳)
(4)乙第4号証 甲第4号証(Electronic, Optical and Device Properties of Layered Structures, November, 1990. 165?168頁,天野浩氏及び赤崎勇氏による論文「Fabrication and Properties of GaN P-N Junction LED」)の抄訳(165頁4?6行,167頁9?10行および168頁の6?9行の翻訳)
(5)乙第5号証 平成11年審判第35008号審決
(6)乙第6号証 平成11年異議第71116号異議の決定
(以上、平成23年12月19日付け審判事件答弁書に添付して提出。)
(7)乙第7号証 「最新化合物半導体ハンドブック」169頁から172頁(発行所 株式会社サイエンスフォーラム、発行日 昭和57年7月10日)
(8)乙第8号証 「アドバンスエレクトロニクスシリーズI-1 III-V族化合物半導体」第343頁(発行所 株式会社培風館、発行日 1994年5月20日)
(以上、平成24年5月9日付け審判事件答弁書(2回目)に添付して提出。)

第5 訂正請求についての当審の判断
1 訂正請求の内容
被請求人が平成24年5月9日にした訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の願書に添付した明細書(平成11年12月24日になされた訂正請求後のもの。以下、単に「本件特許明細書」という。)について、訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを請求するものであって、次の事項をその訂正内容とするものである(下線は当審で付した。以下同じ。)。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1を下記のとおり訂正する。
「窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とするpn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgがドープされたp型GaN層のほぼ全面に、アニーリング処理によりオーミック接触が得られると共に、膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金である、透光性の電極が形成されている、ことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」
(2)訂正事項b
本件特許明細書の段落【0006】を下記のとおり訂正する。
「【課題を解決するための手段】本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とするpn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgがドープされたp型GaN層のほぼ全面に、アニーリング処理によりオーミック接触が得られると共に、膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金である、透光性の電極が形成されていることを特徴とする。」

2 訂正の適否
(1)訂正事項aについて
本訂正事項は、請求項1に係る発明において「透光性の電極」が「Cr、Ni、Au、Ti、Ptより選択された2種を含む合金からなる」を「AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金である」に限定するものであるから、特許法第134条の2第1項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
そして、本件特許明細書には、「本発明の方法において、p層に蒸着する金属には、例えばAu、Ni、Pt、In、Cr、Tiの電極材料を使用することができ、特に好ましいオーミック接触が得られる材料としてCr、Ni、Au、Ti、Ptの内の少なくとも2種類を含む合金を使用することが好ましい。」(段落【0007】)との記載があるから、本件特許明細書には、「透光性の電極」が「AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金である」であることが記載されているものと認められる。
したがって、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項bについて
本訂正事項は、発明の詳細な説明の記載について、訂正事項a(請求項1の訂正)との整合を図り記載を明りょうにするために行うものと認められるから、特許法第134条の2第1項第3号に掲げる明りょうでない記載の釈明を目的とするものと認められる。
そして、前記(1)における訂正事項aについての検討と同様の理由により、本訂正事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内でするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものである。

3 本件訂正についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正を認める。

第6 本件発明
1 上記のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許第2803742号の請求項1に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本件訂正発明」という。)は、次のとおりのものと認められる。
「窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とするpn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgがドープされたp型GaN層のほぼ全面に、アニーリング処理によりオーミック接触が得られると共に、膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金である、透光性の電極が形成されていることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」

2 本件訂正発明は上記1のとおりであるところ、これを分説すると、次のとおりである。
A 窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とするpn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、
B Mgがドープされたp型GaN層のほぼ全面に、アニーリング処理によりオーミック接触が得られると共に、膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金である、透光性の電極が形成されている
C ことを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。

第7 本件訂正発明の技術的意義
1 本件特許の願書に添付した明細書(本件訂正後のもの。以下「本件訂正明細書」という。)には、以下の記載がある。
「【0001】【産業上の利用分野】本発明はIn_(X)Al_(Y)Ga_(1-X-Y)N(0≦X<1、0≦Y<1)で表される窒化ガリウム系化合物半導体を具備する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子と、その発光素子の電極形成方法に係り、特にp型ドーパントがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体表面の電極と、その電極形成方法に関する。
【0002】【従来の技術】最近GaN、GaAlN、InGaN、InAlGaN等の窒化ガリウム系化合物半導体を用いた発光素子が注目されている。その窒化ガリウム系化合物半導体は一般にサファイア基板の上に成長される。サファイアのような絶縁性基板を用いた発光素子は、他のGaAs、GaAlP等の半導体基板を用いた発光素子と異なり、基板側から電極を取り出すことが不可能であるため、半導体層に設けられる正、負、一対の電極は同一面側に形成される。特に窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の場合、サファイアが透光性であるため、電極面を下にして、サファイア基板側を発光観測面とすることが多い。
【0003】窒化ガリウム系化合物半導体を発光チップとする従来の一発光素子の構造を図1に示す。サファイア基板1の上にn型窒化ガリウム系化合物半導体層2(以下、n型層2という。)とp型ドーパントがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体層3(以下、p型層3という。)とが順に積層され、さらにp型層3の一部をエッチングして、n型層2を露出させ、n型層2に負電極としてn型電極4、p型層に正電極としてp型電極5を形成した後、電極面を下にしてリードフレーム7にそれぞれの電極がまたがるようにして載置している。なお電極4、5とリードフレーム7とは半田、銀ペースト等の導電性材料6で電気的に接続されている。この図に示すように従来の発光素子は、p型電極4をp型層表面のほぼ全面に形成することにより電流を均一に広げることができ、均一な発光が得られる反面、発光がp型電極5で遮られ、外部量子効率が悪くなるため、発光をできるだけ有効に外部に取り出す目的で透光性基板であるサファイア1を発光観測面としている。
【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような構造の発光素子は、両リードフレーム7間の間隔を狭くすることが困難であるため、チップサイズが約1mm以上と大きくなるため、一枚あたりのウエハーからとれるチップ数が少なくなるという欠点がある。また、リードフレーム間の非常に細かい位置設定、窒化ガリウム系化合物半導体の精巧なエッチング技術等を必要とするため、歩留が上がらず量産性に乏しいという欠点もある。窒化ガリウム系化合物半導体以外の半導体材料を用いた発光素子のように、基板側を下にしてn型電極、p型電極の両電極を上から取り出すことができれば、チップサイズを小さくできると共に、発光素子の生産性、信頼性を格段に向上させることができる。そのためには、p層3に形成する電極を透光性にして、窒化ガリウム系化合物半導体層内部の発光を遮らないようにする必要がある。
【0005】従って本発明はこのような事情を鑑みなされたもので、その目的とすることは最上層であるp層に形成する電極を透光性にして、発光素子の外部量子効率を向上させると共に、窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面として、上から電極を取り出すことにより、発光素子の生産性を向上させることにある。
【0006】【課題を解決するための手段】本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とするpn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgがドープされたp型GaN層のほぼ全面に、アニーリング処理によりオーミック接触が得られると共に、膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、Cr、Ni、Au、Ti、Ptの内の2種類を含む合金からなる、透光性の電極が形成されていることを特徴とする。
【0007】本発明の方法において、p層に蒸着する金属には、例えばAu、Ni、Pt、In、Cr、Tiの電極材料を使用することができ、特に好ましいオーミック接触が得られる材料としてCr、Ni、Au、Ti、Ptの内の少なくとも2種類を含む合金を使用することが好ましい。また、金属を蒸着するにあたり、蒸着膜厚は特に問うものではないが、蒸着後500℃以上のアニーリングを行った後、その金属電極の膜厚が0.001μm?1μmの範囲になるように蒸着することが好ましい。前記アニーリングにより、蒸着された金属はp層内部に拡散すると共に、一部外部に飛散して膜厚が薄くなる。アニーリング後に最終的な電極膜厚を0.001μm?1μmの範囲に調整することにより、電極を好ましく透光性とすることができる。1μm以上で形成しても特に支障はないが、電極が次第に金属色を帯びてくる傾向にあり透光性が悪くなる。電極は前記範囲内で薄いほど好ましいが、あまり薄くしすぎると接触抵抗が大きくなる傾向にあるため、0.01μm?0.2μmの範囲がさらに好ましい膜厚である。
【0008】アニーリングは500℃以上で行う必要がある。なぜなら、この温度以下であると、金属電極とp層とのオーミック接触が得られにくく、金属電極も透光性になりにくいからである。温度の上限は特に限定しないが、窒化ガリウム系化合物半導体が分解する温度以下(1100℃前後)で行うことは当然である。
【0009】【作用】本発明の一実施例により形成された透光性電極を具備する発光素子の構造を図2に示す。p層3の上に透光性電極5’が形成されているため、従来のようにサファイア基板1を発光観測面とせずに、窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とすることができる。さらに、窒化ガリウム系化合物半導体以外の発光素子の集光手段として一般に用いられているカップ形状のリードフレームが使用でき、集光性能が格段に向上する。さらに、一つのリードフレーム上に1チップが載置できるため、チップサイズをリードフレームの大きさに合わせて小さくできるという利点を有する。さらにまた、この図に示すように透光性電極5’の上にワイヤーボンディング用の電極を設けることによって、上(発光観測面)側から電極を取り出すことができるため生産性も格段に向上する。」

