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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B66B
管理番号 1269796
審判番号 不服2011-22578  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-19 
確定日 2013-02-07 
事件の表示 特願2005- 82513「エレベータ制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年10月 5日出願公開、特開2006-264822〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本件出願は、平成17年3月22日の出願であって、平成22年10月5日付けの拒絶理由通知に対して平成22年12月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成23年7月11日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成23年10月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、当審において平成24年8月20日付けで拒絶理由を通知したところ、平成24年10月22日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本件発明

本件出願の請求項1ないし5に係る発明は、平成24年10月22日付けの手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
エレベータの乗りかごが各階床の着床ゾーンに入ったことを検出する着床ゾーン検出手段と、
前記着床ゾーン検出手段によって前記乗りかごが目的階の着床ゾーンに入ったことが検出された際に、前記乗りかごを目的階に着床させる移動制御のために、前記目的階までの距離に応じて演算された、前記目的階に近づくにつれて減速度が低くなり前記目的階までの距離がゼロに到達した時の速度指令値がゼロとなるようにした第1の着床速度指令を出力し、前記第1の着床速度指令による速度指令値がゼロとなってから一定時間内に、前記第1の着床速度指令に応じて移動制御された前記乗りかごが目的階に到達しない場合には、前記第1の着床速度指令に応じた移動制御による前記乗りかごの移動方向と同じ方向で前記乗りかごが目的階に到達するまで予め決められた一定速度により前記乗りかごを移動させる第2の着床速度指令を出力する着床制御手段とを有することを特徴とするエレベータ制御装置。」

第3 刊行物に記載された発明

(1)刊行物の記載事項

当審において平成24年8月20日付けで通知した拒絶の理由に引用された本件出願前に頒布された刊行物である特開昭52-7546号公報(以下、「刊行物」という。)には、次の事項が図面とともに記載されている。

a)「1.エレベータ乗かごを昇降駆動するための電動機と、少くとも減速時の速度指令を発生する第1の速度指令発生装置と、着床目標点近傍において乗かごと目標点との距離の関数である速度指令を発生する第2の速度指令発生装置と、エレベータの速度またはそれに相当する速度信号を発生する装置と、少くとも減速時に上記第1の速度指令を指令入力とし、着床停止時には上記第2の速度指令を指令入力として上記速度信号との偏差により上記電動機を制御する速度制御系とを備えたものにおいて、エレベータ零速度検出装置と、その出力により上記速度制御系の指令入力を第1の速度指令から第2の速度指令に切換える切換装置を設けたことを特徴とするエレベータ制御装置。」(第1ページ左下欄第4ないし18行)

b)「本発明は、エレベータ制御装置に関し、特に着床制御の改良に係るものである。
エレベータの乗心地や着床精度には非常な厳格さが要求されるため、内乱、外乱に対して強い速度制御系を構成するよう配慮されている。この内乱、外乱には±100%の負荷変動や温度変化、界磁束の変化等の特性変動があり、このような変動因子に対しても乗心地を損わず、かつ着床位置を数mmに収め、停止階の床(着床目標点)と一致させることは非常に困難である。そこで、一般に着床狂いが生じたときに補正する位置制御装置が備えられている。この位置制御装置は着床狂いを補正するのは勿論のこと、迅速かつ滑らかで乗客に不快感を与えないことが望まれる。」(第1ページ右下欄第18行ないし第2ページ左上欄第11行)

c)「その後速度指令基準発生装置10は階段的に減少し目標階に到達すると床面手前で零指令となる。第1の速度指令発生装置16の出力161は減少し、速度70も73のように減少し、速度指令基準値101が零になつた後、第1の速度指令発生装置16及び速度制御系の遅れ分だけ遅れて零となつて目標停止階の床面に停止する。」(第2ページ左下欄第4ないし10行)

