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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12Q
管理番号 1269774
審判番号 不服2010-2419  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-02-04 
確定日 2013-02-07 
事件の表示 特願2003-343425「微生物の殺菌処理効果測定方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月21日出願公開、特開2005-102645〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成15年10月1日の出願であって、平成21年8月25日付けで手続補正がなされた後、平成21年11月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成22年2月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成22年2月4日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成22年2月4日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 補正後の本願発明
本件補正は、平成21年8月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4を以下のとおり補正しようとするものである。

(ア)本件補正前の平成21年8月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4

「【請求項1】
微生物を含む試料を殺菌処理する工程と、
殺菌処理した試料を所定時間培養する工程と、
培養工程で得られた試料中に含まれる個々の微生物の前方散乱光強度を測定する工程と、
測定された前方散乱光強度に対する度数のヒストグラムを表示する工程と、を含む殺菌処理効果測定方法。
【請求項2】
前方散乱光強度の測定が、フローサイトメータによって行われる請求項1に記載の微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項3】
微生物を含む試料から第1の試料と第2の試料とを採取する工程と、
第1の試料を殺菌処理する工程と、
第1の試料と第2の試料をそれぞれ所定時間培養する工程と、
培養工程で得られた第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度をそれぞれ測定する工程と、
測定された第1と第2の試料それぞれの前方散乱光強度に対する度数のヒストグラムを表示する工程と、を含む微生物の殺菌処理効果測定方法。
【請求項4】
所定時間が、微生物の対数期に入る直前である請求項1から3のいずれか1つに記載に
微生物の殺菌処理効果測定方法。」

(イ)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(下線は、補正箇所を示す。)

「【請求項1】
微生物を含む試料から第1の試料と第2の試料とを採取する工程と、
第1の試料を殺菌処理する工程と、
第1の試料と第2の試料をそれぞれ、微生物が対数期に入る直前の時間培養する工程と、
培養工程で得られた第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度、及び培養前の第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度をそれぞれ、フローサイトメータで測定する工程と、
測定された培養前後の第1と第2の試料それぞれの前方散乱光強度に対する度数のヒストグラムを表示する工程と、
を含む微生物の殺菌処理効果測定方法。」

2 本件補正の目的の可否について
本件補正は、本件補正前の平成21年8月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1の試料と第2の試料をそれぞれ所定時間培養する工程」について、培養する「所定時間」が「微生物が対数期に入る直前の時間」であることに限定し、「培養工程で得られた第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度をそれぞれ測定する工程」について、「フローサイトメータ」で測定することに限定するとともに、「培養前の第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度をそれぞれ、フローサイトメータで測定する工程」及び「測定された培養前」の「第1と第2の試料それぞれの前方散乱光強度に対する度数のヒストグラムを表示する工程」を追加するものであり、このうち「培養前の第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度をそれぞれ、フローサイトメータで測定する工程」及び「測定された培養前」の「第1と第2の試料それぞれの前方散乱光強度に対する度数のヒストグラムを表示する工程」を追加する補正は、本件補正前の請求項3に記載された発明の発明特定事項の限定とはいえず、特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない。
また、明瞭でない記載の釈明でもないし、誤記の訂正でもない。

したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


仮に、「培養前の第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度をそれぞれ、フローサイトメータで測定する工程」及び「測定された培養前」の「第1と第2の試料それぞれの前方散乱光強度に対する度数のヒストグラムを表示する工程」を追加する補正が、本件補正前の請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「培養工程で得られた第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度をそれぞれ測定する工程」について、「培養前の第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度」も測定するもので、また、本件補正前の請求項3に記載された発明を特定するために必要な事項である「測定された第1と第2の試料それぞれの前方散乱光強度に対する度数のヒストグラムを表示する工程」について、「測定された培養前」の「第1と第2の試料それぞれの前方散乱光強度に対する度数のヒストグラム」も表示するものであることに限定したものであって、本件補正が平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると解した場合、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に、独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

3 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物1ないし3には以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審が付した。

(1)刊行物1:特表2002-542836号公報の記載事項

(1a)「【請求項32】滅菌処理に曝された生物学的指標における変化を検出する方法であって、生物学的指標を滅菌処理に曝し、そして、処理された生物学的指標の多角光散乱を、滅菌処理に曝されなかった類似生物学的指標の多角光散乱と比較する、工程を含み、処理された生物学的指標の多角光散乱と、類似生物学的指標の多角光散乱との間の差異が、処理された生物学的指標における変化を示す方法。
【請求項33】 生物学的指標の多角光散乱を検査する前に、処理された生物学的指標を最長約24時間、生育培地でインキュベートする工程をさらに含む請求項32記載の方法。
【請求項34】 生物学的指標を生育培地でインキュベートするに先駆けて、該生物学的指標に熱ショックを付す工程をさらに含む請求項33記載の方法。
【請求項35】 比濁計、および光度計からなる群より選択される装置を使用して、生物学的指標の多角光散乱を検査する工程をさらに含む請求項32記載の方法。
【請求項36】 滅菌処理が、蒸気滅菌処理、およびオゾン滅菌処理からなる群より選択され、且つ、処理された芽胞を滅菌処理後直接に検査する工程をさらに含む方法である請求項32記載の方法。
【請求項37】 滅菌処理後の芽胞の生存度を評価するためのキットであって、該キットは、固体支持体上に吸着された約2×10^(8)の芽胞、多角光散乱光度計、および液状媒体を含むキット。
【請求項38】 キットの使用のための説明書をさらに含む請求項37記載のキット。」

