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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1269797
審判番号 不服2011-23315  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-10-28 
確定日 2013-02-07 
事件の表示 特願2005-179177「整流素子およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月28日出願公開、特開2006-352006〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成17年6月20日の出願であって、平成22年7月26日付けの拒絶理由通知に対して、同年9月28日に手続補正書及び意見書が提出され、平成23年3月3日付けの最後の拒絶理由通知に対して、同年4月21日に手続補正書及び意見書が提出されたが、前記同年4月21日付け手続補正書でした明細書、特許請求の範囲又は図面についての補正は、同年8月2日付けで補正の却下の決定がなされ、同日付けで拒絶査定がされた。
これに対し、同年10月28日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、その後、平成24年3月21日付けで審尋がなされ、同年4月16日に回答書が提出された。

第2.補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成23年10月28日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1?6を補正して、補正後の特許請求の範囲の請求項1?6とするとともに、明細書の段落【0011】と【0012】を補正するものであり、請求項1については、本件補正の前後で各々次のとおりである。

(補正前)
「ワイドバンドギャップ半導体よりなる第1導電型の第1不純物領域と、
前記第1不純物領域内に形成され、かつ平面的に見て前記第1不純物領域を囲むように形成された第2導電型の第2不純物領域と、
前記第1不純物領域とショットキー接触し、かつ前記第2不純物領域と電気的に接続された第1電極と、
前記第1電極とは異なる電位を印加可能であり、かつ前記第1不純物領域に電気的に接続された第2電極とを備え、
前記第1電極と前記第2電極との電位差が変化することにより、前記第1電極と前記第2電極との間に電流を流す状態と、前記第2不純物領域に囲まれる前記第1不純物領域を空乏層化させて前記第1電極と前記第2電極との間の電流経路を遮断する状態とを選択可能で、
前記第1不純物領域は凸部を有し、
前記凸部の上面および側面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触する、整流素子。」

(補正後)
「SiCよりなる第1導電型の第1不純物領域と、
前記第1不純物領域内に形成され、かつ平面的に見て前記第1不純物領域を囲むように形成された第2導電型の第2不純物領域と、
前記第1不純物領域とショットキー接触し、かつ前記第2不純物領域と電気的に接続された第1電極と、
前記第1電極とは異なる電位を印加可能であり、かつ前記第1不純物領域に電気的に接続された第2電極とを備え、
前記第1電極と前記第2電極との電位差が変化することにより、前記第1電極と前記第2電極との間に電流を流す状態と、前記第2不純物領域に囲まれる前記第1不純物領域を空乏層化させて前記第1電極と前記第2電極との間の電流経路を遮断する状態とを選択可能で、
前記第1不純物領域は凸部を有し、かつ1×10^(16)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)の不純物濃度を有し、
前記凸部の上面および側面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触し、前記ショットキー接触におけるショットキー障壁φBn_(1)が、0.48eV<φBn_(1)<0.84eVであり、かつ250℃の温度でも前記ショットキー接触を確保できる、整流素子。」

2.補正事項の整理
本件補正による補正事項を整理すると、次のとおりである。
(1)補正事項1
補正前の請求項1の「ワイドバンドギャップ半導体よりなる第1導電型の第1不純物領域」を、補正後の請求項1の「SiCよりなる第1導電型の第1不純物領域」と補正し、補正前の請求項1の「前記第1不純物領域は凸部を有し」を、補正後の請求項1の「前記第1不純物領域は凸部を有し、かつ1×10^(16)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)の不純物濃度を有し」と補正し、補正前の請求項1の「前記凸部の上面および側面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触する」を、補正後の請求項1の「前記凸部の上面および側面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触し、前記ショットキー接触におけるショットキー障壁φBn_(1)が、0.48eV<φBn_(1)<0.84eVであり、かつ250℃の温度でも前記ショットキー接触を確保できる」と補正する。

(2)補正事項2
補正前の請求項4の「ワイドバンドギャップ半導体よりなる第1不純物領域に凸部を形成する工程」を、補正後の請求項4の「SiCよりなる第1不純物領域に凸部を形成する工程」と補正し、補正前の請求項4の「前記第1不純物領域の不純物濃度が調整される」を、補正後の請求項4の「前記第1不純物領域の不純物濃度が1×10^(16)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)に調整され、
前記ショットキー接触におけるショットキー障壁φBn_(1)が、0.48eV<φBn_(1)<0.84eVであり、かつ250℃の温度でも前記ショットキー接触を確保できる」と補正する。

(3)補正事項3
補正前の発明の詳細な説明の段落【0011】と【0012】を補正して、それぞれ補正後の発明の詳細な説明の段落【0011】と【0012】とすること。

3.新規事項の追加の有無についての検討
(1)補正事項1について
補正事項1のうち、「第1導電型の第1不純物領域」の「ワイドバンドギャップ半導体」を「SiCよりなる」ものとする点については、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)の次の箇所に記載されているものと認められる。
「【0031】
n^(+)半導体基板20およびn^(-)半導体層2は、SiC、窒化ガリウム(GaN)、またはダイヤモンドなどのワイドバンドギャップ半導体よりなっている。」
「【0055】
続いて、本実施の形態における整流素子の製造方法について、図10?図13を用いて説明する。始めに図10を参照して、SiCよりなるn^(+)半導体基板20を準備する。n^(+)半導体基板20は、N(窒素)を不純物として1×10^(19)/cm^(3)の不純物濃度を有する。そして、たとえば厚さ12μm程度のSiCよりなるn^(-)半導体層2をn^(+)半導体基板20上にエピタキシャル成長させる。」