d)「すなわち、着床狂いが生じ、このようなときに位置制御装置が動作する。位置制御装置は、乗かご7に位置検出装置19を備え、この位置検出装置が目標停止階の床面に対してある範囲の距離より上に停止したか、下に停止したかを検出して位置検出継電器21を動作させる。この位置検出継電器21の動作信号で第2の速度指令装置22の出力が発生し、かつ電源遮断指令装置11が信号を発生して制御増幅器13と電磁制動機9の動作を行なう。」(第2ページ左下欄第18行ないし右下欄第7行)

e)「第2の速度指令装置22は、第3図のように床面0からある範囲の距離内501?502では零指令となり、その範囲外では503、504なる第2の速度指令を発生する。すなわち、床面より上に停止したときは下降方向の速度指令504を発生しエレベータを下降させる。」(第2ページ右下欄第8ないし13行)

f)「本発明においては、第1の速度指令によつて減速したエレベータが停止したこと、すなわちエレベータの零速度を検出したのち、第2の速度指令に切換えるのである。このように構成すれば、負荷状態などの外乱の影響を受けにくく、滑らかな位置合せができる・・・・・中略・・・・・
ここで第2の速度指令は、従来のものより急峻な特性とすることは本発明にとつて必ずしも必要ではなく、従来と同一特性であつても、乗心地の向上につながる。」(第3ページ左下欄第2ないし19行)

g)「また、エレベータの零速度検出とは、実際にエレベータあるいは電動機の停止を検出する必要はなく、第1の速度指令が零になつたことあるいは第1の速度指令基準値が最終段ノツチを消滅したことを検知し、その後エレベータが停止するまでに要する時限を設定するように構成してもよい。」(第3ページ左下欄第20行ないし右下欄第5行)

h)「更に、第2の速度指令は、第3図・・・・・中略・・・・・で説明した特性が利用できる・・・・・後略・・・・・」(第3ページ右下欄第8ないし13行)

i)「図面に沿つて本発明の一実施例を説明する。加速及び減速については前記した従来例とほぼ同様なので省略し、停止から位置制御装置の動作について説明する。・・・・・中略・・・・・この停止、すなわち零速度はエレベータ零速度検出器25で検出し零速度信号251を発生し、切換装置26を動作させて、第2速度指令231を制御増幅器に印加する。例えば上昇運転の行き過ぎで第6図の乗かご位置50に停止したとすると下降指令が印加される。・・・・・中略・・・・・したがつて、零速度指令検出器で零速度指令を検出し、その信号で速度制御系の遅れ時間にほぼ等しい時限装置を動作させ、またその信号で切換装置26を動作させて第2速度指令を制御増幅器に印加すればエレベータ零速度検出器としての効果があり、速度検出器17を用いない制御系にも応用できる。・・・・・中略・・・・・
本発明によれば第2速度指令を乗かごが停止してから印加するため乗かご停止時の不快感が取除かれ、かつ、位置制御装置による起動を早く、滑らかにし、しかも高精度の着床性能が得られるという効果がある。」(第3ページ右下欄第14行ないし第4ページ右下欄第1行)

(2)上記(1)a)ないしi)及び図面の記載より分かること

イ)上記i)の記載によれば、「停止」により「切換装置26を動作させて、第2速度指令231を制御増幅器に印加する」こと、及び、「例えば、上昇運転の行き過ぎで第6図の乗かご位置50に停止したとすると下降指令が印加される」ことから、いわゆる、「着床狂い」が生じたときに、換言すれば、乗りかご7が目標停止階に停止しない場合には、第2の速度指令が出力されることが分かる。

ロ)上記g)の記載によれば、「エレベータの零速度検出とは、」「第1の速度指令が零になつたこと」「を検知し、その後エレベータが停止するまでに要する時限を設定するように構成してもよい」こと、及び、上記e)及びh)並びに第3図の記載によれば、「第2の速度指令は、第3図」「で説明した特性が利用できる」ことから、これらを総合すると、第1の速度指令による速度指令値が零となってから一定時間内に、乗りかご7が目標停止階に停止するまで予め決められた一定速度により乗りかご7を移動させる第2の速度指令が出力されることが分かる。

ハ)上記イ)及びロ)をあわせてみると、第1の速度指令による速度指令値が零となってから一定時間内に、乗りかご7が目標停止階に停止しない場合には、乗りかご7が目標停止階に停止するまで予め決められた一定速度により乗りかご7を移動させる第2の速度指令が出力されることが分かる。

