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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1269803
審判番号 不服2012-1271  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-01-23 
確定日 2013-02-07 
事件の表示 特願2006- 66441「キーボード」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 9月20日出願公開、特開2007-241887〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本件発明
本願は平成18年3月10日の出願であって、同22年12月16日付拒絶理由通知に対して同23年2月4日に意見書と手続補正書が提出されたが、同23年11月21日付で拒絶査定がなされたものである。これに対し、該査定の取消しを求めて本件審判が平成24年1月23日に請求されると同時に明細書と特許請求の範囲を対象とする手続補正書が提出され、その後、当審の同24年7月25日付審尋に対して同24年9月10日に回答書が提出されている。

2.平成24年1月23日付手続補正の却下の決定
【補正却下の決定の結論】
平成24年1月23日付手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

【理由】
2.1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1,9及び10を以下に補正箇所に下線を付して示すとおり補正するとともに、明細書の段落7を補正された請求項1と整合させるべく補正するものである。

2.1.1 補正前の請求項1,9及び10
「 【請求項1】
キーボード本体内にメンブレンスイッチが組み込まれてなる構成であり、
前記メンブレンスイッチが、下側に位置しており、上面にコンタクト及び配線パターンのパターンを有する下側樹脂シートと、上側に位置しており、下面にコンタクト及び配線パターンのパターンを有する上側樹脂シートと、該下側樹脂シートと該上側樹脂シートとの間に比誘電率が所定値以上の誘電体として挟まれたスペーサ樹脂シートとよりなる構成であるキーボードにおいて、
該メンブレンスイッチは、UWB平面アンテナを有し、
該UWB平面アンテナは、アンテナエレメントパターンと、該アンテナエレメントパターンより延在しているマイクロ波伝送線路と、前記アンテナエレメントパターンと並ぶ接地パターンとが、前記上側樹脂シート及び/又は下側樹脂シートに形成されている構成であることを特徴とするキーボード。
【請求項9】
キーボード本体内にメンブレンスイッチが組み込まれてなる構成のキーボードにおいて、
可撓性を有する比誘電率が所定値以上の誘電体としてのシートの片面にアンテナエレメントパターン及び該アンテナエレメントパターンより延在しているマイクロストリップラインとを有し、該シートの反対側の面に接地パターンを有する構成のUWB平面アンテナを、前記キーボード本体の内部に貼り付けて設けた構成としたことを特徴とするキーボード。
【請求項10】
下側樹脂シートと、上側樹脂シートと、この間に比誘電率が所定値以上の誘電体として挟まれたスペーサ樹脂シートよりなり、キーボード本体内に組み込まれるキーボード用メンブレンスイッチにおいて、
アンテナエレメントパターンと、該アンテナエレメントパターンより延在しているマイクロ波伝送線路と、接地パターンとが、前記上側樹脂シート及び/又は下側樹脂シートシートに形成してあり、該キーボード用メンブレンスイッチがUWB平面アンテナを備えた構成としたことを特徴とするキーボード用メンブレンスイッチ。」