また、補正事項1のうち、「第1不純物領域」の「凸部」が、「1×10^(16)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)の不純物濃度を有」する点、及び、「凸部の上面および側面」の「ショットキー接触におけるショットキー障壁φBn_(1)が、0.48eV<φBn_(1)<0.84eVであり、かつ250℃の温度でも前記ショットキー接触を確保できる」点については、当初明細書等の次の箇所に記載されているものと認められる。
「【0036】
さらに、n^(-)半導体層2の不純物濃度がたとえば1×10^(16)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)である場合、ショットキー障壁φBn_(1)が0.48eV<φBn_(1)<0.84eVであることが好ましい。0.48eV<φBn_(1)とすることで、250℃の温度でもn^(-)半導体層2とショットキー電極3とのショットキー接触を確保することができる。また、φBn_(1)<0.84eVとすることで、1A/cm^(3)の電流を流すのに必要な電圧を0.1V以下にすることができる。ショットキー障壁φBn_(1)が上記範囲となることが期待できるショットキー電極3の材料としては、たとえばTi(チタン)、Cr、Fe、Cu、Zn(亜鉛)、Mo、Te(テルル)、Sn(スズ)、Pb(鉛)、またはWなどが挙げられる。」
「【0063】
(実施の形態2)
図14は、本発明の実施の形態2における整流素子の構成を示す断面図である。図14を参照して、本実施の形態の整流素子10aにおいて、n^(-)半導体層2はその表面に凸部12を有している。凸部12は、n^(+)半導体基板20の表面に均一にエピタキシャル成長されたn^(-)半導体層2において、凸部12以外の領域に溝13を形成することによって形成されている。」

よって、補正事項1の補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるから、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
したがって、補正事項1は、特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たす。

(2)補正事項2について
補正事項2のうち、「第1導電型の第1不純物領域」の「ワイドバンドギャップ半導体」を「SiCよりなる」ものとする点が、当初明細書等の段落【0031】、【0055】に記載されていることは、上記(1)で検討したとおりである。
また、補正事項2のうち、「第1不純物領域の不純物濃度」が「1×10^(16)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)に調整」される点、及び、「凸部の上面および側面」の「ショットキー接触におけるショットキー障壁φBn_(1)が、0.48eV<φBn_(1)<0.84eVであり、かつ250℃の温度でも前記ショットキー接触を確保できる」点が、当初明細書等の段落【0036】、【0063】に記載されていることも、上記(1)で検討したとおりである。

よって、補正事項2の補正は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであるから、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものである。
したがって、補正事項2は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(3)補正事項3について
補正事項3は、特許請求の範囲の補正と整合するように、発明の詳細な説明を補正するものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすことは明らかである。

(4)新規事項の追加の有無についての検討のまとめ
以上のとおり、補正事項1?3はいずれも特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているから、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。

4.補正目的の適否についての検討
(1)補正事項1について
補正事項1は、補正前の請求項1の「ワイドバンドギャップ半導体よりなる第1導電型の第1不純物領域」を、補正後の請求項1の「SiCよりなる第1導電型の第1不純物領域」とし、補正前の請求項1の「前記第1不純物領域は凸部を有し」を、補正後の請求項1の「前記第1不純物領域は凸部を有し、かつ1×10^(16)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)の不純物濃度を有し」とし、補正前の請求項1の「前記凸部の上面および側面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触する」を、補正後の請求項1の「前記凸部の上面および側面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触し、前記ショットキー接触におけるショットキー障壁φBn_(1)が、0.48eV<φBn_(1)<0.84eVであり、かつ250℃の温度でも前記ショットキー接触を確保できる」とする補正であり、ワイドバンドギャップ半導体を具体的な材料であるSiCで限定し、第1不純物領域を具体的な不純物濃度で限定し、ショットキー接触をショットキー障壁の具体的なエネルギー値と動作温度で限定することによって、特許請求の範囲を減縮をしようとする補正であるから、この補正は、特許法第17条の2第4項(平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項を言う。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
したがって、補正事項1は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。

(2)補正事項2について
補正事項2は、補正前の請求項4の「ワイドバンドギャップ半導体よりなる第1不純物領域に凸部を形成する工程」を、補正後の請求項4の「SiCよりなる第1不純物領域に凸部を形成する工程」とし、補正前の請求項4の「前記第1不純物領域の不純物濃度が調整される」を、補正後の請求項4の「前記第1不純物領域の不純物濃度が1×10^(16)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)に調整され、
前記ショットキー接触におけるショットキー障壁φBn_(1)が、0.48eV<φBn_(1)<0.84eVであり、かつ250℃の温度でも前記ショットキー接触を確保できる」とする補正であり、ワイドバンドギャップ半導体を具体的な材料であるSiCで限定し、第1不純物領域の不純物濃度を具体的な値で限定し、ショットキー接触をショットキー障壁の具体的なエネルギー値と動作温度で限定することによって、特許請求の範囲を減縮をしようとする補正であるから、この補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
したがって、補正事項2は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。

(3)補正目的の適否についての検討のまとめ
以上のとおり、補正事項1、2はいずれも特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしているから、本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たすものである。

本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項において準用する同法第126条第5項に規定する独立特許要件を満たすか)否かを、請求項1に係る発明について検討する。

5.独立特許要件についての検討
(1)本願補正発明
本件補正による補正後の請求項1?6に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記1.に補正後の請求項1として記載したとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

【請求項1】
「SiCよりなる第1導電型の第1不純物領域と、
前記第1不純物領域内に形成され、かつ平面的に見て前記第1不純物領域を囲むように形成された第2導電型の第2不純物領域と、
前記第1不純物領域とショットキー接触し、かつ前記第2不純物領域と電気的に接続された第1電極と、
前記第1電極とは異なる電位を印加可能であり、かつ前記第1不純物領域に電気的に接続された第2電極とを備え、
前記第1電極と前記第2電極との電位差が変化することにより、前記第1電極と前記第2電極との間に電流を流す状態と、前記第2不純物領域に囲まれる前記第1不純物領域を空乏層化させて前記第1電極と前記第2電極との間の電流経路を遮断する状態とを選択可能で、
前記第1不純物領域は凸部を有し、かつ1×10^(16)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)の不純物濃度を有し、
前記凸部の上面および側面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触し、前記ショットキー接触におけるショットキー障壁φBn_(1)が、0.48eV<φBn_(1)<0.84eVであり、かつ250℃の温度でも前記ショットキー接触を確保できる、整流素子。」

(2)引用例の表示
引用例1:特表2001-508946号公報
引用例2:特開平5-259436号公報

(3)引用例1の記載、引用発明と、引用例2の記載
(3-1)引用例1の記載
ア.原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特表2001-508946号公報(以下「引用例1」という。)には、「SiCを使用したショットキー・ダイオードとその製造方法」(発明の名称)に関して、図1?図3とともに、次の記載がある。(ここにおいて、下線は当合議体が付加したものである。以下同様。)

