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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41J
管理番号 1269818
審判番号 不服2012-10452  
総通号数 160 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-04-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-06 
確定日 2013-02-07 
事件の表示 特願2011- 12577「液体吐出装置及び液体吐出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月30日出願公開、特開2011-126282〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
(1)手続の経緯
本願は、2004年7月29日(優先権主張2003年8月8日、日本国)を国際出願日とする特許出願(特願2005-512921号)の一部を、平成23年1月25日に新たな特許出願としたものであって、平成24年1月16日付けで手続補正がなされ、同年2月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年6月6日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

(2)本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成24年1月16日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成24年1月16日付け手続補正によって補正された特許請求の範囲、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。

「帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出装置であって、
内部直径が0.2?4[μm]の先端部から前記液滴を吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段とを備え、
前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]は、500μm以下で、かつ
1/h^(2)<4×10^(-4)
を満たし、
前記基材における液滴の着弾径の変動率は、5%より小さいことを特徴とする液体吐出装置。」

2 刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された「本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-172787号公報(以下「引用例」という。)」には、図とともに次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、液体現像剤に電界を作用させる工程を含む液体現像剤を用いる記録方法、記録ヘッド機構及び記録装置に関するものである。」

(2)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、絶縁性油性液体中に帯電した着色剤粒子を分散させた液体現像剤を用い、この液体現像剤に電界を作用させて該液体現像剤を移動させ、開口より吐出させて記録媒体又は中間記録媒体に着色画像を形成させる記録方法において、該液体現像剤に電界を作用させてそれを移動させるときのその移動速度を向上させることが容易であり、該記録媒体又は中間記録媒体に形成される画像の解像度を高めることが容易であり、さらに装置コストが安価である記録方法、それに用いる記録ヘッド機構及び該記録ヘッド機構を有する記録装置を提供することをその課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明によれば、以下に示す液体現像剤を用いる記録方法、記録ヘッド機構及び記録装置が提供される。
(1)絶縁性油性液体中に帯電した着色剤粒子を含有する液体現像剤を、ノズルの先端開口から吐出させて記録媒体又は中間記録媒体上に付着させる記録方法であって、(i)該ノズルとして、その壁面にバイアス電極と画像電極とを配設したノズルを用いること、(ii)該ノズルの先端開口の前方に対向電極を配設すること、(iii)該ノズルの壁面に配設したバイアス電極に電圧を印加するとともに、該ノズルの先端開口の前方に配設した対向電極に該バイアス電極に印加する電圧とは反対位相の電圧を印加すること、(iv)該ノズルの先端と該対向電極との間に記録媒体又は中間記録媒体を存在させること、(v)該ノズルの壁面に配設した画像電極に、画像信号に応じた、該バイアス電極に印加した電圧と同位相の電圧を印加し、該ノズルの先端開口から該液体現像剤を吐出させること、を特徴とする液体現像剤を用いる記録方法。
(2)該ノズルの内壁面に疎水性高分子被膜が形成されている前記(1)に記載の方法。
(3)該高分子被膜がフッ素系高分子被膜である前記(2)に記載の方法。
(4)該ノズルの先端開口の形状が円弧形状又は円形状である前記(1)?(3)のいずれかに記載の方法。
(5)該ノズルの先端開口の形状が多角形状である前記(1)?(3)のいずれかに記載の方法。
(6)絶縁性油性液体中に帯電した着色剤粒子を含有する液体現像剤を記録媒体又は中間記録媒体上に付着させる記録ヘッド機構であって、(i)壁面にバイアス電極と画像電極とを配設した液体現像剤をその先端開口から吐出させるノズル、(ii)該ノズルの先端開口の前方に配設された対向電極、を備えることを特徴とする記録ヘッド機構。
(7)絶縁性油性液体中に帯電した着色剤粒子を含有する液体現像剤を記録媒体又は中間記録媒体上に付着させる記録ヘッド機構を有する記録装置であって、該記録ヘッド機構として前記(6)に記載の記録ヘッド機構を用いることを特徴とする液体現像剤を用いる記録装置。」

