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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01S
管理番号 1269795
審判番号 不服2011-22369  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-17 
確定日 2013-02-07 
事件の表示 特願2007-141139「偏波無依存型半導体光増幅器」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月30日出願公開、特開2007-221172〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1 手続の経緯
本願は、平成12年5月29日(優先権主張 平成11年6月3日)の出願である特願2000-158399号(以下「原出願」という。)の一部を平成19年5月28日に新たな特許出願としたものであって、同日付けで手続補正がなされ、平成22年8月24日付けで拒絶理由が通知され、同年10月28日付けで意見書が提出され、平成23年7月19日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月17日に拒絶査定不服審判が請求され、同日付けで手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成19年5月28日付け手続補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「膜厚が20nm?90nmであり、歪量が-0.10%?-0.60%である伸張歪が導入された歪バルク活性層と、
前記歪バルク活性層を挟むように設けられたクラッド層と、
前記歪バルク活性層の光入射端面及び光出射端面での反射による光の共振を抑制する共振抑制手段とを有し、
前記入射端面から入射した入射信号光を増幅して前記光出射端面から出射信号光として出射し、前記出射信号光が受ける利得が前記入射信号光の偏波状態によらずにほぼ一定である
ことを特徴とする偏波無依存型半導体光増幅器。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載及び引用発明
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の優先日前に頒布された刊行物であるJ-Y. Emery et al.,NEW, PROCESS TOLERANT, HIGH PERFORMANCE 1.55μM POLARIZATION INSENSITIVE SEMICONDUCTOR OPTICAL AMPLIFIRE BASED ON LOW TENSILE BULK GaInAsP, 22nd European Conference on Optical Communication - ECOC'96, Oslo,1996年9月,Vol.3,p165-168(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(訳文をかっこ書で付した。また、下線は当審にて付した。)。
ア 「Abstract:
We demonstrate a polarization independant semiconductor optical amplifier using low tensile bulk separate confinement heterostructure. Internal gain as high as 30 dB with polarization sensitivity lower than 1dB is obtained in a structure with 0.15% tensile strain.」(165頁本文1?5行)
(要約
私たちは低歪バルク分離閉じ込めヘテロ構造を使用して、偏波無依存型半導体光増幅器を実証する。偏波依存性が1dB未満である30dB以下の内部利得は、0.15%の伸張歪を持った構造により得られる。)

イ 「Introduction
High potentialities of Semiconductor Optical Amplifier (SOA) have been demonstrated for optical system applications as amplifier, switch and wavelength convertor. Besides SOA requirements such as high gain, high output power and good coupling efficiency, polarization insensitivity is a key feature for most SOA applications. Both MQW and bulk active layer structures have been investigated to reach this characteristic.
Different approaches of MQW structures have been developed [1-6] in wich the TE/TM gain sensitivity are obtained by a careful adjustment of the well and barriers thicknesses as well as strain values in both wells and barriers and number of wells. Bulk active layer structures, with an easily growth control, provides high confinement factor and internal gain values[7].」(165頁本文6?18行)
(はじめに
半導体光増幅器(SOA)の高い潜在力は、光学系応用分野の増幅器、スイッチおよび波長変換器として示されてきた。高い利得、高出力及び良好なカップリング効率のようなSOAとしての必要条件に加えて、偏波無依存性はほとんどのSOAへの応用の鍵となる特徴である。MQW(審決注:多重量子井戸構造)及びバルク活性層構造は共にこの特性に至るように研究された。
井戸層と障壁層の両方の歪量及び井戸層の数と同様に、井戸層と障壁層厚さの注意深い調節によってTE/TM利得感度が得られることは、MQW構造に対する異なるアプローチによって開発されている[1-6]。簡単な成長コントロールによるバルク活性層構造は高い閉じ込め係数および内部利得値を提供する[7]。)