(3)刊行物に記載された発明

したがって、上記(1)及び(2)を総合すると、刊行物には次の発明(以下、「刊行物に記載された発明」という。)が記載されていると認められる。

<刊行物に記載された発明>

「乗りかご7を目標停止階に着床させる移動制御のために、第1の速度指令を出力し、第1の速度指令による速度指令値が零となってから一定時間内に、第1の速度指令に応じて移動制御された乗りかご7が目標停止階に停止しない場合には、乗りかご7が目標停止階に停止するまで予め決められた一定速度により乗りかご7を移動させる第2の速度指令を出力する着床制御手段を有するエレベータ制御装置。」

第4 対比・判断

本件発明と刊行物に記載された発明とを対比すると、刊行物に記載された発明における「乗かご7」、「目標停止階」、「第1の速度指令」、「第2の速度指令」及び「零」は、その構造、機能又は技術的意義からみて、それぞれ、本件発明における「乗りかご」、「目的階」、「第1の着床速度指令」、「第2の着床速度指令」及び「ゼロ」に相当する。
また、刊行物に記載された発明における「目標停止階に停止」は、上記第3(1)b)、d)及びi)の記載を参酌すれば、目標停止階の床面に対して上に停止したり、下に停止したりといった「着床狂い」がなく、乗かご7が目標停止階に正確に着床することを意味していることが明らかであり、本件発明における「目的階に到達」は、床面を通過することなく乗りかごが目的階に正確に着床することを意味しているところ、刊行物に記載された発明における「目標停止階に停止」も、本件発明における「目的階に到達」も、目標停止階(目的階)に正確に着床することを意味する点では共通していることから、刊行物に記載された発明における「目標停止階に停止」は、「目的階に停止」という限りにおいて、本件発明における「目的階に到達」に相当するといえる。

してみると、本件発明と刊行物に記載された発明とは、
「乗りかごを目的階に着床させる移動制御のために、第1の着床速度指令を出力し、第1の着床速度指令による速度指令値がゼロとなってから一定時間内に、第1の着床速度指令に応じて移動制御された乗りかごが目的階に停止しない場合には、乗りかごが目的階に停止するまで予め決められた一定速度により乗りかごを移動させる第2の着床速度指令を出力する着床制御手段を有するエレベータ制御装置。」の点で一致し、次の2点で相違する。

<相違点1>

「第1の着床速度指令に応じて移動制御された乗りかごが目的階に停止しない場合には、乗りかごが目的階に停止するまで予め決められた一定速度により乗りかごを移動させる第2の着床速度指令」に関し、
本件発明においては、「第1の着床速度指令に応じて移動制御された乗りかごが目的階に到達しない場合には、第1の着床速度指令に応じた移動制御による乗りかごの移動方向と同じ方向で乗りかごが目的階に到達するまで予め決められた一定速度により乗りかごを移動させる第2の着床速度指令」であるのに対し、
刊行物に記載された発明においては、「第1の速度指令に応じて移動制御された乗りかご7が目標停止階に停止しない場合には、乗りかご7が目標停止階に停止するまで予め決められた一定速度により乗りかご7を移動させる第2の速度指令」である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>

本件発明においては、「エレベータの乗りかごが各階床の着床ゾーンに入ったことを検出する着床ゾーン検出手段」を有し、乗りかごを目的階に着床させる移動制御のために出力される「第1の着床速度指令」は、「着床ゾーン検出手段によって乗りかごが目的階の着床ゾーンに入ったことが検出された際に、目的階までの距離に応じて演算された、目的階に近づくにつれて減速度が低くなり目的階までの距離がゼロに到達した時の速度指令値がゼロとなるようにした」ものであるのに対し、
刊行物に記載された発明においては、「エレベータの乗りかごが各階床の着床ゾーンに入ったことを検出する着床ゾーン検出手段」を有しているか否か不明であり、乗かご7を目標停止階に着床させる移動制御のために出力される「第1の速度指令(本件発明における「第1の着床速度指令」に相当する。)」は、そのようものであるか否か不明である点(以下、「相違点2」という。)。