(3)「【0005】
【発明の実施の形態】本発明の記録ヘッド機構は、ノズルの壁面にバイアス電極と画像電極とを配設したノズルと、該ノズルの開口先端の前方に配設された対向電極とからなる。前記ノズルにおいて、その液体現像剤通路の断面形状は任意であり、円形状や円弧状であることができる他、多角形状(4角形状、6角形状等)等であることができる。その通路の断面積は、25?40000μm^(2)、好ましくは100?10000μm^(2)である。また、該ノズルの先端開口の形状は、円形状や円弧状、多角形状等であることができる。その先端開口寸法は、その断面積で、40000μm^(2)以下、好ましくは10000μm^(2)以下であり、その下限値は、通常、100μm^(2)程度である。その開口が円形の場合、その直径は5?120μm、好ましくは10?100μm程度である。その開口寸法が小さい程解像力の高い画像を与える。
【0006】前記ノズルは、その壁面にバイアス電極と画像電極を有する。それらの電極の配設位置は特に制約されず、相互に独立していればよい。例えば、画像電極は、ノズル内通路の上部、側部又は下記に位置することができる。また、画像電極及びバイアス電極は複数であることができる。
【0007】前記ノズルにおいて、電極が形成されるその少なくとも内壁面は電気絶縁体材料で形成される。このような材料としては、プラスチック、ガラス、セラミックス等が用いられる。本発明では、特にポリプロピレン等の炭化水素樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂の他、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂等の疎水性プラスチックを好ましく用いることができる。ステンレスや鉄等の金属材料からなるノズルの場合、その内壁面を、前記したプラスチック、例えば、フッ素系樹脂やシリコーン系樹脂、ポリプロピレン等の炭化水素樹脂等でコーティングする。
【0008】本発明の記録ヘッド機構の1つの態様の説明図を図1に示す。図1において、10はノズルを示し、1、2はノズル壁を示し、9はその壁部1、2によって形成された液体現像剤が移動する通路(ノズル内通路)である。4はそのノズル後端開口を封止する封止材である。3は液体現像剤供給管であり、ノズル10の後端部に連結する。8はその供給管内の液体現像剤通路を示す。6はバイアス電極を示し、7は画像電極を示す。これらの電極6、7は、少なくとも液体現像剤通路9に面した壁部に形成されてあればよく、封止部材4の下面及び上面に形成された電極6、7の配設は必要とされない。また、その電極6、7は、通路9の先端まで存在する必要はない。ノズル10の通路9の断面形状は円形や円弧状、多角形状等であることができる。図2に断面円弧状の通路を有するノズルの断面図を示し、図3に断面円形状のノズルの断面図を示し、図4に断面4角形状のノズルの断面図を示す。これらの図に示した符号は、図1において示した符号と同一の意味を有する。
【0009】バイアス電極6及び画像電極7の表面あるいは通路9の内表面には、必要に応じ、プラスチック被膜、好ましくは前記したフッ素系樹脂やシリコーン樹脂、ポリプロピレン樹脂等の疎水性樹脂の被膜によって被覆することができる。このような被膜の形成により、液体現像剤が通路9を通過する際のその通過が円滑になる。
【0010】本発明においては、前記ノズル内通路9において、その少なくとも液体現像剤が接触する面の表面エネルギーは、40mV/m以下、好ましくは35mV/m以下、より好ましくは30mV/m以下である。また、その液体現像剤が接触する面の最大表面粗さ(JIS B0601)は、0.1μm以下、好ましくは0.05μm以下である。