<発明の背景等>
a.「発明の技術分野および先行技術
本発明は、nまたはpの第1形に従って高濃度にドープされているSiCの基板層、前記第1形に従って比較的低濃度にドープされているSiCのドリフト層および前記ドリフト層にショットキー接触をつくる金属層を、言及されている順番で相互の上にもつショットキー・ダイオードに関する。このようなショットキー・ダイオードの利点は、pnダイオードに比較して電圧降下が小さいため"オン"状態の損失が小さく、ショットキー・ダイオードの場合、主として多数キャリヤによる導通によって"オフ"になるときの逆方向回復動作と、"オン"になるときの順方向電圧のオーバーシューとが存在しないため、pnダイオードに比較してスイッチング損失が少なく、変換回路の使用に適している。しかし、実際のショットキー・ダイオードは、pnダイオードに比較して漏洩電流に難点があり、ショットキー接合が高電界にさらされる場合は、大電力の用途に受け入れられることは難しい。
SiCで製造されたデバイスが、高温、すなわち1000Kまでの温度で動作できるような高い耐熱性、高い空間密度でSiCデバイスが配置されうる高い熱伝導度、Siの場合よりも約10倍も高い降伏電界(breakdown field)など、SiCは優れた物理的特性を備えている。これらの特性を備えているため、SiCは、デバイスのブロッキング状態のときに高電圧が発生しうる条件で動作する大電力デバイス用の材料に適しているので、上記のようなショットキー・ダイオードの欠点を小さくして、とくに大電力での用途の一選択肢となるSiCショットキー・ダイオードが提供されることが非常に望まれている。SiCのバンドギャップが大きいため、この材料でつくられたショットキー・ダイオードは、この材料でつくられたpnダイオードに比較して"オン"状態の損失についてとくに利点がある。何故ならば、Siと比較するとSiCの場合pn接合の順方向の電圧降下が非常に大きいからである。さらにここに実現されたSiCショットキー・ダイオードは、ブロッキング・モードにおける漏洩電流が非常に大きいことを示しており、その値は、理論的に期待される値よりもはるかに大きい。従来のSiCショットキー・ダイオードに関する別の問題は、最高の電界が常に(ショットキー障壁領域の)表面に近いためインターフェースの品質を非常に良好にしなければならないことである。また、デバイスの周辺にフィールド濃度(Field concentration)が現れることがあり、これらのフィールド濃度は、ある種の用途には許容できない漏洩電流になる。
発明の要約
本発明の目的は、既知のSiCショットキー・ダイオードに比較して特性が改善されたSiCショットキー・ダイオードを提供することである。」(第7頁第3行?第8頁第9行)

<実施例>
b.「図1に、SiCで製造された接合障壁ショットキー・ダイオードが模式的に示されている。」(第13頁第20?21行)

c.「最初に、望ましくは化学的気相成長法により、相互の上に高濃度にドープされたSiCのn形基板層1と、低濃度にドープされたSiCのn形ドリフト層2がエピタキシャル成長する。これらの層をドーピングするために、窒素や燐など、適切なドナーが使用されうる。ドリフト層および基板パターン層の代表的なドーピング濃度は、それぞれ10^(15)?10^(16)cm^(-3)および10^(18)?10^(20)cm^(-3)でよい。ドリフト層の上に適切なマスクを適用してマスクのパターンニングを適切に実施した後、前記基板層1から垂直に離れたところで前記ドリフト層に高濃度にドープされたp形エミッタ層領域を形成するため、横方向に間隔を置いて配置された領域3の中でドリフト層に、ホウ素またはアルミニウムなどのp形不純物元素が打ち込まれる。」(第13頁第27行?第14頁第9行)

d.「打ち込まれた不純物元素を電気的に活性化するアニーリング・ステップの後と、使用されたマスクを除去した後とに、隣接エミッタ層領域間の領域6の上とエミッタ層領域3の上とにショットキー接触5をつくるために前記ドリフト層2の上と、金属層に対するオーミックコンタクト7をつくるためにエミッタ層領域3の上とに金属層4が加えられる。オーミックコンタクトおよびショットキー接触はダイオードの陽極を形成するが、線8で示されているだけの対応する金属層はダイオードの陰極を形成するので、基板層の下に加えられる。このデバイスの機能は上記から明らかであるが、ごく簡単に繰り返しておく。このダイオードの順方向導通状態では、(約2.2Vから2.5Vの)pn障壁より低い(約0.7Vから1Vの)ショットキー障壁により、このダイオードは低電流密度におけるショットキー・ダイオードとして機能する。"オン"状態の損失はpnダイオードの"オン"状態の損失よりも小さい。このような低電流密度においては、エミッタ層領域からドリフト層へ少数電荷キャリヤが注入されず、このことは逆方向回復電荷によるスイッチング損失は無視できることを意味する。電流密度がもっと大きいと、エミッタ層領域からドリフト層に少数電荷キャリヤが注入され、このダイオードの特性はpnダイオードの特性に近くなる。これは、デバイスのサージ電流特性にとって利点である。したがって、このダイオードの逆ブロッキング状態において金属層4が負電位に接続されると、エミッタ層領域は、前記ドリフト層領域6の低濃度ドーピングにより、ドリフト層領域6を容易に空乏化するとともに、点線9によって示されるように、エミッタ層領域の間に連続して空乏化された領域を形成する。このことは、このダイオードが従来のpnダイオードの特性をもつようになるので、pn接合におけるフィールド濃度がpn接合のところにあって、ショットキー接触5から離されていることを意味する。したがって、高電圧においては、このダイオードは従来のショットキー・ダイオードよりもずっと小さい漏洩電流をもつことになるであろう。」(第14頁第15行?第15頁第11行)