ウ 「Principle:
The structure consisting in a 0.2μm thick tensile bulk active layer is studied as function of tension values with and without SCH (0.1μm thick) corresponding to an optical confinement factor ratio ΓTE/ΓTM of 1.1 and 1.2 respectively.
The polarization insensitivity achievement requires an identical TE/TM SOA Gain G = exp[Γxg xL] whereΓ, g and L are the confinement factor, the material gain and the SOA cavity length. Optical material gains have been calculated for different tensile strain values and different injection levels. As the tensile strain increases the TM gain becomes larger than the TE gain.」
(原理:
0.2μmの厚さの歪バルク活性層からなる構造は、SCH(厚さ0.1μm 審決注:分離閉じ込めヘテロ構造)である場合とそうでない場合とで、それぞれ1.1及び1.2の光学的閉じ込め係数比率ΓTE/ΓTMに対応する歪量の関数として研究されている。
偏波無依存性を達成するには、同一のTE/TM SOA利得G=exp[Γxg×L]ここで、Γ、g及びLが閉じ込め係数、材料利得及びSOAキャビティ長、であることを必要とする。光学的な材料利得は、異なる伸張歪量および異なる注入レベルで計算した。伸張歪がTM利得を増加させるとともに、TE利得より大きくなる。)

エ 「In addition, the figure 1 indicates that the SCH structure results in an almost twice less tensile value to reach the condition of polarization insensitivity.
From experimental results, the polarization insensitivity condition has been obtained for △a/a= -0.15% in this configuration. This value remains far from the theoretical limit for which the layer should start to relax. Furthermore, this low tensile bulk structure allows positioning the maximum peak gain in a wide wavelength range (up to 1.6μm).」
(さらに、図1は、SCH構造は、ほとんど半分の伸張歪量で偏波無依存性状態となることを示す。
実験結果から、偏波無依存性条件は、この閉じ込め状態の△a/a=-0.15%により得られた。この値は、層が緩み始めるであろう理論的な限界値から遠く離れている。更に、この低い歪バルク構造により、(1.6μmまでの)広い波長範囲中に最大のピークゲインを位置させることができる。)

オ 「Experimental approach and results
As a first approach, we assessed the previous calculations on broad area devices with tilted stripes and anti reflection coating. The SCH structure is grown by GSMBE and consists of 0.2μm thick tensile bulk active layer embedded between two quaternary layer (λ=1.18μm) of 0.1μm thick. From amplified spontaneous emission spectra (ASE), the TE/TM gain insensitivity is observed for tensile strain around 0.15%. The gain sensitivity versus tensile strain exhibits a linear dependance with a slope of about 5dB per 0.1% which is close to the expected value.
In the second step a Buried Ridge Stripe (BRS)[7] of 1.2μm width and enlarged up to 3μm by a tapered region of 50μm length has been fabricated with optimal tensile strain using a standard dry etching process. This tapered region combined with an anti-reflection coating leads to very low ripple oscillations (<1dB).
Figures 2 and 3 show the gain characteristic versus driving current for a 600μm cavity length SOA including tensile strained active layer of about 0.14 and 0.16% respectively. Fiber to fiber gain larger than 20dB has been measured for a 200mA driving current.」
(実験のアプローチおよび結果
最初のアプローチとして、私たちは、傾斜したストライプおよび反射防止コーティングを備えた広いエリア装置に関する前の計算を評価した。SCH構造はGSMBE(審決注:ガスソース分子線エピタキシャル成長法)によって成長し、厚い(λ=1.18μm)0.1μmの2つの4元混晶の層の間に埋め込まれた0.2μmの厚い歪バルク活性層からなる。増幅された自然放出光(ASE)スペクトルから、TE/TM利得無依存は0.15%付近の伸張歪で観察される。利得感度対伸張歪は、予想値に近い0.1%当たり約5dBの傾きの線形の依存を示す。
第2の段階として、3μm幅まで拡大する1.2μm幅の埋め込みリッジストライプ(BRS)[7]であって50μm長さのテーパー状の領域は、一般的なドライエッチング・プロセスを使用して、最適な伸張歪で製造した。反射防止コーティングと結合したこのテーパー状の領域は、非常に低い振動発振をもたらす(<1dB)。
図2及び3は、約0.14及び0.16%の伸長歪み活性層をそれぞれ含むキャビティ長600μmnoSOAの利得特性対駆動電流を示す。20dBより大きなファイバー間利得は200mAの駆動電流において測定された。)