2 上記1によれば、本件訂正明細書には、本件訂正発明の技術的意義に関して、概略、以下の事項が記載されていることが認められる。
「従来の発光素子は、p型電極4をp型層表面のほぼ全面に形成することにより電流を均一に広げることができ、均一な発光が得られる反面、発光がp型電極5で遮られ、外部量子効率が悪くなるため、発光をできるだけ有効に外部に取り出す目的で透光性基板であるサファイア1を発光観測面としていたが、
このような構造の発光素子は、両リードフレーム7間の間隔を狭くすることが困難であるため、チップサイズが約1mm以上と大きくなるため、一枚あたりのウエハーからとれるチップ数が少なくなるという欠点や、
リードフレーム間の非常に細かい位置設定、窒化ガリウム系化合物半導体の精巧なエッチング技術等を必要とするため、歩留が上がらず量産性に乏しいという欠点があったため、
窒化ガリウム系化合物半導体以外の半導体材料を用いた発光素子のように、基板側を下にしてn型電極、p型電極の両電極を上から取り出すことができるようにして、
チップサイズを小さくできると共に、発光素子の生産性、信頼性を格段に向上させるために、
p層3に形成する電極を透光性にして、窒化ガリウム系化合物半導体層内部の発光を遮らないように、
本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とするpn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgがドープされたp型GaN層のほぼ全面に、アニーリング処理によりオーミック接触が得られると共に、膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、Cr、Ni、Au、Ti、Ptの内の2種類を含む合金からなる、透光性の電極が形成されている。」

第8 無効理由についての当審の判断
1 無効理由4について
事案にかんがみて、無効理由4についてまず検討する。
(1)請求人は、本件訂正発明の構成要件「Mgがドープされたp型GaN層のほぼ全面に、アニーリング処理によりオーミック接触が得られると共に、膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金である、透光性の電極が形成されている」について、以下のように主張する。
ア 旧特許法に関する特許・実用新案審査基準「第1章明細書の記載要件」、「3.3.1 第36条第5項第2号違反の類型」において、「(12)請求項の記載において、以下のような表現があり、その結果、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が不明確になる場合。」として、「○3(丸付数字)『やや比重の大なる』、『はるかに大きい』、『低温』、『高温』などの比較の基準、程度が不明瞭な表現を用いた表現。」と記載されている(審判請求書54頁8?13行)。
イ 本件特許発明においては、p型GaN層の「ほぼ全面に」透光性の電極が形成されていることが構成要件となっているが、「ほぼ全面に」という「基準、程度が不明瞭な表現」を用いている。その結果、特許請求の範囲の記載からは、p型GaN層のどの程度に透光性の電極を形成すれば、「ほぼ全面に」といえ、どの程度形成した場合には、「ほぼ全面に」とはいえないのか不明となっている(審判請求書54頁15?19行)。
ウ 本件特許発明の構成要件における「ほぼ全面に」は不明確であり本件特許の請求項1に係る発明は不明確であるので、本件訂正明細書の特許請求の範囲には特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されているものとは認められず、本件特許出願は旧特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていないものである(審判請求書54頁21?25行)。
(2)しかるに、上記第7、2のとおり本件訂正明細書には、
「両リードフレーム7間の間隔を狭くすることが困難であるため、チップサイズが約1mm以上と大きくなるため、一枚あたりのウエハーからとれるチップ数が少なくなるという欠点や、リードフレーム間の非常に細かい位置設定、窒化ガリウム系化合物半導体の精巧なエッチング技術等を必要とするため、歩留が上がらず量産性に乏しいという欠点があった」従来の「窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」において、「基板側を下にしてn型電極、p型電極の両電極を上から取り出すことができるようにして、チップサイズを小さくできると共に、発光素子の生産性、信頼性を格段に向上させる」ために、「窒化ガリウム系化合物半導体以外の半導体材料を用いた発光素子のように」、「p層3に形成する電極を透光性にして、窒化ガリウム系化合物半導体層内部の発光を遮らないように」「Mgがドープされたp型GaN層のほぼ全面に、アニーリング処理によりオーミック接触が得られると共に、膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、Cr、Ni、Au、Ti、Ptの内の2種類を含む合金からなる、透光性の電極が形成されている」ことで「p型電極4をp型層表面のほぼ全面に形成することにより電流を均一に広げることができ、均一な発光が得られる」ことが記載されていると認められる。
(3)上記のとおり、本件訂正明細書には、「p型電極をp型層表面のほぼ全面に形成することにより電流を均一に広げることができ、均一な発光が得られる」ことが記載されていることに照らせば、本件訂正発明において、「電流を均一に広げ」て、「均一な発光が得られる」範囲において、「p型GaN層のほぼ全面に、アニーリング処理によりオーミック接触が得られると共に、膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金である、透光性の電極が形成されている」とは、「電流を均一に広げ」て「均一な発光」を得ることができる程度の広さの範囲にわたってp型電極をp型層表面に形成するものと解することができ、その技術的な内容が明確でないということはできない。
したがって「ほぼ全面に」が明確でないとはいえず、本件訂正発明における「ほぼ全面に」との記載が、旧特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていないとはいえない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。