【0011】図1において、11は対向電極を示す。12は案内ローラ、13、14は一対のローラ(送りローラ)を示す。15はベルト状の中間記録媒体、16は記録媒体を示す。対向電極11は、ノズル10の先端開口の前方に配設される。対向電極11の表面とノズル10の先端との間の距離は、通常、0.1?2.0mm、好ましくは0.2?1.0mmである。対向電極11は、金属板や、絶縁板(プラスチック、セラミック等)の表面に金属被膜を形成したもの等が用いられる。ベルト状の中間記録媒体15の材質は、液体現像剤が一次的に付着する材料であればよく、プラスチックや金属等であることができる。記録媒体16は、紙や、表面がインク吸収面に形成されたプラスチックフィルム等である。
【0012】図1に示した記録ヘッド(印字ヘッド)機構を用いて記録(画像形成)を行うには、供給管3から液体現像剤を供給し、その通路8を介してノズル内の通路9を液体現像剤で充満させる。次に、バイアス電極6及び対向電極11に電圧を印加する。この場合、バイアス電極6に対しては、例えば、プラス位相の電圧を印加し、対向電極11には、そのバイアス電極6に印加させる電圧の位相とは逆位相の電圧、例えばマイナスの位相の電圧を印加する。これらのバイアス電極6や対向電極11に印加する電圧は、ノズル10の先端開口から液体現像剤の吐出が生じない範囲の電圧である。中間記録媒体15上に画像を形成するには、画像信号に基づいて画像電極7に電圧を印加する。この場合の電圧は、バイアス電極6に印加される電圧と同じ位相の電圧、例えばプラス位相の電圧であり、ノズルの通路9の先端開口から液滴Lを吐出させる強さの電圧である。ノズルの先端開口から吐出される液体現像剤のインク状態は、その画像電極7に印加させる電圧の強さにより変り、その電圧を制御することにより、そのノズル開口から突出させたり、あるいは噴射させることができる。
【0013】ベルト状の中間記録媒体15の表面に形成された画像は、ローラ13、14において、紙等の記録媒体16の表面に転写され、これにより、記録画像を有する媒体17が得られる。なお、前記中間記録媒体15に代えて、紙等の記録媒体16を用いるときには、その記録媒体上に、直接記録画像を形成することができる。
【0014】前記バイアス電極6、対向電極11及び画像電極7に対して前記のようにして電圧を印加することにより、そのノズルの先端開口から液体現像剤が吐出される原理を示すと以下の通りである。ノズル10の通路9内に液体現像剤が充満されている状態でバイアス電極6及び対向電極11に電圧を印加すると、液体現像剤中の帯電した着色剤粒子(トナー)は、その電圧の印加により生じた電界の作用により、対向電極11に向う静電気力を受ける。しかし、この場合の静電気力は、液体現像剤がノズルの先端開口から吐出されない範囲の強さにコントロールされる。バイアス電極6に印加する電圧は、例えば、プラス20?1500ボルト、好ましくはプラス30?1000ボルトであり、対向電極11に印加させる電圧は、そのバイアス電極に印加される電圧と位相の異なる電圧、例えば、マイナス20?1000ボルト、好ましくはマイナス30?1000ボルトである。バイアス電極6及び対向電極11に印加される電圧は、ノズル通路9内の液体現像剤がそのノズルの先端開口から吐出されない範囲の電圧である。その具体的電圧は、液体現像剤の粘度、通路9の内壁面の状態等により異なるので、その適正電圧は予備実験により適宜決めればよい。前記バイアス電極6及び対向電圧11に前記のように電圧を印加した状態において、画像電極7に、バイアス電極6と同一位相の電圧を印加すると、液体現像剤に加わる電界密度が増大し、その液体現像剤にはより強い静電気力が加わり、その結果、ノズルの先端開口からの液体現像剤の吐出が生じる。画像電極7に印加する電圧は、例えば、プラス10?500ボルト、好ましくは20?300ボルトである。」