(1b)「【0014】
[発明の詳細な説明]
本発明は、B.subtilis芽胞が、発芽および成長につれて、ならびに/または様々な滅菌プロセスの後に、検出可能な変化を遂げて多角光散乱(MALS)を用いて測定、同定、および標準化することができる変化を遂げうるとの発見に基づくものである。本出願人らはさらに、微生物による光散乱は滅菌処理による影響を受け、滅菌処理の光散乱に対する効果を処理後数分以内にMALSを用いて検出できることを発見した。加うるに、本出願人らは光散乱の変化が微生物の生存度に相関することを発見している。
したがって、本発明は、滅菌処理の有効性を検出するためのシステムを包含する。当該システムは、生物学的指標、固体支持体、液状媒体、および多角光散乱光度計を含み、これらの用語は本明細書において定義付けられ例示されたとおりである。当該システムは、ここにおいて開示しているとおりに使用されるものである。簡単に説明すると、生物学的指標は滅菌処理に曝され、そしてその生物学的指標は次いで、本明細書の別の箇所において開示したとおりにMALSを用いて検査される。処理された生物学的指標のMALSデータは、未処理の類似生物学的指標をMALSを用いて検査することによって得られる標準プロファイルまたは対照プロファイルのMALSデータと比較することができる。
【0015】
さらに、本発明は、生育培地(たとえば、ブレイン・ハート・インフージョンブロス、栄養ブロス、トリプチカーゼ・ソイブロス、等)での微生物のインキュベーションと共に、またはかかるインキュベーションを伴わずに実施された滅菌処置の直ぐ後に、様々な滅菌法の効力を評価すべく、多角光散乱分析を用いて微生物を含む生物学的指標における変化を評価するアッセイを包含する。したがって本発明は、滅菌処理の効力を判定して、それにより熟達した技術者、広範な試料の取扱い、および冗長なインキュベーション時間を要する複雑な培養方法の必要性を回避するための、迅速、高感度且つ正確な生物学的指標を提供するものである。
本発明のシステムおよび方法は、滅菌処理の完了後に生存可能な微生物を検出するものであり、ここで微生物の供給源(すなわち生物学的指標、BI)は滅菌処理に曝されまたは供され、そして処理後のその生存度が、好ましくは、微生物における変化を評価する多角光散乱デバイスなどの装置を用いて判定される。
【0016】
微生物が検出可能な成長(数の増加)を呈することができるか、且つ/または本明細書の別の箇所で開示した新規の方法(たとえば、多角光散乱)のみならず微生物学の当該技術分野にてよく知られた方法(たとえば、トリプチカーゼ・ソイ寒天プレート培養、アクリジンオレンジ直接計数、細菌代謝物/酵素の検出、ブレイン・ハート・インフージョンブロスでのインキュベーション、等)を含めた種々の方法によって検出した場合に形態の変化を呈することができる(たとえば、微生物が発芽できる、芽胞から増殖性細胞(vegetative cell)もしくは桿状体に変化する、等)のであれば、微生物は「生存可能」である。
「インキュベーション」は、微生物が成長する、すなわち、発芽、増殖および分裂することが見込まれる条件下に適切な生育培地と微生物を接触させることを包含する。分裂は、細胞の分割または鎖の形成に関わるものでありうる。インキュベーションは、静置、または振動(たとえば、振盪、回転、ローリング、等)を伴うものの何れかであることができ、そしてインキュベーション温度は細菌の種に依存し、たとえばB.subtilisは約35?37℃でインキュベートされるが、B.stearothermophilusは約55?60℃で成長する。
【0017】
本発明の滅菌処理として使用される滅菌法は、四銀四酸化物、エチレンオキシド、過酸化水素、およびオゾンなど、これらに限定されない化学的滅菌法、ならびに乾熱、蒸気、ガスプラズマ、および放射線など、これらに限定されない物理的滅菌法、または既知の、もしくは今後開発されるであろう物理的および/もしくは化学的方法の組み合わせの何れをも含めた、容認されうる滅菌方法の何れであってもよく、何ら限定されることはない。
本明細書において使用される場合、別途に明記しない限り「滅菌」には、利用可能であるかまたは今後開発されるであろう滅菌または消毒方法の何れのものをも含めることとする。
加えて本発明は、塩素、アルコール、オゾン、銀化合物などの消毒剤、または他の処理の効果(1またはそれ以上)によって微生物が死滅するように設計された消毒処理の後での生存可能な微生物の存在の検出を含むと解釈されるべきである。オゾンは滅菌剤または消毒剤の何れとしても使用することができる。すなわち、そのプロセスによって実質的にすべての、好ましくはすべての存在する生物体を死滅させることが意図されるのであれば、その場合は「滅菌される」と称される。しかしながら、感染を起こすのに必要とされる数よりも生物体の数が下回るように減じられるのであれば、その場合は「消毒される」と称される。たとえば、医療用具は滅菌されるが、飲料水またはプール水は消毒されるのである。本明細書に開示した方法によって、必要レベルの消毒が成し遂げられているかを判定することが許容されるようになる。
【0018】
本発明の一の態様において、生物学的指標は滅菌プロセスで使用される。引用することによって本明細書に組み入れることとする米国薬局方XXII、公式モノグラフ、1990年、第1625?1626頁(以下、USP XII、1990)では、生物学的指標(BI)を以下のように定義している。
【0019】
滅菌処理が充分であるかどうかを判定するために本発明の生物学的指標として使用される微生物、好ましくは細菌のタイプには、B.subtilis、B.stearothermophilus、B.pumilus、Clostridium sporogenes、等などといったBacillusおよびClostridia種が包含される。たとえば、USP XII、1990を参照されたい。好ましくは、微生物はバシラス科の細菌であり、そしてより好ましくは、細菌の供給源は芽胞の形態にあるが、これはかかる形態が滅菌方法に対して最も耐性な細菌のライフサイクルにある段階であることによる。さらにより好ましくは、微生物はB.subtilis芽胞である。しかしながら、本発明は滅菌および/または消毒処理の効力を評価するための、Escherichia coli、Legionella種、Campylobacter種などの水系感染性細菌、および他の腸内細菌、さらにはStaphylococcusおよびStreptococcus種ならびにCryptosporidiumなどの他のヒト病原性微生物に対する滅菌剤または消毒剤の致死性の検査を包含すると解釈されるべきである。加えて、1種以上のタイプの微生物を、本発明においてBIとして使用することができる。」

(1c)「【0032】
芽胞が培養液に接種された後、望ましくは熱ショック工程が実施されるが、必ずしもこの工程を要するわけではない。熱ショックは芽胞懸濁液に付される亜致死的な熱処理であり、発芽のための調製物中の酵素を活性化するものである。しかして、好ましい配列は、熱ショック工程、冷却、芽胞懸濁液の希釈、および芽胞のインキュベーションである。バイアルでの好ましい熱ショック法は、70℃にて10分間芽胞を加熱して発芽を誘導する工程を含む。芽胞を5% BHIブロス中に懸濁させ、70℃にて10分間加熱ブロックに入れ、そして4℃にて約5分間冷蔵することにより約37℃に冷却する。しかしながら本発明は、当該技術分野でよく知られた熱ショック法も含むものであり、本明細書における開示に基づき当業者によって理解されるであろうように、正確なパラメータはその芽胞が熱ショックに付される生物体の独自性に左右される。これらの熱ショックパラメータには、約8分から約12分の間約60℃から約80℃の範囲の温度にて加熱し、その後約5から15分間冷却することを包含する。
あるいは、熱に基づく処理やオゾン処理が行われる場合には、熱ショック工程とその後の冷却および芽胞の希釈は省略できる。また、熱ショックが不要となるように芽胞に影響を及ぼす他の滅菌剤がありうる。さらに、当業者であれば本明細書における開示に基づいて、芽胞が短時間のうちに発芽するように対照の未処理標準試料を熱ショックに付すことで、処理の効力の評価が約0乃至4時間のうちにできるようになることを理解するであろう。」