2.1.2 補正後の請求項1,9及び10
「 【請求項1】
キーボード本体内にメンブレンスイッチが組み込まれてなる構成であり、
前記メンブレンスイッチが、下側に位置しており、上面にコンタクト及び配線パターンのパターンを有する下側樹脂シートと、上側に位置しており、下面にコンタクト及び配線パターンのパターンを有する上側樹脂シートと、該下側樹脂シートと該上側樹脂シートとの間に比誘電率が所定値以上の誘電体として挟まれたスペーサ樹脂シートとよりなる構成であるキーボードにおいて、
該メンブレンスイッチは、UWB平面アンテナを有し、
該UWB平面アンテナは、ホームベース形状のアンテナエレメントパターンと、該アンテナエレメントパターンより延在しているマイクロ波伝送線路と、前記アンテナエレメントパターンと重ならないで並ぶ接地パターンとが、前記上側樹脂シート及び/又は下側樹脂シートに形成されている構成であることを特徴とするキーボード。
【請求項9】
キーボード本体内にメンブレンスイッチが組み込まれてなる構成のキーボードにおいて、
可撓性を有する比誘電率が所定値以上の誘電体としてのシートの片面にホームベース形状のアンテナエレメントパターン及び該アンテナエレメントパターンより延在しているマイクロストリップラインとを有し、該シートの反対側の面に前記アンテナエレメントパターンと重ならないで並ぶ接地パターンを有する構成のUWB平面アンテナを、前記キーボード本体の内部に貼り付けて設けた構成としたことを特徴とするキーボード。
【請求項10】
下側樹脂シートと、上側樹脂シートと、この間に比誘電率が所定値以上の誘電体として挟まれたスペーサ樹脂シートよりなり、キーボード本体内に組み込まれるキーボード用メンブレンスイッチにおいて、
ホームベース形状のアンテナエレメントパターンと、該アンテナエレメントパターンより延在しているマイクロ波伝送線路と、前記アンテナエレメントパターンと重ならないで並ぶ接地パターンとが、前記上側樹脂シート及び/又は下側樹脂シートシートに形成してあり、該キーボード用メンブレンスイッチがUWB平面アンテナを備えた構成としたことを特徴とするキーボード用メンブレンスイッチ。」

2.2 補正の適否
本件補正は、請求項1,9及び10において、発明特定事項である「アンテナエレメントパターン」については「ホームベース形状の」という限定、そして「接地パターン」については「アンテナエレメントパターンと重ならない位置で並ぶ」という限定を加えることにより、特許請求の範囲を減縮することをを目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際独立して特許をうけることができるものであるか、検討する。

2.3 補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明」という。)は、上記2.1.2の【請求項1】に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2.4 刊行物記載の発明または事項
本願の出願前に頒布された、以下の刊行物には、それぞれ以下の記載がある。
刊行物1: 特開2003-131792号公報
刊行物2: 特開平3-229316号公報
刊行物3: 米国特許第5828340号明細書

2.4.1 刊行物1
a.(発明の詳細な説明、段落16?25)
「【0016】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1は本発明によるワイヤレスキーボードの一実施形態の概略を分解して示す平面図である。図示するように、キーボード筐体11は底面側筐体部11aと上面側筐体部11bとで主構成をなし、その底面側筐体部11bの内方には支持板12が配置固定されている。この支持板12は、キー配列領域13以上の大きさに形成され、キー配列構造体14を、その下方(底面側筐体部11a側)、対向位置にて支持する。支持板12に導電性金属板を用いれば、合成樹脂成形品であるキーボード筐体11の補強、静電対策及び電磁シールドにも役立つ。
【0017】図中、矢印イ,ロは、底面側筐体部11aの内方上面にキー配列構造体14が載置固定され、その上方から上面側筐体部11bがそれらを被うようにして底面側筐体部11aに組み付けられることを表している。
【0018】上記キー配列構造体14は、文字、数字あるいは記号等に対応して所定位置に配置された複数のキー(キー群)及び各キーの押圧操作によりオンするスイッチ(スイッチ群)とを備えてなる。
【0019】キー配列構造体14は、ここではメンブレンスイッチを備えてなる。メンブレンスイッチは、絶縁性フィルム(ポリエステルフィルム)上に接点及び配線パターン(導電性パターン)をスクリーン印刷等により被着形成した電極シートを用いてキー群を構成するもので、主に1層タイプ、2層タイプ及び3層タイプがある。1層タイプは導電性ラバー付のキーを併用してスイッチを構成し、3層タイプはポリエステルフィルムからなるスペーサシートを挟んで上記電極シートを一対対向配置させてスイッチを構成するものである。2層タイプは、いずれか一方の電極シートの、他方の電極シートとの対向面の適宜箇所に、3層タイプにおけるスペーサシートに相当する間隔保持層を印刷等により被着形成してスイッチを構成するものである。
【0020】図中、14aは、このようなメンブレンスイッチにおける電極シート、ここでは3層タイプのメンブレンスイッチにおける最下層の電極シートであり、導電性の接点パターンP1及び配線パターンP2がスクリーン印刷等により被着形成されている。
【0021】なお、この電極シート14aは、上述したようにキー配列構造体14の一部を構成するものであるが、説明の便宜上、底面側筐体部11a上に位置した状態で示している。また、接点パターンP1及び配線パターンP2は、一部のみ図示しているに過ぎず、実際には電極シート14a上のキー配列領域13対応箇所のほぼ全域に亘って形成されている。
【0022】上記底面側筐体部11aの内方の、テンキー等が配列されるテンキー配列領域13aの図中上部側(キーボード奥側)には、各キーの押圧に対応したキーボード出力信号を生成するコントローラ部15及び生成されたキーボード出力信号が入力される送信部16が取付固定されている。
【0023】また、底面側筐体部11aの適宜箇所には、上記コントローラ15及び送信部16に直流電源を供給する電池(図示せず)の格納部17が、底面側筐体部裏面側から電池を着脱可能に形成されている。
【0024】上記送信部16には、キーボード出力信号(高周波信号)を空中に放射するためのアンテナ線18が導電線、例えばシールド線19,19を介して接続されている。アンテナ線18は、図示例ではループアンテナであって、キーボード長手方向に沿って配置されている。アンテナ線18と送信部16との接続は、着脱自在のコネクタ(図示せず)を用いて行ってもよく、また、アンテナ線18側の雄端子部を、送信部16側の雌端子部内に押圧挿入することで、雄端子部が雌端子部内に圧接保持される接続構造(図示せず)を有するものを用いてもよい。
【0025】ここでアンテナ線18は、上記電極シート14a上に被着形成された導電性パターンからなる。この導電性パターンを、以下、アンテナ線パターンP3と記すと、アンテナ線パターンP3は、上記電極シート14a上に、上記導電性の接点パターンP1及び配線パターンP2の形成と同時に形成される。これらのパターンP1?P3は、スクリーン印刷等によって電極シート14a上に被着形成される。」