2 無効理由1について
(1)甲号証の記載
ア 甲第1号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平3-183173号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「発光層及び該発光層の両面上に形成された電荷注入層を有する発光素子において、該発光層が水素原子を含む非単結晶炭化シリコンで構成されており、該電荷注入層が不純物を含有する窒化ガリウムで構成されていることを特徴とする発光素子。」(特許請求の範囲)
(イ)「第1図は本発明の発光素子の概念的模式図である。本発明の発光素子100は、下部より基体101、第一導電層102、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第一電荷注入層103、水素原子を含有し、必要に応じてハロゲン原子を含有する非単結晶炭化シリコンで構成された発光層104、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層105、第二導電層106が順次積層された構造を有し、更にコンタクト電極107、109及びリード線108、110が設けられている。」(2頁左上欄13行?右上欄3行)
(ウ)「第二導電層106の材質としては、例えば、Ni、Cr、Al、In、Sn、Mo、Ag、Au、Nb、Ta、V、Ti、Pt、Pb等の金属の単体またはこれらの合金、例えばステンレス鋼、あるいは酸化物、例えばIn_(2)O_(3)、ITO(In_(2)O_(3)+SnO_(2))等が挙げられる。」(2頁左下欄8?12行)
(エ)「第二電荷注入層105は窒化ガリウムで構成され、各々異なる不純物が添加されており、その結果として電荷注入機能を有している。本発明において第一電荷注入層103及び第二電荷注入層105を構成する窒化ガリウム膜は、膜中の欠陥が極めて少ないために電荷注入効率が高いという特徴を有している。」(2頁右下欄1?7行)
(オ)「第二電荷注入層105に導入される不純物としては、ベリリウム原子(Be)、マグネシウム原子(Mg)、亜鉛原子(Zn)、カドミウム原子(Cd)、炭素原子(C)、ケイ素原子(Si)、ゲルマニウム原子(Ge)、イオウ原子(S)、セレン原子(Se)等の単独、あるいはこれらのうちの2種以上を混合したものが挙げられる。」(3頁左上欄2?9行)
(カ)「本発明において使用される第二導電層は、基体101側に光を放出する場合には、透光性であっても、非透光性であってもよい。第二導電層側に光を放出する場合は、第二導電層は透光性であることが望ましい。」(4頁右下欄下2行?5頁左上欄3行)
(キ)第1図は、次のものである。

イ 甲第2号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平5-63236号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「MgドープGaNからなるp型層3」(3頁3欄5?6行)
(イ)「また、本発明の青色発光ダイオードにおいて、前記p型層3をアニーリング、または電子線照射によって600℃より高い温度で加熱することにより、さらに、低抵抗なp型層とすることができ、シングルヘテロ構造の高効率青色発光ダイオードを実現することができる。」(3頁3欄35?40行)
ウ 甲第3号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証「Thermal Annealing Effects on P-Type Mg-Doped GaN Films」には、以下の記載がある。
(ア)「In this paper, thermal annealing, which was performed for Mg-doped GaN films in order to obtain a highly p-typed GaN film, is described for the first time.」(L139頁右欄8?10行。和訳:「この紙面には、高度にp型化されたGaN膜を得るためにMgがドープされたGaN膜に行われた熱アニーリングが初めて記載されている。」)
(イ)「In summary, low-resistivity p-type GaN films were obtained by N_(2)-ambient or vacuum-ambient thermal annealing above 700℃, for the first time. Before thermal annealing, the resistivity of Mg-doped GaN films was approximately 1×10^(6)Ω・cm. After thermal annealing at temperatures above 700℃, the resistivity, hole carrier concentration and hole mobility became 2Ω・cm, 3×10^(17)/cm^(3) and 10cm^(2)/ Vs, respectively.」(L142頁左欄1?8行。和訳:「総括すると、低抵抗p型GaN膜はN_(2)雰囲気又は真空雰囲気の700℃超における熱アニーリングにより、初めて得られた。熱アニーリング前は、MgがドープされたGaN膜の抵抗は約1×10^(6)Ω・cmであった。700℃超における熱アニーリング後は、抵抗、正孔キャリア濃度及び正孔可動性はそれぞれ2Ω・cm、3×10^(17)/cm^(3)及び10cm^(2)/V秒であった。」)
エ 甲第4号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証「Fabrication and Properties of GaN P-N Junction LED」には、以下の記載がある。
「P-type GaN can be achieved by the Mg-doping and the succeeding LEEBI treatment.」(167頁7?8行。和訳:「p型GaNはMgドープ及びそれに続くLEEBI処理により達成されることができる。」)
オ 甲第5号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証「GaNpn接合青色・紫外発光ダイオード」には、以下の記載がある。
(ア)「最近、われわれはマグネシウム(M)ドープ高抵抗GaN(GaN:Mg)に電子線を照射すると電気的特性が変化し、比抵抗数十Ω・cm程度のp型結晶となることを見いだした。」(163頁右欄8?11行)
(イ)「GaN:Mgを約0.5μm育成したのち、表面から電子線照射処理する。」(165頁右欄2?3行)
(ウ)「p層の電極は金(Au)によりオーム性接触を形成する。」(165頁右欄9?10行)
カ 甲第6号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証「P-Type Conduction in Mg-Doped GaN Treated with Low-Energy Electron Beam Irradiation(LEEBI)」には、以下の記載がある。
「The GaN:Mg film treated with LEEBI clearly shows the p-type conduction with resistivity of?35Ω・cm.」(L2113頁13?15行。和訳:「LEEBIで処理されたGaN:Mg膜は、35Ω・cmの抵抗のp型導電性を明らかに示す。」)
キ 甲第7号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証(特開平4-199752号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「第6図に本発明の第6の実施例を示す。第6図はGaN/GaN接合型発光素子を構成した例であり」(9頁左上欄8?10行)
(イ)「電極形成用の金属元素としてはAlに限って説明したがその他In, Ga, Ni, Ti, Cu, Au, Ag, Cr, Si, Ge等の単体あるいは混合金属膜のいづれもがオーミック用電極として適用可能であることは明らかである。」(10頁左上欄下5行?右上欄1行)
(ウ)第6図は、次のものである。

ク 甲第8号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証(特開昭49-29770号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「p-n接合を含むGaNを成長させ、発光ダイオードを作った。」(3頁左上欄5?6行)
(イ)「p層には、Au-Znを蒸着し、約600℃で30分加熱して抵抗性電極とした。」(3頁右上欄8?9行)
ケ 甲第9号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第9号証(特開昭49-29771号公報)には、以下の記載がある。
「次にこのGaNp-n接合を用いて発光ダイオードを作った。・・・p層側にはZn-Auを蒸着してから約500℃で30分加熱し、抵抗性電極とした。」(3頁左上欄14?19行)
コ 甲第10号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第10号証(特開平4-68579号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「本発明の第2の実施例を第2図に示す。第2図はGaN紫外光発光素子の構成法を説明するものであり、同図において・・・12、13はそれぞれGaNエピタキシャル膜であり・・・GaN:Mg層13は発光層12とほぼ同様の真空条件、分子ビーム条件と、不純物としてのMg分子ビーム強度3×10^(-10)Torrにて成膜した2μm厚、p型抵抗率10Ω・cm、キャリヤ濃度6×19^(-16)cm^(-3)の低抵抗p型エピタキシャル膜である」(6頁左上欄7行?左下欄1行)
(イ)「電極形成用の金属元素としてはAlに限って説明したがその他In, Ga, Ni, Ti,Cu, Au, Ag, Cr, Si, Ge等の単体あるいは混合金属膜のいづれもがオーミック用電極として適用可能であることは明らかである。」(8頁左下欄11?15行)
(ウ)第2図は、次のものである。