(1d)「【0034】
MALS光度計(Wyatt, 1968, Appl. Optics 7: 1879、Wyatt et al., 1976, Analysis of Foods and Beverages, Modern Techniquesの第225頁、Charalambous編、Academic Press, NY)は、Felkner et al.(1989, Sci.Technol.Lett.1: 79-92)およびAnderson et al.(1993, J.A.O.A.C.Int.76: 682-689)に記載のごとき、MW直線偏光He-Neレーザーを光源として使用していた。簡単に説明すると、レーザーは試料が照射される点で高出力密度を提供し、しかして狭いビーム径によって試料を照射する(ガウス(Gaussian)ビームプロファイルの1/e2直径は0.39 mmである)。非常に小さい粒子または分子で、その屈折率が懸濁培地の屈折率に近似しているものは、Rayleigh-Debye-Gans(RDG)理論にしたがって、すなわちsin(θ/2)の関数として光を散乱する。
【0035】
レーザー入射ビームは粒子、たとえば細菌細胞の懸濁液を通過して、その結果光の散乱が起こる(たとえば、Anderson et al., 1993, J.A.O.A.C.Int.76: 682-689)。散乱した光は、15のトランスインピーダンスの光ダイオード(検出器)によって同時に集光される。検出器は、sin(θ/2)の単位で増分的に変位する離散角度で、入射レーザービームに対して位置する。細菌などの粒子の回折/散乱パターンは、RDG理論を満たすことができ、そしてsin(θ/2)に対してプロットした場合に散乱パターンのピークと谷はほぼ等距離になる。このようにレーザービームシステムによって様々な角度で強度を測定し、そして散乱角に対して相対強度をプロットすることで、細菌のサイズ範囲(1?3μm)にある粒子に特有のプロファイルが作製される。こうして得られたデータは散乱角に対する相対強度の対数としてグラフ上に表示される。全体の強度プロファイルの高さ(y軸)は、懸濁液中の粒子および/または微生物の数を特定するものであり、大小の散乱角の間の曲線の変位(x軸)はサイズおよび分布をそれぞれ特定するのである。これが、溶液中の粒子に対する差動光散乱(DLS)プロファイルである。
【0036】
一つの試料につき一つの読み取り値が得られると、15の検出器のアレイが同時に散乱光を集光し、そして各検出器での強度を、散乱角(度の単位)に対してグラフ上にプロットすることができる。これらの読み取り値をまとめて「セット」と称し、コンピューターで作製される曲線として表示することができる。このようにして、一のセット読み取り値が0時からさらにその後の一つまたはそれ以上の時点で得られる。2つの試料に対する曲線(各々2セットずつ)が、コンピューターに保存される。コンピューターは固有数のもとでの各セットからのデータを保存し、そしてセットの番号はグラフまたは表の形式の何れかにてデータが示される場合に表示されることとなる。
一のセットの平均対数重み付き強度(すなわち、15の検出器すべてからの平均)は、粒子の数に直接的に相関し、その結果0時での細菌数(N0)およびその後の時間での細菌数(N)を、市販のソフトウェアプログラムのアルゴリズム(Wyatt Technology Corp., Santa Barbara, CAおよびTechnical Assessment Systems, Inc., Washington D.C.)を用いて算出することができる。こうして、N/N_(0)を用いて全時間にわたる粒子数の変化を示し、世代時間、すなわちセット読み取りの間に経過した時間をN/N_(0)のlnxによって算出することができ、これは細菌培養の対数倍加時間(TAU)に等しい。
【0037】
本明細書にて立証されたとおり、MALSシステムは細胞の形状と分解した細胞のサイズ/形状の間との差を、Wyatt(1968、前出)によるとおよそ5%の差まで容易に識別する。滅菌処理に対する応答は、正常細胞数の減少および/または対照(未処理の)細胞懸濁液と比較した場合の細胞形状の変化を通して検出される。これらの変化はオートクレーブにかけた芽胞およびオゾン化された芽胞の場合には直後(2?6分)に検出され、または形状変化は、本明細書の別の箇所にあるようにエチレンオキシドおよび過酸化水素を用いて滅菌された芽胞で認められるような細胞発芽の間に現れる。理論に拘束されることを望まないが、EOで処理された芽胞は発芽体の形態変化を呈するものの細胞分裂が起こる様子はなく、これにより芽胞の不活性化が示されるのである。このように形態変化および/またはそのタイミングは、滅菌処理の性質に依存するものであろう。本明細書に記載した種々の滅菌条件を用いた、曝露および未曝露の細胞集団から得られたデータの比較によって、滅菌に対する特異的な応答の検出および定量分析が許容された。N/N_(0)値については、対照での変動は10%以下と見積もられ、そしてN/N_(0)から得られたTAU値は、対照と10%以上相違する場合に有意とされる。
【0038】
DAWN Model B多角光散乱光度計を使用した一の実施態様において、装置は15の光ダイオードを含む。しかしながら出願人らは、芽胞の生存度、成長、数および/または形態の変化を検出するために15の光ダイオードが必要であるわけではないことを確認している。代わって、約23から約120度θ(θ(シータ)は溶液中の粒子の光散乱を検出するためにダイオードが配される角度のこと)に配置された少なくとも5の検出器、または最高約18もの検出器を使用して、滅菌または消毒処理後の微生物の生存度または数および/もしくは形態の変化を検出することができる。最も好ましくは、5または6の検出器が使用される。
したがって、本明細書に提供される実施例は、MALS用のDAWN Model BまたはF光度計を使用することを開示しているが、数多くの光散乱光度計装置のバリエーションが本発明に含まれるものである。様々な粒子の検査のためのMALSの使用に関わる様々な原理が、たとえば米国特許第4,907,884号、4,710,025号、4,693,602号、4,616,927号、4,548,500号、4,541,719号、4,173,415号、4,101,383号、3,815,000号、3,770,351号、3,730,842号に記載されており、これらを引用することにより本明細書に組み入れることとする。したがって、胞子形成細菌の様々な形態を識別することができる光散乱装置であれば何れのものでも使用することができる。好ましい光受容体数および/またはそれらが配置される角度は、約20°から約160°までの範囲の角度で、少なくとも4から約8の光受容体数である。
【0039】
未処理の芽胞(すなわち、滅菌または消毒処理に供されていないことを除き、他の点では処理された芽胞と同じである「類似」芽胞)の光散乱プロファイルは、インキュベーションに先駆けて、もしくはインキュベーションなしで、または生育培地でのインキュベーション後に、様々な時点で測定され、そして各時点(発芽の様々な段階を含む)に対する標準プロファイルまたは対照を作製するために使用することができる。かかる標準プロファイルは、光散乱光度計ユニットと共に提供されるデータ分析ソフトウェアを用いて、同じようにプロセスに付されている処理芽胞の対応するプロファイルと比較することができる。
あるいは、処理された芽胞に対して未処理の芽胞の光散乱プロファイルを1またはそれ以上の時点で比較できるように、照会対象である処理された芽胞試料と平行し且つ同時に対照の未処理試料について実行することができる。異なる時間の間隔で処理された芽胞の光散乱プロファイルをとって、全時間にわたって比較をしてもよく、この場合たとえば、全時間にわたりプロファイルに検出可能な変化がなければ、形態および/または成長の変化が起こっていないことが示され、これにより滅菌処理後に芽胞が生存可能でないことが示されるのである。」

(1e)「【0045】
【実施例】
実施例1
生物学的指標(BI)を用いた滅菌の効力の判定:
本実施例で提示した実験を以下に要約する。
ここに提示したデータは、「熱」滅菌または「低温」滅菌(すなわち非加熱、たとえば化学的滅菌もしくは放射線滅菌)の効力をモニターするための、新規な生物学的指標(BI)システムを開示する。BIシステムは、既知量の精製および標準化された、ガラススライド上に乾燥されたBacillus.subtilis芽胞からなり、これを次いで、容器(すなわち、蒸気処理の場合はガラスペトリ皿、そして低温滅菌の場合はプラスチックペトリ皿)に入れて、滅菌処理に供した。その後、芽胞の生存度を、滅菌処理に対する芽胞の応答をモニターする多角光散乱(MALS)デバイス(DAWN Model B、またはDAWN Model F 光度計、Wyatt Technology Corp., Santa Barbara, CA)を用いて迅速に判定した。以下のようにMALSを使用して、芽胞を検査した。
【0046】
滅菌された(処理された)および対照(未処理)芽胞は、別々にスライドから溶出して、5%のブレイン・ハート・インフージョン(BHI)ブロスを含むキュベットまたはホウケイ酸ガラスシンチレーションバイアルの中に入れた。未処理の対照芽胞または過酸化水素で処理された芽胞およびエチレンオキシドで処理された芽胞は次いで、発芽を誘導するために70℃で10分間の熱ショックに付した。外界温度にまで冷却した後、熱ショックに付された芽胞の懸濁液を、開始時間0分にMALSを使用して検査して、その後試料を、様々な時間の間隔にて、BHI中で37℃にてインキュベートした。MALS測定値は、30分、2時間、および4時間の間隔で取り、芽胞の発芽および生存可能な増殖性細胞の形成の離散的段階を記録した。滅菌された生物学的指標(BI)が評価されるべき場合には、遅くてもとにかく何らかの成長の存在が検出されたかを裏付けるために、処理後24時間でさらなる測定を行った。発芽段階は、MALS分析から作製した特有のプロファイルと試料を比較することによって検出し、このプロファイルはコンピューターで作製および/または分析した。」