これらの記載を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「GSMBE(ガスソース分子線エピタキシャル成長法)によって成長するSCH(分離閉じ込めヘテロ構造)構造である、厚い0.1μmの2つの4元混晶の層の間に埋め込まれた0.2μmの厚い歪バルク活性層からなり、
反射防止コーティングと結合した歪バルク活性層のテーパー状の領域が、非常に低い振動発振をもたらすものであって、
20dBより大きなファイバー間利得が200mAの駆動電流において測定され、
偏波依存性が1dB未満である30dB以下の内部利得が、歪バルク活性層の0.15%の伸張歪を持った構造により得られる偏波無依存型半導体光増幅器。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された、原出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平3-12982号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
ア 「ダブルヘテロ接合から成る活性層を有し、その活性層の一方の端面を光入射端面とし、他方の端面を光出射端面として、これらの両端面での反射による共振を抑圧し、該活性層にそのバンドギャップとほぼ等しい波長の光信号を該光入射端より入射し、該活性層に電流を注入して誘導放出効果により上記光信号を増幅する進行波型半導体レーザ増幅器であって、
前記活性層の増厚方向の少くとも片側に該活性層のバンドギャップより大きいバンドギャップを持つ光導波層を設けた構造を有することを特徴とする進行波型半導体レーザ増幅器。」(特許請求の範囲)

イ 「[産業上の利用分野]
本発明は、光信号を電気信号に交換することなく直接増幅できる進行波型半導体レーザ増幅器に関し、特に高出力・低雑音・低動作電流密度であって、かつ利得の偏波面依存性の少ない進行波型半導体レーザ増幅器に関するものである。」(1頁左欄下3行?右欄3行)

ウ 「[発明が解決しようとする課題]
ところで、進行波型半導体レーザ増幅器の利得が未飽和利得の値の半分になるときの出力光5のパワーを飽和出力光パワーP_(3dB)と定義すると、飽和出力光パワーは

で示される。(1)式において、hνは光子エネルギー、A_(g)は微分利得、τ_(C)はキャリア寿命時間、d_(a)は活性層厚、wは活性層幅、Γ_(TE)はTEモードに対する光モード閉じ込め係数である。第6図にd_(a)/Γ_(TE)および各モード閉じ込め係数の活性層厚依存性の計算結果を示している。d_(a)/Γ_(TE)の値は活性層厚d_(a)=0.2μm付近で最小になり、活性層厚d_(a)の小さい領域では活性層厚d_(a)の減少とともに急激に増大する。・・・活性層厚d_(a)を薄くするとモード閉じ込めが減少し、キャリア密度が増大してキャリア寿命が減少することになるため、飽和出力光パワーP_(3dB)は活性層厚d_(a)の減少とともに増大する。・・・
一方、TEモードとTMモードの信号利得の差ΔG_(TE)/_(TM)は

で示される。(5)式において、Γ_(TE)、Γ_(TM)は各々TE、TMモードに対する光モード閉じ込め係数、αはモード吸収係数、Lは活性層長、G_(s)は単一通過利得である。(5)式より信号利得の偏波面依存性はモード閉じ込め係数の比に依存していることがわかる。通常の活性層厚d_(a)ではモード間の信号利得差が5dB以上になる・・・。このモード閉じ込めの偏波面依存性を小さくするには、活性層厚d_(a)を大きくすればよいが、これは飽和・雑音特性の点では好ましくないだけでなく、動作電流I_(op)の電流密度も大きくなってしまうという問題があった。」(2頁左上欄7行?左下欄17行)

エ 第6図は、以下のものである。

オ 第6図には、d_(a)/Γ_(TE)および各モード閉じ込め係数の活性層厚依存性の計算結果が示されており、同図を見ると、活性層厚は0.05?0.5μm(50?500nm)の範囲が想定されていることが理解できる。