サ 甲第11号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第11号証(特開昭50-42785号公報)には、以下の記載がある。
「GaN層2?5にIn電極6をそれぞれ焼き付ける。焼付はN_(2)気流中で400?450℃で約30分間おこなった。」(2頁左下欄下1?右下欄2行)
シ 甲第12号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第12号証(特開平5-13812号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「図1は本実施例の発光ダイオードの構造を示す断面図である。・・・(中略)・・・p型炭化珪素層3の上面には、下側をチタン膜、上側をアルミニウム膜として積層された金属膜7がほぼ全面に形成され、この金属膜7の上の中央部にはアルミニウム電極8が設けられている。」(3頁3欄12?25行)
(イ)「p型炭化珪素層3上に、例えば真空蒸着法によりチタン(Ti)膜を30nm、アルミニウム(Al)膜を50nm堆積して金属膜7を形成した。この金属膜7はp側オーム性電極であり、p型炭化珪素層3との良好なオーム性を得るために、形成後に1000℃のアルゴン雰囲気中で5分の熱処理を行った。」(3頁4欄32?38行)
(ウ)「上記アルミニウム電極8とオーム性電極6との間に順方向の電流を通電すると、炭化珪素基板1側からp型炭化珪素層3側へ向かって発光する。」(3頁4欄46行?49行)
(エ)「また、p型炭化珪素層3の上に形成したオーム性電極が光透過性を有する金属膜7からなっている」(4頁5欄8?9行)
(オ)「なお、金属膜7の各膜の厚みとしては、チタン膜については3nm以上200nm以下とし、アルミニウム膜については10nm以上200nm以下とする。その理由は、下限を下回るとシート抵抗の確保が困難となり、上限を上回ると光の透過性が悪化するためである。」(4頁5欄22?27行)
(カ)第1図は、次のものである。

ス 甲第13号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第13号証(特開昭61-87381号公報)には、以下の記載がある。
「オーミックコンタクトをとるためには、例えば、p形リン化ガリウム又はp形硫化亜鉛上に選択的に亜鉛、金、ニッケルをスパッタ法又は蒸着法で付着させ、高温にてシンタリングし」(3頁左下欄11?14行)
セ 甲第15号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第15号証(特開昭56-81986号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「本発明は、透明な薄膜電極を発光体表面全面に付着することにより電流の広がりをよくし、ダイオードの面発光出力を増加させるようにした」(2頁右上欄10?12行)
(イ)「第6図において面発光ダイオード10は後述の合金薄層17を除き、第1図に示したものと同様に構成されており、11はp形GaAs基板、12はp形Ga_(1-x)Al_(x)As発光層、13はn形Ga_(1-y)Al_(y)As窓層(y>x)、14はn側オーミック電極である。」(2頁左下欄11?16行)
(ウ)「合金薄層17は注入される電流を横方向(窓層3の表面に沿う方向)に十分広がらせる一方、pn接合15からの発光を吸収することなく透過させる厚さでなければならない。合金薄層17の厚さが100Å末満では前者の条件を満たさず、また300Å以上の厚さでは後者の条件に対して不適合であり合金薄層17のために発光が遮蔽されしまうため、この合金薄層17の厚さは100Åないし300Åでなければならない。」(2頁右下欄12行?末行)
(エ)第6図は、次のものである。

ソ 甲第16号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第16号証(特開昭49-122294号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「最後、酸化インジウムの錫添加層10がSiO_(2)層6上に及び窓8を経てGaN層2上ヘリアクティブにスパッタされた。この様な酸化インジウムは厚さが1000-5000Åの程度である。酸化インジウム10は装置に対する透明上方コンタクトとして働き、ケイ素基板4は下方電気コンタクトである。いずれかの極性の十分な電圧が上方及び下方コンタクト10及び4間に印加される時、光が窓8及び透明な酸化インジウム10から均一に放出される。」(2頁左下欄7?16行)
(イ)「例えば、この様な薄膜は酸化インジウム、酸化錫、酸化銅、極めて薄いAu若しくはAlの如き半透明金属で形成され得」(3頁左上欄4?6行)
(ウ)Fig.1は、次のものである。

タ 甲第17号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第17号証(特開昭51-85384号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「In_(2)O_(5)被膜13は低抵抗電極として素子全面に均一な電流を印加すると同時に、半導体より発せられる光に対し透明であり外部に吸収なくとり出せる。」(2頁左下欄下5行?下2行)
(イ)「付設酸化膜の膜厚は2000Åである。」(3頁左上欄6?7行)
(ウ)第3図(F)は、次のものである。

(2)甲第1号証に記載された発明
前記(1)アによれば、甲第1号証には以下の発明が記載されているものと認められる。
「下部より基体、第一導電層、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第一電荷注入層、水素原子を含有し、必要に応じてハロゲン原子を含有する非単結晶炭化シリコンで構成された発光層、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層、第二導電層が順次積層された構造を有し、更にコンタクト電極及びリード線が設けられている発光素子であって、
第二導電層の材質としては、例えば、Ni、Cr、Al、In、Sn、Mo、Ag、Au、Nb、Ta、V、Ti、Pt、Pb等の金属の単体またはこれらの合金、例えばステンレス鋼、あるいは酸化物、例えばIn_(2)O_(3)、ITO(In_(2)O_(3)+SnO_(2))等が挙げられ、
第二電荷注入層は窒化ガリウムで構成され、各々異なる不純物が添加されており、その結果として電荷注入機能を有していて、
第一電荷注入層及び第二電荷注入層を構成する窒化ガリウム膜は、膜中の欠陥が極めて少ないために電荷注入効率が高く、
第二電荷注入層に導入される不純物としては、ベリリウム原子(Be)、マグネシウム原子(Mg)、亜鉛原子(Zn)、カドミウム原子(Cd)、炭素原子(C)、ケイ素原子(Si)、ゲルマニウム原子(Ge)、イオウ原子(S)、セレン原子(Se)等の単独、あるいはこれらのうちの2種以上を混合したものが挙げられ、
第二導電層は、基体側に光を放出する場合には、透光性であっても、非透光性であってもよく、第二導電層側に光を放出する場合は、第二導電層は透光性であることが望ましい、該発光層が水素原子を含む非単結晶炭化シリコンで構成されており、該電荷注入層が不純物を含有する窒化ガリウムで構成されている発光素子。」(以下「甲1発明」という。)
(3)本件訂正発明と甲1発明との対比、判断
ア 甲1発明は、「下部より基体、第一導電層、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第一電荷注入層、水素原子を含有し、必要に応じてハロゲン原子を含有する非単結晶炭化シリコンで構成された発光層、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層、第二導電層が順次積層された構造を有し、更にコンタクト電極及びリード線が設けられている」発光素子であって、「第二導電層側に光を放出する場合は、第二導電層は透光性である」、「該発光層が水素原子を含む非単結晶炭化シリコンで構成されており、該電荷注入層が不純物を含有する窒化ガリウムで構成されている発光素子」であるから、甲1発明は、「不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層側に光を放出する、発光層が水素原子を含む非単結晶炭化シリコンで構成されており、該電荷注入層が不純物を含有する窒化ガリウムで構成されている発光素子において、第二導電層は透光性である、発光層が水素原子を含む非単結晶炭化シリコンで構成されており、該電荷注入層が不純物を含有する窒化ガリウムで構成されている発光素子」であるといえる。
さらに、甲1発明の「不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層」は本件訂正発明の「窒化ガリウム系化合物半導体層」に相当し、甲1発明の「『水素原子を含む非単結晶炭化シリコン』及び『不純物を含有する窒化ガリウム』」は本件訂正発明の「化合物半導体」に相当するから、甲1発明は、「窒化ガリウム系化合物半導体層側に光を放出する、化合物半導体で構成されている発光素子において、第二導電層は透光性である化合物半導体で構成されている発光素子」であるといえる。
そうすると、本件訂正発明と甲1発明は、
「窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とする化合物半導体発光素子において、透光性の電極が形成されている化合物半導体発光素子。」
である点で一致し、
(ア)本件訂正発明の「化合物半導体発光素子」は、「pn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」であるのに対して、甲1発明の「化合物半導体で構成されている発光素子」は、「不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第一電荷注入層、水素原子を含有し、必要に応じてハロゲン原子を含有する非単結晶炭化シリコンで構成された発光層、不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層側に光を放出する発光素子」である点(以下「相違点1」という。)、及び、
(イ)本件訂正発明の「(透光性の)電極」は、「Mgがドープされたp型GaN層のほぼ全面に」形成されている、「アニーリング処理によりオーミック接触が得られると共に、膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金である」のに対して、甲1発明の「(透光性であることが望ましい)第二導電層」は、このようなものであるのか明らかではない点(以下「相違点2」という。)、
で相違するものと認められる。
イ 上記相違点1について検討する。
甲1発明は「不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第一電荷注入層」、「水素原子を含有し、必要に応じてハロゲン原子を含有する非単結晶炭化シリコンで構成された発光層」及び「不純物を含有する窒化ガリウムで構成された第二電荷注入層」を含むものであって、発光素子としての基本的構造が「pn接合型」といえるものとは認められないものであるから、これを「pn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」に変えることは想定できない。
ウ してみると、上記相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明が、甲1発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