(1f)「【0060】
滅菌に対する対照培養
すべての対照(未処理)培養について、処理に対してどのように負荷を実施するかに無関係に、およそ1.7×10^(8)芽胞数/mlのB.subtilis芽胞1 mlを開始時点での負荷量とした。培養物を滅菌蒸留水で約1対20の比に希釈して、この懸濁液900μlを5%BHIブロス15 mlに添加した。この懸濁液を70℃にて10分間、熱ショックに付して、実験時間(典型的には、4または5時間)だけ37℃にてインキュベートした。すべての実験について、DAWN-B(MALS)読み取り値を検証するためにTSAおよびAODCスライドでのプレート計数を実施した。対照培養に対する典型的なMALSデータには、AODCスライドと、TSAでのプレート計数を添えた。滅菌実験は、平行対照MALSデータファイルを作製するために、処理されていなかった試料を用いて平行対照にて実施した。たとえば、対照のファイルは、全STERRAD*サイクルと平行して実行した。同様に、対照のファイルを全エチレンオキシド滅菌サイクルと平行して実行し、そして対照のファイルをオートクレーブ滅菌データと平行して実行した。これらのデータについての分析を実施することで、特異的検出器が芽胞発芽サイクルの様々な段階を判定するのにより高感度であることが判明した。
【0061】
オートクレーブ滅菌培養
すべてのオートクレーブ滅菌された培養物について、本明細書の別の箇所で既に記載したと同様におよそ1.7×108芽胞数/mlのB.subtilis芽胞1 mlをスライド上に乾燥させ、そして負荷用量として使用した。滅菌サイクルの終了後に、前記と同様に培養物を希釈して5%BHIに懸濁させた。オートクレーブ温度(121℃)は、発芽を開始させるか、または発芽が起こらないように、すなわち無菌性が得られるように芽胞を不活性化するかの何れかに充分であるので、熱ショック工程は省略した。
オートクレービングは、プログラム可能なオートクレーブ(AMSCO Scientific Series 3031-Gravity)を使用して、1、2、3、4、5、15および30分間にわたって121℃にて15 psiで実施した。各試料につき0分、30分、1時間、2時間、3時間、4時間、および24時間の時間間隔でAODCおよびDAWN-B測定を行い、発芽および成長が起こっているかどうかを判定した。蒸気滅菌(成功および不成功の両方)に関するデータを、図1?4に示している。100 mlから300 mlの範囲の容積の水の中に浸漬したBIについてのデータも収集し、そしてこれらのデータから今回、液体中に浸漬したBIはオートクレーブサイクルが30分以上でない限り不活性化されないことが立証された。これらの結果は単に、滅菌されるべきロードサイズおよび容積が増大するにつれて滅菌サイクルの長さを比例的に増加させなければならないという定着した事実を強調するものである。
【0062】
多角光散乱光度計
生物学的指標を検査するために、MALS光度計Model B(Wyatt Technologies Corp., Santa Barbara, CA)を使用した。 未処理対照芽胞に対するMALSプロファイルは、細胞形態および生物体の生活環段階に相関する特異的なプロファイルを示す ここに開示したデータは、未処理の熱ショックを付されたB.subtilis芽胞に対する典型的なMALSプロファイルを示す(図1)。MALS分析は、熱ショック処理(すなわち、70℃、10分間)後、0分(セット1)、30分(セット6)、2時間(セット16)、および4時間(セット21)の間隔での、選択された培養物における、未処理の対照芽胞に対して実施した。発芽培養物は5%ブレイン・ハート・インフージョン(BHI)ブロスにおいて、37℃にて静的に生育した。25°から125°までのθ角の範囲にわたり、30分から2時間の間で、生存可能細胞(芽胞/増殖性細胞)の数の有意な変化なしに各々の角度における強度は変化した。アクリジンオレンジ直接計数(AODC)によって、およびトリプチカーゼ・ソイ寒天プレート(TSA)への平行した試料プレーティングによって、細胞数の増加はないことを確認した。しかしながら、この期間中、芽胞は桿菌の増殖性形の生成へと導く形態学的段階を迎えていた(すなわち、細胞は30分で芽胞から「明色体(bright body)」へと、その後「明色体」から棒状桿菌へと変化した)。4時間までに、細菌の成長が起こり、そして桿菌の鎖が形成された。AODC計数値は、2時間で1.77×10^(8)細胞数から4時間で約2.98×10^(8)に増加し、そしてDAWN-B N/N_(0)値は1.0から2.3に変化した。
【0063】
これらのデータは、MALS測定によって生存可能な生物体の数の意義深い増加が検出されたことを示すものであり、かかる増加はAODCおよびTSAによって鏡検的に測定した数と直接的に相関していた。これらのデータはさらに、MALS測定が生物学的指標と相関しうることを示している。DAWN-Bデータファイルおよび関連した平行AODCおよびTSAプレート計数は同時に実施した。
ここに開示したデータをさらに、熱ショック後の各時点で作製した様々なプロファイルを評定することによって分析した。本明細書の別の箇所に既に記載したとおり、図1は0分(セット1)および30分(セット6)の間隔で取ったMALS測定値に対する、熱ショックに付され未処理の対照B.subtilis芽胞の発芽/移行/成長のMALS判定の結果を示している。開示したデータは、セット1(0分)のプロファイルは芽胞のものであり、一方「明色体」プロファイルがセット6(30分)によって示されることを表す。30分でのMALSプロファイルの変化は、芽胞が生存し、栄養寒天またはTSAなどの固形生育培地上にコロニーを形成することができる増殖性細胞を形成する能力を有することの最初の指標であった。
【0064】
ここに開示したデータはさらに、様々なMALS検出器について評定し、そしてさらに、芽胞から「明色体」への移行の間の0分から30分までには細胞数は増加しなかったが、その時間の間に細胞形態は変化したことを示している。加えて、ここに開示したデータによって、特定のMALS検出器は、30分の間に細胞に起こる形態変化の、より高感度な指標であったことが立証されるものである。すなわち、セット1乃至セット6(それぞれ0分および30分)に対するN/N_(0)値(すべての検出器についての対数重み付き強度の比)は有意な差を呈さず、細胞数は増加していないことが示されたものの、特定の散乱角ではN/N_(0)値に有意な差があった。これらは検出器1?3で顕著に異なっており(2倍の差)、検出器5および6で曲線プロットが交叉し、検出器7および8での差は小さく、検出器11?13で20%の差、そして検出器13、14ではわずかな差となっている。理論に拘束されることを望まないが、これらの結果は、芽胞と「明色体」との間のMALSプロファイルにおける特有の差異は検出器1?3(23乃至35°のθ散乱角を表す)、検出器5および6(47.2および53.5°のθ角を表す:芽胞に対する数値をより大きく示す検出器5と、「明色体」に対する数値をより大きく示す検出器6との交叉がここにあることが注目される)、ならびに検出器11?13(89乃至106°のθ散乱角を表す)で際立っていることを示するものである。
【0065】
未処理対照芽胞のMALS分析を実施し、5%BHIブロスにおいて37℃にてインキュベートした、熱ショックに付された後の培養物につき、0分(セット1)と2時間(セット16)とでDAWN-B測定値の比較を行った(図1)。やはり、生存可能な生物体の数の増加はなく、セット1および16に対するMALS測定によって1.0のN/N_(0)比が得られる。プレート計数およびAODCでもやはり、この時間の間での生存可能な生物体数の増加はないことが確認された。しかしながら、2つのセットのMALSプロファイルは有意に異なっており、芽胞(セット1)と、増殖状態にある桿菌(セット16)とに対応している(図1)。これらの差異は検出器1?3、検出器5および6、ならびに検出器11?13で特に際立っている。セット21(BHIブロス中、37℃にて4時間の成長を現す)はセット1と、そしてセット16と比較すると2.3のN/N0比を呈していた。この結果は、2時間(セット16)での数を超えた、桿菌(増殖性細胞)の数の実質的な増加を示すものである。芽胞は発芽して2時間までに桿菌を作っており、その桿菌は4時間までに増殖していたので細菌は生存可能であった。これらの結果は、TSAプレートでのコロニーの形成によって、そしてAODC直接計数により観察される細胞数の対応する増加によって実証された。」

(1g)「【0066】
ここに開示したデータは、15 psiの圧力下に121℃にて5分間芽胞をオートクレーブにかけることによる有効な蒸気滅菌が、MALS分析によって検出されたことを立証するものである。さらにデータは、MALS分析が蒸気滅菌処理の有効性を検出できることを立証するものである。図2は、121℃/15 psiで5分間オートクレーブにかけた後の生物学的指標(ガラススライド上で乾燥させた、およそ1.7×108のB.subtilis芽胞)について測定が行われた光散乱を示す。24時間の間にわたって観察したDAWN-Bプロファイルに変化はなく、すべての生物体が死滅したことを示している。オートクレーブにかけたBIでは、未処理芽胞が呈した移行期の形態はまったく検出されず、やはりこの処理によって無菌性が達成されていることを示している。これらの結果は、TSAおよびAODCスライドでの両プレート計数によって検証されており、これらはBHIでのインキュベーションの24時間またはそれ以上の後になってからでさえコロニーがまったく形成されていないことと、典型的な発芽形態がまったくBIに出現しないことを示していた。
【0067】
蒸気で死滅させた芽胞によって作製されたMALSプロファイルの、0分の試料と、30分、2時間、および24時間の測定値と比較する、さらなる分析を実施した。これらの比較によって、正常な発芽の特徴を形成する形態移行が、オートクレーブにて滅菌したBIでは現れないことが示された。さらに、特有の角度にある最も高感度な検出器での変化(図2)は起こっていなかった。これらのデータは、芽胞が滅菌法によって死滅した証拠を構成するものであり、このことは10回反復して行ったTSAプレート計数によって検証された。加うるに、第2のBIに対する二重のデータによって、DAWN-B測定および10のTSA反復プレートの双方に対して同じ結果が得られた。
このように、ここに開示したアッセイによって、AODCおよびTSAプレーティングなどの複雑で時間を浪費する試料処理を要する方法を必要とすることなく、わずかな短時間以内に蒸気オートクレーブ滅菌の効力を迅速且つ効率的に判定することが可能となった。」