上記段落【0019】の、「メンブレンスイッチは、絶縁性フィルム(ポリエステルフィルム)上に接点及び配線パターン(導電性パターン)をスクリーン印刷等により被着形成した電極シートを用いてキー群を構成するもので、」及び「3層タイプはポリエステルフィルムからなるスペーサシートを挟んで上記電極シートを一対対向配置させてスイッチを構成するものである。」との記載から、3層タイプのメンブレンスイッチが、「下側に位置しており、絶縁性フィルムの上面に接点及び配線パターンのパターンを有する下側電極シートと、上側に位置しており、絶縁性フィルムの下面に接点及び配線パターンのパターンを有する上側電極シートと、該下側電極シートと該上側電極シートとの間にポリエステルフィルムからなるスペーサシートとよりなる構成」のものであることは、当業者にとって自明である。また、アンテナ線18は、電極シート上に被着された導電性パターンからなるものであるから、「平面アンテナ」であることも自明である。
そこで摘記事項を、技術常識を考慮しつつ、補正発明の記載に沿って整理すると、刊行物1には次の発明が記載されているということができる。
「キーボード筐体内にメンブレンスイッチが組み込まれてなる構成であり、
前記メンブレンスイッチが、下側に位置しており、絶縁性フィルムの上面に接点及び配線パターンのパターンを有する下側電極シートと、上側に位置しており、絶縁性フィルムの下面に接点及び配線パターンのパターンを有する上側電極シートと、該下側電極シートと該上側電極シートとの間に挟まれたポリエステルフィルムからなるスペーサシートとよりなる構成であるワイヤレスキーボードにおいて、
該メンブレンスイッチは、平面アンテナを有する、ワイヤレスキーボード。」(以下、「刊行物1記載の発明」という。)