(4)「【0022】本発明の記録装置(画像形成装置)は、前記記録ヘッド機構を有するものであり、その1つの例を図7に示す。図7は、本発明の記録装置の基本構成図を示す。図中、Yはイエロー画像記録ヘッド、Mはマゼンタ画像記録ヘッド、Cはシアニン画像記録ヘッド及びBkはブラック画像記録ヘッドを示す。31、33、35及び37は各記録ヘッドY、M、C、Bkに連結するノズル集合体を示し、32、34、36及び38はそれらノズル集合体の先端に対向して配設された対向電極を示す。図6に示した装置において、コントローラーから出された画像信号は、Y、M、C、Bkに送られ、転写体(中間記録媒体)に対して4色の印字が行われ、これにより転写体にはフルカラーの画像が形成される。この画像は、転写ロール42上で記録媒体(紙)41上に転写され、画像を有する記録媒体43が得られる。」

(5)上記(1)ないし(4)からみて、引用例には、
「絶縁性油性液体中に帯電した着色剤粒子を含有する液体現像剤を記録媒体又は中間記録媒体上に付着させる記録ヘッド機構と、コントローラとを有し、
前記記録ヘッド機構は、壁面にバイアス電極と画像電極とを配設した液体現像剤をその先端開口から吐出させるノズルのノズル集合体を連結した記録ヘッドと、前記ノズル集合体の先端に対向して配設された対向電極とを備えており、
前記コントローラは前記記録ヘッドに画像信号を送るものであり、
液体現像剤に電界を作用させて該液体現像剤を移動させ、開口より吐出させて前記ノズルの先端と前記対向電極との間に存在させた記録媒体又は中間記録媒体に着色画像を形成する記録装置において、
前記ノズルの先端開口寸法は、その断面積で、その下限値は、通常、100μm^(2)程度であり、上限値は、40000μm^(2)、好ましくは10000μm^(2)であり、その開口が円形の場合、その直径は5?120μm、好ましくは10?100μm程度であって、該ノズルの先端開口寸法が小さい程解像力の高い画像を与えるものであり、
前記対向電極の表面と前記ノズルの先端との間の距離は、通常、0.1?2.0mm、好ましくは0.2?1.0mmであり、
前記記録ヘッド機構を用い、供給管から液体現像剤を供給してノズル内の通路を液体現像剤で充満させ、次に、バイアス電極及び対向電極にノズルの先端開口から液体現像剤の吐出が生じない範囲の第1電圧を印加し、ノズルの先端開口から液滴を吐出させる強さの第2電圧を、前記コントローラから記録ヘッドに送られた画像信号に基づいて制御して画像電極に印加し、ノズルの先端開口から液体現像剤を吐出させて印字を行う記録装置。」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「絶縁性油性液体中に帯電した着色剤粒子を含有する液体現像剤」、「液滴」、「記録媒体又は中間記録媒体」、「吐出」、「『液体現像剤』を『吐出』させて『着色画像』を形成する『記録装置』」、「『ノズル』、『ノズル集合体』」、「『ノズルの先端』、『ノズル集合体の先端』」、「『ノズルの先端開口』が『円形の場合』の『その直径』」、「『先端開口』から『液滴』を『吐出』する『ノズル』」及び「ノズル集合体を連結した記録ヘッド」は、それぞれ、本願発明の「帯電した溶液」、「液滴」、「基材」、「吐出」、「液体吐出装置」、「ノズル」、「『ノズル』の『先端部』」、「『ノズル』の『先端部』の『内部直径』」、「先端部から液滴を吐出するノズル」及び「ノズルを有する液体吐出ヘッド」に相当する。

(2)引用発明の「液体吐出装置(記録装置)」は、「帯電した溶液(絶縁性油性液体中に帯電した着色剤粒子を含有する液体現像剤)」に電界を作用させて該「帯電した溶液」を移動させ、開口より「吐出」させて「基材(記録媒体又は中間記録媒体)」に着色画像を形成するものであり、「ノズルの先端部(ノズルの先端)」開口から「液滴」を「吐出」させる強さの第2電圧を画像電極に印加し、「ノズルの先端部」開口から「帯電した溶液」を「吐出」させて印字を行うものであるから、本願発明の「液体吐出装置」と、「帯電した溶液の液滴を基材に吐出する」ものである点で一致する。

(3)引用発明の「液体吐出装置(記録装置)」は、バイアス電極及び対向電極にノズルの先端開口から液体現像剤の吐出が生じない範囲の第1電圧を印加し、ノズルの先端開口から液滴を吐出させる強さの第2電圧を、前記コントローラから記録ヘッドに送られた画像信号に基づいて制御して画像電極に印加し、ノズルの先端開口から液体現像剤を吐出させて印字を行うものであるから、バイアス電極及び対向電極に第1電圧を印加し、画像電極に第2電圧を印加する電圧印加手段を備えていることが当業者に自明である。
したがって、引用発明の「液体吐出装置」が備えている上記「第1電圧及び第2電圧を印加する電圧印加手段」が本願発明の「電圧印加手段」に相当し、引用発明の「液体吐出装置」と本願発明の「液体吐出装置」とは「電圧印加手段を備え」ている点で一致する。
そして、引用発明の「電圧印加手段(第1電圧及び第2電圧を印加する電圧印加手段)」は、供給管から「帯電した溶液(液体現像剤)」を供給して「ノズル」内の通路を「帯電した溶液」で充満させた次に、「ノズル」の壁面に配設したバイアス電極及び「ノズルの先端部(ノズル集合体の先端)」に対向して配設された対向電極に第1電圧を印加し、「ノズルの先端部(ノズルの先端)」開口から「液滴」を「吐出」させる強さの第2電圧を「ノズル」の壁面に配設した画像電極に印加するものであるから、本願発明の「吐出電圧印加手段」と、「前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段」である点で一致し、ここで、引用発明の「第1電圧及び第2電圧」が本願発明の「吐出電圧」に相当する。
よって、引用発明の「液体吐出装置」と本願発明の「液体吐出装置」とは「前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段とを備え」ている点で一致する。