e.「本発明の第2の好適実施例によるダイオードの見方が図2に示されているが、図1によるダイオードと比較して、このダイオードには、1つだけの相違点、すなわち、エミッタ層領域3を形成するP形不純物元素を打ち込むために、高エネルギ、具体的には約4メガ電子ボルトが使用されているという相違点がある。勿論、1つのエネルギが使用されているばかりでなく、箱形のドーピング分布(doping profile)を得るために、たとえば、3キロ電子ボルトから4メガ電子ボルトの異なるエネルギを使用しながら打ち込みが実行されるのであって、このことは、表面からと表面の下深くのドーピング濃度が大きいことを意味している。これは、これらのエミッタ層領域が、ホウ素の場合は約3μm、アルミニウムの場合は約2μmというようにもっと深くなるので、これらのエミッタ層領域をもっと間隔をあけて配置することが可能であり、要求されるリソグラフィおよびマスキングの解像力が便利な範囲(3μmのオーダー)内でよいことを意味している。図1を参照して説明するこの方法は、サブミクロンの解像力を必要とする。隣接するエミッタ層領域3の間の間隔をこのように大きくできる理由は、ドリフト層の空乏状態によってショットキー接触領域をピンチ・オフするとともに、このダイオードのブロッキング状態におけるショットキー接触領域から高電界を隔離することが、エミッタ層領域が浅い場合よりも容易なためである。」(第15頁第18行?第16頁第6行)

f.「打ち込みステップを実行する前に、エミッタ層領域が形成される位置で、上方から前記ドリフト層2に溝10をエッチングすることにより、本発明の第3の好適実施例によるダイオードがつくられることが図3に示されている。溝の壁11および底12によってエミッタ層領域3が形成されるように、打ち込みが実行される。金属層は、オーミックコンタクト4およびショットキー接触5を形成するために、溝の中と溝の間のドリフト層領域6の上とにそれぞれ加えられる。この手法は、図2に示す実施例の場合と同じ利点を得ることを可能にするが、ショットキー接触領域と比較したエミッタ層領域の深さは、高打ち込みエネルギを必要とせずに適当に選択されうる。」(第16頁第7?15行)

<図面の記載>
g.図3の断面図を参照すると、SiCのn形ドリフト層2に溝10が形成されており、2つの前記溝10の間で、前記n形ドリフト層2は、凸部を有していること、溝10の壁11と底12にエミッタ層領域3が形成されていること、n形ドリフト層2を挟むようにエミッタ層領域3が形成されていること、及び、前記エミッタ層領域3が形成されていない前記凸部の上面には、金属層4によりショットキー接触5が形成されていることが、見て取れる。
また、図3に記載された第3の好適実施例は、ダイオードの上部のみが記載されているが、前記n形ドリフト層2の下部には、図1に記載された好適実施例と同様に、SiCのn形基板層1と金属層8を有しているものと認められる。

イ.第3の好適実施例のダイオードとしての機能について
図3を参照して説明されている第3の好適実施例について、ダイオードの機能についての詳細な説明はされていないが、金属層4とエミッタ層領域3がオーミックコンタクト4を構成し、金属層4とドリフト層2がショットキー接触5を構成する点については、第1,第2の好適実施例と共通しているので、第3の好適実施例のダイオードは、第1,第2の好適実施例と同様のダイオードの機能を有しているものと認められる。
具体的には、上記d.で摘記した「オーミックコンタクトおよびショットキー接触はダイオードの陽極を形成するが、線8で示されているだけの対応する金属層はダイオードの陰極を形成する」、「このダイオードの順方向導通状態では、(約2.2Vから2.5Vの)pn障壁より低い(約0.7Vから1Vの)ショットキー障壁により、このダイオードは低電流密度におけるショットキー・ダイオードとして機能する。」、及び、「このダイオードの逆ブロッキング状態において金属層4が負電位に接続されると、エミッタ層領域は、前記ドリフト層領域6の低濃度ドーピングにより、ドリフト層領域6を容易に空乏化するとともに、点線9によって示されるように、エミッタ層領域の間に連続して空乏化された領域を形成する。」によって説明された第1の実施例のダイオードの機能と、上記e.で摘記した「ドリフト層の空乏状態によってショットキー接触領域をピンチ・オフするとともに、このダイオードのブロッキング状態におけるショットキー接触領域から高電界を隔離することが、エミッタ層領域が浅い場合よりも容易」によって説明された第2の実施例のダイオードの機能については、第3の実施例のダイオードにおいても同様に有しているものと認められる。

(3-2)引用発明
上記(3-1)のア.とイ.を総合すれば、引用例1には、第3の好適実施例に関して、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「高濃度にドープされたSiCのn形基板層1の上面に形成され低濃度にドープされたSiCのn形ドリフト層2と、
前記n形ドリフト層2に形成された溝10の壁11および底12に形成され、かつ、断面的に見て前記n形ドリフト層2を挟むように形成されたp形エミッタ層領域3と、
前記溝10の前記壁11および前記底12と、相互に隣接した前記溝10の間のドリフト層領域6上と、にそれぞれ加えられ、前記p形エミッタ層領域3とオーミックコンタクトを形成し、前記ドリフト層領域6とショットキー接触を形成する金属層4と、
前記n形基板層1の裏面に形成された金属層8とを備え、
順方向導通状態では、電流を流し、逆ブロッキング状態では、前記n形ドリフト層領域6を空乏化するとともに、前記p形エミッタ層領域3の間に連続して空乏化された領域9を形成して、前記n形ドリフト層2の空乏状態によってショットキー接触領域をピンチ・オフし、
前記n形ドリフト層2は前記溝10の間に凸部を有し、かつ、10^(15)?10^(16)cm^(-3)のドーピング濃度を有し、
前記凸部の上面において前記n形ドリフト層2と前記金属層4とがショットキー接触をすることを特徴とするショットキー・ダイオード。」