2.4.2 刊行物2
a.(第3ページ左上欄第16?20行)
「それに替わって、より低価格化を狙ったメンブレンキーボードが開発されている。
メンブレン(Membrane)とは薄い膜のことであり、誘電体のシートを複数枚組み合わせてメンブレンスイッチを構成したキーボードである。」
b.(第3ページ左下欄第2?7行)
「メンブレンシート2は、間隔シート2aと下部シート2b、上部シート2cとで構成されている。
間隔シート2aと下部シート2b、上部シート2cには、例えば膜厚が100μm前後で、耐候性や耐薬品性があり、比較的剛性もあって機械的にも強いポリエステルフィルムが多用されている。」

上記から、刊行物2には次の事項が記載されているということができる。
「キーボードに組み込まれるメンブレンスイッチにおいて、メンブレンシートとしてポリエステルフィルムからなる誘電体シートを用いること。」(以下、「刊行物2記載の事項」という。)

2.4.3 刊行物3
a.(第1欄第4?8行)
「The present invention relates to wideband, planar antennas. In particular, the present invention is a novel, subwavelength, planar monopole antenna that features wideband operation and that can be manufactured using printed circuit methods.」
b.(第2欄第43?46行)
「The operational bandwidth in terms of a -10dB input return loss is unexpectedly and advantageously in excess of 40% with measured values of greater than 50% being typical.」
c.(第3欄第9?23行)
「The tab monopole 2 is comprised of a sub-wavelength, tapered, radiating element or tab 10, fed by a a suitable transmission line 12 and situated above a planar conductive ground plane 14 when the antenna 2 is oriented as illustrated in FIG.1. The tab 10 is a thin, flat, planar conductive element having a top edge 16 and a bottom end 18, wherein the top edge 16 is wider than bottom end 18. A tapered transition region 20 of the tab 10 is located between the top edge 16 and the bottom end 18. The tab is connected to the feeding transmission line 12 at the bottom end 18 of the tab 10. The tab surface is paralel with the ground plane 14 surface. The tab 10 and the ground plane 14 are constructed from a suitable low loss conductive material or metal, such as but not limited to, copper, gold, silver, brass or aluminium.」
d.(第3欄第41?62行)
「In the preferred embodiment, the tab monopole 2 may be constructed using standard printed circuit board etching processes wherein conventional photo-lithographic methods are used to define a metal pattern on a metallized dielectric substrate. Several transmission lines types are well suited for printed circuit board application including microstrip, stripline, coplanar waveguide and grounded coplanar waveguide. A coplanar waveguide is illustrated as the feeding transmission line 12 in FIG.1. A grounded coplanar waveguide is illustrated in FIGS.2 and 3 as the feeding transmission line 12. When constructed using printed circuit methods and using a coplanar waveguide, the tab 10 and the ground plane 14 are coplanar. In the case of grounded coplanar waveguide, the ground plane 14 is coplanar with the tab 10 and a second conductive ground plane 15 on the back side of the substrate is used as illustrated in FIG.3. In the case of microstrip, the back side ground plane 15 is used without including the ground plane 14 so that the tab 10 and ground plane 15 are not coplanar but are simply parallel. When a back side ground plane 15 is used, the ground plane 15 upper edge is aligned with the bottom end 18 of the tab 10 as was the case for the ground plane 14.」
e.(FIGS.1, 2, 3)
平面アンテナ(planar monopole antenna)は、ホームベース形状のアンテナエレメントパターン(tab 10)と、該アンテナエレメントパターンより延在している伝送線路(transmission line 12)と、前記アンテナエレメントパターンと重ならないで並ぶ接地パターン(ground plane 14, 15)とが、誘電体からなる基板(dielectric substrate)に形成されている構成であることが、理解されると認める。

上記を整理すると、刊行物3には次の事項が記載されているということができる。
「広帯域(wideband)の平面アンテナ(planar monopole antenna)が、ホームベース形状のアンテナエレメントパターン(tab 10)と、該アンテナエレメントパターンより延在している伝送線路(transmission line 12)と、前記アンテナエレメントパターンと重ならないで並ぶ接地パターン(ground plane)とが、誘電体からなる基板(dielectric substrate)に形成されている構成であること。」