まず、上記相違点1について検討する。

上記第3(1)i)の記載によれば、一実施例の説明において、「例えば、上昇運転の行き過ぎで第6図の乗かご位置50に停止したとすると下降指令が印加される。」との例示があり、これを参酌すれば、刊行物には、第1の速度指令に応じた移動制御による乗かご7の移動方向と逆の方向で乗かご7を移動させる第2の速度指令が例示されているといえる。
しかしながら、刊行物には、上記第3(1)b)の記載によれば、「内乱、外乱」「のような変動因子」があることにより、「着床位置を数mmに収め、停止階の床(着床目標点)と一致させることは非常に困難」との課題認識の下で、従来例についての記述ではあるものの、上記第3(1)d)の記載によれば、いわゆる「着床狂い」について、目標停止階の床面に対して「上に停止」することも「下に停止」することも説明されている。
そうしてみると、刊行物に記載された発明は、「着床狂い」を前提としていると解するのが自然であるから、「内乱、外乱」「のような変動因子」があることにより生じる「着床狂い」は、例えば、「上昇運転の行き過ぎ」によるもののみではなく、「上昇運転の不足」によるものをも想定しているといえるし、少なくとも、「上昇運転の不足」によるものを積極的に排除しているとまではいえない。
以上を総合すると、刊行物に記載された発明は、「第1の速度指令に応じた移動制御による乗かご7の移動方向と同じ方向で乗かご7を移動させる第2の速度指令」をも想定しているものといえるから、刊行物に記載された発明における「第2の速度指令(本件発明における「第2の着床速度指令」に相当する。)」は、「第1の速度指令(本件発明における「第1の着床速度指令」に相当する。)に応じた移動制御による乗かご7の移動方向と逆の方向で乗かご7を移動させる」こと(以下、「前者」という。)と、「第1の速度指令(本件発明における「第1の着床速度指令」に相当する。)に応じた移動制御による乗かご7の移動方向と同じ方向で乗かご7を移動させる」こと(以下、「後者」という。)を包含しているものといえる。
そして、「第1の速度指令に応じた移動制御による乗かご7の移動方向と同じ方向で乗かご7を移動させる第2の速度指令」を出力する場合とは、第1の速度指令に応じた移動制御による乗かご7の移動距離が不足している、換言すれば、乗かご7が目標停止階に未到達であることによる「着床狂い」が生じていることが明らかである。
してみると、刊行物に記載された発明において、第2の速度指令(本件発明における「第2の着床速度指令」に相当する。)について後者を選択し、この選択にともない「目的階に停止」を「目的階に到達」と表現して、相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

次に、上記相違点2について検討する。

エレベータの着床制御装置において、「エレベータの乗りかごが各階床の着床ゾーンに入ったことを検出する着床ゾーン検出手段」を有し、「着床速度指令」として、「着床ゾーン検出手段によって乗りかごが目的階の着床ゾーンに入ったことが検出された際に、目的階までの距離に応じて演算された、目的階に近づくにつれて減速度が低くなり目的階までの距離がゼロに到達した時の速度指令値がゼロとなるようにした」ものを用いることは、本件出願前周知の技術(例えば、特開平2-48381号公報、特開2001-39637号公報、特開平8-324903号公報等参照。以下、「周知技術」という。)である。
してみると、刊行物に記載された発明において、上記周知技術を適用して、相違点2に係る本件発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易に想到できたことである。

そして、本件発明は、全体としてみても、刊行物に記載された発明及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

第5 むすび

以上のとおり、本件発明は、刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-20 
結審通知日 2012-11-27 
審決日 2012-12-21 
出願番号 特願2005-82513(P2005-82513)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B66B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 間中 耕治  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 中川 隆司
柳田 利夫
発明の名称 エレベータ制御装置  
代理人 村松 貞男  
代理人 河野 哲  
代理人 峰 隆司  
代理人 中村 誠  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 福原 淑弘  

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