(3-3)引用例2の記載
原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平5-259436号公報(以下「引用例2」という。)には、「ショットキバリア整流半導体装置」(発明の名称)に関して、図1?図3とともに、次の記載がある。

a.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ショットキバリア整流半導体装置の構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】整流半導体装置は、順方向特性、逆方向特性に種々の改善がなされ、損失低減の努力がなされている。例えば、一導電型半導体(例えば、N型)表面に逆導電型半導体領域(例えばP+型)を形成し、一導電型半導体とはショットキバリア接触をし、逆導電型半導体領域とはオ-ミック性接触をなすショットキバリア整流半導体装置は、順方向降下電圧VFをそれほど犠牲にする(2)ことなく、逆方向漏れ電流IRを小さく抑制し得る構造として有効である。
【0003】その構造例として、図1及び図2の断面構造図のものがある。1は高濃度一導電型半導体(例えば、N+)、2は一導電型半導体(例えば、N)、3は逆導電型半導体(例えば、P+)、4は電極金属、Aはアノ-ド、Cはカソ-ドである。
【0004】しかして、0.5Volt以下の低い順方向電圧降下VFにおける順方向電流が流れる有効面積は、図示のa部(2-4間接触部)によって決定し、b部(3-4間接触部)は実質的には順方向電流の流れない領域である。又、約0.5Volt以上のVFでは、逆導電型半導体領域がP型の場合、少数キャリアが電子電流と同等量流れる場となり、特に電極金属4にCr、Tiのようなバリア高さφBNの低い金属を用いて、小さいVFを得るために設計した整流半導体装置においては、通常、使用する順方向電流密度が50?200Amp/cm2の領域であり、この領域では、VFは0.5Voltより小さい値である。
【0005】従って、φBNの小さなショットキバリア整流半導体装置としての有効面は、a部のみとなり、半導体チップ内の有効面積活用率は20?50%程度の低い値となる。言い換えれば、一定の順方向電流を得るチップとしては、大きなチップ面積を用意する必要があり、高価な半導体装置となる欠点がある。
【0006】前記の欠点を解決するため、図3の断面構造図に示す従来構造が提案されている。一導電型半導体2と電極金属4の接触面をc部及びd部に増加するためトレンチ溝による三面構造を形成している。しかして、図3の構造では、順方向電流が主として流れるショットキバリア接触面のc部及びd部とカソ-ドC間のそれぞれのシリ-ズ抵抗値が異なる。即ち、c部からの抵抗は(r1+r2)、d部からの抵抗は略r1?(r1+r2)となる。このため、順(3)方向電流は、抵抗の小なる方に偏りやすく、高電流密度領域では、主として、d部の逆導電型半導体領域3(P+型)との境界寄りに電流が集中し、c部の接触面にはほとんど電流が流れなくなる。従って、図3の構造は、シリ-ズ抵抗が比較的、効かない低電流密度領域で、VFを大幅に低減できるが、高電流密度領域では接触面積を増加した割合ほど、VFを小さくできない。」

(4)対比
(4-1)次に、本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア.引用発明の「高濃度にドープされたSiCのn形基板層1の上面に形成され低濃度にドープされたSiCのn形ドリフト層2」において、引用発明の「n形」、「ドリフト層2」は、それぞれ、本願補正発明の「第1導電型」、「第1不純物領域」に対応するので、引用発明の「高濃度にドープされたSiCのn形基板層1の上面に形成され低濃度にドープされたSiCのn形ドリフト層2」は、本願補正発明の「SiCよりなる第1導電型の第1不純物領域」に相当する。

イ.引用発明の「前記n形ドリフト層2に形成された溝10の壁11および底12に形成され」「たp形エミッタ層領域3」において、引用発明の「p形」、「エミッタ層領域3」は、それぞれ、本願補正発明の「第2導電型」、「第2不純物領域」に対応するので、引用発明の「前記n形ドリフト層2に形成され」「たp形エミッタ層領域3」は、本願補正発明の「前記第1不純物領域内に形成され」「た第2導電型の第2不純物領域」に相当する。

ウ.引用発明の「前記溝10の前記壁11および前記底12と、相互に隣接した前記溝10の間のドリフト層領域6上と、にそれぞれ加えられ、前記p形エミッタ層領域3とオーミックコンタクトを形成し、前記ドリフト層領域6とショットキー接触を形成する金属層4」において、引用発明の「オーミックコンタクトを形成」すること、「金属層4」は、それぞれ、本願補正発明の「電気的に接続された」こと、「第1電極」に相当し、また、引用発明の「ドリフト層領域6」は「ドリフト層2」のうち「溝10」の間の領域のことであり、本願補正発明の「第1不純物領域」の一部に相当するから、引用発明の「前記溝10の前記壁11および前記底12と、相互に隣接した前記溝10の間と、にそれぞれ加えられ、前記p形エミッタ層領域3とオーミックコンタクトを形成し、前記n形ドリフト層2とショットキー接触を形成する金属層4」は、本願補正発明の「前記第1不純物領域とショットキー接触し、かつ前記第2不純物領域と電気的に接続された第1電極」に相当する。

エ.引用発明の「前記n形基板層1の裏面に形成された金属層8」において、引用発明の「金属層8」は本願補正発明の「第2電極」に相当し、また、引用発明の「金属層8」は「n形基板層1」を介して「n形ドリフト層2」と電気的に接続しており、ダイオードの陽極側である「金属層4」と陰極側である「金属層8」には異なる電位が印加可能とされることは明らかであるから、引用発明の「前記n形基板層1の裏面に形成された金属層8」は、本願補正発明の「前記第1電極とは異なる電位を印加可能であり、かつ前記第1不純物領域に電気的に接続された第2電極」に相当する。

オ.引用発明の「順方向導通状態では、電流を流し、逆ブロッキング状態では、前記n形ドリフト層領域6を空乏化するとともに、前記p形エミッタ層領域3の間に連続して空乏化された領域9を形成して、前記n形ドリフト層2の空乏状態によってショットキー接触領域をピンチ・オフ」することにおいて、引用発明の「順方向導通状態では、電流を流し」及び「逆ブロッキング状態では、前記n形ドリフト層領域6を空乏化するとともに、前記p形エミッタ層領域3の間に連続して空乏化された領域9を形成して、前記n形ドリフト層2の空乏状態によってショットキー接触領域をピンチ・オフ」することは、それぞれ、本願補正発明の「前記第1電極と前記第2電極との間に電流を流す状態」及び「前記第1不純物領域を空乏層化させて前記第1電極と前記第2電極との間の電流経路を遮断する状態」に対応し、また、引用発明は、「順方向導通状態」と「逆ブロッキング状態」の両状態において、「金属層4」と「金属層8」との間の電位差が変化することは、明らかであるので、引用発明の「順方向導通状態では、電流を流し、逆ブロッキング状態では、前記n形ドリフト層領域6を空乏化するとともに、前記p形エミッタ層領域3の間に連続して空乏化された領域9を形成して、前記n形ドリフト層2の空乏状態によってショットキー接触領域をピンチ・オフ」することは、本願補正発明の「前記第1電極と前記第2電極との電位差が変化することにより、前記第1電極と前記第2電極との間に電流を流す状態と、前記第2不純物領域に囲まれる前記第1不純物領域を空乏層化させて前記第1電極と前記第2電極との間の電流経路を遮断する状態とを選択可能で」あることに相当する。