2.5 対比
補正発明と刊行物1記載の発明とを比較すると、後者の上下の「電極シート」を構成する「絶縁性フィルム」が通常、樹脂からなる薄膜であることは当業者の間の一般知識であり、「スペーサシート」もポリエステルからなるため、後者の「キーボード筐体」、「接点」、「下側電極シート」、「上側電極シート」、「スペーサシート」及び「ワイヤレスキーボード」が、前者の「キーボード本体」、「コンタクト」、「下側樹脂シート」、「上側樹脂シート」、「スペーサ樹脂シート」及び「キーボード」にそれぞれ相当することは明白である。
そうしてみると、補正発明と刊行物1記載の発明とは、以下の点において一致し、また相違すると認められる。
<一致点>
「キーボード本体内にメンブレンスイッチが組み込まれてなる構成であり、
前記メンブレンスイッチが、下側に位置しており、上面にコンタクト及び配線パターンのパターンを有する下側樹脂シートと、上側に位置しており、下面にコンタクト及び配線パターンのパターンを有する上側樹脂シートと、該下側樹脂シートと該上側樹脂シートとの間に挟まれたスペーサ樹脂シートとよりなる構成であるキーボードにおいて、
該メンブレンスイッチは、平面アンテナを有する、キーボード。」である点。
<相違点1>
スペーサ樹脂シートが、前者では比誘電率が所定値以上の誘電体であるのに対し、後者ではポリエステルからなるものの、比誘電率が所定値以上の誘電体であるか、不明である点。
<相違点2>
平面アンテナが、前者ではホームベース形状のアンテナエレメントパターンと、該アンテナエレメントパターンより延在しているマイクロ波伝送線路と、前記アンテナエレメントパターンと重ならないで並ぶ接地パターンとが、前記上側樹脂シート及び/又は下側樹脂シートに形成されている構成をもつUWB平面アンテナであるのに対し、後者ではそのようなものでない点。

2.6 相違点の検討
2.6.1 <相違点1>について
刊行物2には、「キーボードに組み込まれるメンブレンスイッチにおいて、メンブレンシートとしてポリエステルフィルムからなる誘電体シートを用いること。」が記載されており、スイッチとして機能する以上、刊行物1記載の発明においても、ポリエステルからなるスペーサ樹脂シートが誘電体であることは自明である。
刊行物1にも刊行物2にも、スペーサ樹脂シートの比誘電率については明記されていないが、誘電体である以上、一定値以上の比誘電率を有するものであることは明白であるから、比誘電率が「所定値以上」の誘電体であるということができる。
したがって、<相違点1>は実質的な相違ではない。

2.6.2 <相違点2>について
刊行物3記載の事項の広帯域平面アンテナは、摘記事項bから、「超広帯域」、すなわちUWB平面アンテナであることは明らかである。また、刊行物3には中心周波数を2.6GHzとすることも記載されており(第4欄第49,50行参照。)、これはマイクロ波領域に属する。したがって、刊行物3には、「ホームベース形状のアンテナエレメントパターンと、該アンテナエレメントパターンより延在しているマイクロ波伝送線路と、前記アンテナエレメントパターンと重ならないで並ぶ接地パターンとが、誘電体からなる基板に形成されている構成をもつUWB平面アンテナ」が記載されているということができ、刊行物2記載の事項に示されるようにメンブレンスイッチのシートは通常、誘電体よりなるから、上記UWB平面アンテナを上側樹脂シートまたは下側樹脂シートに形成することは、設計上の選択にすぎない。
一般に、ワイヤレスキーボードにおいて通信速度を向上させることは周知の課題であり、そのためにアンテナを超広帯域化することは普通に知られた手法であるから、刊行物1記載の発明における平面アンテナを、刊行物3記載のUWB平面アンテナにて置き換えることは、当業者が容易に想到し得る。