3 無効理由2について
(1)甲号証の記載
ア 甲第4号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証「Fabrication and Properties of GaN P-N Junction LED」には、以下の記載がある。
(ア)「GaN p-n junction LED has been achieved for the first time.」(165頁7?8行。和訳:「初めて、GaNpn接合LEDが得られた。」)
(イ)「At first, Si-doped n-type GaN about 3μm thick was grown on the AlN buffer layer. And then, some portion of the surface of the n-type GaN was covered by the SiO_(2). No deposition or deposition of only small hillock of the polycrystalline GaN occurred on the SiO_(2). Therefore, it is easy to grow selectively Mg-doped GaNon the unmasked area. Mg-doped GaN about 0.5μm thick grown on the unmasked area, was treated with LEEBI. Formation of the p-n junction wasconfirmed by electron beam induced current measurement. Al was used for ohmic contact to n-layer and Au was used for ohmic contact to p-layer. Schematic viewgraph of the cross section of the p-n junction LED is shown in Fig.2.」(167頁下10行?末行。和訳:「まず、Siがドープされたn型GaNを、AlN緩衝層上に約3μmの厚さで成長させた。次に、n型GaNの表面のある部分を、SiO_(2)で被覆したSiO_(2)上に発生した多結晶GaNの堆積は全くなかった、あるいは小さいヒロック(突起部)程度に過ぎなかった。したがって、MgがドープされたGaNを、マスクされていない領域に選択的に成長させることは、容易である。Mgがドープされた厚さ約0.5μmのGaNを、マスクされていない領域に成長させ、LEEBI(低速電子線照射)により処理した。電子線励起電流測定により、pn接合の形成を確認した。n層へのオーミック接触にはAlを使用し、p層へのオーミック接触にはAuを使用した。pn接合LEDの断面概略図が、図2に示されている。」
(ウ)Fig.2は、次のものである。

イ 甲第1、3、7、10、12、15?17号証の記載については上記2(1)ア、ウ、キ、コ、シ、セ?タのとおりである。
ウ 甲第21号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第21号証(特開昭62-101089号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「金電極○19(丸付数字)を発光が取り出せる程度の厚さの部分と電極の取り出しが可能な程度の厚さの部分とができるよう形成する。」(2頁右下欄末行?3頁左上欄3行)
(イ)第2図は、次のものである。

エ 甲第22号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第22号証(特開昭63-244689号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「本発明のダイオードは、光とりだし側の上部電極が透明導電膜により構成されている。」(2頁左上欄下5?下4行)
(イ)「Au,Alなどの金属膜9を透明上部電極8に形成している。」(2頁右上欄6?7行)
(ウ)第1図は、次のものである。

オ 甲第23号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第23号証(特開平3-183171号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「第1図は本発明の発光素子の基本的な構成を示す図であり、本発明の発光素子100は、下部より・・・結晶質ヒ素化アルミニウムで構成された第二電荷注入層105、第二導電層106の順序で積層構成され」(2頁右上欄13行?左下欄2行)
(イ)「第二導電層側に光を放出する場合には,第二導電層は透明導電膜が好ましい。第二導電層に使用される導電材料は,第一導電層と同一の材料を同一の方法で堆積させることができる。」(6頁左下欄4?9行)
(ウ)「本発明において使用される第一導電層としては、例えば、NiCr,ステンレス、Al, Cr, Mo, Al, Nb, Ta, V, Ti, Pt, Pb, Ag等の金属またはこれらの合金が挙げられる。」(2頁右下欄9?12行)
(エ)第1図は、次のものである。

カ 甲第24号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第24号証(特開平3-183172号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「第1図は本発明の発光素子の概念的模式図である。本発明の発光素子100は、下部より・・・リン化ガリウムで構成された第二電荷注入層105、第二導電層106が順次積層された構造を有し・・・」(2頁左上欄14行?右上欄2行)
(イ)「本発明において使用される第一導電層102及び第二導電層106の材質としては,例えば. Ni, Cr, Al, In, Sn, Mo, Ag, Au, Nb, Ta, V, Ti, Pt, Pb等の金属の単体またはこれらの合金・・・が挙げられる。」(2頁左下欄8?13行)
(ウ)「第二導電層側に光を放出する場合は,第二導電層は透光性であることが望ましい。」(5頁右上欄2?3行)
(エ)第1図は、次のものである。

キ 甲第25号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第25号証(特開昭57-10280号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「2は、前記基板1上に被着されて、発光素子の一方の電極となる透明導電膜であり」(2頁右上欄4?5行)
(イ)第1図は、次のものである。

ク 甲第26号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第26号証(特開昭63-311777号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「本発明では、具備する受光素子の受光面側の電極を透明電極とすることにより、この受光素子に効率よく電流を流人させると同時に、発光も効率よく外部に放出される。」(2頁左上欄11?14行)
(イ)「内部にPN接合が形成されているLED素子1の発光面側には、SnO_(2)の透明電極膜2がほぼ全面に形成され」(2頁左上欄下2行?右上1行)
(ウ)第1図は、次のものである。

ケ 甲第27号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第27号証(実開昭61-144659号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「pn接合面を有する光半導体装置において、発光面の金属電極をワイヤボンデイングに必要な最少限度の大きさの単純形状とすると共に、該金属電極及び上記発光面の他の部分に透明導電材をオーミツク接合状態で被着させて成ることを特徴とする光半導体装置。」(実用新案登録請求の範囲)
(イ)第1図は、次のものである。