(1h)「【0068】
不充分な滅菌のMALS検出
無菌性をもたらすのに不充分であることがわかっている条件の下に処理された芽胞も、MALS分析によって検査した。すなわち、ここに開示したデータは、生物学的指標を121℃および15 psiで3分間オートクレーブにかけた結果を示すものである(図3)。3種のインキュベーション間隔の試料を処理後に、すなわち、0分、1時間、および終夜プラスさらに6時間(合計24時間)のインキュベーションについて検査した。さらなる6時間のインキュベーションは、別の5% BHIを添加して10%の濃度(何らかの「損傷を受けた」細胞の成長に必須である)とした後に実施した。
平行した24時間のTSAプレート計数も実施し、そしてここに開示したデータは、不完全なオートクレーブ滅菌によって生存可能な芽胞集団が1.79×10^(8)コロニー形成単位(CFU)から2.12×10^(5 )CFUに低下したことを示している。プレートでは様々なサイズのコロニーも呈示されており、これらのオートクレーブ条件下での細胞損傷および回復の程度が変動していることを示している。二重のデータで、これらの結果を確認した。
【0069】
121℃/15 psiで3分間オートクレーブにかけて5% BHIにてインキュベートした後0分、30分、および1時間の間隔での光散乱データの比較も行った(図4)。30分のインキュベーションで細胞形態に変化があったが、1時間のインキュベーション後には、芽胞から桿菌の形態への変化を示すプロファイルの変化があったため不完全な滅菌の証拠が観察された。ここに開示したデータは、また、予測された形態の変化がインキュベーションの間に起こった、すなわち検出器5、6と検出器11?13で強度の増加が観察されたことも示すものである。これらの結果は、TSAプレート計数およびAODCによって検証されており、これらは3分のオートクレービングでわずか3ログの死滅が成し遂げられるのみであることを示していた。」

(1i)「【0074】
H_(2)O_(2)(STERRAD^(*))滅菌培養
すべてのH_(2)O_(2)滅菌培養物に対して、BI負荷は、本明細書の別の箇所にて既に記載したとおり、ガラススライド上で風乾させたおよそ1.7×10^(8)芽胞数/mlの濃度のB.subtilis芽胞の1 mlで行った。およそ70分間のSTERRADサイクル完遂後に、前記のとおりBI培養物を希釈して、細胞を5% BHIに懸濁した。培養物は対照BIと同じ濃度に希釈して、試料を70℃にて10分間の熱ショックに付し、そして、存在する何れの生存可能な細胞も検出するために試料を37℃にて24時間インキュベートした。MALS測定値は、0分、30分、1時間、2時間、3時間、4時間および4.75時間で得、そしてAODC直接計数による分析用に、平行して試料を得た。また、生存可能な細胞の存在を判定するために、TSAへの直接プレーティングも実施した。芽胞および/または増殖性細胞の総数ならびにそれらの様々な生活段階を検出するAODCと、コロニーを形成することができる細胞(生細胞)の数を与えるTSAでのプレート計数との組み合わせは、選択された検出器でのMALSと相関しており、無菌性が成し遂げられたかどうかが判定された。
【0075】
MALS測定値は、STERRAD^(*)(H_(2)O_(2))での滅菌および5% BHIにおける37℃での22時間にわたる試料のインキュベーションの後のB.subtilis BIから得た(図6)。ここに開示したデータは、成長はまったく起こらなかったことを明瞭に示しており、そしてTSA(三重の試料の各々につき10のプレート)での直接計数は、何れのプレートにもまったく成長が見られなかったので、この結果を支持するものであった。AODCスライドにより、続けて行ったインキュベーションの間に滅菌された芽胞が劣化することが立証された。唯一の形態変化すなわち、初期発芽が起こっているようであった(0分と30分の間の時間)が、その後細胞は劣化し、さらなる成長は起こらなかった。
滅菌がされていなかったBI(0分の対照)のMALSプロファイルを、3時間のインキュベーション後の、H_(2)O_(2)で滅菌されたBIのプロファイルと比較した(図6)。ここに開示したデータは、成長していないにも関わらずH2O2滅菌後に形態変化が起こったことを示すものである。N/N_(0)値(元の試料中の細胞数に対する細胞数の比)は1.0のままで、粒子の数が増加しないことを示唆している。この形態の変化は、細胞数がさらに変化することなくそしてこれらの細胞が生存可能となることなく、すなわち、滅菌されたと推定される試料をTSA培地上に塗播した場合にコロニーはまったく検出されず、4時間にわたり異なるBIについて行った三重の測定によって再現可能であることが示された。
【0076】
未処理、対照芽胞のMALSプロファイル(熱ショック後0分および30分)を、H_(2)O_(2)で滅菌し、そして熱ショックを付した後に様々な間隔でインキュベートした芽胞から得られたプロファイルと比較した(図7)。ここに開示したデータは、滅菌されていないが熱ショックに付された芽胞の形態が特徴的な初期発芽プロファイルを呈したことを示すものである。この発芽形態の後には、図1に示すような、桿菌形態、そして最終的には細菌成長へと導かれる継続的な変化が続いた。処理された芽胞の形態もまた、滅菌後0分に開始する変化したMALSプロファイルを呈したが、芽胞は4時間のインキュベーション時間全体にわたって、さらなる変化または発芽の進行を何らも示さなかった。しかしながら、インキュベーションを継続してより大きな角度で検出すると、わずかながら漸進的な強度の増加があった。理論によって拘束されることを望まないが、より大きな角度での増加は生物体の細胞の崩壊に起因するかもしれず、そして細胞断片の出現を表しているのかもしれない。平行試料から取ったAODCスライドによって、それらの細片が存在し、それは細胞の破壊に起因するようであること、よって4時間のインキュベーション後に存在する小粒子(細胞断片)を説明することが示された。」

(1j)「【図1】
図1は、熱ショック処理(すなわち、70℃、10分間)後、0分(セット1)、30分(セット6)、2時間(セット16)、および4時間(セット21)の間隔での、選択されたブレイン・ハート・インフージョン(BHI)培養インキュベーションにおける、B.subtilisの未処理であるが熱ショックを付された芽胞(対照)の多角光散乱(MALS)によって行った測定を示すグラフである。
【図2】
図2は、121℃/15 psiで5分間オートクレーブにかけ、続いてBHI中で静置培養インキュベーションした後の生物学的指標(BI)(ガラススライド上で乾燥させた、およそ1.7×10^(8)のB.subtilis芽胞)から得られたMALSを示すグラフである。MALSデータのセットは、処理された芽胞を培養液に接種した後、以下の時点で得た:セット6(0分)、セット11(30分)、セット16(1時間)、セット21(2時間)、セット26(3時間)、セット31(4時間)、およびセット1(24時間)。
【図3】
図3は、121℃/15 psiで3分間オートクレーブにかけた後の生物学的指標(BI)(ガラススライド上で乾燥させた、およそ1.79×10^(8)のB.subtilis芽胞)から得られたMALS測定を示すグラフである。MALSデータのセットは、処理された芽胞を培養液に接種した後、以下の時点で得た:セット1(終夜プラス6時間)、セット3(0分)、およびセット13(1時間)。
【図4】
図4は、選択された培養間隔での、3分間のオートクレーブによって処理されたB.subtilisのMALS測定の結果を示すグラフである。グラフは、セット3(0分)、セット8(30分)、およびセット13(1時間)から得られた測定値を比較するものである。また、すべての15の角度での測定を、グラフを作製すべく分析した記録済MALS入力データを示すために本明細書中に開示している。
・・・略・・・
【図7】
図7は、STERRAD^(*)(H_(2)O_(2)、過酸化水素)滅菌後の生物学的指標(BI)(B.subtilis芽胞)を用い、そしてその測定値を未処理の対照芽胞を用いて得られた測定値と比較して得られたMALS測定を示すグラフである。MALSデータのセットは、熱ショックを付した後BHI培養液にてインキュベートされた、H_(2)O_(2)で滅菌された芽胞について様々な時点で採取された試料を検査することによって得たものであり、そのデータのセットは以下のとおりである:セット2(0分)、セット6(30分)、セット10(1時間)、セット14(2時間)、セット18(3時間)、およびセット22(4時間)。未処理(対照)の芽胞は、熱ショック後に以下の時点で検査したものである:セット1(0分対照)およびセット5(30分対照)。」