よって、これらの記載を総合すると、引用文献2には、次の事項(以下「引用文献2に記載の事項」という。)が記載されていると認められる。

「ダブルヘテロ接合から成る活性層を有し、その活性層の一方の端面を光入射端面とし、他方の端面を光出射端面として、これらの両端面での反射による共振を抑圧し、該活性層にそのバンドギャップとほぼ等しい波長の光信号を該光入射端より入射し、該活性層に電流を注入して誘導放出効果により上記光信号を増幅する進行波型半導体レーザ増幅器において、活性層厚は0.05?0.5μm(50?500nm)の範囲で想定され、進行波型半導体レーザ増幅器の飽和出力光パワーは、(活性層厚)/(TEモードに対する光モード閉じ込め係数)の値が活性層厚=0.2μm付近で最小になり、活性層厚の小さい領域では活性層厚の減少とともに急激に増大し、活性層厚を薄くするとモード閉じ込めが減少し、キャリア密度が増大してキャリア寿命が減少することになるため、飽和出力光パワーは活性層厚の減少とともに増大するのに対して、TEモードとTMモードの信号利得の差は、信号利得の偏波面依存性はモード閉じ込め係数の比に依存していて、通常の活性層厚ではモード間の信号利得差が5dB以上になるが、このモード閉じ込めの偏波面依存性を小さくするには、活性層厚を大きくすればよいが、これは飽和・雑音特性の点では好ましくないだけでなく、動作電流の電流密度も大きくなってしまうという問題があった点。」

4 対比
(1)本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「歪バルク活性層」は「0.15%の伸張歪を持った構造により得られる」ものであるから、本願発明の「伸張歪が導入された歪バルク活性層」に相当する。

イ 引用発明の「2つの4元混晶の層」は、間に「歪バルク活性層」を埋め込むものであるから、「歪バルク活性層」を挟むように設けられた「2つの4元混晶の層」は、本願発明の「クラッド層」に相当するといえる。
したがって、引用発明は、本願発明の「歪バルク活性層を挟むように設けられたクラッド層」との構成を備える。

ウ 引用発明の「反射防止コーティング」は「歪バルク活性層」に設けられるものであって、「非常に低い振動発振をもたらすものであ」るから、本願発明の「反射による光の共振を抑制する共振抑制手段」に相当するといえる。また、「反射防止コーティング」を「歪バルク活性層」のどこに設けるか明記されていないが、「反射防止コーティング」である以上、光が出入りする端面に設けるものであるといえる。
したがって、引用発明は、本願発明の「前記歪バルク活性層の光入射端面及び光出射端面での反射による光の共振を抑制する共振抑制手段とを有し」ているとの構成を備える。

エ 引用発明は「20dBより大きなファイバー間利得」が測定されるものであるから、本願発明の「前記入射端面から入射した入射信号光を増幅して前記光出射端面から出射信号光として出射」するとの構成を備える。

オ 引用発明は「歪バルク活性層」に関して、「偏波依存性が1dB未満である30dB以下の内部利得は、0.15%の伸張歪を持った構造により得られる」ものであって、上記3(1)エに記載されているように「歪バルク活性層」の「偏波無依存性条件は、この閉じ込め状態の△a/a=-0.15%により得られ」るものであるから、「歪バルク活性層」は、「(歪量が-0.15%である)伸張歪が導入された歪バルク活性層」であるといえる。また、引用発明の「偏波無依存型半導体光増幅器」は「偏波依存性が1dB未満である」から、「前記出射信号光が受ける利得が前記入射信号光の偏波状態によらずにほぼ一定である」といえる。

よって、本願発明と引用発明とは、
「伸張歪が導入された歪バルク活性層と、
前記歪バルク活性層を挟むように設けられたクラッド層と、
前記歪バルク活性層の光入射端面及び光出射端面での反射による光の共振を抑制する共振抑制手段とを有し、
前記入射端面から入射した入射信号光を増幅して前記光出射端面から出射信号光として出射し、前記出射信号光が受ける利得が前記入射信号光の偏波状態によらずにほぼ一定である偏波無依存型半導体光増幅器。」
である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

本願発明の「歪バルク活性層」は、「膜厚が20nm?90nm」であり、「歪量が-0.10%?-0.60%である伸張歪が導入された」ものであるのに対して、引用発明の「歪バルク活性層」は、は、「0.2μmの厚い歪バルク活性層」からなり、「伸張歪」は「-0.15%」である点(以下「相違点」という。)。