コ 甲第28号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第28号証(特開昭59-28384号公報)には、以下の記載がある。
「金属薄膜より成る透明導電膜2を形成し、その上にp-i-n、n-i-p、ショットキバリアなどの半導体接合を持つ非晶質シリコン層3を1μm程度の厚さで、・・・形成する。」(1頁右欄8?12行)
(2)甲第4号証に記載された発明
前記(1)アによれば、甲第4号証には以下の発明が記載されているものと認められる。
「まず、Siがドープされたn型GaNを、AlN緩衝層上に約3μmの厚さで成長させ、次に、n型GaNの表面のある部分を、SiO_(2)で被覆し、Mgがドープされた厚さ約0.5μmのGaNを、マスクされていない領域に成長させ、LEEBI(低速電子線照射)により処理し、n層へのオーミック接触にはAlを使用し、p層へのオーミック接触にはAuを使用した、GaNpn接合LED。」(以下「甲4発明」という。)
(3)本件訂正発明と甲4発明との対比、判断
ア 甲4発明は、「Siがドープされたn型GaN」と「Mgがドープされた厚さ約0.5μmのGaN」からなる「GaNpn接合LED」であって、「n層へのオーミック接触にはAlを使用し、p層へのオーミック接触にはAuを使用した」ものであるから、「Mgがドープされた厚さ約0.5μmのGaN」は「p層」であるといえる。したがって、甲4発明は、本件訂正発明の「pn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」との構成を備える。
また、甲4発明は「Mgがドープされた厚さ約0.5μmのGaNを、マスクされていない領域に成長させ、・・・p層へのオーミック接触にはAuを使用した」ものであるから、甲4発明は、本件訂正発明の「Mgがドープされたp型GaN層にオーミック接触が得られる電極が形成されている」構成を備える。
そうすると、本件訂正発明と甲4発明は、
「pn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgがドープされたp型GaN層にオーミック接触が得られる電極が形成されている窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」
である点で一致し、
(ア)本件訂正発明の「pn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」は、「窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とする」ものであって、「(Mgがドープされたp型GaN層のオーミック接触が得られる)電極」は、「ほぼ全面に形成」され、「透光性」であるのに対して、甲4発明の「GaNpn接合LED」は、「窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とする」か否か明らかではなく、甲4発明の「(Mgがドープされた厚さ約0.5μmのGaNを、マスクされていない領域に成長させ、p層へのオーミック接触にはAuを使用した)Au」は、「ほぼ全面に」形成されているか否か、さらには、「透光性」であるか否か明らかではない点(以下「相違点3」という。)、及び、
(イ)本件訂正発明の「pn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」の「(Mgがドープされたp型GaN層のオーミック接触が得られる)電極」は、「アニーリング処理」され、「膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金」であるのに対して、甲4発明の「GaNpn接合LED」の「(Mgがドープされた厚さ約0.5μmのGaNを、マスクされていない領域に成長させ、p層へのオーミック接触にはAuを使用した)Au」は、「アニーリング処理」するか否か、「膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金である」か否か明らかではない点(以下「相違点4」という。)で相違するものと認められる。
イ 上記相違点3について検討する。
上記(1)ア(ウ)のFig.2によれば、甲4発明の「(Mgがドープされた厚さ約0.5μmのGaNを、マスクされていない領域に成長させ、p層へのオーミック接触にはAuを使用した)Au」は、電極として「(Mgがドープされた厚さ約0.5μmのGaN)p型GaN」層の相当程度の部分を覆っているものと推測される。
しかして、金属である「Au」からなる電極層は通常は格別透光性を有するものではなく、Fig.2において一定程度の厚みを持つように描かれていることにも照らせば、上記「Au」電極で覆われている上記「p型GaN」層側が発光面であるとは認め難い。
そして、甲4発明において、発光面ではない上記「p型GaN」層側の「Au」電極を、上記「p型GaN」層の「ほぼ全面」に形成した上で、これを「透光性の電極」とする理由は想定し難く、かかる構成とすることが、当業者にとって容易に想到し得ると認めるに足る証拠は、本件各証拠を通じてみても見いだすことができないから、甲4発明の上記「p型GaN」層側の電極を、上記「p型GaN」層のほぼ全面に形成する透光性の電極とすることが容易に想到できたとすることはできない。
ウ してみると、上記相違点4について検討するまでもなく、本件訂正発明が、甲4発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすること
ができたものということはできない。

4 無効理由3について
(1)甲号証の記載
ア 甲第7号証の記載
本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証(特開平4-199752号公報)には、以下の記載がある。
(ア)「第5図はAlInN/GaN超格子型接合層42を介してGaN発光層41にAlInN40注入層を構成した例である。同図に於いて、基板32、ならびに基板側の層2、3はAlInN層40およびAlInN/GaN超格子型接合層42の有するバンド端エネルギーに対して透明であり、AlInN/GaN/(AlInN/GaN SLS)型発光素子からの375?435nmにわたる発光は、素子構成全体としては、基板32側を含めて全方向から取り出すことが可能である。」(8頁右下欄13行?9頁左上欄2行)
(イ)「第6図に本発明の第6の実施例を示す。第6図はGaN/GaN接合型発光素子を構成した例であり、AlInN緩衝層50を介して超高輝度GaN青色発光素子の構成が可能であることを示している。本実施例の素子は印加電圧4Vにて100mA間での電流を安定に流すことができ、しかも従来例2に示した従来素子に比較して、発光層が微量Znの添加において制御性良く製作されるため発光ピーク波長480nmとした場合でも発光輝度は50mcdを超える。本実施例の素子構成は従来素子の特性と直接比較することができ、動作電圧の低電圧化、発光輝度の大幅な向上をはかることが可能となった。」(9頁左上欄8行?末行)
(ウ)「また、GaN、InGaNについてはn型不純物元素としてIV族元素のC,Si,Ge,Sn等、VI族元素のO,S,Se,Te等が適用可能であり、p型不純物元素としてはIIa族、ならびにIIb族元素のBe,Zn,Cd,Hg,Mg等が適用され得ることは明らかである。」(10頁左上欄11行?下5行)
(エ)「電極形成用の金属元素としてはAlに限って説明したがその他In,Ga,Ni,Ti,Cu,Au,Ag,Cr,Si,Ge等の単体あるいは混合金属膜のいづれもがオーミック用電極として適用可能であることは明らかである。」(10頁左上欄下5行?右上欄1行)
(オ)第5図は、次のものである。