(2)刊行物2:ジャパンフードサイエンス,2003.04.05, Vol.42, pp.61-68

(2a)「はじめに
全自動微生物測定装置「BACTANA」は,フローサイトメトリーを用いた細菌係数装置である.フローサイトメトリーは,細胞の核酸量,蛋白量,表面抗原,各種細胞機能等をシングルセルレベルで計測できる有用な方法であり,理化学,臨床検査等の分野で広く利用されている^(1)).微生物の分野においても,フローサイトメトリ-を用いた微生物計測法が多数,報告されている^(2))。」(第61頁左欄1行?9行)

(2b)「次に,染色された試料はサンプルノズルから吐出される.試料中の粒子はシース液に包まれて検出部(図4)を一列に並んで通過し,半導体レーザ光(約630nm)が1個1個の粒子に照射される.このとき細菌は,含有する核酸量に応じた強度の赤色蛍光(660nm)と,細菌の大きさに応じた前方散乱光を発する.赤色蛍光,前方散乱光は,各々,光電子倍増管(PMT),フォトダイオード(PD)で検出され,電気信号に変換される.検出した信号はスキャッタグラム(図5)に展開後,解析される.スキャッタグラム上のドット1個1個は,細菌1個1個に対応しており,特定の領域に分布するドットが細菌として計数される.」(第62頁左欄10行?右欄2行)

(3)刊行物3:Cell, 1992, Vol.69, No.2, pp317-327

(3a)「Growth of S. cerevisiae cells by budding gives rise to asymmetric progeny cells: a larger “mother” cell and a smaller “daughter” cell. The mother cell transits a brief G1 phase before forming a new bud and beginning DNA replication. The daughter cell stays in G1 for a longer period, growing in size before initiating a new cell cycle. We show that the timing of cell cycle initiation in mother and daughter cells is governed by different G1cyclins. In daughter cells, transcription of CLN1 and CLN2 is induced in a size-dependent manner, and these cyclins are necessary for the normal timing of cell cycle initiation. CLN3 is not required in daughter cells, but is crucial for mother cells, in which the G1 phase is much longer in the absence of this cyclin.」
(日本語訳:出芽によるサッカロマイセス・セレヴィシエの細胞の成長は非対称の子孫細胞:大きい“母”細胞と小さい“娘”細胞、を生じさせる。母細胞は新しい出芽を形成し、DNA複製を開始する前に、短いG1期を通過する。娘細胞は新しい細胞周期を始める前にサイズを増して、より長い期間、G1期に留まる。我々は、母細胞と娘細胞の中の細胞周期開始のタイミングが、異なるG1サイクリンによって管理されることを示す。娘細胞では、CLN1とCLN2の転写はサイズに依存した方法で引き起こされる。また、これらのサイクリンは細胞周期開始の正常なタイミングに必要である。CLN3は娘細胞では必要ではないが、サイクリンがない状態においてG1期がはるかに長い、母細胞においては極めて重要である。)(317頁の「Summary」の欄)

(3b)「Figure1. Size Distributions of Asynchronously Growing Populations of cln Mutant Cells
Size was measured by forward angle light scattering (FSC) in a flow cytometer. Histograms were obtained from 10^(4) cells of the indicated genotypes.」
(日本語訳:図1 非同調的に成長するサイクリン変異細胞集団のサイズ分布
フローサイトメーターの中で前方散乱光(FSC)によって測定された。ヒストグラムは、遺伝子型が示された10^(4)個のセルから得られた。)(318頁 図1の説明)
図1に、縦軸に細胞の数、横軸に前方散乱光(FSC)強度として細胞サイズを示したヒストグラムが示されている。

4 対比・判断
刊行物1には、「滅菌処理に曝された生物学的指標における変化を検出する方法であって、生物学的指標を滅菌処理に曝し、そして、処理された生物学的指標の多角光散乱を、滅菌処理に曝されなかった類似生物学的指標の多角光散乱と比較する、工程を含み、処理された生物学的指標の多角光散乱と、類似生物学的指標の多角光散乱との間の差異が、処理された生物学的指標における変化を示す方法」であって、「生物学的指標の多角光散乱を検査する前に、処理された生物学的指標を最長約24時間、生育培地でインキュベートする工程をさらに含む」方法が記載されている(1a)。
そして、「生物学的指標」及び「生物学的指標における変化を検出する」ことについて、刊行物1には、生物学指標が微生物の供給源であること(1b)、微生物を含む生物学的指標における変化を評価することによって、様々な滅菌法の効力を評価するものであることが記載されている(1b)。

そうすると、刊行物1の上記記載事項(特に上記(1a))から、刊行物1には、
「滅菌処理に曝された微生物を含む生物学的指標における変化を検出することによって、様々な滅菌法の効力を評価する方法であって、
微生物を含む生物学的指標を滅菌処理に曝し、そして、
処理された微生物を含む生物学的指標の多角光散乱を、滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標の多角光散乱と比較する、工程を含み、
微生物を含む生物学的指標の多角光散乱を検査する前に、処理された微生物を含む生物学的指標を最長約24時間、生育培地でインキュベートする工程をさらに含む、
処理された微生物を含む生物学的指標の多角光散乱と、類似の微生物を含む生物学的指標の多角光散乱との間の差異が、処理された微生物を含む生物学的指標における変化を示す方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願補正発明と刊行物1発明とを比較する。

(ア)刊行物1発明の「微生物を含む生物学的指標を滅菌処理に曝」す工程の「滅菌処理」について、刊行物1には、滅菌処理として使用される滅菌法は化学的滅菌法、物理的滅菌法のいずれでもよく、そのプロセスによって実質的にすべての、好ましくはすべての存在する生物体を死滅させることが意図されるのであれば、その場合は「滅菌される」と称される旨、記載されており(【0017】)、一方、本願補正発明の「第1の試料を殺菌処理する工程」の「殺菌処理」については、本願の明細書を参照すると、段落【0017】に「殺菌処理とは、例えば、化学的・物理的手段により、微生物を死滅させ又は不活性にさせることをいう。」と記載されていることから、いずれも化学的・物理的手段により微生物を死滅させる処理を含むものであるので、刊行物1発明の「滅菌処理」は、本願補正発明の「殺菌処理」に相当する。

(イ)本願補正発明の、微生物を含む試料から採取した「第1の試料」および「第2の試料」について、「第1の試料」は「第1の試料を殺菌処理する工程」で殺菌処理される試料であり、また、「第2の試料」は「第1の試料を殺菌処理する工程」で殺菌処理をされない試料といえる。
刊行物1発明の「滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標」の「類似」との語句の意義について、刊行物1には「未処理の芽胞(すなわち、滅菌または消毒処理に供されていないことを除き、他の点では処理された芽胞と同じである「類似」芽胞)」と記載されていることから(【0039】)、滅菌処理に供されていないことを除き、他の点では滅菌処理されたものと同じものと解することができる。
そうすると、刊行物1発明の「微生物を含む生物学的指標」、「滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標」は、それぞれ本願補正発明の「第1の試料を殺菌処理する工程」で殺菌処理される「第1の試料」、「第1の試料を殺菌処理する工程」で殺菌処理されない「第2の試料」に相当するものである。