(4)上記(1)ないし(3)からみて、本願発明と引用発明とは、
「帯電した溶液の液滴を基材に吐出する液体吐出装置であって、
先端部から前記液滴を吐出するノズルを有する液体吐出ヘッドと、
前記ノズル内の溶液に吐出電圧を印加する吐出電圧印加手段とを備える液体吐出装置。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:
前記「ノズルの先端部の内部直径(ノズルの先端開口が円形の場合のその直径)」が、本願発明では、「0.2?4[μm]」であるのに対し、引用発明では、5?120μm、好ましくは10?100μm程度であり、その寸法が小さい程解像力の高い画像を与えるものである点。

相違点2:
本願発明では、「前記ノズルの先端部から前記基材までの距離h[μm]は、500[μm]以下で、かつ1/h^(2)<4×10^(-4)を満たす」のに対し、
引用発明では、対向電極の表面とノズルの先端との間の距離は、通常、0.1?2.0mm、好ましくは0.2?1.0mmであり、記録媒体又は中間記録媒体は前記ノズルの先端と前記対向電極との間に存在するから、「ノズルの先端部から基材までの距離h[μm]」は、2.0mmよりも短く、好ましくは1.0mmよりも短いことは明らかであるが、「500[μm]以下で、かつ1/h^(2)<4×10^(-4)を満たす」かどうかは明らかでない点。

相違点3:
本願発明では、「前記基材における液滴の着弾径の変動率は、5%より小さい」のに対し、
引用発明では、そのようなものであるか明らかでない点。

4 判断
上記相違点1ないし3について検討する。
(1)相違点1について
ア 吐出口の直径が1?4μm程度のノズルを有するインクジェット記録ヘッドは本願の優先日前に周知である(以下「周知技術1」という。例.特開平8-212925号公報(【0035】に記載の「開口部サイズがφ0.5μmであるノズル」参照。)、特開2002-127430号公報(【0138】に記載の「φ_(21)=4μmの吐出口203」参照。)、特開2002-154210号公報(【0064】に記載の「直径1μm程度のオリフィス」及び【0154】に記載の「φ_(1)=4μmの吐出口3」参照。)、特開2002-96474号公報(【0269】に記載の「微細孔203の開口径は1?100μm程度」、【0289】に記載の「微細孔223の開口径は1?100μm程度」等参照。))。

イ 吐出口の直径が1?4μm程度のノズルを有する周知技術1のインクジェット記録ヘッドのような微細なノズルを有するインクジェット記録ヘッドを用いることで、非常に小さなインク滴の吐出が可能となり(上記特開2002-127430号公報の【0019】参照。)、高精度で微細なパターン形成が可能となる(上記特開平8-212925号公報の【0012】、【0027】及び【0048】参照。)ことは、当業者に自明である。

ウ 引用発明の円形のノズルの先端開口の直径は5?120μm、好ましくは10?100μm程度であって、該ノズルの先端開口寸法が小さい程解像力の高い画像を与えるものであるところ、上記ア及びイからして、非常に小さなインク滴の吐出を可能として、より高精度で微細なパターンの画像形成を可能となすために、引用発明において、円形のノズルの先端開口の直径を1?4μm程度にすることは、当業者が周知技術1に基づいて容易になし得た程度のことである。ここで、「先端開口の直径が1?4μm程度の円形のノズル」は、本願発明の「内部直径が0.2?4[μm]の先端部から前記液滴を吐出するノズル」と、「先端部の内部直径が1?4[μm]」である点で一致する。
また、本願の明細書からみて、ノズルの先端部の内部直径を0.2?4[μm]に限定することによる効果も、より安定した吐出が可能となるという程度であって、顕著な効果を奏するものでもない。
したがって、引用発明において、上記相違点1に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術1に基づいて容易になし得た程度のことである。