2.7 まとめ
補正発明の作用効果には、刊行物1ないし3記載の発明または事項及び従来周知の事項に基づいて普通に予測される範囲を超える格別のものを見出すこともできないため、補正発明は刊行物1記載の発明及び刊行物2,3記載の事項,並びに従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許をうけることができないものである。
したがって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願の発明について
3.1 本件発明
上記のとおり、平成24年1月23日付の手続補正は却下されたので、本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成23年2月4日付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、2.1.1の【請求項1】に記載されたとおりである。

3.2 刊行物記載の発明または事項
本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶理由に引用された以下の刊行物には、それぞれ以下の記載がある。
刊行物1: 特開2003-131792号公報(2.4の刊行物1)
刊行物2: 特開平3-229316号公報
(拒絶査定で示した周知技術を示す文献、2.4の刊行物2)
刊行物4: 特開2004-207777号公報

3.2.1 刊行物1
2.4.1に記載したとおり。

3.2.2 刊行物2
2.4.2に記載したとおり。

3.2.3 刊行物4
a.(発明の詳細な説明、段落1)
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、UHF帯又はSHF帯を用いた、特にUWB(Ultra Wide Band)の用いた無線通信を送受信するためのアンテナ装置に関するものであり、特に、誘電体をストリップ電極と接地電極とで挟む構造のアンテナを備えたアンテナ装置に関するものである。」
b.(同、段落25)
「【0025】
また、本発明のアンテナ装置は、上記課題を解決するために、第1の絶縁基板上に形成された接地電極と、第2の絶縁基板上に形成されたストリップ電極と、上記第1の絶縁基板と第2の絶縁基板との隙間に形成された誘電体から形成されているアンテナを備えていることを特徴としている。なお、本発明では、絶縁基板と誘電体との差異として、絶縁基板は製造プロセスの最初から存在しているものである一方、誘電体は製造プロセスの過程で作製されたものとして使い分けている。」
c.(同、段落47?49)
「【0047】
また、本発明のアンテナ装置は、上記記載のアンテナ装置において、上記記載のアンテナ装置のアンテナが、複数個並設されていることを特徴としている。
【0048】
上記の発明によれば、上記記載のアンテナ装置のアンテナが、複数個並設されている。
【0049】
したがって、上記の各アンテナを例えば方向を違えて配置することにより、全体としてアンテナ装置の指向性を広げることができる。」
d.(同、段落59)
「【0059】
本実施の形態のアンテナ装置10は、図1(a)(b)(c)に示すように、方形の接地電極1と、この接地電極1の上側に同じ大きさに形成されたガラスからなる誘電体からなる絶縁基板2と、この絶縁基板2の表面においてその中心から両側の端部に向かって長方形の短冊状に形成されたストリップ電極3との3層構造となっている。なお、上記のストリップ電極3の形状は、必ずしも長方形に限らず、長方形に近い形つまり略長方形であればよい。また、上記ストリップ電極3の両端からは、取り出し配線6・6がそれぞれ延びている。」
e.(同、段落85)
「【0085】
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施の形態について図4ないし図6に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、本実施の形態で説明すること以外の構成は、前記実施の形態1と同じである。また、説明の便宜上、前記の実施の形態1の図面に示した部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。」
f.(同、段落92)
「【0092】
具体的には、第1の絶縁基板としてのガラス21上に形成された接地電極1と、第2の絶縁基板としてのガラス23上に形成されたストリップ電極3と、これらガラス21とガラス23との隙間に存在する誘電体25から形成されているマイクロストリップアンテナを備えている。すなわち、本実施の形態の誘電体25は、前記の絶縁基板2とは異なる材質にてなっている。」
g.(図4)
アンテナ装置が,下側に配置された第1の絶縁基板21と、上側に配置された第2の絶縁基板23とをもつ、平面アンテナであることが理解される。

摘記事項a,b,d?gの内容を整理すると、アンテナ装置は「UWB平面アンテナ」と呼ぶことができるものであることは明らかであるから、刊行物4には次の事項が記載されていると認めることができる。
「UWB平面アンテナが、ストリップ電極と、該ストリップ電極より延在している取り出し配線と、前記ストリップ電極と並ぶ接地電極とが、下側の絶縁基板及び上側の絶縁基板にそれぞれ形成された構成であること。」(以下、「刊行物4記載の事項」という。)