5 判断
(1)上記相違点につき検討する。
ア 引用発明の「歪バルク活性層」は、「0.2μmの厚い歪バルク活性層」からなり、「伸張歪」は「-0.15%」であるところ、引用文献1(上記3(1)イ)には、「MQW(審決注:多重量子井戸構造)及びバルク活性層構造は共にこの特性に至るように研究されてい」て、「井戸層と障壁層の両方の歪量及び井戸層の数と同様に、井戸層と障壁層厚さの注意深い調節によってTE/TM利得感度が得られることは、MQW構造に対する異なるアプローチによって開発されている」と記載されている。

イ 上記アのとおり、MQW構造の「TE/TM利得感度」が、「井戸層と障壁層の両方の歪量」と「井戸層と障壁層厚さ」の注意深い調節により得られるものであることに照らして、引用発明の「歪バルク活性層」は、MQW構造と同様に、バルク活性層構造においても「歪量」と「厚さ」の注意深い調節により「TE/TM利得感度」が得られるものと理解できる。

ウ しかるところ、引用文献2には「引用文献2に記載の事項」が記載され、「進行波型半導体レーザ増幅器の飽和出力光パワー」は、「活性層厚の減少とともに増大するのに対して」、「偏波面依存性を小さくするには、活性層厚を大きくすればよいが、これは飽和・雑音特性の点では好ましくないだけでなく、動作電流の電流密度も大きくなってしまうという問題があった。」との事項が開示されているから、引用発明の「歪バルク活性層」におけるバルク活性層の「歪量」と「厚さ」の注意深い調節に際しては、「活性層厚の減少とともに増大する」「飽和出力光パワー」と、「活性層厚を大きくすれば」「偏波面依存性を小さくする」ことの間で、「飽和出力光パワー」と「偏波面依存性」が所望の範囲となるべく、当業者が「活性層厚を大きくすればよいが、これは飽和・雑音特性の点では好ましくないだけでなく、動作電流の電流密度も大きくなってしまうという問題」を念頭において、適宜バルク活性層の「歪量」と「厚さ」の注意深い調節を行うものと理解できる。

エ そうすると、引用発明において「飽和出力光パワー」を増大させるべく調節する場合は、「歪バルク活性層」の「厚み」を薄い方へ調節すればよく、また、「偏波面依存性」を小さくするべく調節する場合は、「歪バルク活性層」の「厚み」を厚い方へ調節すればよいことも理解できるところ、どちらへどの程度調節するかは、所望する「飽和出力光パワー」と「偏波面依存性」により定まる事項であることを考慮すると、当業者が必要に応じて適宜なしうる設計的事項にすぎず、これによる効果も予測される範囲を超えるものではなく、上記相違点は格別なものとは認められない。
そして、その際に、引用発明の「歪バルク活性層」は、「伸張歪」が「-0.15%」であって、「厚み」が「0.2μm」であるところ、「飽和出力光パワー」と「偏波面依存性」を所望の範囲とするべく「注意深い調節」を行えば、「伸張歪」が「-0.15%」付近の適宜の範囲となることが理解でき、また、引用文献2に記載の技術は、活性層厚として0.05?0.5μm(50?500nm)の範囲が想定されていることに照らして、「歪バルク活性層」の「厚み」を「20nm?90nm」に含まれる適宜の範囲とすることに格別の困難性を認めることはできない。

オ すなわち、上記引用文献2に記載の事項を踏まえて、引用発明の「歪バルク活性層」の「伸張歪」の量及び「厚み」を適宜の範囲となし、上記相違点に係る本願発明の特定事項となすことは当業者が容易になし得たことである。

(2)以上の検討によれば、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものというべきである。

6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-12-03 
結審通知日 2012-12-04 
審決日 2012-12-20 
出願番号 特願2007-141139(P2007-141139)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 道祖土 新吾  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 松川 直樹
吉野 公夫
発明の名称 偏波無依存型半導体光増幅器  
代理人 北野 好人  

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