(カ)第6図は、上記2(1)キ(ウ)を参照。
(キ)上記(イ)ないし(エ)を踏まえて(カ)の第6図をみると、下記a及びbの点がみてとれる。
a GaN/GaN接合型発光素子は、下(基板側)から順に、ZnS(0001)基板32、ZnS/ZnO超格子層10、ZnO_(3)、AlInNn型エピタキシャル層50(AlInN緩衝層50)、GaNn型エピタキシャル層51、GaNp型エピタキシャル層52及びAl正電極6とからなる点、及び、ZnO_(3)の上に形成されたAl負電極7を備える点。
b GaNp型エピタキシャル層52上に形成されたAl正電極6はGaNp型エピタキシャル層52上面の一部のみを覆う点。
イ 甲第1、4、5、7?13、15?17号証の記載については上記2(1)ア、エ、オ、キ?ス、セ?タのとおりである。また、甲第21?28号証の記載については上記3(1)ウ?コのとおりである。
(2)甲第7号証に記載された発明
前記(1)アによれば、甲第7号証には以下の発明が記載されているものと認められる。
「基板側から順に、ZnS(0001)基板32、ZnS/ZnO超格子層10、ZnO_(3)、AlInNn型エピタキシャル層50(AlInN緩衝層50)、GaNn型エピタキシャル層51、GaNp型エピタキシャル層52及びAl正電極6と、ZnO_(3)の上に形成されたAl負電極7を備え、GaNp型エピタキシャル層52上に形成されたAl正電極6はGaNp型エピタキシャル層52上面の一部のみを覆うGaN/GaN接合型発光素子であって、
GaN、InGaNのp型不純物元素としてはIIa族、ならびにIIb族元素のBe,Zn,Cd,Hg,Mg等が適用され、
電極形成用の金属元素としてAl,In,Ga,Ni,Ti,Cu,Au,Ag,Cr,Si,Ge等の単体あるいは混合金属膜のいづれもがオーミック用電極として適用可能であるGaN/GaN接合型発光素子。」(以下「甲7発明」という。)
(3)本件訂正発明と甲7発明との対比、判断
ア 甲7発明は、「GaNn型エピタキシャル層51、GaNp型エピタキシャル層52」を備えた「GaN/GaN接合型発光素子」であるから、「pn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子」との構成を備える。
また、甲7発明はどの側が発光観測面であるのか明らかではないが、甲7発明と別の実施例ではあるものの、甲7発明と同様の構成の発光素子の発光に関して、甲第7号証の上記(1)ア(ア)に「発光素子からの375?435nmにわたる発光は、素子構成全体としては、基板32側を含めて全方向から取り出すことが可能である。」と記載されていることに照らして、甲7発明においても、窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とすることを妨げるものではない。
また、甲7発明は、「p型不純物元素としてIIa族、ならびにIIb族元素のBe,Zn,Cd,Hg,Mg等が適用され」るから、本件訂正発明の「Mgがドープされたp型GaN層」との構成を備える。
さらに、甲7発明は、「電極形成用の金属元素としてAl,In,Ga,Ni,Ti,Cu,Au,Ag,Cr,Si,Ge等の単体あるいは混合金属膜のいづれもがオーミック用電極として適用可能であ」るところ、「オーミック用電極」として適用可能であるとされるから、本件訂正発明の「オーミック接触が得られる電極が形成されている」との構成を備える。
イ そうすると、本件訂正発明と甲7発明とは
「窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とするpn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgがドープされたp型GaN層に、オーミック接触が得られる電極が形成されている窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。」
である点で一致し、
(ア)本件訂正発明の「(Mgがドープされたp型GaN層に、オーミック接触が得られる)電極」は、「(Mgがドープされたp型GaN層の)ほぼ全面」形成されている、「透光性の電極」であるのに対して、甲7発明の「(オーミック用電極として適用可能である)電極」は、「(GaNp型エピタキシャル層52上面の)一部のみを覆う」ものである点で相違し、また、「(GaNp型エピタキシャル層52上に形成された)Al正電極6」が「透光性」であるか明らかではない点(以下「相違点5」という。)、及び、
(イ)本件訂正発明の「(Mgがドープされたp型GaN層に、オーミック接触が得られる)電極」は、オーミック接触を得るために「アニーリング処理」を行うものであって、「膜厚0.001μm以上、0.2μm以下である、AuとNiとからなる合金またはPtとTiからなる合金である」であるのに対して、甲7発明の「(Mgがドープされたp型GaN層に、オーミック接触が得られる)電極」はこのようなものであるのか明らかではない点(以下「相違点6」という。)で相違するものと認められる。
ウ 上記相違点5について検討する。
甲7発明の「GaNp型エピタキシャル層52上面の一部のみを覆う」電極は「Al正電極6」である。しかして、金属である「Al」からなる電極層は通常は透光性を有するものではなく、甲7発明において「Al正電極6」を「GaNp型エピタキシャル層52」のほぼ全面に形成することは、発光観測面からの発光を妨げることになるから、このようにすることについて、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
さらに、甲7発明において、上記「Al」電極に関して、上記「GaNp型エピタキシャル層52上面」層の「一部のみを覆う」構成にかえて、「ほぼ全面」に形成するとともに、「透光性の電極」とすることが、当業者にとって容易に想到し得ると認めるに足る証拠は、本件各証拠を通じてみても見いだすことができないから、甲7発明の上記「GaNp型エピタキシャル層52」側の電極を、上記「GaNp型エピタキシャル層52」のほぼ全面に形成する透光性の電極とすることが容易に想到できたとすることはできない。
エ してみると、上記相違点6について検討するまでもなく、本件訂正発明が、甲7発明及び周知慣用技術に基づいて、当業者が容易に発明をすること
ができたものということはできない。