カ.引用発明の「前記n形ドリフト層2は前記溝10の間に凸部を有し、かつ、10^(15)?10^(16)cm^(-3)のドーピング濃度を有し」において、引用発明の「溝10の間」の「凸部」は本願補正発明の「凸部」に対応し、引用発明の「ドーピング濃度」は、本願補正発明の「不純物濃度」に対応するので、引用発明の「前記n形ドリフト層2は前記溝10の間に凸部を有し、かつ、10^(15)?10^(16)cm^(-3)のドーピング濃度を有し」は、本願補正発明の「前記第1不純物領域は凸部を有し、かつ1×10^(16)/cm^(3)」「の不純物濃度を有し」に相当する。

キ.引用発明の「前記凸部の上面において前記n形ドリフト層2と前記金属層4とがショットキー接触をすること」は、本願補正発明の「前記凸部の上面」「において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触」することに相当する。

ク.引用発明の「ショットキー・ダイオード」は、本願補正発明の「整流素子」に相当する。

(4-2)そうすると、本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は、次のとおりとなる。

《一致点》
「SiCよりなる第1導電型の第1不純物領域と、
前記第1不純物領域内に形成された第2導電型の第2不純物領域と、
前記第1不純物領域とショットキー接触し、かつ前記第2不純物領域と電気的に接続された第1電極と、
前記第1電極とは異なる電位を印加可能であり、かつ前記第1不純物領域に電気的に接続された第2電極とを備え、
前記第1電極と前記第2電極との電位差が変化することにより、前記第1電極と前記第2電極との間に電流を流す状態と、前記第1不純物領域を空乏層化させて前記第1電極と前記第2電極との間の電流経路を遮断する状態とを選択可能で、
前記第1不純物領域は凸部を有し、かつ1×10^(16)/cm^(3)の不純物濃度を有し、
前記凸部の上面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触する、整流素子。」

《相違点》
《相違点1》
本願補正発明は、「第2導電型の第2不純物領域」が「平面的に見て前記第1不純物領域を囲むように形成」されているのに対して、引用発明は、本願補正発明の「第2導電型の第2不純物領域」に対応する「p形エミッタ層領域3」が、「断面的に見て前記n形ドリフト層2を挟むように形成され」ているものであるが、平面的に見て、本願補正発明の「第1不純物領域」に対応する「ドリフト層2」を囲むように形成しているかどうか不明である点。

《相違点2》
本願補正発明は、「前記第1不純物領域は」「1×10^(16)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)の不純物濃度」を有しているのに対して、引用発明は、本願補正発明の「第1不純物領域」に対応する「ドリフト層2」が「10^(16)cm^(-3)のドーピング濃度を有し」ている点で一部一致しているものの、1×10^(16)/cm^(3)を超える不純物濃度を有していない点。

《相違点3》
本願補正発明は、「前記凸部の上面および側面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触し」ているのに対して、引用発明は、凸部の上面においては、本願補正発明の「第1不純物領域」に対応する「ドリフト層2」と、本願補正発明の「第1電極」に対応する「金属層4」とがショットキー接触しているものの、前記凸部の側面においては、「n形ドリフト層2」と「金属層4」とがショットキー接触していない点。

《相違点4》
本願補正発明は、「前記ショットキー接触におけるショットキー障壁φBn_(1)が、0.48eV<φBn_(1)<0.84eVであり、かつ250℃の温度でも前記ショットキー接触を確保できる」のに対して、引用発明は、このような特定がされていない点。

(5)相違点1?4についての判断
(5-1)相違点1について
SiC基板に形成されたショットキー接触を有する整流素子において、平面的に見て第1導電型の第1不純物領域(n型ドリフト領域)を囲むように、第2導電型の第2不純物領域(p型不純物領域)を形成することは、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、下記周知例1?4に記載されているように、周知の技術事項である。

周知例1:特開2000-252478号公報
上記周知例1には、図1、図2、図4(a)とともに、次の記載がある。
「【0023】図1は本実施形態に係るショットキーバリアダイオードの単位セルを示す斜視図、図2は本実施形態に係るショットキーバリアダイオードの単位セルの配置例を示す斜視図である。
【0024】これらの図において、1はSiCを基材とした半導体基板、2は不純物濃度約3×10^(19),厚さ約300μmの低抵抗のn+型層、3は不純物濃度約1×10^(16),厚さ約12μmの高抵抗のn-型層、4は深さ約1μm、幅約1μm、ボロン注入量約1×10^(15)/cm^(2)の比較的高濃度の第1表面層を形成するp+型層であり、第1表面層4は単位セルの周辺に沿って設けられる。41は第1表面層4で囲まれた表面に設けた深さおよび幅が約0.15μm、ボロン注入量約1×10^(14)/cm^(2)の比較的高濃度のストライプ状の第2表面層を形成するp+型層であり、第2表面層41は単位セルの周縁部において前記第1表面層4と接している。
【0025】31は主表面の隣接する二つの第2表面層41間に露出した幅約0.2μmの前記n-型層3の表面露出部分である。」
「【0044】図4(a)および図4(b)は前記単位セルの二次元構造の他の例を示す図である。図4(a)において、主表面に比較的深くかつ広い幅で形成した第1表面層4は単位セルの周縁部に形成する。また、前記主表面の前記第1表面層4によって囲まれた領域には、比較的浅くかつ幅の狭い第2表面層41を格子状に配置する。」