3.3 対比
本件発明と刊行物1記載の発明とを比較すると、2.5と同様に、両者は以下の点において一致し、また相違すると認められる。
<一致点>
「キーボード本体内にメンブレンスイッチが組み込まれてなる構成であり、
前記メンブレンスイッチが、下側に位置しており、上面にコンタクト及び配線パターンのパターンを有する下側樹脂シートと、上側に位置しており、下面にコンタクト及び配線パターンのパターンを有する上側樹脂シートと、該下側樹脂シートと該上側樹脂シートとの間に挟まれたスペーサ樹脂シートとよりなる構成であるキーボードにおいて、
該メンブレンスイッチは、平面アンテナを有する、キーボード。」である点。
<相違点1>
スペーサ樹脂シートが、前者では比誘電率が所定値以上の誘電体であるのに対し、後者ではポリエステルからなるものの、比誘電率が所定値以上の誘電体であるか、不明である点。
<相違点2>
平面アンテナが、前者ではアンテナエレメントパターンと、該アンテナエレメントパターンより延在しているマイクロ波伝送線路と、前記アンテナエレメントパターンと並ぶ接地パターンとが、前記上側樹脂シート及び/又は下側樹脂シートに形成されている構成をもつUWB平面アンテナであるのに対し、後者ではそのようなものでない点。

3.4 相違点の検討
3.4.1 <相違点1>について
2.6.1に記載したとおりである。

3.4.2 <相違点2>について
刊行物4記載の事項において、「ストリップ電極」、「接地電極」及び「取り出し配線」が、それぞれ「アンテナエレメントパターン」、「接地パターン」及び「伝送線路」とも呼ぶことができるものであることは当業者に普通に知られており、また、UWBアンテナの周波数帯域からして、「伝送線路」が「マイクロ波伝送線路」であることは自明である。
したがって、刊行物4には、「UWB平面アンテナが、アンテナエレメントパターンと、該アンテナエレメントパターンより延在しているマイクロ波伝送線路と、前記アンテナエレメントパターンと並ぶ接地パターンとが、上側絶縁基板及び下側絶縁基板にそれぞれ形成された構成であること。」が記載されているということができる。
一般に、ワイヤレスキーボードにおいて通信速度を向上させることは周知の課題であり、そのためにアンテナを超広帯域化することは普通に知られた手法であるから、刊行物1記載の発明における平面アンテナを、刊行物4記載のUWB平面アンテナにて置き換えることは、当業者が容易に想到し得る。なお、刊行物4記載の事項では「絶縁基板」はガラス製であるが、絶縁基板を樹脂製とすることは従来より周知かつ慣用の技術である。

3.5 むすび
本件発明の作用効果には、刊行物1記載の発明及び刊行物2,4記載の事項並びに従来周知の事項に基づいて普通に予測される範囲を超える格別のものを見出すこともできないため、本件発明は刊行物1記載の発明及び刊行物2,4記載の事項並びに従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許をうけることができないものであるから、本願の請求項2ないし10に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきである。
よって、結論のとおり審決する。

なお、請求人は平成24年9月10日提出の回答書において補正案を示しているが、当審による同24年7月25日付審尋は、その冒頭にも明記したとおり、補正の機会を与えるものではなく、補正案に法的根拠はない。そして、審尋の対象となった同24年1月23日付手続補正書による発明については、請求人は回答書で何ら意見を述べていない。
また、たとえ補正案のとおり補正する機会を与えたとしても、3.2.3の摘記事項cには複数のアンテナを方向を違えて配置することが記載されているため、依然として本願の発明に進歩性を認めることはできない。
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審理終結日 2012-11-21 
結審通知日 2012-11-27 
審決日 2012-12-10 
出願番号 特願2006-66441(P2006-66441)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 円子 英紀  
特許庁審判長 豊原 邦雄
特許庁審判官 長屋 陽二郎
千葉 成就
発明の名称 キーボード  
代理人 伊東 忠彦  

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