第9 むすび
以上のとおり、本件訂正発明は、甲1発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、また、甲4発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできず、さらに、甲7発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件訂正発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものということはできず、同法第123条第1項第2号に該当しない。
また、本件訂正明細書の記載が、旧特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていないものということはできないから、本件訂正発明についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当しない。
したがって、請求人が主張する理由によって、本件訂正発明についての特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
窒化ガリウム系化合物半導体発光素子
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とするpn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、
Mgがドープされたp型GaN層のほぼ全面に、アニ-リング処理によりオーミック接触が得られると共に、膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金である、透光性の電極が形成されていることを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体発光素子。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はInXAlYGal-X-YN(0≦X<1、0≦Y<1)で表される窒化ガリウム系化合物半導体を具備する窒化ガリウム系化合物半導体発光素子に係り、特にp型ドーパントがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体表面の電極に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近GaN、GaAlN、InGaN、InAlGaN等の窒化ガリウム系化合物半導体を用いた発光素子が注目されている。その窒化ガリウム系化合物半導体は一般にサファイア基板の上に成長される。サファイアのような絶縁性基板を用いた発光素子は、他のGaAs、GaAlP等の半導体基板を用いた発光素子と異なり、基板側から電極を取り出すことが不可能であるため、半導体層に設けられる正、負、一対の電極は同一面側に形成される。特に窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の場合、サファイアが透光性であるため、電極面を下にして、サファイア基板側を発光観測面とすることが多い。
【0003】
窒化ガリウム系化合物半導体を発光チップとする従来の一発光素子の構造を図1に示す。サファイア基板1の上にn型窒化ガリウム系化合物半導体層2(以下、n型層2という。)とp型ドーパントがドープされた窒化ガリウム系化合物半導体層3(以下、p型層3という。)とが順に積層され、さらにp型層3の一部をエッチングして、n型層2を露出させ、n型層2に負電極としてn型電極4、p型層に正電極としてp型電極5を形成した後、電極面を下にしてリードフレーム7にそれぞれの電極がまたがるようにして載置している。なお電極4、5とリードフレーム7とは半田、銀ペースト等の導電性材料6で電気的に接続されている。この図に示すように従来の発光素子は、p型電極4をp型層表面のほぼ全面に形成することにより電流を均一に広げることができ、均一な発光が得られる反面、発光がp型電極5で遮られ、外部量子効率が悪くなるため、発光をできるだけ有効に外部に取り出す目的で透光性基板であるサファイア1を発光観測面としている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような構造の発光素子は、両リードフレーム7間の間隔を狭くすることが困難であるため、チップサイズが約1mm以上と大きくなるため、一枚あたりのウエハーからとれるチップ数が少なくなるという欠点がある。また、リードフレーム間の非常に細かい位置設定、窒化ガリウム系化合物半導体の精巧なエッチング技術等を必要とするため、歩留が上がらず量産性に乏しいという欠点もある。窒化ガリウム系化合物半導体以外の半導体材料を用いた発光素子のように、基板側を下にしてn型電極、p型電極の両電極を上から取り出すことができれば、チップサイズを小さくできると共に、発光素子の生産性、信頼性を格段に向上させることができる。そのためには、p層3に形成する電極を透光性にして、窒化ガリウム系化合物半導体層内部の発光を遮らないようにする必要がある。
【0005】
従って本発明はこのような事情を鑑みなされたもので、その目的とすることは最上層であるp層に形成する電極を透光性にして、発光素子の外部量子効率を向上させると共に、窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面として、上から電極を取り出すことにより、発光素子の生産性を向上させることにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とするpn接合型窒化ガリウム系化合物半導体発光素子において、Mgがドープされたp型GaN層のほぼ全面に、アニ-リング処理によりオーミック接触が得られると共に、膜厚0.001μm以上、0.2μm以下で、AuとNiとからなる合金またはPtとTiとからなる合金である、透光性の電極が形成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明において、p層に蒸着する金属には、例えばAu、Ni、Pt、In、Cr、Tiの電極材料を使用することができ、特に好ましいオーミック接触が得られる材料としてCr、Ni、Au、Ti、Ptの内の少なくとも2種類を含む合金を使用することが好ましい。また、金属を蒸着するにあたり、蒸着膜厚は特に問うものではないが、蒸着後500℃以上のアニーリングを行った後、その金属電極の膜厚が0.001μm?1μmの範囲になるように蒸着することが好ましい。前記アニーリングにより、蒸着された金属はp層内部に拡散すると共に、一部外部に飛散して膜厚が薄くなる。アニーリング後に最終的な電極膜厚を0.001μm?1μmの範囲に調整することにより、電極を好ましく透光性とすることができる。1μm以上で形成しても特に支障はないが、電極が次第に金属色を帯びてくる傾向にあり透光性が悪くなる。電極は前記範囲内で薄いほど好ましいが、あまり薄くしすぎると接触抵抗が大きくなる傾向にあるため、0.01μm?0.2μmの範囲がさらに好ましい膜厚である。
【0008】
アニーリングは500℃以上で行う必要がある。なぜなら、この温度以下であると、金属電極とp層とのオーミック接触が得られにくく、金属電極も透光性になりにくいからである。温度の上限は特に限定しないが、窒化ガリウム系化合物半導体が分解する温度以下(1100℃前後)で行うことは当然である。
【0009】
【作用】
本発明の一実施例により形成された透光性電極を具備する発光素子の構造を図2に示す。p層3の上に透光性電極5’が形成されているため、従来のようにサファイア基板1を発光観測面とせずに、窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とすることができる。さらに、窒化ガリウム系化合物半導体以外の発光素子の集光手段として一般に用いられているカップ形状のリードフレームが使用でき、集光性能が格段に向上する。さらに、一つのリードフレーム上に1チップが載置できるため、チップサイズをリードフレームの大きさに合わせて小さくできるという利点を有する。さらにまた、この図に示すように透光性電極5’の上にワイヤーボンディング用の電極を設けることによって、上(発光観測面)側から電極を取り出すことができるため生産性も格段に向上する。
【0010】
【実施例】
[実施例1]
サファイア基板上にGaNよりなるバッファ層と、n型GaN層と、Mgドープp型GaN層とを順に積層したウエハーを用意する。次に前記p型GaN層の上に所定の形状のマスクを形成した後、p型GaN層をエッチングしてn型GaN層を露出させる。
【0011】
次にp型GaN層の上に電極形成用のマスクを形成し、蒸着装置にてp型GaN層の上にNiを0.03μmと、Niの上にAuを0.07μmの厚さで蒸着する。なお露出したn型GaN層の上にもAlを蒸着する。
【0012】
蒸着後、アニーリング装置で、ウエハーを500℃で10分間アニーリングすることによりNiとAuとを合金化すると共に、透光性にする。アニーリング後ウエハーを取り出すと、p型GaN層の電極膜厚は0.07μmであり、透光性となっていた。以上のようにして得られたウエハーを350μm角のチップに切断し、図2に示すようなカップ形状のリードフレーム上に載置し、発光ダイオードとしたところ、発光出力は20mAにおいて80μW、順方向電圧は4Vであった。しかも2インチφのウエハーからおよそ16000個のチップが得られ、得られたチップを具備する発光ダイオードから接触不良によるものを取り除いたところ、歩留95%以上であった。
【0013】
[実施例2]
アニーリング温度を600℃とする他は実施例1と同様にして電極を形成したところ、電極膜厚はほぼ同一で同じく透光性となっていた。後は実施例1と同様にして発光ダイオードとしたところ、発光出力、順方向電圧、歩留ともほぼ同一であった。
【0014】
[実施例3]
p型GaN層の上に蒸着する金属をCr0.5μm、Ni0.5μmとする他は実施例1と同様にして電極を形成したところ、電極膜厚は0.7μmで同じく透光性となっていた。後は実施例1と同様にして発光ダイオードとしたところ、発光出力、順方向電圧、歩留ともほぼ同一であった。
【0015】
[実施例4]
p型GaN層の上に蒸着する金属をPt0.01μm、Ti0.1μmとする他は実施例1と同様にして電極を形成したところ、電極膜厚は0.07μmで同じく透光性となっていた。後は実施例1と同様にして発光ダイオードとしたところ、発光出力、順方向電圧、歩留ともほぼ同一であった。
【0016】
[比較例]
実施例1のウエハーのサファイア基板側を上にして、図1に示すような形状のリードフレーム上に載置しようとしたところ、チップサイズは最小でも1mm角にしか切断できなかった。次にその1mm角のチップを2つのリードフレームにまたがるように載置し、電極を接続して発光ダイオードとしたところ、20mAにおける発光出力は40μWと、横方向の発光が十分取り出されておらず、また同じく2インチφのウエハーからチップが2000個しか得られず、得られたチップを具備する発光ダイオードから接触不良によるものを取り除くと、歩留は60%でしかなかった。
【0017】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子は、p層にオーミック接触が得られる金属よりなる透光性の電極を形成しているため、窒化ガリウム系化合物半導体層側を発光観測面とすることができる。このことにより、発光素子の外部量子効率を低下させることなく、発光を取り出すことができる。しかも前記したように1チップサイズを小さくできるため、生産性が格段に向上し、さらにまたカップ形状のリードフレームを使用することも可能となるため、生産コストを下げ、歩留も向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の一構造を示す模式断面図。
【図2】本発明の一実施例による窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の構造を示す模式断面図。
【符号の説明】
1・・・・基板
2・・・・n型窒化ガリウム系化合物半導体層
3・・・・p型ドーパントドープ窒化ガリウム系化合物半導体層
4・・・・n型電極
5’・・・透光性電極
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-08-20 
結審通知日 2012-08-22 
審決日 2012-09-10 
出願番号 特願平5-124890
審決分類 P 1 113・ 121- YA (H01L)
P 1 113・ 534- YA (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 杉山 輝和  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 江成 克己
松川 直樹
登録日 1998-07-17 
登録番号 特許第2803742号(P2803742)
発明の名称 窒化ガリウム系化合物半導体発光素子  
代理人 言上 恵一  
代理人 鮫島 睦  
代理人 門松 慎治  
代理人 山尾 憲人  
代理人 阿部 隆徳  
代理人 田村 啓  
代理人 田村 啓  
代理人 黒田 健二  
代理人 阿部 隆徳  
代理人 山尾 憲人  
代理人 吉村 誠  
代理人 言上 恵一  
代理人 鮫島 睦  

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