周知例2:特開平7-66433号公報
上記周知例2には、図4、図11(c)、(d)とともに、次の記載がある。
「【0027】図4において、3_(1 )はP+型の半導体連結領域(第2導電型の高不純物濃度の半導体連結部)であり、その他、図1に示された構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付けている。
【0028】そして、P+型の半導体連結領域3_(1) は、一方の面がn型の半導体基体層1の他方の面と同一レベルにあり、他方の面がn型の半導体基体層1の内部に達する帯状のものであって、複数の帯状のP+型の半導体領域3の一方の端部を相互に連結するように配置構成されている。」
「【0059】(省略)図11(c)に示されている第9の実施例は、1つのp+型の半導体領域3の露出面内に、島状に規則的に配置された略正方形の複数のn型の半導体基体層1が露出しているパターン形状、即ち、n型の半導体基体層1の露出面内に、島状に規則的に配置された略正方形の複数のp+型の半導体領域3の欠落部が露出形成されたパターン形状のものであり、図11(d)に示されている第10の実施例は、1つのp+型の半導体領域3の露出面内に、島状に規則的に配置された略丸形の複数のn型の半導体基体層1が露出しているパターン形状、即ち、n型の半導体基体層1の露出面内に、島状に規則的に配置された略丸形の複数のp+型の半導体領域3の欠落部が露出形成されたパターン形状のものである。」

周知例3:特開平3-105975号公報
上記周知例3には、図11(c)、(d)、(e)とともに、次の記載がある。「第11図は本発明の更に異なる実施例を一方の主表面上1側から見たパターン図で示している。(省略)(c),(d)及び(e)は、第3の半導体領域15を一体に形成し、ストライプ状,矩形状,円形状の欠如部を多数個設け、その欠如部に第1の半導体領域13を露出させた構或となっている。」(第8頁左下欄第14行?同頁右下欄第4行)

周知例4:特開昭52-24465号公報
上記周知例4には、第2図とともに、次の記載がある。
「シリコン基板(3)の表面状態を示す第2図から明らかなようにP^(+)形シリコン領域(4)は6本の帯状部分(4a)と上下の結合部(4b)(4c)とから成る。従って平面的にはP形シリコン領域(4)の中に複数の短冊形N形シリコン領域(2)が配置され、P^(+)形シリコン領域(4)とN形シリコン領域(2)とが交互に表面に露呈している。」(第3頁左上欄第6?12行)

したがって、引用発明の「p形エミッタ層領域3」と「n形ドリフト層2」の部分に、上記の周知技術を適用することにより、p形エミッタ層領域3が、「断面的に見て前記n形ドリフト層2を挟むように形成され」るのみでなく、「平面的に見て前記n形ドリフト層2を囲むように形成」すること、すなわち、本願補正発明の「平面的に見て前記第1不純物領域を囲むように形成された第2導電型の第2不純物領域」となすことは、当業者が適宜なし得たことと認められる。

(5-2)相違点2について
SiC基板に形成されたショットキー接触を有する整流素子において、本願補正発明の第1不純物領域に相当する領域の不純物濃度として、10^(16)cm^(-3)を超える濃度を採用し得ることは、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である下記周知例5、6に記載されているように、周知の技術事項である。

周知例5:特開2005-101158号公報
上記周知例5には、図1とともに、次の記載がある。
「【0021】また、n^(+)型SiC層3、3、…上には、n^(+)型SiC層3、3、…の上面の一部を露出するように、約2μmの層厚を有し、N(窒素)などのn型不純物ドーパントが約1×10^(17)cm^(-3)含まれている4H構造のドリフト層として機能するn^(-)型SiC層4、4、…がそれぞれ形成されている。」

周知例6:特表2003-516631号公報
上記周知例6には、図1とともに、次の記載がある。
「【0034】図1Aを参照して、シリコンカーバイド基板101は、比較的高濃度にドープされたN^(+)型層102と、層102よりも少なくドープされたエピタキシャルN型層104とを含むように示されている。(省略)基板102のドーピングレベルは、好ましくは約1×10^(18)cm^(-3)以上であり、エピタキシャル層104のドーピングレベルは好ましくは1×10^(14)cm^(-3)と約1×10^(17)cm^(-3)の間である。」

したがって、引用発明において、上記周知の技術を適用することにより、n形ドリフト層2ドーピング濃度として、10^(15)?10^(16)cm^(-3)とすることに代えて、例えば10^(17)cm^(-3)等の10^(16)cm^(-3)を超える不純物濃度とすること、つまり、本願補正発明の「前記第1不純物領域」が「1×10^(16)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)の不純物濃度を有し」ているようになすことは、当業者が適宜なし得たことと認められる。

(5-3)相違点3について
引用例2には、従来のショットキバリア整流半導体装置として、SiCを用いたものではないものの、図2に示されるような、引用発明の「前記凸部の上面において前記n形ドリフト層2と前記金属層4とがショットキー接触をすること」に対応する構造を有するものが記載されている。
しかしながら、図2の上記構造を有するショットキバリア整流半導体装置は、「φBNの小さなショットキバリア整流半導体装置としての有効面は、a部のみとなり、半導体チップ内の有効面積活用率は20?50%程度の低い値となる」(段落【0005】)という課題を有しており、この課題を解決するために、図3に記載されているように、「一導電型半導体2と電極金属4の接触面をc部及びd部に増加するためトレンチ溝による三面構造を形成(当審注:この段落の記載によれば、図3に記載された接触面を示す符号「a」は、「d」の誤記である)」(段落【0006】)することにより、順方向電流が流れる有効面積を増加させようとする技術が、引用例2に記載されている。そして、このことは、本願補正発明の「前記凸部の上面および側面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触」することに対応する。

したがって、引用発明の「前記凸部の上面において前記n形ドリフト層2と前記金属層4とがショットキー接触をする」構成において、順方向電流が流れる有効面積を増加させるために、引用例2に記載された、凸部の上面のみでなく側面においてもショットキー接触する構造を採用することにより、本願補正発明の「前記凸部の上面および側面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触」するようになすことは、当業者が容易になし得たことと認められる。

なお、引用例2の段落【0006】には、「図3の構造は、シリ-ズ抵抗が比較的、効かない低電流密度領域で、VFを大幅に低減できるが、高電流密度領域では接触面積を増加した割合ほど、VFを小さくできない」とも記載されており、上記「一導電型半導体2と電極金属4の接触面をc部及びd部に増加するためトレンチ溝による三面構造」を形成するのみでは上記課題が十分に解決できないことも述べられているが、少なくとも低電流密度領域において図2の実施例よりは有効であることは明らかであるから、引用発明において、引用例2の図3に記載の構成を採用することに阻害要因があるとまでは言えない。