(ウ)刊行物1発明は、「微生物を含む生物学的指標を滅菌処理に曝」す前に、当然、滅菌処理に曝す前の「微生物を含む生物学的指標」と、当該工程で滅菌処理に曝されない「滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標」を準備する工程を有するといえ、これらを準備する工程は、本願補正発明の「微生物を含む試料から第1の試料と第2の試料とを採取する工程」に相当する。

(エ)刊行物1発明の「微生物を含む生物学的指標を滅菌処理に曝」す工程は、上記(ア)(イ)から、本願補正発明の「第1の試料を殺菌処理する工程」に相当する。

(オ)刊行物1発明の「処理された微生物を含む生物学的指標の多角光散乱を、滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標の多角光散乱と比較する、工程を含み、微生物を含む生物学的指標の多角光散乱を検査する前に、処理された微生物を含む生物学的指標を最長約24時間、生育培地でインキュベートする工程をさらに含む」ことについて、刊行物1の実施例1を参照すると、滅菌された(処理された)および対照(未処理)芽胞をインキュベートの開始時間0分にMALS、すなわち多角光散乱を使用して検査し、その後、試料を、様々な時間の間隔にて、インキュベートし、多角光散乱の測定を30分、2時間、および4時間の間隔で行った旨、記載されており(1e)、滅菌処理された試料と滅菌処理されない未処理の試料とを、いずれもインキュベートし、インキュベートする前とインキュベートした後に、両者の多角光散乱の測定を行うことが記載されている。
そうすると、刊行物1発明の「処理された微生物を含む生物学的指標の多角光散乱を、滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標の多角光散乱と比較する、工程を含み、微生物を含む生物学的指標の多角光散乱を検査する前に、処理された微生物を含む生物学的指標を最長約24時間、生育培地でインキュベートする工程をさらに含む」工程は、微生物を含む生物学的指標の多角光散乱を検査する前に、処理された微生物を含む生物学的指標と、滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標とを、最長約24時間、生育培地でインキュベートする工程、そして、インキュベートする前の、処理された微生物を含む生物学的指標と滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標の多角光散乱と、インキュベート後の、処理された微生物を含む生物学的指標と滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標の多角光散乱の測定を行う工程、を含むものであり、本願の補正発明の「第1の試料と第2の試料をそれぞれ、微生物が対数期に入る直前の時間培養する工程と、培養工程で得られた第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度、及び培養前の第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度をそれぞれ、フローサイトメータで測定する工程」とは、第1の試料と第2の試料をそれぞれ、所定時間培養する工程と、培養工程で得られた第1と第2の試料中に含まれる微生物の散乱光、及び培養前の第1と第2の試料中に含まれる微生物の散乱光をそれぞれ測定する工程、である点で共通する。

(カ)刊行物1発明の「様々な滅菌法の効力を評価する」ことと、本願補正発明の「微生物の殺菌処理効果測定方法」とは、微生物の殺菌処理効果を評価する方法である点で共通する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。

(一致点)
微生物を含む試料から第1の試料と第2の試料とを採取する工程と、
第1の試料を殺菌処理する工程と、
第1の試料と第2の試料をそれぞれ、所定時間培養する工程と、
培養工程で得られた第1と第2の試料中に含まれる微生物の散乱光、及び培養前の第1と第2の試料中に含まれる微生物の散乱光をそれぞれ測定する工程と
を含む微生物の殺菌処理効果を評価する方法

(相違点1)
「第1の試料と第2の試料をそれぞれ、所定時間培養する工程」における「所定時間」が、本願補正発明では「微生物が対数期に入る直前」の時間であるのに対し、刊行物1発明では「最長約24時間」である点。

(相違点2)
微生物の散乱光の測定が、本願補正発明では「前方散乱光強度」を「フローサイトメータ」で測定するものであって、さらに「測定された培養前後の第1と第2の試料それぞれの前方散乱光強度に対する度数のヒストグラムを表示する工程」を含むのに対し、刊行物1発明では多角光散乱を検査するものであって、処理された微生物を含む生物学的指標の多角光散乱と、類似の微生物を含む生物学的指標の多角光散乱との間の差異が、処理された微生物を含む生物学的指標における変化を示すものである点。

そこで、上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
刊行物1発明の「処理された微生物を含む生物学的指標の多角光散乱を、滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標の多角光散乱と比較する、工程を含み、
微生物を含む生物学的指標の多角光散乱を検査する前に、処理された微生物を含む生物学的指標を最長約24時間、生育培地でインキュベートする工程をさらに含」み、また、
「処理された微生物を含む生物学的指標の多角光散乱と、類似の微生物を含む生物学的指標の多角光散乱との間の差異が、処理された微生物を含む生物学的指標における変化を示す」ことについて、刊行物1の実施例1をみると、以下のとおりに記載されている。

(ア)多角光散乱(MALS)の検査について
刊行物1には、多角光散乱(MALS)の検査について、散乱角に対する相対強度をプロットすることでプロファイルを作製し、「全体の強度プロファイルの高さ(y軸)は、懸濁液中の粒子および/または微生物の数を特定するものであり、大小の散乱角の間の曲線の変位(x軸)はサイズおよび分布をそれぞれ特定する」こと(1d)、そして「MALSシステムは細胞の形状と分解した細胞のサイズ/形状の間との差を、Wyatt(1968、前出)によるとおよそ5%の差まで容易に識別する。滅菌処理に対する応答は、正常細胞数の減少および/または対照(未処理の)細胞懸濁液と比較した場合の細胞形状の変化を通して検出される。」と記載され(1d)、多角光散乱(MALS)の検査によって、微生物の数とサイズおよび分布を特定することでき、細胞のサイズ/形状を識別することにより、滅菌処理に対する応答を正常細胞数の減少や細胞形状の変化を通じて検出することが記載されている。

よって、刊行物1発明の「微生物を含む生物学的指標の多角光散乱を検査する」ことは、多角光散乱の検査によって、多角光散乱(MALS)プロファイルを作製し、細胞のサイズ/形状を識別して、滅菌処理に対する応答を正常細胞数の減少や細胞形状の変化を通じて検出するものである。

(イ)滅菌処理を行っていない(未処理)細胞について
刊行物1には、滅菌処理を行っていない(未処理)細胞について、0分、30分、2時間、および4時間、培養(インキュベーション)し、多角光散乱(MALS)を検査して、それぞれの培養時間における多角光散乱(MALS)プロファイルを把握し、これと細胞周期の各段階毎の細胞数と細胞形態と相関を把握したことが記載されている(1f)。
そして、各培養時間における多角光散乱(MALS)プロファイルについて、その変化と細胞数と細胞形態の相関関係について、以下の事項が説明されている(1f)。

(a)培養時間0分から30分の多角光散乱(MALS)プロファイルの変化:細胞数は増加しないが、細胞形態は変化し、芽胞から「明色体」への移行する。
(b)培養時間30分?2時間の多角光散乱(MALS)プロファイルの変化:生存可能細胞(芽胞/増殖性細胞)の数の有意な変化ないが、芽胞は桿菌の増殖性形の生成へと導く形態学的段階を迎え、細胞は「明色体(bright body)」から棒状桿菌へと変化する。
(c)培養時間2時間?4時間の多角光散乱(MALS)プロファイルの変化:桿菌(増殖性細胞)の数の実質的な増加を示し、2時間までに芽胞が発芽して桿菌を作り、その桿菌が4時間までに増殖する。

上記記載によると、細胞形態が桿菌の形態になるまでは細胞数の有意な変化は認められないが(上記(b))、桿菌になった後は細胞数が増加し(上記(c))、増殖期に入るといえることから、この実施例では、細胞形態が桿菌の形態になる培養時間2時間がおおよその対数増殖期に入る直前の時間といえる。