(2)相違点2について
ア ヘッド先端から被記録媒体までの距離が100μmから500μm程度とされているインクジェット記録装置は、本願の優先日前に周知である(以下「周知技術2」という。例.特開昭61-215060号公報(2頁左下欄14?16行に記載の「スリット1と記録紙3との距離を100?200μm程度に接近させ」及び3頁右下欄16?17行に記載の「先端部28と厚さ100μmの記録紙12との距離を0.5mmに保ち」参照。)、国際公開第02/04216号(12頁9行に記載の「インク吐出用電極と記録媒体表面との間の間隔:300μm」参照。)、特開平5-57907号公報(【0020】に記載の「ヘッド表面から紙までの距離 約250μm」参照。)、特開2002-96474号公報(【0272】に記載の「対向電極207とシリコン基板202との距離は50?500μm程度の範囲内で設定することができる。」、【0293】に記載の「対向電極227とシリコン基板222との距離は50?500μm程度の範囲内で設定することができる。」等参照。))。

イ 引用発明では、記録媒体又は中間記録媒体はノズルの先端と対向電極との間に存在するから、本願発明でいうところの「ノズルの先端部から基材までの距離h[μm]」は、引用発明では、通常、0.1?2.0mm、好ましくは0.2?1.0mmである対向電極の表面とノズルの先端との間の距離よりも短いから、2.0mmよりも短く、好ましくは1.0mmよりも短いことは明らかであるところ、上記アからして、引用発明において、この距離h[μm]を100μmから500μm程度となすことは、当業者が周知技術2に基づいて適宜なし得た程度のことである。
ここで、本願発明の式「1/h^(2)<4×10^(-4)」は、距離hは正の値であるから距離hにつき、「h>50」を指すものであるから、上記の「100μmから500μm程度となした距離h[μm]」は、本願発明の「500[μm]以下で、かつ1/h^(2)<4×10^(-4)を満たす」点と、「100μmから500μm」である点で一致する。
また、本願の明細書からみて、距離hを、500[μm]以下で、かつ1/h^(2)<4×10^(-4)を満たすように限定することにより、顕著な効果を奏するものでもない。
したがって、引用発明において、上記相違点2に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術2に基づいて適宜なし得た程度のことである。

(3)相違点3について
ア インクジェット記録装置において、ドット径のばらつきを5%より小さく収めようとすることは、本願の優先日前に周知である(以下「周知技術3」という。例.特開平8-112903号公報(【0046】に記載の「ドット径のばらつきは±5%に収めることができた。」参照。)、特開平11-48470号公報(【0038】に記載の「同一の弾性部材7から連続印刷した50ドットのドット径の平均は40μm、標準偏差は1μm」、特開2000-334960号公報(【0058】に記載の「ドット径 φ50±2μm」、【0060】に記載の「ドット径 φ50±2.5μm」、【0065】に記載の「ドット径 φ50±1.5μm」参照。))。

イ 上記アからして、引用発明において、ドット径のばらつきをどの程度に収めるかの目標幅を5%とすることは、当業者が周知技術3に基づいて適宜なし得た程度のことである。
また、本願の明細書からみて、着弾径の変動率を5%より小さく限定することにより、顕著な効果を奏するものでもない。
したがって、引用発明において、上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術3に基づいて適宜なし得た程度のことである。

(4)効果について
本願発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果、周知技術1ないし3の奏する効果から当業者が予測できた程度のものである。

(5)まとめ
したがって、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
本願発明は、上記のとおり、当業者が引用例に記載された発明、周知技術1ないし3に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-11-30 
結審通知日 2012-12-04 
審決日 2012-12-18 
出願番号 特願2011-12577(P2011-12577)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 塚本 丈二  
特許庁審判長 長島 和子
特許庁審判官 菅野 芳男
東 治企
発明の名称 液体吐出装置及び液体吐出方法  
代理人 荒船 博司  

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