(5-4)相違点4について
SiCを用いたショットキーダイオードが、高い耐熱性を有すること、及び、pn接合ダイオードよりも低い電圧で順方向電流を流す特性があることは、引用例1について摘記した上記a.とd.に記載されているように周知の技術事項であり、このようなSiCを用いたダイオードの好ましい特性を引き出すために、耐熱性の観点からショットキーダイオード動作を保証する所望の温度と、順方向電流が流れる電圧について所望の使用条件を設定し、当該条件に叶うような電極材料を選択することは、当業者が必要により適宜なし得ることである。
具体的には、上記「(5-2)相違点2について」において検討したように、周知例5,6には、SiCを用いたショットキー接触を有する整流素子において、本願補正発明の第1不純物領域に相当する領域の不純物濃度として、10^(16)cm^(-3)を超える濃度を採用し得ることが記載されているが、このような不純物濃度において使用可能とされるいくつかのショットキー電極の材料が、周知例5,6に以下のとおり記載されている。

周知例5:特開2005-101158号公報
「【0022】n^(-)型SiC層4、4、…上には、n^(-)型SiC層4、4、…との間でショットキー接合を形成するMo、NiまたはTiなどからなり、アノード電極として機能する約0.1μmの層厚を有する金属層5、5、…がそれぞれ形成されている。これにより、n^(-)型SiC層4、4、…、および金属層5、5、…から構成される複数のショットキーバリアダイオード構造6、6、…が形成されている。」

周知例6:特開2003-516631号公報
「【0035】好ましくはチタン、またはチタン、ニッケルおよび銀を含む複合物層であるショットキー障壁接触106が、層104の超清浄上面108に形成される。」

ショットキー電極として使用可能とされている周知の上記金属材料のうち、モリブデンやチタンを採用することは、250℃という温度でのショットキーダイオード動作を保証し、0.1V以下の電圧で順方向電流が流れるようにする、という使用条件を適宜設定することにより、当業者が容易になし得たことである。
なお、周知例5,6には、本願補正発明の特徴である「前記ショットキー接触におけるショットキー障壁φBn_(1)が、0.48eV<φBn_(1)<0.84eV」を満たす点については記載されていないが、ショットキー障壁高さがショットキー電極材料に固有の仕事関数によって決まることは技術常識であるから、上記使用条件を満たす電極を特定するために、金属材料名に代えてショットキー障壁高さで表現することは、特に困難なことではない。

したがって、引用発明において、「本願補正発明における第1不純物領域に相当する領域の不純物濃度として、10^(16)cm^(-3)以上の濃度」とするとともに、ショットキー電極の材料として、チタンやモリブデンを採用することによって、「前記ショットキー接触におけるショットキー障壁φBn_(1)が、0.48eV<φBn_(1)<0.84eVであり、かつ250℃の温度でも前記ショットキー接触を確保できる」ようになすことは、周知の技術に基づいて、当業者が適宜なし得たことである。

(6)判断についてのまとめ
以上のとおり、引用発明において、上記相違点1?4に係る構成とすることは、当業者が容易に想到できたものである。

(7)独立特許要件についての検討のまとめ
本願補正発明は、周知の技術事項を勘案することにより、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項(平成18年法律55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項をいう。以下同じ。)の規定に適合しない。

6.補正却下の決定のむすび
以上の次第で、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により、却下すべきものである。

第3.本願発明について
1.本願発明
以上のとおり、本件補正(平成23年10月28日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので、本願の請求項1?6に係る発明は、平成22年9月28日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記第2.1.に補正前の請求項1として記載されたとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

【請求項1】
「ワイドバンドギャップ半導体よりなる第1導電型の第1不純物領域と、
前記第1不純物領域内に形成され、かつ平面的に見て前記第1不純物領域を囲むように形成された第2導電型の第2不純物領域と、
前記第1不純物領域とショットキー接触し、かつ前記第2不純物領域と電気的に接続された第1電極と、
前記第1電極とは異なる電位を印加可能であり、かつ前記第1不純物領域に電気的に接続された第2電極とを備え、
前記第1電極と前記第2電極との電位差が変化することにより、前記第1電極と前記第2電極との間に電流を流す状態と、前記第2不純物領域に囲まれる前記第1不純物領域を空乏層化させて前記第1電極と前記第2電極との間の電流経路を遮断する状態とを選択可能で、
前記第1不純物領域は凸部を有し、
前記凸部の上面および側面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触する、整流素子。」

2.引用例1の記載、引用発明と、引用例2の記載
引用例1の記載、引用発明と、引用例2の記載については、前記第2.5.(3)の(3-1)?(3-3)において認定したとおりである。

3.対比・判断
前記第2.の2.(1)と4.(1)で検討したように、本願補正発明は、本件補正前の発明の「ワイドバンドギャップ半導体よりなる第1導電型の第1不純物領域」を、「SiCよりなる第1導電型の第1不純物領域」と限定し、本件補正前の発明の「前記第1不純物領域は凸部を有し」を「前記第1不純物領域は凸部を有し、かつ1×10^(16)/cm^(3)?1×10^(18)/cm^(3)の不純物濃度を有し」と限定し、本件補正前の発明の「前記凸部の上面および側面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触する」を「前記凸部の上面および側面において前記第1不純物領域と前記第1電極とがショットキー接触し、前記ショットキー接触におけるショットキー障壁φBn_(1)が、0.48eV<φBn_(1)<0.84eVであり、かつ250℃の温度でも前記ショットキー接触を確保できる」と限定したものである。逆に言えば、本件補正前の発明(本願発明)は、本願補正発明から、上記の各限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである本願補正発明が、前記第2.5.において検討したとおり、周知の技術事項を勘案することにより、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、周知の技術事項を勘案することにより、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.結言
以上のとおり、本願発明は、周知の技術事項を勘案することにより、引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-29 
結審通知日 2012-12-04 
審決日 2012-12-19 
出願番号 特願2005-179177(P2005-179177)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村岡 一磨  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 西脇 博志
早川 朋一
発明の名称 整流素子およびその製造方法  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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