そうすると、この記載は、刊行物1発明の「滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標」が、微生物を対数増殖期に入る直前の時間培養し、培養前後の多角光散乱(MALS)プロファイルを測定して表示したものであって、培養前後の多角光散乱(MALS)プロファイルを比較すると、細胞数の有意な変化は認められないが、芽胞から桿菌になる細胞形態の変化が把握できる多角光散乱(MALS)プロファイルの変化が見られることを把握したものといえる。

(ウ)完全な滅菌処理を行った細胞の多角光散乱(MALS)検出について
刊行物1には、15 psiの圧力下に121℃にて5分間芽胞をオートクレーブ処理を行った細胞について、0分、30分、2時間、および24時間、培養(インキュベーション)し、多角光散乱(MALS)を測定して多角光散乱(MALS)プロファイルを得たところ、多角光散乱(MALS)プロファイルに変化はなく、すべての生物体が死滅したことを示したこと、また、未処理芽胞が呈した移行期の形態はまったく検出されなかったこと、わずかな短時間以内に蒸気オートクレーブ滅菌の効力を迅速且つ効率的に判定することが可能となったことが記載されている(1g)。
上記記載は、培養前後の多角光散乱(MALS)プロファイルに変化がないこと、さらに、滅菌処理を行っていない細胞の多角光散乱(MALS)プロファイル、つまり、上記(イ)で見られた、芽胞から桿菌になる細胞形態の変化が把握できる多角光散乱(MALS)プロファイルの変化が見られないことで、無菌性が達成されたことを把握したものである。

そうすると、この実施例は、刊行物1発明の「処理された微生物を含む生物学的指標」について、微生物が対数増殖期に入るであろう直前の時間培養し、培養前後の多角光散乱(MALS)プロファイルを測定して表示したものであって、培養前後の多角光散乱(MALS)プロファイルに変化がなかったこと、さらに、「滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標」を対数増殖期に入る直前の時間培養し、培養前後の多角光散乱(MALS)プロファイルを測定して把握した、多角光散乱(MALS)プロファイルにおける変化も見られなかったことから、無菌性を達成し得たと、滅菌処理の効力を評価したものである。

(エ)不充分な滅菌処理を行った細胞の多角光散乱(MALS)検出について
刊行物1には、無菌性をもたらすのに不充分であることがわかっている条件である、121℃および15 psiで3分間オートクレーブ処理を行った細胞について、0分、30分、1時間の培養(インキュベーション)を行い、多角光散乱(MALS)を測定したところ、30分の培養(インキュベーション)で細胞形態に変化があったが、1時間の培養(インキュベーション)後には、芽胞から桿菌の形態への変化を示すプロファイルの変化があり、不完全な滅菌の証拠が観察されたことが記載されている(1h)。

そうすると、この実施例は、刊行物1発明の「処理された微生物を含む生物学的指標」について、微生物の形態変化が生じる時間培養し、培養前後の多角光散乱(MALS)プロファイルを測定して表示したものであって、培養前後の多角光散乱(MALS)プロファイルに変化には、「滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標」を培養して見られ、微生物の形態変化に伴う多角光散乱(MALS)プロファイルの変化が見られたことを把握し、不完全な滅菌であったと、滅菌処理の効力を評価したものといえる。


以上のとおり、上記(イ)?(エ)によれば、刊行物1には、上記(イ)の記載のとおり、刊行物1発明の「滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標」を、細胞数の有意な変化は認められないが、細胞形態が芽胞から桿菌に変化する、桿菌が増殖し細胞数が増加する前の、微生物を対数増殖期に入る直前の時間培養して、培養前後の多角光散乱(MALS)を測定し、芽胞から桿菌に変化する微生物の形態変化に伴う多角光散乱(MALS)プロファイルの変化を把握し、その上で、上記(ウ)及び(エ)の記載のとおり、滅菌の「処理された微生物を含む生物学的指標」を培養し、培養前後の多角光散乱(MALS)を測定して、微生物の形態変化に伴う多角光散乱(MALS)プロファイルの変化が見られるか否か評価して、滅菌処理の効力を評価したものである。

上記(ウ),(エ)の、刊行物1発明の「処理された微生物を含む生物学的指標」については、微生物の形態変化に伴う培養前後の多角光散乱(MALS)プロファイルの変化が見られるか否かについては評価しているものの、対数増殖期に入る直前の時間培養したものであるかは不明であるが、上記(イ)の「滅菌処理に曝されなかった類似の微生物を含む生物学的指標」を対数増殖期に入る直前の時間培養することにより得られた多角光散乱(MALS)プロファイルと比較することを考えて、対数増殖期に入る直前であろう時間まで培養して、多角光散乱(MALS)を測定しプロファイルを得ることは、当業者が容易になし得たことである。

(相違点2について)
刊行物1発明の「微生物を含む生物学的指標の多角光散乱を検査する」ことは、上記「(相違点1について)(ア)」のとおり、多角光散乱(MALS)によって、多角光散乱(MALS)プロファイルを作製し、細胞のサイズ/形状を識別して、滅菌処理に対する応答を正常細胞数の減少や細胞形状の変化を通じて検出するものである(1d)。
そして、微生物や細胞などの粒子のサイズと数を測定する方法として、試料を染色してシーズ液に含ませて、検出部に1列に通過させ、光ビームを照射する光源を1個1個の粒子に照射して、粒子の数と、大きさに応じた前方散乱光強度をフローサイトメータで測定する方法は、例えば刊行物2,3に記載されているとおり、本願出願前によく知られた技術であり、その測定結果を前方散乱光強度に対する度数のヒストグラムで表示することも、例えば刊行物3や特開平2-114147号公報(第2頁左上欄2行?下から3行、第2頁右上欄7行?11行、第5頁左下欄下から3行?右下欄3行、第4図(a))に記載されているとおり、本願出願前からよく行われていることである。
そうすると、刊行物1発明の滅菌処理したものと未処理のものの培養の前後について、微生物のサイズと数を比較するために、多角光散乱(MALS)を測定し、多角光散乱(MALS)プロファイルを表示して比較することに代えて、前方散乱光強度をフローサイトメータで測定し、前方散乱光強度に対する度数のヒストグラムで表示して比較することは、よく知られた技術に基づいて当業者が容易になし得たことである。

(発明の効果について)
試料の培養工程にかかる時間は微生物の増殖活性を変化させるのに必要な時間で足りるため、短時間で殺菌処理効果を測定することが可能となること、個々の微生物の増殖活性を光学的に測定することにより、生微生物を直接的に計数し、殺菌処理効果を測定できるため、信頼性が高いことなどの本願補正発明の効果は、刊行物1に記載された事項および周知技術から当業者が予測し得たものである。

したがって、本願補正発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、本件補正が平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとしても、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
平成22年2月4日付けの手続補正は上記のとおり却下されることとなったので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成21年8月25日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項3に係る発明は以下のとおりのものである。
「【請求項3】
微生物を含む試料から第1の試料と第2の試料とを採取する工程と、
第1の試料を殺菌処理する工程と、
第1の試料と第2の試料をそれぞれ所定時間培養する工程と、
培養工程で得られた第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度をそれぞれ測定する工程と、
測定された第1と第2の試料それぞれの前方散乱光強度に対する度数のヒストグラムを表示する工程と、を含む微生物の殺菌処理効果測定方法。」
(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1ないし3及びその記載事項は、前記「第2 3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本願補正発明の「第1の試料と第2の試料をそれぞれ所定時間培養する工程」について、培養する時間を「微生物が対数期に入る直前の時間」との限定を「所定時間」として上位概念化し、また「培養工程で得られた第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度をそれぞれ測定する工程」が「フローサイトメータ」で測定するものであることを省き、さらに、「培養前の第1と第2の試料中に含まれる微生物の前方散乱光強度をそれぞれ、フローサイトメータで測定する工程」及び「測定された培養前」の「第1と第2の試料それぞれの前方散乱光強度に対する度数のヒストグラムを表示する工程」を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含んだ本願補正発明が、前記「第2 4」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-27 
結審通知日 2012-12-04 
審決日 2012-12-17 
出願番号 特願2003-343425(P2003-343425)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 大輔  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 菅野 智子
鵜飼 健
発明の名称 微生物の殺菌処理効果測定方法  

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